NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト   作:祝井

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承「アナザーブレイド・サクセッション!?2004」

「ッ……ここは……」

 

 飛流の目に飛び込んできたのは知らない天井だった。程よい弾力を身体全体で感じ、ベッドに寝かされていることを察する。

 

「よく生き残れたもんだな」

 

 あの時は死を覚悟した。末端から冷たくなっていく感覚。沈んでいく身体。

 

 そんな俺を救ったのは、あの声の主なのだろうか。何故救けられたのかも分からない。

 分からないことが多すぎて頭の中が白くなる。ごちゃごちゃした思考がリセットされてから、飛流が真っ先に思い浮かべたのは両親や友人、先生だった。

 心配している顔が容易に想像できた。でもいいのだろうか。また、アナザーライダーになってしまったのに。

 

 暗い思考になってしまったため、それを振り切ろうと起き上がって周りを見る。壁には写真だらけだ。その中で目に止まったのは──

 

「ライドウォッチ……!?」

 

 何の力も込められていない、ブランクのものだった。それなのに手に取ると、温かさを感じる。気がした。

 

 俺がいくつも作り、使ってきたアナザーウォッチとは正反対だ。

 

 胸元に近づけ、その温もりを堪能する。少し涙が出てきた。

 

 その時、ノックの音がした。咄嗟に涙を拭い、ウォッチをポケットに突っ込む。

 返事をする前に扉が開く。現れたのは女性で、料理の乗ったお盆を持っていた。

 

「目が覚めたみたいだね。もうすぐ昼になっちゃうけど」

 

 えっと、と何かを聞こうとする。聞きたいことが多すぎて口が詰まった。その代わりとでも言わんばかりに女性が答えだす。

 

「ここはハカランダって喫茶店。……の、地下室。でもって、私は生原羽美。あなたは?」

 

「加古川、飛流です」

 

「加古川君か。ご飯食べなよ、朝食兼昼食になっちゃうけどさ」

 

「いやそこまでしてもらうわけには──」

 きゅるる。意外と可愛らしくお腹が鳴る。羽美は思わず笑いながらお盆を差し出す。飛流は顔を赤らめながら受け取った。

 お盆の上には皿が二枚とコップが一つ。皿には焼かれた食パンやソーセージ、スクランブルエッグやレタスが乗っている。コップには水が注がれていた。

 

 いただきます、と手を合わせてからフォークでスクランブルエッグをすくって口に運ぶ。その温かさに飛流の頬が緩んだ。

 

 自殺未遂の可能性は無くなったかな、と羽美は少し安堵した。

 

「加古川君はさ、どうして川に流されてたの?」

 

 その質問が投げかけられたのはパンを食べ切った直後だった。レタスとソーセージも消え、スクランブルエッグも残っていない。完食だ。

 

「……言わなきゃダメですか?」

 

 水で喉を潤してから答える。

 

 普通に言いたくないのもあるが、あの短時間で色々起きすぎて説明できるのかという懸念もある。信じてもらえるかもわからない。

 

「だってあなたのこと助けてあげたじゃない。昼食も。代金だと思ってさ。

 それにあなた、悩んでそうだし」

 

「……信じてもらえるかどうか、わからないんですが──」

 

 そこまで言うなら、と飛流は話した。前の世界での記憶が戻ったこと。また異形の化物となって復讐を果たそうとしたこと。裏切られたこと。そして変な声が真実を伝えてくれたこと。

 

 気付けば、全てを話してしまっていた。自分が今持つ、苦しみも。

 

「──昔助けてもらった相手を、俺は恨んでました。復讐にソイツの周囲の人間まで巻き込みました。俺は、その──」

 

「許せないんだ、自分が」

 

 不安の種を言い当てられた。自分でも言語化できないものを、どうして。

 

「昔ね、大きな地震があってさ。その時にパパとママとお兄ちゃんが死んだんだ」

 

 私を助けてね、と羽美は悲しげに呟いた。

 

「それで、昔の私は思ったわけだ。ヒーローなんていない、皆自分のことばっかりだって。

 バッカじゃない? だって自分のことを構わず他人を救った人がそばにいたのにさ」

 

 俺と同じだ、と飛流は思った。家族の喪失を受け入れられないために起こる、八つ当たり。

 

「そんな私にさ、剣崎っていうバカな仮面ライダーが教えてくれたんだよ。ヒーローはいないかもしれないけど、ヒーローになろうとしてる人はいるって」

 

「あなたも、そうなんですね」

 

 うん、と羽美は嬉しそうに頷く。

 

「アイツみたいなヒーローになろうって、あの時から色々やってるんだ」

 

「だから俺を助けてくれたんですか?」

 

「そういうこと」

 

 ふふん、と笑う羽美が眩しく見えた。

 

 俺もあなたみたいになれるだろうか。過去を乗り越えられるだろうか。

 

「無理に乗り越えなくていいと思うけどね」

 

「えっ」

 

「声に出てたよ」

 

 頰が熱くなる。

 

「だって私にとっての過去と加古川君にとっての過去って違うじゃん。自分なりに向き合えばいいよ」

 

「……はい!」

 

 ああそういえば、と羽美はポケットから拳大の物体を取り出す。

 

「はいこれ」

 

「これって……!?」

 

 アナザーブレイドウォッチ。アナザーブレイドの変身者は会ったことが無かったが、まさか。

 

「渡しといてって頼まれてたんだ」

 

 違うのか。飛流は内心ずっこけたがそりゃそうだな、と考え直した。この人は自分の力だけでヒーローになれる人だ。

 

「誰にですか?」

 

「この店のオーナー。実のところ加古川君を見つけたのもその子」

 

「……いいんですか?」

 

「話聞いてる限りだと間違ったことには使わないかなって。これが何かもわからないけど」

 

 ありがとうございます、と頭を下げて受け取る。

 

 すると、アナザーライダーが近づいてくる気配を感じた。まだ遠いが、これは。

 

 飛流はお盆を邪魔にならないように傍に置いてベッドを抜け出す。

 

「どうしたの?」

 

「やらなくちゃいけないことがあるので、失礼します。ありがとうございました」

 

「……頑張って!」

 

 飛流は激励に頷くと、階段を駆け上がる。

 

「服は返さなくていいからねー!」

 

 首を振る飛流を見て、羽美は笑った。律儀だなぁ。

 でも、また会えるのはちょっと嬉しかった。

 

 

 

 

 

 店を出て、走りながらアナザーウォッチを起動させ、そのまま胸に埋め込む。

 

〈BLADE……!〉

 

 胸からアナザーブレイドの顔が描かれたアナザーオリハルコンエレメントが放出される。飛流は拒絶反応に苦しみながらもそれを潜り抜け、異形へと変貌する。

 

 飛流が変貌したのは運命に操られし不死者・アナザーブレイド。

 

 アナザーブレイドは勢いをそのままに白いオーラを纏い、店に近付いていた二体の敵へタックルをかまして吹っ飛ばす。大したダメージは与えられてはいないが、少し余裕を持つ時間をつくれた。

 

 アナザーオーズはゾンビのようにゆらゆらと立ち上がり、アナザーエグゼイドは最小限の動きで起き上がる。

 

「ヴェア……!」

 

 呻き声をあげてアナザーオーズがアナザーブレイドに爪を突き立てようとする。鍔に丸鋸を組み合わせたような大剣、アナザーブレイラウザーで受け止めるが、背に受けた衝撃でつんのめって装甲に傷をつけてしまう。確実にアナザーエグゼイドの攻撃だ。手に持っているハンマー、アナザーガシャコンブレイカーによるものだろう。

 

 振り向いて剣を振るうも、そこにいたはずのアナザーエグゼイドはすぐに離脱していた。そしてまた背に衝撃を受ける。アナザーオーズの蹴りだ。

 最小限の動きで背後を確認すれば、アナザーオーズも離脱していた。両方ともヒットアンドアウェイが得意なのだ。

 

「……これはキツいなッ!」

 

 一対多数には慣れていない。基本的にはこちらが多数を引き連れて戦うことが多かったし、それにしたって基本的には負けている。勝ったと言えるのはせいぜいジオウIIとゲイツリバイブ、ディケイドを相手にしたぐらいである。

 アナザーブレイドを使い慣れていないのも痛い。せめてどちらかを倒せれば──

 

「ダハァ……!」

 

 そう考えている途中にも攻撃を何度も受ける。なるべく剣で受け流してはいるが限界はすぐに来るだろう。

 

「……一か八かだ」

 

 大剣の丸鋸を撫でる。するとアナザーブレイドの装甲が変質していく。先程同様、その装甲に攻撃が叩き込まれるが──

 

「ヴァァ!?」

 

 鋼鉄と化した装甲がハンマーの打撃と長剣、アナザーメダジャリバーの斬撃を受け付けず、逆に攻撃した側がよろめいてしまう。

 

「今だッ!!」

 

「ンンゥ!?」

 

 アナザーブレイドは右手を片方のアナザーライダーにかざす。体内のアナザーウォッチを引力で引き寄せて手の中へ。

 すぐにアナザーウォッチを"止める"。胸に開いた穴からセルメダルを溢れさせていたアナザーオーズはそのままメダルの塊となって崩れていった。

 

「次はお前だ」

 

〈OOO……!〉

 

 アナザーブレイドは奪いとったアナザーウォッチを胸に埋め込み、欲望に呑まれた古代の王・アナザーオーズへと変貌する。

 

 アナザーオーズは緑の脚に黄色い筋肉を盛り上がらせ、腕に備わった黄色い爪を構え、緑の複眼でアナザーエグゼイドを凝視する。アナザーエグゼイドは赤い達磨のようなアナザーロボットゲーマを喚び出し、変形させて装着する。

 

 先に動いたのはアナザーオーズ。チーターのごとき俊足でアナザーエグゼイドに手を伸ばす。狙うは、胸。

 アナザーエグゼイドは予測していたとばかりに赤い籠手で爪を弾く。アナザーオーズはその反動で宙を一回転し、上から蹴りを連続で繰り出す。ここから動くまいと赤い籠手に力が入る。しかし連続蹴りには耐えられず、腕をずらされてしまう。

 

 その隙を狙って爪が赤い装甲を貫く。引っこ抜かれた手にはアナザーウォッチ。アナザーウォッチを"止める"と、アナザーエグゼイドは身体を微粒子に変換しながら消滅していった。

 

「ふう。……ぐッ」

 

 人間の姿に戻ると、飛流は胸を押さえて膝をつく。アナザージオウの力を失った状態でアナザーウォッチを二つも使ったのだから当然とも言える。

 

 そのままぼんやりとした温かさの地面に倒れ込んで考え込む。

 

 これからどうしようか。追手を差し向けられたということは、フィーニスにまだ狙われていることは確かだ。家族や友人の元へは戻れない。ハカランダにも戻れない。巻き込めない。

 

「いっそ常磐ソウゴに──」

 

 そう言いかけて、馬鹿か、と吐き捨て自嘲する。襲っておいて自分と一緒に戦ってくれって都合良すぎるだろ。

 

「フィーニスを直接叩くしかない、か」

 

 とはいえ戦力が足りない。アナザージオウIIウォッチは欲しいところだが。あそこに残っているだろうか。

 

 色々と思考を巡らせながら、ふらふらと立ち上がる。とにかく移動しなければ。

 

 歩きながら服を確認する。かつてアナザージオウとしてソウゴと対峙した時のものとそっくりだった。買ってきてくれたのだろうか。

 

 そういえば制服は……と考えていると大量のアナザーライダーの気配を察知する。

 足を速めると現れたのはその通りのアナザーライダー達。そして──

 

「フィーニス……!」

 

「まさか生きてるとはねえ」

 

 驚きだよ、という言葉に嘘はないように思える。心底不思議そうな表情の彼女を飛流は睨みつける。

 

「お前は、俺を使って何をするつもりなんだ」

 

「キミはもう用済みだよ。これと他のアナザーウォッチを生み出した時点でね」

 

 アナザージオウIIウォッチを懐から取り出して見せびらかすフィーニス。

 

「計画は着実に進んでいる」

 

「計画? お前の目的は何だ!」

 

「加古川飛流。キミは仮面ライダーを何だと思う?」

 

「……ヒーローってやつじゃないのか」

 

「分かってないなぁ。ライダーは悪の兵器として生み出された。それなのに人類の自由と平和のために戦うだって? ふざけてる!

 ボクはただ、ライダーの本来あるべき歴史を創造したいだけなのさ」

 

「何……?」

 

「ボクが1971年の1号となり、人類を征服する仮面ライダーの歴史を創造する」

 

「そんなこと──」

 

 人類を征服する仮面ライダー。ライダーの在り方が変わってしまえば、羽美の過去も変わってしまう。一生、過去を乗り越えられないままになるかもしれない。

 

「──そんなこと、させてたまるか!」

 

〈BLADE……!〉

 

「へえ。初陣としては絶好の相手だ」

 

 アナザーライダー達に下がっているように目線で命令を下すフィーニス。伝わらなかったのか、アナザービルドが周囲の行動に首を傾げていたが、アナザーファイズに肩を掴まれ引かれる。

 

 その様子を呆れたように見た後、フィーニスは三つのアナザーウォッチを掲げる。アナザージオウIIウォッチがその内の一つに入っていた。

 一気に三つ使うつもりか。アナザーブレイドに変貌した飛流は警戒する。

 

 フィーニスはニヤリと笑い、アナザーウォッチを次々に起動する。

 

〈ZI-O!II!〉〈GEIZ……!〉〈WOZ……!〉

 

「この時代に存在しないはずの三つのウォッチから生まれしアナザーライダー。その力が新たな歴史を創造する……!」

 

 そのまま自分の身体に埋め込むことなく、空へと放り投げた。

 怪しく輝くアナザーウォッチは空中で混ざり合い、三角形や円に歪みながら小さくなっていく。力の密度が濃くなっていく。

 

 そして新たなアナザーウォッチがフィーニスの掌に収まった。

 

「絆の力、試させてもらうよ」

 

〈ZI-O!TRINITY……!〉

 

「トリニティ……?」

 

 ジオウとは何度も戦ったが、それは聞いたことがなかった。おそらく一度も戦ったことのない形態か。警戒を更に強め、大剣を強く握りしめる。

 

 フィーニスが胸にウォッチを押し付ける。すると時計のバンドのような帯が苦しむフィーニスをアナザージオウへと変貌させ、同時に赤の異形と緑の異形を生み出す。

 

 そしてアナザージオウの両腕が鎖に変質し二体の異形を縛り、粘土で作品を作るようにその身体をねじる。悲鳴を上げる異形はまるで腕のように変質していく。幸か不幸か顔は残っていたが。

 赤の腕は右に、緑の腕は左に、鎖によって強引に接続される。

 

 最後にアナザージオウの顔を覆う仮面を外し、胸部の装甲に押し付ける。筋肉ごと仮面が剥がれた顔には、蛇の腹のように並んだ骨とその隙間から見える白目しか残っていなかった。

 

 フィーニスが変貌したその異形は、絆の体現者・アナザージオウトリニティ。

 

 アナザージオウトリニティはかつてアナザージオウの武器であった長槍を喚び出して構える。アナザーブレイドも大剣を構えて応じる。

 

 先に動いたのはアナザーブレイドだった。丸鋸を撫で、光を纏った大剣を振り上げる。

 アナザージオウトリニティは、慌てずにドライバーをなぞり、長槍と右脚にエネルギーを纏わせる。

 そのまま長槍で大剣を受け止め、上に押し上げへし折る。そしてガラ空きになった腹に蹴りを入れて吹っ飛ばす。

 

 飛流は緑色の血を撒き散らしながら人間の姿に戻る。アナザージオウトリニティはひび割れたウォッチを取り出してその血を吸い上げていく。

 

「強いッ……!?」

 

「アナザーブレイドはかつてジオウトリニティに敗れた。ならそのアナザーであるボクに倒されるのは道理じゃないかい?」

 

「ふざけたことを……!」

 

「キミだってその論理に則ってアナザーオーズを倒したはずなんだが」

 

 まったく、とアナザージオウトリニティは溜息を吐いてそれにしても、と続ける。

 

「君を駆り立てるものは何だろうねえ。ボクへの復讐心か、それとも──」

 

〈OOO……!〉

 

 アナザージオウトリニティの興味など意に介さず、飛流はアナザーオーズへと変貌。緑の脚が伸縮し、腕の爪を突き出して跳びかかる。

 

「甘い」

 

 しかしアナザージオウトリニティの両肩から伸びた鎖が身体へ巻きつき動きを封じる。

 アナザーオーズは身体を青く染めて脱出しようとするがそれも叶わない。

 

「絆ってのは簡単に切れないものらしいからねえ。逃れるのもそう簡単じゃ無さそうだよ」

 

 アナザージオウトリニティは右手に装着したナックルダスターから二本の青い爪を生やし、それで胸を貫いて引っこ抜く。傷から青いメダルが三枚飛び出し、それによってアナザーオーズは普段の三色に戻る。

 

 メダルは先程の緑色の血液と同様にヒビの入ったアナザーウォッチに取り込まれる。苦しげに喘ぐアナザーオーズは放り投げられた。

 

「もう使い道も無いか。じゃあ頼──」

 

 背後に控えるアナザーライダー達に振り向いて呼びかけた瞬間、彼らの目を光が焼いた。無論、アナザーライダーの目は30秒もかからず再生する。

 

 しかしその僅かな時間でアナザーオーズ──加古川飛流は消え失せていた。

 彼がやって退けたことを即座に理解して、フィーニスは驚き、そして微笑した。

 

「……案外やるねえ」

 

 警戒しておくか、とフィーニスは舌を巻いた。

 

 

○○○

 

 

 

 一方、ゲイツとウォズ。朝の7時に玄関で待ち合わせである。最寄りの駅へ向かう最中、昨夜聞けなかったことを話すことに。

 

「そういえばお前、どうしてあの女を見たとき驚いていたんだ?」

 

「そう見えたかい? まぁ実際そうだったんだが」

 

 スウォルツが率いていたものとはまた別のタイムジャッカー、フィーニス。彼女もティードや加古川飛流と同じく、我が魔王の破壊と創造の範囲に含まれていたんだよ、とウォズは語る。

 

「そしてこの世界のフィーニスは新人化学教師として働いている」

 

「タイムジャッカーの教師率高いな」

 

「そこはさておくとして。つまり昨夜私達とあの形で会う可能性はほぼ無かったんだ」

 

「あの白ウォズみたいにアナザーワールドから来たってことか」

 

「ああ、おそらく」

 

 ただのアナザーワールドではないだろうけどね、とウォズは心の中で小さく反論した。

 

「問題はその方法だが」

 

「門矢士や海東大樹の力が奪われていたとするなら、既に彼らは私達に見える形で行動しているはず」

 

「俺は最近奴らを見かけていないぞ」

 

「私もだ。おっと、着いたみたいだね」

 

 きっぷを買うのにウォズが苦戦したが、無事二人は電車に揺られて沢芽市に向かっている。座席はご老人に譲った。

 

 なお、ゲイツの足の怪我はほぼ治っている。いい機会だから昨夜ウォズに尋ねると、ゲイツマジェスティウォッチに含まれるビーストの力が作用したのではないか、とのこと。

 

 ちなみに何故ストールを使って移動しないかというと。

 

『ストールも私の力の一部だと認識されたみたいでね……』

 

『変身してる時に使ったこと無かったよな?』

 

『そこについては考えてはいけないだろう』

 

 昨夜、こんなくだりがあったりした。

 

「ウォズ」

 

「どうしたんだいゲイツ君」

 

「どうして俺達は沢芽市に向かっているんだ?

 お前が言うには、奴は"始まりのライダー"とやらの力を狙っていて、この世界にそれを持つライダーは三人」

 

「門矢士と葛葉紘汰と天空寺タケルだね」

 

 門矢士は奴の目的から外してもいい、とゲイツは続ける。アイツは神出鬼没だ。

 

「天空寺タケルのいる大天空寺に、どうしてソウゴとツクヨミを向かわせた?」

 

「まずは後者から答えよう。今回の件にはツクヨミ君になるべく関わってほしくないからだ。彼女が記憶を取り戻してしまう可能性がある」

 

 確かに加古川飛流の記憶は取り戻された。ソウゴ達から聞いた言動からも明らかだ。

 

「そして、フィーニスの本命は葛葉紘汰が使った昭和ライダーロックシードだと私は睨んでいる」

 

 それが私達が沢芽市に行く理由さ、とウォズは言う。

 

「とはいえ、力としての質は天空寺タケルの持つ1号ゴーストアイコンの方が上だ。昭和ライダーロックシードも本郷猛本人が製作したものではあるが、本人の魂には及ばない」

 

「何か他にロックシードを選ぶ理由があるというわけだな」

 

「そういうことさ。ゲイツ君はなんだと思う?」

 

 ゲイツは少し考えてみるが、その理由にはたどり着けない。当たり前である。フィーニスのことなどほとんど知らないのだから。

 

 意地の悪い男だ、とゲイツは白旗を振る。

 

「降参だ」

 

「彼女には哲学がある。『仮面ライダーは世界侵略のための兵器である』というね」

 

「兵器……なるほど、そんな思想を持つやつが兵器としての在り方と真逆な魂を使うわけがない」

 

 仮面ライダー1号、本郷猛の在り方は昨夜ウォズから聞いていた。その時、かつての未来でオーマジオウが建てていたレジェンドライダーの像の中にいなかったのを思い出して不思議に思い尋ねたが、あくまでも我が魔王が継承したのは平成ライダーだからね、とはぐらかされた。

 

 平成ライダーって何だ。謎が増えただけであった。

 

「その通り。彼女が一番望むのは元大ショッカー大首領・ディケイドの持つ力だろう。しかし現在手に入れるのはほぼ不可能に等しい」

 

「消去法でロックシードを選ばざるを得ないと」

 

「おそらくだけどね。でも彼女はそういうのにうるさかった」

 

 目的も含めそこまで知っているということは奴とは知り合いだったのだろう、とゲイツは当たりをつけた。口に出しはしない。

 

「そしてこれで彼女からライダーの力を奪い返す」

 

 ウォズは自らが吸った白ウォズのものだった未来ノートを取り出す。

 

「お前に使えるのか?」

 

「海東大樹にだって使えていただろう。それに以前試したんだ。『明光院景都、月読有日菜に投げ飛ばされる』、とね」

 

「アレお前のせいだったのか」

 

 ゲイツが足に怪我をする前のことだった。万が一に備えて、海東大樹が奪っていたものを借りたのだろう。

 

 流石に公共の場だったので大声と技をかけるは控えておいた。後でやればいいし。

 

 だが、未来ノートが使えるのは大きい。なんなら戦闘の場所なども指定できるし。

 

「だが加古川飛流や他の戦力と戦うことになったらどうする。力を持たない俺達が勝てる可能性は薄いぞ」

 

「……そこは臨機応変で行こうか。やられる前にやり返せばいいしね。

 最悪、今遭遇したとしても手段はある」

 

 手段だと、と訊き返そうとしたその瞬間、電車のアナウンスが流れる。

 

「まさか移動に半日も使うとはな」

 

「安心するといい、我が魔王達も含め費用は私持ちだ」

 

「それ初めて聞いたぞ」

 

「宿泊するための費用も十分あるし帰りはストールで君の家に直行さ」

 

「どこからそんな金出てるんだ……?」

 

 然るべきところから、とだけウォズは答える。

 どういうことだ、と聞こうとしたら電車が止まり、大勢の人とともに駅のホームへ押し出される。結局うやむやにされた。

 

 

 

 

 

「──で、どこへ向かう」

 

「まずはドルーパーズへ向かおうか」

 

「ドルーパーズ?」

 

「葛葉紘汰が働いていた場所さ」

 

 向かった。そこはフルーツパーラーであった。

 

「……ウォズ」

 

「ふぁんあいえいふふん」

 

「口の中を空にしてから話せ!」

 

 ウォズの口内はフルーツでいっぱいである。それをゴクン、と一瞬で飲み込むウォズ。以前白ウォズを吸った時の光景をゲイツは思い出した。

 

「いい食べっぷりだねぇ、これサービス」

 

「ありがとうございます」

 

 ドルーパーズのオーナー、阪東清治郎から更にパフェを貰ったウォズはニッコリ笑顔だ。そんなウォズをゲイツはジト目で見る。

 

「……何だいゲイツ君」

 

「これを食いたかっただけだな?」

 

「副次目的だよ」

 

「そうは見えんが」

 

 仕方ない、とゲイツは内心ぼやく。一応店内を見渡してみてもそれらしきものは無い。

 他の場所をあたるか、と思ったその時。店外から悲鳴が聞こえる。

 

 ゲイツは迷わず店から飛び出していった。

 それを見たウォズはまだたくさん残っているフルーツパフェを吸った。空になった。ごちそうさまでした。

 

「カードで」

 

「はーい」

 

 店員のイヨに会計してもらって店を出て、ゲイツを探す。見つけた。騒ぎの中だ。

 人々が異形へと進化していっている。増える異形が人々に牙を突き立てる度に仲間が更に増えていく。

 

 かつてヘルヘイムという横暴な進化の洗礼を受けた人々が、また別の横暴な進化の洗礼を受けている光景だった。

 

 そしてそれを引き起こしているのは、仮面ライダーにされてしまった者・アナザーアギト。

 

「ゲイツ君!」

 

 ゲイツは服を着たアナザーアギトの一体に吹き飛ばされて壁に突き刺さる直前。ギリギリのところで受け止めて、二人揃ってアスファルトに転がった。

 

「ちっ、案の定か!」

 

「無茶をするね……」

 

「人を守るのが救世主だからな」

 

「だからといってもね」

 

 まだ立ち上がるゲイツにため息を吐くウォズ。

 

「生身で敵うわけがないだろう。せめてこれを使うんだ」

 

 ウォズがゲイツに投げたのはジカンザックス。

 

「どうしてこれを!」

 

「ちょっとした裏技でね」

 

「そうか、つまりこれが"手段"か」

 

〈じかーん・ざーっくす!"おの"ー!〉

 

「そういうことさ」

 

〈ビヨンッ!ドライバァー……!〉

 

「……は?」

 

 ゲイツはウォズの腰に装着されたそれを驚きをもって見る。お前もライダーの力を奪われたはずじゃ。

 

「私だってこれは使いたくないんだけどね」

 

〈ウォズッ!〉

 

 溜息を吐きながら左手でミライドウォッチを起動、ビヨンドライバーに装填する。

 

「説明は後にさせてくれると助かるな、我が救世主」

 

「我が救世主言うな」

 

〈アクション!〉

 

 ゲイツが文句を言う間にもウォズはビヨンドライバーを操作していくが、その仕草は何故か__

 

「……白ウォズ?」

 

 ──白ウォズに瓜二つだった。

 

「変身」

 

〈投影!〉

 

 ゲイツの疑問にも構わずウォズはクランクインハンドルを下から押し上げる。

 

〈フューチャー・タイム!〉

 

 ウォズの身体が銀色のスーツに包まれていく。

 

〈スゴイ!ジダイ!ミライ!〉

 

 背後の巨大時計から飛び出した水色の"ライダー"の文字を模した複眼がアナザーアギト達にぶつかって怯ませる。

 

〈カメン"ライダー"ッ・ウォズ!ウォズ!!〉

 

 頭部や身体の各部を覆うアーマーをまとい、仕上げとばかりに"ライダー"の形の複眼が顔面に貼り付いていく。

 

 ウォズが変身したのは、新たな世界の未来を主君や仲間と共に歩む預言者・仮面ライダーウォズ。

 であるのだが。

 

「我が名は仮面ライダーウォズ。未来のッ、創造者で──痛てっ」

 

「何を言っている。さっさと片付けるぞ」

 

 白ウォズの初変身の時と同じ名乗りまであげるウォズにゲイツは斧の一撃をくれてやる。

 手加減はした。一応。反応から見ても特に問題は無さそうだ。

 

「……すまないね、ゲイツ君」

 

〈ジカンデスピアッ!"ヤリ"スギッ!〉

 

「ゲイツ君は弓で私の援護及び民間人に襲いかかるアナザーアギトの牽制。必要があったら斧で近接戦を」

 

 奴らの顎には気をつけるように、と最後に言い残してアナザーアギト達の元へ走り出した。

 

「了解」

 

〈"ゆみ"ー!〉

 

 ゲイツは特に異論を唱えず、ジカンザックスの引き金をゆっくりと引き、一体のアナザーアギトを見据え、それを放った──

 

 

○○○

 

 

 たくさんの人々が広場から逃げていく。その流れに逆らって広場に向かおうとする青年が二人いた。

 

 一人は赤と黒のロングコートを纏った精悍な顔つきの青年で、もう一人は淡い色の私服を着こなした線の細い青年だった。

 その二人を見て、逃げる人々は希望を見出す。

 

 ザック。呉島光実。駆けつけた二人はこの街を守るヒーロー、アーマードライダーなのだから。

 

「どうしてインベスが現れやがった……!?」

 

「戦ってるのは……仮面ライダー?」

 

 光実もザックも様々なライダーと共闘してきたが、遠くに見えるライダーはその誰にも似つかない存在だった。

 加勢しよう、と光実は戦極ドライバーを装着する。おう、とザックもドライバーを装着することで応じる。

 

〈ブドウ!〉

 

〈クルミ!〉

 

 果物や木の実を模した錠前、ロックシードをドライバーに装填。光実のドライバーからは銅鑼の、ザックのドライバーからはギターの音声が流れる。それは戦士を鼓舞するファンファーレだ。

 と、同時に空にジッパーのような裂け目、クラックが発生。そこからロックシードの意匠と同じ、鋼の果実がゆっくりと降りてくる。

 

「変身!」

 

「変身ッ!」

 

〈ハィーッ!〉

 

 カッティングブレードが下り、巨大果実が落ちてきて二人の頭を覆う。果実が密着するのと同時にボディスーツに包まれ、二人の顔は果実の中で仮面と兜を被る。

 

〈ブドウ・アームズ!龍・砲!ハッ・ハッ・ハァッ!〉

 

〈クルミ・アームズ!ミスタァ〜・ナックルマーン!〉

 

 果実が展開して上半身と後頭部を覆う鎧となり、展開し切った瞬間に果汁が弾けた。

 

 アーマードライダー龍玄、アーマードライダーナックル。ここに推参。

 

 龍玄の精密な銃撃がアナザーアギトの動きを止め、その隙にナックルの拳が打ち倒していく。ダメージを蓄積したアナザーアギトは倒れ伏し、人間に戻っていく。

 

「人に……戻った?」

 

「インベスじゃないのか?」

 

「もしそうなら去年の白いウイルス以来だね」

 

 オーバーロードの亜種である可能性は捨て切れないが。だがインベスにせよ何にせよ、やるべきことは変わらない。戦って、この街を守るだけ。

 

 一方、ゲイツとウォズも新たな参戦者に気づく。

 

「何だあの仮面ライダーは」

 

「龍玄にナックル。この街を守るアーマードライダーさ」

 

「アーマード……確かに鎧だな」

 

 ゲイツは名称に納得しながらも手は止めない。矢がアナザーアギトを貫き、爆散する。再び別のアナザーアギトを射ろうとして、数の少なさに気づく。

 先程までのウォズとゲイツの奮闘。それに加え、龍玄とナックルの参戦によってアナザーアギトの数も残り少なくなっていたのだ。

 

「ぐっ……」

 

 そんなタイミングで、ウォズの身体にスパークが走り、変身が強制的に解除される。

 

「ウォズ!」

 

「まさかこんな短時間しか保たないとはね……」

 

 倒れるウォズにゲイツが近寄り、囲もうとするアナザーアギト達にジカンザックスを向ける。

 しかしジカンザックスの刃が届く前にアナザーアギト達は吹き飛んでいく。ナックルの拳と龍玄の射撃によって。

 

 龍玄とナックルは近づいて二人の安否を確認する。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

 なら良かった、と頷いた後に二人のアーマードライダーは敵の方を向く。

 

「残りはアイツだけだな」

 

「一気に決めよう」

 

 最後の一体は、服を着ていない。つまり、オリジナルのアナザーアギト。

 アレを倒さなければまた惨状が引き起こされる。何も知らない龍玄とナックルでも何となく確信していた。

 

 それぞれのカッティングブレードが下りる。龍玄は一回、ナックルは二回。

 

〈ブドウ・スカーッシュ!〉

 

〈クルミ・オーレ!〉

 

 ブドウ龍砲に、クルミボンバーに、エネルギーが集まっていく。

 ブドウ龍砲から紫色のエネルギー砲がほとばしる。それをもろに食らって怯んだアナザーアギトの胸にナックルの強烈な二連撃が命中し、アナザーアギトは爆発した。

 

「よっし!」

 

「やったね」

 

 拳を突き合わせる龍玄とナックル。これで倒せただろう、という喜び。

 

 爆発が晴れると残っていたのは禍々しく光るアナザーウォッチのみ。ゲイツとウォズは眉を寄せる。

 

「契約者がいない……?」

 

「どういう──何?」

 

 二人の疑問に答えるかのように、アナザーウォッチが浮かび上がる。人間大の時計の針のようなエフェクトが発生し、一周する。

 

 すると、倒したはずのアナザーアギトが復活した。

 

「復活した!?」

 

「まさかアナザージオウIIの……!?」

 

 驚愕する一同に構わずアナザーアギトは双剣、アナザーシャイニングカリバーを取り出して龍玄とナックルの鎧を何度も斬りつける。

 

 龍玄とナックルが倒れ、ナックルは変身解除にまで追い込まれる。

 

「どうする、このままじゃ同じことの繰り返しだ」

 

 ゲイツはジカンザックスの矢をアナザーアギトに放ちながらウォズに問う。現状、アナザーアギトを倒せるのはグランドジオウだけ。打つ手はない。

 

 だがウォズはまだ目に希望を灯していた。

 

「一応、まだ対抗法はある。もう少し早く来てほしかったけどね。ほら、来たよ」

 

「お前、一体何を──」

 

〈探しタカッ・タカァ〜!〉

 

 いつの間に飛来したのか、タカウォッチロイドがウォズの手に何かを落とす。その勢いでタカウォッチロイドは電流を纏ってアナザーアギトに激突し、そのまま去っていった。

 アナザーアギトは痺れて動けなくなる。だがその時間もほんの僅かだろう。

 

 だからこそウォズはすぐに手の内のロックシードをアーマードライダーに投げ渡した。

 

「これを使うんだ!」

 

 受け取ったのは、龍玄。しかし、自分で使わずザックに渡してしまい、動き始めたアナザーアギトにブドウ龍砲を向ける。

 

「お願い」

 

「ん、ああ。鎧武に……何だコイツら」

 

 いつものロックシードともエナジーロックシードとも色々と違うロックシードだが、ミッチが託したのなら大丈夫だろう。

 

 そう心の中で結論付けてザックはロックシードを解錠する。

 

〈アギト!〉

 

 クラックから降りてきたのは、仮面ライダーアギトの頭としか形容できないもの。

 

「アギトの頭ぁ!?」

 

 奇妙な光景にゲイツは困惑。

 その発言に気になるところはあったが、とにかく変身しようとザックはカッティングブレードを落とす。

 

 ギターが鳴り響き、頭が落ちてくる。頭が割れ、肩以外アギトの姿に瓜二つの鎧が現れる。

 

〈アギトアームズ!目覚めよ、その魂!〉

 

 かつて可能性の世界で見た、創造主から人の運命を取り戻した戦士。その力を鎧として身に纏う戦士の名は、アーマードライダーナックル・アギトアームズ。

 

 ナックルは静かにアナザーアギトを見据える。その姿を目で捉えたアナザーアギトは、微かに残された心を震わせながら双剣を振るう。

 ナックルはそれをいなし、腹に正拳突きをお見舞いする。

 

「……これがザック、なのか」

 

 いつもの荒々しくも頼もしい拳とは真逆の精錬された一撃。龍玄は少し不安になりながらもアナザーアギトにエネルギー弾を撃ち込んでいく。

 矢や銃撃でアナザーアギトが怯み、その隙にナックルが拳や蹴りを打ち込んでいく。その繰り返しに耐えきれず倒れるアナザーアギト。

 

〈アギト・スカーッシュ!〉

 

 この好機を逃すまいとカッティングブレードが下りる。ナックルはゆっくりと手足を動かし、構えに入る。足元には紋章が輝き、その光は右脚へ集約されていく。

 アナザーアギトが起き上がり、最後の抵抗かナックルの方へ走るがもはや無意味。ナックルは跳び上がり、アナザーアギトの胸に右脚で蹴りを入れる。

 

 ナックルは蹴りを入れた相手に背を向けて残心。先程と同じように構える。

 じたばたもがきながら後退し、アナザーアギトは再び爆散した。

 

 爆心地に残されたのは、先程と同じくアナザーウォッチ。ただし、光は失われていた。

 

 念のため、とナックルも龍玄もウォッチから目を離さず構えも解かない。そんなことを気にせずウォズが拾い上げる。

 

「大丈夫だ、再起動はしない」

 

 多分ね、と小さく付け足したのが肩を貸していたゲイツにだけ聞こえた。相変わらず嘘吐くの下手だな。

 その言葉を信じたのか、二人のアーマードライダーは変身を解いてゲイツとウォズに近寄る。

 

「ありがとな」

 

「ありがとうございます」

 

「こちらこそ助かりました」

 

「君達の力が無ければ危ないところだったからね。

 ……おっと、自己紹介がまだだった。私はウォズ。こちらは明光院景都。ゲイツと呼んでくれ」

 

 ゲイツは急に社交的になったウォズを不審な目で見る。いや、前の世界でもG3ユニットの班長である尾室隆弘と連絡先を交換していたが。

 

「俺はザック。アーマードライダーナックルだ」

 

「呉島光実です。早速聞きたいことがたくさんあるんですが、まずは一ついいですか?」

 

「先程の怪人のことなら、あれはアナザーライダーと呼ばれている。インベスではないよ。

 私達は奴らを追う仮面ライダーなんだ」

 

「仮面ライダー?」

 

「アーマードライダーとは名称が違うだけで大体同じだと認識してくれていい」

 

 なるほど、とザックと共に相槌を打つ光実。その目はチラリとザックの手の中のロックシードに注がれたが、誰もそれには気付かなかった。

 

「立ち話もなんですから、落ち着ける場所に移動しましょう」

 

「ああ。シャルモンのケーキを食べながら情報交換としようじゃないか」

 

「シャルモン?」

 

「この沢芽市が誇るケーキの店さ。そういえばアイツ来てないな……」

 

「お、お待たせ〜!!」

 

「とか言ってたら来たな」

 

 こちらに走ってくるのは燕尾服にコック帽というアンバランスな服装の眼鏡の男。何も無いところで転びかけながらも四人の前にたどり着く。

 

「ごめんごめん、パイ生地の仕込みしてる途中でさ」

 

「凰蓮さんも前にそんなこと言ってたなぁ……ほぼ負け惜しみみたいなものだったけど」

 

「やっぱ師匠と弟子は似るんだな」

 

「そこだけで判断されても困るんだけど。……ていうかこの人達は?」

 

「ウォズにゲイツ。ウォズの方はアーマードライダーみたいなもの……らしい」

 

 男の当然の問いに、ザックが答える。

 

「何だよらしいって」

 

「いや何というかだな、顔に"ライダー"って書いてあってさ」

 

「いやいやそんなことある?」

 

「…………」

 

「あるんだ……」

 

 困惑している男。そんな男にゲイツが話しかける。話を先に進めたかった。

 

「アンタもアーマードライダーなのか」

 

「ああそうそう、俺は城乃内秀保。この街イチの──パティシエさ」

 

 ゲイツは指パッチンをしてギザったらしいポーズを決めた城乃内に若干引いていた。ウォズはそんなことを気にせず『街イチのパティシエ』の部分に食いついていた。

 後でオッサンにチクッとこ、とザックは決めた。最近調子乗ってるし良い薬になるだろ。

 

 と、光実が手を叩いて周囲の注目を集める。

 

「そろそろガレージに行きましょう。僕がシャルモンでケーキを買ってきますから」

 

「どうしてここでシャルモン? まぁいいけど。

 だったら店に戻るついでに持ってくるよ。今日遅れたお詫びってことで!」

 

「ならお願い。後でお金は払うから」

 

「りょーかい!」

 

 駆ける城乃内。またすっ転びかける。おいおい、と笑みを浮かべていた光実とザックの顔が凍った。

 

 二人、いや一緒にいたゲイツとウォズにも見えたのだ。城乃内の背後に、いきなり異形が現れたのが。

 

 ゲイツとウォズはもちろんその異形を知っていた。宇宙から来た白い悪魔、その名は──

 

「アナザーフォーゼ!?」

 

「えっ!?」

 

 振り向いた城乃内にアナザーフォーゼが襲いかかる。しかし、ゲイツの矢が突き刺さってそれを阻む。

 

 後退したアナザーフォーゼの左腕と右脚に固定されていたエネルギーが霧散する。

 

「レーダーに、ステルス?」

 

 まさか、アナザーアギトを囮に昭和ライダーロックシードを探していたというのか。

 

 そんなウォズの思考をよそにザックがロックシードを投げる。危なげなくキャッチする城乃内。

 

「それを使え!」

 

「お、おう!」

 

〈フォーゼ!〉

 

 戦極ドライバーをどうにか装着した城乃内はロックシードを起動する。するとクラックから降りてきたのはフォーゼの頭。

 

「今度はフォーゼか!?」

 

「あれは、兄さんが前に使っていた……」

 

 城乃内はアナザーフォーゼの放つミサイルから逃げ続ける間に、その頭を目にした。ミサイルにびくともしない頭がふよふよ追いかけてくる光景は城乃内を困惑させるのに十分だった。

 

「あたっ、頭ぁ!?」

 

「本当に頭だったのかよッ!?」

 

「いいから早く変身して!」

 

「あーもうわかったよ!」

 

 ファンファーレと叫び声が響く中、ギリギリでミサイルを避けてカッティングブレードを下ろす。

 

〈カモォーン!〉

 

 頭が城乃内の頭に被さる。頭が割れ、肩以外フォーゼの姿に瓜二つの鎧と化す。

 

〈フォーゼアームズ!青春・スイッチオン!〉

 

 かつて可能性の世界で見た、多くの友と青春を生きる戦士。その力を鎧として身に纏う戦士の名は、アーマードライダーグリドン・フォーゼアームズ。

 

「宇宙──キターッ!」

 

 両腕を宙に突き上げるグリドンにザックは首を傾げて尋ねる。

 

「何で宇宙?」

 

「いや俺もわかんない。……ま、いいか。

 アーマードライダーグリドン。タイマン、張らせてもらうぜ」

 

 頭をキュッ、と撫で付けたグリドンはアナザーフォーゼに拳を突き付ける。するともう片方の拳から光が放たれる。

 

〈HAMMER ON〉

 

「お、ハンマーじゃん!」

 

 思わぬ愛器の登場にグリドンは仮面の下で嬉しそうに笑う。左手が変化したハンマーをポンポンと叩き、戦闘態勢へ。

 

 背中のブースターを吹かしてアナザーフォーゼに襲いかかる。さっきのお返しだ。

 強烈な一撃が胸に直撃し、アナザーフォーゼはのけぞってしまう。

 追撃だ、と再び上からハンマーを振り下ろすが、アナザーフォーゼの左腕に現れたエネルギーシールドが衝撃を吸収する。

 

「だったら!」

 

〈SPIKE ON〉

 

 左脚で腹目掛けて何度も蹴りを入れる。蹴りと伸びた棘がガラ空きの腹に何度も突き刺さる。度重なる痛みで思わずアナザーフォーゼの構えが崩れる。

 

 それでも盾でハンマーでの致命傷は防がれてしまう。ならば。

 

〈HOPPING ON〉

 

 左脚から棘の群れが消え、巨大なバネが装着される。バネが縮み、伸びる。

 先程よりも高く跳躍したグリドン。またハンマーが来るかと、アナザーフォーゼはシールドを構える。その行動は間違いだった。

 

〈CHAINSAW ON〉

 

 落ちてくるグリドンは右脚にチェーンソーを展開。勢いをそのままにエネルギーシールドを両断することに成功する。ついでに頭にハンマーの一撃を喰らわせる。

 

 多彩で強烈な攻撃を浴びせられ、アナザーフォーゼはふらふらとよろめいている。だがなお倒れない。

 

「ここまでして倒れないってのは流石だけど……ここで決めさせてもらう!」

 

 カッティングブレードが下りる。グリドンの右腕にオレンジ色のロケットが、左脚に黄色のドリルが展開される。

 

〈フォーゼ・スカーッシュ!〉

 

「ライダーロケットドリルキーック!」

 

 流星のような一撃が、アナザーフォーゼの胸を貫く。爆発するアナザーフォーゼを背後に、グリドンは地面に刺さったドリルに物理的に振り回されていた。

 

「や、やったぜ……」

 

 やっと変身を解除して、へたりと地面に倒れ込む。片手を穴が空いた場所に置こうとしてバランスを崩してしまう。

 

「大丈夫か」

 

「うん、師匠の特訓のおかげでね」

 

 城乃内は差し伸べられたザックの手を借りて起き上がる。

 

「そういえばどうするのこれから。ガレージに行くって言ってたけど」

 

「二人からあの怪人、アナザーライダーについて詳しい話を聞くつもりだったんだ」

 

 なるほどね、と納得する城乃内をよそに、ウォズがアナザーフォーゼウォッチを拾いあげる。やはり機能停止している。

 

「それにしても、二体目のアナザーライダーか。やはりソウゴとツクヨミが戦ったのは奴ということだな」

 

「ああ。そして今一番警戒すべきは更なるアナザーライダーだね。特に──」

 

 ウォズの言葉を遮るように、目の前の空間がポリゴン状に歪む。そして現れたのは髪の毛を生やした刺々しいピンク色の異形。

 

 究極の救済をもたらす病魔、アナザーエグゼイドだ。

 

「またそのアナザーライダーってやつかよ!」

 

「でもこれを使えば──」

 

「無理だ。そのロックシードにはクウガから鎧武の力しか備わっていない」

 

 もしここが大天空寺ならば、エグゼイドゴースト眼魂があるというのに。とはいえ、無い物ねだりをしている場合ではない。

 

「だが奴らは再生まで多少の時間がかかる。その隙にアナザーウォッチに直接攻撃すれば……!」

 

「倒せる可能性があるってことだね」

 

 ゲイツと光実がそれぞれの力を構える。ジカンザックスとブドウロックシード。

 それに合わせてザックと城乃内も戦極ドライバーを装着、自分のロックシードを構える。

 

 ウォズも少し遅れてウォズミライドウォッチを取り出す。が、その瞬間ウォズは呻き声をあげてふらついてしまう。

 

「おいどうし──何!?」

 

 ゲイツが見たのは想像に絶する光景だった。

 

『やぁ、我が救世主。久しぶりだねぇ』

 

「ここで出てくるのはやめてくれないか……白ウォズッ……!」

 

 ウォズと白ウォズの姿が重なっている。お互い薄くなったり濃くなったりと揺らぎが激しかった。

 

「どうしたんですか!?」

 

「わからん。コイツは俺が対処するからお前達はアナザーライダーを頼む」

 

「わかった。行こう、二人と──あれっ?」

 

「うん?」

 

「おお?」

 

 三人の前で、アナザーエグゼイドが突如苦しみ始める。ポリゴンが解けて、異形の化物が消去される。

 

 代わりに現れたのは、一人の青年。身体から三つのアナザーウォッチを排出しながら青年は倒れる。

 

「加古川、飛流……」

 

 困惑するライダー達の視線の中、または手の中で、それぞれのアナザーウォッチは光っていた。誰にも気付かれない程に小さく、淡く──

 





 サクセッション(succession)→継承→「承」

 プロット書いてた当初は羽美ちゃんではなく天音ちゃんがレジェンドの予定でした。でも剣を見ているうちにこっちの方がいいなぁと。
 ちなみに羽美ちゃんは剣35・36話に登場しております。時間があれば是非。
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