支配する根絶者、地球に降り立つ 作:旧シリーズからの根絶者使い
「いけー!!」
「マモルさーん!!」
「アリスちゃーん!!」
歓声が鳴り止むことのないようなファイトを見るのは初めてではなかったが、それはプロ同士のようなレベルの違うファイトだ。それが目の前で繰り広げられている。
クランリーダーにして誇れる自分の兄と、この間知り合った年下の少女がいい勝負……いや。互角のファイトをしているのだ。確かにクミやトリドラの3人、クロノ、カムイなどが絶賛していたから相応に強いファイターだとは思っていた。都合が悪くてまだアリスの実力を知らなかったとは言え、こんな圧倒的な実力を見せられたら言葉が出なかったのだ。
「それでも……」
それでもマモルが勝つと信じて止まないのは、クランリーダーだからではなく兄妹としてそのファイトを最も身近で見てきたからだ。
「僕のターン!!」
今、このファイトの命運を分けるマモルのラストターンが始まる。
「僕のターン!!」
マモルはなんとなく、自分は負けるのだろうと考えていた。手札は自身の分身である《ドラゴニック・ブレードマスター》が一枚のみ。超越できるとはいえ、ユニットの退却ができるかげろうというクランは相手のユニットが少なければ特性を発揮しずらいのだ。そして何より、アリスの手札が防御面で優れているのは明確だったからだ。先程のアリスのトリプルトリガーで最低でもクリティカルトリガー2枚分の防御力がある。残りの2枚のうち1枚は完全ガードがあるだろうとも。
それでも、
「ジェネレーションゾーン解放!!ストライド……ジェネレーション!!」
「《炎帝龍王ルートフレア・ドラゴン》!!
マモルの代名詞とも呼べるユニットが降臨した。
「ストライドスキルでアルバを退却!!ギョクリュウのスキルでパワーをプラス。ルートフレアのスキル、一列薙ぎ払え!!」
アリスの両サイドのユニットが退却させられインターセプトを潰された。
「……くっ、ルートフレアでアタックッ!!」
「完全ガード」
無慈悲な宣告がフィールドに木霊する。ケケケッ、っとルートフレアを嘲笑うのは《染み渡る根絶者 ヱンダー》だ。
「まだまだ、トリプルドライブ!!」
出たのはヒールトリガーが一枚のみ。これでダメージを4に回復したマモルはパワーをリアガードのイマードに振った。
「イマードでアタック!!」
「ノーガード」
パワーは上がっているが所詮は1ダメージ、現時点での超越かげろうは打点が少ないという弱点を大いに感じる場面だった。
「…………ターンエンド」
悔しさを滲ませた声でマモルが宣言する。既に会場の空気は冷めきっており、ほとんどの人間がマモルの敗北をイメージしているのだ。
「ボクのファイナルターン」
「ッ!!」
このターンで決着を付ける、なぜならもうマモルはなすすべなく、何をされたかわからないまま敗北を迎えるだけだからだ。
「グレイヲンにライド、2枚をバニッシュデリート」
「またライドだって?」
「ジェネレーションゾーン解放」
アリスは手札からグレード1とグレード2を切ることによりストライドを開始する。
「殺し、滅ぼし、根絶したその先で新たな始まりを示せ!!
顕現するは始源を司る根絶の覇者。理を超越せし、根絶者最初のGユニットである。
「なんて、禍々しいイメージ……!!」
「…………ギアリをコール。スキルは……使う必要もない。ヱヰゴヲグのスキル発動」
カウンターブラストに加えギアリを退却、GB2を伴って発動を命令されたヱヰゴヲグは自らの力を使う感動に打ち震え咆哮をあげる。
そしてヱヰゴヲグの頭上に3つの支柱、さらにその中央に核のような球体が現れた。
「デリート」
例によってドラゴニック・ブレードマスターが消え去り霊体のマモルが現れる。そして支柱が一本、粉々に弾け飛んだ。
「ぐぁ……!?」
苦痛の声をあげるマモルを無視し、アリスはさらに続ける。
「後列……誰でもいい、ギョクリュウを呪縛。1枚、バニッシュデリート」
「おいおい……なんでもありかよ」
観戦しているカムイが小声でつぶやく、デリート、呪縛、バニッシュデリートとあらゆる特殊なスキルを巧みに扱うGユニットに冷や汗が止まらない。
「条件達成、貴方のダメージが4以上」
「がはッ!!…………じょう、け…………!?」
さらに支柱が弾ける。霊体に蓄積された根絶者達の攻撃がここで牙を剥いた。
「最後の条件達成、貴方のバインドゾーンの裏のカードが13枚以上」
「な………!?」
そんなに溜まっていたのか、とマモルは改めて自身のバインドゾーンを見る。そこには役目を終えたユニット達の魂が檻に閉じ込められ、その数は……13体だ。
最後の支柱が割れる。
「厳しい条件で得られる効果だと……まさか、嘘だろ!?」
カムイが思い出したのはもう何年も前の話、リンクジョーカーとの戦いに臨み最強の敵として君臨したあの最終兵器のスキルだ。そう、《星輝兵 Ωグレンディオス》の規格外の能力……
「これらの条件を満たした時……私は、
3本の支柱が全て砕け散ったことにより露出した球体、ヱヰゴヲグは満足そうに邪悪に嗤うと満を持してそれを破壊した。
「なん……ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「バニッシュデリートエンド」
ルールへの干渉、根絶者の未来はここまで来たのだということを、アリスは現代に刻みつけたのだった。
◆
ポッと出の少女がクランリーダーにあり得ないような勝利をかました、という事実が会場全体に認識された瞬間、今日で1番の歓声があがった。会場のあらゆる場所からアリスを讃える声が聞こえ拍手喝采といった様子。MCの女性がポカンとしていたが歓声で正気に戻ったのか、改めて勝者であるアリスの名前を宣言し、それによってさらに盛り上がるという近所迷惑も良いところの大惨事が生まれたのだった。
「……はぁ。お疲れ様、皆」
アリスはその光景に鬱陶しそうに溜息を吐くと活躍してくれた民達に労いつつデッキを収める。
「ふふ……あははは!!良いファイトだったね、アリス君」
「うん。強かった」
「いいや、最初から最後まで君の思惑通りに進んだんじゃないのかな?」
「……さあ、なんのことか分からない」
「やっぱり君は素晴らしいファイターだ」
アリスは自分の計画がバレていることに戦慄しながらも、面倒なのが確定しているので早急にこの場を離れたい。
「ありがとうございます……じゃ」
「おっと、まだ帰らないでくれるかい。君をグレード3に昇格させるよ」
「…………ぇ」
か細いが明確に面倒くさそうな声を出したアリスだが、これは公式のイベント。流石にガン無視で帰るわけにはいかない。
『皆、今この時を以て天音アリス君をグレード3に昇格とする!!今まで僕が見てきた中で最も栄えある昇格だと思わないかい?』
「なっ、何言って……!?」
マモルは手持ちのマイクを起動させると会場全体に宣言した。わざわざマイクまで使って言うことではないと感じたアリスがいつもの無表情を忘れ弾かれたようにマモルに振り向いた。何やら笑顔でこっちを見ている。
(負けた悔しさで茶目っ気出してるなこのニンゲン!?)
実質、公開処刑のようなやり方に憤りを覚えたアリスだったがマモルの表情を見る限りあれは確実に弄ばれている。いつかぜったいもっと酷い目に遭わせてやると心でそう誓った瞬間、再度会場が沸いた。
聞こえてくる声はどれもアリスを讃えるような声でありたった一つの僻みや妬みが聞こえてこない。彼らは皆純粋に1ファイターとしてアリスを称賛しているとわかったアリスはバツが悪そうに、しかしとある光景を思い出し頬を掻いた。
(遊星骸王者を下してボクが新たな玉座に着いた時も、民達はこんなふうに祝福してくれたっけな)
幾つもの骸を積み上げその上に立って聞いた歓声が脳内に再生されるが状況が違いすぎるのだが、そんな例を挙げてしまうのもアリスだからである。
ファイカを渡し少し待つと、背後の大型ディスプレイに大きくグレード3の文字が表示された。無事昇格したらしい。
「改めて昇格おめでとう。そして……次は負けないよ」
「ッ……いつでも、受けて立つ」
2人が握手すると会場は歓声に加え拍手喝采、まるでプロ同士のファイト後のような雰囲気だ。
こうして外の会場でのイベントは終了したのだった。
「…………ん、クロノは?」
◆
ドラエン支部での全イベントが終了し日も傾いてきた。ようやくクロノと合流できたアリスは、ことの顛末を聞いた。
「ヴァンガ郎について行ったら支部長とファイトすることになった……は?」
「あのイベントに当選した挙句クランリーダーに勝ってグレード3になった……はぁ?」
「なんだこの兄妹」
「非常識にも程があるわね」
「どんな生き方したらこんなことになんだよ……」
「2人ともすごーい」
お互いの事情に呆れるクロノとアリスを見て呆れたような感想を告げたのは上からカムイ、トコハ、ツネト、クミである。
「……少し、寄り道してから帰る」
「ん?おう、あんまり遅くなるなよ」
「ん」
その場で全員が解散し皆が帰って行ったのを尻目にアリスは深く息をついた。
「静かな余生を過ごすんじゃなかったのか」
「静かな……なんて一言も言ってない」
木の影から出てきたのは伊吹コウジ、どうやらイベントに来ていたらしい。アリスは伊吹の悪態に適当に返事をすると伊吹に向き直った。
「ボクの監視……それともクロノの監視?」
「両方だ、いや……新導クロノについてはついでだ」
「……あっそ」
「あのGユニットはなんだ」
「……それが用件」
直球にアリスに聞いてくるが、アリスも眉を顰めて言った。
「ボクもよく知らない……でも、ハーモニクスメサイアの覚醒によるGゾーンの解放が原因のはず」
「その影響が根絶者にまで及んでいたとでも?」
「……そうじゃないと説明がつかない。そもそも最初のストライドが誰の目の前で行われたか……っていう話」
「チッ、ヲクシズか」
伊吹コウジとヲクシズを倒すために目覚めたハーモニクスメサイア、そして世界初のストライドは2人のファイターによって引き起こされた物であると考えれば根絶者にもその影響……いや恩恵があるのは当然の話。さらに言えばメサイアスクランブルのあの瞬間、惑星ブラントは地球との距離を限りなく近いものとしていたのだ。
「ストライドに由来するスキルを持って根絶者も多数生まれた。何よりバニッシュデリート、これはあの後から生まれたスキル」
「根絶者を打倒するための最後の手段が、その強化に使われているとはな。皮肉がすぎる」
「……ボクに言われても」
「遊星ブラントの『姫』だろうが。貴様に言わず誰に言えと?」
なまじ自分が支配者であることを咎めているような言い方にアリスも少しイラッと来たが、その言い草にも一定の理解があるのでアリスは特に反論をしなかった。
「そもそも……参加するつもりが無かった。文句はカムイかドラエンスタッフに言うべき」
「存分に言ってやりたいが俺にも立場と言う物がある。黙って聞いてろ」
「ニンゲンは理不尽……」
伊吹は言いたいことを言い切ったのか目を閉じて黙る。アリスはそもそも話しかけられただけであり用事など無いので早く帰りたいが帰って良いとは言われてないので無言で伊吹を見続けている。やがてその空気に耐えられなくなったのか、伊吹から言葉を発し始めた。
「安城マモルは強かったか」
「……べつに。最初から最後まで予想通りの範疇でしか動いてくれなかった」
「イメージどころか実物共と接してきた貴様には物足りないだろうな」
人間のヴァンガードはある程度イメージ力でどうにか出来る、2人の共通認識として経験があるので言葉足らずでも言いたいことは理解できていた。
「……イメージ力は目を見張るものがあった。でも、あの程度なら……って思ってた」
「他が弱すぎるとでも?」
「言葉を選ばないなら」
これだから人外は……と伊吹は内心呆れたが、何を言っても無駄である。
「ああそうだ、貴様に贈り物だ。ハーモニクス・メサイアからな」
「……惑星クレイの神が自ら?」
「受け取れ」
まさかの言葉にアリスは驚くが、実際に会話をしたこともあり今のところ排除されるような真似はしていない。警戒よりも関心が勝ったので伊吹から封筒を受け取った。
「……今開けて良いの?」
「勝手にしろ」
投げやりな言葉だが伊吹は封筒の中身を知っているはず、ならば問題はないと判断したアリスは側から見れば一瞬右手がブレて見えるような速度で手刀を振るい開封した。伊吹が口を開けて絶句したことは言うまでもない。
「《創世竜 ジャッジメント・メサイア》…………4枚も」
それはリンクジョーカーに属するメサイアのGユニット、つまり本来根絶者とは縁のないカードだ。
「喧嘩……売られてる?」
「なんだと」
アリスは少し怒気を含ませて伊吹にそう言った。いつの間にか瞳は紫炎が揺らめいており、ユニット由来の側面が出てきている。
「根絶者の支配者たるこのボクに、根絶者以外の未来の可能性を示せと……惑星ブラント、いやボクに対する明確な宣戦布告にしか見えないんだけど」
素の口調で伊吹を睨みつけるその目から殺意すら感じられる。伊吹はその視線を一身に受け冷や汗を流している。
「俺に言うな、奴も俺の夢の中で一方的に『渡せば理解してくれるでしょう。まさか遊星ブラントの支配者が分からないわけが……』とか言ってきただけだ」
「なっ…………はぁ」
伊吹が唇をひくつかせながら訴えるような声音でそう言えばアリスは絶句し、溜息をついた。宣戦布告とか喧嘩を売られるとかそういう以前に、もう煽られたと言っていいだろう。
「お互い、彼女には苦労させられるね……」
「……癪だが貴様に同意だ」
神からの一方的なお告げに、2人はさらに溜息をついた。
「まあ、言いたいことは理解できるよ」
「なに?」
「《終末根絶者 アヲダイヱン》は現代にはまだオーバーパワーだから使用を控えろ、代わりのGユニットはくれてやる……そういうこと」
「…………なるほどな」
伊吹の溜息が一つ増えた。アリスはカードをいそいそとカバンに仕舞うと説明をし始めた。
「メサイアの先導者なら分かると思うけど、あのデッキはアヲダイヱンとヱヰゴヲグとのシナジーはあってもストライド自体との相性は良くないんだ」
「ああ、貴様のファイトを見たがそれは分かった」
「ハンデなんていう舐めた行為をしてくれたニンゲンの鼻っ柱を折るためにわざわざ引っ張り出してきただけだし、まあ……ストライド無しだと勝率がぐんと下がってしまうということの方が重要だったからね」
「クランリーダーに勝利することのデメリットを考えなかったのか?」
「そんなわけないじゃないか。でも、支配者たるこのボクが敗北なんて……出来るわけないだろう?」
「…………どいつもこいつも、面倒な」
伊吹は心底怠そうな声音で呟くとアリスに背を向けて歩き出した。本来の用件は終わったということだろう。
「君から話しかけてきてそれは無い……よね?」
「そうか、じゃあこれで手を打て。じゃあな」
「……ふぅ。ん、しかたない」
アリスの咎めるような発言に一瞬足を止めた伊吹だが、若干の負い目はあったのか素直にアリスに向けて小銭を投げてきた。人間の口調に戻したアリスはそれを難なくキャッチすると納得して伊吹とは逆方向に歩き始めた。
「……根が善人だと扱いやすくて楽」
アリスは伊吹から受け取った500円玉2枚を握りしめて、最近トコハに教えてもらった店に足をすすめた。
「ただいま……クロノ、お土産」
「おかえりー。なんだこれ」
「友達におすすめされたパン屋で買ってきた」
「へぇ、美味そうじゃん。今夜はこれだな」
「……ミクルさんの分、忘れた」
「え」