三年前と違うのは、ストックが一つもないこと。
タイトル一緒だけど色々変えるつもりだからけっこう別物かも。
週一投稿を目指す予定。
誤字脱字あったら極力直します。
プロローグ、夢の終わり
少女が笑う。
いちか、いちか、と俺の名前を口の中で転がすように繰り返しては、にこにこと無邪気に笑っている。
暖かな風が、俺の頬を撫ぜる。
ひらりはらりと、優雅に踊る桜の花びらが彼女を飾り、眩しい逆光がその顔に影を落とす。
シロ、と俺と彼女だけの、彼女を指す名を口にする。
ぱっ、とさらに輝きを増した笑顔が向けられる。
いちか、と表情そのままの弾んだ声と共に、とてとてと歩いてくる。
近づいて来る彼女の瞳の中には、満面の笑みを浮かべた俺が居た。
シロ、彼女は俺の、何よりも大切なーーー。
暗転。
おまじない、と彼女は言った。
いつか、どこかで、また出逢えるように、と。
悲しそうな顔で、俺に白い剣のペンダントを渡した。
これと対なんだよ、と黒い本のペンダントを見せて。
薄まっていく。
綻んでいく。
稀釈され、曖昧に、不確かに、ぼやけていく。
視界が、意識が、世界が。
ぼんやりとした全ての中に、一滴の涙が落ちた。
なぜだが、それだけが酷く鮮明に見えた。
気が付いたら彼女を抱きしめていた。いや、抱きついていたと言うべきだろうか、そう身長の変わらない子供同士がくっ付いている様は、客観的にはそう表現するべきだろう。
……視点がおかしい、俺は一歩離れた位置から
ああ、と何となく自分の状況を察した。
離れていく、
全てが遠く朧気になっていく意識の中、たった一言だけが、なぜか俺の耳に強く届いた。
「うん、やくそくだよ、いちか!」
ああ、そうだ、俺はこの時、何か大切な約束をーーー。
暗転。
夢を見ていた。
遠い遠い、儚い夢を。
暖かくて、優しくて、ビー玉のように光り輝く、キラキラとした眩しい世界。
確かに交わした、たった一つの大切な約束。
目を覚ましてしまえば、輪郭を辿る事くらいしかできないあやふやな幻。
それでもそれは、いつか大切な何かを思い出させてくれるような気がしていた。
そして、それでは遅いのだ。
いつか思い出させてくれる、なんて何を甘ったれた事を言っているのか。
これは警告だ。
早く思い出せ、早く思い出せ、と急かしているんだ。
わかったような気になって、本当は何一つわかってなんかいないじゃないか。
全てを忘れ、何も思い出す事のなかった俺に、何も言わず寄り添ってくれた、誰よりも大切な少女。
俺はもう、彼女の笑顔を、二度と見ることができない。
だから、ああ、だから。
早く、早く思い出してくれ、俺。
という夢を見たのさ。