凶夜達が応接室に案内されてから、きっかり十分後。遂に、扉がノックされる。そこから現れるのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。
「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長のイルワ・チャングだ」
簡潔な自己紹介と共に凶夜達の名前を確認しながら握手を求める支部長イルワ。ハジメが握手を返しながら返事をする。凶夜は返事をしながら握手はするが交渉事はハジメに任せると決めているのでよろしくとしか言わない。
「ああ、名前は、手紙に?」
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので出来れば目にかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質……ね。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ?それで問題ないのか?」
「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を持って身分証明とさせてもらうよ」
どうやらキャサリンの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役に立ったようだ。随分と信用がある。ハジメの隣に座っているシアがおずおずとイルワに訪ねた。
「あの〜、キャサリンさんって何者なんですか?」
イルワが言うには、王都のギルドマスターの秘書長をしていて、その後、ギルド運営の教育係になり今、各町に派遣されている支部長の半分以上が彼女の教え子らしい。そしてマドンナ的、あるいは憧れのお姉さん的な存在で結婚してブルック支部に転勤したらしい。
想像以上のキャサリンの正体に、凶夜達がギョッとした表情になった。聞かされたキャサリンの正体にユエとシア、スフォが納得半分で感心する。凶夜とハジメは時の残酷さというものに遠い目をしていた。
身分証明も済んだ事なので帰ろうとするとイルワから「少し待ってくれるかい?」と凶夜達を留まらせた。
イルワは隣のドット促し一枚の依頼書を凶夜達の前にだした。
「実は、君たちの腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」
「断る」
イルワが依頼を提案した瞬間、ハジメが被せ気味で断りを入れ席を立とうとする。他の四人もそれに続くがイルワの次の言葉で足を止めた。
「ふむ、取り敢えず話を聞いて貰えないかな?聞いてくれるなら今回の件は不問にするのだが…」
「……」
それは言外に、「話を聞かないと面倒な手続きをするぞ?」と言っているのと同じだ。
ハジメはしばらく考え込みイルワを睨んでいたがイルワの言葉が"依頼を受ければ"ではなく"話しを聞けば"であったことから話くらいで面倒な手続き等を回避できるならいいかと思い直し、座席に座り直した。凶夜は一応メリットデメリットを考えたが同じく面倒なことを回避できるなら話しを聞こうと思い座り直す。
「聞いてくれるようだね。ありがとう」
「…流石、大都市のギルド支部長。いい性格してるよ」
「君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、行方不明者の捜索だ。【北の山脈地帯】の調査を受けた冒険者一行が予定を過ぎても帰って来なかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ。」
イルワの話しを要約すると、【北の山脈地帯】で魔物の群れを見たと言う目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。
【北の山脈地帯】は山一つ超えると未開の地域となっており、それなりに強力な魔物が出没する。なので高ランク冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の者が強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。
この飛び入りが、クデタ家の三男ウィル・クデタという人物で、クデタ伯爵は家出同然に冒険者になると飛び出した息子の動向を密かに追っていて、その追っていた人物も消息が不明となったそうだ。
「伯爵は家の力で独自に捜索隊も出しているようだけど、手数が多い方がいいとギルドにも捜索願を出した。昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練れでね。彼等に対処できない何かがあったとすれば、並の冒険者じゃ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けて貰わないといけない。そこへ君達がタイミングよく来たから、こうしてお願いしているというわけだ」
ハジメは冒険者ランクの青を言い訳に使うが、レガニドを倒した事やライセン大峡谷を探索できる者を知られており、言い訳が通じなかった。
何故、イルワが知っているのかというとキャサリンの手紙に書いており、キャサリンにはシアとユエが話の弾みで言ってしまったらしい。
「スフォはいたのか?」
「私は知りませんよ?」
「スフォもいました!」
「シアさん!」
「スフォもお仕置きけってーい」
訂正、スフォも原因の一人らしい。ハジメと凶夜のお仕置き宣言に平成を装うも冷や汗を掻いている三人。そんな様子を見ながらイルワが話しを続ける。
「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。引き受けて貰えないだろうか?」
懇願する様なイルワの態度は単にギルドが引き受けた依頼以上の感情が込められていた。
ハジメが断ろうとしたその際に凶夜が言葉を発する。このまま真正面に断っても縋ってきそうだなっと思ったからだ。
「ハジメの性格はなんとなく分かってんだろー?俺達が引き受けるメリットは?最初に言っておくが俺達は目的地に早く向かいたい。そのため金も最低限でいいし、冒険者ランクにも興味がない。まぁ、貰える物は貰うがな?それで、そちらに出せるメリットはあるのか?」
イルワが言いそうな事をなんとなく勘で予想して先手を打ち依頼を断れる方向に持っていく。ハジメもそれに気付いたのか凶夜にバトンタッチしたようだ。
「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きた時は私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな?ギルド内でも相当の影響力があると自負しているよ?君達は揉め事と仲良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「相当、そのウィル?って奴に入れ込んでいるんだなー?」
そこからイルワの独白が始まり、ウィルに調査を進めたのはイルワ自身でその依頼でウィルに冒険者の資質がないと悟って欲しかったそうだ。
チラリとここまでが凶夜の交渉テクニックでは限界とハジメに視線を送りバトンタッチする。ハジメも凶夜の聞き出した事を何食わぬ顔で頭の中で纏めてから話し始める。
「そこまでいうなら考えなくもないが…二つ条件がある」
「条件?」
「そんなに難しい事じゃない。ユエ、シア、スフォにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約する事。更に、ギルド関連に拘らず、あんたの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」
「それはあまりに…」
「出来ないなら、この話はなしだ、もう行かせてもらう」
席を立とうとするハジメ達にイルワもドットも焦りと苦悩の表情を見せる。一つ目の条件は問題ないが、二つ目に関しては実質、フューレン支部長が一人の冒険者の手足となる様なものだ。責任ある立場として簡単に許容することはできない。
「何を要求する気かな?」
「そんなに気負わないでくれ。無茶な要求はしないぞ?ただ、俺達は少々特異な存在なんでほぼ確実に教会あたりに目をつけられると思うが、その時、伝手があった方が便利だなっと思っただけだ。例えば指名手配とかされても施設利用を拒まないとか」
そのあと数回ハジメと言葉を交わしある程度条件に譲歩を取り付け交渉が成立する。少ない情報から色々考えを巡らせていたみたいでイルワの頭の回転は早い。ハジメとしてはユエ達のステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この先、町に寄るたび言い訳するのはこの上なく面倒だ。
問題は、最初にステータスプレートを製作した者に騒がれない様にするにはどうすればいいかだったのだが……それはイルワが解決した。ハジメ達の特異性はいずれバレるだろう、だが積極的に手を回されるのは好ましくない。なのでハジメは報酬は依頼達成後にもらう事にした。
「本当に君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……ハジメ君、凶夜君、ユエ君、シア君、スフォ君。宜しく頼む」
イルワは最後に真剣な眼差しでハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。キャサリンの教え子とあって人の良さが滲み出ている。
「あいよ」
「……ん」
「はいっ」
「了ー解」
「わかりました」
その後、支度金や【北の山脈地帯】の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、部屋を出て行く。
広大な平原のど真ん中に、北へ真っ直ぐに延びる街道がある。
街道と言っても、何度も踏み締められることで雑草が禿げて道となっただけのものだ。
そんな、整備されていない道を爆走する影がある。もちろん凶夜達である。魔力を阻害するものがないのでシュタイフを本来のスペックを十全に発揮している。凶夜達一行は、【北の山脈地帯】に一番近い町まで後、半日ほどのところまで来ている。席順はいつも通り。ユエ、ハジメ、シア。別のシュタイフに凶夜、スフォの順番だ。ハジメはユエとほとんど寝ているシアと会話しており凶夜もスフォと会話していた。
「ハジメさん、いつもより積極的に動いてません?気のせいですかね?」
「気のせいじゃないな。ウィルって奴の生存率は速い程上がる。生存してるウィルを連れて行けば恩を売るには十分だと考えてるんだろ」
「なるほど、そういうわけですか」
「まぁ、今後、教会やら国も相手にする可能性が高いしな。盾があるに越したことはないし、それに……」
「それに?」
「これから行く町は稲作地帯だそうだ」
「稲作ですか?」
「そう!つまり米だな。俺達の故郷の主食だ。俺もだが、ハジメも早く行って食ってみたいんじゃないか?」
「凶夜さんの故郷の味ですか。食べてみたいですね。確か町の名前は……」
だろ?と言いつつ米料理に思いを馳せる凶夜。それを微笑ましそうに見ながらこれから行く町の名前を思い出そうとするスフォに凶夜が笑いながら答える。
「湖畔の町ウルだ」
日入りの時間になりすぐに宿を取ることになり"水妖精の宿"という所に泊まることにした凶夜達一行、宿屋の主人にイルワからの紹介状を見せ、快く泊まる事を承諾してくれて、いつも通りの部屋割りで一度部屋に入ることにして、夜に合流して下の階のレストランに向かう。
「もう!何度言えば分かるんですか。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのを止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、凶夜さんもなんとか言ってくださいよ!あれ?聞いてます?ハジメさん」
「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」
「ハジメとユエのアレは諦めろー、悟れ」
「んまっ!ユエさん、スフォ聞きました?ハジメさんと凶夜さんが冷たい事言いますぅ」
「……ん。ハジメ……メッ!」
「凶夜さん?もうちょっと具体的なアドバイスとかしてもいいんですよ?」
「「へいへい」」
そうして、いつも通り騒ぎながら晩飯を食べる為に席について行く凶夜の達。三方向を壁で区切られていてカーテンで個室にも出来る奥の席はもう客がいるのか諦める。そして近くを歩いてその辺の席に座ろうとした。
と、その瞬間、奥の席のカーテンがシャァァァ!!と勢いよく開き、凶夜達の目線はそちらへ向く。
「南雲君!北野君!」
「あぁ?…………………………先生?」
「なんだー?先生じゃん」
ハジメは片目を大きく開き驚愕にあらわにする、凶夜は驚愕に唖然と固まる事しか出来なかった。
「南雲君、北野君……やっぱり南雲君と北野君なんですね?生きて……本当に生きて……」
「いえ、人違いです、では」
「へ?」
死んだと思っていた生徒と感動の再会。感動して涙腺が緩んだのか涙目になる愛子。今までどこにいたのか、いったい何があったのか、本当に無事でよかった、と言いたいことは山ほどあるのに言葉にならない。それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子に帰ってきたのは、全くの予想外の言葉だった。ハジメはスタスタと宿の出口に向かうが凶夜は諦めたかの様に椅子に深々と座ってハジメの反応に「ククク」と笑いを堪えていた。愛子はハッと正気を取り戻し、慌てて追いかけて袖口を掴んだ。
「ちょっと待って下さい!南雲君ですよね?先生のこと先生と呼びましたよね?何故人違いだなんて」
「いや、聞き間違いだ。あれは……そう方言で"チッコイ"って意味だ。うん」
「ダッハハハァ!」
「それはそれで、物凄く失礼ですよ!北野君も笑い過ぎです!ていうかそんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか?それにその格好…何があったんですか?こんなところで何をしているんですか?何故、直ぐに皆のところに戻らなかったんですか?答えなさい!先生は誤魔化されませんよ!」
愛子の怒声がレストランに響き渡る。
園部優香達(愛ちゃん親衛隊)やデビッド達(愛子の護衛)も奥から出てきた。
ハジメや凶夜の姿を見て、優香達は信じられないという表情を浮かべている。それは、生きていたこと自体が半分、外見と雰囲気の変わりようが半分といったところだろう。どうすればいいか分からないという様子で愛子とハジメを見ている。
一方で、ハジメはというと、一見すると冷静なように見えるが、内心プチパニックに襲われていた。偶然知り合ったギルド支部長の依頼で来た町で、偶然愛子やクラスメイトに再会するなど夢にも思っていなかった。
あまりに突発的な出来事だったためつい"先生"などと呟いてしまった。おそらく凶夜もそうだろう。挙句、ハジメは自分でも「ないわぁ〜」と思うような誤魔化し方をしてしまった。凶夜にも笑われる始末。
と、そこでハジメを救ったのはパートナーのユエだ。
「……離れて、ハジメが困ってる」
「な、なんですか、あなたは?今、先生は南雲君と大事な話を……」
「……なら、少しは落ち着いて」
彼女の言葉に自分が少し暴走気味だった事を自覚して頬を赤らめてハジメからそっと距離をとり、遅まきながら大人の威厳を見せようと背筋を正す愛子。
「すみません。取り乱しました。改めて南雲君とそちらにいるのは北野君ですね?」
今度は、静かな、しかし確信を持った声で、真っ直ぐに視線を合わせハジメと凶夜に問い直す愛子。
そんな愛子を見て、ハジメは、どうせ確信を得ている以上誤魔化しても追いかけて来るだろうと確信し、頭をガリガリと掻いて答える。凶夜は"先生"と呟いた時点で詰んでいる。と思っていたのですぐに諦めていたのだ。そして先生の問いに答える。
「ああ。久しぶりだな。先生」
「久しぶりー、愛ちゃん先生」
「やっぱり、南雲君と北野君なんですね……。生きてたんですね…」
「まぁ、凶夜共々、色々あったが生き残ってるよ」
「よかった、本当によかったです」
それ以上言葉の出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは凶夜の座っているテーブルに移動して座り直し、それを見たユエやシア、スフォも席に着く。
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