樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、凶夜達は進みを止めざるを得ないことになった。数も殺気も、連携の練度も今までの魔物とは比べ物にならない。
カム達は忙しなくウサミミを動かして周囲を索敵している。そして、何か掴んだようで苦虫を噛み潰したような顔をしている。シアに至っては青褪めさせた表情をしている。スフォも少し青褪めている。凶夜達も正体に気付いて面倒な事になりそうという顔をしている。
「お前達…何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」
虎模様の耳と尻尾をつけた筋肉隆々の亜人だった。
樹海の中で亜人族と人間族が一緒に歩いている。あり得ない光景に虎の亜人はカム達を裏切り者を見るような視線を向けている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を張っているようだ。
カムはどうにか言い訳を言おうとしてるが、その前に虎の亜人がシアとスフォに捉え、眼が大きく開かれる。
「白い髪の兎人族に白い髪の狐人族…だと?貴様ら!報告にあったハウリア族か。亜人族の面汚し共め!忌み子を匿うだけでなく、人間族を招き入れるとはっ。反逆罪だ!もはや弁明の余地もない。全員この場で処刑だ!総員かかっ--」
ドパンッ!!
虎の亜人が攻撃命令を出そうとした瞬間、ハジメの腕が跳ね上がり銃声と共に閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばして樹海の奥に消えていく。誰もが硬直している中、ハジメが"威圧"を放つ。
「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでる奴らも既に把握している。お前等がいる場所は既に俺のキルゾーンだ」
「そっ、たがら大人しく話し合おーぜ♪」
「な、いつの間に!?それと、詠唱がっ」
凶夜がいつの間にか虎の亜人の隣にマチェットを構えて笑顔をで脅している。詠唱もなく、見たことも無い攻撃を連射出来る上、味方の場所も把握してるという告げられ思わず吃る虎の亜人。ハジメは自然な動作でシュラークを抜きピタリと、ある方向へ向ける。その先は腹心の部下がいる場所だった。
「殺るというなら容赦しない。約束が果たされるまでこいつ等の命は保証してるからな。……ただの一人も生きて帰れると思うなよ」
ハジメが威圧感の他に殺意を放ち始める。あまりにも濃厚なそれを正面から叩きつけられて虎の亜人は冷や汗を大量にに流す。
(冗談だろ!こんなものが人間だというのか!まるっきり化け物じゃねぇか!隣にいるこいつも同類だと本能が告げている!)
ハジメがドンナー&シュラークを構えながら言う。
「だが、この場を引くというのなら追いもしない。さぁ、選べ。敵対して無意味に死ぬか大人しく家に帰るか」
「賢明な判断頼むぜ」
虎の亜人は確信していた。攻撃命令を下せば全滅するということを。虎の亜人はフェアベルゲンの第二警備隊長だった。フェアベルゲンの周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守れるとこの仕事に誇りを持っていた。その為、安易に引くことも出来なかった。
「…その前に一つ聞きたい」
ハジメは視線で話を促した。
「…何が目的だ」
端的な質問。だが、返答次第ではここを死地と定めて戦う覚悟をがあると言外にに込めた覚悟の質問だった。
「樹海の最深部、大樹ウーア・アルトの元へ行きたい」
「大樹の元へ…だと?何のために?」
てっきり亜人を奴隷にするなどという自分達を害する目的だと思っていた虎の亜人。神聖視はされているが重要視はされていない大樹が目的と言われ困惑気味になっている。そこに隣ではマチェットを構えている凶夜の助け舟が出される。
「大樹の元に迷宮なら入り口があるかもしれねーんだわ。俺達は七大迷宮の攻略を目指してるんだよ」
「迷宮の入り口?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。入ったら最後亜人以外は進むことも帰ることも許さない天然の迷宮だ」
「いや、それはおかしい」
何?と虎の亜人が妙に確信のある断言に訝しそうに問い返す。その返しにハジメはここの魔物は弱過ぎる。そして迷宮とは"解放者"の試練で亜人族が簡単に入れたら試練になってないと断言する。
ハジメの話を聞き、虎の亜人は困惑を隠せなかった。樹海の魔物が弱いと生きるのも、【オルクス大迷宮】の奈落の事も、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも、全く聞いた事のないものばかりだ。
だがここでハジメが嘘をつくメリットがない。圧倒的優位に立っているのはハジメ達の方であり、言い訳など必要ないからだ。
この件は完全に自分の手に余ると判断し、ハジメ達に提案した。
「一警備隊隊長の私如きがしていい判断ではない。本国に支持を仰ぐ。お前達の話も長老達なら何か知ってる方がおられるかもしれない。お前達に含むモノがないというのなら、伝来を見逃し私達とこの場で待機してもらおう」
強い意志を宿した瞳にハジメは少し考える。亜人族側の最大の譲歩なのだろう。色々考えた結果、殲滅しながらの探索は面倒という結論に至り、
「…いいだろう、ちゃんと曲解せずに伝えろよ?」
「無論だ、ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」
「了解!」
虎の亜人の言葉に一つの気配が遠ざかっていった。ハジメはそれを確認すると両銃をホルスターにしまい威圧を解く。隣にいた凶夜もいつの間にかハジメの近くにいる。"今なら!"と臨戦態勢に入る亜人もいるがハジメが不敵に笑う。
「お前等の攻撃するより、俺の抜き撃ちの方が速い…試してみるか?」
「いや、だが下手な動きはしてくれるなよ」
「分かってる」
カム達にもホッとした空気が広がる。だが彼らに向けられる視線はハジメ達より幾分か厳しいもので居心地が悪そうだ。そんな空気に飽きたのか、ユエがハジメに構って欲しくてちょっかいをかけ始める。それを見たシアが「私も〜」と参戦し、ユエに間接を決められてキブしていた。スフォは相変わらずストレートに凶夜にアプローチしている。凶夜はたじたじだ。
急に敵対の真ん中でイチャつき始めたハジメ達のに呆れの視線が突き刺さる。
数時間たち霧の奥から数人新たな亜人族が現れた。彼らの中央にいる人物に眼がいく。ハジメ達は瞬時に彼が"長老"だと推測した。彼は耳が長い森人族(いわゆるエルフ)で深い知性を備える碧眼が印象的だった。推測はどうやら当たりのようで、
「ふむ、お前さん等が噂の人間族かね?名は何という?」
「ハジメだ。南雲ハジメ。」
「俺は北野凶夜。アンタは?」
凶夜達の言葉使いに「長老になんて態度を!」と憤りを見せるが長老が片手で制すと名乗り返してきた。
「私はアルフレリック・ハイピスト。長老の座を一つ預からせてもらっている。お前さん達の要求は聞いているがその前に一つ聞かせてもらいたい。"解放者"という言葉をどこで知った?」
「うん?オルクス大迷宮の奈落の底、解放者オスカー・オルクスの隠れ家だが」
解放者という言葉に興味を示すアルフレリックに訝しみながら返答するハジメ。
一方、アルフレリックは驚愕していた解放者という単語とその一人が"オスカー・オルクス"という名である事は長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。そして、証拠を提示出来るかと聞く。ハジメは最初、証拠をどう示すか悩んでるところにユエのアドバイスでオスカーの指輪等を出して証拠になるか聞く。アルフレリックは指輪に刻まれている紋章を見て今度こそ驚く、そして、
「なるほど…確かにオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。気になる事は他にもあるが……よかろう、フェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」
アルフレリックの言葉に猛烈に抗議の声が上がる。
「彼等は客人として扱わなければならなん。その資格を持っているのでな。これは長老の座についた者のみに伝えられる掟の一つなのだ」
「待て、なに勝手に俺達の行動を決めたんだ。俺達は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら大樹に向かわせてもらう」
「いや、お前さん。それは無理だ。」
何?あくまで邪魔をする気か、と身構えるハジメにアルフレリックの方が困惑しているように返した。
「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人達でも方角を見失う。一定周期で霧が弱まるから、大樹に行くにはその時でなければならん。次に行けるのは十日後だ。亜人族なら誰でも知ってるはずだが……」
アルフレリックは「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見た後、案内役のカムを見る。聞かされた事実にポカンとしたハジメはアルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムは--
「あっ」
今思い出したようだ。
「カム?」
いや、あの、としどろもどろに言い訳をするがハジメやユエのジト目に耐えれなかったのかシア達に何故教えてくれなかったのか!?と逆ギレし始めた。そしてハウリア族達家族の責任の擦り付けあいがギャアギャアと始まった。……流石シアの家族である。総じて残念ウサギばかりだった。
青筋を浮かべたハジメが一言、ポツリと呟く。
「……ユエ」
「ん」
最後まで責任のなすりつけあいをしながら騒ぐハウリア達にユエは静かに呟いた。
「--"嵐帝"」
--アッーーーー!!
天高く舞い上がるウサミミ達の中に気付けばキツネミミがとない事に気付く凶夜。の後ろに隠れていたスフォ。ちなみにスフォは気付いていたが言うタイミングが分からずズルズルとここまで来てしまっていたのだ。そんなスフォに軽くチャップを落とす。凶夜
「連帯責任。秘密な?」
ニヤリと悪戯が成功した時の子供みたく笑う凶夜にスフォは小さく「ごめんなさい」と謝るのだった。
死屍累々のハウリア達をハジメが起こして先を促した。
アルフレリックは溜息を吐きながらも虎の亜人ギルに合図をおくる。ギルはどこか疲れた様子で溜息を吐くと、一行を先導して濃霧の中を歩き出した。
凶夜達とアルフレリックを中心にして歩くほど一時間して突如、霧が晴れた場所に出た。そしてギルが門番に合図を送るとゴゴゴと大きな音を立てて門が僅かに開いた。
そして中に入ると、そこは巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの光が窓から溢れている。見上げれば、人が数十人歩けるだろう極太の樹の枝が絡み合い、空中回廊を形成している。
凶夜達が美しい街並みにポカンと口を開け見惚れていると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。
「フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」
アルフレリックや周りの亜人達はどこか得意げな表情をしている。凶夜達は素直に賞賛の言葉を送った。
「ああ、こんな綺麗な街見たのは初めてだ」
「ん……綺麗な」
「幻想的だなー」
亜人達は褒められたことに驚き「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向くが嬉しいのか耳や尻尾がフリフリしている。
アルフレリックに案内された会談場でアルフレリックと向かい合って話をする。内容は"解放者"の事や神代魔法の事だ。
話の途中ハウリア達のいる階下が騒がしくなった。降りてみると、大柄の熊の亜人族、虎の亜人族、狐の亜人族、翼の生やした亜人族、ドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しでハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅でカムが必死にシアとスフォを庇っている。三人とも頬が腫れており、既に殴られたようだ。降りてきた凶夜達を彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。
「アルフレリック…どういうつもりだ。何故人間を招き入れた?こいつ等兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては貴様を処分する事になるぞ」
必死に怒りを抑えているようだ。やはり亜人族にとって人間族は敵なのだろう。しかも忌み子の彼女等を匿っていたハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達も睨んでいる。
しかし、アルフレリックはどこ吹く風という風に答える。
「なに、口伝に従ったまでだ」
「口伝など眉唾物ではないか!今までただの一度も実行されていないではないか!」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老の座についてるなら掟を軽視してどうする。掟に従え」
「こんな人間族の小僧達が資格者だとでも言うのか!」
そうだ、とアルフレリックはあくまで淡々と答える。熊の亜人は信じられないとハジメ達を睨む。
「ならば、この場で試してやろう!」
いきり立った熊の亜人がハジメに突進したのを見て凶夜が前に出ようとするがハジメが手で制し、凶夜は溜息を吐きスフォ達の元に向かう。
「大丈夫か?殴られたみたいだけど」
「それより、ハジメさんが!!」
心配しに行った先でシアが叫ぶがちょうど熊の亜人の拳を受け止めている最中だった。そしてスフォ達の怪我の具合を見ながら凶夜は言う。
「俺達に殺意を持って攻撃してきたんだ。ただじゃ済まねーよ」
その言葉の通りに熊の亜人はハジメの拳で壁を突き破り、虚空へ消えていった。しばらくすると地上で悲鳴が聞こえる。そして他の亜人族に「敵でいいんだな?」と脅しを掛けている。シアとカムはその光景を見ており、凶夜に傷を見せていたスフォに笑いながら言う。
「な?言ったろ?怪我さして悪かったな。守るって言ったのに不甲斐ない、スマン」
「い、いえ」
スフォもその光景に驚きながら答える。
そして、その場はアルフレリックが執り成し、現在、当代長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族のグゼ、そして森人族のアルフレリックがハジメ達と向かい合って話をしていた。交渉はハジメに任せようと凶夜は考えており、黙って成り行きをみている。出ないとハジメの力を見せつけた意味がなくなる。そうしていると矛先がハウリア族に向かった。そしてハジメが言う。
「俺はお前達の事情なんて関係無いって言ったんだ。俺等からこいつらを奪うってことは、結局、俺の道を阻んでるのと変わらないだろうが」
ハジメは泣きながら長老衆に懇願していたシアの頭にポンと手を乗せ、凶夜は不安で青白い表情をしているスフォを安心させるため目の前でニカリと笑う。そして、ハジメが続ける
「俺達からこいつらを奪おうってんなら……覚悟決めて貰おうか」
「本気か?」
アルフレリックが誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光でハジメを射抜く。
「当然だ」
しかし揺るがないハジメ。何度か問答を繰り返して凶夜も加わる。
「案内するまで守るって約束したからなー」
「途中でいい条件がでたから鞍替えなんざ……」
「「格好悪いだろ?」」
闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ、殺し合いにおいてハジメはこれらを悪いとは思わない。凶夜も似たようなものだ。だが、だからこそ殺し合い以外で守る仁義くらい守りたい。それすらできなければ本当の外道だ。ハジメは最愛の吸血姫の前で格好付けたかった。凶夜は元々そういう奴なのである。
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