とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》   作:田芥子慧悟

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#9 再起

 匡勢が意識を取り戻すと、側に守戸が座っている。

 「お前……何でそこまでして俺を止めようと……?」

意識を失って頭も冷えて、匡勢の声は落ち着いていた。

「家族だからに決まってるだろ?義兄さんを悪者になんかしたくないんだよ」

と守戸は答える。

 「だから、それはお前が気にすることじゃないって言ってるだろ?それに、家族殴るかよ普通?」

「そ、それは……!義兄さんを止めるためとは言え、殴ったのは謝るよ……」

案の定の返答に匡勢は少々ウンザリな顔をした。守戸は慌てて謝る。

 「いや、謝ってほしかった訳じゃない。それだけお前の思いが強かったってことなんだな。わかってる」

「いや、ごめん……。実を言うと、それだけじゃないんだ。義兄さん、いくら言っても聞かないから、多少の苛立ちも混じってたと思う」

「こ、怖いこと言うな……お前」

 淡々と言う守戸に匡勢は堪らず慄いた。無自覚なのがまた恐ろしい。

 

 「でも、義兄さんを止めたかったってのも本当だ。クローン殺しなんかさせたら、俺の知ってる義兄さんじゃなくなるだろ?俺のことを思ってるなら、これ以上、俺から何も奪わないでくれ。悪者になった義兄さんに守られても俺は嬉しくないんだよ。気にするなって言われても無理な話だ。それは義兄さんの都合だろ?」

守戸はそう言って、手を貸した。

 その悲しそうな表情に心が浄化され、匡勢の絶対能力者(レベル6)への未練は消え失せる。

 守戸のためにやっていたことが、結局は守戸を苦しめていたのだと完全に理解する。心の底からその独善を反省する。

 匡勢はその手を掴んで立ち上がり、

「わかったよ。もう俺は絶対能力者(レベル6)なんかには関わらない。違う方法でお前を守ってみせる。それにお前の拳、すごく痛かったしな……。あんなのもう二度とゴメンだ」 

「だ、だから、謝っただろそれについては……!」

「多少、苛立ちもあったんだよな?お前、元ヤンかよ」

「だから、それも謝っただろ?てか、義兄さんは何で俺が昔、武装集団(スキルアウト)だったってこと知ってんだよ!?」

「知らねぇよ。だって、気に入らないから殴るなんてヤンキーでもないとやらないだろ」

「確かにな」

 2人は顔を見合せ、思わず吹き出す。

 ずっと笑いながら、義兄弟(きょうだい)は特力研跡地を去っていった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 その翌朝。

 御坂美琴の病室には仲良し3人がお見舞いで集まっていた。

 「皆、心配ばっかかけてごめん!あの子のためだと思うと全然歯止めがきかなくて……!それで、ちょっと無理しちゃったみたい……」

美琴は起き上がり、改めて彼女らに頭を下げる。

 「い、いえ!別にそこまでしなくても!御坂さんが無事ならそれで良いんですよ!ね、初春?」

「まあ、御坂さんが1人で突っ走っていっちゃうのはいつものことですし……。今回は特殊なケースでしたけど。まったく、どこかの誰かさんもそれを見習ったんですかねぇ……?」

初春と呼ばれた少女はおもむろに白井に目を向ける。

 「ちょっと、初春!わたくしのことを言ってますの!?あれは風紀委員(ジャッジメント)のお仕事に必要なことですのよ!」

「自意識過剰なんじゃないですかー?誰も白井さ……あいたっ……!」

聞く耳持たず白井は初春飾利の頭を叩くと、 

「誰が自意識過剰ですの?言ってるも同然ですのよ」

オマケというノリでそう言った。

 「黒子もごめんね。連絡するって言ったのに」

もっと申し訳ない彼女には改めて謝ると、

「まったくですわ……。あの子、というのはお姉様にそっくりのあのお方で間違いありませんの?」

嘆息する白井に、

「うん、そう……。あの子、私の妹なの」

「そうですの……。妹さん思いなんですのね。お姉さまらしくて誇らしいですけど、約束を反故にされて黒子傷付きましたわ」

「ホントごめん……!」

と美琴。

 「わたくしはいいのですけど……。あの類人え…いえ、上条さんも心配していましたわよ。あの方から連絡をいただけなかったら今頃、どうなっていたことか……。その妹さんに付きっきりのようですし、まだ病院にいると思いますの。不本意ですけど、彼にも謝られた方がよろしいのではなくて?」

白井がそんなことを言うと、美琴はボッと顔を赤らめる。

「(ア、アイツが私を心配……?)」

「お、お姉様っ!?そのお顔!また熱が……!」

「だ、大丈夫よ!今回は本当に」

覗き込んで熱を確認しようとする白井。美琴はあたふた拒み、慌てたように立ち上がる。

 「え、御坂さんを助けたのは上条さんだったんですか?」

長い黒髪の佐天涙子が白井に確認をとる。

「そうですけど。それがどうかしましたの?」

ニヤリ……。それを聞いた佐天は小悪魔的な笑みを浮かべる。

 「あっ、そうだ!御坂さん、今日、私の部屋に来ませんか?上条さんへのお礼に、クッキー作りましょう!」

との提案をする。

「ひゃっ……!?」

一層赤くなる美琴を見、佐天は探偵が推理するみたいに顎へ手を当て、

「もしかして、御坂さん。この前のクッキーを渡したのも上条さんだったり……?」

その鋭い推察に美琴は完全にショートした。

 「そ、そそそそそんなことは……!じゃ、私ちょっと行っ……て、いったぁっ!?」

そそくさと病室を出ようとして足を扉にぶつける彼女を風景に

「相変わらず、可愛いのう……」

と佐天は和ごんだ顔になる。

「佐天さんったら……。病み上がりなんですよ?」

初春飾利は優しく釘を刺した。

 

 その頃、上条は白井の言った通り、御坂妹と一緒だっった。ついでに七海義兄弟(きょうだい)もいる。

 匡勢が能力を活用し、御坂妹の脳波と奪ったウイルスコードを照合、異常な信号を0にした後だった。

 バカの上条にはそこら辺の理論はよく分からなかったが、名門長点上機学園の生徒が言うことなら正しいだろう。

 「ありがとうございます、御坂妹を助けていただいて」

「敬語はいいよ。俺は長幼の序っていうのが嫌いなんだ。それに俺は気の迷いとは言え、実験に加担した男だ。守戸に止められていなかったら、俺はその子を殺してた。これはせめてもの贖罪なんだ。礼を言われるようなことじゃない」

礼を言うと、七海匡勢がそう言うので、

「そうか。でも、御坂妹を助けたことに変わりはない。違うか?」

と上条。

「とんだお人好しだな、お前は」

匡勢は呆れたような満たされたような顔をした。

 

 美琴が来たのは七海たちが去った少し後である。 

 「おっ、御坂。お前、元気になったんだな。良かった良かった……」

入ってきた美琴に一言言うと、

「お陰様で……心配かけて悪かったわね……」

「良いって良いって……そりゃ、無理してたのはいただけねぇけど、お前もこいつを助けるために必死だったんだろ?俺があの車だと分かったのは間違いなく御坂のおかげだしな。協力してくれて、ありがとな」

上条は微笑みかける。

 「う、うん……。で、でも黒子を呼んでくれたのはアンタで、むしろお礼を言うのは私の方で……

何やらブツブツと言っていて、

「ごめん。何言ってるのか全然聞こえなかったんだけど……」

「な、何も言ってないわよ!こっちの話!」

美琴は反射的に誤魔化した。

「そ、そうか……」

その剣幕に上条は押されてしまう。

 

 「で、またアンタは頼んでもいないのに1人でその子のために動いてくれた訳ね。そのワリには怪我もほとんどないみたいだけど……」

頭の上にクエスチョンマークでもありそうな顔の美琴に、

「まあ、今回は色んな奴に助けてもらったしな。実験が中止されたのは七海守戸……匡勢の義弟(おとうと)が説得してくれたおかげだし……。あとアイツ、 一方通行(アクセラレータ)のおかげで俺は妹を病院まで引っ張ることができたんだ。ウイルスはさっき匡勢が削除してくれたしな」

と説明する。

 「七海匡勢がウイルスを…?それに一方通行(アクセラレータ)まで……。どうして……?」

「匡勢は御坂妹を殺そうとした罪滅ぼしだって言ってけど…一方通行(アクセラレータ)の方は何でだ……?」 

彼のその後を知らない上条には皆目見当がつかない。

 ただ、アイツがアイツなりの正義で行動し、それが結果的に御坂妹を救ったのは間違いないだろう。

 「また助けられましたね。と、ミサカはお2人に助けていただいた日を思い浮かべながらお礼を言います」

目を覚ました彼女の声はどこか抜けていて、しかし、人間らしいいつもの声だった。




第9話をもって「絶対能力進化(レベル6シフト)編」は終了となります。次章は魔術サイドの物語「堕天還り(サタンズリターン)編」を書く予定です。なお、各章終了ごとの閑話もございますのでそちらもお楽しみください。
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