あべこべ世界の貧民街に生まれ変わったので、ギャングのボスを目指す   作:山崎春のパン祭り

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久しぶりに書きました。


第7話ーMean Whileー

 

 ジョージが気を失っていた頃。アマンダとエドナは取引の為に場所を移し、今は応接室にいた。エドナは自分の部下を扉の外へと下がらせて、応接室には、大天使が悪魔を踏みつけて今まさに最後の一撃を加えんとする荘厳な油絵と一目で高価と分かるソファ椅子、テーブル。そして、ユダヤ教の象徴である燭台、メノーラーがあった。

 

 アマンダはエドナが先にソファ椅子に腰掛けたのを確認した後、自分もテーブルを挟んだ対面するソファ椅子に座った。そして、エドナがタバコを取り出したの見て、アマンダはすかさず近づきライターでタバコに火を付けた。エドナは当然の様に受け入れ、一口吸って言った。

 

 「しっかし、アマンダ。お前、いつの間にか面白い物を手に入れたわね」

 「はい。マダムファエリ。私もついさっきまで知りませんでした」

 「うん。私。あの子の事気に入ったわ。度胸もあるし。どう、私に譲ってくれないかしら?」

 

 エドナは両手を合わせて、甘え子のような表情で言った。30代に思えないその可愛いらしさは、同じ女性でも直ぐに「はい」と答えてしまうぐらい魅力的だった。だが、初対面ならともかく、エドナの本性を知るアマンダは、顔を引きずった。

 

 「いえ、いくら、マダムファエリの頼みでも……それは……」

 「ふーん。まあ、そうか。私が気に入るぐらいだし、アマンダもあの子の事気に入るよね……」

 

 エドナは少し納得の表情になった後、眉をひそて悩み始めた。そして、アマンダを見つめて、値踏みをする表情になる。

 

 「ねえ、アマンダのギャング、エンジェルサグスだっけ? それって何人だったけ? 私、うっかり忘れたわ」

 「お恥ずかしながら50人程度の小さいギャングですけど。それがなにか?」

 「いえ、何でもないわー。50人ぐらいね……」

 

 ヤバい!! 言葉こそ温和な物の、その隠し切れない氷のような冷たい目は、瞬時にアマンダに危険信号を発した。これまでの付き合いを考えて、エドナは手に入れたいと決めた物は余程の事ではなければ、どんな手段を使っても手に入れる。

 きっと、今エドナの心の中で、彼女のジョージを手に入れたい欲とアマンダから手に入る利益を比較している。それで、もし天秤が彼女のジョージを欲する欲に傾けば……。その結果を想像しただけで、アマンダは身震いをした。

 

 「え、えっと。さっきの話なんですけど。差し上げる事は出来ませんが、マダムファエリにお貸しする事でしたら出来ますが、いかかでしょう……?」

 

 アマンダは言いながらエドナの表情の変化を観察する。もし、これで駄目なら……仕方ないけど……ジョージを……。

 

 「……良いわよ」

 「ほ、本当ですか? よ、良かった……」

 

 エドナの了承と、少し柔らかくなった表情を見て、アマンダは、背もたれにもたれ掛かって、安心の息を吐いた。

 クソ、ジョージめ。なんで、こんな事で私のギャングが危機に陥るんだよ。

 アマンダは、心の中でジョージに罵声を浴びせた。

 

 「それで、幾らかしら?」

 「へ?」

 「貸してくれるんでしょう? 無料な訳ないわよね、いくら?」

 「いえ、いえ。とんでもありません! 日頃からマダムファエリにお世話になっているので、当然無料ですよ。必要な時に何時でも彼をお呼びください」

 

 笑顔でそう言いながら、アマンダは「これ以上、必要ない事でお前みたいなイカレたカイクの逆鱗に触れたくねぇんだよ。分かれ!」と、考えていた。

 

 「そう? でも流石に無料で貸してくれるのは悪いわ……」

 「で、では、マダムファエリがお値段を決めてください」

 「あら? 良いのかしら?」

 「はい」

 「そうね……じゃあ、1時間5000ドル(70万円)ってのは、どう?」

 「5、5千ドル!?」

 

 どんな高級な男娼でもこれほどの値段はなく、エドナの口から出た想像以上の数字にアマンダは愕然とした。

 

 「ん? なに、まさか? 足りないの? カイクの守銭奴な私でも、結構出したつもりなはずよ?」

 「いえいえいえいえ! 違います!」

 

 微笑みながら言ったエドナの自虐的な冗談に、アマンダは頭を強く左右に振った。

 

 「そう? じゃあ、このぐらいの値段で良いわね」

 「はい! ありがとうございます! ジョージが必要な時は何時でも()にお電話ください!」

 「ふーん……分かったわ。それで、そろそろ本題に入るけど、今日は何が必要で来たのかしら? まさか、あの子を私に紹介したかっただけで、わざわざ来た訳ではないでしょうね?」

 

 エドナの目に怒りが薄らと浮かんだ。

 そうだった。予想外の収入を得たが、そもそも今日はジョージなどではなく、もっと重要な事で来たのだった。アマンダはジョージの時給に衝撃を受けた頭を立て直して、急ぎ否定した。

 

 「いえいえ、そんな事で、私がマダムファエリの貴重な時間を潰す訳ないじゃないですか」

 「そう、なら良かったわ」

 「はい。それで、今日来たのは、コカインを、そうですね……4パック。それと足が付かない、新品のサブマシンガンを20丁ほど頂きたいのです」

 「ヤクはいつも通りで分かるが、足が付かない上新品のサブマシンガン? それも20丁も? なんだいアマンダ? 戦争でも始める気なの?」

 「いや、実はですね。最近うちのシマに、見慣れないヒスパニック系のやからが、良く遊びに来ているんですよ。それで、何とか正体を突き止めた上お帰り頂けないかと、まあ、自己防衛ですよ。ただの」

 「あら、そうなんのね。アマンダ。何か必要な事があったら何時でも言ってね、出来る限り協力するわ」

 

 私がお前の為に利益を生み出す限りだろう? アマンダは、エドナの言葉に作り笑顔で答えた。

 正直。可能ならばすぐにでも、エドナの協力を仰ぎ、やつらがどこの誰なのか知りたかったが、アマンダはエドナの本性を再度思い出した。1度借りでも作ったら、1度でも弱みを見せたら……最後の1滴まで利益を絞られる。アマンダは今までエドナの餌食となった人の姿が脳裏に浮かび、出かかった助けを求める声を飲み込んだ。

 

 「ありがとうございます。マダムファエリ。もしその時が来たら、是非ともお願いします」

 

 そんな時は一生来ないと願いたいがな。

 

 「うん。任せて頂戴。さてと、ガブリエラ?」

 

 エドナはそう扉の外にも聞こえる様に呼ぶと、扉が開き、外で待機していた部下が入って来た。さっきくる時は気付かなかったが、ガブリエラと呼ばれた女性は20代で黒髪の綺麗な顔をしたスラヴ系で、彼女は少し東欧訛りのある英語で返事した。

 

 「はい。何でしょうか。マダムファエリ」

 「包装されたコカイン4kgとUZI銃20丁をここに」

 「はい」

 「あっ、それとワインもお願い」

 「承知致しました」

 

 エドナは下がる部下を目で送り、待っている間、エドナとアマンダは他愛もない日常会話をして暇を潰していった。10分ぐらいすると、扉からノックの音が聞こえる。

 

 「入って良いわ」

 

 エドナの言葉を聞き、さっきガブリエラと呼ばれた女性は扉を開けて入って来た。

 彼女はトーションを腕に掛け、手にRomanée-contiと銘柄されたワインと2つのワイングラスを乗せたトレイがあり、その後ろには、一人一人がケースを持った人が5人いた。

 

 「失礼いたします」

 

 エドナの頷きを見て、ガブリエラはエドナとアマンダのそれぞの傍にワイングラスを置き、ワインを注いだ。そして彼女らに指示し、ジュラルミンケースを地面に置いて、中のブツをテーブルの上へと置かせる。

 全てのブツを取り出すと、ガブリエラは彼女らに、持って来たジュラルミンケースと共に下がるよう命令し、そして言った。

 

 「コカイン4kgとUZI銃20丁でございます」

 「うん。ご苦労様。じゃあ、どう? アマンダ。ブツ確かめる?」

 

 ガブリエラを傍に待機させて、エドナはワインを味わいながらアマンダに聞いた。

 

 「いえいえ! 私たち、何度取引したと思っているんですか? 今更マダムファエリを疑う訳ないじゃないですかっ」

 「そう? ありがとう。んじゃ、取引成立ね?」

 

 エドナの差し出す手をアマンダは握り、二人は取引成立の握手を交わす。

 

 「はい。ですね」

 「ガブリエラ、幾ら?」

 

 エドナはガブリエラに聞いた。

 

 「合わせて10万ドル(1千4百万円)になります」

 

 ガブリエラの言った値段をアマンダは頷いて、スマホを取り出した。

 すると、突然少し喉が渇き始めたので、アマンダは傍のワイングラスを手に取り、中のワインを1口で飲み干して、いつものビールの方が美味いなどと考えながら、スマホの暗証番号を入れ、ダークウェブからダウンロードした仮想通貨アプリをタップする。

 アマンダがスマホを操作している所を見ながら、エドナはしみじみと言った。

 

 「しかし、良い世の中になったわね。昔はみんな映画みたいにジュラルミンケース片手に現金で取引だったんだから」

 「へー、そうなんですね」

 

 金額を入力しながら、確かにわざわざ大金を持ち運ばなくなるのは、バイヤーとしては一つリスクが減って良いことだな、とアマンダは相槌を打った。

 

 「あ、送金しました」

 「はい。確認しますーーー確認致しました」

 

 ガブリエラは自分のスマホを見ながら、そう言った。二人の会話を見て、エドナはうん、うんと満面の笑みを浮かべて、ワイングラスを持ち上げた。

 

 「順調で楽しい取引を祝って、レ・ハイーム(乾杯)!」

 「レ・ハイーム」

 

 アマンダはガブリエラから注がれたワインを飲んだ。うん。やっぱり、いつものビールの方が美味い。エドナは自分の取引口座に大金が入ったのがよっぽど嬉しいようで、ニヤニヤが止まらなかった。

 取引も終わったしそろそろ帰るか、ジョージはもう目が覚めたのだろうか……。あの野郎、勝手な事しやがって。帰ったら絶対にお仕置きしてやる。舐めやがって、オスガキが。

 アマンダは口を開き、そろそろ帰りの意を切り出そうとした、その時。扉から再びノックの音が聞こえた。Speak Of The Devil(噂をすれば影がさす)。ジョージか?

 

 「入って頂戴」

 

 だが、入って来たのは、エドナの部下の一人であろう女性だった。ガブリエラと瓜二つな顔をしている。

 

 「あら、ミカエラか、どうしたの?」

 

 ミカエラは目で部屋を見回し、ガブリエラを見つけると、一瞬眉をひそめたが、直ぐに切り替えエドナに要件を伝えた。

 確定した。ガブリエラと瓜二つの顔、名前からして彼女はガブリエラの姉妹に違いない。だが、どうやら彼女らの姉妹間は仲が悪いようだ。

 

 「あ、お取込み中失礼しますっす。実は件の最終選別を終えましたっす」

 

 件の最終選別? なんの話だ? アマンダはエドナを見た。すると、彼女の顔はより喜びに満ちた表情になっていた。

 

 「お? そう? そうなのね? じゃあ、早速連れてきて頂戴」

 「マダムファエリ?」

 

 アマンダは困惑な表情で、エドナに話しかけて説明を求める。

 

 「まあ、見てて頂戴。面白い物が見れるわよ」

 「あ。実は事前にマダムファエリがそうおっしゃると思って、事前に連れて来てるっす」

 

 そう言ってミカエラは、扉の外を見た。

 

 「おい、てめぇら、出てこい」

 

 ミカエラはエドナに向けた態度を突如一転させて、ならず者のような口調でそう言った。

 そんな彼女の口が悪い命令に答えて、10歳ぐらいの白人の男の子がおどおどと、恐怖に歪んだ顔を覗かせて出てきた。その後をアジア人、白人、黒人と様々な人種が1人、2人、3人とどんどん出てくる。みな恐怖に歪んだ表情なのだが、それらはどれも可愛いらしく、彼らの将来の顔も容易に想像できる。彼らはゆっくりと恐る恐ると部屋に足を踏み入れた。しかし、そんな彼らの遅さに痺れを切らしたミカエラは、

 

 「сука(スーカ)! You Fucking Little dicks(このクソガキどもがっ) おっせんだよ! ファエリさまを待たせるな」

 

 先頭の一人であった白人の男の子の髪を乱雑に掴み、地面に投げ捨てた。地面に衝突して痛がる彼の背中をミカエラは強く踏みつける。男の子は背中から感じる痛みに悲鳴を上げて、泣き叫んだ。その光景を見た男の子たちは我先にと部屋に入るようになり、最終的には20人ほどになっていた。ガブリエラは一瞬だけ怒りの表情を見せ、アマンダは困惑しながらも、男の子たちの顔を見渡しながら「眼福眼福」と笑い、そして、エドナは何を考えているのか分からない笑みを浮かべたあと、

 

 「こら、ミカエラ。止めなさい。その子が可哀想でしょう?」

 

 と、ミカエラがしている行為を咎めた。

 

 「あ、はい。すみませんっす。こいつらがちんたらして、ファエリさまを待たせていたので……」

 「ガブリエラの隣に待機」

 

 ミカエラは怒られた子犬の様にしゅんとなり、ガブリエラの隣へと向かった。ガブリエラはエドナが見えないところでミカエラの頭を叩き、ミカエラも負けず劣らずにガブリエラの足を強く踏んだ。

 なにやってんだこいつら。アマンダは横目で呆れながら彼女らの小喧嘩を見ていると、

 

 「大丈夫だった?」

 

 エドナは立ち上がり、慈母の様な微笑みで、さっきまでミカエラに踏みつけられた男の子に歩み寄り、彼の体を起こして話しかけた。

 

 「は、はい。だいじょゲホゲホッ! ゲホゲホッ!」

 

 男の子は、さっきのミカエラの仕業で呼吸困難になっていたようで、咳をしながら返事をした。

 

 「どうどう、可哀想に……安心して、あの子には後でしっかりと罰を与えるからね」

 

 エドナは、男の子の背中を慈悲の表情でゆっくりとさすった。性別は逆で、宗教も違うけど、まるで聖父マリオが幼いイエス・キリストを抱きかかえるという、聖父子像である。と、その光景を見たアマンダを含むみんなはどこか考えた。が、アマンダはその様な考えを直ぐに打ち消した。しかし、エドナの本性を知らない虚像に騙されてる男の子たちは、さっきまでの恐怖は和らぎ、どこか安心した表情が浮かべた。

 

 「その代わりなんだけど、お願い一つ聞いてくれない?」

 

 エドナは目の前の男の子を含む彼らを見渡しながら聞いた。

 

 「は……い」

 

 未だその神聖な光景に恍惚した表情を浮かべている彼らは、なんも考慮せずにエドナのお願いを頷きで返事をした。この人はさっきの悪逆非道な女とは違う、みんながそう思って居た。

 

 「君たち、服を脱いでくれないかしら?」

 

 だが、エドナのお願いの一言が彼らを現実に引きずり戻した。

 




登場人物

エドナ・ファエリ
慈母の様な優しさを見せる

アマンダ・キャロライン(C)・フィリップス
帰ったらジョージをお仕置きしたいと考えている。

ガブリエラ 20代
エドナの部下
ミカエラと姉妹 だが仲が悪い
スラヴ系 ミカエラと瓜二つの顔

ミカエラ 20代
エドナの部下
ガブリエラと姉妹 だが仲が悪い
スラヴ系 ガブリエラと瓜二つの顔

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