「はは…あいっかわらず、ウチは母親ってもんに向いてないな…」
もちろんユタの母親だと言う自覚はあるしユタのためなら仕事くらい放り出して駆け付けるくらいのことはやる。我が子が人の道から外れようとしてるなら叩きのめしてでも引きずり戻す覚悟もあるしいざとなれば嫌われる覚悟も、ある。
「…ユタ、帰ってきたら思い切り喧嘩でもしてみよーか?」
その為には無限書庫から無事に帰ってきてくれないと。
何事もなければいいけど…。
まず接近したのは1番近くにいたアインハルト。影の制御はプライドが妨害しているせいもあってか普段ほど繊細な動きはできておらず、簡単に懐に入り込む事に成功する。
数回殴り合ったところでユタの動きが急にピキッと鈍り、左側へよろけた。それを見逃さずアインハルトは必殺の構えをとる。
「覇王・断空……」
「…」
『っ、ダメですアインハルトさん、罠…』
「拳!」
「ガァッ!」
ユタの鳩尾へ向かい放たれた拳は当たらず、無重力なのを活かし横向きになったユタは右の掌で受ける。その勢いで回転し逆にアインハルトの顎へカウンターアッパーをクリーンヒットさせた。同時に硬化魔法を発動させていたことでアインハルトは一瞬にして意識を断ち切られていた。
『まっ…たく、肉体制御のハック方法も聞いておくべきでした……!』
「いい加減、じゃま、しないでよ」
「お断りします!』
影を練ろうとするも未だプライドの妨害が効いているのかうまく実体化できずにいた。それに少しもどかしくなったのか意識混濁しているアインハルトへゆっくりと近づく。
「ガンフレイム!」「紅蓮拳!」
「…っ!」
ユタにアインハルトへ近づかせまいと、リオとハリーは焔の砲撃を放つ。
それをユタはほんの少し見、そのまま飲まれる。
「ちょっ、やりすぎでは⁉︎」
「これくらいやんねぇと止まらねえだろあのバカ!」
「確かにそうかもしれ……ませ……」
「あ?何きょどってんだお嬢……」
煙が晴れるとそこには、影を展開することで傷一つ負っていないユタが立っていた。
「うっそだろ⁉︎」
「皆様離れて!」
「吸収……放射」
ドガァン!
「あぐっ⁉︎」
「きゃっ…」
「…っ!」
ヴィクターが離れるように言うも既に遅く、ハリーへ向かって先ほど打ち込まれた焔が放たれる。ハリー、リオ、ヴィクターは間一髪避けはしたものの爆発に巻き込まれ壁に打ち付けられた。
『ぐっ、魔力制御を強引に奪い返しますか…』
「フーッ、フーッ。…ッ、アアアアアッ!」
ユタの足元へ影が一度収束し、咆哮と共にアインハルト、ジークリンデ、ファビアの元へ放たれる。
ユタの目的はあくまでも、その3人だった。
「天月・霞!」
「創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに!叩いて砕け!『ゴライアス』!」
「ディバインバスター!」
アインハルトをヴィヴィオが、ジークリンデをミカヤが、ファビアをコロナが守る。だがそれすらユタは見越していたかのように影を再度動かしていた。
「
密かに展開されていた影が3人の足元から伸び、バインドが掛けられる。コロナはゴライアスに載っていた関係上避け切ることはできなかったがヴィヴィオとミカヤはうまくかわす。それを見たユタは再度影を展開しようとするもプライドの邪魔によりうまくできていなかった。
その隙を利用し近づいたのはヴィヴィオ。それともう1人。
「「ユタさん!」」
ヴィヴィオが後ろから抱きつくと同時、ミウラも前からも抱きついた。
「お願いです!これ以上はやめてください!何よりはやてさんが悲しんじゃいますよ!」
「そうです!それに師匠やシグナムさんもきっと悲しみます!だから…いつものユタさんに戻ってください!」
「もう…無理なの!私は、みんなのところに帰れ、ない。だから…はあっ、じゃま、しないでよ!みんなは!何も関係ない…!」
「「嫌です!」」
「っ…なん…そうまでして……」
「「ユタさんが大好きだからに決まってるじゃないですか!」」
「だけど!私は!私自身が……嫌いなの!もう、放っておいてよ!」
「絶対に嫌です!自分のことが嫌いなんで…そんなの悲しすぎます!」
「なら僕たちが何度だってユタさんの凄いところとか好きなところを伝えます!ユタさんが自分自身を好きになれるように!」
「……〜〜ッ!」
ユタは余計に辛そうな、泣きそうな顔をしながら影を使って2人を引き剥がす。2人は壁に打ち付けられるも、すぐさま立ち上がりユタの前に立ちはだかる。
「まだ邪魔するなら…もう、容赦、しないよ」
「構いません!安心してください、ユタさんの想いも、悲しみも、全力で受け止めて見せますから!」
「…警告、したから、ね」
ヴィヴィオは嘗ての自分を思い出していた。余りにも、似通っていたから。
「(自分のせいで大好きな人を傷つけちゃうのが苦しいのは凄くわかる。…だけど!)行きますよユタさん。今日だけは私の方が
「何…言って…」
「ミウラさん、きっと私の力だけじゃ届かないので、力を貸してくれませんか?」
「勿論です!」
2人でユタさんの前に立ちはだかる。絶対に止めなきゃ。
「(凄く……泣いてる。きっと…ずっと辛かったんだろうな。誰にも言うことなく、独りで全部抱え込んできたんだろうな。だから…)」
「(普段のユタさんもきっと、ありのままのユタさんに違いはない。けど今のユタさんもきっとありのままのユタさん。誰にも心配をかけたくなくて独りで悲しんじゃって。だから…)」
「「(独りじゃないって全力で伝えなきゃ!))」」
「……創主ユタの…名の下……敵を切り裂け。
ユタさんが右手を上げると岩が持ち上がり、それに影が纏わり付き一体のゴーレムになる。その手には影の大鎌を持っていた。
「行け」
「ミウラさん!崩れた岩を足場に!」
「!わかりました!」
影のゴーレムは真っ直ぐに向かってきて鎌を振り上げる。それを2人は浮遊していた岩を足場にし横によける。
「ヴィヴィオさん!ゴーレムはボクがなんとかします!ユタさんはお願いしますね!」
「わかりました!任せてください!」
ヴィヴィオを追撃しようとしたゴーレムに向かい再度ミウラは跳躍し、ゴーレムに踵落としをきめ地面に叩き落とす。
『ギギ…』
だがゴーレムは砕ける事なく、ほんの僅かに纏っていた影が崩れていただけ。だけどそれを見たミウラは、何よりも先にユタの努力の結晶に想いを馳せていた。
「(格闘戦技も魔法もこんなに使えるようになるまで頑張るなんて、どれほど努力したんだろう。……どれだけ悲しかったんだろう。だけど、今だけは負けるわけにはいかない)スゥーー抜剣!」
ミウラは足の装甲に魔力を集中させ、抜剣を起動させる。
「(全力で蹴ったのにほんの少し影が消えただけ。なら…もっと強く、速く…)」
ミウラは足に力を込め、再度ゴーレムに近寄る。本来のユタの魔力制御の精度からならリスクが大きすぎるように思える事でも、今ならば出来ると確信していたから。
『ギ……」
「(やっぱり単調操作しかできないんだ!これなら…)」
ゴーレムに命令された行動は『敵を見つける。その敵を斬りつける』の二つのみ。それをミウラは直感で理解し持ち前の拳の威力でゴーレムを殴り、蹴りつける。
「飛燕!」
『グガァ!』
ゴーレムが大鎌を振り下ろすも、ミウラはそれを上に避け岩を蹴りゴーレムに肉薄する。そのまま魔力を込めた脚でゴーレムを粉砕する。
「よしっ!速くヴィヴィオさんのところに…」
その頃にはバインドをかけられていたミカヤやコロナ、爆発に巻き込まれて打ち付けられていたハリーやヴィクター達、さらにはアインハルトも復帰しており、対面しているヴィヴィオとユタを取り囲んでいた。が、手を出す気はないらしく、2人を見守っていた。
が、アインハルトだけは手を出す資格が無いと考えていた。
「(私は……どうすれば)」
ユタを止めたい。ユタを助けたい。そのどちらも本心なのは間違いない。だけどこの現状を起こしたのは紛れもなく自分が原因。
だからこそ、何をすべきか分からなくなってしまっていた。
「はあっ、はあっ…やっぱり、ユタさんは凄いですね」
「凄く……ない。こんなもの…。どれだけ努力しても、結局大好きな人達を悲しませることしかできないんだよ。この血のせいで。それに、私は…強くないから。母さん達の教えすら守れず。だから、こうするしか、ないの」
ユタさんの動きは明らかに鈍かった。いつもなら反応できていたはずの私の拳すら反応できず、影での対処もプライドさんの妨害のせいも相まって単調にしかできていない。
だけどそんなユタさんにも決定打が全然取れないのもまた事実だった。軽い打撃は入ってもそれ以上が入らない。ユタさんの体捌きは本当にすごいな……って、普段の私ならそう思って楽しくなっていたんだろう。
けどユタさん自身がユタさんの努力を否定しているのが、凄く嫌だった。悲しかった。
「気持ちは、凄く、物凄くわかります」
「……?」
「だって私も同じでしたから」
「何の…こと…」
だからこそ、同情を誘いたいわけでは無いけど、私のことをユタさんにも知って貰おうと思って、過去のことを話す。ユタさんも辛いはずなのに話してくれたから。だから私も包み隠さず話そうと、そう思った。
「私もユタさんと同じ聖王オリヴィエのクローンなのは知ってますよね?鍵として生み出されて、ユタさんと違ってゆりかごへの適正値もそのままに作られました。そしてゆりかごの王にさせられました」
「……」
「そのせいでママに助けてもらえるまで心も体も思い通りにならなくて、ママ達を殺しかけちゃった事があって。ずっと辛かったんです。
けどママ達は私がオリヴィエのクローンだってことも全部纏めて受け止めてくれました。全力でぶつかり合ってくれたからこそ家族になれました。リオやコロナもそんな私と友達になってくれて。私を私として受け入れてくれた人達がいたからここまで来れました。
きっとはやてさん達もユタさんの全部を受け止めてくれます。もちろん私達も全力で受け止めます。だから…止まってくれませんか?」
「……ごめんね。もう、無理なんだ」
そう呟くと同時にユタさんは影を足元に収束させていく。これは…。
「ッ!」
幾度となく見たユタさんの得意技とも言える影。それを足元に収束されると同時、縦に、横に拡がる。そこから数多の触手-1つは鋭利に、1つは鈍器のように、1つは鞭のように-変化し私に向かってくる。ここはルールやシステムで守られた場所じゃない。だから1発受ければ下手をすれば死ぬ。
だからこそ私の眼はより冴えてくれ、何処をどう避ければいいのか教えてくれた。それに映像で何度も見ていたのも避けられた理由の一つだった。
「やっぱり、相変わらず視力は、良いね……。今のとか、ゴーレムも本気なのに、全部避けるん、だから」
「あったりまえじゃないですか!私たちがどれだけユタさんやアインハルトさんに憧れて、それでいて勝とうと研究してきたと思ってるんですか!」
「……私、に?」
「はい!ずっとすごくて私達より沢山努力してて!それでいて優しいユタさんに勝ちたくてずっと研究していました!リオやコロナ、ノーヴェと一緒に!」
「……私は、ヴィヴィオちゃんたちに、そうまで尊敬されるような、人間じゃない」
「かんっっけいないです!」
もうずっと自分のことを卑下し続けているユタさんに思わず叫んでしまった。そんな私に驚いたのかユタさんが纏っている影が一瞬ビクッと揺れた。
「私にとって、私達にとってユタさんは大好きで尊敬できる先輩!そこにユタさんがどう思っていようが関係ないです!私達は私達の意志でユタさんを慕っているんですから!」
「……じゃあ、その幻想を、今すぐ、取っ払うのをお勧めするよ。ヴィヴィオちゃん。殺す気は無いけど、手加減はできないから、気をつけ、てよ」
「かまいません!私が勝ちますから!」
『申し訳ありませんはやてさん。マスターを止められず…』
「構わへんよ。ごめんなぁプライド」
『謝るのは私の方です。…今はヴィヴィオ様が止めておられますが、いつまで持つかわかりません』
「わかってる。急いで…あんのど阿呆の目を覚まさせようか」
『全力で支援致します』
次回 ユタVSヴィヴィオ(の予定
ここからはリメイク元には無い展開を描いていますのですこーし遅くなるかも?
ご了承をば
それでは読んでくださりありがとうございます
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