とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#5 介入者たち

 その日、御坂美琴は珍しくひいた風邪で寝込んでいた。

 そして、その御坂美琴にゾッコンのツインテール少女、白井黒子が彼女を放っておくはずがなかった。

 それはパートナーとしての心配からか、看病に託けて色々とやりたい願望からか。あるいは、その両方か。

 

 「黒子……。別にアンタは残らなくてもよかったのに……」

優しい声で横のベッドに腰掛けた白井黒子に言う。

「いいえ、お姉様が風邪で寝込んでいらっしゃるのにおちおちと学校になんて行ってられませんわ」

と白井。

 「さーて、お姉様。今日1日……いえ、何日でも!わたくしが看病して差し上げますわ〜!まずは涼しい服をお召しかえを〜……」

 御坂美琴は知った。目の前の変態はたとえ病人であっても自分に襲いかかってくる危険性を秘めた女である、と。

 美琴は察した。顔を見る限り心配一色だが、その奥には必ず劣情というえげつない不純物が眠っている、と。

 「アンタは病人でも容赦なし、か!ま、服はいただくわ。ありがとね」

美琴は白井を手で押さえながら、服だけ受け取る。それでも寄ろうとしてくるので、

「いい加減に……しろ!」

今度は足で押し返す。強い声もいつもよりは弱々しい。

 「お姉様も容赦ないじゃありませんの」

ベッドにうつ伏せになって白井は言う。

「うるさいっ!て、……まあ、アンタがいつも通りで安心したわ。心配のし過ぎでアンタまで元気がなくなったら世話ないもの」

「お姉様……」

「何意外そうな声出してんのよ……。心配するわよ、アンタは私の後輩なんだから」

 無論、白井黒子は正統派ではない。だが、それだけのことである。

  

 だが、その日の夕方。

 御坂美琴はその事実を知る。

 きっかけは部屋の呼出音、相手は常磐台もう1人の超能力者(レベル5)心理掌握(メンタルアウト)の食蜂操祈。長い金髪に先天的な瞳孔の星。現在第六位。

 「食蜂操祈さん、ですわね。お姉様に何かご用ですの?」

『あっらぁ、白井さんじゃなぁい。もしかして、学校サボって御坂さんの看病を?偉いのねぇ』

「ですから、ご用件は?」

『えっとぉ、御坂さんとじゃないと意味ないのよねぇ。ここ、開けてくれるかしらぁ?』

 マイクを介して白井と食蜂とでそんな会話があった。

 「お姉様…。食蜂さんが……。どうなさいます……?」

「良いわよ。通して……」

「は、はい」

 

 そうして、美琴と白井の部屋に食蜂は初めて入る。

 「へぇ、あっちの寮と間取りや壁の色は同じなのねぇ。それにしても、家具の配置は違うけどぉ」

食蜂は部屋に入るなり、部屋を見回して感想を述べる。

 「で、食蜂。どうしたのよ、直接私に会いにくるなんて。見舞いに来る義理なんてないでしょ」

「当然よぉ?大覇星祭の時のアレは成り行きで組んだだけし。協力というより提携と言った方が良いかしらぁ?」

「分かってるわよ、そんなこと。こっちだってそのつもりだったっての」

 

 少しいさかいがあった後。食蜂はカバンから取り出したリモコンを白井に向ける。

 ピッ!電子音とももに白井の世界から音が消えた。

 「ちょっと……また、黒子の記憶をイジったの……?」

「そんなことしないわよぉ、今回は。ただ、白井さんに聞かれると色々面倒だから私の干渉力で一時的に聴覚を遮断しただ、け、よ。御坂さんも白井さんを無闇に巻き込むのは避けたいんじゃなぁい?」

食蜂はあざとくウィンクする。

 

 「で、何の話なのよ」

「私が妹達(シスターズ)以外で御坂さんに時間を費やすと思っているなら、あなた、よっぽどのお人好しだゾ☆」

「っ……!また、あの子たちに何かあったの……?」

「そういうことになるわねぇ。私の駒、もとい派閥の子からの情報なんだけどぉ、風邪で休んでいるはずの御坂さんが車で攫われていくところを見たらしいわぁ」

 それが美琴であるはずがない。彼女は今日1日寮に寝たままであった。

 妹達(シスターズ)

 

 また、妹達(シスターズ)が狙われている。それだけで加害者としての責任と姉としての使命感を持つ美琴に火がついた。

 

 「攫われたって……どこに?」

「さぁ?それは分からないわぁ。運良くその子の能力が念話能力(テレパス)だったから『第十は』までは聞こえたらしいけどぉ。第十八学区のどこかで決まりねぇ」

「そのどこかを聞いてんのっ…よ……」

声を荒げようとすると咳が出る。

「風邪を引いているのに落ち着きぁないわねぇ。一応、こっちでも調査は進めてるけどぉ、正直、間に合うかどうかぁ?量産型能力者《レディオノイズ》計画、二度の絶対能力進化(レベル6シフト)計画……。拐われたのが妹達(シスターズ)なら、どうせろくなことにならないわよぉ?」

 

 ろくなことにならないのも美琴は分かっていた。それも、その身を以て。

 大覇星祭2日目。そのろくでもないものに呑まれて、危うく大切なものもろとも、この街の嫌なところを叩き潰すところだった。

 そこから救い出したのはあのバカ、上条当麻だったが助けに来てくれたのは彼だけじゃないはずだ。黒子や他のみんなも私のために尽くしてくれていただろう。不本意にしろ、食蜂も結果的には自分を助けたのだ。

 

 そんなろくでもないものをまたあの子たちに背負わせるのはとても堪えられない。

 熱も少し落ち着いて、弱々しさも無くなってきた体を動かすに十分な理由だった。

 「行くわよ、私は。出力は大能力者(レベル4)クラスが限界でしょうけど」

美琴は立ち上がる。

「そ。私はそれでもいいけどぉ、情報提供以外で手は貸せないわよぉ?結局、こっちのアプローチ力じゃそれぐらいしかできないのよねぇ。私、どっちかって言うと暗躍ってタイプだしぃ?だから、連絡は取れるようにしておきましょうかぁ?」

と食蜂は見捨てるように言う。だが、それは冷酷と言うより許諾だった。

 

 連絡先の交換だけして食蜂が去ると白井の世界に音が戻ってくる。

 「お姉さま!?どこへ行くおつもりですの?まだ、熱も下がりきってないでしょうに」

窓を開ける美琴に白井は純粋な心配の表情を浮かべる。何よりも不安が勝ったのだろう。

 「黒子、お願い……。あの子は私が助けないといけないの。本当にダメになったら黒子に電話するから……。その時は病院まで運んでくれる?」

それでも、美琴の切願するような表情に心を打たれたか。白井はしばらくして、

「わかりましたわ。お姉様のそのわがまま、この白井黒子がドーンと叶えて差し上げますの。わたくしもお姉様にわがままで傍にいさせていただいている身ですし……何よりもそれがお姉様のパートナーとしての務めですから」

と言う。

 美琴は白井のこういうところが好きだった。普段は変態で治安維持に関しては色々とうるさい子。でも、根っこは良い子で信頼のできるパートナー。

 「ままま、まさかこのわがままを聞いたらわたくしを部屋から追い出す、なんてことはありませんわよねっ!?だと、したらさっきの言葉を取り消しますの!も、問答無用で空間移動(テレポート)を……」

突如、慌てふためく白井の額を美琴はこついて、

「なーに言ってんのよ。そんな訳ないでしょ?大体、アンタを追い出して誰を招き入れるってのよ」

と微笑む。

 

 そして、美琴は黄昏の街へ飛び出した。

 「いってらっしゃいませ、お姉様。くれぐれも無理はなさらずに……」

後ろから聞こえた白井の温かい言葉に美琴の心は後押しを得る。

 待ってくれている人がいる。心配してくれる人がいる。美琴はそのささやかな幸せに喜びを感じていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 さて、それを知る手段を持っているのは最大派閥を抱える食蜂の知人だけではない。

 

 1人は妹達(シスターズ)に家を知られている少年。かつて、死の連鎖から彼女たちを救い出したその少年。

 「10032号に命の危機が迫っているかもしれません。と、ミサカ13577号はあなたに助けを求めます」

もう迷ってはいられない。インデックスを放っておくと食品類は全滅かもしれない。

 だが、家の全食品か、1人の命か。そんなもの選択ではない。後者に決まっているのだから。

 「インデックス!悪いが、今日のご飯はお預けだ!何かテキトーに食べるか、七海を呼ぶかしてくれ」

吐き捨てるように言って、問答無用でその13577号と駆け出す。

 

 そして、もう1人は妹達(シスターズ)の上位個体、打ち止め(ラストオーダー)を傍らに置く学園都市の第一位。

 白髪赤眼、あるゆる力の『向き』を操る能力を持つ男、一方通行(アクセラレータ)

 『もしもし、今、仕事中?って、ミサカはミサカは一応気を遣わせてみる』

「本気で気を遣ってるつもりなら気安く掛けてくンじゃねェぞ、クソガキが。ま、仕事の方はさっき一段落ついたところだから別に良いけどよォ。用件はなんだ?」

『よかった……。ミサカネットワークの共有情報によるとミサカ10032号に命の危機が迫っている可能性が高いみたい。って、ミサカはミサカは現状報告をしてみたり。具体的には攫われたの。って、ミサカはミサカは言い直してみる』

「10032号だァ?そりゃ、オレがボロボロにした妹達(シスターズ)じゃねェか。ソイツを一体オレがどうしろと?まさか、また……」

『助けてあげて。って、ミサカはミサカはお願いしてみたり』

「助けるねェ……。つっても、どこにいるのか見当もつかねェえぞ。それでどうやって助けろってンだ?」

『あなたなら何とかできるよね。って、ミサカはミサカは期待という強迫観念を押し付けたみたりー』

「ンなもん押し付けてんじゃねェっ!」

 一方通行(アクセラレータ)はイライラを募って通話を切ってしまう。

 「チッ。あのガキ、人の気持ちも知らねェで、好き勝手抜かしやがって」

舌打ちの後、彼は不敵な笑みを浮かべる。

 「ま、やるけどよォ。助け……いや、手ェ煩わせた連中をブッ潰す!!」

 そう言って、学園都市最強の怪物も動き出す。

 

 皆が10032号のために奔走する。

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