とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#3 転入生

 アカシャの一件から何日か。

 第七学区のとある高校の上条の教室には朝っぱらから変人どもの話し声があった

 

 「せやから、カミやん。何度も言うてるやろ?裸の女の子には黒マントを着せるっていうのが至高なんや」

そう言ったのは希代の変態、青髪ピアス。本名は知らない。

「いやー、分かってないにゃー。マントなんかより、エプロンを着せた方が絶対に良いぜよ。裸エプロンこそが至高なんだぜい」

青髪に反論したこの金髪サングラスの男は土御門元春。科学と魔術、両方に顔の利く多重スパイ。

 上条と3人で、クラスの三バカ(デルタフォース)なんて不名誉なレンジャーもの的称号を与えられている。

 

 「なんやねん、裸エプロンって!隠れすぎや!!裸体は程よく見せるが基本やろ!それができるのが裸マントなんや!」

「何言ってるぜよ。裸体は程よく見せるじゃなく、程よく隠す、だにゃー。そんなこと、裸エプロン以外で一体何が実現できるぜよ?もちろん、メイド服のメイドさんが一番だが、裸エプロンのメイドさんに手料理を振る舞ってもらうのも悪くないにゃー……」

「なんやてっ!?お前はメイドさんなら何でも良いんやろがいっ!」

「ナメるなよ!俺はそのようなちんけな男なんかではないぜよ!」

 

 既に二人の会話、と言うか口論についていけない。

 上条さんだって思春期男子、それなりにエロいことに興味はあるが、変態度で青髪と土御門に勝つ日はおそらく一生来ないだろう。

 

 「うるっさいわね!上条……。また貴様か!!」

「何で、俺が筆頭みたいになってんだよ」

「だって、こういうことは上条が発端だって決まってるじゃない」

「何という理不尽な決め付け……。不幸だ……」

こちらを睨みつけるクラス随一の胸の持ち主、吹寄制理。何でかわかないが、彼女は上条にだけ当たりが強い。

 大覇星祭の時も、クラスにやる気が失せていたのはああ言えばこう言うで上条のせいにされた覚えがある。

 

 「はーい、皆さん。席につくのですー。ホームルームを始めますよ。今日は皆さんにビッグニュースがあるのです」

吹寄の理不尽に気を落としていると、担任の小萌先生が入ってきて宣言した。

 皆、話をやめて自分の席へ戻っていく。

 「なんと、このクラスにまた転校生がやってきたのですよー」

今年度、2人目の転校生。2学期の初め、姫神秋沙を迎えて以来の朗報だ。教室の空気が明るくなる。

 「ちなみに、男の子ですよー?良かったですねー、子猫ちゃんたちー。平等にチャンスが訪れたのですよー」

前回は女子、今回は男子。確かにこれで男女平等。上条からしてみれば、どうでも良いことなのだが。

 「それでは、転校生ちゃん。どうぞー」

先生が合図を送ると、戸が開いて身長170cmぐらいの男が入ってくる。

 その前髪下ろしの黒髪と素朴な顔立ちには見覚えがあった。

 先日、不良から助け出したあの男だ。

 

 「羽場跳高校(はばとびこうこう)から来ました七海守戸(ななみかみと)と言います。よろしくお願いします」

その男、七海守戸は黒板に名前を記して言う。よく見てみると、中々に整った顔をしている。

 席は姫神の横。そして、この日、守戸とクラスの三バカ(デルタフォース)の間に友情が芽生えることとなる。言わずもがな、上条を経由して。

  

 同日、学校の帰り道。上条と守戸は足並みを揃えていた。

 「まさか、この前、助けた奴が転校してくるとはなー。お前もまさか自分が転入した高校に俺がいるとは思わなかったんじゃないか?」

「そうだな。ところで、上条。1つ聞いておきたいんだが…その……」

「何だ?遠慮せず、言ってくれ」

守戸が何か迷っているようなので、微笑んで安心させてやる。

 「その、だな……お前の友達のあの変態どもは一体何だ?担任の方も色々とアレだが……。お前も類友なのか?」

変態ども、土御門と青髪に違いない。

「あー、アイツらは特別だよ。俺も年相応だけど流石にあそこまではなー……」

と返す。

 「そう言えば、最近、超能力者(レベル5)に八人目が現れたよな。確か、名前はななみ……ななみなんだっけか」

話題を変える。口に出してみてハッとなる。

 そう、目の前にその「ななみ」がいるのである。七海守戸、何で今までそう思わなかったのだろう。彼がその超能力者(レベル5)ではなかろうかと。

 「なあ、七海。こんな平凡校に転校してきた身だけど、実は凄い能力者だったり、する?」

と聞いてみる。

「いや、ないない。俺は無能力者(レベル0)だから」

と守戸は否定する。

 では、同音異字の「ななみ」、あるいはただの記憶違いなのか。

 答えは簡単だった。

 

「ただ、兄、七海匡勢がその八人目の超能力者(レベル5)だ。兄って言っても、義理だけど」

 

 件の超能力者(レベル5)と義兄弟。それが答えであった。

 「全く凄いよ、義兄(にい)さんは。劣等感はないけど、能力者ってのはやっぱ羨ましいな」

そう守戸は言う。

「だな」

上条も同感だった。

 

 「だけど、代わりにさ……」

と、守戸が付け足すように言いかけたその瞬間のこと。

 道路の向こう。そこにいた人影に光が収束し、極太の光線となって守戸に迫る。

 「七海!」

と叫んで、咄嗟に前へ出ようとする。その光線が能力であるかは分からないが、考えるより先に体が動いていた。

 しかし、それに右手で触れる前にありえない現象を目の当たりにする。

 だが、それはいつも上条が最も間近に見ている現象でもあった。

 守戸の右手に触れた光線が裂けて消えたのだ。

 上条が固まっている内に、守戸は落ちていた石を投げて能力者を撃退する。この距離で

 

 「お、お前。その右手……」

まだ驚きのやまないまま、守戸の右手を指差す。

「ああ、これか?何だか分からないこの右手に触れた異能の力ってのは打ち消されるらしい。父さん曰く、夢想払い(ファントムルーラー)とか言うんだと」

守戸は幻想殺し(イマジンブレイカー)と同じように説明する。

 守戸の右手には幻想殺し(イマジンブレイカー)と同質の力が宿っている。

 それはつまり、インデックスの言を正しいとすれば、彼も上条顔負けの不幸体質ということになる。空気に触れているだけで、どんどん不幸になってしまうのだ。

 

 「実は俺の右手も同じなんだ。こっちは幻想殺し(イマジンブレイカー)って言うみたいなんだが。ま、不幸体質同士、頑張って生きようぜ」

と言ってみると、守戸は不思議そうな顔で、

「何言ってんだ、上条?俺はむしろ幸運なぐらいだぞ。ジャンケンで負けたことなんてほとんどないし、おみくじは大抵が大吉だぞ」

と返してくる。

 なんと、幻想殺し(イマジンブレイカー)は幸運や神様のご加護すら打ち消すというのに、夢想払い(ファントムルーラー)はそれを打ち消さないらしい。それどころか、神様に愛されているとしか思えないレベルの幸運が彼にはある。

 同質の力でありながら対極の扱いに上条の口からまた溜め息が漏れた。

 

 「それより、上条。今日はお前んちの食材とキッチン貸してくれないか?さっきの光線で折角、買ってきたものが消し炭になっちまってよ。一々部屋に食材を運ぶのも面倒だし、今からスーパーに戻るのもなー」

若干涙目で見ると、確かに袋に入った食材群はもう使い物にならない程までに消し飛んでいる。

 「そういうことなら問題ねぇよ。ついでに、飯作るの手伝ってくれたら助かる。いや、強制してるわけじゃないんだぞ」

「もちろん、そのつもりだ。むしろ、全部任せてほしいぐらいだな」

 

 話しながら歩くと、学生寮まであっと言う間。

 守戸の部屋はたまたま同じ階で、上条のもう少し奥にある。

 「先に荷物、置いてくる」

「おう」

守戸は言って、奥へ歩いていく。

 「ただいまー」

上条の方はドアを開けると、目の前には何度見たことか、生まれたままのインデックスの姿があった。

 噛みつき確定。少年は潔く処刑を受け入れた。

 

 「どうした、上条。その傷は?」

「聞くな。悪いのは俺なんだ」

インデックスの裸を見てしまったからだなんて絶対に言えない。

 もし、言ってしまえばきっと仕置きが待っている。

 上条当麻は今日も不幸の連続だった。

 持っていた弁当箱を中身ごと床に落っことし、掃除用バケツの水に足を滑らせ、机の脚に小指をぶつけた。

 そんな不幸を嘆いておきながら、あんなラッキーなイベントがあったと知られたら絶対にお仕置きされる。

 今日1日過ごして分かった。七海守戸はイケメンではあるが、そういう男だ。

 「しっかし、上条。不幸だ不幸だと言いながら女の子と同居中か……一発殴らせろ!」

守戸がそう言った時には、既に頬にゲンコツを食らっている。

 「結局、どっちにしても運命は変わらなかったってことかよ。へへへ……」

守戸を家に入れることになった時点でこれは決定事項だったらしい。

 迂闊だった。上条はこの始末にただ苦笑するしかなかった。

 

 さて、守戸が作ってくれたのはミートパスタとミネストローネ。それも、かなりの美味。

 「何これ。マジで美味いぞ、このパスタ」

「だねだね。オルソラのお手製パスタを思い出す美味さなんだよ。とうまの料理の500倍!」

「また言うか、お前は。でもでも、やっぱこんなに美味いとどうでもよくなるなー!」

インデックスも上条もフォークにパスタを巻き付けてガツガツと口に運ぶ。

 ミネストローネの方も良い感じにトマトの酸味がして、ほんのりチーズの風味もして最高の一言だった。

 そして、どうやらたまに料理を作りに来てくれるらしい。

 普段から料理係の上条には、自分の料理を美味しそうに食べてくれることの喜びが、守戸も感じたであろうその気持ちを心の底から理解できた。

 

 「ごちそうさまなんだよー、かみとー!」

そう言って、部屋は近いのに見送るインデックスに守戸は手をひらひらと振って去っていく。

 オルソラ級の手料理が時々は食べられるということに、何より毎日の家事負担が少しは減るであろうことに上条当麻の気分も晴れ晴れとするのである。

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