次からはいつも通り20時から投稿するんでよろしくでーす
ユエが、全ての隊商と冒険者達の度肝を抜いた日以降、とくに何事もなく一行は遂に【中立商業都市フューレン】に到着した。
フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち物チェックをするそうで凶夜達もその内の一つの列に並んでいた。
凶夜がスフォとハジメがユエ達とイチャついているとモットーがやってきた。何やら話があるようでハジメと凶夜が対応する。
「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」
モットーの言う周囲の目とは、毎度お馴染みの凶夜とハジメに対する嫉妬と羨望の目、そしてユエとシア、スフォに対する感嘆と嫌らしさを含んだ目だ。それに今は、シアとスフォを値踏みする視線も増えている。流石大都市の玄関口。様々な人間が集まる場所ではユエもシアもスフォも単純な好色の目だけでなく利益を絡んだ注目を受けてるようだ。
「気にならねーな、俺は。ハジメは?」
「まぁ、煩わしいけどな、仕様がないだろう、気にするだけ無駄だ」
そう言う凶夜とハジメは肩を竦める、それにモットーは苦笑いだ。さらにモットーはシアとスフォの売買交渉に出てくるがハジメにその話は終わった事だろうという無言の主張に手を上げ降参のポーズをする。そしてハジメに促され本当の要件を言う。
「売買交渉ですよ。貴方の持つアーティファクト。やはり譲ってもらえませんか?特に”宝物庫"は商人にとって喉から手が出る程手に入れたいものですからな」
”喉から手が出る程"そう言いながらもモットーの笑っていない眼を見れば"殺してでも"という表現の方がピッタリ当てはまりそうである。商人にとって常に頭の痛い懸案事項である商品の安全確実で低コストの大量輸送という問題が一気に解決するのだ。無理もないだろう。
そこまで聞いて凶夜は自分には関係ない話なのは分かっていたがモットーの笑ってない眼を見て止まっていた。
野営中にあまりにしつこい交渉をされていたハジメは軽く殺気をぶつけると商人の勘がマズイ相手と警鐘を鳴らしたのかすごすごと引き下がった。しかし諦めきれないのだろう。ドンナー&シュラーク共々、なんとか引き取ろうと、再度交渉を持ち掛けてきたようだ。
「何度言われようと、何一つ譲る気はない。諦めな」
「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を利かせられないかもしれませんぞ?そうなれば、かなり面倒なことになるでしょうなぁ……例えば彼女達の身にッ!?」
モットーが、少々、狂的な眼差しでチラリとユエ達に向けた時、ゴチッと額に冷たく固い何かが押し付けられ、首には皮一枚でピタリと止められているマチェットが光っている。ハジメからの壮絶な殺気と共に。
周囲は誰も気が付いていない。馬車の陰ということもあるし、ピンポイントで叩きつけられているからだ。凶夜が殺気を出さないのはただモットーが耐えられないだろうと思ったからだ。
「それは宣戦布告と受け取っていいのか?」
静かな声、されど氷の如き冷たい声音で硬直するモットーの眼を覗き込むハジメの隻眼はまるで深い闇のようだ。モットーは全身から冷や汗を流しながら必死に声を捻り出し、言い訳をする。
モットーの言い分はもっともな事だった。ハジメ達があまりに隠そうともしないからという事だった。
モットーの言う通り、ハジメはアーティファクトや実力をそこまで真剣に隠すつもりはなかった。ハジメはこの世界に対して"遠慮しない"と決めているのだ。敵対するものは薙ぎ倒して進む覚悟がある。
「そうか、ならそういうことにしておこうか」
そう言って、ドンナーと殺気を解くハジメとマチェットを何食わぬ顔で戻す凶夜。
「別に、お前が何しようとお前の勝手だ。あるいは誰かに言いふらして、そいつがどんな行動を取っても構わない。ただ敵意を持って俺達の前に立ちはだかったなら……生き残れると思うな?国だろうが世界だろうが関係ない。全て血の海に染めてやる」
「……はぁはぁ、なるほど。割に合わない取引でしたな…」
未だ青褪めた表情ではあるが、気丈に返すモットーは優秀な商人なのだろう。本来はここまで強硬な姿勢を取ることは無いのかもしれない。それほど、ハジメのアーティファクトが魅力的だったのだろう。
「ま、今回は俺も凶夜も見逃すさ。次がないといいな?」
「……全くですな。私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……」
"竜の尻を蹴り飛ばす"とは、この世界の諺で、竜とは竜人族のことを指す。
彼等はその全身を覆うウロコで鉄壁の防御を誇るが、目や口内を除けば唯一尻穴の付近にウロコがなく弱点となっている。防御力の高さ故に、眠りが深く、一度眠ると余程のことがない限り起きないのだが、弱点の尻を刺激されると一発で目を覚まし烈火の如く怒り狂うという。
ちなみに、竜人族は、五百年以上前に滅びたとされている。理由は定かではないが、彼等が"竜化"という固有魔法を使えたことが魔物と人の境界線を曖昧にし、差別的排除を受けたとか、半端者として神に淘汰されたとか、色々な説がある。
その後ハジメとモットーが数度会話してからモットーが前列に戻り、それについていく。
【中立商業都市フューレン】
高さ二十メートル、長さ二百キロメートルなら外壁に囲まれた大陸一の商業都市だ。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一だろう。
その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。
この都市における様々な手続き関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具などを生産している、職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区だ。
そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド--フューレン支部にあるカフェで軽食を食べながら聞く凶夜達。話しているのは"案内人"と呼ばれる職業の女性だ。
凶夜達はモットー率いる隊商と別れる証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。そして、宿を取ろうにもどんな店があるかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられた。
そして現在、案内人の女性--リシーと名乗った女性に料金を払い軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。
「そういうわけなんで、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光地に行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く人の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」
「なるほどな。なら、素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」
「お客さまのご要望次第ですわ。」
「そりゃそうか。そうだな飯が上手くて、あと風呂が有れば文句はない。あと、責任の所在が明確な場所がいいな」
「俺はハジメの意見にさんせー」
リシーはにこやかにハジメの要望を聞く。しかし、続くハジメの言葉で「ん?」と首を傾げる。
「あの〜、責任の所在ですか?」
「ああ、例えば、何らかの争いごとで、こちらが完全に被害者だった時に、宿内での損害について責任を持つとかだな」
リシーはハジメの説明にそうそう争いごとに巻き込まれないと言うが、ハジメは苦笑いしながら答える。
「連れが目立つんでな。観光区なんてハメを外す奴も多そうだし、商人根性の強い奴なんか強行手段に出ないとも限らない。まぁ、"出来れば"でいい」
ハジメの言葉にリシーは横でうまうまと食べているユエ達に目を向けて納得したように頷いた。
「それなら警備が厳重な宿でいいのでは?」
「ああ、それでもいい。ただ、欲望に目が眩んだ奴ってのは、時々とんでもないことをするからな。警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方がいい」
「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在な訳ですか」
完全にハジメの意図を理解したリシーはあくまで"出来れば"でいいと言うハジメに、やる気に満ちた表情で「お任せください」と了承する。そして、ユエ達に視線を転じ、三人にも要望がないか聞いた。
「……お風呂があればいい、但し混浴、貸切が必須」
「えっと、大きなベッドがいいです」
「私は凶夜さんと一緒ならどこへでも」
それぞれの要望を伝える三人。ユエが付け足した条件とシアの要望を組み合わせると、自然とある意図が透けてくる。
リシーも察したようで「承知しましたわ、お任せください」とすまし顔で了承するが頬が少し赤くなっている。
それから、他の区について話を聞いていると、凶夜達は不意に強い視線を感じた。特にシア、スフォ、ユエに対しては今までで一番不躾でねっとりとした粘着質視線が向けられている。視線など既に気にしない三人だったが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。
チラリと凶夜とハジメがその視線を辿ると……ブタがいた。
軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているべっとりとした金髪。身なりはいいようで、遠目でも分かる良い服を着ている。そのブタ男がユエ達三人を欲望に濁った瞳で凝視していた。
「殺すかー?」
「やめろ、馬鹿。騒ぎになるだろ」
凶夜が呟きハジメが止める。お互いにブタ男に「面倒な」と思っていると、重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら凶夜達の元へやってくる。
ブタ男は凶夜達のテーブルの傍までやって来るとニヤついた表情でユエ達を見やり、シアとスフォの首輪をみて不快そうに目を細めた。そして凶夜達にこれまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。
「お、おい、ガキ共、ひ、百万ルタずつやる。こ、この兎と狐を、わ、渡せ。それとそっちの金髪は、わ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」
つっかえ気味のキィキィ声でそう告げて、ブタ男はユエに触れようとする。その瞬間その場に凄絶な殺気が降り注いだ。周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青褪めながらハジメから距離を取ろうとしている。
直接その殺気を受けたブタ男はというと…
「ひぃ!?」と情けない声を上げて尻餅をつき、その場で股間を濡らし始めた。
「ユエ、シア、行くぞ」
「スフォもいくぞー」
席を立つ凶夜達。本当は射殺、斬殺したかったが流石に声をかけただけで殺されたとあっては凶夜達の方が加害者だ。基本的に、正当防衛という言い訳が通りそうにない限り、都市内においては半殺し程度にすると凶夜と話していたのだ。
だが、殺気を解きギルドを出ようとした直後、大男が凶夜達の進路を塞ぐように移動し仁王立ちした。
それが見えたのか再びキィキィ声でブタ男が喚いた。
「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキを殺せっ。わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ!」
「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバいですぜ。半殺し位にしときましょうや」
「いいからやれぇ!お、女は傷付けるなっ。私のだぁ!」
「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」
「い、いくらでもやるっ。さっさとやれぇ!」
どうやらレガニドと呼ばれた巨漢はブタ男の雇われ護衛のようだ。凶夜やハジメから目を逸らさずにブタ男と話し、報酬の約束をするとニンマリ笑った。
「おう、坊主共、わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや、なにころしはしねぇよ。まぁ嬢ちゃん達は…諦めてくれ」
そう言って拳を構えた。周囲がレガニドの名前を聞いてざわめく。周囲のヒソヒソ声で大体目の前の男の素性を察した凶夜とハジメ。冒険者ランクも"黒"らしく上から三番目のランクということであり、相当な実力者ということだ。
レガニドから闘気が噴き上がる。凶夜が相手したかったがブタ男がユエに手を掛けかけたのでハジメに任せる事にした。ハジメがこれなら正当防衛を理由に半殺しにしても問題ないだろうと拳を振るおうとしたところ以外なところから待ったがかかる。
「……ハジメ、待って」
「?どうした、ユエ?」
ユエがシアとスフォを引っ張って前に出るそして、訝しむハジメと凶夜、レガニドに言う。
「……私達が相手する」
「え?ユエさん私達もですか?」
「何故ですか?」
スフォの質問に答えるより先にレガニドが失笑する方が早かった。
「ガッハハ、嬢ちゃんが相手するだって?笑わせてくれるじゃねぇの。なんだ?夜の相手でも--」
「……黙れ、ゴミクズ」
下品な言葉を口にしようとしたレガニドに、辛辣な言葉と共に、神速の風刃が襲い掛かり頬を切り裂いた。
ユエは何事も無かったようにユエの意図が分かっていないシアとスフォに向けて話を続ける。
「……私達が守られるだけのお姫様じゃないって周知させる」
「なるほど、私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」
「……ん、せっかくだから、これを利用する」
「名案ですね。徹底的にやりましょうか」
そう言ってユエは、先程とは異なり厳しい目を向けているレガニドに向け指を差した。
ハジメと凶夜もユエの言葉に納得して笑いながら一歩下がる。
ユエはハジメ達が一歩下がったことを確認すると隣のシアに先に行けと目で合図する。そしてスフォはシアが相手している間にハジメに近寄ってきて要望を伝える。
「ハジメさん、オルトロス出してください。コテツだとやり過ぎてしまいますんで」
ハジメは言われた通りオルトロスを出してスフォに渡す。あくまで凶夜の装備なのでスフォにはすこし大きい。
そしてシアに既に吹き飛ばされていたレガニドに向かっていく。
半ば意地で立ち上がったレガニドにスフォの連打が突き刺さる。シアに片腕を潰されているとはいえ少女の拳なのに重すぎると感じるレガニド。それもそのはず無詠唱で支援魔法をかけて殴っているのだ。そんなスフォが弱いはずがない。ガードしきれなくなって、もう一度吹き飛ばされるレガニドに追い討ちをかけるようにユエが魔法をぶつける。
レガニドはそのままグシャッと嫌な音を立てて床に落ち、ピクリとも動かない。
その容赦の無さにギルド内が静寂に包まれる。よく見れば、ギルド職員達が争いを止めようとしたのかカフェに来る途中で硬直している。
そんな静寂の中ハジメがブタ男に近寄り、そのままブタ男の顔面を踏みつけた。
「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はない」
ブタ男はハジメの靴底に押し潰されながらも、必死に頷く。がそんな程度で許されるほどハジメは甘くない。少し足を浮かして、靴底にスパイクを錬成して勢いよくブタ男を踏みつける。ブタ男の叫び声が木霊する中、ハジメはユエ達の元に清々しい笑顔で戻る。
そして、別の場所に移動しようとした際、ギルド職員から事情聴取にご協力お願いされる。がありのままを話すハジメにギルド職員も困ったように返す。
「ギルド内で起こされた、問題は当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと…」
「あれが目を覚ますまで、ずっと待機してろって?被害者の俺達が?」
ハジメが批難がましい視線をギルド職員に向ける。ギルド職員も「そんな目で睨むなよぉ、仕事なんだから仕方ないだろうぉ」という自棄糞気味な表情になっていた。
ハジメが強引に起こそうと近寄るのを止めるギルド職員達と押し問答をしていると、突如、凛とした声がかけられた。
「何をしているのです?これはいったい、何事ですか?」
「ドット秘書長!いいところに!これはですね…」
ギルド職員達がこれ幸いとドットの元に駆け寄り事の経緯を話し始める。ハジメ達はまだ解放されないことにため息を吐いた。
そしてドットがこの場を執り成し、一応話を聞くまでフューレンに滞在するという形で落ち着いた。そしてユエやシア、スフォの身分証明書が必要と言う話になり、だが、ステータスプレートを発行されると初期状態で写し出されるため、【固有魔法】や神代魔法のことがバレるため、どうしようか悩んでいたところ、ユエがキャサリンからの手紙の事を言い出して、ハジメも思い出しドットに渡す。
「この手紙が本当なら身分証明書になりますが…この手紙が差し出し本人のものか私一人では少々判断つきかねます。支部長に確認を取るので別室でお待ち頂けますか?そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」
「それくらいなら構わないな。分かった。待たせてもらうよ」
ドットは傍の職員を呼ぶと、ハジメ達を別室に案内させる。ドットは颯爽とギルドの奥へ消えていった。
凶夜は「キャサリンってマジで何者なんだよ」と思うのだった。
読んで頂きありがとうございます
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