「優斗……いいものをやろう」
そう言って久美子は優斗にとある物を渡す。
「……いいものってこれ煙草じゃねぇか」
そう、久美子が優斗に渡したものは煙草であった。開封してり、何本かは吸ったようだ。
「未成年だそ、俺は」
「知ってる。私は色々な都合があって吸えないからな。腐る前にやろうと思ってな」
「6年後にも腐ってると思うけどな」
優斗はまだ中学二年生であり、煙草は吸える年などではない。
「まぁまぁこっそり吸えばいいじゃないか」
「そのセリフをそっくりそのまま返したい」
久美子は怪しい笑みを浮かべている。なにか良くないことを考えているに違いない。
「まぁ固いこと言わずに預かっていてくれ、他の神官に見つかったらどんな小言を言われるかわからないからな」
「そっちが本音か……なら隠しとけっての」
そうして優斗は煙草をポケットに入れる。
(さてどうしたものかな?)
優斗にとってこういうことは珍しくない。優斗の家族と久美子が一緒に住んでいた頃に彼女は優斗に預かってくれといって色んなものを渡していた。その預かっていたものが犯罪スレスレだと気付いたときにはバーテックスやらなんやらが攻めてきていた。そんなことを考えながら歩いていると食堂に着いた。時計を確認すると約束までには早く、お昼には丁度いい時間である。
「すいません、そう「うどんを3つ」……」
優斗がそうめんを頼もうとしたら割り込んでくる声。振り返えるとそこには若葉とひなたの二人がいた。
「優斗、今日こそうどんを食べて貰うぞ」
「いや、一週間前に食べたんだけど」
「
「………」
優斗は思わず頭を抱える。どうも四国の勇者達はうどんに対する信仰心みたいなものが高い。神樹様並みに信仰しているのではないかと疑うレベルである。その筆頭がリーダーの若葉である。
「……ひなた、若葉を止めてくれ。きっとうどんを食べ過ぎて頭がうどんに犯されている」
「そこも若葉ちゃんの良いところです」
(駄目だこりゃ)
何事も若葉が優先であるひなたには優斗の抗議などは通じなかった。注文を取り消そうにも食堂の人はもううどんを三人分作っていたので、優斗は渋々うどんができるのを待っていたのだった。やがてうどんが出来て優斗は若葉達と空いている席に座る。
「休みなのに鍛練とは流石だな」
「リーダーとして……いや勇者として当然のことだな」
若葉はジャージを来ており首にタオルをかけていたので直前まで鍛練をしていたのであろう。優斗はそれに感心をした。若葉はそれが当然であるかのように返した。
「まぁ、あんまり気を張りすぎるなよ。前みたいなのは御免だぜ」
「そこは……大丈夫だ。私は1人じゃない、ひなたやお前、それに皆がいるからな」
「ふふふ、若葉ちゃんもちゃんと成長してるんですよ」
「そうかそうか、それは安心したぜ」
そう言ってうどんを食べ進めていく三人。
「よう、若葉、優斗、ひなた」
「こんにちはです」
そこにうどんの器を持った球子と杏の二人がきた。
「よう、二人は何処か行ってたのか?」
「そうなんだよ、あんずと二人で出掛けてたんだけど途中で行くとこが無くなって帰ってきたんだ」
「ふーん」
そうしてまたうどんを食べ進めていく一同。そこにまた二人やって来た。やって来たのは友奈と千景であった。
「ヤッホー! 皆も来てたんだ」
「………」
元気に声かける友奈と無言で座る千景。
「凄いですね、まさか全員揃うなんて」
「これもタマ達の絆だな」
杏の言うとおり偶然全員が食堂で揃ったのである。
「せっかく皆さんで揃ったんですし、午後は皆さんで何かしませんか?」
「いいね!皆で遊ぼうよ!」
「タマも賛成だ!」
「私もいいと思います」
「そうだな、私は構わない」
「……私も別に構わないわ」
「……この後か」
「どうしたんだ優斗?何かあるのか?」
「あぁ、3時くらいから用事があってな。それまでなら構わない」
ひなたの提案に全員が賛成を言うなか優斗だけが考えた様子を見せる。それを疑問に思った球子が優斗に質問をする。優斗は予定がありその時間までならば良いと答える。
「用事ってなんだ?」
「まぁ……人に会うんだよ」
「ふ~ん、そういえば優斗って休暇とかがあると結構何処かに行ったりしてるよな」
「そうか?」
実際に優斗は休暇の際に色々なことをしている。久美子への報告や四国への避難民との交流、茉利と会う約束などをしていたりする。ちなみに半分以上は茉利と会う約束であり、今回もそうである。
「タマっち先輩、優斗さんには優斗さんの事情があるんだからあまり詮索したら駄目だよ」
「でもだ!優斗は付き合いが悪すぎるぞ!」
「……わかったよ、次の休暇は何にでも付き合ってやるから」
「本当だな!ならばキャンプの準備をしとくんだぞ!」
「まさかのキャンプかよ」
優斗に対して不満だった球子であったが優斗が渋々折れたことによりキャンプの約束をして上機嫌となる。優斗は簡単に口にしたことを後悔している。その様子を見て羨ましがっている5人の視線に気付かず優斗はスマホを取り出して予定をメモしようとポケットの中に入っているであろうものを取り出そうとする。……それが間違いであった。
「「「「「「え?」」」」」」
「ん?……あ」
優斗以外が驚きの声をあげる。それを疑問に思った優斗が自分の手に持っているものを見て自身の過ちに気づく。彼が持っていたのスマホではなく煙草の箱であった。しかも取り出したときに箱が空いてしまったのだった。
「ゆ、優斗……それって……」
球子が驚きの声をあげている。そのとき優斗が取った行動は
……逃走であった。
勿論勇者達がそれを許すわけがなく。
いつのまにか優斗の眼前に拳、首には大鎌、右隣にボウガン、左隣に旋刃盤、後頭部に刀。そしてそれぞれの武器の持ち主の勇者が笑顔でそこにたっていた。ただし、目は笑っていなかった。
(あ……死んだわこれ)
そこから優斗はしばらく気を失っていたとか。目を覚ました頃にはもう茉利との約束の時間を迎えていたので全力で彼女の元へ向かった。
「す、すいませんでした!!」
そして茉利を見つけたその瞬間に土下座をしながら滑り込んだのであった。
「だ、大丈夫だよ……それよりも頭をあげてくれるかな、ちょっと恥ずかしいからさ///」
この男……優斗は子供連れがたくさんいる公園の中で土下座で滑り込んできたのである。なので勿論色んな人から注目を浴びてしまうのである。
「本当にすいませんでした」
「別に大丈夫だよ。何かあったの?」
「大丈夫です……ただちょっと記憶が無くて……」
「何処が大丈夫なの!?」
詳しく聞こうとした茉利であったが、虚ろな目をして笑っている優斗を見て、聞こうにも聞けなかった。
「……優斗くん、無理はしないでね。優斗くんに何かあったらと思うとボクは……」
茉利が不安な顔をする。優斗は知らないが、茉利は目の前で大切な人達を二回奪われている。一度目は両親が目の前で死んでしまい。二度は友奈を大社によって連れていかれてしまった。だからこそ怖いのである。今度は見知らぬところで優斗を……大切な人を失ってしまうのではないかと不安なのである。
「……前にも言いましたが、大丈夫ですよ。
「……そうだね、ごめんね優斗くん」
茉利が普段の笑顔に戻る。やはりこの人には笑顔が似合うとそんなことを考えている優斗であった。
「……ところで優斗くん」
「? 何ですか?」
茉利は笑顔で優斗に問いかける。声に若干迫力を感じたので少し疑問に思いながら聞き返す。すると茉利は優斗のポケットからあるものを取り出す。その行動に動揺した優斗であったが、彼女が取り出したものを見て急激に冷や汗が流れる。
「これなに?」
茉利が取り出したもの……それは煙草であった。優斗は尋常にないほど焦り出す。普段の茉利からは一変した。笑顔ではあるものの背後には修羅の現影が見えてくる。そうして優斗がとった行動は
「すみませんでした」
謝罪であった。何を謝罪しているのか優斗にもわからない。だが、とりあえず謝っておかなければならないとそんな気がした。……そこからは優斗が死ぬほどの勢いで弁解をして、なんとか事なきをえた。そうして優斗は学んだ。
(これからは絶対
一方、その頃久美子は
「ん!何か面白いことが起きた予感がする」
そう言って微笑んでいたのであった。
……ん?って夢か?」
そうして優斗は目を覚ます。どうやら仕事の途中で寝てしまったようだ。書類などを枕にして眠っていた。
「案外大変なものだな」
優斗は電子タバコ吸う。普通の煙草ではないのは周りの反応と職業柄である。
「それにしても懐かしいな」
30年ぐらい前の一番大変であった中学時代の夢であった。あれから色々とあり現在優斗は『大赦』の名家である【有坂家】の当主でありながら、とある中学校の教師をしていた。当初は神官からの反発などもあったが、どうにかして教師をやれていた。結婚もしており、子供もいる。そんな優斗は書類整理をしていた。『大赦』の仕事も教師としての仕事も両立させなければならないというのが優斗の辛いところである。そのため家族との時間も少なくなってしまう。
「……流石に今日は家な帰らないとな」
優斗は7日ぐらい家に帰っていなかった。妻や子供とは連絡を取っているものの一週間も帰っていないと心配される。そうして書類を整理していく。なんとか生徒の登校時間のギリギリに終わらせることができた。そうして電子タバコで一服する。しばらくゆっくりしようとそんなことを考えながら窓を見ていた。すると急に窓から大量の紙が降ってきた。
『倒行逆施!壁と神樹と勇者にまつわる真実の深淵は、我々から遠ざけられている!我々は目を隠された愚民ではない!深淵を覗くか覗かざるか選択するのは我々であるべきだ!深淵に臨む志を持つ者たちよ、我が元に来たれー!!』
「はぁ……」
窓が閉まっていてもはっきり聞こえる声。その声の主に優斗は頭を抱えため息をつく。そうしてその部屋から出ていき屋上へと向かう。
「……
途中で原因である人物の名を忌々しげに呟くのであった。
今回はここまでです。いやぁ0:00丁度に出そうと思いましたが無理でした。それではここまで見ていただいてありがとうございました。また次回お会いしましょう。