同行を許された上機嫌のシアは奇妙な笑いをあげて緩みっぱなしの頬を手を当ててクネクネ身を捩らせている。同じく同行をを許されたスフォも上機嫌で「ふふふ」っとシアとは違う上品な笑みを浮かべ凶夜の腕に引っ付いている。見かねたユエがシアにボソリと呟く。
「……キモイ」
そんな呟きをシアの優秀なウサミミはそれを捉える。
「…ちょっとキモイってなんですか、キモイって」
嬉しいんだからしょうがないじゃないてすかぁ〜っとなんか色々調子に乗っているようでハジメがメロメロになる日も遠くないそうだ。そんなシアに向かってユエとハジメがうんざりしながら呟いた。
「「…ウザウサギ」」
「んなっ!?なんですかウザウサギって!いい加減名前で呼んでくださいよぉ〜、まさかこの先も名前で呼ぶつもりがないとかじゃあないですよねっ?ねっ?」
「「……」」
「な、なんで黙るんですかぁ…」
とわーぎゃー騒いでいると頬赤てたスフォの目がキランと光る。
「凶夜さん?私も名前で呼んでもらいたいです!」
「え?」
「今まではお前とかで我慢しでしたけど旅の仲間になったんですからせっかくですから一度だけ読んでみてください。シアさんみたくウザく絡まないのでね?」
ね?ね?っと圧をかけながら凶夜に言う。腕を取られているので逃げたくても逃げられない。仕方なく呼ぶ事にするが今更なので気恥ずかしい。
「…………………スフォ」
結果物凄く小声になってしまった。その姿にスフォはキュンキュン、ハジメ、ユエがニヤニヤ、シアが「スフォだけずるい私も〜」と叫んでいるところに、霧をかき分けて数人のハウリア族が、ハジメに課された課題をクリアしたようで魔物を討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見ればその一人はカムだ。
シアとスフォは久しぶりに再開した家族に頬を綻ばせる。本格的に訓練が始まる前にしか会っていなかったのだ。たった十日間とはいえ死に物狂いの日々が途轍もなく密度の濃いものとした。体感的には何ヶ月も会ってない感じがするのだ。
シア達はカムに話しかけようとするがカムの発する雰囲気がなんだかおかしいことに気が付き言葉を呑み込んだ。
歩み寄ってきたカムは、娘達を一瞥すると笑みを浮かべただけで直ぐに視線をハジメに戻した。そして…
「ボス。お題の魔物きっちり狩ってきやしたぜ」
「ボ、ボス?と、父様なんだか口調が…というか雰囲気が…」
父親の言動に戸惑いを発するシアと唖然としてるスフォを無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物でも上位に位置する魔物の爪や牙をバラバラと取り出した。
「俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」
ハジメの課した訓練卒業の課題は上位の魔物一体を一チームで狩ってくる事だ。しかし、目の前の魔物の部位を見る限り十体分はある。ハジメの疑問に対しカム達は不敵な笑みを持って答えた。
「ええ、そうなんですがね。殺っているうちに仲間が出てきやして…生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ?みんな?」
「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」
「きっちり落とし前つけましたよ。一体たりとも逃してません」
「ウザイ奴らだったけど………いい声で鳴いたわね。ふふ」
「見せしめに晒しとけばよかったか…」
「まぁ、バラバラに刻んでやったんだそれでヨシとしとこうぜ?」
不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影は微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままハジメに戦闘報告をする。
それを呆然と見ていたシアとスフォは一言。
「「……誰?」」
別人の様になってしまった言動と雰囲気を発する家族にハッと我に帰るシアがハジメに詰め寄った。
「どういうことですか!ハジメさん!父様達になにが!?」
「お、落ち着け……どういうことも何も…訓練の賜物だ…」
「完全に別人じゃないですか!?目を逸らさないで下さい!こっち見て!」
と押し問答をしているシアとハジメを見て「いったい、どうしたんだ?」と分かっていなさそうな表情をしているカム達。更に他のハウリア族も戻ってきて、全員が……なんというか……ワイルドになっている。
シアに詰め寄られたハジメはどことなく気まずそうに視線を逸らせながらもシアの尋問を躱している。拉致があかないと思ったのかシアの矛先がカム達に向かった。
「父様!みんな!一体何があったのです!?まるで別人みたいではないですか!さっきから物騒なことばかり……正気に戻って下さい!」
「何を言ってるんだ、シア?私達は正気だ。ただこの世の真理目覚めただけさ。ボスのおかげでな」
「し、真理?なんですか、それは?」
カムはにっこり微笑むと胸を張って自信に満ちた表情で宣言した。
「この世の問題は九割は、暴力で解決できる」
「やっぱり別人ですぅ〜!優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ〜、うわぁ〜ん」
「……お父様が…」
泣きべそを掻きながら踵を返し樹海の向こうに消えて行こうとするシアと凶夜の胸でさめざめと泣くスフォ、凶夜は頭を撫でている。シアは霧に紛れる寸前小さな影とぶつかり「はうぅ」と尻餅をついた。小さな影はシアに手を差しだした。
「あ、ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ、シアの姉御。男として当然の事をしたまでさ」
「あ、姉御?」
ハウリア族の少年は戸惑っているシアを尻目にハジメに軍人ばりの報告をする。どうやら熊人族の集団が大樹ルートで待ち伏せしているらしい。そしてその対処をハウリア族に任して欲しいというものだった。
「う〜ん。カムはどうだ?こいつはこう言ってるけど?」
「お任せ頂けるのなら是非。我々の力、どこまで奴らに通じるか……試したく思います。な〜に、そうそう無様は見せやしませんよ」
族長の言葉にハウリア族全員が好戦的な笑みを浮かべる。
「出来るんだな?」
「肯定であります!」
ハジメの号令にハウリア族達が「殺せ!」と叫び最後には雄叫びをあげて樹海の中に消えて行く。
「ハジメ、やり過ぎだ。ハー○マン式でもしたのか?暴走した時は考えてるんだろうな」
スフォを撫で続けながら聞く凶夜にハジメは答える。
「まぁ、なんとかなるだろ。正直やり過ぎたとは思ってる。反省も後悔もないけど」
しばらくその場にはシアとスフォの啜り泣く声と微妙な空気が漂っていた。
そこは地獄と化していた。陣形も乱れて格好の的となっている熊の亜人達もう何が何だか分かっていない様子で叫んでいる。そしてカムが首謀者らしき熊の亜人族と話している。
「…俺はどうなってもいい。だが部下達は無理矢理連れてきたのだ、見逃して欲しい、この通りだ」
武器を手放し跪いて頭を下げる熊の亜人族。部下達はこの熊の亜人の武に対する誇り高さを知っているため、敵に頭を下げることがどれだけ覚悟のいることかいやでも分かってしまう。
頭を下げ続ける熊の亜人にカム達ハウリア族の返答は……
「だが、断る」
という言葉と投擲されたナイフだった。
咄嗟に身を捻り交わす熊の亜人。しかし、その投擲と共に間合いの外から一斉に矢や石が高速で撃ち放たれる。問答無用の攻撃に「何故だっ!?」と問う熊の亜人にカムが「敵だから殺す」とシンプルなものだった。
「ぐっ、だが!」
「それになにより…貴様らの傲慢を打ち砕き、嬲るのが楽しいのでなぁ!ハッハッハッ!」
カムの言う通りハウリア族達は楽しそうだった。その姿は力に溺れた者に典型的な狂気じみた高揚に包まれたものだった。初めての他種族に対する勝利。それも同胞たる亜人を殺した事で心のタガが外れてしまった様である。完全に暴走状態だ。
「"幻惑"」
「いい加減にしなさぁ〜い!!」
矢や石を放とうと石等をつがえたその時、熊の亜人族達が消える。そして白き人影と鉄槌が轟音とともに降ってくる。
怒り心頭!と言った感じで登場したのはもちろんシアである。後からスフォも歩いて出てくる。熊の亜人族達が姿をけしているのはスフォの"幻惑"の効果だろう。圧縮錬成の練習過程で作成された大槌をは途轍もない重量を持っているのだが、まるで重さを感じないかの様に振り回しカムに突きつける。スフォもシアの隣に並び立つ。
「もうっ!ホントにもうっですよ!父様も皆も、いい加減正気に戻って下さい!」
「そうですよ。お父様、これ以上はいけません。」
最初は驚愕していたカム達だが、我に帰りシア達を責める様な眼差しを向ける。
「シア、スフォ何のつもりか知らんが”幻惑"を解いてそこを退きなさい。奴等を殺せないだろう?」
「いいえ、退きません。これ以上はダメです」
「ダメ?シア、スフォ、まさか我等の敵に与するつもりか?返答によっては……」
「「いえ、この人達は別に死んでも構わないです」」
「「「「「いいのかよっ!?」」」」」
てっきり同族の虐殺を止めに来てくれたのかと考えていた熊の亜人達はシアとスフォの言葉にツッコミをいれる。
「当たり前です。殺意を向けてくる相手に手心を加えるなんて心構えでは、ユエさんの特訓に耐えられません。私だってもう甘い考え持っていませんよ」
「私も凶夜さんとの訓練で敵には容赦しないという考えになってますよ?」
「ふむ、では何故止めるのだ?」
カムが尋ねる。ハウリア族達も怪訝な表情だ。
「そんなの決まってます!父様達が、壊れてしまうからです!堕ちてしまうからです!」
「壊れる?堕ちる?」
訳がわからないという表情のカムにスフォが言葉を重ねる。
「ハジメさんも、凶夜さんも敵には無慈悲で、容赦なく、問答無用です。戦闘を楽しむ事はあれど、人でも魔物でも殺しを楽しんだ事はなかったはずです!訓練でも敵を殺せと言われても楽しめと言われましたか!?」
最初は淡々とでも後半になるに連れて感情が出てきたのか、叫ぶ様に訴えかけるスフォ。そんなスフォの肩を支えるシア
「い、いや、我等は楽しんでなど……」
「今、父様がどんな顔してるか分かりますか?」
「顔?いや、どんな顔を言われても」
シアの言葉に、周囲の仲間と顔を見合わせるハウリア族。シアとスフォは一呼吸置くと静かな、しかし、よく通る声ではっきりと告げた。
「「…まるで私達を襲った帝国兵みたいです」」
「ッ!?」
衝撃だった。宿った狂気が吹き飛ぶほど。冷水を浴びせられた気分だ。……実際に目の当たりにして来たからこそその醜さが分かる。家族を奪った彼等と同じ……耐え難い事実だ。
「シ、シア…ス、スフォ…わ、私は……」
「ふぅ〜少しは落ち着いたみたいですね。良かったです。最悪、全員ぶっ飛ばさなきゃいけないかもと思っていたので」
「私も家族を斬るハメにならなくて良かったです」
シアが大槌をフリフリと動かす。スフォは小刀をキラリと。シアの指摘と大槌の威容、そしてハジメの作った小刀の威力は身をもって知ってるので、動揺してるハウリアにシアとスフォは少し頬を緩める。
「まぁ、初めての対人戦ですし、今、気が付けたのならもう大丈夫ですよ。大体ハジメさんも悪いんです!戦える精神にするというのは分かりますが、あんなのやり過ぎですよ!戦士どころかバーサーカーの育成じゃないですかっ!」
今度はハジメに対してプリプリと怒り出すシアを見ながら「ふふ」と上品に笑うスフォ。
と、その時、突如として銃声が響いた。
シア達の背後で「ぐあっ」という呻き声と崩れ堕ちる音がする。すっかり存在を忘れていたとシア達が後ろを確認すると、のたうち回る熊の亜人の姿があった。
「なに、ドサクサに紛れて逃げ出そうとしてんだ?話が終わるまで正座でもしとけ」
"幻惑"を解いていなかったにもかかわらず正確に額に当てているハジメがユエと凶夜を伴って現れる。
ハジメの言葉に尚逃げる隙を探して周囲の様子を確認する熊の亜人達に"威圧"を仕掛けて黙らした。そしてシア達の方に歩みよるハジメ達。
ハジメはカム達を見ると若干気まずそうに視線を彷徨わせ、しかしすぐに観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にする。
「まぁ、なんだ。悪かったな。自分と凶夜が平気だったもんで、すっかり殺人衝動ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」
ポカンと口を開けて目を点にするシアとカム達。スフォも若干驚いている。まさか素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にもほどがあった。
故にカム達に正気を疑われていたがその反応に青筋を浮かべ口元をヒクヒクさせている。
「ハジメのミスだ、甘んじて受け入れろ」
凶夜がハジメの思っていた事を口に出す。キレるべきか日頃の行いを見直すべきか迷うハジメであるが、一旦この件は置いておいて、熊の亜人の元に歩み寄るとその額にドンナーの銃口をゴリッと押し当てて言う。
「さて、潔く死ぬのと、生き恥を晒すのとどっちがいい?」
ハジメの言葉に熊の亜人族よりハウリア族達の方が驚く。今のセリフでは、場合によっては見逃してもいいように聞こえる。敵対者に容赦の欠けらもないハジメにあるまじき提案だ。ハウリア族達は「やはり、頭を…」と悲痛な目で見ている。それに耐えきれず凶夜が「ダッハハハ」と笑い始めハジメの額に青筋が増える。
「…どういう意味だ?我等を生かして帰すというのか?」
「ああ、望むなら帰っていいぞ。但し、条件があるがな」
「条件?」
あっさり帰っていいと言われ熊の亜人達はざわめく。そして後ろでは「頭を殴ればまだ間に合うのでは……?」とシアが割りかしマジな表情で自分の大槌とハジメの頭部を交互に見て、カム達の賛同の声も聞こえる。凶夜はついに笑い過ぎて「ヒーヒー」とお腹を抱えているのをスフォに背中を撫でてもらっていた。
青筋がさらに増えるハジメ。しかし頑張ってスルーする。
「フェアベルゲンに帰ったら長老衆にこう言え」
「…伝言か?」
条件と言われて緊張していたが内容が伝言であった事に安心する熊の亜人だが次のハジメの言葉で凍りつく。
「"貸一つ"」
「……ッ!?それはっ!」
「どうする?引き受けるか?」
"貸一つ"それは、襲撃者を見逃す見返りにいつか借りを返せということだ。表情を歪める熊の亜人にさらに追い討ちをかけるハジメ。
「それと、あんたの部下の死の責任はあんた自身にあることもしっかり周知しておけ。ハウリアに惨敗した事も一緒にな」
「ぐっう!」
ハジメがこの様な条件を出して敵を見逃すのには理由がある。もちろん、慈悲などではない。フェアベルゲンと絶縁したわけだが七大迷宮の詳細が分からない以上、もしかしたら彼の国に用事が出来るかもしれない。何せ口伝で、創設者の言葉が残っているのだから、成り行きで出てきてしまったのだけれど、ちょっと失敗したかなぁと思っていた所に渡りに船であるし、万が一に備えて保険をかけておこうと思ったのだ。
「五秒で決めろ。オーバーするごとに一人ずつ殺していく」
「わ、分かった、我等は帰還を望む!」
「そうかい、じゃあさっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取り立てに行ったとき惚けでもしたら……」
ハジメ全身から、強烈な殺意が溢れ出す。物理的な圧力を伴っていそうだ。
「その時がフェアベルゲンの最期だと思え」
どこから見てもタチの悪い借金取りにしか見えなかった。その姿を見て後ろからは「よかったぁ〜いつものハジメさんですぅ」とか「ボスが正気に戻られた!」とか妙に安堵が混じった声が聞こえるが、とりあえずスルーだ。
ハウリア族に心折られ、熊の亜人族達は項垂れて帰路についた。これからはフェアベルゲンで幅を効かせることもできないだろう。霧の向こうに、熊の亜人族達は消えていった。
それを見届けたあと、ハジメがシアとカム達の方にくるりと向きユラリと顔を上げると満面の笑みだ。だが、目は笑っていない。
そして、カム達とハジメが問答をしているとシアが「今ですぅ!」と逃走を図るがハジメのゴム弾が跳弾してシアのお尻に突き刺さる。
そしてハジメがハウリア族を「一発殴らせろ!」と飛び出したと同時に凶夜がハジメの頭に結構な勢いでチョップする。何気に"気配遮断"とスフォの”幻惑"でなかなかのエグい不意打ちになり見事ハジメの頭に突き刺さる。
「天誅!!」
「っ痛!なにしやがる!」
「今回は全面的にハジメが悪い。これに怒りを覚えるなら普段の行動を見直すんだな」
ぐうの音も出ない言葉を言われ、ハウリア族達への怒りを収めるハジメ。シアを助けなかったのはハジメの被害者ではなかったからだ。だからそれはいいやと思いハウリア族達に矛先を向けた時に助けた。その事で後ろからは尊敬の眼差しで見られてるが無視する。小声で「アニキ…」とか聞こえるけど気にしない。
「……いつになったら大樹に着くの?」
すっかり蚊帳の外だったユエは呟く。
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