NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト 作:祝井
また、「小説 仮面ライダージオウ」は諸事情で通過しておりません。
起「アナザースタート2018」
「これは何だ、加古川飛流?」
「……すいません」
独特なイントネーションで呼ばれるのもすっかり慣れた高校三年生二学期序盤。つまり2018年9月28日金曜日。
城南高校の社会科準備室。そこを自室としている社会教師の寺井戸大介先生──通称ティード先生と3年A組に所属する加古川飛流は進路面談をしていた。
その二人の間の机に置かれていたのは一枚の書類。いくつか志望校を書き込む枠があるが全て空白になっている。
「お前にはやりたいことも夢も無いのも分かってるがなぁ」
「俺もせめて大学は選びたいんですけど、どれも魅力的に見えなくて……」
「それ他の奴には言ってないだろうなぁ? お前確実に病院送りだぞ?」
「アタル達ぐらいにしか言ってませんよ」
「久永アタルに鼓屋ツトム、それに遠藤タクヤか。アイツ達になら良いが……な?」
「分かってますよそのくらい……」
つい溜息を吐いてしまう飛流。見かねたティードはフォローしようと口を開く。
「まぁいい。まだ時間はあるにはある、俺はお前が笑顔になれる進路を選べるように協力するだけだ」
「……ありがとうございます!」
「それが俺のタスクだからな」
あっ、いつもの照れ隠しだ、と飛流は口に出さなかった。
ティード先生は良い先生である。どんな生徒にも真摯に寄り添ってくれる。
隙あらば遺跡について熱心に話して授業を一時間潰すがそこはご愛嬌である。内容がわりと面白いからいいのだ。
笑い方が結構怖いがそこもご愛嬌。マジでビビる時もあるけど。
「んで、学力については問題無しと。かなり色んな大学に行けるだろうな」
「みたいですね」
正直言って、自分がどうしてそんなに勉強に励んでいるのか飛流には分からない。部活にも入らなかったし。
俺は何かがぽっかり抜けているんだ。そう思ったことは幾度もある。
でも親はいる。友人もいる。何が抜けているのかてんで見当がつかなかった。夢は無いとはいえ。
「他に何かあるか?」
「無いです」
「そうかぁ……。んじゃあお疲れさん」
「ありがとうございました」
使わせてもらっていた他の先生の椅子を立って外に出る。次の人はいなかった。
「次のやつ来てるか?」
「来てないですね」
「それもそうか、いつもお前との面談早く終わるし。……じゃあちょっと駄弁るか」
「また遺跡の話ですか?」
「お前は何か他に話題あるか?」
せっかく振られたのでうーん、と考えてみる。遺跡の話はやはり面白いのだが、いかんせん長くなりがちである。次の人に迷惑をかけるのは避けたい。
あ、とふと浮かんだことを聞いてみる。
「どうしてティード先生は"ティード"なんですか?」
「何だ、哲学的な話か?」
「いやあだ名の話です」
「そっちか」
言ったこと無かったかぁ、と首を捻るティード。少なくとも俺は覚えが無いです、と首を振る飛流。
「なら久永アタルか兄貴のシンゴあたりに言ったんだなぁ」
「一人で勝手に納得しないでくださいよ」
「悪い。……俺のこのあだ名は月読織次ってのが名付けたんだ」
「つくよみおるつぐ?」
「ああ。漢字がこう」
お土産屋に売っていたであろうメモ帳に名前を走り書きしてそれを見せてくれる。そこそこ達筆である。
「で、自称がスウォルツ」
「結構無理矢理ですね」
「ああ。スウォルツには気に入った奴にそんな無理矢理なあだ名を付ける習性があってなぁ……」
習性て。それの犠牲となったが故のティードなんだろうが。
「アイツは今隣の光ヶ森で社会科と進路指導部長をやってるが、その習性は今でも生徒を襲うそうだ」
「どこでそんな人と知り合ったんですか?」
「遠い親戚なんだよ」
「へぇ……」
「そういえば最近アイツと話してて一番面白いのがな」
「面白いのが?」
「光ヶ森には王様になりたいって生徒がいるらしい」
「……はい?」
飛流は耳を疑った。俺も最初に聞いた時そんな反応だったよ、とティードは笑う。
「政治家になりたいわけでも無く、天皇になりたいとか阿呆言ってるわけでも無く。ただただ王様になりたいんだと」
「それの方がアホでしょう」
「そりゃそうだがぁ……」
まぁいい、と話を一旦打ち切る。
「お前はそうなるなよ? そんなあやふやにも程がある夢よりもっとお前に相応しい夢を探してやるからさ。……最後に決めるのはお前だが」
「ありがとうございます」
それに言われなくてもそんな進路取りませんよ、と飛流が笑うとそれもそうか、とティードも笑った。
ただ、飛流はその同級生を少し羨ましく思った。そんな滑稽な夢だろうと見れたらいいな、と思ってしまう。
王様、というのに何かを感じたからかもしれない。その何かは自分でも分からない。でも、夢を見つけられたときにはそれも分かるかもしれない。
と、ここでノックの音が。
「来たみたいですね」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「はい。さようなら」
「さよなら。また来週」
頭を下げた後、飛流は次の人と入れ替わるように外へ出て床に置かれた荷物を回収、昇降口へ向かった。
昇降口はガラ空きだった。同級生達は先に帰って勉強しているか、教室で勉強しているか。後輩達は大抵が部活だろう。
横断歩道を渡った後、少し明かりの入りづらい路地を通る。
いつもなら人のいないそこに一人の中性的な女性がいた。顔立ちは整っている。が、目を引いたのは驚くほど真っ白な服だ。とても長いマントも特徴的で。
なんだろうか。飛流は少し気にはなったが、職業を調べることにしていたため足早に帰ろうとする。
しかし女性は飛流を一目見るとすぐに話しかけてきた。
「キミ、悩み事があるね?」
「無いです。急いでるので失礼し──」
「キミには夢が無い。違うかな?」
何、と通り過ぎた女性の方を向く。言い当てられた。
「それもだけど、君は何か大切なことを忘れているんだよ」
「大切な……」
「知りたくないかい?」
女性が口元を歪めて続けた言葉。手のひらに収まる程度の黒い物体を差し出してくる。それに飛流は少し惹かれた。かつて自分の空洞を埋めていたものを知れる気がして。
そして頷いた。物体を手に取ってしまった。
その瞬間、物体が禍々しく輝いて絵が浮かび上がる。飛流はこれを知らないはずなのに知っていた。
「使い方は知ってるはずだよ」
勝手に、いや無意識に飛流の人差し指が物体のスイッチを押す。少女の言う通りだった。
〈ZI-O!II!〉
丹田の右真横。そこへ導かれる物体__アナザージオウIIウォッチ。
すると時計のバンドのような帯が繭のように飛流を包み込み、身体を変質させていく。
帯が消え、飛流だったものが姿を現す。
飛流が変貌したのは、醜い顔や弛んだ肉体をプロテクターで覆い隠した灰色のアナザーライダー。裏の王強化体・アナザージオウII。
「まさに再誕の瞬間って感じだね」
女性がニヤニヤと見守る中、アナザージオウIIは頭を抱える。
洪水のように情報が流れ込んできた。
白い服の女。大破したバス。中年の男性と共に歩いて行く同い年の少年。右肩が露出した紫色の服を着た男。差し出された手にはブランクウォッチが握られていて。そして──
「常磐ソウゴォ……!」
二度の敗北の記憶。それが全てを塗り潰した。この世界での記憶さえも。
「紹介が遅れたね。ボクはタイムジャッカーのフィーニス」
「タイムジャッカーだと?」
アナザージオウIIは女性──フィーニスの首を掴み上げる。
「また俺を傀儡とするつもりか!!」
「いや、そんなことは無いさ。スウォルツとは前に組んでたけど離反したし」
その言葉を信じて手を首から離す。それに、とフィーニスは続ける。
「ボクも常磐ソウゴには痛い目に遭わされててねえ」
「そうなのか……」
「でも復讐するにはボクの力だけじゃ足りない」
だからキミの記憶を戻したのさ、とアナザージオウIIの頭を指で突っつく。
「キミが復活したことでアナザーウォッチがいくつかこの世界に誕生した」
こんな風にね、と右手にアナザーウォッチを一個取り出して見せるフィーニス。アナザーダブルウォッチだった。
「まずはそれを回収するのか?」
「それはボクがやっておこう。飛流、キミは常磐ソウゴを襲うんだ」
「それではお前の復讐が──」
「今の戦力を確認するためさ。それによってやり方も変わってくるだろう?」
「確かにそうだ」
確かに一度の襲撃で奴を倒せるとは思わない。それにこちらは情報が圧倒的に足りないのだ。
「なら早速行ってこよう」
「頼んだよ、我が友」
「ッ、ああ!」
頷いたアナザージオウIIは時計のエフェクトに紛れて消えていく。それを見守ったフィーニスはクックッと笑う。
「まさかこんなにチョロいとはねえ」
あのウォッチは暴走しやすくしてるとはいえ、と更に笑みを深くする。
「さあて。上手く踊ってくれよ、ピエロ君」
フィーニスの左手には、アナザーダブルウォッチとは別の、ひび割れたアナザーウォッチが握られていた──
『NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト』
ピリリリ、とガラケーが着信音を鳴らす。ティードは相手を確認して電話に出る。スウォルツだった。
「どうしたスウォルツ、こんな時間に」
「聞いてほしいことがあってな。お前の拒否は認めん」
「それはいいが手短にな。帰る準備中なんだよ」
「分かった。あのだな──」
「ああ」
「増えた」
「何がだぁ?」
「救世主が」
「お前も疲れてるんだな……」
「オイ待てティード。ティードお前!!」
受験生を大量に抱えてたり大学側との連絡なんかも大変だからそのストレスは分かるが、幻覚についての相談は範囲外だよ。
そう思って電話を切ろうとするがうるさい。仕方なく続けることにする。
「うん、待つから音量下げろよな」
「すまない。……トンデモな進路については常磐ソウゴという前例がいるだろう?」
「ちょうど反面教師として生徒に話したばかりだな」
「何話してるんだ……それはいい。救世主の話だ」
「そんなこと言い出したの誰だよ?」
「明光院景都だ」
「オイ何馬鹿なことを──」
「マジだ」
その"王様"の親友でありクソマジメで、そして柔道選手として将来を切望されていた明光院景都が。
マジか、とティードは思う。でもそれと同時に納得も。
「明光院君、怪我して柔道出来なくなったもんなぁ……」
だからといってそこに行き着くのは首を捻るところだが。そうティードが思っているとスウォルツは違う、と言ってくる。
「何が違うんだ?」
「おそらく救世主志望とその事故は直接関係はしていない」
「じゃあどうして」
「常磐ソウゴだ」
あー、とまた納得する。
「類は友を呼ぶからなぁ。元々明光院君もアレだったんだろ、多分」
「そうか? お前には明光院と常磐が同類に見えるか? ん?」
「何となく」
「何となくで済ます問題じゃないんだが!?」
またうるさくなってきた。時間もそこそこ経ったので適当に言って切ろうとする。
「まぁアレだよ、進みたい道進ませてやれよ」
「お前他人事みたいに!! 実際そうだが!!」
「そんじゃ頑張れよ。……ざまぁ味噌汁」
「オイなんだそ──」
切った。それと同時に笑いがこみ上げてくる。
「カッハハハハハ……アーッハハハハハ!!」
思わず手を広げ、叫んでしまう。ポケットから何かが転げ落ちるが気にしない。
「うるさいよティード」
「あっ悪──」
時が止まる。どこからかフィーニスが現れ、ティードのポケットから転げ落ちたものを拾い上げる。アナザークウガウォッチだ。
「久しぶりだねえ、同志」
止まった時の中にいるフィーニスの声は彼に聞こえることはない。
かつてタイムジャッカーだった彼は、その記憶と力を失ってしまっていた。
「キミに力と記憶を取り戻してあげてもいいけど……」
フィーニスは先程まで恐ろしい笑みを浮かべていた顔を近くでじっと見つめる。今は萎縮しているが。
「ま、いっか。これはこれで幸せそうだ」
少し嬉しそうに微笑んで、フィーニスは消える。その直後、時は動き出した。
「──い」
パッポー、と鳩時計の音が聞こえた気がした。
「笑い声の音量は抑えるべきだとずっと言ってるんだけど?」
「今回は本当に面白かったんでなぁ」
「それはそれで気になるねえ──」
○○○
何故かスウォルツ先生から説教をいただいた後、普通に下校中の常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待ってたり待ってなかったりするが──
「常磐ソウゴ……!」
「えっ、はい俺だけど」
「常磐ソウゴォォォォォ!!」
「えっちょやばぁぁぁぁぁ!!」
アナザージオウIIに襲われ、絶賛大ピンチである。
「俺何かしたぁぁぁぁぁ!?」
ソウゴはかごの中の学生鞄を捨てて自転車で逃げようとするが、アナザージオウIIはそれを予知したかのように回り込む。そのため前輪が身体に当たるが、気にすることなく進みを止める。
「終わりだ、常磐ソウゴ……!」
「もう駄目ぇぇぇぇぇ!!」
振り上げられる長槍。それはソウゴの身体を真っ二つに──
〈エクシードチャージ!〉
「ハァッ!」
「何!?」
することは無く。アナザージオウIIの身体に円錐状の赤いポインティングマーカーが突き刺さり、その身体をその場に縫い止める。
アナザージオウIIを撃ったのはソウゴの友達の月詠有日菜、通称ツクヨミだった。
「大丈夫──じゃなさそうね常磐君!」
「ツクヨミ、それ何!?」
「ウォズさんから貰ってたの! そんなことより変身しなきゃ!」
「うん!」
有日菜の言葉に応じたソウゴは、先程投げ出した学生鞄の中からドライバーとウォッチを取り出す。有日菜は既にドライバーを付けている。
「行こう!」
〈ジクウドライバー!〉
〈ジ・オウ!〉〈グランドジオウ!!〉
「うん!」
〈ツクヨミ!〉
各々のウォッチを起動して装填、その勢いでドライバーを回す。
「変身ッ!」「変身!」
〈グランド・タァイム!〉
〈ライダー・タイム!〉
ソウゴの身体は黒いボディスーツに、有日菜の身体は白いボディスーツに包まれる。
更にソウゴの身体の各部に金色の物体が二十個貼りつき、そこからレジェンドライダー達が姿を見せる。
〈カメン"ライダー"ァァァァァ!!〉
〈カメン♪ "ライダー"・ツクヨミィ♪〉
ピンクをベースに金色の縁取りがなされている"ライダー"と、三日月のような"ライダー"を模した黄色の複眼がそれぞれ二人の顔面に貼り付いていく。
〈グランド!ジ・オォォォォォウ!!〉
〈ツ・ク・ヨ・ミ♪〉
ソウゴが変身したのは黄金の鳩時計のごとき仮面ライダー。平成1号ライダー全ての継承者・仮面ライダーグランドジオウ。
有日菜が変身したのは顔のパールが眩しい白い天使のような仮面ライダー。美しく気高き女戦士・仮面ライダーツクヨミ。
「お前も変身できるのか……!?」
「答える義理は無いわ!」
「答えるも何も無いじゃん!?」
困惑するアナザージオウIIに殴りかかる二人のライダー。しかしギリギリではあったがかわされてしまう。
更に追撃をかけるがまたかわされる。ジオウは反撃も食らってしまう。
「どうして当たらないの!?」
「未来が予知されてるんだ! 何となくだけど!」
「確かに常磐君の勘はいつも当たるけど……!」
「何? お前、そんなことを忘れていたのか!!」
怒りによって、急にアナザージオウIIの攻撃が激しくなる。だがそれは、ジオウの言っていたことは正しいという反応でもあって。
「勘は合ってたってことね……!」
「カラクリも分かった! ならこれで!」
〈ゴースト!〉〈エグゼイド!〉
攻撃をいなしながらジオウは左腰と左胸のライダーレリーフを起動し、更にアナザージオウIIに攻撃をしかける。
「前のような無様は晒さない……!」
アナザージオウIIは未来を見る。ジオウとツクヨミの攻撃を悠々と回避し、自分の二刀流で二人を地に伏せさせる未来だ。
「見えた!」
長槍を長剣と短剣に分離させ、ジオウの攻撃を待つ。ジオウの拳が近づいてきて──
「はぁっ!」
避けられない。いや、体が動かない。そのままパンチを受け、よろめいてしまう。
「何故だ、俺の未来はこんなものじゃ……」
「見えない相手の未来は、文字通り見れないんじゃない?」
ジオウの言葉とともに仮面ライダーゴースト・オレ魂と仮面ライダーエグゼイド・アクションゲーマーレベル2が姿を現す。それぞれ霊体化能力とエナジーアイテム・透明化の力で姿を消していたのだ。
アナザージオウIIは裏拳一発で彼らを倒してジオウへ吠える。
「ふざけたことを!!」
「未来予知の方がふざけてると思うんだけど!」
未来予知も使わずに突っ込んでくるアナザージオウIIをジオウとツクヨミは蹴りで迎撃。地に伏したのはそちらだった。
「行くよツクヨミ!」
〈フィニッシュ・タイム!〉〈グランドッ!ジオォウ!〉
「ええ!」
〈フィニッシュ・タイム!〉
ジオウとツクヨミがドライバーを操作し飛び上がる。ジオウの背後には、19人の仮面ライダーが。
「またか……また俺はぁぁぁぁ!!」
最後まで抵抗しようとドライバーをなぞり、右の拳にエネルギーを集中させる。しかし。
〈オールトゥエンティ!〉〈タイムブレーク!〉
〈タイムジャック!〉
19人のライダーの蹴りがアナザージオウIIに突き刺さる。そのダメージでエネルギーが霧散する。
そしてトドメに叩き込まれるジオウとツクヨミのライダーキック。
アナザージオウIIは爆発し、加古川飛流の姿へと戻される。彼から排出されたウォッチは砕け散った。
「また、こうなるのか……!」
「ねぇ」
変身解除したソウゴが立ち上がろうとする飛流に近づいていく。
「俺のこと知ってるの?」
「……今何って言った!!」
制服の襟元を掴み上げる飛流。ソウゴは内心ビビりながらも飛流の目を見る。
「俺のことを知ってるのか、って言った。俺は君と会った記憶は無い」
「なら俺のことを知らないのか!!」
「ごめん。……君は誰なの?」
「俺は──」
言葉を続けることなく、飛流はソウゴを突き放して逃げてしまう。
「痛ッ、待って!」
「待ちなさい!」
飛流を追いかける二人。その二人が消えた後、砕けたはずのアナザーウォッチが再生していく。時が巻き戻ったかのように。
「やっぱり、負けたねえ」
そう呟きながらアナザーウォッチを拾い上げたのは、いつの間にか現れたフィーニスだ。
「でもタスクは果たしてくれた」
それには感謝しなくちゃねえ、と懐から更にアナザーウォッチを二つ取り出す。反応し合う三つのアナザーウォッチを見てフィーニスは笑みを浮かべる。
しかしアナザージオウIIウォッチがふわふわと離れていこうとしてしまう。先程飛流が走って行った方向だ。フィーニスは急いでウォッチを仕舞い込む。
どこまでもアナザージオウというわけか、彼は。
「余計な演技をするピエロには退場してもらおう」
また別のアナザーウォッチをいくつか取り出し起動。そのまま空に放り投げる。
〈OOO……!〉〈BUILD……!〉〈EX-AID……!〉〈FAIZ!〉〈GHOST!〉
契約者も無く作り出されるアナザーライダー達。彼らは飛流を探すために散開する。どこにいるかがわからなくても問題無い。アナザーライダーは力を失くしたとしてもアナザーライダーと惹かれ合う。
飛行、ワープ、高速移動、霊体化。他のアナザーライダーが自らの能力を発揮していく中、アナザービルドだけそのまま走っていく。あ、転んだ。
「……それじゃ追いつけないだろう」
呆れ顔のフィーニスの指摘にアナザービルドはしょうがなさそうにオレンジ色と灰色の成分が入ったボトルを取り出し、それを呑み込む。
「鳥人間・クレー射撃! ベストマ〜ッチ!」
叫んだアナザービルドの背からオレンジ色の羽根が生え、それを羽ばたかせて宙を飛んで行った。先程のようにミスをしなければいいが。
それを見届けたフィーニスは更にアナザーライダーを増やしていく。
〈ΑGITΩ!〉〈DEN-O……!〉〈DOUBLE……!〉〈FOURZE!〉〈WIZARD!〉〈GAIM!〉
「君達はアレの確保を。おそらく沢芽市に残っているはずだからね」
アナザーライダー達はアナザー鎧武の作り出したアナザークラックに入っていく。
「本郷猛。キミが歪めた歴史を作り直させてもらうよ」
○○○
「はぁ、はぁ……」
無様に敗北した加古川飛流。何とかソウゴと有日菜を撒いたものの、体力はもう無い。流れの速い川の流れる橋へたどり着いていた。
狂気ももう無かった。常磐ソウゴへの恨み辛みはとりあえず薄れ、周囲への申し訳なさに隠れている。
「父さんも母さんも、アタル達も、フィーニスも心配してるだろうな……」
連絡手段は無い。あの路地に置いてきてしまった。フィーニスが回収してくれていればいいのだが。
「とにかく帰ら──!?」
飛流の目の前に突然異形が現れた。
闇夜に浮かび上がるのはゴーグルからうっすらと見えるオレンジ色の眼。アナザーエグゼイドだ。
背後に次々とアナザーライダーが数体到着する。戸惑っているうちに囲まれてしまう。
そんなことができる人間に飛流は心当たりはあった。あってしまった。
また俺は裏切られ、利用されたのか。
「がっ!?」
失望が怒りに変わる時間もなく、前に出てきたアナザーゴーストに首を掴まれる。
あの世界での死を思い出した。青色のトンボのような異形。それがたくさん、醜く呻きながら飛流に飛びかかる。アナザージオウの力を失っていた彼に防ぐ術は無く、そのまま身体を貪り尽くされた。
青くなる飛流の顔に気もくれずにアナザーゴーストは胸の目を光らせる。一度変貌したことがあるために、その意味を知る飛流は更に怯えた。
しかし突然アナザーゴーストに何かが衝突してふらつく。そして川へ飛流を落としてしまった。
「────!?」
声にならない叫びをあげながら落ちていく飛流。一方、アナザーライダー達はその原因を睨み付ける。
アナザーライダー達の視線を集めていたのはアナザービルドだった。急いだあまり、ブレーキをかけられずにアナザーゴーストに激突したのだ。
アナザーファイズがアナザービルドの頭をどつき、川を指差す。飛流が生き残る可能性を考えているのだ。
仕方ない、と言いたげにアナザービルドは水色と黄緑色の成分が入ったボトルを飲み込む。
「水泳・弓道! ベストマ〜ッチ!」
そう叫んでアナザービルドは川へ飛び込む。次いでアナザーオーズも体を青色の海洋生物のように変えて続く。
残ったアナザーライダー達は下流にある河原へ先回りしようと移動するのだった。
○○○
──ごめん
声が聞こえる。誰だろう。
──君にもっと寄り添えていれば良かった
誰だ、お前は。俺の問いに声は答えない。
──君に真実を伝える。それからどうするかは君次第だよ、飛流。
声がぷつりと止み、映像が流し込まれてくる。
『私の招待に応じて、よくぞ来てくれた。王の候補者達……』
『時空を超え……過去と未来をしろしめす時の王者』
『離しなさい! ソウゴッ!!』
……ああ、これは。
『"アブナイ"!!』
『少年よ。お前は、生まれながらの王』
『お前は王となり、世界を破滅から救う使命がある』
なんて俺は、愚かだったんだ。
○○○
「見つからなかったね……」
「そうね……」
一方の常磐ソウゴと有日菜。二人は飛流を見失い、夜も遅いということでクジゴジ堂に戻っていたのだ。せっかくなので夕食も一緒に食べた。
腹の重みと疲れでテーブルに突っ伏しているソウゴのスマートフォンに着信が入る。明光院景都、通称ゲイツからだ。
「もしもしゲイツ?」
『ソウゴ! 無事だったか!?』
「あ、うん、今から話すから」
すごい剣幕だ。二人で報告しよう、とスピーカーモードにする。
「白いアナザーライダーに襲われたけど、ツクヨミと一緒に倒したんだ」
「でも変身してた人は見失っちゃって……」
『……そうか』
「ゲイツは何かあったの? 俺達に何かあったこと知ってるっぽいし」
『大したことじゃない。ウォズと一緒にライダーの力を奪われただけだ』
「それは大したことだと思うけど……足は!?」
『とっくに治ってるだろ、まったく。それよりも、幸い明日は土曜日だ』
有日菜の困惑した声をスルーしてゲイツは計画を述べていく。
『ソウゴとツクヨミは大天空寺へ行ってくれるか。ツクヨミは週明けに海外に行くのに悪いが……』
「大丈夫。もう準備はしてあるから」
「えっ早くない?」
なら頼む、とゲイツは続ける。
『俺とウォズは沢芽市に行く』
「大天空寺に沢芽市? どうしてそんなところに行くの?」
『それはだねツクヨミ君。君達を襲い、私達の力を奪った黒幕の探し物がそこにあるからさ』
『割り込むな!』
「ウォズさん!」
「ウォズ、ゲイツん家いたんだ!?」
『先程までゲイツ君と話し合っていたからね、我が魔王』
繰り返させてもらおう、とウォズは続ける。
『我が魔王とツクヨミ君が大天空寺で、私とゲイツ君が沢芽市で探し物。それを回収し、そしてそこに来た黒幕を倒す。……それで異論は無いかな?』
「ええ」
「俺も大丈夫。その黒幕を見つけたらすぐ連絡してね?」
「ああ」
「じゃあま──あ、そうだ。ちょっと気になってたんだけど」
『どうした?』
「うーん、何て言えばいいのかな……」
いざ話すとなると言葉選びが難しい。
「俺は会った記憶が無いんだけど、アナザーライダーの変身者は俺と面識があるっぽかったんだよね……」
『…………』
「ゲイツ?」
『……悪い、全く見当がつかなくてな』
「何かゲイツ隠し事してない?」
『してないさ。……俺も聞きたいことがある』
「えっ何?」
質問返しに少し眉をひそめるソウゴ。
『どうしてお前とツクヨミは一緒に──』
「夜も遅くなっちゃったし、成り行きでね」
『夜ぅ!? 成り行きぃ!?』
有日菜の返答を聞いたゲイツが叫ぶ、ものっそい叫ぶ。
あっこれ釈明しないとめんどくさいやつだ。ソウゴは悟った。
「違うよゲイツ、あの変身者を探してたら遅くなっちゃったから一緒におじさんのご飯食べただけだから!」
「うん、ご飯食べただけ。明光院君も食べたかった?」
ゲイツが叫んだ理由も分かってなさそうに有日菜も便乗する。
『ああうん、そうか……そうだよな……』
『ホッとしてるねゲイツく』
『言わないでいいんだそういうのは!!』
『く、くるしい』
『じゃあ切るぞ。明日の件、よろしく頼む』
普通に切れた。技かけられてたのかなウォズ。
「……そういえばツクヨミさ、そろそろ迎え来るんじゃない?」
「兄さんが来るらしいわ」
「相変わらず仲良いねー」
「そうかしら?」
ツクヨミは首を傾げて笑った。
○○○
深夜、丑三つ時。
フィーニスは大きなビルの屋上に立っていた。月光に照らされて、白く長いマントをたなびかせるその姿は神秘的であった。
目を閉じ身体を休めるその背後に現れたアナザークラックから、アナザーライダー達が吐き出される。
計画におけるスケジュールよりも早く帰還し、酷く負傷しているアナザーライダー達。彼らを見たフィーニスは眉を潜める。
「何があったのかい」
よろよろと近づくアナザー鎧武の頭蓋を掴み記憶を探る。
西洋騎士のようなライダーの槍が迫る。足軽のようなライダーの長槍に薙ぎ払われる。アラビアの女王のようなライダーの放つ矢に貫かれる。
その三人のライダーに妨害されたということか。
ふうん、と興味なさげに手を離す。
「計画に必要な分は送り込めたのだから良しとしようか」
残ったアナザーライダー達を確認し呟く。
沢芽市に六体のアナザーライダーを送り込もうとした目的。それは陽動と探索、そして沢芽市の仮面ライダー達に自分達の存在を知らしめることだった。初手があの二体ならば問題はあるまい。残りは後で送り込んでも十分だ。
「さて、加古川飛流はどうなったか──おっと、噂をすれば影が射すとはこういうことだね」
五体のアナザーライダーがぞろぞろと現れる。そのうちの一体、アナザーファイズの頭に触れる。
「……生死不明?」
アナザービルドは必死に頷いた。信用できないので他の面々に視線を移すと、彼らも頷いたり肩をすくめたりとそれぞれ違うが肯定の態度だ。
アナザーライダーは死した人間や人工人型ロボですら変身できる。しかし、生前にアナザーライダーとなった者が死した場合、死体からその力の残滓は、アナザーライダーであった痕跡は消えてしまうのだろうか。
興味は尽きないが、ひとまず置いておく。飛流についてもだ。
「彼は放っておこう。これが反応しないってことは死んでるってことだろうし」
アナザージオウIIウォッチを取り出してほくそ笑むフィーニス。
「とにかく、今は残りのアナザーウォッチを探さなくちゃねえ」
そうひとりごちると、急にアナザーオーズが高笑いした。ならば私に任せてもらおう、と言わんばかりに虹色の羽根を生やして飛んでいく。
「……お目付けを頼んだよ」
フィーニスや他のアナザーライダー達に視線を向けられたアナザーエグゼイドは渋々頷き、アナザーオーズに追いつくべくチョコブロックを召喚して空中を跳んだ。
「残りは六個か」
アナザーディケイドとドライブは放棄しようか。下手に彼らを刺激すれば記憶が蘇るかもしれない。わざわざ力を奪われる可能性を発生させる理由は無かった。
「キミ達も頼んだよ」
頷いて散開していった残りのアナザーライダーを見届け、フィーニスはまた身体を休めるのだった。
スタート→始まり→「起」
全四話+エピローグ+間話をいくつか、の予定です。
現在四話以降が書けていないので、再来週より後は間話でお茶を濁す可能性もありますがご了承ください。