NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト   作:祝井

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結「ファーストコネクト2018」

 

 先程追っていたアナザークウガが墜落した工場が爆発し、濃い煙の中で巨大な何かが生まれ出て産声を上げる。

 

 ブースタートライドロンに乗ったグランドジオウとツクヨミは、その様子を呆然と見ていた。

 

「何が起きてるの……!?」

 

「わっかんないよ……」

 

 煙の中から小さい影がふらふらと飛び出してくる。それを叩き落とそうしているのだろうか、巨大な影が腕を振り回す。それによる風圧で煙が晴れ、巨大な影の全貌が二人にも見えてきた。

 

 色は黒と深緑。上半身は筋肉隆々のヒトガタ、下半身は蜘蛛。下半身をよく見れば、巨大な錆び付いたバイクから蜘蛛の足がにょきにょき生えているのだとわかる。しかし車輪は潰れ、もうそれで道を駆け抜けることは不可能に思われた。背には鷲の翼が生え、腰に備わった機関からは禍々しい瞳が睨みつけてくる。

 

 その異形の名はネオアナザー1号。時代の創造者になろうとしたフィーニスの計画の集大成たる存在。

 

 おぞましい。その姿を一目見たグランドジオウとツクヨミは同じ感想を抱いた。

 

 ネオアナザー1号の剛腕をスレスレで避けながら、小さな影が少しずつ近づいてくる。ツクヨミがそれが見慣れた友人であることに気づき、グランドジオウに伝えようと指を差す。

 

「常磐君、あれ!」

 

「ゲイツとウォズに──誰あれ?」

 

 二人の目線の先には、背中に鱗だらけの翼を広げた空色のライダーと、その身体にしがみつくゲイツとウォズが。とにかく二人を回収しようとブースタートライドロンを加速させる。巨大な手に握りつぶされる寸前で、横から颯爽と三人を救い出した。

 

「大丈夫!?」

 

「ああ」

 

「助かったよ、我が魔王」

 

 グランドジオウに頷いたゲイツは同じくトライドロンに乗った空色のライダー──ヒリュウの方を向く。

 

「助かった、加古川」

 

「それはどうも……」

 

 ヒリュウは小声で答えてからゼエゼエと息を吐く。まさかアナザーライダーの力無しで飛べるとは思わなかったし、二人も抱えてなおかつネオアナザー1号の攻撃を避けながらの初飛行だったためにそれなりに疲れていたのだ。

 それにしたって小さい返事だったが、ソウゴに正体を知られてこじれた状況に陥りたくないのだろうとゲイツは察した。正直こじれるとは思わなかったが、そんな場合でもないので追及するのはやめておく。

 

「お前ら……自分で飛べたんじゃないのか」

 

「……突然のことだったからそこまで頭が回らなくてね」

 

〈"ギンガ"ッ・ファイナリーッ!〉

 

「すまん……」

 

〈リ・バイブ・疾風ゥー!〉〈疾風!〉

 

「だからといって今更変身しなくても……」

 

「必要だから変身したんだけどね」

 

「ちょっと待って!?」

 

 勝手に進む話にストップをかけるのはグランドジオウ。

 

「あれ何!?」

 

「俺達の力を奪っていた奴だ。奴を倒さなければ未来は無い」

 

「君誰!?」

 

「そ、それは──」

 

「今は彼について話している時間は無いよ、我が魔王」

 

「じゃあ私からも! あんな巨大な怪物どうやって倒すの!?」

 

「そのための変身だよ」

 

 ウォズギンガ・ファイナリーの答えにゲイツリバイブ・疾風が同意するように頷いてから続ける。

 

「先手必勝だ。対応するライダーの力が無い以上、強引に砕く!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈リ・バーイブ!〉

 

「今攻撃を仕掛けてこないあたり、遠距離攻撃は使えなさそうだからね。そういう意味でも好機ということだ」

 

〈ファイナリー!ビヨンド・ザ・タイムッ!〉

 

 ジクウドライバーが回り、ビヨンドライバーのレバーが叩かれる。ウォズギンガがゲイツリバイブの足を掴み、その身体をハンマー投げのようにぐるぐる回し始める。

 

〈超銀河エクスプロージョン!!〉

 

 ギンガアーマーから供給されるピュアパワーが、ウォズギンガの手を通じてゲイツリバイブに注ぎ込まれる。そしてゲイツリバイブは純粋な腕力と重力操作によって超高速で投げ飛ばされた。

 

 ゲイツリバイブは自身の能力で更に加速。右脚を突き出すその姿は、まるで青い彗星のごとし。

 

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

 

〈百烈ゥ!〉〈タァイム・バースト!〉

 

 一瞬で超加速したしたゲイツリバイブのライダーキックは、ネオアナザー1号に防御する隙を与えない。それどころか、腕を動かす一瞬の時間すら許さない。

 

 胸に埋め込まれたネオアナザーウォッチが砕ける感覚が、ゲイツリバイブの右足に伝わってくる。

 

 これで終わりだ。ウォッチを砕いたゲイツが、彼を投げ飛ばしたウォズが、ただ見ていたジオウとツクヨミとヒリュウが、そう確信した。

 

「……残念だったねえ」

 

 しかしネオアナザー1号は爆散することなく、なお健在だった。その様子を見たヒリュウは、急いでアナザータイマーの針を回していく。

 

「馬鹿な、ウォッチは間違いなく砕いたぞ!?」

 

〈ANOTHER FORCE!〉〈OOO……!〉

 

「再生している……!?」

 

「何!?」

 

 アナザーオーズの鷹の目を宿したヒリュウには、かつての自分のウォッチのように再生するネオアナザーウォッチが見えていた。

 

「正解。ネオアナザーウォッチには、世界のルールを打ち破る力さえも通用しないのさッ!!」

 

 ネオアナザー1号は吼えると、空中に血のように赤いエネルギー球を大量に展開。真っ先にゲイツリバイブへ数個をぶつけ、残りはトライドロンの方へ。

 一瞬浮かんだ勝利への確信が、彼らを地に墜とす。しかし、ライダー達は地面の染みにならなかった。それどころか、身体が地面に叩きつけられもしない。

 

「何とか間に合った、ようだ」

 

 ウォズギンガがとっさに重力を操作したからだ。そのおかげで、ライダー達は墜落による怪我を負うことは無かった。しかし、エネルギー球によるダメージでゲイツとウォズは強制的に変身解除され、ツクヨミも白い装甲が一部焦げている。

 一番強固な装甲を持つグランドジオウと、アナザーブレイドの力で鱗だらけの装甲を鋼鉄にしたヒリュウ。その二人が最も被害を抑えていたと言えるだろう。

 

「ここ、は……」

 

 見渡してみると、大きな広場だった。住民の姿が見受けられないのは、単に奇跡か、災いに慣れているためか。とにかく、この状況には感謝しなければ。

 

 グランドジオウはゲイツに、ヒリュウはウォズに肩を貸して立ち上がる。ツクヨミも自力で立ち上がり、四人と共に周囲を警戒し始めた。

 

 気配を感じた。ツクヨミが咄嗟にファイズフォンXを向けると、ビルとビルの間を銃口は向いている。

 

 ビルの陰から現れたのは、髑髏があしらわれた黒いタイツを身に纏ったモノ達。その後ろには、多くの異形が控えている。蜘蛛をヒトガタにしたようなモノ。蝙蝠の羽と牙を持つモノ。左手をさそりのはさみに改造されたモノ。他にもカマキリ、コブラ、トカゲ、ドクダミ、シオマネキ、その他種類豊富な動植物の特徴を持つモノ達がいる。その中にはツタンカーメンに似たモノもいる。蟹と蝙蝠、イソギンチャクとジャガー、これらのように複数の生物の特徴を合わせ備えたモノ達もいる。

 

 そんな大量の怪人達の中でもひときわ目立つ個体が四体いた。黄金の毛皮を持つ人狼。死神か悪魔かと思わせる形相のイカ。地獄へと誘うような鋭い眼のガラガラヘビ。ヒルとカメレオンが混ぜ合わされた真っ黒の異形。

 

 周囲を囲んでくる怪人達を見渡し、ウォズが苦々し気に声を出す。

 

「ショッカー、か……」

 

「ボクが地獄から蘇らせたのさ。悪魔の軍団をね」

 

 ウォズに答えた声は空から聞こえてきた。ネオアナザー1号のものだ。腰の瞳から禍々しい色の霧を垂れ流している。建物の上に八本脚で着地すると、口を大きく歪めた。

 

「さっきので全員始末してもよかったんだけど、邪魔な相手は許さない主義なんだ。とことん苦しんでもらおうと思ってね」

 

「そんな悠長にしていていいのかい。過去に渡る術を持つからこそ私達は邪魔な相手、なんだろう?」

 

「じゃあそのまま返すけど、このアナザーウォッチを壊せない状況で悠長にしていていいのかい?」

 

 胸に手を当てるネオアナザー1号。事実、その方法を見出さなければ苦しんで死ぬ未来が待っているだけだ。だが、ウォズには得策が無いわけではなかった。

 

「我が魔王、お手を──」

 

「させないよ」

 

 早速動こうとしたウォズを牽制するように、ネオアナザー1号は再びエネルギー球を放出。エネルギー球はショッカー戦闘員を大勢巻き込みながらウォズのみならず他の面々にも迫る。

 

「危ないッ!!」

 

 無防備でかつ生身のウォズとゲイツを、焦げたツクヨミを、そしてグランドジオウを。ヒリュウは翼を開いて包み込み、背中で庇う。エネルギー球をもろに受け、それに加えて蓄積していたダメージで変身解除して倒れこんでしまう。晒された素顔を見て、ツクヨミは仮面の下で目を見開いた。

 

「あなた、は──」

 

「そう、キミ達を襲ったあのアナザーライダーその人さ!」

 

 追い打ちの言葉と共に極太レーザービームが飛流に放たれる。飛流は未だ装着されたままのアナザータイマーに指を伸ばそうとするが、間に合わない。飛流は自分の運命を覚悟し、瞳を閉じた。

 

〈キィング!ギリギリスーラッシュ!〉

 

 だが、最悪の運命は訪れない。グランドジオウの最強の一太刀が、ショッカーの怪人達ごとレーザービームを断ち切ったのだ。

 

「……なんでだよ。アイツの言う通り、俺はお前を襲ったんだぞ」

 

 助かった。その一言が言えず、嫌味のような言葉をぶつけてしまう。そんな言葉にもグランドジオウは仮面の下で小さく微笑んで答える。

 

「だって助けてくれたじゃん、今」

 

『過去のためじゃなく、今のために生きようよ……!』

 

 飛流の脳裏に、かつてソウゴから与えられた言葉が蘇る。あの時は納得できなかった言葉。失ったものを再び手にし、全てを知った今だからこそ、彼の厳しくも優しい言葉が今更心に沁みる。

 

 あの時も今も、ソウゴは自分を消そうとした者にさえも手を伸ばした。彼は記憶を失おうとその本質は変わっていないのだ。

 

「そうだ、そういう奴だよなお前は……」

 

 飛流は立ち上がり、常磐ソウゴをまっすぐ見る。それは前を含めても初めてのことで。

 

「常磐ソウゴ」

 

「何?」

 

「お前は一昨日、俺が何者か聞いたな」

 

「えっ?」

 

 なんで今それを。更に訊ねたい気持ちができたが、グランドジオウは抑えた。それが彼にとって必要なことだと、そんな気がしたから。

 

「俺は加古川飛流。お前には及ばないかもしれないが、皆の過去を守るために戦いたいと思ってる。今だけでいい。一緒に……一緒に、戦ってくれないか」

 

 飛流は許しを請うように、恐る恐るグランドジオウの答えを待つ。

 

「……うん!」

 

 グランドジオウは嬉しそうに頷く。飛流は憑き物が落ちたような泣き笑い顔になった。

 

「何青春してるん──ガァッ!?」

 

 再びレーザー砲を撃とうと口を大きく開けるネオアナザー1号だが、そこに砲弾やビームが撃ち込まれて未然に防がれる。空に浮かぶのはダンデライナー二機とスイカアームズ・ジャイロモード。

 

「邪魔するのは無粋だよ」

 

「……ありがとうございます!」

 

〈ヒリュウ!〉

 

 アーマードライダー達がネオアナザー1号を妨害している隙に、飛流は自分のウォッチを付けたままのドライバーに装填する。ショッカー怪人達が襲い掛かろうとするが、グランドジオウやツクヨミに阻まれた。

 

「変身ッ……!」

 

〈ライダー・タイム!〉〈カ・メェーン"ライダー"!ヒーリューウゥー!〉

 

 ドライバーが回る。背後の空色の時計から吐き出される同色の鱗を身に纏い、飛流は再び仮面ライダーに変身した。

 

「変身、できたんだね」

 

「はい!」

 

 空から降りてきたのはアーマードライダーグリドン、ナックル、そして龍玄。龍玄の手には昭和ライダーロックシードが収まっていた。

 

「結果オーライ、だね」

 

 そのロックシードを見てウォズは勝ち誇るような笑みを浮かべる。更に勝ち筋は増えた。

 

 対照的に、ネオアナザー1号はそのロックシードを見つけると内心舌打ちする。グランドジオウの力だけならば、レジェンドフォームの知識を唯一持つウォズを牽制し続ければいい。

 しかし昭和ライダーロックシードは誰かに使われさえすれば、それに宿る意志と力がネオアナザー1号の破滅へと確実に導く。しかも現時点でさえ使用可能なライダーは三体もいる。もし呉島貴虎や凰蓮・ピエール・アルフォンゾ、葛葉紘汰が帰還すれば、もしアナザー鎧武達が遭遇したアーマードライダー達が襲来すれば、その数は更に増す。

 

 ウォズの前では結果的にブラフになったと嘯いたが、本当は全て確保しておきたかったのだ。所在不明の破壊者のライダーカードも、敵対者に確保されたロックシードも、手中にある魂も。かつての戦いからフィーニスはラーニングしたのだ、逆転負けに繋がる可能性のあるものは全て取り除かなければならないと。だからこそ加古川飛流の記憶を復活させて大量の手駒を用意したというのに。

 

 予定変更だ。ネオアナザー1号は統率下にある四体の大幹部へ、更に彼らを通じて地獄の軍団へ指令を出す。早急に仮面ライダーを抹殺せよ、と。

 指令を受け取った大幹部は吼え、触手を地面に勢いよく叩きつけた。すると戦闘員と怪人達は先程よりも苛烈にライダー達に襲い掛かる。

 

「急に攻撃が激しくなったな……!」

 

〈ゲイツ!〉〈ゲイツマジェスティ!〉

 

「流石に遊んでいられなくなったというわけだ」

 

〈タイヨウ!〉

 

 ゲイツとウォズはジカンザックスとジカンデスピアで戦闘員達のナイフを捌きながら、ウォッチを起動してようやく戻ってきたドライバーに装填する。周囲に現れる平成2号ライダーのライドウォッチも、それぞれ固有のエネルギーを纏って戦闘員達に突進して倒していく。

 

「変身!」

 

〈マジェスティ・ターイム!〉〈ゲイツ!マジェ~ス・ティ~♪〉

 

 ドライバーが回る。ゲイツが変身したのは、全身にライドウォッチを身に着け、背にマントをはためかせる赤と金の仮面ライダー。真の救世主・仮面ライダーゲイツマジェスティ。

 

「変身」

 

〈ファイナリー・タイム!〉〈ヘイヨー・タイヨウ!ギンガッ・"タイヨウ"ッ!!〉

 

 レバーがドライバーに叩きつけられる。ウォズが変身したのは、ウォズギンガ・ファイナリーと瓜二つなものの、"タイヨウ"という字を体現した燃える複眼を持つ仮面ライダー。仮面ライダーウォズギンガ・タイヨウフォーム。

 

「皆、円陣だ! 落ち着いて隣の奴の背中を守ってくれ!」

 

「消耗を抑えて粘れば、ってやつね!」

 

 かつて慕っていた男の作戦を借りたナックルにグリドンは軽口を叩きながら従う。クルミボンバーとドンカチが怪人達を蹴散らしていく。

 

 このままライダー達は自然に円陣を組み、ショッカー戦闘員や怪人達を倒していく。しかし数は減らない。ネオアナザー1号の生み出す霧が怪人に再び命を吹き込むのだ。

 

「無限湧きってわけか……!」

 

「さっさと本体を叩いた方が良さそうだ。では我が魔王、呉島光実──」

 

 ウォズギンガが二人に呼びかけた瞬間、その二人に黄金狼男とガラガランダが迫る。同時に、グリドンとナックルにイカデビルとヒルカメレオンが襲い掛かった。

 

「させない!」

 

「ツクヨミッ……!?」

 

 幸い、ツクヨミが割り込んだおかげでグランドジオウは襲われることはない。しかし、襲われた四人は四体に押されて円陣から引き離されていく。しかもガラガランダの猛攻により龍玄は昭和ライダーロックシードを落としてしまう。ヒリュウが回収したが、この場に戦極ドライバーの使い手はいない。狙いは各個撃破か。

 

「やむを得ない、か。ゲイツ君! ショッカーは頼んだよ!」

 

「相変わらず人使いの荒い……」

 

〈バース!〉〈マッハ!〉〈クローズ!〉〈イクサ!〉

 

 現れるのはCLAWs・サソリと弾丸型の魔獣。機械仕掛けのサソリは両手のハサミで怪人を切り刻みながら針代わりのドリルで戦闘員を蹴散らし、サメにも似た魔獣は怪人を食らっていく。ゲイツマジェスティ自身もブリザードナックルとイクサナックルを両拳に装備し、怪人を殴り倒していく。片方で殴られた怪人は氷漬けになってから一瞬で砕け、もう片方で殴られた怪人は吹っ飛んで爆散した。

 

 ヒリュウもまたショッカーを倒していたが、ウォズギンガに引っ張られる。曰く、「我が魔王と私の護衛を任せる」とのこと。

 

「では我が魔王、お手を拝借」

 

「え、うん」

 

 三度目の正直。戸惑いながらも頷いたグランドジオウの右手を取り、ウォズギンガはライダーレリーフに触れさせていく。まずは胸から左肩へ。

 

〈ディケイド!〉〈ビルド!〉〈エグゼイド!〉

 

 肩から前腕へ。急に左手首を掴まれたグランドジオウはビクつく。ネオアナザー1号のエネルギー球が彼らを狙うが、ヒリュウのアナザーダブルの力で撃ち落とされる。

 

〈オーズ!〉〈フォーゼ!〉

 

 前腕から腰、そして脚。ウォズギンガに言われるがままに膝を上げるグランドジオウ。

 

〈ゴースト!〉〈鎧武!〉

 

 グランドジオウの背後で七つの門が開く。現れるのは七人の仮面ライダー。それぞれの手に握られているのは、オーズとビルドを除いてどれも1号を模したアイテムばかりだ。

 

〈1号!〉〈レッツゴー・1号!〉

 

 カードが、桃と鷲が描かれたメダルが、スイッチが。ヒリュウが持つものと同じロックシードが、先程フィーニスが力を奪ったものと同じ眼魂が、ガシャットが、振られたグリーンと赤のフルボトルが。各々の手で掲げられ、起動しそれぞれのドライバーに装填される。

 

〈KAMEN RIDE──〉〈ICHIGOU〉〈ロック・オン!〉〈アーイッ!〉〈ガッ・シャットォ!〉〈バッタ!バァイク!ベストマッチ!〉

 

 空にクラックが開き、1号の頭が降りてくる。ドライバーから飛び出したパーカーゴーストが空に躍り、ネオアナザー1号の攻撃を捌いていく。背後にゲーム画面が表示される。ビルドドライバーのレバーと歯車が回り、スナップライドビルダーを展開、そこからバッタの形の眼を持つ半身の装甲とバイクの形の眼を持つ半身の装甲を生成する。

 

〈Are you ready?〉

 

 ビルドドライバーの問いかけに答える代わりに、ライダー達はバックルを閉じ、スキャナーを唸らせ、スイッチを押し、カッティングブレードを下ろし、トリガーを押し込み、レバーを開く。

 

〈タカ!イマジン!ショッカー!〉〈ソイヤッ!〉〈カイガン!〉〈ガッチャーン!レベルアーップ!〉

 

 風に包まれ、三種のメダルエネルギーを胸に受け、巨大な頭が展開し、パーカーゴーストと一体化し、ドライバーから飛び出したエフェクトに通過され、スナップライドビルダーに挟まれ、フォーゼ以外のライダーの姿が変わっていく。フォーゼの左脚にはコズミックエナジーが凝縮され、新たな装備と化していく。

 

〈──1GO!〉

 

〈ターマーシ!タマシ・ターマーシー!ライダァーッ……ダ・マ・シ・イ!!〉

 

〈ICHIGOU ON〉

 

〈1号アームズ!技の1号・レッツゴー!〉

 

〈カメンライダー!相棒はバイク!必殺はキック!〉

 

〈ライダージャンプ!ライダーキック!ライダ・ライダ・アクション!ゴーッ!!〉

 

〈1号!〉

 

 ディケイド1号。オーズ・タマシーコンボ。1号ライダーモジュール。鎧武・1号アームズ。ゴースト・1号魂。エグゼイド・1号ゲーマーレベル2。ビルド・1号フォーム。

 

 どれも1号やその根源であるショッカーの力を秘めた形態だ。オーズを除いたレジェンドライダーは、右手を左上にビシッと伸ばし、左拳を腰の位置で力強く握っている。ディケイドはかったるげだが。

 

「なるほどな、コイツらなら……」

 

「ああ。彼女のアナザーウォッチを停止させることもできるだろうね」

 

 ウォズギンガは仮面の中で笑みを浮かべ、グランドジオウを導くようにネオアナザー1号を指し示す。

 

「では我が魔王、彼らと存分に──」

 

「あれ、あの人達何してるの!?」

 

 グランドジオウの困惑が滲み出た声に反応し、ウォズギンガはきょろきょろと周囲を見渡す。すぐにレジェンドライダー達は見つかったが、その彼らはヒリュウを囲んでいた。

 

「……えっ?」

 

 呆気にとられるヒリュウに対し、レジェンドライダー達は右手を突き出した。加害のためではない。少なくとも当事者のヒリュウ以外──ネオアナザー1号さえそう思った。

 

 そして、レジェンドライダー達は手を空に掲げる。暴風が吹き荒れ、ヒリュウに、厳密にはその手に収まったロックシードに凄まじい力が注ぎ込まれていく。

 

「これはまさか、ライダーシンドローム……!?」

 

「させないよッ!!」

 

 ネオアナザー1号の一声で、地獄の軍団の大半がヒリュウに差し向けられる。更に自分自身も重い腰を上げて始末に動く。

 

「それはこちらの台詞だ!!」

 

 だが、それは一人の救世主により防がれる。

 

〈バロン!〉〈ブレイブ!〉〈メテオ!〉

 

 ネオアナザー1号を囲むのは、地面に突き立てられたバナスピアーから放出された巨大バナナの群。更に突き立てたガシャコンソードによって氷漬けになり、それらは強固な檻となる。そしてその中に射出された、流星のように輝く独楽が縦横無尽に暴れまわってネオアナザー1号の動きを阻害した。唸るネオアナザー1号を放置し、ゲイツマジェスティは更にライドウォッチのスターターを押していく。

 

〈G3-X!〉〈ギャレン!〉〈伊吹鬼!〉〈ディエンド!〉〈ビースト!〉〈スペクター!〉

 

 ショッカー軍団に向けるのは銃だ。GX-05、ギャレンラウザー、音撃管・烈風、ディエンドライバー、ビーストマグナムが宙に浮き、シンスペクターの力で無限に増殖していく。シン・ダイカイガン、ラストバレット。

 

 ゲイツマジェスティの手に握られたガンガンハンドの引き金が引かれると同時に、周囲の銃も火を噴いた。天使ですら殺すGX弾が、炎の強化弾が、清めの音が、カード型エネルギーに囲まれた極太レーザーが、五種の動物が混ざり合ったキマイラ型の魔力弾が、再生怪人達を一掃していく。

 

「おのれェッ!!」

 

 ネオアナザー1号は衝撃波を全身から放射して氷バナナの檻を破壊し、独楽を弾き飛ばす。腰から再生の霧を再び漂わせながら、今度こそヒリュウを始末しようと動きだす。 が、またもやその前に立ち塞がるライダーがいた。今度はウォズギンガだ。

 

 自分の全長よりも大きい手と拳を打ち合わせるウォズギンガ。小さい拳から伝わってくる極熱をネオアナザー1号は手首を振ることで逃がそうとする。ウォズギンガはその隙にドライバーを操作する。

 

〈ファイナリー!ビヨンド・ザ・タイムッ!〉

 

「今だ!」

 

〈バーニングサン・エクスプロージョン!!〉

 

 ウォズギンガの全身から放たれた熱線がネオアナザー1号の腰の瞳を溶かす。霧の発生が止まり、復活しかけの再生怪人の身体がグズグズに崩れていく。同時に残っていた霧も晴れていく。

 

 その時、空洞ができた腰の機関から大蛇が何体も飛び出してくる。ウォズギンガは慌てずに発光することで目を眩まして離脱した。

 

「もう一回頼んだよ、ゲイツ君!」

 

「言われるまでもない!」

 

〈ナイト!〉〈カイザ!〉〈ゼロノス!〉〈アクセル!〉

 

 再びゲイツマジェスティがネオアナザー1号に対峙する。鏡写しのように自分の姿を増やしてから、喚び出した三台のモンスターマシンに飛び乗る。ダークレイダー・バイクモードはゲイツマジェスティのマントに覆われることで、黄金の巨大弾丸になり鷲の翼を貫く。サイドバッシャー・バトルモードは腰から生えた大蛇をミサイルで始末する。

 そしてゼロガッシャーを担ぐゲイツマジェスティを乗せたアクセルガンナーは地を駆ける。大砲で動きを鈍らせながらネオアナザー1号に近づき、ゲイツマジェスティはドライバーを回す。

 

〈エル・サルバトーレ!〉〈タァイム・バースト!〉

 

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ゼロガッシャーに全身のライドウォッチのエネルギーが集約し、巨大な剣になる。ゲイツマジェスティはそれを横に薙いで、バイクの勢いで蜘蛛の足ごと下半身を真っ二つに斬り裂く。

 

 ネオアナザー1号は地面に投げ出されながらも身体を再生させようと腕だけで起き上がろうとする。その時複眼が捉えたのは、ヒリュウが構える一つのライドウォッチだった。

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。ライダー達が手を下げると、暴風は止み、ロックシードに彫られた1号の仮面が輝いた。そしてロックシードは蓄えられた力を一気に放出する。

 

 それは凝縮されて物体になり、ヒリュウの手のひらにぽとりと落ちる。それは一つの指輪だった。1号の仮面を模しているそれは、1号レジェンドライダーリングだ。

 

 これは一体何なのか。手のひらを覗き込むヒリュウとグランドジオウにそう考える暇も与えず、レジェンドライダー達は元の姿に戻って黄金の粒子となって消えていく。誰も彼もヒリュウに向かって頷きながら。

 

「俺に何をしろと……?」

 

 ヒリュウは首を傾げざるを得ない。こうして最後に残ったディケイドは軽く手を叩き合わせた後、グランドジオウの脚のライダーレリーフに軽く蹴りを入れる。

 

「痛っ」

 

〈ウィザード!〉

 

 門が一つ開き、現れたのは仮面ライダーウィザード。ディケイドは手のひらから1号リングを掻っ攫うとウィザードに放り投げる。キャッチしたウィザードの肩をポン、と叩いてディケイドも消えていった。頷いたウィザードはヒリュウの右手を取り、リングを中指に填める。そのままウィザードはヒリュウの右手をドライバーにかざす。

 

〈イチゴォーウ!プリーズ!〉〈ライダライダライダァーッ!!〉

 

 不思議な呪文がドライバーから流れ出し、同時にバッタとバイクが合わさったようなマーク、ライダーズクレストが宙に浮かぶ。それを見届けると、ウィザードはこっそり姿を消していた。

 

 ライダーズクレストが輝くと、仮面ライダーディケイドが変身した1号──否、仮面ライダー1号その人が現れる。その証拠に、腰には風車が回っていた。

 

 1号はヒリュウに向かって手を差し出す。ヒリュウはおずおずと手を握る。握り返されると、なんだか勇気が湧いてきた。ヒリュウは強く握り返す。すると、右腕のホルダーに収められたブランクウォッチが緑色に淡く光った。取り出してみると、先程のライダーズクレストと1971という数字が表示されている。

 

「ありがとうございます」

 

 ヒリュウが頭を下げると、1号は頷く。

 

 君には君にしかできないことがある。頼んだぞ、新たな仮面ライダー。優しげだが厳しそうな声が聴こえた気がした。

 

 ネオアナザー1号が暴れている方向へヒリュウは振り返る。その後ろで、1号は静かに姿を消していた。

 

〈1号!〉

 

 右手で緑色のウォッチを構えて起動し、ドライバーに装填する。

 

「……1号さん」

 

 その流れでドライバーのロックを外し、右腕を一回転させてから左上に持ってきてピンと伸ばす。左拳を腰で力強く握りしめる。

 

「力、お借りします!!」

 

 そして、ベルトを勢いよく回した。

 

〈アーマー・タァイム!〉

 

 ドライバーのモニターから"イチゴウ"の文字を象った夕陽色の複眼が飛び出す。その動線に身体全体を覆えるだろうアーマーが現れ、先程のヒリュウとおなじポーズをとる。するとすぐさまアーマーは弾け、ヒリュウの各部に装着されていく。

 

〈ライダァー!"イチゴウ"!〉

 

 最後に、緑の仮面の何も収まっていない部分に複眼が音を立ててはまり、淡く輝いた。錠前のような肩に備え付けられた風車が勢いよく回り、風になびく赤いマフラーと共にその存在を強く示す。

 

「これは……祝わねば!!」

 

「だろうな……」

 

 ウォズギンガが素早く手を掲げるのを見て、ゲイツマジェスティは呆れたように肩をすくめる。

 

「祝えッ!! 継承されし正義の鎧を纏い、時の王者の隣に立つ過去の守護者!

 その名も仮面ライダーヒリュウ・1号アーマー。まず一つ、始まりのライダーの力を継承した瞬間である!」

 

 ウォズギンガの祝福を受けたヒリュウは一人、ネオアナザー1号の元に駆けて駆けて駆けていく。エネルギー球が殺到するが、繰り出したライダーチョップが全て叩き落とした。

 その間に身体の再生を完了させたネオアナザー1号はパンチを繰り出す。が──

 

「ライダー返しッ!」

 

 その勢いを利用され、ヒリュウに投げ飛ばされてしまった。ネオアナザー1号の身体は瓦礫に埋まり、抜け出ようともがく。

 

「どうしてキミがその力を使えるんだ……ッ!! キミは、所詮道化なのに……ッ!!」

 

 悲鳴にも似たネオアナザー1号の問いかけに、ヒリュウは拳を握りしめて当たり前のように答える。力強い手の感触を思い出しながら。

 

「道化だからこそ、期待には応えなきゃだろ」

 

「ほざけェェェェェッ!!」

 

 ネオアナザー1号は瓦礫を弾き飛ばして空を飛ぶ。次いで瓦礫を集めて巨大な脚を構築し始めた。すぐさま完成した巨脚の膝に当たる部分に蜘蛛の足を添わせ、地上に落下する。

 

「常磐ソウゴ……行くぞッ!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈1号!〉

 

 グランドジオウの隣に歩み寄ったヒリュウは声高々に宣言し、ドライバーのウォッチを起動する。マフラーがたなびく程の強風が吹き荒れた。肩のタイフーンが風を取り込み高速で回転し、それにより生み出されたエネルギーをヒリュウの右脚に限界まで供給していく。

 

「ああ!」

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈グランドッ!ジオォウ!〉

 

 それに応えたグランドジオウも同様にドライバーのウォッチを起動。全身に刻まれたライダーレリーフから溢れ出したエネルギーがグランドジオウの右脚に集中していく。と同時に、ピンクをベースに金色の縁取りがなされている"キック"の巨大な文字が二十個、ネオアナザー1号の周囲を囲む。

 

 そして、ドライバーが回った。

 

「ライダーッ、ジャンプ!」

 

「とおっ!」

 

 ヒリュウとグランドジオウは一緒に跳び上がり、岩石脚に向かって右脚を突き出した。先程の"キック"の文字が一つに重なりあい、グランドジオウの足裏にくっついて複眼と共に輝く。同時に、ヒリュウの足裏に刻まれた"キック"の文字が緑色に淡く輝いた。

 

「ライダァーッ、ダブルキィィィィィック!!」

 

〈ライダァーッ……!〉〈タイムパニィーッシュ!〉

 

「だぁぁぁぁぁッ!!」

 

〈オールトゥエンティ!〉〈タイムブレーク!〉

 

 二人の脚は岩石脚をあっけなく貫き、ネオアナザー1号の身体さえも貫き、ネオアナザーウォッチを割った。

 

「まだだァ、ボクは、始まりのライダーにぃぃぃぃぃ──」

 

 空に悲鳴が響こうとしたその瞬間、ネオアナザー1号の巨体は爆散した。

 地面を削りながらヒリュウとグランドジオウは着地する。背後では二つに割れたネオアナザーウォッチが落ちて砕けた。

 

 それを確認した二人は変身を解除し、互いの顔を見て気が抜けたような息を吐くのだった。

 

 

○○○

 

 

 それぞれの戦いを終えたライダー達も戻ってきた。再会できた喜びもそこそこに、光実とザックと城乃内はこの場を去ろうとする。フィーニスが消えても、アーマードライダー達には後始末が残っている。

 

「待ってください!」

 

 飛流は昭和ライダーロックシードを取り出す。戦いの中では気づけなかったが、その1号の部分は力を失ったかのように黒ずんでいた。それでも、と飛流は差し出すが、光実はその手を押し止めた。

 

「それは君が持っておくべきだ」

 

「いや、でも……」

 

「これは君に力を貸したんだろう? ならこれからも君の力になってくれるよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 飛流は頭を下げた。光実は握ったままの手を上から包み込む。別れの時間だ。

 

「一緒に戦えてよかったです」

 

「僕もだ。……またいつか。できれば戦いの中ではなく、日常で」

 

「はい、またいつか」

 

 手をそっと離し、今度こそアーマードライダー達はこの場を去っていった。

 

「さて、私達も帰るとしよう。私達の日常にね」

 

「俺お腹空いたな~」

 

「ならお昼にしましょ」

 

「いいね。いい店を知っているんだ」

 

「またスイーツじゃないだろうな……? まぁいいか。加古川、お前もどうだ」

 

 少し離れた場所で聞いていた飛流は小さく首を振る。お前達の日常に、俺はいなくていい。

 

「最後に一つ、いいか」

 

 重々しい言葉に眉をひそめながらもソウゴは頷く。

 

「常磐ソウゴ。俺とお前が、これ以上交差する運命にあるかはわからない。これっきりかもしれない。

 だがもし、また交わる時が来るなら……その時は共に戦おう」

 

 飛流はおずおずと手を差し出した。ソウゴはきょとんとするが、直後に手を掴んだ。

 

「頼もしいや。……でもさ」

 

 握る力が強くなる。ソウゴの予期せぬ行動に、飛流の顔が強張った。

 

「これっきりにはしない」

 

「へ?」

 

 ソウゴはウォズに目配せをする。ウォズは頷いて首に巻いたストールをほどき始めた。

 

「俺、もっと君のこと知りたいんだよね」

 

 そう告げたソウゴが微笑んだのを飛流は見た。その光景を飛流の脳が処理できるかできないかの一瞬で、ストールが一行を包んだ。

 

「……ジャカランダ?」

 

「ハカランダじゃない?」

 

「ウォズにしては結構洒落てる店だな」

 

「一言余計だよ、ゲイツ君」

 

「お前、まさか……」

 

 辿り着いた喫茶店、ハカランダについて三者三様に初見の印象を述べているが、飛流だけは驚愕の声を上げていた。

 

「言っただろう、いい店を知っていると」

 

 してやったりと言外に含ませながら、ウォズは黒い空間に跳躍する。真・逢魔降臨暦を開き、かつてのように同僚達へ報告を始めた。

 

「かくして、加古川飛流は仮面ライダーヒリュウに覚醒し、彼と我が魔王によりタイムジャッカーフィーニスは撃破された。まさか加古川飛流が改心し変身するだけでなく、昭和ライダーの力を継承するのは非常に予想外でしたが」

 

 広げた本を音を立てて閉じ、ウォズは面白そうに笑みを浮かべる。

 

「これもこれで悪くない。少なくとも私は、そう思いたいね」

 

 そう話を締めると、いつの間にか存在していた台の上に、どこからか取り出した大量のレシートや領収書をそっと置いた。

 

「……あと、このランチも経費に計上するので。そのつもりでよろしく」

 

 しれっと都合の良いことを言い残して、ウォズは黒い空間を後にするのだった。

 

 

○○○

 

 

「あー、疲れた」

 

 飛流は二日振りの湯舟に浸かって、気持ちよさそうに息を吐いた。肩まで自分の身体をお湯に沈めながら、過去イチぶっ飛んでいた週末の出来事を振り返っていく。ぽっかり空いた穴が急に埋まって、たくさん悩んだし、肉体的にも精神的にも苦しかった。

 

「でも、良かった」

 

 身体に微かに残る傷を撫でる。ようやく、常磐ソウゴに、自分に向き合えた。

 

 ハカランダでのランチを思い出す。羽美さんと再び会えて、お礼を言った。あなたが救ってくれたからここに俺はいるのだ、と。羽美さんは「なら良かった」と笑っていた。その時に、服はあらためてプレゼントとして贈られてしまった。今は洗濯籠の中にあるそれを思うと、頬が緩む。

 

 その後は昼食をいただきながら、ソウゴや明光院、ウォズ、月読と土曜日の夜のように他愛のない話をした。月並みな言葉で言うと、楽しかった。文化祭に招かれたが、行けるだろうか。

 

 眼を閉じる。羽美さんの笑顔や、月光に照らされる光実さんの横顔。そしてソウゴ、明光院、ウォズ、月読と楽しく会話していた楽しい時間。

 

 頭に浮かんでくる出来事を噛みしめながら、確信する。彼らが生きる今を、形作る過去を守りたい。それが俺の夢だ。でも、俺に何ができるのか。

 

「戦って守る、しかないが……」

 

 夢のカタチは出来上がっても、具体的にどうすればいいのかが出てこない。タイムマシンなんて持っていないし。ウォズに訊いてみるのもいいかも。うーん、わからん。

 

 そんなとりとめのないことを考えながら飛流は風呂から出て、着替えて、髪を乾かし、両親におやすみ、と一言残して自室に入る。まだぼんやりとした頭で、両親についてふと気づいたことを口に出す。

 

「そういえば週末のこと、何も聞かれなかったな……」

 

「今更そんな心配か。私達がいい感じに誤魔化しておいたから安心するといい」

 

「ならいいか──いや誰だよ!?」

 

 独り言に反応した男に、飛流は大声を上げる。飛流のベッドに腰掛けて漫画を読んでいるのにも驚いたが、一番はその服装だ。男が身に纏う服装がウォズと瓜二つなのだ。その大きな特徴から推測できることを飛流は恐る恐る問う。

 

「ウォズの同僚か何かか……?」

 

「概ねそんな認識で構わないが、あの常磐ソウゴの家臣ではない、ということは言っておこう。

 俺達はQuartzer。まぁ、この本に出てくるタイムパトロールみたいなもんだ」

 

 男は先程まで読んでいた漫画の表紙を飛流に見せてから本棚にスッと仕舞う。様々な時代を駆ける男女コンビのタイムパトロールの物語だ。昔、飛流も夢中になって読んだ覚えがある。

 

「単刀直入に言おう。君は選ばれた」

 

「は?」

 

「王からの承認は出ていないが、君が受け入れさえすれば時間の問題だ」

 

「え、いや、何に?」

 

「呑み込みが悪いな。我々の仲間に、だ」

 

 その言葉にぼんやりしていた頭が冴えていく。唐突に生えてきた、夢への最短ルート。流石に都合が良すぎる。だが──

 

「いいだろう」

 

「は?」

 

 男は飛流の即答に思わず困惑の声を上げる。正直、騙そうとしているのではないか、くらいは言われるかと思っていた。そんなことをしても王の怒りを買うだけなのでやらないが。

 

「確かに、お前達が俺を騙そうとしている可能性は考えた。だが、もしそうだったとしても。お前達の思惑を超えてやろう。俺は裏の王だからな」

 

 飛流の大言壮語に、男は笑う。なるほど、かつてよりも面白くなったものだ。

 

「ならば歓迎しよう。歴史の管理者、Quartzerに」

 

 男は芝居がかった仕草でお辞儀をする。

 

「詳細は追々話していこう。もう夜遅いしな」

 

「……まず一つ聞いていいか」

 

「何だ?」

 

 飛流は鞄から一枚の書類を取り出す。未だに空白が多いそれは、進路希望調査書。

 

「これにどう書けばいい?」

 

 

○○○

 

 

 オーマジオウは溜息を吐く。王座の前で家臣を跪かせて、今回の事件について話を聞いていたのだ。確かに、これ以上ウォズを縛るわけにもいかないし。それに──

 

「彼が望んだんだろう? なら、いいよ」

 

 家臣は顔を上げた。そこには、隠しきれない安堵感が漂っていて。それが妙に嫌で、さっさと下がらせた。

 

 変身を解く。独りになると、いつも彼らのことを思い浮かべる。

 

 俺の手の中で息絶えた、かつて敵だった少年。上位存在に復讐しようとするも返り討ちにあった少女。俺のために俺を裏切り、俺に自分の世界を託した少女。妹への憎悪を絶やすことなく果てた男。そして、最期に俺の名前を呼び、背を押してくれた友。

 

 変身していなくてもなお機能するパラレルラトラパンテを通じて、更に記憶が流れ込んでくる。

 光剣で腹を貫かれ、眠るように死んでいった忠臣。光弾から俺を庇って亡くなった叔父さん。そして、空に開いた穴に吸い込まれていく青年。伸ばした手は何も掴めなくて。

 

「今度こそ、誰も死なないでくれ」

 

 オーマジオウ──常磐ソウゴは祈る。最高最善を尽くしているが、それでもアナザーワールドの白ウォズは、フィーニスは現れた。彼にできるのは、祈ることだけなのだ。

 

 

○○○

 

 

「おはようアタル」

 

「おはよー飛流。……決めたの、進路?」

 

「まぁ、一応」

 

 飛流はクリアファイルに挟まった進路希望調査書を眺めていた。それには男__Q-KENZOと一緒に捻り出した進路が書かれている。嘘を書いているような気がして、なんかむず痒くなってしまう。Q-KENZOが言うには、大学で見分を広めることも大切なことだと言っていたが。

 

「なぁアタル」

 

「何?」

 

 親しい人には、ちゃんとどんな夢を抱いたのか伝えておきたかった。笑われてもいいから。

 

「俺、皆の過去を守りたいって夢を見つけたんだ」

 

 でも、アタルは茶化すようにではなく、本当に嬉しそうに笑った。

 

「いいじゃん、愛と正義のタイムパトロール」

 

「いや、そこまでは言ってないけど。……笑わないのか?」

 

「笑わないよ。だって飛流がようやく見つけられた夢じゃん」

 

「おはよ、二人で何話してんだ?」

 

「ツトム、タクヤ、おはよー。実はさ──」

 

 アタルは勝手に飛流の夢を友人二人に話した。いいな、とツトムもタクヤも我が事のように笑う。ツトムは嬉しそうに飛流の肩をポンポン叩いた。

 

「まぁ鬼がいるんだからタイムパトロールくらいはいるだろうしな。それにしても偶然だな。タクヤもやりたいこと見つけたんだよ」

 

「おっ、なんだなんだ──」

 

 飛流は三人の会話に混ざりながら先程のアタルの言葉を咀嚼する。顔が緩むのが自覚できた。

 

 愛と正義のタイムパトロール、か。悪くない響きだった。

 





コネクト(connect)→繋がる→「結」

 ついに完結しましたね。まだエピローグや間話がありますが。
 ちなみに、この作品の構想自体は2020年6月に生まれました。起承は2021年6月に、転は同年12月に、そして結は14日前に書き終わらせました。なんだかんだで約2年間書いてきましたので、ちょっと感慨深くもあり、寂しくもあり。まだ書いてない間話もあるんですが。

結の回にはカットシーンがあります。ツクヨミとアーマードライダー達の戦闘シーンです。

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