幻の名馬がんばる   作:テンジク

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種明かし

「・・・・・・眠い・・・・・・」

 

昼頃。雲一つない晴天の中太陽が天へ高く登り、トレセン学園の生徒達が昼休みだと喜び勇み、こぞって食堂へと赴く時間帯である。が、駿川たづなに昼休憩などという時間は無い。

陽の光が射し込む理事長室。

重い瞼をこすりながら、たづなは書類に判を押し、サインの書き込みを行う。デジタル化が進み、大半の事務作業は書類を通さず行えるようになった。大分楽になったものだ、と薄ぼんやり考えていると、ふと昨晩の事を思い出す。

 

────夢を、掴まないか!?────

 

トレーナーが目を輝かせながら話した言葉。今も身体中を駆け巡っている言葉。そして今たづなを苦しめている言葉でもある。

たづなは引退したウマ娘だ。三冠も夢ではない、と評したトレーナーの言った言葉がもし正しかったとしても、オープン戦にすら出られないのだ。

 

(やはり、謝罪して諦めてもらう他無い。そもそも、こんなウマ娘に夢を見てはいけないんだ。歳もとってこれから衰えるしかない、レースにも出られない、過去の栄光に縋り付くような情けないウマ娘には────)

 

「────たづな?」

 

たづなはハッとする。随分と長い間深く考え込んでいたようで、座っていた机の前から理事長室でともに働いているトレセン学園理事長、秋川やよいが覗き込んでいた。

 

「あっえっと、何でしょうか?」

 

慌てて誤魔化すように返答する。他人の機敏に敏い理事長のことだ、私の様子を見てなにか訝しんでもおかしくはない。

 

「・・・・・・いや、随分考え込んでいるな、と思ってな。二、三呼びかけたのだが・・・・・・。傾聴っ、何か悩み事があるなら、聞かせては貰えないだろうか。」

 

秋川やよいは、駿川たづなの事情を────競争バトキノミノルのことを────知っている。真にわかりあった仲、だとも思っている。・・・・・・話すべきだろう、とたづなは素直に思った。

 

「・・・・・・実は、昨日の夜に走りまして。」

「なんと!では脚の不調か!?」

「いえいえ、そういうことではなく!・・・・・・その、実はスカウトをされてしまいまして・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・スカウト?」

 

素っ頓狂な顔をするやよい。だが、すぐにもその意味を理解する。

 

(ついに来たかっ・・・・・・!)

 

駿川たづなの脚は、衰えて尚本物だ。今でもなお一線級で走る力を持っている。そして、それはたづな本人が思っている以上にトレーナーにとっては魅力的に映るだろう。

 

(たづなは時折、グラウンドで切磋琢磨する生徒たちを見ながら切なそうな顔を見せていた。そしてその内に秘める欲望も、そのときは少し見えた。ならば!)

 

「上上ッ!素晴らしいではないか!やっとたづなの脚に気づくものが現れたかッ!そのトレーナーは誰だ!勲章を与えねばっ!、どう返事したのだ!どこかのレースに出るのか!?」

「おっ、落ち着いてください!お受けもしてないですし、そもそもあのトレーナーさんは私だということに気づいてないです!」

「・・・・・・?不明ッ、どういうことだたづなよ?」

「ええと、ですね────」

 

 

────────

 

 

「────つまり、なんだ。そこで咄嗟に偽名を使って、難を逃れた訳だ。」

「は、はい・・・・・・」

「・・・・・・疑問ッ!話に出た坂本トレーナーのことであれば、私もよく知っているッ!彼は信用のおける人物だ。君がトキノミノルであることを無闇に誰かへバラしたりはしないだろう。それに君との交流も深かったはずだ。隠さなくても、良かったのではないか?見る限り、君も満更でないように見える。」

 

たづなが座っている、少し長い革製のソファの、たづなの丁度となりにやよいも座る。同時に少し沈み込むそれを見ながら、

自分自身の状況を見て、たづなは少し考える。

そして・・・・・・彼であれば、トキノミノルであることを明かしても問題ないかもしれない。いや、ともすれば受け入れて、くれるかもしれない。けれど拒まれる恐怖に、伝えて、ウマ娘を語らう友を失う恐怖に二の足を踏んでいる。たづなはそんな心境にいることを、ここに来て初めて自覚した。

 

「・・・・・・そうかも、しれないです。彼に私のトレーナーとなって欲しい。そういう私が、既にいます。けれど結局、私は怖いんですね。彼に隠し事をしている事実が、彼を失望させてしまうのではと子供のようなことを考えている。彼と友達のような関係でいることに心地よさを持っている私が、あのとき嘘を付いたんです。・・・・・・でも。そのままでいいような気もしています。彼からしたら私は謎のウマ娘です。姿形を知らない、誰か。であれば、このままでいれば────」

「たづな。」

 

やよいがたづなを静止する。彼女にとって最も不幸せなことは、怖気付いて何も話せず、トキノミノルを本当に殺してしまうことだった。────たづなには、思いっ切り走ってほしい。それが理事長として就任してから、たづなにずっと向けている感情だった。

 

(たづなも、理屈として彼に事情を話さなければならないことは十二分に理解している。あとは感情の整理をつけるだけだ。・・・・・・どれだけ時間がかかるんだそれには。・・・・・・まどろっこしいっ。結論ッ、今私がするべきは彼女に活を入れること!)

 

「たづな。」

「・・・・・・はい。」

「喝ッ!甘ったれるんじゃない!」

「ッ」

「キミが彼を『ウマ娘であることを隠していただけで怒る男』などと思っていないのは瞭然ッ!ならばなぜそのようにぐずる!」

「そ、そんなっ、ぐずるだなんて・・・・・・」

「今は昼時ッ!さっさと話して受け入れてもらって来るといいッ!今日は半休ということにしておくから一緒にご飯でも食べてくるのだッ!そうなるまでこの理事長室、入れないと思えッ!」

「りっ、理事長っそんな殺生なっ」

「言い訳無用!出ていけえっ!」

 

やよいは、たづなの背中をぐいぐいと押して遂には理事長室を追い出してしまった。

パンパンッ、とホコリを払うように手を鳴らし、少し背を伸ばして理事長室に鍵を掛ける。そして少し扉に耳を当て、たづなの放つ悲しそうな声を聞き、少し待ったあとにとぼとぼと歩き出した音を聞いて、やよいは業務へと戻っていった。

 

 

──────

 

 

「ひどいですよ理事長・・・・・・」

 

そう漏らしながら、とぼとぼと学園内の廊下を歩く。理事長はこうする、と決めたことには頑固だ。本当に彼と話をつけてくるまでは理事長の扉を叩くことも許されないだろう。

 

「・・・・・・覚悟、決めるしかないわよね・・・・・・」

 

そう言いながら、食堂へと歩を進める。トレーナーさんはいつも食堂が締まる時間まで食事をする方なので、まだ空いている時間帯の今ならば、そこで出会えるだろうと考えたからだ。

そうして食堂についた頃、中程にトレーナーを見つけた。

何時ものように黙々と箸を進めているが・・・・・・心做しか、いつもよりたたえている笑みを深めており、上機嫌なように見えた。

それを見て私は、一つ深呼吸を挟んで食堂の列に並び、軽食を貰って彼へと歩を進めた。

 

「お疲れ様です、トレーナーさん。」

「おや、たづなさんじゃないですか!どうしたんですか、ここに来るのは珍しいですね。」

「えぇ・・・・・・ここ、座っても?」

「勿論!」

 

失礼します、と一言入れ、トレーナーとは対面側の席に座る。

そして軽食もそこそこに、昨日の話を────

 

(・・・・・・しにくいっ・・・・・・!)

 

こんな形ですぐに話せるのなら、そもそもあんなに悩んではいないのだ。と自分に言い訳をしながら、少し世間話をしていこうと考えた。

 

「その、いい天気ですね?」

「そうですねぇ。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

なんということだ、会話が終わってしまった。何時もなら普通に話せているのに、どうして口が回らないんだ・・・・・・

いや、まだだ。頑張れたづな、いやトキノミノルっ、私は無敵のウマ娘だ。10の勝利を挙げたウマ娘なのだっ!

 

「あっ、あの!」

「はい?」

 

食を進めながら、少し不思議そうな顔でこちらを見るトレーナーさん。・・・・・・大丈夫だ、この人なら大丈夫・・・・・・!

 

「・・・・・・先程見かけたとき、大分上機嫌に見えたのですが、なにか良いことでもあったんですか?」

 

あああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・

頭をかきむしりでもしたくなる衝動に駆られる。どうしてこう、勇気が出ないんだ・・・・・・

 

「あぁ!聞いて下さいますかたづなさん!」

「えっ?あっはい!聞きます!」

「実はですね、すごいウマ娘を見つけたんです!ミノルっていう子なんですがね!」

 

口に含んだ飲み物を吹かなかったのは、ファインプレーだった。まさかトレーナーさん側から話を切り出されるとは考えもしていなかったからだ。

やっとの思いで飲み物を飲み込む。こうなれば、この方向から話を進めていく他無いだろう。

 

「・・・・・・んんっ、へえ、ミノルさん。」

「はいっ!彼女、凄いんですよ!たづなさんにも見てもらいたかったなぁー、あの末脚!途中からしか見ていないんですがね、ゴール前三ハロンなんか正しく風になったようで!」

 

・・・・・・この方向から、とはいったものの、自分の脚を褒められるのはなんだか少し気恥ずかしい。

 

「でもね、唯一つ疑問なのは、彼女その加速をする時凄い苦しそうだったんですよ。」

「・・・・・・!」

「まるで『自分は何も出来ないんだ』みたいな無力感と虚しさとをないまぜにしたような走りで。本人曰く選抜レースの結果が芳しくないらしいんですが、どうにもそこだけじゃないように思うんです。

実はスカウトをしてしまって、その返事待ちなんですがね。可否に問わず、そこだけは知っておきたいなーなんて思っちゃうんです。」

 

・・・・・・ずるい。

私の中身を、最初から全部見透かして、でも私が私であることを知らないだなんて。

思わず俯いた顔は見えていないだろうか。この目尻に溜まった涙は見えていないだろうか。

いけない、こんなことでは。ちゃんと話さなければ。そしてちゃんと諦めて────

 

「私は彼女を支えたいと思っています。勿論、会ったばかりの男が何をと思うでしょうが。

でもね、僕は彼女が走るのを見たい。汗かいて、笑顔で、楽しんで。疾くても苦しそうに走る彼女を見るのは、僕にとっては辛い事です。

どうなったとしても、どんな事情を抱えていても。例えトゥインクルを走れなかったとしても。僕は彼女を走らせたい。」

 

────あぁ。

この人になら、良いかもしれない。

 

「坂本トレーナー。」

「はい?」

 

どう転んだって、この人になら。

 

「私です。」

「え?」

「ミノルとは、私のことです。」




たづなさぁん・・・・・・
ちょーーーーーーーっとずつ書いたものなんで、へんなとこあるかもです。あったら報告お願いします!
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