バーテックスを倒す勇者と言われていても、優斗達はまだ中学生である。なので義務教育は普通に受けさせられる。それに加えて勇者だからこそ訓練などを行わないといけない。新学期初めての訓練は自衛隊とバーテックスとの交戦の映像記録を見せられることになっていた。交戦記録といっても、その光景はただの惨殺であった。通常の兵器ではバーテックスに勝ち目はない。だからこその『勇者』なのだ。人類に残された反逆の手立ては勇者にしかないのである。
「………………zzz」
そんな中、優斗は寝ていた。ご丁寧に目にはアイマスクを着けていた。担任はそれに気づいており、ため息をついていた。
「なあ…有坂……お前はいつから寝ていたんだ?」
「…ん、最初からだが」
震えながら聞く若葉。それにまだ目が覚めきっていないのか目を擦りながら応答する優斗。
「………何をやっているんだお前は!!」
少しの間の沈黙の後に若葉の怒声が響き渡る。そして、数分間若葉による説教が始まるのであった。
「…ともかく、バーテックスに対抗できるのは勇者のみです。あなたたち勇者の力が必要なのです」
若葉の説教が終わり、担任が何とか話を切り出す。
「どうせだったら……土地神が戦えばいいのに……」
「多分、戦ったんだと思いますよ。ほら、バーテックスが攻めてくる前に、地震とか災害とか起こってましたし。あれ、土地神がやりあってたせいだったんじゃないですか。……それに仮に戦えるとしたらあんな奴に力を与えますか」
「おい、何故俺を指す」
映像を見ながら千景が呟いて、それに答える球子、ついでに飛び火する優斗。
「だってタマはまだ納得しててないぞ、お前が副リーダーなこと!!」
「何だと、俺だってやるときはちゃんとやるわ!」
「…そういうのは自分で言ったら駄目ですよ…優斗さん」
球子が理由を言ってそれに反論する優斗。それを聞いて呆れたように呟く杏なのであった。
その後は戦闘訓練である。こればかりはいくら勇者といえど、男子と女子で一緒に行うのはどうかとなり、優斗だけ別の場所で行っている。そんな中、優斗は訓練をする場所に着いて呆れたようにため息をついた。
「どうしたため息をついて?幸せが逃げるぞ」
「幸せよりも先に俺が逃げたいよ………何故ここに?」
そこにいたのは彼の叔母である烏丸久美子であった。
「何故って決まってるだろ、訓練だよ。久し振りに私が組み手でもしてやろうと思ってな」
「……あんたのストレス発散では?」
「それも目的の一つだな」
隠す気すらない久美子に本当に呆れる優斗。
「まぁまぁ、これ以上の言葉は不要だろう……
「上等だ」
こうして二人の戦いの火蓋が切られる。優斗は久美子からあらゆることを教わっており、その中には武術なども入る。なので同年代と比べて遥かに身体能力が高い。それに加えて生弓矢を使ってから視力などが上昇している。なので大人相手でも遅れは取らない。しかし、それが普通の大人であればである。
訓練が終わり、昼休みになった。優斗は食堂に行って先に座っている若葉達に合流するのであった。皆で食事をするのは若葉が提案したことであった。初めは球子と千景から反対されていたが友奈のお陰で事なきを得た。
「訓練の後のご飯は美味しい!」
友奈が屈託のない笑顔でうどんをすすっていた。優斗からしたら昨日のこと《若葉のうどん洗脳》もあるのであまりうどんは見たくない。千景はそんな友奈を微笑ましげにみている。
「こら、あんずっ。行儀が悪いぞ」
「あぁ!今、いいところだったのに……」
読書しながら食べている杏から球子が本を取り上げ、杏が悲しそうな声をあげる。
「ちなみに、どういう状況なんだ?」
「はい、主人公が浮気してる女の子と出掛けていたら、たまたま彼女と会ってしまったところです」
「なるほど、読み終わったら貸してくれないか?主人公が浮気した女の子との写真が見つかったところで終わったからな、続きが気になっていて」
「はい、勿論です」
「杏と優斗は何て本を読んでいるんだ!?」
優斗は本を度々杏から借りていて、その本は丁度自分が読んでいるシリーズなのでどういった内容かを聞いて、それに答える杏。二人から昼ドラみたいな展開の小説の内容を聞いて思わずツッコんでしまう球子。結局、本は没収されたままなので杏は諦めてうどんを食べる。
「……にしてもさー、毎日毎日訓練訓練って、なんでタマ達がこんなことしないといけないんだろーな」
「バーテックスに対抗できるのは勇者だけですからね……」
「そりゃ分かってるよ、ひなた。でもさ、普通の女子中学生って言ったら、友達と遊びに行ったり、それこそ恋……とかしちゃったりさ。そういう生活してるもんじゃん」
球子はため息をつく。
「今は有事だ、自由が制限されるのは仕方あるまい」
「う~ん……」
「我々が努力しなければ、人類はバーテックスに滅ぼされてしまうんだ。私達が人類の矛とならなければ……」
「分かってるよっ!分かってるけどさぁっ!」
球子が思わず声を荒げる。その後すぐに顔を俯けてぽつりとつぶやく。
「……ごめん……」
「タマっち先輩……」
杏は球子の服の裾をそっと握り彼女を見つめた。その行動などを見て、優斗と若葉は察した。球子は別に文句を言いたいわけではなく、不安なのだ。バーテックスとの交戦によって杏が傷ついてしまうことを。これに対しては若葉も何も言えなかった。
「ごちそうさま!今日も美味しかった!」
うどんの汁まで飲み終わった丼をテーブルに置いて満足そうに手を合わせる友奈。
(こいつ……もしかして……)
「どうしたの、みんな?深刻な顔をして」
「……友奈……さっきまでの話、聞いてなかったのか?」
「え、えっと……ごめん、若葉ちゃん!うどんが美味しすぎて、周りのことが意識から飛んでちゃって……」
その場にいる皆が、一斉にため息をつく。優斗は口を押さえながら笑っていた。
「ええ!?なんでみんなため息つくの!?優斗くんは笑わないでよ!?」
「だってお前www 笑わずにいられるか。割と大きい声だったのにwww」
「そうね、結構大きな声だったと思うわよ高嶋さん」
「ぐんちゃんまで」
そうして一呼吸置いてから友奈は、
「大丈夫だよ。私達はみんな強いし、みんなで一生懸命頑張ればなんとかなるよ!」
笑顔でそう言った。
放課後、若葉と優斗は放送室にいた。何度か白鳥歌野への通信を呼び掛けていた。しかし一向に反応がない。優斗も何度か機械を見るが、故障などはしていない。やがて日が落ちてきた頃にやっと回線が繋がった。
『すみません……■■……さん達。少々こちら……■■……ごたついておりまして』
通信のノイズがこれまで以上に多くなっていた。優斗による調整が終わった後にこれ程多くなるとは余程回線が安定してないようだ。
「いや、構わない。何かあったのか?」
『本日午後、バーテックスとの交戦がありました」
「……被害はどうでしたか?」
『問題ありません……■■……敵は撃退。人的被害は無しです』
「そうか……」
若葉は安堵した。しかし優斗は険しい顔をしていた。恐らく、この通信ももう長くないであろう。
『四国の状況はどうですか?』
「変わらない。こちらはバーテックスの侵攻もなく、訓練と学習の一日だった」
『そう……■■……安心しました』
そうして若葉は今日の食堂での出来事を歌野へと話していた。何かヒントを得られるかもしれないとおもって。
『そうですね……私も初め、似たような悩みを抱えていました。しかし、いずれその心配はなくなります……■■……現実は想像よりも遥かに重く、私達に決断を迫るのですから……そうですよね有坂さん』
「ええ、そしてその決断は大抵ろくなものじゃないですからね、ならせめて自分が信じた道を進む……そうですよね」
自分に言い聞かせるように話す歌野と優斗。その様子を若葉は眺めることしか出来なかった。
日々は変わりなく過ぎた。優斗たちは義務教育と、勇者・巫女の訓練を続ける。時々みんなから不安や不満も出たが、実際に毎日の生活が平穏だったし、友奈や優斗の気遣いなどもあり、大きな問題は起きなかった。
しかし、そんな平穏な日々も終わりを迎えた。
二回くらい書き直してやっと終わったぁ!!というわけで次回からは本格的に戦闘に移ります。もしかしたら別の作品を作るかもしれないけど……とりあえずここまで見ていただいてありがとうございました。