秋津茜がVR版のソニック・ザ・ヘッジホッグで遊ぶようです。 作:REON☆天津風
来年の誕生日までに完結目指します。
――――私の
「と、ととぉ!?」
直感に従って右へ飛び込むと、一拍遅れて日曜朝の戦隊モノの登場シーンみたいな爆発音が間近で響いてきて、思わず肩がビクッとする。
ほんのちょっと前まで私が居た地面には、無理やりねじ切った大木の幹が槍のように突き刺さっている。
これで、十回目? それとも?
とにかく足は止めちゃいけないと決めて、どこまでも続く森を、現実世界の足ではきっと味わえない速度――――このゲームの代名詞でもある音速で駆け抜けていく。
「右で、左で、次は跳んで、えっと、ここはスライディングっ!!」
陸上競技とは全く違う走りに、私の心はあわあわと揺れる。
この世界の私の足は、一歩蹴り上げるたびに足元が爆発するみたいで、ぜんぜん言うことを聞いてくれない。
それからちょっと道を間違えると、森の木や大きな岩などの障害物が目の前に迫る。
「私、さすがに障害物走は専門じゃないですけどぉ!?」
今も、"速すぎて"大きな木の幹にぶつかりそうになっている。ふらつく姿勢と熱を上げて空回る頭。
何となく、学校で飼っているハムスターを思い出した。
かわいいかわいい、クラスのハムスター。てちてち歩いて、むしゃむしゃ餌を頬張り、せかせかと滑車を回して、足を滑らせすってんころりん。
「いえ、すってころりんじゃすまないですねこれって、うわわわわ!!」
進む先を塞ぐように突き刺さった何本目かの大木の槍を、体を右回りに回転させてなんとか速度を落とし過ぎずに抜けていく。
後ろにほんの少し目を向けると、今も乱暴に木々を薙ぎ倒しながら追いかけてくる黒いモヤモヤがいる。
真っ赤に光る怪しい両目と、ジークブルムさんよりは小さいけど立派な角が二本に、翼や鉤爪と何回見直してもドラゴンにしか見えない姿。まっくろな影のドラゴン。
ゲームを初めたばかりで、一つ目のステージどころかチュートリアルもない。システム的な音声も聞こえない、そんな状況。
もし、知らないうちに竜殺しの伝説武器を持ってるなんてことがあれば、ぜひ教えてもらいたい。
でも、そんなお知らせはなくて、今の気分はゴールの無いマラソンを全速力で走っているみたいでちょっと余裕がない。
「これはいったい────────」
ゲームを貸してくれた大好きな人、楽郎先輩の顔が頭の中に浮かんでくる。
先輩ならこんな大ピンチ、まだまだいけると笑って走り抜けちゃうのか。
私としては、この展開はちょっととんでもないかなと思ってみたり……ああ、本当にこれは、この八方塞がりな状況は……。
「いったい、どういうことなんでしょうーーーーーーーー!!!!!?????」
これが今回の
私は内心の戸惑いをさらけ出すように全力で森に響かせた。
◆
ゲームを手に入れることになったのは、もう少し前の話がきっかけになる。
でも、ソフトを手に入れたのは今朝の話。
「おはよう、紅音。はいこれ、お兄ちゃんから頼まれてた奴」
「わ、ありがとう瑠美ちゃん!!」
十二月。高校一年生の寒い冬の金曜日。HRが始まる十分前。
登校してきたばかりの瑠美ちゃんから、とあるゲームパッケージを渡してもらった。
陽務瑠美ちゃん。同じクラスのすっごくかわいい女の子で、モデルのお仕事もしているファッションが大好きな私の大切なお友達。そして、私が大好きな楽郎先輩の妹さん。
一年前。シャンフロの中で仲良くなった"サンラク"さんと
でも、今はささっとスクールバックの中へパッケージを仕舞うことを優先する。先生はまだ来ていないから焦らなくてもいいけど、もし見つかって、楽郎先輩から借りたゲームを取り上げられちゃうと一大事だから。と、そんなことをしていると目の前で瑠美ちゃんが口を抑えて小さく笑っている。
「瑠美ちゃん、どうかしたの?」
「いやさ。ほんと、走ることもだけど紅音はゲーム大好きなんだなって。まるで宝物を貰ったみたいな反応だからつい。いやー、妬かないけど妬いちゃいますね~。お兄ちゃん紅音に愛されてる~」
「えっ……あ、えっと」
あ、愛しっ!?
た、たしかに先輩のことは大好き、というかすっごくその愛してるというかなんというか間違っていないけど……面と向かって改めて言われるとなんというか、全身から湯気が出そうで今なら雪原を全速ダッシュしても全然へっちゃらみたいな気持ちがって、そうじゃなくっ!!!!
「も、もう! からかわないでよ瑠美ちゃん!」
「はいはい、ごめんなさい。あーあもう、真っ赤になっちゃってかわいいんだから……ていっ」
「ひゃ!?」
すっと伸ばされた瑠美ちゃんの両手にほっぺを包まれる。登校してきたばかりのお手々は、ひんやり冷たくてびっくりする。
あ、でも。ちょっと気持ちいい。
「ふーあったかい」
「瑠美ちゃん、手が冷たい」
「顔が熱いから余計冷たく感じるんじゃない?」
「うー。そんなに真っ赤かな私?」
「クラスの皆が太鼓判押すことは間違いなしね。それにしても紅音、まだ私とお兄ちゃんとだと話し方違うよね」
「???……あ、もしかして敬語のこと?」
「そうそう。ま、お兄ちゃんのが先輩なのはわかってるけどさ。一年も一緒にいるなら私と話している時みたいなフランクさでもいいんじゃないかなって」
瑠美ちゃんがこういうことは言ってくるのはなんだか珍しい。
読者モデルの世界でも先輩後輩関係は厳しくて、どんなに苦手な人でも一緒に仕事をする以上はきちんと接するのが大事だって前に言っていたから。
「でも、やっぱり楽郎先輩は先輩だし。ただの先輩じゃなくて大好きで、すっごく尊敬してるから……」
「ストップ、ストップ。ストップ紅音。声にでてるでてる」
「あうっ」
きょ、教室にいることを忘れてまた恥ずかしいことをっ……!!
み、皆に聞かれてないかな?
「……いや、クラスのみんな誰かいることは知ってるんだけど……かわいいし、教えなくていっか」
「え、瑠美ちゃん今なんて言ったの?」
「ううん。気にしないで。はい、これで私の手も暖かくなったわ。ありがとう、紅音」
「私のほっぺ、湯たんぽじゃないよ?」
「ほっぺの柔らかさの分だけ湯たんぽよりも高級感あったし、もっといいものかも?」
「あれ、そういう話なの!?」
「よーっし今日も元気にHRはじめちゃうわよー!! みんなすわったーすわったぁー!!! あべぇしっ!?」
「「あ……」」
先生がいつも通り元気よく教室に入ってきて、教壇へ続く小さな段差に足を引っ掛けてしまい顔から倒れていった。
月に一度以上は見かける光景だから、クラスのみんなの対応はお手の物。ちゃんと着席して「先生大丈夫ー?」と軽い心配の声をあげる人がいて、クラス委員長と副委員長の2人が率先して先生に肩をかし、頭の上でひよこを回しいている先生を立たせる。
すっごく元気で生徒思い。ただ、時々壮絶におっちょこちょいになることで有名なのが、このクラスの担任。こんな感じだけど、実はフェンシングの有段者だったりする意外な一面もあって学校内では大人気の先生だ。
先生の登場で騒がしくなってから瑠美ちゃんは「またやってるわ、あの担任」と苦笑いを浮かべて私に手を振りながら自分の席へと戻っていく。
なんだか瑠美ちゃんと前よりもっと仲良くなった気がして嬉しいけど、ちょっと意地悪になったような気もして困っちゃう。楽郎先輩とのことがあってからこう、少しずつからかってくる回数が増えているような……でも、それ以上にいっぱい色んな相談にも乗ってくれていて。
そういえば、どことなくからかい方も先輩に似ているような。やっぱり、兄妹だからなのかな。
「…………」
私……ちょっと家族っていいなって思っている。これって、もしかして……?
ぶんぶんと頭を振っていったん忘れる。まだ顔が熱い気もするけれどそこも頭の隅に追いやって、ああ、こういうときはなんだか無性に走りたくなってくる。
先生にお願いしたら許してくれないかな。……共感はしてくれるかもしれない。でも「走ってきてよしっ! ただし、授業に遅れるのはダメっ!! 故に、隠岐さんは我慢すること。走り出したら止まらないわよね?」って笑顔で言いそう。うぅ、何も反論できない。
とにかく、今はHR中だし授業もすぐに始まっちゃう。なので他のことを、ちょうどいいから借して貰ったゲームのことを考えよう。
そう、あれはちょうど……少し前にシャンフロで楽郎先輩と一緒に遊んでいた時のこと。
◆
「あー、"秋津茜"。お前に合いそうなゲームを見つけたんだが、気晴らしにやってみないか?」
"サンラク"さんのセンター試験まであと一ヶ月くらいの時。受験勉強の合間にシャンフロを一緒に遊んでラビッツに戻ってくると、何やらゲームをおすすめしてもらった。
サンラクさんが勧めるとすれば、お付き合いを始めてからたくさんの難しいゲーム……サンラクさんの言葉を借りるなら”くそげー”を一緒にプレイしてきたので今回もそれかな。
「はいっ! サンラクさんがオススメするならぜひ!! えっと、今度はどんなクセのあるゲームなんでしょうか?」
「…………」
あれ。なんだかサンラクさんの表情が怪訝な感じに。じとーっと見られているような?
あ、今度は頭を抱えて唸りだした。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、なんというか……今までやってきたゲームがゲームなだけに最初からクソゲーが選出されると思われるのは仕方ないんだが、クソゲーを出してくると思われていることと、それでもプレイするって気概を見せられるこの気持ち。何度味わっても慣れないなと」
「あー、光と闇が合わさって最強、みたいな話でしたっけ?」
「いやまぁ、秋津茜にクソゲーを嬉々としてやるメンタルができあがるとたしかに最強だけどそうではなく。どっちかというと、害がないとわかっていても、光に闇っぽい何かを吸わせるのはいいのか悪いのかみたいな感じ――――ではなくっ!! 今回のオススメは言うほどそっち系じゃないから安心しろ」
「あ、そうなんですね! 早とちりでしたっ!!」
サンラクさんと初めて出会ったベルセルク・オンライン・パッションを初め、八割は難しかったというか「り、理不尽!? でも、負けませんからっ!!」みたいなものだったのでちょっと勘違い。でもきっと、”くそげー”とは言わない代わりに、何かとてつもなく難しい部分があるのは間違いないと思う。うん、なんだか燃えてきたっ!!
と、気を取り直したサンラクさんがベンチに腰を降ろしたので私も隣にお邪魔する。えへへ、ここは私だけの特等席……なんちゃって。
「あー、とりあえず質問なんだが、ソニック・ザ・ヘッジホッグって知ってるか?」
「そにっく、ざ、へぇっじほぉっぐ?」
「あ、絶対に知らない奴の反応だこれ」
「ま、待ってください! えっと…………んー、んー、はいっ!」
「ほい、秋津茜」
「すみません! 思い出そうとしてみましたが、残念ながら知らないみたいです! ゲームのタイトル、それとも何かのキャラクターなんでしょうか?」
ずでん、と。大げさにベンチから後ろへ転げ落ちてみせるサンラクさん。すごい、地面に頭だけで立ってる。
えっと、そにっく、ざ、へぇっじほぉっぐ。そにっく、ざ、へぇっじほぉっぐ?
頭の中で繰り返してみもピンと来るものはない。けど、ソニックという単語だけは聞き覚えがあるよう……。今までプレイしてきたゲームのキャラクターにはいないから、あとはお家のテレビが関係しているような気がする。そう、例えば――――お小遣いでは買えない昔からすっごく有名なキャラばっかりが集まったゲームのCMとか。
あれ、なんだか頭の中を風が抜けていくような感覚が。実は私、知っている?
「なんか、思わず古典的な反応をしなきゃって思っちまった。あー、秋津茜の考え通りゲームタイトルでもあるけど、どちらかと言えばキャラクター名だな。赤い靴を履いた青いハリネズミのキャラクター。ゲームはプレイしたことなくても、お茶の間のCMとかでちょっと見た覚えはあるんじゃないか? たしか最近だと、赤い帽子のおっさんでおなじみのあのキャラと何度目かの共演をするとかなんとか」
赤い帽子のおじさん。私が生まれるうんと昔から存在するアクションゲームの人気キャラクターだ。私が見た記憶があるのは、他ゲーム作品のキャラクターを集めたパーティゲームだったような気がする。学校の友達とゲームはしないし、ゲーム友達がこんなにたくさんできたのもシャンフロを始めてからだから、印象はちょっと薄めだ。
「あ、それなら見たことあるかもしれません。たぶん、サンラクさんの言ってるCMだったと思います!」
「じゃあちょっと見聞きしているけど、内容は全く知らないってことだな。ならちょうどいい。こいつはキャラクターのことも知らない方が楽しめるゲームだろうし。何より、秋津茜にピッタリなジャンルだからな」
「ピッタリ、なんですか?」
「おう。極論、走るゲームだからな。これ」
「走る! 走るのは大好きです!! 任せてくださいっ!」
大好きな人に勧められて舞い上がっていたのに、そこへさらに大好きなことを増やしてもらって気分は近所のアイス屋さんのおじさんにサービスで四段にしてもらった時みたい。予想外の嬉しさが重なるとちょっと飛び跳ねたくなっちゃうけど、サンラクさんの前だとはしたないかも……よし、ここは大人モードな私で我慢してみよう。
「え、ん? なんでガッツポーズのままプルプル震えてるんだ?」
「なんだか今にも爆発しそうなのでっ!!」
「そ、そんな笑顔で自爆宣言されても……あと、自爆芸は鉛筆だけでお腹いっぱいなのでステイな、秋津茜」
「了解です!!!」
「んー、嬉しさでバタバタ揺れる尻尾が幻視される。おかしい。我が家では虫しか飼っていないはずなのに犬を飼う気持ちがわかってくるような……久々に、犬を育てるあれをやろうかな。でもあれ、育て方間違えると最後首をまるごと食べられるんだよなぁ」
「わわ、くすぐったいです」
飛び跳ねそうなのを我慢していたら、何故か頭を撫でられている。
んー、サンラクさんのなで方が気持ちよくてなんて言っているか聞き逃しちゃった。えっと、尻尾? 尻尾好きなのかな。
「やっぱり狐面をしていると尻尾装備も必要だったりするんでしょうか?」
「いやまて、少なくとも俺にそんな性癖はないぞ……じゃなくて話を戻すぞ。走るのがメインのゲームで主な登場キャラクターは、青いハリネズミ、ソニック・ザ・ヘッジホッグだ。ゲームとキャラクターの簡単な概略説明は必要か?」
「はい! 是非お願いします!!」
私はビシっとガッツポーズしていた両手を両膝に移して、聞く体制を取る。それを見たサンラクさんがノリノリで鳥の頭の上からメガネをかけて先生みたいな決めポーズ。なんでもキラリといい感じに光るギミック付きのアクセサリーだとかなんとか。半裸で鳥の頭の眼鏡の先生、なんだか通報されそうな見た目ではあるけど、この説明モードに入ったサンラクさんの話を聞くのは、実は初めてではない。わかりやすい時もあれば、ちょっと難しい時もあるけど、いつも楽しそうにゲームについて話してくれるサンラクさんが大好きなので、このモードに入るがちょっとした楽しみになっているのは秘密だ。
「じゃ、まずはキャラクターの概略からだ。ソニック・ザ・ヘッジホッグ。ここからはソニックって呼んでいくが、さっき話した通りハリネズミをモチーフにしたキャラクターで、その特徴は音速を超える足を持っていることだ」
「音速! それは速そうですね!!」
「そう、そこが魅力の一つだ。ソニックの特徴は音速で走る足を用いたスピードアクションゲーム。スタート地点から爆速で駆け回って、要所にある敵や専用のアクションポイントを超えてゴールまで辿り着くことが目的で、このスタートからゴールまでのセットが各種ステージとして用意されている。このステージ攻略に、特殊なボス戦や合間にアドベンチャーパートを挟んであるっていうのが通例だ」
サンラクさんのお話は今日も絶好調でなんだか自然とワクワクする。
これまでにも何回かサンラクさんと一緒にゲームを遊んできたけど、こうして事前に知っておいた方が楽しい部分や、プレイに夢中になれるようなお話をたくさん教えてもらえる。
今も簡単に、ソニックさんの海外での人気やゲーム史について聞けてすごく楽しい。それはきっと、こうして長く続いてきた歴史の中で生まれたとてもたくさんの出来事や、次回作へと続いていく想いを感じられて、作りたいものに向けて直向きに走ってきた開発者さんたちの心に触れられるみたいだから。でも、私一人だとそういうことを調べるのはちょっと苦手なのでこういう機会は本当に嬉しくて――――あれ、もしかして、サンラクさんが話してくれるのって……。
「で、話を戻すと今回貸すゲームは、過去のソニックゲームとは大きく違う点がある。なんだかわかるか?」
「え、あ、違う……ところですか?」
質問されて考えてみる。ソニックさんを操作するのがいつも通りで、ステージを走って……でも、それとは違う何か?
「サンラクさん、ヒントを頂いてもよろしいでしょうか!」
「ん。そうだな、ヒントはVRゲーム、体感できるってところかな? それと、これはソニック初のフルダイブ型のVRタイトルだ」
VR。それもフルダイブ型で、体感。走るゲームをVRで。体感っていうのはきっと、VRの本質のことかな。
まるでそこが現実世界みたいに見えてしまうから。グラウンドや街並みを駆けるのとは違う。見慣れない森や洞窟を、普段の自分じゃできないアクションで走り抜ける感覚。現実じゃできない行動に、現実じゃ出会えないファンタジーなモンスター。それから、ゲームでしか関わらなかったかもしれない人たち。サンラクさんも、まさにそう。もし、シャンフロで。ううん。ベルセルク・オンライン・パッションですら出会っていなかったら。瑠美ちゃんのお兄さんって一面だけで初めて現実世界で"楽郎"先輩に出会っていたら。今の関係は違っていたのかもしれない。
――――でもきっと、楽郎先輩は素敵な人だから。好きになる過程が違うだけかもしれませんねっ!
と、そこまで考えてピンとくるものがあった。VRだからこその出会い。体感の仕方。それはきっと――――、
「間近にソニックさんを感じられるところ、でしょうか? それこそ、一緒に同じ速度で走れるとか」
「大・正・解! やるなー秋津茜、花丸満点を進呈しよう」
「えへへ、ありがとうございますっ!」
嬉しくて、また両手でガッツポーズを作ってしまう。今度は爆発体制に入る前に落ち着けた。
「続けるぞ? 元々のソニックは、2Dの横スクロールアクションで、各種ステージを攻略してストーリーも進行するタイプだ。CG技術が発達してからは、横スクロールから3Dモデルを利用した立体的なステージアクションに変わって、モデルを利用したアドベンチャーパートも追加されている。基本形はソニックや他ステージに対応したキャラクターを操作するのが主流だったんだが、折角のフルダイブVRだからな。間近にキャラクターを体験できる土壌があるなら、従来のキャラクターを操作する方向から、自分の体で走るって方向に舵を切ってみたらしい。特典にプロデューサーのインタビューがあったけど、その人がまだ子供の頃、カスタマイズした自キャラでソニック達と一緒にステージを走るゲームがあったらしくて、今のVR技術であれを超えるものを作りたかったって書いてあったから熱量も相当なもんだ」
「なんだかすごそうですね! それに、昔の憧れに挑みたいっていう気持ちはすごく共感できます!」
「ん、俺もわかるよその気持ち。というわけで、ゲーム前の雑談は以上だ。これ以上は野暮だから、後は自分で調べるか体験してみてくれ。あ、名前とアバターは任意で変えられるけど拘りがなければ呼びなれている名前と、
「? はいっ! わかりました!!」
よくはわからないけれど、サンラクさんのおすすめに沿うなら、このままシャンフロと同じ名前と姿にしてみよう。
と、それより一個だけ気になったことが。
「ところでサンラクさん。どうしてその、急にオススメのゲームを? それに、話を聞く限り一人用ですよね?」
「……………………」
「あれ? サンラクさん?」
ピシッと、石みたいに固まったサンラクさん。
こういうときは、何か隠し事をしているとか……言いたくない事がある時……もしかして、私が何かまずいことを?
ああ、いつもは私の髪とお揃いな鳥面の色がなんだか赤くなったような。
「えっと、言わなきゃダメ?」
「??? いえ、言いたくないようなことでしたら無理にとは」
「んー、んーーーーーーーーとりあえず保留で!!! てか、そうだ。そろそろ時間大丈夫か? いつもの落ちる時間だけど」
「え……あ、本当ですね。もうこんな時間」
以前の隠し事は、サプライズの準備みたいなことだったので、今回も何か秘密があるのかも。
名残惜しいけど落ちる時間がやってきたので、寂しいけどいつも通り元気にお別れしよう。
「とりあえず、ゲームは今週中に瑠美経由で渡すから暇なときにやってみてくれ」
「はいっ! 楽しみにしてますね!! 受験勉強でお忙しいのに、わざわざありがとうございます!」
「おう、気にすんな。ちょっとゲームの棚をじゃかじゃか漁ったくらいだ。大した手間じゃない……てか、そんなに楽しみか?」
「はいっ! ちょっと恥ずかしいんですが、最近私、サンラクさんとなかなか遊べなくて寂しかったみたいです! だから、サンラクさんが昔遊んだことがあって、それも私にピッタリのゲームを選んでくれて……なんだか、私のことわかってくれたみたいですごく嬉しいんですっ!!」
「っ!!!???!!!!??」
あれ、また固まってる。
受験勉強が終わるまでなかなか一緒になれなくて、今日みたいな日はすっごく嬉しくて、でもまた会えないのが寂しくて。
それも、あともう少しの辛抱。よし、明日も学校なのとなんだか恥ずかしいこと言っちゃったかもで私の顔が熱くなっている気がするから早く落ちよう。
「それでは、おやすみなさい! サンラクさん!! ソニックさん、楽しみにしてますねっ!」
◆
というのが、数日前の話。
今思い返してみると、ログアウトする瞬間、サンラクさんが何か言っていたような。
SNSに連絡もなかったので急ぎの用事ではなかったのかな。今度会える時には、ソニックさんも遊んでいると思うし、感想と一緒に聞いてみよう。
「ねぇ、紅音。そろそろ現実に戻ってこないと次の授業に遅れちゃうわよ?」
「あれ、瑠美ちゃん? まだHRじゃ…………え、みんなどこに!? 」
「HR終わってとっくに理科室に向かったわよ。何思い耽っていたかはわかるけど、ともかくそろそろ危ない時間よ、急いで」
「わ、大変!! 待っててくれてありがとう!」
「はいはい、廊下を走らない程度に急ぐわよ」
うー。ちょっと思い出しすぎたみたい……瑠美ちゃんがいなかったら危なかったかも。
ちょっと気持ちがふわついているから気をつけないと。
ソニックさんを遊ぶのは今夜。まずは今日一日、頑張るぞーー!!
秋津茜一人称への挑戦という無謀
でも、瑠美ちゃんと秋津茜の同級生会話書いてて楽しい。