モチベが湧いたら書くかも?
滝と滝壺の水がユエの魔法により真っ二つに割れ始め、更に飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われる。
凶夜の達は驚愕にポカンと口を開けている愛子達を促し、滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所に踏み込んだ。
洞窟を抜けるとそれなりの広さのある空洞が出来ていた。
その空間の一番奥に横たわっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年だと分かった。端正で育ちの良さそうな顔立ちだが、今は青褪めて死人のような顔色をしている。たが、大きな怪我は見当たらないし、鞄の中にはまだ少量の食料が残っているので、単純に眠っているだけの様だ。
スフォが軽く回復系魔法をかけ、ハジメが手っ取り早く青年の正体を確認したいので、ギリギリと力を溜め込んだ義手のデコピンをバチコン!っとぶち当てた。
「ぐわっ!」
悲鳴を上げ目を覚まし、額を両手で押さえながらのたうつ青年。ハジメは涙目になっている生年に近付くと端的に名前を聞く。
「お前が、ウィル・クデタか?クデタ伯爵家三男の」
「いっっ、えっ、君達はいったい、どうしてここに」
状況を把握を出来ていない様で目を白黒させる青年に、ハジメは再びデコピンの形を作って額に照準を定めていく。
質問に端的に答えろとデコピンで脅しながらハジメが問いかけ、青年がウィル・クデタだと言うことを聞いた。そして、自分達がイルワの依頼で捜索に来たと伝えていく。
ハジメは凶夜達にも自己紹介を促し、その後何があったのかをウィルに聞いた。
要するとこうだ。
ウィル達は五日前、凶夜達と同じ山道に入り魔物に追われて気がつけば六合目の例の川まで追い立てられた。そこで魔物に囲まれて脱出するため盾役と軽戦士が犠牲になったという。それから更に追い立てられて森を抜け、更に大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。
漆黒の竜だったらしい。
その黒竜は、ウィル達が川沿いに出るや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ、一名は跡形もなく消され、残り二人も前門に滝、後門にに魔物と挟撃されていたという。
ウィルは流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み身を隠していたらしい。
ウィルは話している内に感情が高ぶった様ですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに冒険者のノウハウを嫌な顔せず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達。
そんな彼等の安否を確認する事もせず、恐怖に震えてただ助けを待つ事しか出来なかった情けない自分。
救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している自分。
「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでじまったのに、なんのやぐにもだだない、ひっく、わだしだけ生き残っで……それを、ぐす…よろごんでいる…わだじはっ!」
洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。優花達はウィルの気持ちが分かるが故に。愛子は悲痛そうな表情でウィルの背中を優しくさする。ユエ、凶夜は無表情。シアとスフォは困った表情だ。
が、ウィルが言葉に詰まった瞬間意外な人物が動いた。ハジメだ。
ハジメがツカツカとウィルに歩み寄るとその胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。そして意外なほど透き通った声で語りかけた。
「生きたいと願うことの何が悪い?生き残った事を喜んで何が悪い?その願いも感情も、当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」
「だ、たが…私は……」
「死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」
「……生き、続ける」
涙を流しながらハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。
ハジメは、ウィルを乱暴に放り出し自分に向けて「何やってんだ」とツッコミを入れる。先程の言葉は半分はウィルに半分は自分に向けての言葉だった。少し似た境遇に置かれたウィルが自らの生を卑下したことが、まるで「お前が生き残ったのは間違いだ」と言われている様な気がして、つい熱くなってしまったのだ。
もちろん、完全な被害妄想だ。半分以上八つ当たり、色々達観したように見えてハジメも十七歳の少年。まだまだ学ぶことは多い。
その自覚があるハジメは自己嫌悪に陥る。そんなハジメに凶夜とユエが近き、ユエはハジメの手を取る。
「お前が言った事もここにいる事も何も間違いじゃねーよ。相棒が保証してやんよ」
「…凶夜」
そのあとユエからも励ましの言葉を貰い、その後二人だけの桃色空間を作っている。凶夜は既にいないものの様だ。遠い目をしてスフォの隣に行く。シアもジト目となりウサミミがみょんみょんしている。
「俺も良いこと言ったぞ?」
「ちゃんとハジメさんに届いてますよ、きっと。ちょっとユエさんの方が後出しでズルい感じなだけで」
「いや、まぁ、特別に自分の事を肯定してもらえたんだ、この上なく嬉しい事だろー」
スフォと凶夜はハジメ達を微笑ましく眺めていた。
その後、放置されていたウィルの必死のアピールで、どうにか現実に帰還すると一行は早速下山することにした。日入りまで、まだ一時間以上は残っているので、急げば、日が暮れるまでに麓まで着けるだろう。
魔物の群れや漆黒の竜の存在は気になるが、凶夜達の任務外だ。
だが、事はそう簡単に進まないらしい。再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎する存在がいたからだ。
「グゥルルルル」
低い唸り声を上げ、漆黒の鱗を全身に覆い、翼をはばたかせながら空中のより金の眼で睥睨する。……それはまさしく"竜"だった。
その竜の体調は七メートル程。長い前足には五本の鋭い爪がある。背中から生えている大きな翼はうっすらと輝いており、魔力を纏っているようだ。
蛇に睨まれた蛙の如く、愛子達は硬直してしまっている。特にウィルは真っ青な顔でガタガタと震えており今にも崩れ落ちそうだ。脳裏に、襲われた事がフラッシュバックしているのだろう。
その黒竜は、ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前におもむろに、頭部を持ち上げ仰反ると、鋭い牙の並ぶ顎門を開けてそこに魔力を収束し出した。
キュゥワァアアア!!
不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。凶夜とハジメの脳裏に、川の一部と冒険者を消し飛ばしたというブレスが過ぎった。
「ッ!退避しろ!」
ハジメは警告を発し、自らもその場から一足飛びで退避した。凶夜、ユエ、シア、スフォも付いて来ている。だが、そんなハジメの警告に反応できていない者が多数。
愛子や優花達、そしてウィルもそのまま硬直したまま動けていない。愛子達はあまりにも突然の事態に体がついて来ず、ウィルは恐怖に縛られて視線すら逸らせていなかった。
「チッィ!!」
ハジメはユエ達に"念話"で指示しつつ、"縮地"で一気に元いた場所まで戻り、愛子達と黒竜の間に割り込んだ。
ハジメは"宝物庫"から二メートル程よ柩型の大盾を虚空に取り出し、左腕を突き出して接続、魔力を流して大盾の下部から杭を出現させる。そして、それを勢いよく地面に突き刺した。
直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。音を置き去りにして一瞬でハジメの大盾に到着したブレスは轟音と共に衝撃と熱波を撒き散らし大盾の周囲の地面を融解させていく。
「ぐぅ!おぉおおおお!!」
ハジメは気迫を込めた雄叫びを上げてブレスの圧力に抗う。ハジメの体と一緒に大盾はいつの間にか紅く光り輝いていた。ハジメの"金剛"である。だが、ブレスは余程の威力を持っているらしく、暫く拮抗した後、その守りを突破して大盾に直撃した。
ハジメが耐えている間に凶夜がシアの元へ走る。
「シア!ドリュッケンで黒竜の顔目掛けて飛ばせ!」
「えぇ!?何する気ですか!?」
「あぁ?アイツのムカつく首を切り落とす!」
凶夜の作戦とも言えない特攻に「えぇい!どうなっても知りませんよ!」と言いつつドリュッケンを構え、その上に凶夜を乗せて黒竜目掛けて全力で振るう、ショットシェルの激発のおまけ付きだ。
とてつもない勢いで黒竜に迫り、"空力"で更に加速&軌道修正しつつ黒竜の首目掛けてマチェットを振るう。
「死ねや!」
勢いよく振り下ろされるマチェットに黒竜はブレスをやめ、回避行動をとり、寸前で凶夜の斬撃を避ける。そしてくるりとその場で回転し、尻尾を凶夜に叩きつけようと振るうが、"空力“を使いその場を直ぐに離脱する。と次の瞬間、ハジメから指示を受けていたユエの魔法のトリガーが引かれる。
「--"禍天"」
その魔法名が宣言された瞬間、黒竜の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れる。見ているだけで吸い込まれそうな深い闇色のそれは、直後、落下すると押し潰す様に黒竜を地面に叩きつけた。
「グゥルァアアア!?」
轟音と共に地面に這い蹲らされた黒竜は衝撃に悲鳴をあげる。しかし、渦巻く球体は、それだけでは足りないとでも言う様に、なおも消えることなく、黒竜に凄絶な圧力をかけて地面を陥没させていく。
地面に磔にされた空の王者は、苦しげに四肢を踏ん張りながらなんとか襲い掛かる圧力から逃れようとしている。が、天からウサミミをパタパタとなびかせて「止めですぅ〜!」と雄叫びを上げるシアがドリュッケンと共に降ってきた。激発を利用し更に加速し戦鎚を振りかぶり、そこに、スフォの支援魔法も加わり、威力を増した戦鎚を黒竜の頭部を狙って振り下ろす。
凄まじい轟音と衝撃波。
インパクトの瞬間、轟音と共に地面が放射状に弾け飛び、爆撃でも受けた様にクレーターが出来上がる。【ライセン大迷宮】で、ミレディ・ゴーレムに止めを刺した時の比ではない破壊力だ。
原因はハジメの施した改良である。ドリュッケンの主材であるアザンチウムに注いだ魔力に比例して"加重"が加わる様に付与したのだ。ちなみに凶夜やスフォの武器にも施されている。
故に、その超重量の一撃をまともに受けた者は深刻なダメージを免れないはずだ。そう、まともに受けていれば…
「グルァアア!!」
黒竜の咆哮と共にドリュッケンにより舞い上がった粉塵の中から火炎弾が豪速でユエに迫った。ユエは咄嗟に右に“落ちる"事で緊急回避する。だが代わりに重力球の魔法が解けてしまった。
火炎弾の余波で晴れた粉塵の先には、地面にめり込むドリュッケンを紙一重でかわしている黒竜の姿があった。直撃の瞬間、竜特有の膂力でどうにか回避したらしい。
黒竜は、拘束のなくなった体を、一回転させ、ドリュッケンを引き抜いたばかりのシアに大質量の尾を叩きつけた。
「わわっ!」
間一髪、シアはドリュッケンを盾にしつつ自らも跳ぶ事で衝撃を殺すことに成功するが、同時に大きく吹き飛ばされてしまい、木々の向こうへ消えていってしまった。
黒竜は体勢を立て直すと、黄金の瞳でギラリと自分を攻撃した凶夜でもブレスを受け止めたハジメでもなく、ウィルを睨みつけた。
ハジメは直ぐに大盾を"宝物庫"に戻すと、ドンナー&シュラークを抜きざまに発砲する。
轟音と幾条もの紅き閃光が空を切り裂いて黒竜を襲った。回避など出来ようはずもない破壊の嵐に直撃を受けた黒竜は吹き飛ばされ、後方の川に叩きつけられる。
ハジメは射線上にウィルがいるのはまずいと考え、自ら突貫した。
しかし、黒竜は川の水を撒き散らしながら咆哮と共に起き上がると、なんと、ハジメを無視してウィルに向けて火炎弾を撃ち放った。
「ユエ!」
「スフォ!ユエのカバー!」
「んっ--"波城"」
「はい!--"魔壌"」
「ひっ!」と情けない悲鳴を上げながら身を竦めるウィルの前に、支援魔法で強化された、高密度の水の壁が出来上がる。飛来した火炎弾は城壁の如き水の壁に阻まれて霧散した。
優花達もアーティファクトに手をかけ、各々攻撃するが黒竜の咆哮の前に歯が立たず、しかも、黄金の瞳に睨まれ、ウィル同様に身を竦ませている。ハジメは愛子に生徒達をさがらせる様に指示している間にもレールガンを連射しているが黒竜は周囲の水を吹き飛ばしながら翼をはためかせている。
「ユエ!ウィルの守りに専念しろ!スフォはユエのカバーを頼む!こいつは俺と凶夜でやる!」
「んっ、任せて!」
「わかりました!」
ユエとスフォはハジメの指示を聞くとウィルの方向へ各々移動し、その前に立ちはだかった。チラリとこの状況で碌に動けていない事に、僅かに苛立ちを感じつつ、彼等程度なら仕方ないと肩を竦めた。
「……死にたくないなら、私達の後ろに」
一応、死なせない様に声をかけ、ついでに邪魔になるから大人しくしているように釘を刺すのも忘れない。
黒竜が完璧に制空権を握らない様に黒竜の周りを"空力"で跳び回りながら少しずつ斬り傷を入れていく凶夜。だが、そんな凶夜を無視し続けウィルに向かって火炎弾を放ち続けている黒竜。そして火炎弾では水の防御を突破出来ないと悟ったのか再び仰反り、口元に魔力を収束し始めた。
「ここまで無視されたのは初めてだわ。ハジメ!ブレスだ!」
「分かってる!無視されるのなら……どうあっても無視出来ないようにしてやるよ!」
ハジメはドンナーをホルスターにしまうと"宝物庫"から"シュラーゲン"を虚空に取り出す。そして、即座に"纏雷"を発動。二メートル半はある凶赤なフォルムの兵器が紅いスパークを迸らせる。
黒竜は、流石に、ハジメの次手が危険な物だと悟ったのか、その顎門の矛先をハジメに向けた。ハジメの思惑通り無視出来なかった様だ。
死を撒き散らす黒竜のブレスが放たれたのと、ハジメのシュラーゲンが充填を終え撃ち放たれたのは同時だった。
共に極大な閃光。必滅の嵐。黒と赤の極光が両者の中間地点で激突する。
読んで頂きありがとうございます!
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