とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#6 ともに

 御坂美琴は1時間程で第二湯川工場跡と突き止めた。

 彼女は食蜂派閥の目撃情報のあった監視カメラの映像を辿ったが、その先はどこにでもある雑居ビル、そこにそれらしきものは見当たらなかった。

 結局、食蜂繰祈からの情報でその近くにあったこの工場跡だと判明する。

 

 中には場違いな電子機器類がたくさん置かれていた。

 美琴はそこにいた研究員を電撃で脅して情報を得ようとしたが、絶縁体を身に纏っていた彼らは効かないと嘲笑う。

 すぐに彼女は得意の超電磁砲(レールガン)を準備し睨みつける。

 美琴に彼への情はない。躊躇も手加減もあるはずがない。本気で殺すことも厭わない、そんな顔だった。

 結果、美琴は彼からデータの入った端末を入手する。

 そこから目当てのデータを見つけ出す。 

 

 

 

         ㈱EXSECTOR 社長 尾道袈丘

 

     脳接続による絶対能力進化(レベル6シフト)

   

未だに絶対能力者(レベル6)の実現が成されないのは、人間1人の演算能力に限界があるからである。そこで超能力者(レベル5)の演算能力と妹達(シスターズ)9968体分の演算能力を組み合わせることで絶対能力者(レベル6)を目指すこととする。かつて被験者であった一方通行(アクセラレータ)は演算能力を失っているため、近似の能力を有する第三位七海匡勢を以て執り行う。なお、不従防止のため対象の妹達(シスターズ)に予めウイルスデータを入力し、その後の軽量化のため対象を殺害し脳のみを培養器に入れて持ち運ぶことはやむを得ない。10031の死の記憶を持つ妹達(シスターズ)との戦闘も絶対能力者(レベル6)への進化(シフト)を助けると考えられるため、殺害は被験者に一任した。

 

 

 

 最後の二文が決定打だった。

 「っざけんじゃないわよ!また、あの子たちを殺すつもりなの……!?」

端末をへし折って、美琴は吐き捨てる。

 「だから、そこに『やむを得ない』とあるだろう?少なくとも、私はたとえそれがクローンでも殺人と同じであると心得ているさ。だが、その殺人によって絶対能力者(レベル6)が実現し裁かれるというならそれも本望だよ。捕まっても死ぬわけじゃ……」

「アンタねぇっ……!」

美琴はついに研究員の胸ぐらを掴んで、壁に叩きつける。

「それより実験を止めるつもりなのだろう?私に構ってていいのか?さっき、あの妹達(シスターズ)(かがく)社長と一緒に奥へ向かったぞ。実験場は知らされていないが、社用車で運ぶと言っていたな……」

それを逆なでするような調子で、彼は情報を吐く。

 美琴は用なしとなった彼を投げ飛ばして、工場を後にした。

 

 外へ出た美琴は、電磁力の応用で宙を交い、道路網を俯瞰して、その社用車らしきワゴンを見つける。レタリングされた「EXSECTOR」のペイントもあり、間違いはない。

 だが、結構な距離がある。美琴は能力の出力をさらに上げ、加速する。

 微熱のまま飛び出し、脳に負荷を掛け続ける彼女の体は悲鳴を上げるかのように熱を帯びはじめた。

 だとしても、追跡を止められるはずなどない。

 

 そして、いよいよ、超電磁砲(レールガン)の射程50mにワゴンを捕捉する。

 だが、彼女はそれを撃とうとはしなかった。

 理由は1つ。

「熱で標準がブレるかもしれない。そんな状態でこれを撃ってあの子を巻き込んだら本末転倒よ。そもそも、いつもの威力は出せないだろうし……」 

そう言って、降下する。

 

 それを上条当麻は遠目に見ていた。正面からだったので、顔がよくわかる。

(御坂……が追ってる……ってことは、あの車か……!)

彼女を見て、咄嗟に理解する。

 こちらに向かうロゴがペイントされたワゴン車。異能を打ち消すだけの無能力者(レベル0)がそれを止める方法は1つしかない。

 上条は鉄パイプを引き摺りだしてきて、車道の端に出てそれを横に持つ。

 

 「アイツがなんで……また……。って、あのバカ……!その鉄パイプで何する気!?」

 美琴の方もそんな上条に気付いて、本物のバカを見るような目で見下ろす。

 

 だが、上条に両腕を犠牲にしてでも車を止める、なんてつもりはない。

 そもそも、車を止めるだけならその必要がない。 

 ただ、車が衝突するその直前、鉄パイプを放り捨てるのみである。 

 その直後。

 

 ぼんっ!!!と、エアバッグが作動する。その安全装置は容赦なく、安全に全振りした袋体で運転手の動きを封じる。

 

 徐々に車は減速し、やがて、完全に停止する。

 降り立った美琴の顔は赤く、過呼吸に陥っている疑いすらある。

 その状態で彼女はまず襲いかかったを帯電の拳で気絶させ、車のナビを覗き込み、

「第一〇学区特例能力者多重調整技術研究所の跡…地……。七海匡勢は絶対に止めな…きゃ……」

それを確認したところで限界が来た。

 「み、御坂?おい、御坂……!」

朦朧とする中、美琴は上条の声が遠のいていく感覚を覚え、最後には本当に何も聞こえなくなってしまう。

 

 「バカ野郎っ!!!!こんなになるまで、無理しやがって!」

美琴の高熱を手に確認した上条は思わずそう吐いていた。

 一方、妹の方はワゴンから出て車の進行方向へ行こうとする。

「実験開始まであと23分20秒、走れば間に合います。と、ミサカは……」

()()妹達(シスターズ)の口からそんな言葉が出て、上条は嫌な予感しかしなかった。そう言えば、別の御坂妹は「命の危機」と言っていた。

 上条はその腕を掴んで、こちらへ引き寄せる。念のため、右手を使って能力は封じる。

 このままでなければ、おそらく彼女はその()()とやらに行ってしまう。このまま彼女を足留めし続けなければ美琴の努力も無駄になる。

 

 だが、高熱の美琴は早く病院へ連れていかなくてはならない。

 そう言えば、今まで上条が1人だけで事を何とかできたことは一度もなかった。一方通行(アクセラレータ)との一戦だって、最後に美琴が気を引いていくれていなかったら彼女との約束も、皆で笑って帰るという夢も潰えていたのかもしれなかった。

 誰を頼れば、御坂妹が()()に向かうのを防ぎつつ、美琴を病院へ運ぶことができるのか。

 上条は考えた。

 

 そして、1つ思い出す。美琴の後輩、白井黒子。確か彼女の能力は空間移動(テレポート)である。

 もう、迷ってなどいられない。プライバシーの侵害など気にしている場合ではない。

 自分ので病院への連絡だけ済ませると、美琴の服の中からカエルの携帯電話を探り当て、電話帳から白井へ繋ぐ。

 『もしもし、お姉様ですの?黒子のたす…』

「白井か。良かった……」

「な、ぬぁんで、あなたがお姉様の携帯で掛けてきていますの!?」

「んなこと言ってる場合じゃねぇ!御坂が大変なんだ。俺は今手が離せないから、お前の空間移動(テレポート)で病院まで運んでくれ。連絡はしてある」

『お姉様が……!?わ、分かりましたわ、今すぐ向かいますの!』

 電話を切って戻して、1分もない内に白井は現れる。

 上条が掴まえている美琴と同じ顔の少女を不思議に思いつつも、白井は倒れたままの美琴を肩に担いで会釈だけすると、ヒュンッ!と一瞬で消えた。

 

 あとは、実験そのものの方である。学園都市に残った妹達(シスターズ)は1人だけではないはずだ。実験そのものを終わらせなければ同じことの繰り返しになる。

 彼女に案内してもらうのも1つの手ではあるが、それで引き離されてしまっては元も子もない。

 そんなリスクを犯すよりも確実な方法が1つあった。

 確か御坂美琴は倒れる前にこう言っていたではないか。

 七海匡勢を止めなけらばならない、と。

 幸い、その義弟である七海守戸とは友人である。美琴の言葉から実験場が第一〇学区にある特例能力者多重調整技術研究所の跡地ということは判明している。

 彼を巻き込むことに負い目はあるが、彼の右手は上条のと同じ現象を起こす夢想断ち(ファントムルーラー)である。

 超能力者(レベル5)とは言え、異能を打ち消す力の前では弱化は免れない。しかも、2人は義兄弟(きょうだい)なのだ。上条よりも、彼の方が適任であろう。

 今判明している情報と事情を説明して、義兄が道を踏み外そうとしていると分かるとすぐだった。

 上条は上条で、車が走ってきた方向へ御坂妹を無理矢理にでも引っ張っていくことで妨害を試みる。

 

 「そうはさせん。たとえ、遅れてでも実験は成功させる!」

そこで袈丘が目を覚まし、車を後ろへ向ける。上条をひき殺すつもりでアクセルを強く踏む。

 「なっ……!」

上条を照らすヘッドライト、回避不能な距離。せめて、御坂妹だけでも守ろうと、彼女を抱きかかえる。

 

 だが結局、上条は無事だった。車が届く前グシャグシャになったのだ。

 「一方通行(アクセラレータ)……」

目の前に立つ予想外の助っ人に戸惑いを隠せない。一方通行(アクセラレータ)

「いいからソイツを連れてとっと失せろ、無能力者(レベル0)

 状況が把握しきれないが、上条が今すべきことは御坂妹をできるだけ遠くへ引っ張ること。言われた通り、御坂妹とその場を去った。。

 

 それを後ろに一方通行(アクセラレータ)は足で車の天井をラベルみたいに剥がし開ける。

 「さァて、オマエはどんな死に方がお好みだァ?」

「ま、待ちたまえ第一位!私を殺しては損だぞ!私が死んでも実験は私の部下に引き継がれる!つまり、終わらないんだ!!だが、私を殺さないと言うなら社長である私から実験中止を言い渡すと約束しよう!そうすれば、実験は終わる」

その運転手、エクスセクター社長の尾道袈丘は命乞う。

 一方通行(アクセラレータ)はそれを棄却した。

 「命乞いってのは三下のやることだぜェ、社長さんよォ?それに、実験だァ?勘違いしてンじゃねェ。オレはただあのガキのわがままに付き合ってやってるだけだ。その実験とやらが続こうが、続くまいがオレには関係ねェ。オマエがその邪魔をしたから、ブッ潰す。それだけのこったァ」

 怪物は不気味に笑い、ボンネットを踏み潰す。

 ドガァァァァァッ!!と、凄まじい轟音。車は爆裂し、爆炎が男を呑み込んだ。

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