あべこべ世界の貧民街に生まれ変わったので、ギャングのボスを目指す 作:山崎春のパン祭り
1
あのイカレ女の娘だと言う、ジボラが前を歩き、俺は彼女の後ろをついて行った。外を見れば、既に夕陽は空をオレンジ色に染めて、水平線の向こう側の空は暗く、夜の到来を知らせた。
時よりジボラは、無表情でこちらを何を考えているか分からない目で見てくるのは何故だろう。
「あ、あのなにか……?」
「いえ、何でもありません」
聞いてもはぐらかされたので、気にしない事にした。
暫くして応接室の前に着いたので、ジボラはノックをした。直ぐに中から返事が帰ってくる前にジボラはドアを開けた。中は…………。
応接室のテーブルの上には、何個もあるパックに入った白い粉と20丁はあるUZI銃が置いてあった。
しかしアマンダとエドナの姿は椅子に座って居らず、彼女らの姿は、なぜか裸の姿で並んでいる沢山の10代の男の子たちの傍にあった。
なんだこの状況は……?
ただでさえ、撃たれた銃創も未だ痛いのに、俺の頭の頭痛も痛くなり始めていた。
………と冗談で二重表現しても、痛みは和らげる事はなくずしずしと襲ってくる。
ジボラもアマンダも無言でそのやり取りを見ていたので、当然俺も邪魔する事は出来ないため、エドナの用事が終わるのを待った。
「う~ん。
エドナは、おやつを人差し指で選ぶ様軽い口調でそう言った。
「はい。承知したっす」
気付かなかったが、その奥にいた姉妹であろう二人の一人が返事をした。ミカエラと呼ばれた女性はそう答えて子供たちに地面に落ちた服を着せさせ、彼らを連れて去ろうとした時、エドナは思い出した様に再び口を開いた。
「あ! そうだったわ。そうだったわ。ヒューマン・ブランディング。焼き印をするのも忘れないでね? それとチップも埋め込んでおいて? こいつら。しっかり管理してあげないと、すーぐ逃げようとするんだから~」
まるで、そこにいるのが家畜であるかのような物言いだ。
瞬時。フランチェスカに出会う前の情景が脳裏を去来した。全身の至る所にあったもう消えたはずのあざが疼き……っ無意識に俺の拳に力が入った。
「りょっ!」
ミカエラはエドナに敬礼して、快活に笑い、牧羊犬の様に彼らを大きな声で部屋から追い出した。そして、彼女が去っていく前に俺を見下した目で見ていたのは、気のせいではないだろう。
俺はあいつらとは違う。俺はあいつらとは違うっ。俺はあいつらとは違うっ! 俺は奪われる者から奪う者、強者になったんだ。だから、だから……だから。
彼らの去り際を見ながら、心の中でそう言い続けて、呼吸を落ち着かせる。
「ママ、ジョージさんを連れてまいりました」
ジボラが母の用事がひと段落したのを見て、話しかけた。
「ママ……?」
エドナはジボラを睨んだ。
「あ、いえ。はい。申し訳ございません。マダムファエリ」
「うむ。それで……」
エドナは俺の方を見た後、近づいて来て、俺の腰に手を回しきた。香水の匂いが、刺すように鼻孔を衝く。
「お~ジョージ、傷の具合はどうなのかしら?」
エドナは柳眉をひそめ、心配そうな声で言ってきた。
「まだ痛みますね」
どうもこうも正直さっきの事で、痛みは更に倍増したのだが。
「そうなのね、お前の度胸を試す真似をして済まないね。私は初見の者を信用出来ないたちなのよ。許してくれさるかしら?」
言いながら、彼女は手を腰から次第に尻に移した。撫でまわすその手の動きといやらしい目で、彼女が何を考えているのか一目瞭然である。
「はい。自分も死を覚悟の上で受けましたので……」
とは言え、未だにまさか本当に撃ってくるとは思わなかったが……。ああ言うのって脅すだけ脅して、結局撃たないのが、映画ではセオリーじゃないのか?
「ふ、うふふん。良いわ。やっぱり、良いわね。私。お前の事気に入ったわ」
でもよし! これでマフィアとのコネクションが出来たっ!
「そうですか、ありがとうございます」
俺は高まる気持ちを心の中に抑えて、冷静に言った。それはそうと、相変わらず、エドナは俺の尻を撫でまして来る。
アマンダを横目に見る。彼女は窓の外に顔を向け、うすづく太陽を見ていた。どういう感情なのか、ここからでは窺い知れない。
「ねぇ、ジョージ。この後時間はあるかしら?」
エドナの熱い吐息が鼓膜をうち、耳に囁いて聞いてきた。それでも、この安静な応接室には十分な音量だったようで、その奥にいた女性もジボラとアマンダの耳が一瞬ビクッとなる。
「さて、どうなんでしょう?」
言いながら、俺は困った風にアマンダを見た。エドナも俺の視線を追ってアマンダを見る。
「アマンダ。どうなの?」
「あ、えっと。取引も終わったので大丈夫だと思います」
「だそうよ?」
それですか。不干渉ですか。エドナのセクハラもこれから起きるであろうその先の展開も黙認ですか。
なら……。
「……はい。なら大丈夫です」
俺がそう言うと、にやにやとエドナは笑い。アマンダなど他の女性は一斉に、俺を足のつま先から頭のてっぺんまで舐めるように見てくる。
元々そう言う事をするのは慣れていたし、覚悟もしていたのだが、ただ殴らないと、首を絞めないと、興奮しない特殊性癖はトラウマを呼び覚ますので、出来る限りやめて欲しい。
とは言え、こんなイカレ女は、きっとそう言う特殊性癖しかないなのだろ。
なので、成り上がるためだ。俺は血反吐を吐いて我慢するしかない。
「そう、なら行きま……」
前世で言うセクハラオヤジの様な笑みで、そう言ってくるエドナの言葉は、突然の電話の着信音によって邪魔された。
エドナは表情を一転させて、厳しい顔でその出所を睨んだ。アマンダは、その出所が自分からであると気づくと、申し訳そうにスマホを手に取り、エドナに電話に出る許可を求めた。
エドナの少し遅れた冷たい表情での頷きを見たあと、アマンダは、スマホを耳に当てた。
「ねぇ? ジョージ。私の物にならない?」
電話に集中しているアマンダに聞こえないように、エドナは再び俺の耳に熱い吐息を吐いて、聞いてくる。
こそばゆい感覚を我慢しながら、俺がどう返事すれば良いのか、困っていると……。
「はっ!? なんだってー!」
アマンダから大きな声が上がった。こわばった声で、緊張している様に聞こえる。俺たちは一斉に疑問な表情で彼女を見た。
「ああ、で、状況は!?」
「そうか……そうか……ああ、分かった。今向かう!」
「クッソ! ファック! ファック! ファック!!! ファッキンファック! ファッキンマザーファッキンファッキンファックっっっ!!!」
アマンダはそれで電話を切り重苦しい表情で、俺を一瞥して、エドナに向かって言った。
「申し訳ございません。マダムファエリ。急に声を荒げてしまって……実はシマが襲われ占拠されました。」
「あ~ら~、あ~ら~。それは大変ね。でもまた取り返せばいいじゃない? 丁度ここにも新しい武器があるじゃない?」
他人事の様にエドナは言う。実際に他人事なのだろうけど。
「はい。そうなのですが……」
アマンダはまた俺を見て、一呼吸置いて言った。
「ジョージ。落ち着いて聞いてくれ、それで、襲われ占拠されたのは第43ストリートだ」
第43ストリート……俺とデミが担当しているシマだ。……ま、まさか……。先日殺した奴らの一味がっ……!
アマンダの表情とその可能性に気づいた俺は、恐怖で声を引きずらせ、今まで信じてもいなかった神に祈り捧げて、デミがしていた様に真似て十字を切った、そして恐る恐るアマンダに質問した。
「ああ、そ、それで……?」
「ジョージ……
「
2
ジョージとアマンダが急ぎ車に乗り込んで去っていく光景を見送りながら、ジボラは母の美貌を受けついた宝石の如くな緑色の目を細め、こめかみに皺をよせて、エドナを凝視した。
「ママ……いえ、マダムファエリ。あの子。ジョージは私が狙っているの。取らないでくださいっ!」
ジボラは、いつものクール口調を崩して強く母に言う。
その後ろにガブリエラが控えていて、ミカエラは未だに子供の分別で忙しくしていた。
「あら~、そうと言っても、私も彼を気に入ったし、私が先なのよ~? 娘として譲るべきじゃないかしら?」
エドナは娘をまったく見ずに、米粒の様な小さな光となったジョージとアマンダの車を目で追った。
「いえ、私が彼を迎えに行ったので、私が先でした。それにマダムファエリには、父がいるじゃありませんか」
「あれ? 私の記憶違いじゃなければ、あいつは、私たちが話し合ってザイオン共和国に置いたではなかったかしら? それに、あいつは生殖道具として役に立たないし、もう飽きたわ」
「ですが、アレでも。マダムファエリの夫には変わりません。神の前で愛を誓った夫婦です。神への誓いを背き気ですか?」
自分の夫を生殖道具よばりする母に、自分の父をアレをよばりする娘の会話を聞きながら、ガブリエラは突如頭痛に襲われた。この母にして、この娘ありだ。
「あら、ジボラ。あなたがそんなに敬虔だと思わなかったわ。だったらやっぱり、諦めなさい。彼が十字の切ったのを見た? 彼はクリスチャンよ」
「OK
「黙れ。
「……」
ジボラからの反論はない。エドナは勝ち誇った視線をジボラに向け、ジボラは相変わらずエドナを睨んだ。沈黙が重苦しく強固に、壁のように続いていく。いつその懐から銃を取り出して、撃ち合うか分からない空気である。
「せん、僭越ながら……」
ガブリエラは、乾いた喉で声を発し、その壁の破壊に挑戦する。もしミカエラがその場に居たら、普段の関係性を一時捨てて、ガブリエラの勇気を賛美し、拍手喝采を送っていたであろう(ジボラとエドナの前では出来ないので、心の中であるが)。
「「……なに?」」
言葉を発したガブリエラに一瞥もせず、二人は睨み合いながら、聞いてきた。
「僭越ながら、ジョージさまを掛けて正々堂々競争をしてはいかがでしょうか?」
「それは、誰が先に彼を手に入れられるか……って事?」
ジボラが聞いてきた。
「はい。そうです」
「うーん。それは……ちょっと、面白そうね」
「確かに、面白そうですね」
「良いわね。私は乗るわ。その話」
「私も乗ります」
エドナが正々堂々他人と競争したがる性格で良かった。ジボラもその性格に似てて良かった。まあ、この性格が災いして、シマ争いに負けて、ファエリファミリーはザイオン共和国から追い出されたのは、口が裂けても言えないが。
「では、マダムファエリ。仄聞ながらアマンダからジョージの時間を買い取ったと聞いたのですが、分けてくれませんか?」
誰から? そうなような眼差しがエドナからガブリエラに向けられた。ガブリエラは目を地面に落とす、とても自分なのだと言えない。
「なぜ私が、私の金で買ったものを……いや、良いわよ。正々堂々やりましょう? でも、お前がいつもしている四肢を切り落として、クスリ漬けにするのはダメよ」
「マダムファエリこそ。いつもしている自分以外彼と深く関わった者を暗殺して、金と物で、彼を落とすのをやめてください」
「「……う、うふふ」」
笑いで二人の協定が合意した瞬間。ガブリエラは、40年代から続き未だ終わりが見えない合衆国と連邦の冷戦の緊張感が、ようやく終わり『鉄のカーテン』が消滅した解放感を味わった気がした。
ガブリエラは笑い合う二人を見つめる。
二人共、人の倫理観から逸脱したサイコパスであると、ガブリエラ自身も当然知っているが、ガブリエラないしミカエラがそれでも彼女らに従うのは、偏に、チトー死後から始まった南スラヴ社会主義連邦共和国の宗教弾圧からザイオン共和国に逃げてきて、その途中で両親は死に、あてもないスラヴ系ユダヤ人である彼女たち姉妹二人を拾ってくれた、エドナへの返しきれない恩義である。
それに、確かにマダムファエリはサイコパスで、裏切り者の家族すら粛清する暴君だが、忠実な部下には洒脱としていて、慈母の様な優しいを見せるのだ。
ガブリエラは心の中で、誰にでもなく言い訳した。
この世界ではソ連生存ルートなので、合衆国は世界の民主化にガチで忙しいです。むしろ仕事ばかりで家庭事情をほったらかしにしてます。偶にDVもしてきます。
CIA(あああ、忙しい、忙しい!)
FBI(もっとこっちにも予算回してくれ)
DEA(あれ、私たちの存在忘れられていない?)
ロジックよりロマン重視です。
登場人物
ジョージ・ミナト
過去にトラウマを抱えている。
アマンダ・キャロライン(C)・フィリップス
衝撃的なニュースを受け取る。
エドナ・ファエリ
ザイオン共和国のシマ争いに負けて、追い出されたヤバいやつ。
ジボラ・ファエリ
マトモだと思っていたら、やっぱりヤバいやつ。
ガブリエラ
南スラヴ社会主義連邦共和国出身 スラヴ系ユダヤ人
エドナに返しきれない恩義を感じている。
ミカエラ
南スラヴ社会主義連邦共和国出身 スラヴ系ユダヤ人