「なあ、どうなると思う?」
「さあな。それはユタと主はやて次第だ。どっちを選ぼうとも私はその選択を尊重するさ」
私の答えに皆がこっちを見てくるが続けて、納得する訳でもないし全力で連れ戻すがな、と言う。
そうだ、もう誰がなんと言おうとユタは私たちの家族なのだから。
「ただまあ…どっちを選ぼうとも1発キツいのをお見舞いするさ」
きっとマリナがまだ生きていたならそうするだろうから。
「本当ならこんな形で手合わせしとうなかったなぁ」
「私だって…嫌だよ」
逃げるも良し抵抗するも良しと言われたユタが選んだのは……育ての親への反抗だった。影をユラッと展開させ、はやてはというと何事もないかのように手をパン!と叩き良い笑顔を見せながらユタへ語りかける。
「ま!とりあえずそれは置いとこうか。それよりはよ来い。お前の全力、ウチにぶつけてみーや。あ、そうそう。なのはちゃん流の仲直りの方法実践するの初めてやから多少は目を瞑ってな?ま、今のユタ如き本気ださんでも余裕やけどな!」
「……」
はやては大胆不敵に、ニカっと笑いながらユタの前に仁王立ちし挑発をする。それに対してユタはなかなか影を使おうとしなかった。それを見かねたはやてはさらに声を荒げて言う。
「はよせぇって言ったのが聞こえんかったか!それともなんや!お前の覚悟はその程度か!それともなにか!ウチにお前の全力を受け止められないとでも思ってんのか?舐めんなよユタ!お前はウチの子になってからの7年間何を見てきたんや!その程度の覚悟なら捨ててまえ!そんなやからいつまで経ってもエリオに告れない臆病者なんやろがい!」
「ッ…!うるさいうるさい!母さんにそんなこと…」
「そう思うなら早くせぇ!ウチにお前の覚悟を示してみぃ!」
それをキッカケにユタは今日一番の影の展開を見せた。もはや壁とでも言える程大きく上下左右に広がっていく。
「おーおー、相変わらずやな」
だけどはやては全くと言っていいほど焦りもしなければ警戒もしていなかった。まるで分かっていたかのように。
「どうなっても…知らないよ母さん」
「構わん」
「……。
影の壁から出るは数多の触手が鋭利な切先、鈍器、または鞭など様々な形状になりはやてにむかっていく。
「ふん。甘いなぁ」
それに対してはやては魔力弾を幾つも作り出し、触手の一本も逃さず的確に撃ち落とす。わずか数秒の間の出来事だった。
「な…」
「なんや?この程度ウチにできんとでも思うたか?何年お前の成長を見守ってきとると思っとる。お前がどう技を使うかお見通しやし、そもそも今みたいな広範囲殲滅の技術を誰が叩き込んだと思っとんや?」
はやては一歩も動いていなかったのにユタは一歩後ろに-無自覚に何かを感じ取っていたのか-下がった。
「ほら、早く次やらんかい。もしかして今のが限界か?」
「そんな…わけ…」
その言葉を皮切りにユタは足元へ影を全て収束させる。そして今度は肩幅程度の楕円状に影を展開し、そこから鋭利な刃物の形状に変えた一本を速度に特化させて放つ。
「おーおー、芸がないなぁ?」
だがはやてはそれも見越していたかのように魔力弾で撃ち落とした。
ユタはムキになり何度も仕掛けるがその悉くを真正面から撃ち落とされる。
「一撃の速度に重きを置いた一撃はシグナム仕込みだったなぁ?んでその心構えなんかはヴィータから」
「っ…」
ユタが次に取った選択は四方八方からの攻撃。はやての周りに影を展開させ何度も何度も-まるで癇癪を起こした子供のように-攻撃を仕掛けるもその全てを.、死角に来た攻撃すらも撃ち落とされる。
攻撃の雨が止むとはやては肩をグルグル回しながらじっとユタを見据える。
「おっ、もう終わりか?」
そして笑みを浮かべユタへ告げる。
「ほな、そろそろ行くでー?」
ずっと直立不動だったはやてはゆっくりと足を進める。ユタはたじろぎ後ろへ下がってしまう。
「いや…こないで!」
「そうは言うてもなぁ」
ユタは何度も何度も影を射出するも全て防がれてしまう。その目には明らかな怯えの感情が混じっていた。それと同時にもっと別の何かも。
「近づかへんとお前をぶん殴れんやろ…がいっ!」
先程までと同じように魔力弾で撃ち落としながら-時には拳で殴り落としながら-ユタへゆっくりと近づいて行く。
はやては何事もないかのように近づいているがユタから放たれる影は次第に速くなっていた。
「すご…」
「とんでもねぇな…」
「流石はやてさん…」
その光景を周りは固唾を飲み見守っていた。
だがユタに異常が起こる。
「っ⁉︎」
「お?魔力切れか?思ったより遅かったな」
ユタから溢れ出ていた影や足元に展開していた影が突如として消える。同時にユタを襲ったのは魔力切れによる倦怠感で無重力空間なのも相まってその場にフワフワと流れてしまう。
「いやー我が子ながらえらい魔力量やわ。やっぱりウチに似たんかな」
「っ……」
「さっきまでの影での一撃もウチら八神家じゃなけりゃ無傷では済まんかったやろうし、なのはちゃん達でも苦戦必死やったかもな。いやぁシグナム達との特訓を耐え切っただけのことはあるわ」
ユタからの反撃が一切なくなり、無音となったその場に響くはやての言葉。
ポタ…ポタ…
そしてそれを打ち消すように何かが滴り落ちる音がユタから発生していた。
「何で…何で、そんなこと、今いうの…」
「そりゃあ愛娘の努力を親が褒めんでどーする。怒るのと褒めるのは別の問題や」
「いっつも…いっつも、褒めてくれたり、しなかったのに」
「あーうん、それはごめんな。どーにも褒めるの苦手でなぁ。つい照れ隠しで褒めるより先にいじってしまうんよ」
「……お姉ちゃんの事があってから、ずっと、ずっと無理して笑ってたのに」
「当たり前やろ。ただでさえ辛かったはずのユタにこれ以上心配かけてたまるか」
「それで…母さんが辛かったら、意味ないじゃんか……」
「けどユタの為になるなら本望や。なにより、マリナからもユタをお願いしますって頼まれたしな。ま、頼みなんてなくてもお前の事は全力で守るつもりやけどな」
ゆっくりと、はやてはユタへ歩み寄る。
「ユタ」
「……なに」
「今、あえて聞く。ウチら八神家をどう思ってる?」
「……」
ユタは思わず口を閉ざしてしまう。それをはやては急かす事なくジッと待つ。
そして、口を開いた。
「大好き…。ずっと、ずっとずっとずっと、あの日家族に迎え入れてくれた時から、ずっと、大好き。母さんも、シグナム姉さんも、ザフィーラも、ヴィータさんも、シャマル先生も、リインさんも、アギトさんも、みんな大好き」
涙を流しながら小さく呟いたユタを見てはやてはニカッと笑いながらユタの頭へ手を伸ばす。一瞬双方に怯えた様子が見られたが、互いに意を決していた。はやてはわしゃわしゃと頭を撫でながらユタへ再度問いかける。
「そうか。ならこれからはどうしたい?本当にウチらの元から消えたいんか?本気なら……止めはせんよ」
「……いやだ」
「何が嫌なんや?」
「ずっと、ずっとずっと母さん達と家族でいたい…笑っていたい…。シグナム姉さん達ともっと特訓して、インターミドルで勝ち上がりたい。シャマル先生の料理ももっと教わりたい。……みんなと、ずっと一緒にいたい。
……お姉ちゃんとずっと一緒に、みんなで、笑っていたかった…」
もう叶わない望みを口にしたユタははやてから力一杯、だけど優しく抱擁される。
「ずっと…一緒に笑っていたかった」
「うん」
「一緒に生きて欲しかった」
「うん」
「インターミドルも…見て、もらいたかった。勝って、褒めてほしくて」
「うん」
「学校の成績も、見て、褒めてもらいたかった」
「うん」
「また頭を、撫でて欲しかった」
「うん」
「またお姉ちゃんの料理が…食べたかった。誕生日を、祝って欲しかった」
「うん…うん」
「お姉ちゃんに…死んでほしくなかった。お姉ちゃんが死ぬくらいなら、私が死んだ方が良かったって、何回も思った。でも、みんな、私のせいじゃないって、私は生きろって、ずっと……余計に辛くて、悲しくて、でも明るく振る舞わなきゃって思って…」
「そうやで。どれだけ辛くても悲しくても、生きなくちゃあかん。それにな、あのマリナが今のユタを見て何も思わんわけないやろ」
「……わかってる」
「けどユタが苦しんでるのをわかってた上で無限書庫まで行くように発破かけたのもウチやからなぁ。ほんとごめんな。マリナにも今度2人で謝りに行こう」
「……うん」
「んで、これからどうしたい?」
「……」
「言わへんと分からんよ」
再度訪れた無音の空間。だけど存外早くそれは崩れた。
ユタは、はやての腕の中からゆっくりと出て顔をゴシゴシと拭く。そして一歩後ろへ下がり顔を上げる。
「これからも…ずっとずっと一緒にいたい…。八神ユタとして…貴女の子供でいたい」
そこにはもう泣きじゃくる
その子供をはやてはなんの躊躇いもなく引き寄せる。
「勿論や。お前は誰がなんと言おうとウチ、八神はやての一人娘や。誰にも文句は言わせん!聖王の血を継いでいようが関係ない!ユタはユタや!」
普段のユタの口癖をはやてがおおらかに宣言するよう言い、今日初めてユタが笑顔を-拙かったが、心の底から-見せた。
「……ありがとう、母さん」
「どういたしまして」
いよっし、とりあえず描きたい展開は描けた!
ということでお久しぶりでした皆様。
目標である無限書庫編ももう直ぐ終わりを迎えます。
ユタの生き様をもう少しだけ見守っててください
読んでくださりありがとうございました
感想や評価など頂けると嬉しいです