支配する根絶者、地球に降り立つ   作:旧シリーズからの根絶者使い

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クロノとアリスがファイカに登録して正式にファイターとなってから2週間後、クロノは受注したクエストで新デッキの相手をしてほしいという男とファイトをしていた。しかしそれは知り合いのデッキであり男は代わりに知り合いからデッキを借りているという話らしい。


「最近ヴァンガードを始めた割には慣れているね」

「あー…同じ日に妹もファイターになったんです。元々デッキは持ってたらしいんですけど……それでここ最近は毎日してるんすよ。まあ……全敗ですけど……」

「へぇ……妹さんはどんなデッキを使うんだい?」

「リンクジョーカーっすね。()()()っていうテーマでデリートっていうスキルがすごく強いんです」

「ッ!?根絶者……デリート!?」


男はクロノの言葉に目を見開いて驚いた。


「そ、その子が使うヴァンガードって……」

「《威圧する根絶者 ヲクシズ》っすね。知ってるんですか?そういやカムイさんも知ってるって言ってたな……」

「ヲクシズ……だと……」


男……伊吹コウジは数年前に自分が主犯となり起こしたメサイアスクランブルで使用していた自らのヴァンガードを思い出した。しかしあのカードは事件終了後、自分の手で海へ投げ捨てたはずだ。
頭の中で色々な思考が渦巻きながらも、本来の目的であるクロノとのファイトを圧勝し彼を叱責した。そして彼はその場を去った。なによりも大事な用事ができたからである。


「……天音アリス……!!貴様がまたあの悲劇を起こそうと言うのなら!!」


伊吹コウジ

3話

 

 

「………zzZ」

 

 

今日は日曜日、ミサキとのファイトから2週間以上経ったこの日、アリスは河川敷で昼寝をしていた。全身に浴びる太陽の光と土や芝の香り、心地よい風を堪能するためである。これらは全て遊星ブラントには存在しなかったものであり、『姫』から人間の体に移ってから人間の暮らしというものを存分に楽しんでいる。食事、睡眠も全て不必要だったので余計にこういった非効率的な行為を好きになっている。

 

 

「天音アリスだな?」

 

「……………………んん?」

 

 

しかしそんな彼女に声をかける1人の男がいた。伊吹コウジである。アリスは自分を呼ぶ声に目を覚ますと、重い瞼を開け目を擦りながら声の主を見た。

 

 

「伊吹コウジ……」

 

「お前に用事がある。ついてこい」

 

「いいよ。ボクも貴方に会いたかった」

 

 

アリスは声の主が誰であるか気づくとしっかりと目を覚まして立ち上がり伊吹について行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだ」

 

「……未成年誘拐」

 

「違う」

 

 

人気のない高架下に到着した2人は足を止めて話を始めた。

 

 

「根絶者を使っているらしいな」

 

「誰から聞いたの?カムイ、ミサキさん、クロノ?」

 

「誰でもいい、見せろ」

 

「……ん」

 

「ッ、ヲクシズ!!」

 

 

アリスの意見など聞いていないかのような声に仕方ないと感じたアリスはデッキケースにもなっているファイカを取り出し伊吹に渡した。

 

 

「このデッキはどこで手に入れた!!これで何をするつもりだ!!」

 

「とりあえず、返して」

 

 

アリスはヲクシズのデッキを強く握りしめている伊吹からデッキを取り返そうとしているが、武道の達人である伊吹は巧みな体術で避けた。

 

 

「…………返せ」

 

「なッ!?」

 

 

痺れを切らしたアリスは人間の動体視力で見えないほどの速度で動き背後へ回ると伊吹からデッキを取り返した。

 

 

「まったく……ボクの民になんてことをしてくれるんだい。メサイアの先導者、伊吹コウジ」

 

「ッ……それが貴様の本来の口調か」

 

 

カードに折れがついてないか確認したアリスは『姫』として、惑星クレイの神であるメサイアを先導する伊吹コウジと対峙した。その証拠にアリスから瞳の光が消え、代わりに根絶者特有の鬼火のような光が瞳に映し出された。

 

 

「ボクは遊星ブラントで姫と呼ばれている。ユニットや惑星クレイが実在することはまあ承知だと思うけど」

 

「姫だと……まさか、部下の失態でも取り戻しにきたか?」

 

「うーん……まあ、そんなところ?」

 

 

言葉を濁したアリスに反応して伊吹が武術の構えをとった。

 

 

「さっきのボクを見てまだ勝てると思っているのならそれは愚者だよメサイアの先導者。それに、ヲクシズはボクがしっかりお仕置きしたから」

 

「お仕置き?」

 

「四肢をバニッシュデリートした後に顔面を少しずつデリートの波動で削っていった。独断専行はヲクシズの十八番だけど、やっていい線引きってあると思うんだよね。支配者であるボクを差し置いてなら尚更。あ、もう治ってるから心配しなくていいよ」

 

「……」

 

 

思ったよりエグい事を口走るアリスに冷や汗を流す伊吹だが、ヲクシズより立場が上であると同時にヲクシズ以上の実力者がわざわざ地球にやってきているという事実に恐怖を感じているのだ。

 

 

「どうやって地球へ来た?その体はどうした?」

 

「質問が多いなぁ……理由は分からないけど()()()()と地球側との繋がりは10年?くらい前からあったからね、時空を超える事くらい今の誰でも出来るさ」

 

「時空超越……ストライドジェネレーションというわけか」

 

「そう、2つ目の質問だけども……ボクって遊星ブラントの『姫』であると同時に《支配する根絶者》って呼ばれててね」

 

「支配……」

 

「そう、別に洗脳とかそういう低レベルな事じゃない。生きとし生けるもの全て……いや無機物、時間、空間、そして概念まで全てを支配し常識を根絶する者。創造の前に破壊が必要なんて地球の人間もいい事を言うね。

 

でも、ボクはそれすら超越しようじゃないか。根絶するなら遊星ブラントの民全員にできる事だ……ボクはその先へ、創造すら支配する」

 

「何を言って……」

 

「人間の体を創造、地球への時空超越の際にユニットの魂と人間の肉体を融合させ一つの生命体として『天音アリス』が生まれた。それがボクさ」

 

 

スケールが違う。ヲクシズは遊星ブラントや根絶者の特性そのままに全てをデリートしようとしたが、アリスは根絶だけでなく生命創造までも支配するまさに支配者。自分が使っていた根絶者は本当に遊星ブラントの一端出会ったと、伊吹は理解したのだ。

 

 

「なぜわざわざいま動き始めた!!」

 

「運命の歯車が回り始めた……そう感じた」

 

「ッ!!」

 

「その鍵はギアクロニクルの先導者、新導クロノ……そうだよね」

 

「貴様、それが目的で妹などと新導クロノに近づいたのか」

 

「それは断じて違う」

 

「ッ」

 

 

伊吹の言葉を遮るようにアリスは否定を示した。言葉には怒気がこもっていて、視線も強くなった。

 

 

「ボクとクロノが出会ったのは本当に偶然……同じ施設で仲良くなっただけ。それをミクルさん……今の保護者が引き取ってくれたんだ。恩人を蔑ろにする発言はボクが許さない」

 

「…………なるほどな」

 

 

納得はしてないが理解はした、伊吹は構えを解くと壁に寄りかかり楽な姿勢をとった。アリスの言葉に裏を感じなかったからだ。

 

 

「状況は分かった。だが、貴様の目的はなんだ?復讐か、それとも貴様の得意な支配か?」

 

「ううん。まあ……敢えていうなら……ウチのバカが本当に失礼いたしました!!メサイアの先導者様に至りましてはどうかご容赦を!!」

 

「……!?なっ、貴様、くっ!!」

 

 

伊吹の視界からアリスが消えた。いや、一寸たりとも動くことのない完璧な土下座をしたばかりに視界から外れたのだ。

 

伊吹は予想外の行動に一瞬思考が鈍ったが状況を飲み込んだ瞬間、辺りを見回して人がいないか確認した。側から見れば大人の男性が中学生とも小学生とも取れる少女に土下座をさせている地獄のような光景、第三者に見られれば1発で事案だと確信が持てるからである。

 

 

「2度と悪さしないようにしっかり部下を教育しますので、どうかクレイとの敵対関係を解消していただけますようハーモニクス・メサイア様に説得をお願いしていただきたく……」

 

「分かった!!分かったから今すぐ土下座をやめろ!!死にたいのか!?(社会的に……!!)」

 

「え、許してくれるの?ありがとうヲクシズの元先導者、いやぁ話のわかる人間でよかったよ」

 

「貴様ァ!!」

 

 

あまりにも早い変わり身に伊吹はこめかみをひくつかせながら怒鳴った。本気で身の危険を感じた自分がバカな気分になってしまったらしい。

 

 

「……ふふ、冗談さ。でもメサイア……いや、惑星クレイと敵対の意志がないのは本当。だって先のあれはヲクシズの独断専行だからね。だからこうしてわざわざボクが地球に来たんだ」

 

「本当に謝罪のためだけに地球に来たのか?」

 

「まあ信じられない気持ちはわかる。やることやったし、後は余生を過ごして遊星ブラントに帰るだけだしなぁ……まあ何かする事があるっていうなら貴方の手伝いをしてもいいよ〜」

 

 

うーん、と考え始めたアリスを呆然とした目で見る伊吹はもはや何も言えることがなくなっていた。

 

 

「はぁ……警戒してここまで来た俺がバカだった。帰れ」

 

「あ、ちょっと待ってよメサイアの先導者」

 

 

そう言って伊吹はその場を去ろうとするが、アリスが引き止めた。

 

 

「やるべき事が終わったボクはもうクロノの妹の『天音アリス』だ。クロノやミクルさんに危害を加えるなら……ボクの全てをかけて貴方からクロノを守る」

 

「…………ふっ、心配ない。俺は新導クロノを守るために動いている。貴様はガキらしく楽しくヴァンガードでもしておけ」

 

「誰がチビでガキだ……!?」

 

「そこまで言ってない」

 

 

今度こそ伊吹はその場から去りアリスだけが残された。既にアリスの瞳は人間らしいものに戻っており、満足そうな表情で伊吹とは逆方向へ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

『目覚めなさい、ブラントの支配者よ』

 

「ッ!?」

 

 

アリスの頭に声が響いた。アリスは意識を浮上させ振り向くと、かつてヲクシズを下したハーモニクス・メサイアの存在があった。

 

 

「ハーモニクス・メサイア……惑星クレイの創世神……ッ!!これはっ、ボクの体が……!?」

 

 

ふと自らの姿を見るとユニットとして、『姫』としての姿に戻っていた。

 

 

『貴女から邪悪なる魂は感じられない』

 

「……そうだね。でも邪悪じゃなくても、純粋悪とでも言うべきかな?遊星ブラントによる星喰いを率先して実行する、それだけで十分でしょ?」

 

『遊星ブラントが喰らった星のエネルギー……ただ喰らうだけならブラントは肥大化し、いつか許容量を超え破滅を迎えるでしょう。いえ、本来なら既に滅んでいてもおかしくはない』

 

「それが?」

 

 

ハーモニクス・メサイアの声は脳に直接響いてくるような謎の声。聞きたくない事実であったとしても必ず頭に刷り込まれる。

 

 

『貴女はブラントに生きる根絶者達にブラントが溜め込んだエネルギーを分け与える中間地点の役割を果たしている。だからこそ根絶者は貴女を姫と呼び、敬い、畏怖し、支配される事を許しているのでしょう。そして貴女は根絶者達を民と呼び愛している、それが何よりの証明です』

 

「…惑星クレイの神に直々に褒められると悪い気はしないね。でも、言いたい事がわからない」

 

『貴女がそのエネルギーを吸収し続ければ、遊星ブラントすら支配する力を得るでしょう。そうすれば貴女は遊星の道筋を自由に決める事ができる』

 

「なんだって?でも、それは流石にボクの体が悲鳴をあげる方が先のはず……」

 

 

アリスは一度試そうとした事があるその手段を思い出しハーモニクス・メサイアの言葉を噛み締めるように受け取った。

 

 

『新たな未来を掴み取るのです』

 

「超越……簡単に言ってくれるね。分かった、出来る限りのことはするよ。幸いユニットの体だけはブラントに置いたままだからね……カードを通してボクの民に語りかけておくよ」

 

『……いつかの未来、貴女と我……肩を並べる日が来ることを願っています』

 

「ッ……何を言っ…て……」

 

 

急にアリスの意識が朦朧とし始め薄れゆく意識の中で、ハーモニクスメサイアの背中に、半透明な遊星ブラントが浮かび上がってくるのが見えた。

 

 

「(神は勝手だ……まるで支配者だ……ッ!!ふふ、ふふふふふ……そういうことか。ボクの掴むべき未来!!)」

 

 

そしてアリスの意識は完全に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……!!はぁ……はぁ……!!なんて夢だ」

 

 

そして目が覚めたアリス。時計を見ると既に11時を指していて平日であることを加味すると大遅刻である。

 

 

「おう、起きたかアリス」

 

「ク、ロノ……?どうして、学校は!!」

 

「休んだに決まってるだろ。とりあえず寝てろよー、いくら起こしても起きねぇしずっと魘されてたんだからな」

 

「え、う、うん……」

 

 

テーブルの上にはスポーツドリンクが置かれている。クロノはそのままアリスの部屋を出ていった。

 

 

「……ハーモニクス・メサイア、こういうのって本当は一瞬しか経ってないとかそういう感じじゃないの?」

 

 

アリスは学校に遅刻した原因を神様のせいにしながらペットボトルの蓋を開け飲む。

 

 

「食欲あるかー?」

 

「……超ある」

 

「ははっ、だろうな。ちょっと待ってろ。どうせそんなとこだろうともう作ってるから」

 

「さすがクロノ」

 

「褒めてもなんもでねぇよ。飯だけだ」

 

 

それから少し経ちもう一度クロノが部屋に入ってくると、お粥をテーブルに置いた。

 

 

「風邪じゃなさそうだけど、一応な」

 

「ありがと。学校休ませてごめんなさい」

 

「いいよ別に、先生も事情話したら納得してたし」

 

「ん」

 

 

アリスはクロノからお粥を受け取るとスプーンで食べ始めた。

 

 

「おいしい」

 

「塩と醤油も置いとくぜ。一応熱も測っとけよ。俺の部屋にいるからなんかあったら呼べよ」

 

「ん」

 

 

塩と醤油と体温計がテーブルに置かれクロノは自室へと戻っていった。

 

 

「本当に……ボクには勿体無いくらい良い子だね。いや、だからこそ……特異点になり得たのかな?」

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