あべこべ世界の貧民街に生まれ変わったので、ギャングのボスを目指す 作:山崎春のパン祭り
1
アマンダの紹介に俺は愕然とした。
「さぁー、もう一発行くぞーーん? って、あれ? アマンダじゃないか?」
「はい。お久しぶりです。マダムファエリ」
「おーう、おひさー。今日はなんのようだいー?」
言いながらエドナはアマンダの隣にいる俺に気づき、あ! と何かに気づいた様子で、アマンダの返事を聞かずまた口を開いた。
「あー! もしかしてソレを売りに来たのー? あ、でも他の子は? もしかして単品のみ? えー単品だけかー。人身売買をやるなら出来ればまとめて売ってきて欲しいなー。でも良いや。私たちの仲だし、単品でも「うぅーんっ! うぅうぅんん!」
俺とアマンダの反応を気にせず、エドナは喜々と早口で喋っていた。が、途中で、的にされていた裸の女が突然、うめき声を上げて騒ぎ始めた。
「……単品でもある程度高くは「ううううぅーんっ! うぅうぅんん!」
……ハァー。うるさいなー。お前。毒が効いてお前が死ぬまでまだ時間が残っているから、少しのおしゃべりぐらい許してよ。ミリ」
毒……? てか、いつまで勝手に喋り続けるんだ。この人。それに、ソレってのは俺の事? 俺はアマンダを見た。彼女は笑顔でエドナの話に頷いていた。
「あ、どう言う事って思ったでしょ。えっとね? こいつ。私の事を裏切ったから、いま私の遊び相手になって貰ってるんだぁー。毒が全身に回って死ぬのが先か、私が彼女の頭の上に乗っているリンゴを打ち抜いて彼女が解毒剤を手に入れて解放されるのが先か、てね? で、アマンダもどう? やってみる?」
エドナはアマンダに自分の銃を差し出した。
「いえ、今日はビジネスが目的なので、今回は遠慮しときます」
アマンダは笑って答えた。
「そう? まあ、うん。そうだね」
エドナはアマンダの返事を聞いた後、納得の表情になり、手の銃を的になっていた裸の女性に向けた。そして、引き金を引いた。
ドン!
銃声の余韻も冷めぬうちに的の女性は崩れ落ちた。彼女から額から赤く細い噴水が噴出し、彼女の顔を染めた。血は地面をゆったりと流れ、プールに流れ込み、透明だった水も赤く染めていく。
それを見て案内役の女性と他のファエリファミリーの組員は、何も言わず死体になった女性に近づき、彼女を片付き始めた。
「な、何を……っ」
俺は、唐突な彼女の銃撃に思わず驚きの声を上げる。アマンダは俺を睨み、エドナは俺に微笑んできたあと、アマンダに向けて話す。
「仕事なら仕方ないね。私も遊びの時間と仕事の時間を区別できる。分別のある大人だからね」
結構彼女の匙加減だったのだ。わざと銃弾を外し、あの女性が苦しむのを楽しむだけ楽しんで、遊び終わったら捨てた。ーーイカレてる。
「それで、ソレの事なんだけど。若くて、顔も悪くないわね。うーん。そうね、
「マダムファエリ」
「なに? アマンダ。先に言っておくとこれ以上は出せないわよ?」
「いえ、違います。紹介し遅れましたが、彼は私の部下です」
「……ふーん? これ。売り物じゃないんだ……」
今まで軽い声だったエドナの声が一転して低くなり、眉間に皺をよせて怖い顔つきになった。
「ねぇ……アマンダ。私? 言ってなかったっけ? 初対面の人は信用できないって」
「ーーはい。ですので、彼が信用に足るかいつものように試しても構いません」
俺を、試すーー?
「……本当に良いの?」
「はい」
アマンダはきっぱりと返事をした。
だから、試すって何の話だ。とは言え。このイカレユダヤ人が俺に何をしようとも、俺はこいつに気に入られる為に甘んじて受けるしかない。俺が上に登るために……。
「そうか。ねぇ、ぼくぅ?」
エドナが笑顔で話しかけてきた。が、その目は、人を人とも思わない冷たい物だった。俺は視線をアマンダに向けた。彼女が頷いたのを見てから返事をした。
「はい。何でしょうか? マダムファエリ」
俺はアマンダを真似て、彼女をそう呼んだ。
「あそこに立ってくれる?」
そう言ってエドナが指さしたのは、あの的だった女性が射殺された場所だった。もう既にこの短時間でファエリファミリーの組員がある程度片付けたので、死体はなかったが、まだタイルに溝にシミが残っており、プールに染み込んだ赤い水もまだあった。
「ま、まさか……?」
「そう。でも、流石にあなたアマンダの部下だから、殺しはしないわよ。ジボラ! 防弾チョッキといつものを持って来て! ほら、これで安心ね?」
エドナがそう命令すると、ジボラと呼ばれた俺たちをここに案内した女性は、彼女の命令に頷いて別荘の中に入った。
「さあ、さっさとそこに立ってくれる?」
「……はい」
拒否する選択肢などなく、俺は歩き出し、彼女が示した場所に立った。
しばらくして、ジボラは防弾チョッキとなぜかウォッカと銘柄された酒を持ってきた。
ああ、アルコールを飲ませて俺の痛みを和らげるためか。少しは優しい所もあるのだな。このイカレは。
と思ったらジボラは防弾チョッキだけを俺に渡してきた。
「ーーあの、酒は?」
思わず聞かずには居られなかった。
「あ、これ? これは私用よ。だってほら、私ってエイムが良いでしょう? 弾が自分が思い通りに当たったら面白くないじゃない?」
そう言って彼女は、ショットグラスに注いだウォッカをそのままストレートに飲み干して、また注ぎ込み、まるで水の様にがぶがぶと飲み始めた。スラヴ人かよ。いや、ユダヤ人か。
「……はい。そうですね」
……前言撤回だ。
俺は引きつった笑顔を彼女に向かけた。キチガイが。
「うん。でしょ? でしょ? で、あなたに選んで欲しいの」
飲みながら彼女は、話を続ける。
「? 何をでしょうか?」
「そのまま防弾チョッキを着て撃たれるか、防弾チョッキを着ずに撃たれるか。あ、もちろん。後者を選べば、口径は小さい弾にするわよ。どっちにする?」
ーーはぁ?
エドナはほら、私優しいでしょう? と微笑んだ。彼女のウォッカのボトルの隣には、さっき女性を撃ち殺した
俺はアマンダを見た。彼女はまるで『これはお前が望んだ事だ。どうなっても私は知らん』と言わんばかりの視線をこちらに向けていた。
「では、」
俺は一呼吸を置いた。心の中でまだ迷ってるからだ。俺は必死になって考える。
例え防弾チョッキがあったとしても、手足と頭は守ってなく、死ぬときは死ぬし、なかったとしても、口径が小さい弾でも当たり所が悪ければ死ぬときは死ぬ。とは言え、普通に考えたら防弾チョッキを着用するを選ぶだろう……。
「俺は、」
いや、いや、何を考えてんだ。俺は。何を生きようとしてんだ。俺はこの世界で成り上がりと決めたんだ。ならば、死すら覚悟のはずだ。そうだ。俺はギャングスタだ。ギャングスタは死を恐れない。
それに、これは2度目の人生。死んだら死んだでラッキータイムの終わりだと思えばいい。
俺は、防弾チョッキを脱いだ。
「このままでお願いします」
「あら、そう? ジボラ。口径が小さい銃をーー」
「いえ、銃も、このままで、お願いします」
気に入られるために、このイカレよりもっとイカレた事をしないと。
俺の言った事が一瞬理解できなかったのか、エドナはきょとん顔になった。が、直ぐに笑い出した。
「はははははっ! えー!? 笑い死にそうなんだけどっ! くっくっくっふふふ本当に良いの!? 」
エドナは目尻に溜まった涙を拭き、にまにまして聞いて来た。
「はい」
「おい! 何を考えてるんだ!」
俺の返事に、さっきまで我関せずのアマンダが、緊張感を含んだ怒りの声を出した。
「くっくっくっふふふ。アマンダ。止めてやるな。彼が決めた事ですよ」
「だけど、マダムラファエリ!」
「アマンダ。これは、彼が決めた事ですよ?」
エドナは棘のある声で言った。
「申し訳、ございません……」
「うんうんうんうん。これは、彼が決めた事なので、どうなろうと彼も覚悟の上ですよ。そうですよね?」
「はい。そうですね」
俺の即答に、エドナはまた噴出した。
「ははは良いわ! 良いわね! あなた!」
「ありがとうございます。マダムラファエリ」
「うん? そう言えばあなた! 名前は何て言うの?」
「ジョージ。ジョージ・ミナトです」
「ジョージ・ミナトねぇ!ーーーうん。それじゃあ、ジョージ。撃つわね」
エドナはショットグラスに入ったウォッカをかきこみ、銃を俺に向けて構えだした。俺は目で銃口に見つめて、銃弾の到来を待つ。
「あ、一応死ぬかもしれないし、何か遺言見たいのはある?」
「……そうですね。デミと言う女性に、先に逝って待ってると伝えてください」
「デミってのは、ジョージ君の女?」
「……いえ、家族です」
「ふーん。そ? 分かったわ。じゃ、改まって、撃つわよ?」
「はい」
「イーニーミーニーマニーモーどーこに、しーよーうかーな……」
ーーーああ、やっぱり、怖い。怖すぎる。2度目と言えーーー死にたくねぇな……。
ドンっ!
「がっあ!」
薄れていく視界の先には、エドナの燦爛とした笑顔があった。
このイカレた
銃声と共にきた衝撃で、俺の体はプールに転び落ち、その赤い水をより色濃くしていった。
2
「ん……あ”ぁぁあ」
痛みで目が覚めると、豪華に装飾された部屋のベットに自分がいた。
「目が覚めましたか、ジョージさま」
自分の名前を呼ぶ声に目を向けると、ジボラが俺を見つめていた。
「く”っああ」
俺は身を起こして、自分の体を見る。なぜか新しい服の下に左肩回りを重点に包帯が巻かれていた。あ、そうか。俺プールに落ちたのだった。そして、俺のM9はーーああそうだ。アマンダの車の中に置いてあったな。
「銃弾はジョージさまの左肩を貫通し、幸いにも神経を傷つけませんでした。良かったですね。例え酔ったとしても、相変わらず神かがったママのエイムに感謝してくださいね」
「ああ」
酔いながら、本当にあのイカレがわざと狙ったとでも言うのか?
「それより、ジョージさま」
「ん? なんだ?」
「あなた……中々のイカレですね」
ジボラは言いにくそうに言った。
「はぁ!? なんでだ!?」
「だって、私。初めて見ましたもん。あそこで防弾チョッキを着ないを選ぶ人。更に口径が小さい銃にしないなんて」
「……今さっき君が言ったじゃないか、マダムラファエリのエイムは神かがっているって、だったらどっちを選択しても意味ないじゃないか。彼女の思った通りしか弾が当たらないのだから」
「はい。ですが、私が教えるまではジョージさまは知りませんでした。だから……ママも言ってましたよ。あんなイカレ久しぶりに見たって喜んでましたよ」
「だから……イカレって」
あいつにだけは言われたくないよ。とは言え、あいつに気に入ったの……か? なら撃たれたかいはあったものだ。
て、あれ? 今ジボラがあのイカレエドナの事をママって言ってなかった?
「あれ? 今、マダムラファエリの事をママって呼んでなかった?」
「はい。マダムラファエリは私の実の母ですが、なにか?」
そこで俺は初めてジボラを正視した。正直今までは緊張のあまり、他の人が目に入らなかったが、確かに彼女はあのイカレの、エドナと同じ髪型の金髪と緑目、そして美貌と体型を受けついていた。
あんな女が結婚できて、子供までもいるとはな。衝撃的だ。
「いえ、確かに言われてみればそうだな。えっと失礼だが、ジボラは今年で何歳だ?」
「今年で14歳よ。今ママは32歳だから、18ぐらいの年に私を産んだのね」
彼女、ジボラは、彼女の母と違い冷静にそう言った。
18歳のときか、貧民街ではもっと早い人もいるし驚きはしない。それより、むしろ、
「え!? 俺より身長も高いし成熟してたから、てっきりもっと年上だと思ってた」
こんな成熟した体付きで、今の俺より年下かよっ。ファエリファミリーのボスの娘なら、ワンチャン籠絡しようと思ったが、14のガキかよ。ならやめよう。犯罪だし。いや、俺犯罪者だけど。
「いえ、大丈夫。よくある反応ですので、もう慣れました」
「そうか……なんて言うか。母より大人びてますね」
「ありがとうございます。それもよく言われます」
反面教師と言うやつなのだろうな。あのイカレを幼いころから見てたからこんな落ち着いた感情の起伏が低い、成熟した性格になったのだな……。
あ、そう言えば。
「そう言えば、うちのボスとマダムラファエリは?」
「はい。彼女らなら今応接室で、取引をしています」
「そうか、だったら連れて行ってくれないか?」
ジボラは少し驚いた表情になった。
「え? でもまだ安静にした方が?」
「んや、こんな傷、痛くも痒くもないね」
正直に言うと、凄く痛いが。子供の前でカッコつけたかったので、俺は我慢してそう言った。
「そう、ですか。分かり、ました」
ジボラは頭を伏せて、ぷろぷると体を震わせた。
「では、付いてきてください」
続いて、そう言いながら彼女は歩き出した。時折なぜか振り返り無表情で俺を見つめる彼女に、俺は疑問を持ちながらも付いて行った。
応接室に着くとテーブルの上には、何個もあるパックに入った白い粉と20丁はあるUZI銃が置いてあった。
だが、アマンダとエドナの姿は椅子に座って居らず、彼女らの姿は、なぜか裸の姿で並んでいる沢山の10代の男の子たちの傍にあった。
美人でイカれてるとか最高ですね。好き。
登場人物
ジョージ・ミナト
15歳。エドナに気に入られたいがために、死すら覚悟した。
エドナ・ファエリ
32歳。イカレ。主人公を気に入ったのかもしれない。
ジボラ・ファエリ
14歳。母と違って落ち着いた性格でも体付きは同じ。マトモそう。
アマンダ・キャロライン(C)・フィリップス
26歳。マトモ。