支配する根絶者、地球に降り立つ 作:旧シリーズからの根絶者使い
「迷惑をかけたな、アリス」
「ん……次からは歯磨きをしっかりしてもらう」
「分かってるって……最近はヴァンガードのこと考えてたらいつのまにか寝ちまってたんだよ」
「クロノが夢中になれるもの……できたのは嬉しい。でも人の体は強くないんだから、ちゃんとケアしないとだめ」
「何言ってんだお前」
アリスが既にグレード2に至っていることなど全く知らないクロノは順調にポイントを集め、すぐグレード2になれると内心ウキウキである。そんなこんなで今日もアリスと共にカードキャピタルを訪れていた。
「今日こそグレード2に……!!」
「……頑張れ」
「アリスは受けないのかよー」
「ん……休憩」
目立たずひっそりと
「あれ、よう2人とも」
「カムイさん」
「カムイ……お出かけ?」
2人がキャピタルに入ろうとした時、すれ違うようにカムイが店から出てきた。
「おう。これからドラゴンエンパイア支部にな。お前らも行くか?」
「「……行きます」」
ドラゴンエンパイア支部。ヴァンガード普及協会が運営する施設で、東京都を6つのエリアに分けそれぞれにヴァンガードの国家を割り振ることでヴァンガードの普及を図る、いわば普及協会のオフィスである。アリス達の住んでいる地区はこのドラゴンエンパイア……通称ドラエン支部が管轄である。
「ドラゴン支部は毎週かってくらいイベントをやってるんだ。各支部の特徴はそこの支部長の意見が露骨に反映されるからなー。ドラエンの支部長は大のお祭り好きって噂だ」
カムイに案内されながら支部の説明を受ける2人だがあまり想像が追いついてないようでなんとなくのイメージしかしていない。
「……じゃあ、カムイはバイトサボって遊びに行くの?」
「人聞き悪いなアリスちゃん!?ちげー、今日は仕事で行くんだよ。ほら俺、有名人だし?」
「自分で有名人とか言うと安っぽく聞こえるな……」
「なんか言ったかー、クロノ?」
「なんでもないっす」
そうこうしているうちに3人はドラエン支部に到着、中へと入っていった。
「……遊園地?」
「おっ、鋭いな。さっきオフィスとは言ったけど1階から3階までにはアミューズメントやファイトスペースになってるんだぜ」
「へー」
中に入るとまず目につくのはドラグニック・オーバーロードの像だ。確かに、ドラゴンエンパイアといえば……となればこのユニットの名前を思いつく者も多いだろう。
(……ヲクシズが負けた片割れ……櫂トシキが確か使っていたはず。でも、あれは確かレギオンユニットだったような?)
なんとなく周りを見渡していると、壁にかけられたポスターに目が行った。
「安城……マモル?ああ、トコハの」
今日のイベントの告知ポスターらしく、内容は抽選で安城マモルとファイトができるとのことだ。会ったことない人の名前はあまり覚えていないため思い出すのに時間がかかったようだ。
「興味ないし……いいかなぁ」
ちらっと後ろを見れば、いつのまにか合流していたらしいトリドラとカムイとクロノが話をしている。一瞬こちらを見たツネトがアリスに気づき話かけてきた。
「あれ、アリスちゃんも来てたのかよ。お目当てはやっぱ、マモルさんだよな!!イケメンだし!!」
「……興味ない」
「うっそだろ!?」
「ほんと」
中学1年生でもイケメンなら好むだろうとたかを括っていたツネトは驚く。それもそのはず、アリスにはそもそも人間の美醜など分からない。
(ボク達根絶者にも性別があって、生殖行為で個体数を増やす種族だったら違うかもしれないけど……ねぇ?そういやボク、なんで『姫』なんだろう?別にユニットの体に性別なんてないんだけど……まあ人間の体も女性体で作ったし今更か)
「そうだ、だったらアリスちゃんも申し込もうぜ。マモルさんとアリスちゃんのファイトとか絶対すごいよな!!」
「……えー」
「確かに!!さすがツネトさん!!」
「うんうん」
「コイツらの話、聞かなくていいぞアリス」
「まあまあ、当選するかもわからないし、申し込むだけやってみろよアリスちゃん」
トリドラ、クロノ、カムイから順に声をかけられ悩むアリス。別に興味などないがメサイアスクランブル関係者以外でのこの世界の強者に興味がないと自信を持って言えるかと言われればそうでもない。
「……ん、まあどうせ当たらないし登録だけする」
「お、おい。いいのかよ」
「運は悪い方だから大丈夫だよ」
「いやそれ……えぇ……?」
クロノと共に登録。番号が500番を超えており確率は思っていたよりも低いらしい。受付の人がまだクロノしか手に入れていないギアクロニクルのデッキに驚いていたがアリスは特に反応されなかった。おそらくリンクジョーカーに属している根絶者はマイナーなデッキだとでも思われたのだろう。
「こんなのあたんねえだろ」
「ん、むり」
アリスはもはや興味から外れたようにため息をついた。
「飲み物買ってくる……クロノはなにがいい?」
「いや、俺はいいよ。気をつけろよー」
適当に飲み物を買ってあとはおとなしくクロノのファイトでも見ようと考えたアリスは施設内にある自販機に向かう。そこで紅茶を買い併設されている椅子で休憩していると、いつのまにか人だかりができていることに気づいた。
どうやら安城マモル目当てで子供達が集結しているらしい。人気者は大変だなーとアリスが考えていると、それに続くようにカムイにも人だかりができてしまっていた。
「……そういえばカムイ、有名人だった」
たとえ現役高校生だろうと、ヴァンガードで結果を残せば伝説と呼ばれる。カムイに至っては小学生でそれを成し遂げたというのだから、アリスは感心していた。
「まぁ、ヲクシズに負けた時点で程度が知れる……別にヲクシズがボクを除く根絶者の中で最強というわけでもないし」
元の口調で本音が漏れるアリスだが、事実であるため仕方ない。メタい話、超越さえ無ければヲクシズのスキルが最も効果的であるが、ハーモニクスメサイアの覚醒で超越が解禁されてしまったことが大きい。その恩恵は惑星クレイにとどまらず、遊星ブラントまで届いていたのだから微妙なところである。グレイヱンドなど超越の恩恵を受けることができるユニットが誕生したのも嬉しい誤算だった。
(ふふっ、特にザクヱラドがあんなスキルを持つようになるなんてね。超越できなくするなんて良い子にも程があるよ)
そんなことを考えているアリスだが、ふとあることに気づく。クロノの姿が見当たらないのだ。赤い渦巻き頭なので目立って仕方がないはずなのだが、アリスの視界内には見つからない。クロノを探しに行こうかと立ち上がった瞬間、ファイカから通知がきた。
「……ドラエン支部にいるヴァンガ郎を探せ?捕まえた人には300ポイント?なんで急に……こんな破格なクエストが……?」
ヴァンガ郎というのは、ヴァンガード普及協会におけるマスコットだ。探せ、だけならどこかにある絵柄を見つけるタイプだったのかもしれないが、捕まえろ、と書いてある以上着ぐるみか何かが動き回っているのだと予想する。
「ふぅ〜……疲れたぜ……一休み〜っと……おっ、アリスちゃんこんなところにいたのか」
「お疲れカムイ……見てた」
「なら助けてくれても……って無理か」
「無理」
そうだよなぁ……と嘆いているカムイ。子供達の群れから生還してきたらしい彼は既に疲れが見えている。
「それよりさっきのクエスト見たか?300ポイントだってよ!!やらないのか?」
「…………多分面倒くさいクエスト。条件と報酬が噛み合ってない」
「あはは……色々あってな……」
どうやら事情を知っているらしいカムイだが、アリスは特に興味もないのでそれ以上の深掘りはしなかった。
「クロノは?」
「え、ああ……ヴァンガ郎に連れていかれたよ。なんつーかアイツ、巻き込まれ体質?なのか」
「…………根が優しい。ボクもここにいられるのもクロノが優しかったから」
「……そっか。良い兄貴なんだな」
因縁……と言えばそうなのだろう。仇敵のデッキを使うとはいえ、カムイにとっては歳下の少女だ。できる限りクロノ達と同じように接しているつもりだが、時折闇深いことを言うので反応に困るカムイだった。
「そろそろ時間だな。イベント会場に行こうぜ。クロノはどうせなんとかなるだろ」
「…ん、行く」
それとこれとは話が別。先ほどから一転、クロノを見捨てた2人は雑談をしながら外の会場へと向かった。
〜イベント会場〜
「……うわ」
「おー、やっぱもう集まってんなー」
2人が外にあるイベント会場に到着した。カムイは感心したように声を上げ、アリスは人の多さに顔を顰めている。
「……こんなに人がいるなら、ヴァンガ郎捕まえた方が簡単だしポイントももらえるのに」
「ここにはマモルさんのファンの方が多いんだろうよ。そもそもクランリーダーとファイトできるってのも良い経験だしな」
「……なるほど」
効率的な損得ではないと言われてしまえば仕方がない。そもそもエイリアンであるアリス達根絶者は感性が違うのだ。
「そろそろ抽選が始まるみたいだぜ」
「ん」
『お待たせしました!!それでは本日のメインイベントの抽選を開始しまーす!!』
参加者の声が増えていく。こんなにも安城マモルは人気があるのか、と思いながらもカムイがいるため下手に抜け出すこともできないことを胸の内で嘆いた。
『それでは、1人目の当選者の発表です!!』
司会の女性の後ろのモニターでルーレットのように数字が変化していく。アリスが登録した(正確にはさせられた)時点では529番であったため3桁が4桁のどちらかと思っていたが、どうやら3桁であるらしい。
『287番、多度ツネト君!!』
「ははっ、ついてんなアイツ」
「……ここまでくるともう運命」
500人以上いる中からまさかの知り合いの当選、2人は驚きつつもツネトであることからどちらかと言えば苦笑ぎみだ。
「……どうせ瞬殺。弱くはないけど、レベルが違う」
「強い人に揉まれた方が強くなるかもしれないぜ?」
「糧になる……という意味では間違いなく良い。でも……あれは……」
「気づかない方がいいこともあるんだよアリスちゃん」
強者である2人ならではの意見だが、当の本人……ツネトは照れていたりドヤ顔だったりと全くそんなことは考えていなさそうだ。
そして案の定、手札3枚縛りのマモルにボロ負けしたツネトだがそれでも嬉しそうだ。
「バカ……って、気楽でいいね」
「は、はは……」
カムイは確かにツネトのフォローをしようとした。しかしできなかった。何故か、小学生時代……の自分を一瞬思い出したからである。
『さぁ、それでは2人目の当選者の発表です!!』
「あたんねぇかなー」
「…………」
カムイも登録していたのかと一瞬呆れたが、アリスはもう飽きている。正直なところもう帰りたいと思いつつも一応登録をした身であるため終わるまでは残るつもりだ。しかし徐々に飽きているのが表情に現れてきた。おそらくクロノしか分からないだろうが少し眉が下がっている。
『529番、天音アリスさん!!』
「…………え?」
「おいおい、アリスちゃんもだいぶついてるなー」
呼ばれたのはまさかのアリス。呼ばれなかった瞬間に帰ろうと決心していたが、当選してしまったらしい。
「……はぁ。仕方ない……よね」
「行ってら〜。勝ってこいよ!!」
「……頑張る」
大海を割るモーセのように、人だかりの中周りが道を開けアリスは進む。ザワザワとうるさい人の波、そして好奇の視線がアリスを貫く。
(ウザい……果てしなくウザい。はぁ、こんなに人がいるなからやめとけばよかった……)
そして壇上へと上がれば、司会の女性と安城マモルの姿があった。
「よろしくね」
「……ッ、お願いします」
「グレードは……2か。じゃあハンデは手札2枚からでいいかな」
ファイトテーブルに向かい合うように立ち会ったアリスとマモルの2人。どうやらグレードごとにハンデの手札枚数が違うらしい。
「無しで、いいです。手加減されるほど……ボクは弱くない」
「でも、そうイベントなんだ」
いつまでもにこやかな笑顔を向けてくるマモルに、アリスは少しだけムキになってしまった。支配者たるアリスがここまで舐められている、それも民である根絶者達を前に。そんな事実に対し、アリスは重い腰を上げることにした。
「……じゃあ、その気にさせる」
アリスはそう言ってファイカからデッキを抜き取る。丁寧に別のデッキケースに移すと、
「ッ……いいだろう。アカネ君、このファイトは本気でいくよ」
「……わかりました」
アリスの気迫にマモルは少し気圧された。しかし彼とてクランリーダーの意地と誇りがある。イベントなんて生易しいものじゃない、真のファイトが始まろうとしている。
両者の納得によりハンデ無しでのファイトが始まる。マモルはいつも通りにデッキをセットし、アリスは
「アリスちゃん、Gユニットを使うのか!?」
「カ、カムイさん!!アリスちゃんてばデッキを変えてましたよ!?」
「ああ……こないだ言ってたアレだ。一つ上のデッキ……本気らしいぜ」
トリドラの3人とカムイは合流していたらしい。普段と違う様子のアリスを固唾を飲んで見守っている。
(行こうかグレイヲン、グレイドール。そして……終わりと始まり、終焉と始源を司る根絶者の未来の可能性達よ。そうだね、今日は君に準えて……ふふっ)
「「スタンドアップ」」「ザ」「「ヴァンガード!!」」
「絆を以て絆を断ち切れ、ライド・ザ・ヴァンガード