とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#19 宣教師

 パァッン!アジトの一室に乾いた銃声が響く。

 「なっ…ぜ……?」

に胸を撃ち抜かれ、虻飛裕二は倒れ伏した。目の前の裏切り者の姿を見、ただただ震撼した。

 「……」

そいつはほくそ笑むだけで、何も言わない。

 パァッン!再び放たれる凶弾。弾は脳天を貫き、間もなく彼は息絶えた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 「今のは……。銃声ッ!!」

その音に気付いたのは、耳のいい七海黎明だけだった。

 「クッソ!アジトがバレたってのか……っ!」 

歯噛みしながら、棚の上の段ボールから五寸釘を十数本取り出す。

 五寸釘の空間移動(テレポート)による人体への直接攻撃。それが彼の基本的な戦闘スタイルの1つだ。

 黎明は白衣のポケットに釘を仕込んで、部屋を飛び出した。

 

 電話で蛭葉に報告をした後、まず彼は城塞聡音の部屋へ行く。

 銃持ちを相手どる際、彼女の弾性増減(バウンスアルター)は非常に相性がいい。

 複雑な演算は要するが、大能力者(レベル4)ともなれば、雑多な生体組織の弾性すら増減させられる。

 肉体の弾性を増加させれば、打撃に対して防御力を格段に強化できるのだ。

 

 「さっき、銃声が2発ありました。おそらく、敵の刺客です」

「ちょっと待って……。だとしたら、アジトの場所が割れてるってことよ。裕二くんか蛭葉ちゃんが情報を漏らしたってことにならない?」

「いいえ、聡音さん。一応、あなたも候補の1人ですよ?ここに来たのは、あなたの能力は利用価値があるです。これを打ち込まれたくなければ、協力してください」

 黎明は釘の入ったポケットをさする。

 「抜け目ないね、黎明くん。大丈夫。喜んで協力するよ。その代わり、裏切り者も刺客もぶっ倒したらさ。私とイ……」

「ちょっと……。大学生が高校生に、なんて犯罪臭がしますし、フラグは建てないでくださいよ」

「ごめんごめん。銃弾から黎明くんを守ればいいんでしょ?」

「はい。お願いします」

 含み笑う2人は共闘を誓い、片手を組んだ。

 

 先に聡音の部屋に近い虻飛の方へ駆け走る。

 戸を開けると、そこには彼の死体がある。

 「つまり、情報を流したのはリーダーか聡音さん……!」

聡音だとしたらここで仕掛けてくると踏み、ポケットの釘に手で触れる。彼女が妙な動きを見せたとき、即座に対処できるよう目も離さない。

 「そんなに睨まないでほしいな、何もしないから……。って言われても、無理な話かぁ。黎明くんにはどっちが裏切り者かなんて分からないんだし」

聡音は苦笑する。疑われて平気という訳ではなかったものの、黎明の立場を考えると確かに納得できた。

 黎明自身も警戒はしながら、聡音ではないだろうと薄々思い始めていた。

 

 だが、その用心深さが仇となる。

 ギャギャギャギャンッ!と上から音がして、黎明の右肩に金属矢が突き刺さった。

 痛みがある中では、空間移動(テレポート)をまともに扱えない。

 舌打ちして見上げると、天井に暗殺機「HS-Model:R」が張り付いていた。

 「HS-Model:R」は口腔にニードルガンの機構を持った蜥蜴型のロボットで、付喪蛭葉・城塞聡音の共同開発「HSシリーズ」の一種だ。

 

 「これではっきりしました。聡音さん、あなたは白です」

「そりゃそうだよ。私が裏切り者なら黎明くんの命なんてとっくに無くなってるんだから」

「リーダ……いいえ、付喪蛭葉。彼女が裏切り者です」

などと話していると戸が開かれ、件の蛭葉が現れた。

 後ろに幾多の人型機「HS-Model:S」を従えている。HSシリーズのプロトタイプだ。

 

 「城塞さんを連れてくるというのは賢い選択でしたね、雨宮くん。おかげで手間が増えました」

蛭葉は天井のModel:Rを操り、手の平に乗せる。

 「では、始める前にちょっとした身の上話でもしましょうか」

そう言って、蛭葉は出自を、目的を、そして謀略を有り体に語る。

 「実は私、帰国子女なのです。行き先はスペイン。そこで私はロレンソ=リージョという司祭のお世話になりました。そういった経緯もあって、私は日本人宣教師として帰国しました。スペイン星教派のね。宗教観念に乏しい学園都市にあえて来たのは、当然布教のためではなく、与えられた使命のためです。それを果たすときがついに来ました。ちなみに、虻飛くんをやったのは私です。アジトの場所はどこにも漏れていません」

 蛭葉が手を上げると、機械兵が一斉に銃口を向けた。

 

 「弾丸を炸裂弾に変えておきました。フフ……弾性増減(バウンスアルター)では着弾時の衝撃しか軽減できませんね」

蛭葉の手が動き出す。

 死と痛みを目前にして、聡音はおののいた。黎明はそんな彼女の左手を強く握り、

「大丈夫です、聡音さん。右手を使いたいので少し離してくれませんか。俺が心配なら腰にでも触れていてください」

と微笑みながら言う。

 聡音はコクリと頷き、左手を彼の腰へ移した。

 

 空いた右手をポケットに突っ込み、黎明はそこから注射器を取り出す。

 「この俺が弱点に対策を講じていないと思ったか、裏切り者がっ……!」

そう捨て台詞を吐きながら、薬液を体内へ注入する。

 「あなた、何を……」

「即効性の鎮痛剤だっ!またな、宣教師!」

困惑する蛭葉に黎明は言ってやる。

 

 空っぽの注射器が放り出された次の瞬間。

 ヒュンッと空気が裂ける音を立て、2人は姿をくらました。

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