あべこべ世界の貧民街に生まれ変わったので、ギャングのボスを目指す 作:山崎春のパン祭り
1
「あ"ぁぁー、あったまクソいってぇー、吐き気がするぅー」
ストーリーに止められている客待ちの車内でアルコールの臭いが漂い。デミは助手席で上を見上げて辛そうに言った。
ラジオからは当然ながらギャングスタラップが流れ、『ギャングスタは生きる ギャングスタは死ぬ』『ギャングスタは密告しない ギャグスタ泣かない』とリリックが続いている。
「……」
昨日デミたちが家に戻ったのは、もう午前5時を回っていた。そんな彼女は現在二日酔いに苛まれている。だから、彼女を叩き起こし、運転させるにも事故りそうなので、免許証は持っていないが、最低限程度の運転は出来るので、少ないとも今の彼女よりましである俺がハンドルを握った。
「あー、頭がクソ痛いよぉ〜! 辛いよ~ジョージ〜」
デミが彼女らしくない、甘い声を出して言った。
「……」
今日も仕事があるのに、朝帰りな上飲み過ぎて二日酔いとは、良いご身分である。
「ジョージってば〜、聞いているの〜?」
「……」
ワイワイ騒ぐ彼女を俺はジト目で見つめた。
「なんだ? その顔は? 便所か?」
「ハァー、今日何曜日か、忘れたのか」
どうやら、今日が何の日かを忘れた彼女にヒントを出す。
「木曜だけど?」
それでも、日付まで言ったのに思い出せないデミに俺は答えを言った。
「2週間に一度の集会」
「あぁ!そうか! うわ、頭痛すぎて……めんどくせぇー 行きたくねぇー」
「いや、ダメだろ。行かなきゃ。それにヤクが切れかかってるんだ。補充の為にも行くしかないんだよ」
「……まじか……ハァー。なんで今日は木曜なんだよ……畜生ぅ」
まるで月曜日の到来を呪うサラリーマンの様にデミは言った。
「うん。飲み過ぎたデミの自業自得としか言いようがない」
「…………くっこの野郎っ」
そう言って、デミは酒の臭いが漂う体を運転席にいる俺に近づき、思いっきりデコピンして来た。
「いぃーつっっっ。なにすんだよ!」
なかなかの痛みが走り、大声で言う俺に、彼女は、
「いや、正論を言われて腹が立ったから」
こいつ。まじかよ。そうのたまう彼女に、俺の胸に少しずつ怒りが込みあがって来た。俺の変化に気づいたのか、デミは急に顔を寄せてくる。そして、そのまま顎を俺の肩にのせた。怒りは困惑へと変わる。
「うぅ。ごめん。ジョージ。そんなに怒らないでー。えぇぇん」
彼女はなんと涙ぐんで謝って来た。暴力の後に謝ると言うまるでDV彼女の様な手口である。
俺は次第に冷静を取り戻した。うわー。そう言えば、デミ。酒の後って情緒不安定でめんどくさくなるんだった。と思い出す。まだ当然アルコールが抜けていない今は、そのめんどくさいど真ん中である。
「めんどくせー、分かったら。もう怒ってないから」
「本当に?」
「うん」
デミは困り眉で涙で濡れた目で見てくる。
「でも、さっき。私の事めんどくさいってぇぇ。うぇぇん」
「そんな訳ないだろう。空耳だって」
「え、でも。さっき確かに聞こえたよ。私」
うん。ガチでめんどくさくてだるい。この世界の女だろ。女々しい……男らしい事を言うな。めんどくさい。やっぱり、俺はいっつものデミが好きだわ。
「だから、空耳だって、ほら、アルコールが抜けてないからまだ酔ってんだよ」
「でも、でも」
「ハァー、デミ。お前、今日もう休め。ボスには俺が言ってくるから。あの人なら酔っている時のデミとしらふにいる時を分別出来るから」
「えっ! まじ! ありがとう! ジョージ!」
「でも、しらふの時は覚悟しとけよ」
デミは俺に抱き着いていた。
こいつ。まさか……。
「デミ、お前」
「大好き! 愛しているよ! ジョージ! うぅぅえぇ……吐きそう……」
「お前! ここで吐くな! 吐くなら外で吐け!」
2
その後仕事をノルマまでこなすと、早々に切り上げて俺たちは家に戻った。よろめきながら歩くデミを支えながら俺は、確かにこの状態のデミを無理矢理仕事させるべきではなかった。と、後悔し、自責の念に駆られた。
車から売り上げを家の電子金庫の中にしまい込んだ後、デミをベットに寝かせると彼女は直ぐに安らかな寝息を立てて眠りについた。横に目を向けると、アリスとエリカが寝ていた。こいつらもか。あれでも、ソフィアがいないな。朝の時はまだいたのに。
俺は気になって、彼女に電話をした。少しのコールの後彼女は出た。
『よ、ジョージ。
昨日はあまり飲んでいなかったのか、あるいはなかなかの上戸なのだろう、元気のあるソフィアの声が電話越しに聞こえた。
『さっき家に帰って来たんだけど、今どこ?』
『どこって、仕事だよ。仕事。』
俺はアリスとエリカを見ながら、ソフィアに聞いた。
『え? まじで? 一人で?』
『あ? アリスとエリカはベットで死んでるから、あたししかいないだろう』
『まじかよ……』
一人でとか、危険性過ぎるだろ。
『なんだよ』
『えっと……そのだな、余計なお世話じゃなければ、手伝おうか?』
『えっ!? あーいや、うん。分かった。っつってもそこまでやる事はないぞ』
『うん』
『オーケー、少し待ってろ』
それから30分経って、家の外からブザー音が鳴った。思ったより早かったな。俺はベレッタM9を手に取り、後ろズボンに挟んで外に出た。
目の前に車が止めてあり、運転しているのがソフィアだと確認して、ドアを開けて助手席に座った。
「よ、ありがとうな」
「よう。良いってことよ。仲間だろ」
彼女と仲間内のハンドシェイクをする。それから彼女が車を起動させると、ラジオから案外ラップではなく普通の曲が流れていた。
「良い曲だろ」
「え? ああ」
今流れている曲について言っているのだろう。確かに良い曲だ。この曲を描写するなら綺麗で美しいくも悲しいだろう。
「なんて言うアーティスト?」
「お前と同じ名前でJ〇jiってんだ。もう最近この曲にハマってずっと聞いているよ」
「へー、でも確かに、この曲はずっと聞いていたいのも分かるな」
車を走らせてしばらくすると、彼女たちが担当するシマに到着した様で、ソフィアは車を止めた。
「着いたのか?」
「ああ」
そして俺は銃を出して、周囲を警戒しだした。だが、ソフィアは1点だけを見つめて視線を外さなかった。気になって、彼女の視線の先を見ると、1人の小学3年生ぐらいの年頃であろうアジア系の女の子が、座り込んでスマホを見ていた。
「?」
確かに可愛いらしく、将来の容姿を容易に想像出来るが、それだけではずっと見つめる理由にはならないはずだ。あの女の子がどうしたのだろう。まさか? 妹? ソフィアには5人の兄妹がいると聞く。いや、しかし彼女はアジア系だ。
俺は素直にソフィアに理由を聞いた。
「あの女の子が何か?」
「ん? ああ、わりぃ。言うの忘れてたわ。あの子。あたしたちの売人なのよ」
「え?」
「だから、ボスからあたしたちに売れってヤクが渡るだろう? で、あたしたちはあの子に売れってヤクを渡す。分かったでしょう? なんであたしがそこまでやる事はないって」
「なるほど……」
これが理由か。色んなヤクを売る方法があるんだなと、素直に関心する。でも、まだ子……
「まだ子供じゃないか、とか言わないよな」
ソフィアがまるで俺の心の中を読んでいたようだった。
「……言わないよ」
「そうか。言っておくが、あたしたちの仕事を手伝わせて欲しいと頼んだのは、あの子だよ」
「……」
「金だよ」
なんで、とソフィアは再び俺の心の中を読んだかのように言った。
「親からお小遣いの金が足りなくて簡単に稼ぎたいとよ。金への欲は大人も子供も同じだな。それに子供っていうなら、お前だって同じでまだ15のクソガキじゃないか」
ソフィアは、俺の頭を慈しむように撫でながら言った。
「俺は……」
俺は前世があるから精神年齢は大人だけど、あの子はまだ……。
「いいか、あたしたちはギャングだ。言わば悪だ。まあ、この街では正義だったはずの警察も悪だが、それはさておき、あたしたちはヤクで弱者を食い物にし、必要となれば子供だって殺す。だろう?」
「ああ、そうだな……」
俺は頷くしかなかった。
それから、あの女の子がヤクを客に売り、足りなくなったらこっちに来てヤクを補充する繰り返して午後に入った。もう既にソフィアたちのノルマはクリアし、時刻もそろそろ集会が始まる時間だったので、俺たちは、一旦家に戻り、電子金庫から売り上げを取り出した。ベットにはデミたちが未だに寝ていた。
俺とソフィアはお互いに呆れたため息ついて、ボスの家で行われる集会に行った。
ちなみに曲はkuruptのC-WalkとjojiのGlimpse of Usです。はい。ただ自分の好きの曲を布教したいだけです。