秋津茜がVR版のソニック・ザ・ヘッジホッグで遊ぶようです。   作:REON☆天津風

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春風と青い疾風

 あれから、全力で走って転んだり、岩にぶつかったり、湖に落ちたり、前方向に一回転半して背中を打ち付けたりすること……何回?

 五十回くらいから数えてないけど、私はこの足装備を用いた全速力を発揮することができるようになった……なったのだけど、障害物がなければという条件がある。

 ところで、人は音速の世界で障害物を避けながら走ることができるのか? 私はさすがにできないと答えちゃう。

 プロの陸上選手がトップスピードで走るためにたくさんの努力を重ねて体を制御するように、速く走れる足だけ手に入れても普通は転んで怪我をするだけだ。それに、どうにかまっすぐ走れるようになっても瞬きしただけで目の前に迫る障害物には反応できない。音速って、一秒で340メートルも進むらしい?……から。

 

 でも、その無理を解決するために、このゲームには思考加速のアシストが入っているみたい。

 徐々に速度になれてきた頃、ある速度に突入すると流れる風景がそれ以上速くならなかったので間違いない。ただ、速度を出してからアシストが入るので物体との距離が近すぎるとさっきのように思考加速が入る前に岩にぶつかっちゃう。一歩目のギュンってところだけは、前に何もないことを確認することがコツみたいだ。

 システムのアシストが少しでも入ってくれるなら、走り続ければなんとかなるはずっ!

 

 と、制御の精度をあげるために森へ走り出したのが少し前の話。

 現在私は、森の中を大爆走中。

 

「いったい、どういうことなんでしょうーーーーーーーー!!!!!?????」

 

 迫る黒い影みたいな、モヤモヤのドラゴン……呼びにくいので、シャドー・ドラゴン。略してシャドラと呼ぶことにする。

 

「いっぱい考えるときは短い名前にするべきだって楽郎先輩が言ってましたからって、あっぶなーい!!!???」

 

 今度はシャドラからの妨害ではなく、目の前に迫った木にぶつかりそうになった。

 速度を緩めすぎると思考加速のアシストが切れて、再加速する時に追突事故が発生しそうなので木を避けるのも一苦労する。

 簡単にできる方法だと、ぶつかりそうな木を軸に右か左かに一回転してみたり、しばらく障害物がなさそうな道が見えればそっちに進路を変更してみたり、横っ飛びしてアシストが切れないように着地する足で再スタートをきるとか。

 

「はっ、はっ、スタミナがないのは助かりますが、いつまで続くんでしょうこれ!?」

 

 肉体的な疲れはないけど、全力疾走を続けるのはちょっと精神的にキツイ。ずっと何かに集中し続けるのが難しいの一緒だ。それに、足が速すぎて時間の感覚があやふやになっている。気持ち的に、一時間くらい走っている感覚だけど、たぶん実際は十分経過したかどうかなんじゃ……。

 後ろから襲いかかるシャドラ。十メートルはある体長のまま、森の上を飛んだり、木々を薙ぎ倒しながら低空飛行したり。初めに現れたときも、言葉も何もなく一目散に追いかけられたので、本当にどうしていいかわからない。だけど、このまま逃げ続けると私が先に潰れちゃう。たぶん、どこかにぶつかって。

 こういうとき……楽郎先輩ならどうするか。

 

「えっと、確か。"イベントが進まないのは重要なフラグを立てていないのが原因だから、まずは自分の行動を振り返るんだ"……でしたっけ?」

 

 行動、自分の行動。

 落ちて、泳いで、走って、転んで、走って……走って、追いかけられたからとりあえず走り続けて……あれ??

 

「あれ、そもそもなんで走っているんでしたっけ?」

 

 速度は緩めないで、ほんの一瞬だけ後ろに目を向けると、再びねじ切られた大木が槍みたいに飛んできたので進行方向を右斜め前へ変更して回避する。 

 ゲームのイベントで考えると、逃走劇みたいんだけど、こんな状況になってもゲーム的なアナウンスはないし、ウィンドウの類も表示されない。説明がないってことは、ゲームがおかしくなっていない限り、この先に何かイベントが存在するはず。

 時間いっぱい逃げることか。それとも、まだ試していない"アレ"か。

 

 気づけば、森を抜けて最初の湖まで戻ってきた。

 

「ここまで走ってダメなら」

 

 今は低空飛行しているシャドラが森から出てくる前に急ブレーキをかけて反転する。そのまま、全速力でダッシュ!!

 正面にシャドラ。速力は問題なし。急反転して視界はちょっとぐらついたけど、足とか体のどこかにダメージはなし。 

 思い出してみればこのゲーム、凄まじい速度が出ているはずなのに足をぶつけても、顔をぶつけても、痛いことに変わりはないが死亡判定はでない。

 ポイントは、動けなくなるような痛みにはならないこと。ヒットポイントの概念が今のところ見当たらないこと。

 そして最後に、とりあえずぶつかってみても大丈夫だろうという気合い!!

 

「まずはいっぱつ、」

 

 森からでてきたドラゴンへ向かって、更に一歩をダン、と踏み出す。

 今度は走るための加速じゃなくて、突撃するための一歩。パンチもキックも、全速力だと振りかぶる時間がない。

 なのでっ! 予備動作のいらない攻撃をっ!!

 

「おみまいしますっ!!」

 

 必殺、たぶんなんとかなるだろうずつきぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 

「■■■■■ーーーーっ!!!!??!!!?」

 

「い、いったぁあああああ――――――――!!???!!!!?」

 

 痛い。本当に痛くて頭を抑えてのたうち回る。お皿の割れたカッパさんでもここまではならないと思う。

 でも、ひとまず効果があったみたいで安心。シャドラが影っぽいから、すり抜けなくてよかった。

 ずつきを受けたシャドラはその巨体を大きく吹き飛ばされて、森の木々を薙ぎ倒しながら仰向けに倒れている。

 それにしても、最初に岩に激突したときの痛みが頭に来るこの感じ。いや、それ以上なのと首も合わせて痛い。頭からつながる骨とか筋肉とか全部痛い。耐えられるとは言っても、さすがにずつきはまずかったかもしれない。なんだかお星さまがみえそう。流れ星ならお願い事しないと。

 

「いたい、いたいですぅ……首が折れてるみたいな――――ん。あ、折れてたら喋れませんねっ! では、失礼します!!」

 

 痛みはあるけど、チャンスでもある。ずつきを受けたドラゴンは胸を抑えて地面をのたうち回っている。轟声に不自然な呼吸と時折無音のタイミングがあるから、もしかして肺を痛めた……みたいな感じになっているんだろうか。

 疑問に思いつつも、速く走れるなら高くも飛べるだろうと直感的に大ジャンプしてみる。どうやら大当たりで、大砲が空に打ち出されたみたいに、私は青空へと近づいていく。

 何百メートルの高さになるかはわからないけど、とにかくてっぺんまで到達した。今にして思うと、最初に落下スタートしたのはもしかして、落下ダメージが基本的にないことを教えるためだったり……いえ、細かいことは後で。今は、楽郎先輩の教えを活かす時。

 たかーくジャンプできるなら、その高さ分落下する。つまり、

 

「高さはダメージって言ってましたっ! これでおしまいですっ!!」

 

 数百メートルの高さから繰り出される落下エネルギーを乗せた私のキックが、何の魔法演出もないはずだけれど、雷みたいに轟いた。キックが衝突した爆発音と、崩れた地面のガラガラとした瓦礫音だけが鳴り響く。

 シャドラは動かなくなって、モヤモヤとした影を塵のように飛散させながら、流れる風にのって消えていった。

 

「や、やりましたっ!」

 

 思わずうれしくなってガッツポーズをとる。

 逃げるんじゃなくて、まずは戦うこと。やっぱり、やってみることが大事なんだ。

 さて、これできっと何かアナウンスがあったり、イベントが進んだりするんじゃないかな。そろそろソニックさんにも会ってみたいし……ん、なんだかさっきまで聞いていた音が。

 あ、はい。木々の影から、こんにちは。さっきぶりではないですね。復活したんじゃなくて、また別のシャドラさんで。確かに、ちょっとおめめの雰囲気が違うかも……みたいな。え、湖からも。あ、お空からも。みなさんそっくりで、もしかして3兄弟? さっきの方も入れて4兄弟とか?

 

「……これはその…………もしかして、二ラウンド目ということでしょうか?」

 

 地面に突き刺さって少し痛い爪先をなでながら、たぶん私の顔はひきつっている。

 そしてこちらの都合もお構いなしに、三体のシャドラがジリジリと近づく。

 

「さ、さすがにそれはズルくないですかーーーー!!??」

 

 あんまりな結末を否定すべく、とにかく走らなければと足に力を籠めた。

 と、その時。なんだか青っぽい風に覆われて、目の前に広がる風景が"切り替わった"。

 

「へ――――?」

 

 瞬きをしたつもりはない。けど、三体のシャドラの中心にいた私は、いつの間にか包囲網を抜けて、最初に私がぶつかった何の変哲もない岩の上にいる。

 岩に足はついていない。私は、私の足で立っていない。

 私は――――青い風に抱えられていた。

 

「Hey、危機一髪ってところか?」

 

「え、あっ!?」

 

 その姿をみて、ようやく物語が動いたのだと理解した。

 全体的に青いシルエット。ハリネズミモチーフの鋭いトゲの頭。私を支える白い手袋の手と、大きな瞳に、赤いシューズ。

 

「もう、大丈夫だ。さ、ここでちょーっとだけ待ってろ。すぐに片付けてくるからさ」

 

 抱えられていた私は丁寧に岩の上に降ろしてもらえた。いつの間にか、ハンカチまで引いてある。

 岩の高さは、ちょうど竜の影と同じくらいの目線で、三体、六つの瞳がまっすぐこっちへ向く。どうして私を狙っているのかはわからないけど、標的はあくまでも私。パチっと、視線が交錯する感覚がした。そして、その一瞬はこの人(?)にとっては、あくびがでちゃうほどの隙だったみたい。

 

「Ready ――――Go!!!!」

 

「きゃっ!?」

 

 再び巻き起こる青い旋風に思わず目を瞑る。

 目を開けるとそこには彼がいない。

 左右を見渡しても。どこにも、彼の影さえ見つからない。

 また、風が吹く。

 そうして、やっと見つけた。いつの間にか減ったシャドラのうち、最後の一体に向かって空中で蹴りを入れている彼の姿が。

 

「いっちょあがり、ってな」

 

 ほんの少し瞬きをしただけで、二体は消え。空に逃げたらしい一体が今、空中で放たれた踵落としによって消滅した。

 今視界に映っているのは、どんなもんだと空中で鼻をこすっている彼の姿だけ。

 

 ところで私は、彼について簡単にだけど事前に知識を得ている。

 音速で走れる青いハリネズミで、私が生まれるよりもずっと前から存在する人気キャラクター。

 今助けてくれたみたいに、困っている人を放っておけないヒーローだ。

 なんだけど……、

 

「あのー!! すみませーーーーん!!」

 

「うん? なんだーーー!!?」

 

 ちょっと距離的に遠いのでお互い大声で会話する形になってしまう。

 けど、彼に関するある記述を知っている身からすると、この状況は不味いのではと思いさらに大声を出して聞いてみる。

 

「下、湖ですけどーーーー! 大丈夫ですかーーー?」

 

「…………」

 

 空中にまるで立っているような姿勢で下を確認する彼。

 視線をこちらに戻すと、両手を広げて見せた。あれは多分、お手上げのポーズ。

 彼の未来は、このまま湖へ落ちること。ちなみに、ハリネズミは一応泳ぐことはできる。正確には、溺れないように水を掻いて進むことができるなので、泳げるという認識は間違っていて、この辺りは動物保護団体でも一時期問題になったみたい。

 つまりその、何が言いたいかと言うと――――――、

 

「Nooooooooooo!!!!!!!!」

 

 彼は、泳げないらしい。

 

 

「げっほ、っげほ……さ、サンキューな」

 

「いえ、助けられてよかったです」

 

 あの後、私は湖の真ん中へと落ちていった彼をどうにか引き上げた。

 水中でもがくこともなく、本当にそのまま沈んでいくのはちょっと怖かったのでやめて欲しい。

 

「いやーマジたすかったぜ! それにしても、なんでこんなところに? この辺り、街も村もなーんにもないぜ?」

 

「アハハハ……何故でしょう…………」

 

 穴から落ちてきたくらいしか情報を持っていないので、何も説明できない……。

 

「ふーん。迷子ってわけか。じゃあ、さっきの奴も知らないのか?」

 

「はい。いきなり襲いかかってきました」

 

「んー、訳ありって感じだな。All right。それじゃ、オレについてきな。その様子じゃ行く宛なんてないんだろ?」

 

「え、いいんですかっ!?」

 

 私、結構怪しく見えると思うのに、びっくりするほど優しい。というか、懐が広いと言うか。これが、世界的なヒロイックキャラクターっ!!

  

「of course!! もちろんさ! ちょうど、あの影っぽい奴らを倒してテイルスの秘密基地に帰るところだったしな。戻ったら色々聞かせてくれ」

 

 本当に怪しむ素振りもないし、何か気にする様子もない。本当に自然体で、風みたいな人だ。

 これは確かに、フルダイブで一度は経験してみたい感覚かもしれない。

 すっごく流暢にお話できるし、目の前にいるっていう質感もすごい。たぶん、シャンフロのNPCにも負けてない気がする。

 

「おっと、その前に――――――――」

 

 ついてきなと走り出しそうだった彼がピタリと足を止めてこちらへ振り向いた。

 そして頭をかきながらこっちへ右手を差し出す。

 

「悪い。自己紹介がまだだったぜ。オレはソニック! ソニック・ザ・ヘッジホッグだ。」

 

「あ、そうですね! えっと、私。秋津茜っていいますっ!」

 

 差し出された右手を私も右手で握り返して、しっかり握手を交わす。

 なんだかこれから冒険が始まるって感じがして、すっごくわくわくしてくるっ!!

 

「OK! 秋津茜、だな。よろしく頼むぜ。あのドラゴンから追いかけ回されてたんだ。オレの足にもついて来られるだろ?」

 

 ザ、と。こちらに背を向けてスタートの構えを取るソニックさん。

 後ろ目に「速く来いよ」と視線で訴えかけてくる。

 これはつまり、

 

「競争、ってことですねっ! いいですね、負けませんよっ!!」

 

 ソニックさんの横に並んで、私もスタートの構えを取る。

 慣れ親しんだ、クラウチングスタートの構えを。

 

「いいね。闘争心をビシバシ感じるぜ。それじゃ、3カウントでスタートだ。いくぜ――――3、2、1、Here We Go!!」

 

 辺りに旋風を巻き起こしながら、私はソニックさんと駆け出す。

 ソニックさんの世界で始まる冒険が、今ようやく、動き出した。

 

――――ところで、チュートリアルとかってまだなんでしょうか?

 

 

 

 その日、全世界のソニックファンに激震が走った。

 来年冬発売のアナウンスと共に公開された新作のティザー・ムービー。

 ソニック、テイルス、ナックルズ、エッグマン、ルージュ、シャドウ。

 ティザー・ムービーにも関わらず、ソニックシリーズの名キャラクターの登場を確定させる演出。

 音速の走り、メカニック、トレジャーハンター要素。多くの要素を含みながら、追加キャラクターとして黒いシルエットだけ出された他キャラクター達。

 その全てに、今や神ゲーの名を確立するシャングリラ・フロンティアの技術が使われている事実。

 それは、新作のフルダイブ版ソニックであり、ソニックたちとより濃密な交流を、熱い冒険を繰り広げるための土壌が固まったという神託だった。

 

 界隈は大熱狂。

 SNSはお祭り状態。

 期待に胸を膨らませ飛び交うファンアートに、待ちきれないと熱狂する声。

 

 例え、当時の2Dアクションゲームを。CG技術発達期の3Dアクションを体験した人々が、現代にどれだけ少なくとも。

 例え、現代を生きる人々が当時のゲームを遊ぶことを選んでこなかったとしても。

 ここまで繋いできた想いが、ソニックという意思を継承してきた願いがこの日、一つの形として花開いた。

 

 だからこそ、隠岐紅音は気が付かなかった。

 プレイ前の調査をすることが少ない彼女にとって、目に入る状況は常に、ライブ感な情報ばかり。

 熱狂的なSNSの雰囲気に隠れていたか。それとも、これから降り注ぐ夢よりも、今流れ着いた夢を目指したためか。

 ティザー・ムービー公開後。現、VRソニックの公式サイトに一つのニュースが公開された。

 

 紅音も、ゲームを貸した楽郎すら未だに知らない新情報。

 新作のソニックに隠れた、"今作"に関するアップデート。

 その内容は、

 

 『VRソニックの新規アップデート情報。SE○AとUES(ユートピアエンターテイメントソフトウェア)との共同開発によって誕生する新VRソニックを祝い、現VRソニックにも技術提供を頂きました。今晩よりゲームを開始いただければ自動でアップデートされますので、新VRソニックで活用される技術の一端をお楽しみください』

 

 その日。音速の世界が、神ゲー(シャングリラ・フロンティア)を纏った。




実際、ソニックたちとシャンフロの質感レベルで会話できるなら私は遊びたい。
それもまた、この小説を書くモチベーションの一つ。
二次創作者はいつだって自分が読みたい物語を書くんだ。
※今後のお話については活動報告をこれから書きます。
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