『にゃあ……』
覇王の末裔は自室へ戻り力なく壁へ寄りかかる。
これまでに自分がやってきたこと、他人へ甘えて疎かにしてしまっていたこと
自分の過去のこと
様々な思いが胸中を支配し、苦しくなっていた。
「……?」
そんな中、一通のメールが届く。それを見る気力はなかったが愛機が気を利かせメールを展開する。
そこに書かれていたのは、明日の試合を見にきてくれという聖王のクローンからの誘い。
受けるべきか、否か。
普段なら考える余地などないが今回は迷ってしまっていた。
「私…は」
みんなの元にいる資格なんてない。
これまでのことを考え、思わずそう口に出そうとしてしまうがそんな事を言っても何も始まらない。何より自分の意思でこれまでのことを謝り、今後も友人として付き合いたいと本気で思っていたから。
「…」
そして一言だけ添えた返信を送り、眠りについた。
「はぁ…はぁ…し、死ぬ…」
「喋れるということはまだ余裕があるな。それじゃあ3分休憩したら続きと行こう」
「んじゃ次は私な」
「お、鬼…」
「鬼とは失礼だな。悪魔だよ」
「どっちもどっちだよ!」
シグナム姉さんとの久しぶりのマンツーマンの訓練はまさに苛烈を極めた。もはや戦場と言っても差し支えない。
新米兵の私とベテラン兵のシグナム姉さん。
だけど
まさに地獄。そこへ更に
ああ、ここが私の死に場所らしい。
『シグナム様、ヴィータ様。大変恐縮ですが少しだけ時間を貰えませんか』
「ん?どうした」
「ユタのことが心配か?」
『いえそれは全く』
「おぃ!クソ愛機!ちょっとはマスターの心配をして!」
『なのはさんから連絡が入りまして。マスターではなくお二人に』
「「?」」
『というわけでマスターはほんの暫く天国へいてください』
「わ、わか…た…」
『こんにちはシグナムさん、それにヴィータも』
「なんだ?あたしはついでかよ」
『にゃはは〜冗談だって。それでね2人とも』
「ユタとヴィヴィオのことか?」
なのはが言うよりも先に内容について触れると正解なのか優しく微笑んでいた。
『今日ヴィヴィオが帰ってきてね、特訓をつけて欲しいって言ったの。私の大好きな先輩たちに勝つ為に、って』
「ああ、明後日にユタとの試合を組んでいるんだろう?私たちも勝たせる為に特訓をつけるつもりだからそっちも遠慮なく鍛えてやれ」
『そこはいつも通りだからいいんだけどね。
……ユタちゃんのことを話すヴィヴィオがいつも以上に悲しそうにしてたから、少し心配になっちゃって。きっと嘗ての自分にユタちゃんを重ねちゃってたんだと思う。それにシグナムさんたちも優しいから私たち以上にユタちゃんのことで悩んでるのかもしれないって思って。何か力になれたらなーなんて』
おおかた予想通りの言葉に思わずヴィータと共に笑ってしまう。それを見たなのはがプンスカと擬音が聞こえるかのように膨れっ面になっていたが。
「心配すんな。アイツはもう大丈夫だ。マリナのことをまだ引きずっちゃいるだろうけど、それでもアイツの中で折り合いはついてるよ。少なくとも明後日の試合には持ち込まないさ」
「ああ。もし何かあっても、ここには主はやてにザフィーラやシャマルたちもいる。それに他のみんな…ヴィヴィオやミウラ、他の八神家道場の子達がいる。もちろん、なのは達もな」
『そっか……。なら大丈夫そうだね』
互いにそれ以上の言葉は不要だった。そして切り替えたのか、なのはは少し意地悪な笑みを浮かべていた。
『それはそうとして明後日は絶対ヴィヴィオが勝つからね!その為にみっちり特訓するから!』
「ふっ…そう簡単に行くかな?」
「悪ぃが、ユタがヴィヴィオをボッコボコにしちゃうかもしれねぇぜ?そんときゃ泣くなよ?」
『泣かないよー!』
その後ほんの少しだけ談笑し、そのうち機動六課でマリナの墓参りに行こうと約束をして通信を終えた。
「さ、もっとビシバシ鍛えるか。なのはの娘とはいえ負けてられねえからな!」
「そうだな」
〜試合当日 アリーナ〜
丸一日と少しを使い久しぶりにシグナム姉さんたちとみっちり練習をした。死ぬかと思ったけど。
そしてヴィヴィオちゃんからのメールでは魔法戦技の練習場としてもよく使うアリーナへ向かった。インターミドルと同じ環境で試合ができるように、とのことだった。
つまりは【影】も使っていい、と言うことだろう。
「……あ」
『みなさんすでに集まっておられますね』
入り口が見えてくると母さんを始めシグナム姉さんやザフィーラ、シャマル先生などの八神家のみんな、それと八神家道場の子達。
ジークさんやヴィクターさん、番長、ミカヤさんなどのインターミドル上位勢の方々。
コロナちゃん、リオちゃんにノーヴェさん。
なのはさんにフェイトさん、スバルさんにティアナさん、エリオにキャロ、ルーテシアさんまでもいた。
そして、アインハルト。
「あはは…大所帯だ」
『無様に負けられませんねぇ』
「負けるつもりなんて毛頭ないけどね」
『小さき獅子に足元、もしくは喉元を噛まれる可能性は十二分にあるかと思いますが?』
「それもそうか。……よし、気合い入った」
入り口に早足で向かうとヴィヴィオちゃんだけいないことに気づいたので聞いてみると、既に中でアップをしているとのこと。
私も準備をする為に向かおうとしたとき、なのはさんから『今日のヴィヴィオは一味違うよ』と言われ、『私もですよ』と返し駆け足で更衣室へ。
スポーツウェアに着替え、腕には黄色のリストバンド-シグナムと刻まれているもの-を着け、髪をピンク色の髪留め-こちらも同じくシグナムと刻まれている物-でポニーテールにする。
母さん達によると今日の試合はセコンドも何もなく、本当に私たちが気の済むまで戦っていいとのこと。
「おお…思った以上に」
『本気、と言ったところでしょうか』
「ヴィヴィちゃんはそもそもどんな試合にも全力全開だと思うけどね」
『それもそうですね。マスターと違って』
「いや私も常に全力だけど?」
間違っても手を抜くなんて失礼なことはしたことないよ。
「や、ヴィヴィオちゃん」
「ユタさんこんにちは!体調は万全ですか?」
「勿論。…といいたいけどシグナム姉さん達にしばかれすぎて全身筋肉痛」
「えぇ…」
「嘘嘘。ちゃんと万全にしてきたよ。だから…」
1、2回深呼吸を挟み、自分でもキザだとわかるくらいには不敵に笑い口を開く。
「初めっから全力で、全身全霊で以て叩き斬るから、そのつもりでいてね」
「勿論です。受けて立ちます。ユタさんこそ見ててくださいね。ほんの少しでも油断したなら一撃で意識を断ち切ってあげますから」
2人の
「…でも、よかったです」
「ん?何が?」
「いえ、無限書庫のことでどうしてもユタさんを昔の自分に重ねちゃってて。あの時ユタさんが皆さんに謝ってたのを見ていても、どうしても不安が拭えなかったんです」
「…ごめんね。だけどもう大丈夫。私には母さん…八神はやてさんがいて、シグナム姉さんがいて、ヴィータさんやザフィーラ達もいる。それに、今もこうして向き合ってくれてる小さな先輩もいるからね。だから、もう大丈夫。これからも頼るから、よろしくね?」
「はいっ!」
『2人ともー。準備はいいかな?』
モニターが現れ、ルーさんが最後の確認をする。
「「はい」」
『それじゃあセットアップをしてちょうだい』
「「セットアップ」」
ユタとヴィヴィオが同時にバリアジャケットを装備する。
その光景をみていた観客は少しざわついていたが、それはリングに立っていた2人もだった。
「ユタさん、それは…」
「似合ってないかな?」
意地悪っぽくユタが尋ねるとヴィヴィオは慌てて首を横に振る。
「い、いえ!そんなことはないです!とてもかっこいいと思います!」
「ふふっ、ありがとう。それよりもヴィヴィオちゃんもその格好は…」
「え?似合ってませんかね?」
ヴィヴィオの反応が可愛らしかったのかフフッとユタは笑う。
「んーん。全然そんなことないよ。とてもよく似合ってる」
「…ありがとうございます!」
「考えてることは同じなんて、姉妹みたいだね」
「実際姉妹みたいなものじゃないですか?私たち同じ人から生まれたんですし」
「それもそうだね。じゃあ私がお姉ちゃんかな?」
「私かもしれませんよ?」
「じゃあ今日は姉の座もかけて勝負だね」
「そうですね!」
皆がざわついた理由は、2人のセットアップ姿にあった。
ユタは、はやての姿を模した姿に
ヴィヴィオは、なのはの姿を模した姿に
互いにとって最愛の母親の姿を模していたからだ。
『それじゃあ行くよー?』
「うん」
「はいっ!」
『レディー ゴー!』
戦いの火蓋が切って落とされる。
まず飛び込んだのはヴィヴィオ。思い切り踏み込みユタへ肉薄し左拳でのジャブを入れる。
ユタは焦ることなく手の甲を叩くことで軌道を逸らす。ヴィヴィオは想定内なのかラッシュを入れる。だが結果は変わらず、弾かれ逸らされ、受け流される。
そしてユタはラッシュの切れ目を狙いヴィヴィオへ向かって拳を振りかざす。バックステップで避けられはするがそれが狙いで一気に後ろへ跳び距離を取る。
「プライド、行くよ」
『了解しました』
「クリス、警戒だよ!」
『(ビッ!)』
ユタは魔力を練り上げ【影】を創り出す。
「さあ、行くよヴィヴィオちゃん」
「私こそ行きますよユタさん」
ユタが練った影を勢いよく伸ばしヴィヴィオへ向かわせる。それに対してヴィヴィオはユタへ向かいながら迎撃することを選択する。
幾本もの影の触手を真正面から迎え撃つ事を選択したヴィヴィオは多少は立ち止まってしまっていたが、それでも全てを殴り、蹴り、破壊して前へ進む。
(ユタ、ヴィヴィオのことだ。影を使っても距離を取るんじゃなくて詰められると思っとけ)
(ユタの影は確かに異質だが、実のところは見た目だけだ。弱点は他の魔法主体の選手と変わらないからな)
(ヴィヴィオ。ユタに影を使われても臆するな。前に飛び込め。とは言っても予測はされてるだろうからな。そこからどうするかだ)
(ユタちゃんの影は確かに特殊だけどね、やってることは他の魔法中心の戦いかたをする人とあんまり変わらないの)
(近づかれる前提の戦法も、近づかれた時の戦法もあるにはある。だけどその辺はなのはの奴が叩き込むだろうからな。だから近接戦に持ち込まれたら敢えて乗れ。その上で…)
(近づいた時にどうされたら嫌なのかは教えてあげれる。でもユタちゃんにはヴィータさんに、なによりシグナムさんもいる。だから、ただ近接戦に持ち込むだけじゃなくて…)
(ヴィヴィオを、私たちを、観客全員の度肝を抜くくらいの事をしてやれ。お前なら余裕だろう?)
(ユタちゃんだけじゃなくて見てる友達や一緒に練習した私たちも驚くような事をしてあげちゃえ!)
互いに格闘戦の間合いに入ろうとした時
ガギィン!
甲高い金属がぶつかったかのような音が鳴り響いた。
「「……っ!」」
片や
片や
鍔迫り合いをしていた。
「……」
「はぁーいつの間に」
「たはっ!ユタらしいなおい!」
「…フェイトちゃん達の入れ知恵もあるでしょ?」
「さあー?どうかなー。でもあれは正真正銘ヴィヴィオの努力の成果だよ」
「でもでも!」
「それだけじゃないですよ!」
シグナムの剣を模った影と母親の愛機を模した魔力の塊は何度も何度もぶつかり合う。
互いに目指すものは違えど、お手本にすべきものがすぐそばに、それもずっとあった為に取り入れるのにはさほど苦労していなかった。互いに付け焼き刃に違いはなかったが、ただそれ以上に別の感情が2人を支配する。
恐らくは2人にとっても最初で最後の戦法だろう。なんせ、最高で最強の憧れの存在ではあるけれど、自分の目指す道ではないと分かっていたから。
ガギィン!と弾き合い、共に後ろへ跳躍し距離を空ける。
「「ふふっ、あははは!」」
もう我慢ができないと言わんばかりに2人は同時に笑い出した。それを観客はポカーンとしながらも2人の気持ちを理解していた。
「こ、こんなに考えてる事同じってあります?あっははは!」
「はー、ほんとうにそれね。あっはは…。にしてもヴィヴィオちゃん大丈夫?」
「ほ、ほぇ?な、何がですか?」
「いや、それ魔力の塊でしょ?すぐガス欠なっちゃうんじゃない?」
「大丈夫ですよ!ご心配なく!それよりもユタさん、早く続きをやりましょう!今度は別のことで驚かせてみせますから!」
「おっ、それじゃあ更にど近距離戦になったら私の凄さを見せつけてあげよう。ヴィヴィオちゃんなんて足元にも及ばないって事をみんなに見せつけなきゃ」
「いいましたね!覚悟してくださいよ!」
1話で終わると思ったか?
甘いな
(普通に書き切ろうとしたら1万字越えそうな勢いだったのでキリのいいところで区切りましたはい)
次回投稿は1週間以内にします(多分きっとおそらく)
それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださると嬉しいです