とある魔術と科学の虚空書録《アカシックレコード》 作:田芥子慧悟
匡勢が意識を取り戻すと、側に守戸が座っている。
「お前……何でそこまでして俺を止めようと……?」
意識を失って頭も冷えて、匡勢の声は落ち着いていた。
「家族だからに決まってるだろ?義兄さんを悪者になんかしたくないんだよ」
と守戸は答える。
「だから、それはお前が気にすることじゃないって言ってるだろ?それに、家族殴るかよ普通?」
「そ、それは……!義兄さんを止めるためとは言え、殴ったのは謝るよ……」
案の定の返答に匡勢は少々ウンザリな顔をした。守戸は慌てて謝る。
「いや、謝ってほしかった訳じゃない。それだけお前の思いが強かったってことなんだな。わかってる」
「いや、ごめん……。実を言うと、それだけじゃないんだ。義兄さん、いくら言っても聞かないから、多少の苛立ちも混じってたと思う」
「こ、怖いこと言うな……お前」
淡々と言う守戸に匡勢は堪らず慄いた。無自覚なのがまた恐ろしい。
「でも、義兄さんを止めたかったってのも本当だ。クローン殺しなんかさせたら、俺の知ってる義兄さんじゃなくなるだろ?俺のことを思ってるなら、これ以上、俺から何も奪わないでくれ。悪者になった義兄さんに守られても俺は嬉しくないんだよ。気にするなって言われても無理な話だ。それは義兄さんの都合だろ?」
守戸はそう言って、手を貸した。
その悲しそうな表情に心が浄化され、匡勢の
守戸のためにやっていたことが、結局は守戸を苦しめていたのだと完全に理解する。心の底からその独善を反省する。
匡勢はその手を掴んで立ち上がり、
「わかったよ。もう俺は
「だ、だから、謝っただろそれについては……!」
「多少、苛立ちもあったんだよな?お前、元ヤンかよ」
「だから、それも謝っただろ?てか、義兄さんは何で俺が昔、
「知らねぇよ。だって、気に入らないから殴るなんてヤンキーでもないとやらないだろ」
「確かにな」
2人は顔を見合せ、思わず吹き出す。
ずっと笑いながら、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その翌朝。
御坂美琴の病室には仲良し3人がお見舞いで集まっていた。
「皆、心配ばっかかけてごめん!あの子のためだと思うと全然歯止めがきかなくて……!それで、ちょっと無理しちゃったみたい……」
美琴は起き上がり、改めて彼女らに頭を下げる。
「い、いえ!別にそこまでしなくても!御坂さんが無事ならそれで良いんですよ!ね、初春?」
「まあ、御坂さんが1人で突っ走っていっちゃうのはいつものことですし……。今回は特殊なケースでしたけど。まったく、どこかの誰かさんもそれを見習ったんですかねぇ……?」
初春と呼ばれた少女はおもむろに白井に目を向ける。
「ちょっと、初春!わたくしのことを言ってますの!?あれは
「自意識過剰なんじゃないですかー?誰も白井さ……あいたっ……!」
聞く耳持たず白井は初春飾利の頭を叩くと、
「誰が自意識過剰ですの?言ってるも同然ですのよ」
オマケというノリでそう言った。
「黒子もごめんね。連絡するって言ったのに」
もっと申し訳ない彼女には改めて謝ると、
「まったくですわ……。あの子、というのはお姉様にそっくりのあのお方で間違いありませんの?」
嘆息する白井に、
「うん、そう……。あの子、私の妹なの」
「そうですの……。妹さん思いなんですのね。お姉さまらしくて誇らしいですけど、約束を反故にされて黒子傷付きましたわ」
「ホントごめん……!」
と美琴。
「わたくしはいいのですけど……。あの類人え…いえ、上条さんも心配していましたわよ。あの方から連絡をいただけなかったら今頃、どうなっていたことか……。その妹さんに付きっきりのようですし、まだ病院にいると思いますの。不本意ですけど、彼にも謝られた方がよろしいのではなくて?」
白井がそんなことを言うと、美琴はボッと顔を赤らめる。
「(ア、アイツが私を心配……?)」
「お、お姉様っ!?そのお顔!また熱が……!」
「だ、大丈夫よ!今回は本当に」
覗き込んで熱を確認しようとする白井。美琴はあたふた拒み、慌てたように立ち上がる。
「え、御坂さんを助けたのは上条さんだったんですか?」
長い黒髪の佐天涙子が白井に確認をとる。
「そうですけど。それがどうかしましたの?」
ニヤリ……。それを聞いた佐天は小悪魔的な笑みを浮かべる。
「あっ、そうだ!御坂さん、今日、私の部屋に来ませんか?上条さんへのお礼に、クッキー作りましょう!」
との提案をする。
「ひゃっ……!?」
一層赤くなる美琴を見、佐天は探偵が推理するみたいに顎へ手を当て、
「もしかして、御坂さん。この前のクッキーを渡したのも上条さんだったり……?」
その鋭い推察に美琴は完全にショートした。
「そ、そそそそそんなことは……!じゃ、私ちょっと行っ……て、いったぁっ!?」
そそくさと病室を出ようとして足を扉にぶつける彼女を風景に
「相変わらず、可愛いのう……」
と佐天は和ごんだ顔になる。
「佐天さんったら……。病み上がりなんですよ?」
初春飾利は優しく釘を刺した。
その頃、上条は白井の言った通り、御坂妹と一緒だっった。ついでに七海
匡勢が能力を活用し、御坂妹の脳波と奪ったウイルスコードを照合、異常な信号を0にした後だった。
バカの上条にはそこら辺の理論はよく分からなかったが、名門長点上機学園の生徒が言うことなら正しいだろう。
「ありがとうございます、御坂妹を助けていただいて」
「敬語はいいよ。俺は長幼の序っていうのが嫌いなんだ。それに俺は気の迷いとは言え、実験に加担した男だ。守戸に止められていなかったら、俺はその子を殺してた。これはせめてもの贖罪なんだ。礼を言われるようなことじゃない」
礼を言うと、七海匡勢がそう言うので、
「そうか。でも、御坂妹を助けたことに変わりはない。違うか?」
と上条。
「とんだお人好しだな、お前は」
匡勢は呆れたような満たされたような顔をした。
美琴が来たのは七海たちが去った少し後である。
「おっ、御坂。お前、元気になったんだな。良かった良かった……」
入ってきた美琴に一言言うと、
「お陰様で……心配かけて悪かったわね……」
「良いって良いって……そりゃ、無理してたのはいただけねぇけど、お前もこいつを助けるために必死だったんだろ?俺があの車だと分かったのは間違いなく御坂のおかげだしな。協力してくれて、ありがとな」
上条は微笑みかける。
「う、うん……。で、でも黒子を呼んでくれたのはアンタで、むしろお礼を言うのは私の方で……」
何やらブツブツと言っていて、
「ごめん。何言ってるのか全然聞こえなかったんだけど……」
「な、何も言ってないわよ!こっちの話!」
美琴は反射的に誤魔化した。
「そ、そうか……」
その剣幕に上条は押されてしまう。
「で、またアンタは頼んでもいないのに1人でその子のために動いてくれた訳ね。そのワリには怪我もほとんどないみたいだけど……」
頭の上にクエスチョンマークでもありそうな顔の美琴に、
「まあ、今回は色んな奴に助けてもらったしな。実験が中止されたのは七海守戸……匡勢の
と説明する。
「七海匡勢がウイルスを…?それに
「匡勢は御坂妹を殺そうとした罪滅ぼしだって言ってけど…
彼のその後を知らない上条には皆目見当がつかない。
ただ、アイツがアイツなりの正義で行動し、それが結果的に御坂妹を救ったのは間違いないだろう。
「また助けられましたね。と、ミサカはお2人に助けていただいた日を思い浮かべながらお礼を言います」
目を覚ました彼女の声はどこか抜けていて、しかし、人間らしいいつもの声だった。
第9話をもって「