黒竜のブレスとハジメのシュラーゲンの閃光が衝突した瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、周囲の木々を根本から薙ぎ倒した。威力だけなら--互角。
しかし、二つの極光は、その性質故に拮抗することなく勝敗を明確に分けた。ブレスは継続性に優れた極光ではあるが、シュラーゲンのそれは一点突破の貫通特化仕様だ。従って、必然的にブレスの閃光を突破してその力を黒竜に届かせた。ブレスを突き破った弾丸が黒竜の顎門を襲ったのだ。
しかし、致命傷には程遠かったようだ。ブレスの威力に軌道が捻じ曲げられた様で、鋭い牙を数本蒸発させながらも、頭部の側面ギリギリを通過し、背後で羽ばたく片翼を吹き飛ばすに止まった。
「グルァアアア!!!」
痛みを感じているのか悲鳴を上げながら錐揉みして地に落ちていく黒竜に黒竜の近くで跳んでいた凶夜の追撃が入る。
「さっさと堕ちろ!」
空中で"空力"と"縮地"発動。超速を以って急降下し、仰向けになっている黒竜の腹に"豪脚"叩き込む。
スドンッ!と腹の底に響く衝撃音が轟き、黒竜の体がくの字に折れる。地面は、衝撃により放射状にひび割れた。
黒竜が悲鳴じみた咆哮を上げるがダメージは大きいとは言えないだろう。レールガンにすら耐える装甲なのだ。
もっともそんな事は想定済みの凶夜とハジメ。凶夜が叩きつけた黒竜の腹の上にハジメが乗り更に追撃をかけるため大きく左の義手を振りかぶった。義手からはキィイイイイ!!!という甲高い機械音か響いている。凶夜が落下させる前から発動しておいた義手のギミック"振動粉砕"だ。
「腹パン、喰らったことあるか?」
瞳をぎらつかせ、凶悪な笑みを見せたハジメは、大質量・高速で突っ込んできた岩石も一撃で粉砕した破壊の拳を、容赦なく黒竜の腹にぶち込んだ。
ドォグゥウウ!!っとくぐもった音が響き、腹の鱗に亀裂が入る。衝撃を伝える事を目的とした攻撃なので内臓にも相当ダメージが入った様だ。
「グゥルァア!?」
黒竜は未だかつて受けたことのない衝撃に苦悶の声を上げると口から盛大に吐血した。困惑すらチラつく黄金の瞳を見開きながら、このままだと危険だと思ったのか、片翼に爆発的な魔力を込めて暴風を巻き起こし、その場で仰向け状態から強引に元の体勢に戻った。
ハジメは"空力"を使ってその場を退避する。置き土産を残して。
黒竜が空中に逃れたハジメに警戒を乗せた視線を向けた瞬間、その腹の下で大爆発が発生する。黒竜の体がその衝撃で二メートル浮き上がった程だ。黒竜が反転すると同時に、その腹の下へと投げ入れた置き土産--"炸裂手榴弾"である。
「クゥワァアア!!」
同じ場所への更なる衝撃に、黒竜は、今度は悲鳴も上げられずくぐもった唸り声を上げることしか出来ない。耐える様に頭を垂れて蹲る黒竜の口元からはダラダラと血が流れ出している。心なしか、唸り声も弱ってきている様だ。
黒竜はハジメを脅威と認識した様で、ウィルから目を離しハジメに向けて顎門を開いて火炎弾を放とうとしているところにまたもや"空力"と"縮地"で接近して"豪脚"で開いた顎門を無理矢理閉じさせる。
「俺を忘れてんじゃねーよ!」
口から火炎弾を放とうとした故に口の中で爆発が起きる。火炎弾がハジメに当たるとも思っていなかったが、念のために反撃を封じるために攻撃していく。ハジメも"空力"と"縮地"を併用し、縦横無尽に空を駆けるハジメはいつしか残像すら背後に引き連れてながらヒット&アウェイの要領で黒竜をフルボッコにしていく。凶夜はマチェットをしまいほとんど蹴りで黒竜の反撃を潰していく。
ドンナー&シュラークで爪、歯茎、眼、尻尾の付け根、尻という嫌らしい場所を中距離から銃撃したかと思えば、次の瞬間には接近して"振動粉砕"またはショットシェルの激発と"豪腕"のコンボで頭部や脇腹を滅多打ちした。
「クルゥゥ!グワッン!」
若干、否、確実に黒竜の声に泣きが入り始めている。鱗のあちこちがひび割れ、口元からは大量の血が滴り落ちている。
「すげぇ……」
ハジメと凶夜の戦闘を安全圏から眺めていた淳史が、思わずといった様子で呟いた。言葉はなくても、優花や愛子も同意見のようで無言でコクコクと頷き、その圧倒的な戦闘から目を逸らせずにいた。
ちなみにシアも戻って来て参戦しようとしていたが、ハジメと凶夜の意図を察したユエとスフォが止めたためユエ達の傍で観戦している。
ハジメや凶夜がシュラーゲンやオルカン等高威力で"狂界突破"や"狂界覇壊"等やマチェットで一気にカタをつけないのは、愛子達に自分達の戦闘力を見せつける良い機会だと思ったからだ。
黒竜は確かに頑丈さや一撃の威力は恐るべきものがあるのだが、冷静に戦えば図体が大きいため攻撃が当てやすい上、攻撃は単調でそれを凶夜が事前に潰してくれるので、ハジメ達にとって余裕のある相手だった。
なので愛子達と別れた後、教会や国、勇者達に愛子からの情報がいった場合でも安易に強硬手段に出ることが無いように、実力を示しておこうと思ったのだ。
そんなわけで、純然たるハジメの都合でフルボッコにされている哀れな黒竜だったが、実のところはハジメも凶夜も内心で感心していた。あちこちに亀裂は入っているとはいえ、一応、未だに完全に砕けた鱗はないのである。実に大した耐久力だ。
そろそろ自分達の十分に把握してくれただろうと考え、ハジメは止めを刺すべく、一瞬で黒竜の懐に潜り込むと"豪脚"を以ってその巨体を蹴り上げ、再び仰向けに転がした。そして、動きが緩慢な黒竜の腹の上で"宝物庫"からパイルバンカーを取り出す。
アンカーを射出してアームで黒竜を固定する。そして"纏雷"を発動した。内臓された杭が激しく回転を始め、パイルバンカーが紅いスパークを放つ。このままいけば、重さ四トンの杭が容赦なく黒竜に突き刺さるだろう。
だが、"窮鼠猫を噛む"という諺があるように、獣は手負いのときこそご一番注意しなければならない。それは黒竜も同じだった。
「グゥガァアアア!!!」
黒竜の咆哮と共に、全方位に向けて凄絶な爆風が発生した。純粋な魔力のみの爆発だ。さらに、一瞬にして最大級の身体強化を行なったようで、ただでさえ強靭な筋肉が爆発的な力を生み、パイルバンカーを固定するアンカーを地面ごと引き抜き、盛り上がった筋肉がアームをこじ開けた。そして、ハジメを振り落とす様に一瞬で反転する。
「うおっ!?」
思わずたたらを踏むハジメ。発射寸前だったパイルバンカーは、その矛先を天に向けて起動し、十全に加速させた杭は上空へと発射した。天へと昇る一条の光を尻目に、パイルバンカーを"宝物庫"へしまったハジメは、黒竜が最後の足掻きとウィルに爆進するのを確認した。
「チッ、凶夜!」
「分かってラァ!」
己の失態に舌打ちをして凶夜に呼びかけるハジメ。
上から様子を伺っていた凶夜が一秒の"狂界覇壊"で身体を限界以上に強化して隕石の如く黒竜へと落下した。
本来の黒竜なら、あるいは避けれたかもしれないが文字通り最後の足掻きてあり余裕のなかった黒竜に、凶夜という流星をかわすことは出来なかった。
凶夜の"狂界覇壊"と"空力"&"縮地"の神速にも迫る勢いの"豪脚"。それは寸分違わず黒竜の黒竜の脳天に直撃した。
黒竜は、頭部を地面にめり込ませ、突進の勢いそのままに半ば倒立でもするかの様に下半身を浮き上がらせ逆さまになると、一瞬の停滞のあと、ゆっくりと地響きを立てながら倒れ込んだ。
「クッソ!頑丈だな!こっちの脚がイカれたわ!」
地面にめり込んだ黒竜を見ながら"不滅"で回復する凶夜は悪態を吐く。それもそのはず、凶夜は殺す気で蹴ったにも関わらず、頭部は表面が砕け散り、大きく亀裂が入っているものの、完全には砕けてなかった。本当に恐るべき防御力である。
「ふん?確かに、しぶとさは奈落の魔物にひけをとらないな。いったい、いくつの山脈を超えてやってきたんだか」
呆れ半分、感心半分の表情でハジメは黒竜の背後から近寄って行く。横たわる黒竜から気配を感知でき、未だ死んでいないと察してトドメを刺すつもりなのだ。
と、そのとき、上空に飛ばされていたパイルバンカーよ巨杭がハジメと黒竜の間に突き立った。絶妙なタイミングで降ってきたそれを見て、ハジメは、ふと商人モットーの話していた竜人族を元にした諺を思い出した。"竜の尻を蹴り飛ばす"というあれである。
ハジメは、地面に深々と突き刺ささる巨杭を"豪腕"を発動させながら引き抜くと、肩に担いで黒竜の尻尾の付け根に陣取った。そしてまるで槍投げの選手の様な構えを取る。手には当然、パイルバンカーの巨大で黒く、な何よりも硬い杭がある。
全員、ハジメのしようとしていることを察し、頬を引き攣らせる。鱗を割るのが面倒だからといってそこに突き刺すのはダメだろう、と。ハジメの容赦のなさに凶夜とユエ、シア、スフォ以外の全員が戦慄の表情を浮かべているが、ハジメはどこ吹く風だ。
「ケツから死ね、駄竜が」
そんな酷い言葉が放たれた直後、ついに、ハジメのパイルバンカーが黒竜の"ピッー"にズブリッと音を立てて勢いよく突き刺さった。
その瞬間、
『アッーーーーーー!?なのじゃあああーーーーーーー!!!』
くわっと目を見開いた黒竜が悲痛な絶叫を上げて目を覚ました。
本当なら半分ぬっぽり巨杭に、更に鉄拳をかましてぶち抜いてやろうと考えていたハジメだったが、想定外にも黒竜が発したと思われる悲鳴に、流石に驚愕して思わず握った拳を解いてしまった。
『お尻がぁ〜、妾のお尻がぁ〜』
黒竜の悲しげで、切なげで、それでいてどこか興奮した様な声音に全員が「いったい、何事!?」と度肝を抜かれ、黒竜を凝視したまま硬直する。
どうやら、ただの魔物……というわけではないようだ。
『抜いてたもぉ〜、お尻のそれ抜いてたもぉ〜』
戦場跡地の様な川原になんとも、情け無い声が響き渡る。声質は女だ。直接声を出しているわけではなく広域版の念話のように響いている。
そもそも、人の言葉を話せる魔物自体があり得ないのだ。
一般的な常識でも、人の言語を解する魔物など唯一の例外を除いて存在しないはずである。
更に言えば、眼前の黒竜の存在自体がおかしい。いくらなんでも大迷宮以外でハジメや凶夜の攻撃に耐えたり、逆に同等クラスのブレスを吐けたりする強力な魔物がこんな場所にいるはずないのである。もし、生息していたなら、その危険性故に広く周知されている筈だ。
故に、ここで推測できる可能性となれば二つだろう。この黒竜が、未踏区域である五つの目の山脈地帯よりも向こう側の、完全に未知の魔物である可能性。
もう一つは……
「お前……まさか、竜人族なのか?」