ありふれない狂戦士で世界最凶   作:黒い兎♪

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ほぼ原作(小説版)と変わりません。ベヒモス戦とガハルトとの戦いは全カットしました。期待してた人はごめんなさい。
少し短いですがどうぞ。


一方その頃

時は遡る。

 

ハイリヒ王国王宮内の一室で八重樫雫は暗く沈んだ表情で未だ眠る親友を見つめていた。

あの日、迷宮で死闘と喪失を味わってから五日が過ぎている。あの後宿場街ホルアドで一泊し、早朝から出発し、王国へと一行は戻った。無能扱いと"狂化"という爆弾を持ってる狂戦士といえど勇者の同胞が死んだ以上、教会にも王国にも報告が必要だった。

雫は王国へ帰ってきた後の事を思い出し、香織に早く目覚めて欲しいとも、眠ったままで良かったとも思っていた。

帰還を果たし生徒の死亡を伝えられた時、王国側の人間は誰もが愕然としたものの、死んだのが無能と狂戦士で良かったと安堵の息を漏らした。無能はともかく狂戦士の方は困るのではないのか。と言う声も出たがいつ味方をも巻き添えにするか分からないし、その巻き添えが勇者になるかもしれないぞ、だから死んでくれて良かったと言う声も出る。

国王やイシュタルですら同じ反応をした。

公の場では言わないが陰でコソコソと言われていた時は雫は怒りで何度も手が出そうになる程だった。

実際、正義感の強い光輝が真っ先に怒らなければ飛びかかっていてもおかしくはなかった。この事で、光輝は無能や狂戦士にも心砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局光輝の株が上がっただけだった。

クラスメイトは図ったかのようにあの時の誤爆の話はしない。もし、誤爆したのが自分の魔法だったらと思うとどうしても話題に出さないのだ。

ハジメの自業自得にしておけば誰も悩まなくて済むそれがクラスメイトの意志だった。

 

「あなたが知ったら怒るのでしょうね」

 

あの日から一度も目を覚さない香織の手を取り呟く。医師の診断では体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るための防衛処置として深い眠りについているだけだろうとのことだった。

雫は「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷付けないで下さい」と祈った。その時、握りしめていた香織の手がピクッと動いた。

 

「!?香織!聞こえる!?香織!」

 

雫が必死で呼びかけるとその声に反応してか香織の手がギュッと握り返す。そして香織はゆっくりと目を覚ました。

身を乗り出す雫。香織は、しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたが、やがて頭が活動し始めたのか見下ろす形になっている雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

 

「雫ちゃん?」

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体の調子はどう?違和感はない?」

 

「う、うん。平気だよ。体がちょっと怠いくらい……」

 

「そうね。五日も寝ていたんだもの……怠くもなるわ」

 

体を起こそうとする香織を補助しつつ、苦笑しながらどれくらい寝てたか答える雫。それに反応する香織。

 

「五日?そんなに……どうして……私、迷宮に行って……それで」

 

マズイと感じた雫は話題を逸らそうとするが、香織が記憶を取り戻す方が早かった。

 

「それで……あ……………南雲くんは?」

 

「…それはっ」

 

雫は、苦しげな表情でどう伝えるか悩む。そんな雫の様子で香織は自分の記憶にある悲劇が現実であることを悟る。だがそれを受け入れ出来るほど香織は出来ていない。

現実逃避をし、矢継ぎ早に言葉を紡ぎハジメを探しに行こうとする。そんな香織の腕を掴んで離さない。

 

「…香織、わかってるでしょう?……彼らはここにはいないわ」

 

「やめて…」

 

現実を突きつける雫にイヤイヤと首を振りながら雫の拘束を振り解こうとする香織。雫は絶対放してなるものかとギュッと抱きしめる、凍える香織の心を温めようと。

いつしか、香織は「放してっ」と言いながら雫の胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた。

縋り付くようにしがみつき、大声で泣く。雫は唯々ひたすらに親友を抱きしめていた。そうする事で、少しでも傷付いた心の痛みが和らぐようにと願って。

どれくらい経ったのか、香織はスンスンと鼻を鳴らし雫の腕の中で身じろぎした。

 

「香織…」

 

「…雫ちゃん……南雲くんは……落ちたんだね……ここにいないんだね……」

 

「そうよ」

 

香織はハジメに当てた魔法が誰のモノか聞いたが雫は分かっていない事を伝える。

 

「わからないなら……その方がいいと思う。きっと私、我慢できないと思うから…」

 

香織はポツリポツリと会話をする。そうして涙を拭いながら雫を見つめて決然と宣言した。

 

「私、信じないよ。南雲くんは生きてる。死んだなんて信じない。」 

 

香織の言葉に雫は再び悲痛な顔をするが、香織は両手で雫の頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「わかってる。あそこに落ちて生きてるって思う方がおかしいって……でもね、確認したわけじゃない。可能性は低いけど、確認してないならゼロじゃない。…私、信じたいの」

 

「香織…」

 

「私、もっと強くなるよ。それで、今度はあんな状態でも守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。………雫ちゃん」

 

「なに?」

 

「力を貸してください」

 

雫は香織の目を見て、ただ純粋に己が納得するまで諦めないという意志が見える。こうなったら香織はテコでも動かない。

普通なら香織の考えを正そうとするだろう。……だからこそ

 

「もちろんいいわよ。納得するまでとことん付き合うわ」

 

「雫ちゃん!」

 

香織は雫に抱きつき何度も「ありがとう」と礼を言う。「礼なんて不要よ、親友でしょ?」どこまでも男前な雫。香織が落ち着いた頃に至って真剣に雫に問う。

 

「雫ちゃんは北野くんの事諦めたの?」

 

「…へぇ!?何でここで北野くんの名前が出るのよ!」

 

「オルクス迷宮訓練の前の日凄く乙女な顔してたよ?雫ちゃん」

 

「乙女な顔ってどんな顔よ!」

 

雫が香織の親友であると同時に香織もまた雫の親友だ。だからこそ分かることがある。

 

「オルクス迷宮の前の日、何かあったでしょ?」

 

香織が逃がさないとばかりに抱きつく「うっ」っと言葉に詰まらせる雫は諦めてホルアドでの事を語った。

 

「へぇ〜。そんな事言われたんだ〜。乙女な雫ちゃんなら落ちちゃうのも当然かな?かな?」

 

揶揄うようにいう香織にホルアドの夜の時のように顔が真っ赤になる雫。

「そんな事言う口はこうだ!」と香織の頬を引っ張る。「いたいいたい〜」と戯れあう二人。そこへ

 

「雫!香織はめざ……め」

 

「おう!香織はどう……だ」

 

光輝と龍太郎だ。二人は何故か部屋の入り口で硬直していた。訝しんで雫が尋ねる。

 

「あんた達、どうし……」

 

「す、すまん!」

 

「じゃ、邪魔したな!」

 

雫の言葉に被せる様に、見てはいけない物を見てしまったという感じで慌てて部屋を出て行く。そんな二人を見て香織はキョトンとしている。しかし、聡い雫は原因に気付く。現在、香織は雫の膝の上に乗り、雫が頬に手を両手を当てている?香織はそんな雫を抱き締めている。

つまり、激しく百合百合しい光景が出来上がっていたのだ。

 

「さっさと戻って来なさい!この大馬鹿ども!!」

 

 

 

 

時は進み、凶夜、ハジメ、ユエがサソリモドキを倒して生き抜いた日。

 

光輝達勇者一行は再び【オルクス迷宮】に来ていた。但し、訪れているのは勇者パーティー、檜山小悪党組、永山重吾という大柄な柔道部男子率いる男女五人パーティーだけだった。

理由は簡単だ。凶夜とハジメの死が多くの生徒のトラウマになってしまったのだ。聖教教会はいい顔をしなかった、時が経てばまた戦えるだろうとやんわり復帰を促してくる。

それにもう抗議したのが愛子先生だ。そんな愛子は凶夜やハジメの死を知ると寝込んでしまった。責任感が強い愛子は連れて帰えれなかったことや自分が安全圏でいた頃に生徒が死んでしまったことに強いショックを当てたのだ。だからこそ、戦えない生徒をこれ以上戦場に送り出す事など断じて許さなかった。

愛子との関係の悪化を避けたい教会側は、抗議を受け入れた。結果、自ら戦闘訓練を望んだ者たちだけ再び訓練を兼ねて迷宮に挑む事になった。今回もメルド団長率いる騎士数名がついている。

今日で迷宮攻略六日目。

六十階層で光輝が香織に見当違いな事を言ったり、女子達で賑わったり色々あったが勇者パーティー一行は六十五階層でベヒモスを倒す事に成功した。

皆が皆、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリ、ポツリと勝利を確認する様に呟く。同じく呆然としていた光輝が勝鬨をあげる。

 

「そうだ!俺達の勝ちだ!」

 

その声に一斉に歓声が沸き上がった。

そんな中、一人まだボーとベヒモスのいたところを眺めている香織に雫が声をかけた。

 

「香織?どうしたの?」

 

「雫ちゃん?……ううん、何でもないの。ただここまで来たんだなってちょっと思っただけ」

 

かつての悪夢を倒せるくらい強くなったことに対して感慨に浸っていたらしい。

 

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

 

「うん……雫ちゃん。もっと先に行けば南雲くんも…」

 

「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張ってるんじゃない」

 

「えへへ、そうだね。雫ちゃんも北野くんのために頑張らないとね!」

 

「だから!北野くんの事は何も思ってないから!」

 

先へ進める。それはハジメの安否を確かめる具体的な可能性を示している。答えが出てしまう恐怖に少し弱気が顔を覗かせたのだろう。それを察して、雫は香織の手をグッと力強く握った。その力強さに香織も弱気を払拭出来たのか雫を揶揄う余裕まで出来ている。

そんな二人の所へ光輝達も集まって来た。光輝は香織の回復魔法のことを褒たり、爽やかな笑顔を向けて二人を労う。同じく微笑みで返す二人。しかし、次の言葉で二人の心に少し影が差した。

 

「これで、南雲も北野も浮かばれるな。自分達を突き落とした魔物を、自分達が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

 

「「……」」

 

若干微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ娘。谷口鈴が香織に抱きついて、それを雫の手刀が対応する。激し目のツッコミだ。いつしか微妙な空気が払拭されていた。

これより先は完全に未知の領域、光輝達は悪夢を振り払い先へと進む。

 




読んで頂きありがとうございます。
感想くれると泣いて喜びます。

雫をオリ主のヒロインにしてもいいか?

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