あの日以降カズマはしっかりと1日3食摂るようになった。そして誰かと一緒に食べるよう心がけた。誰かと食べるご飯は不思議と美味しかった。
忍田さんをご飯に誘うと「成長したなカズマ」と泣いて喜んでいたが一体何があったのだろうか。その後どう近界民を殺すか楽しく話していたらいつもの顔に戻ってしまった。
その次の日は三輪と一緒にご飯を食べている際、どう近界民を殺すか盛り上がっていたら周りの隊員達が何故か口に含んでいた物を噴き出していた。行儀が悪いにも程がある。
しかし駆けつけた忍田さんには俺たちが怒られてしまった。一体何故だろう。
◆◆◆
「あらカズマくん」
個人ランク戦に向おうと廊下を歩いていると加古さんに声をかけられた。
「加古さん、こんにちは。どうしたんですか?射手の練習の時間には早いと思うんですが?」
そう、あの日以降俺は加古さんに射手の技術を教えてもらっている。
初めは二宮さんも「俺が教えよう」と加古さんと言い争っていたのだが、加古さんが「二宮くんが教えられるのなんてトリトン量に物言わせた物量攻撃しか無いじゃない。カズマくんには無理よ」と言い負かし二宮さんは黙ってしまった。
「実はね、これから炒飯を作ろうと思ってるんだけどカズマくんもどうかしら」
「……他にも人はいますか?」
「ふふっ、そう言うと思って堤くんを呼んであるわよ」
「行きます」
加古はカズマに炒飯を食べさせる時は決まって誰かを呼んでいる。そうすればカズマはすんなりと来てくれるからだ。
ちなみにカズマは今までの加古炒飯全てで当たりを引いており、ボーダー隊員からはカズマが来るかどうかが当たりの判断基準にもなっていた。
そして東隊の作戦室に行くと絶望に満ちた顔をしていた堤の顔が急に希望に満ちた顔に変わる。
ちなみに東隊の他メンバーは身の危険を察知し逃げていた。
「今日は……当たりか……」
堤はカズマに向けて合掌し念仏を唱える。
出されたのはシーフード系の炒飯。得体のしれない魚介類がふんだんに使われていたが味は悪くない。むしろ美味しい。
堤も美味しい美味しいと涙して食べていたが、しばらくしてダウンした。堤側のテーブルには葡萄ジュースが置かれていた。
葡萄と魚介類の相性が悪いというのは本当だったらしい。
その後、殺人炒飯で死んだ堤を尻目に二人は射手の特訓に励んだ。
◆◆◆
「だいぶ上達したわね。これなら二宮くんも倒せるんじゃないかしら」
「この前フル装備で戦って何回か勝ちましたけど、その後はずっとハウンドの力押しで負けましたよ?」
その戦いではお得意のグラスホッパー機動で弾を避けようにも濃密な弾幕の雨に成す術なくやられた。
途中から二宮さんの爆撃によって作られた瓦礫に紛れて置弾を設置し、身を隠しながら攻撃をした。
二宮さんが俺の隠れ場所を自身のトリオン量にものを言わせた爆撃で辺りを更地にしていく中、歩みを進めるたびに設置した置弾で反撃した。
そうしてまた瓦礫を使った不意打ちをしてくるのだろうと二宮さんに思わせたところを遠距離からのライトニングで、ポケinした二宮さんの頭を撃ち抜いてやった。
その後はハウンドによる追尾弾を延々と撃たれて倒された。
「怒り心頭じゃない、二宮くんたら大人気ない……ねえ、後でその映像ちょうだい。東隊のみんなで鑑賞パーティーを開くから」
そう言いながら加古さんはニヤニヤと笑っている。
「なら編集手伝いましょうか?」
「お願いするわ」
俺も二宮さんにやられまくった恨みがある。なるべく弄ってやろう。
その日、東隊にてカズマが二宮を倒す映像がかなり脚色されて流された。
翌日カズマはC級降格の3000ポイント寸前まで二宮に殺され続けた。
◆◆◆
本日ボーダー上層部にて近界遠征を行うという通達があった。
参加条件は今期A級ランク戦の上位3位以内。
それは俺が望んでは止まなかった葵を見つける手段。これまでも葵を見つけたいとは思っていた。だがこれまで具体的な方法が俺の手にはなかった。
それが今、俺の目の前に葵を見つける手段があって、それに手が届く距離に俺は居る。ならば俺は手を伸ばす。そう伸ばすしかないんだ。
たとえ見つけられる可能性が万に一つであろうと、億に一つであろうとも。
未だ過去に囚われ続けているカズマは近界遠征という沈むであろう泥舟に縋り始めた。
そしてすぐさま自分の隊に入ってくれる隊員を募集した。
結果は誰も来なかった。
俺の悪い噂が流れているせいだろう。気味悪がられて誰も近寄ってこないのだ。
唯一集まったのは金目当てで入隊した拝金主義者のオペレーター。腕はいいが金の分前に煩いと評判の女らしい。そいつはA級の部隊のオペレーターになれば楽して給料がもらえるからと俺の隊に志願したとの事。
正直言って腹立たしい事この上ないが背に腹は変えられない。何はともあれこれで隊としての最低限の条件は達成できた。
やってやるさ、一人だろうが上位3位に食い込んでやる。
いつも精気のない憔悴したような顔をしていたカズマの顔に僅かに精気が戻る。その瞳の奥には静かに燃える炎が宿っていた。
◆◆◆
それから幾度ものランク戦が行われ、カズマは一人奮戦した。たしかにカズマはこのボーダーでも指折りの実力者となっている。しかし、それでもA級部隊と単騎で渡り合うには厳し過ぎた。
幾度目かのA級ランク戦にて。
A級部隊、佐伯隊の里見隊員が住宅の屋根を蹴るように飛び、縦横無尽に駆け巡る。
そして片手に握られたスコーピオン型の突撃銃から弾幕の雨が降り注ぐ。
こちらも住宅の屋根を駆け抜け、回避行動を取るもそれらはこちらに向かい軌道を変えはじめる。俺は仕方なくグラスホッパーを展開。三次元機動により回避する。
佐伯隊エース、里見隊員に捕捉されてからというもの、しつこく粘着され現在に至る。それも以前までは他部隊が戦闘している最中をバックワーム+グラスホッパーによる奇襲という漁夫の利戦法を多用していた事が原因だろう。狙撃手としても一定の実力はあるカズマは一度隠れるとそう簡単には見つけられない。師匠の東さんですら苦労するほどだ。
そんないつ襲って来るか分からないカズマはすぐマークされるようになった。
そして、今回も漁夫の利を狙おうとしたのだが嵐山隊と佐伯隊がぶつかる前に里見隊員と出会してしまったのである。
落とそうと思えば落とせるが、里見隊員はかなり強く逆に落とされるリスクが大きい。
それに落とせたとしても時間が掛かりすぎる。それでは落とす前に佐伯隊に集結されて落とされる。もしくは、漁夫の利を狙った嵐山隊に横っ腹を突かれて落とされるだろう。
里見を落とすことは諦めどう振り切ろうか考えて始めようとするとオペレーターから警告が飛んでくる。
『後方狙撃警戒!』
「シールド」
拝金主義者のオペレーターにそう言われ後頭部に集中シールドを張る。
音もなく飛んできた弾はシールドに容易く防がれる。
その弾の主は佐伯隊の隼人隊員だ。彼はサイドエフェクト、精密身体操作によって走りながらの狙撃が可能であり、マップ中央から端へと里見隊員を誘導するように逃げていたカズマを追いかけながら狙撃したのである。
先ほどの狙撃はサイレンサーを使う為に、一時バックワームを解除した事によりオペレーターが気付いた。
だが、いくらオペレーターが気付けても発砲音が聞こえないから俺は反応できない。しかし、相手がガラ空きであれば狙撃手というものはヘッドショットを狙いたがるものだ。
その予想は的中し、弾丸は後頭部に展開したシールドに弾かれた。
「そこか」
俺はメイン、サブ、両方のグラスホッパーを使い加速する。
流石の機動力を誇る佐伯隊の里見隊員もこれには追ってこれず、里見隊員を引き剥がしてそのまま隼人隊員の元へ向かう。
あいつは機動戦に長けた狙撃手だ。だが、その彼の戦闘スタイル故に一度目の攻撃を防げれば後は容易い。隼人隊員より機動力が高ければ倒せる。
俺は里見隊員を無視し、グラスホッパーにて隼人隊員の元へ急行する。
コチラの思惑に気づいた隼人隊員は即座にバックワームを展開して逃げようとするがそうはさせない。
「ハウンド!」
加古さんに教わった射手トリガーのハウンドを発動。
放射状に飛んではそれが多方向から隼人隊員に向かっていく。これには堪らずバックワームを解除してシールド2枚で全方位からの攻撃を防ぐ。
その間に俺はグラスホッパーで更に距離を詰める。
『距離15メートル』
オペレーターが旋空の射程内に入った事を伝える。それを聞き即座に腰に携えた弧月に手を当てる。
「旋空弧月!」
その刀身が姿を露わにすると同時に鞘から抜かれたブレードの刀身が拡張され、隼人隊員が展開したシールドごと彼の胴体を切り裂いた。
『戦闘体活動限界、ベイルアウト』
まずは1点目。この調子で気を抜かずに一人ずつ倒していこう。
そう思った次の瞬間、視界の端で何かが発光したのを捉えた。
それはビルの屋上から、狙撃だ。
次の瞬間、弾丸が命中する。
頭部に張った集中シールドに。
これで防ぎ切り場所も特定した。もう一人の狙撃手も落とす。そう思った矢先だった。狙撃を防いだそのシールドにさらに1発の弾丸が飛来して来る。
ツインスナイプか。
ツインスナイプはその性質上バックワームを解除しなくてはならない。その為、未だ駒の多い現状、撃ってこないだろうと判断していた。
これは俺の油断だ。もう一枚のシールドはハウンドを入れる為に外している為更なる防御は出来ない。手に持つ弧月で弾こうにも間に合わない。
弾丸がシールドを突き破る様を何も出来ずに、その瞳に焼き付けながら、やるせない思いに顔を歪める。
やがてその弾丸はカズマの頭部の右半分を消し飛ばした。
「クッ……」
『戦闘体活動限界、ベイルアウト』
その後は佐鳥の場所を特定した里見がその場にに急行。
装填段数を少なめにした威力重視のデザートイーグル型のハンドガン、弾数重視の突撃銃による変則アタックにて佐鳥隊員を速攻で撃破。
残るは佐伯隊が佐伯、里見。
嵐山隊が嵐山、時枝。
と互いに2名が残った。
佐伯がエスクードで遮蔽を増やし、エスクードを盾に佐伯、里見の両名は持ち前の機動力で相手を翻弄。
嵐山隊も応射するがエスクードにより射線が限られ、思うようにお得意のクロスファイヤを組めずに苦戦。
それでも時枝が佐伯の気を引いている内に嵐山がなんとか佐伯隊長の背後を取り、撃破。2対1の状況を作り出す。しかし2人とも既にボロボロであり.あと数発も受ければベイルアウトという状況だった。
一方、里見隊員は五体満足でピンピンとしている。
そして里見が嵐山に向けハンドガンを発砲。シールドは1発受けただけでヒビが入った。更にもう1発放とうとするが時枝が里見の背後からメテオラによる射撃で牽制。
里見は挟み撃ちとなった。こうなってはどちらに銃口を向けてももう片方の相手からの攻撃は防げない。詰んだのである。
二つの異なる銃声が戦場に鳴り響いた。
里見隊員は時枝隊員を、嵐山隊長は里見を撃破した。
そして結果は以下の通りである。
嵐山隊3+2=5点
佐伯隊2点
佐藤隊1点
いつも通りの結果だ。俺はどんなに頑張っても精々2点止まり。順位も下から数えた方が早い。
原因なら分かっている。
俺の戦闘能力が低いんだ。一人で戦うというなら風間さんや小南、太刀川さんと渡り合えるだけじゃ駄目なんだ。もっと強くなる必要がある。せめて五分五分。いや、勝ち越せる位にならなくてはならない。
そう考え、俺は忍田さんの所へと向かった。
カズマは根本的な改善点には気付いていない。いや、気づかないふりをしている。
「お願いします忍田さん。30分で構いません。俺と戦ってください!」
「どうしたんだ急に」
「もっと強くなりたいんです!」
「待て待て待て、お前は既にボーダーでもトップクラスの実力だろ」
迅がS級隊員になった関係でカズマは攻撃手5位となっていた。他にも万能手としては2位である。とは言ってもそれは狙撃手の数字も加えればなので攻撃手、銃手の数字だけを出したのなら嵐山や三輪よりも低い。
「それでも足りないんです。1人でもA級3位になる為には忍田さんに10本中一本……いや三本取れるくらいにならないとランク戦に勝てない!」
「分かった。そこまで言うなら10本勝負をしてやる。但し、中途半端は許さん。十本全部取る覚悟で来い!」
「はい!」
◆◆◆
互いの弧月がぶつかり合い、鍔迫り合いに発展する。
そのたびに火花が散っては消えてゆく。
忍田本部長が片手で振るう一撃を、両手で構える弧月でなんとか受け切っている。
「どうしたカズマ。受けているだけでは、勝てはしないぞ!」
「分かって……ますよ!」
そう言ってカズマは忍田本部長を蹴り飛ばし距離を取る。
それと同時にホルスターにあるハンドガンを抜き瞬時にアステロイド8発を撃ち出す。そしてハンドガンの弾倉は空となり再装填に入る。
「ハウンド!」
ハンドガンが撃ち終わると同時にトリガーをアステロイド(拳銃)からハウンドに変更。放射状に飛ばし回避先を制限する。
「旋空弧月」
旋空、それは一見、斬撃を飛ばしているように見えるが実際はペーパーヨーヨーの様に本体を伸ばしているだけに過ぎない。だから斬撃は一つしか存在しない。その筈なのだ。
しかし、忍田本部長の旋空は早すぎて斬撃が複数に見える。しかもそれが左右、正面、とどこからともなく飛んでくる。おそらく幻踊も併用しているのだろう。
無数の斬撃は己に飛来する全ての弾丸を斬り落とした。
「……本当にめちゃくちゃな強さですね。忍田さん」
「ははっ、まだ太刀川にも勝ち越してない君に負けるわけにはいかないのでね!」
2人は走り出し駆け寄る。彼我の距離が一気に近づき、先にカズマが仕掛けた。姿勢を低くして懐に入り込んでは右手に持った弧月を両手で握り直し上段へと振り上げる。
それを忍田本部長は容易く防ぐ。しかしまだこれで終わりではない。先程斬りかかると同時に自身の背後に隠すようにハウンドを置いていた。それが今射出され両側面から忍田本部長へと襲い掛かる。
それを忍田本部長はバックステップで軽く躱す。しかしまだカズマの攻撃は終わりではない。
バックステップで下がり仕切り直そうとする忍田本部長に対し、そうはさせるかと弧月で斬りかかる。
両者の弧月が激突する。
これで忍田本部長を捕まえた。
その後も角度を変え一撃、ニ撃と弧月を振るう。そして幾度かの剣戟の末、再び弧月が合い鍔迫り合いとなる。
先に忍田本部長が仕掛けた。一瞬弧月にインパクトを乗せカズマの弧月を押し、それと同時に弧月をくるりと回し、下から斬り上げる。
「シールド!」
カズマは固定集中シールドを足元に展開。忍田本部長の一撃を防ぐ。
(取った!)
カズマは弧月を構え上段から振り落とそうとする。しかしそれと同時に浮遊感を覚え、視界がだんだんと低くなっていく。
やがて視界には大地が広がっていた。
「なん……で」
振り下ろそうとした次の瞬間にはカズマの首が切り落とされていた。
「言っただろ。負けるわけには行かないと」
忍田本部長は渾身の一撃が防がれたにも関わらず、俺が攻撃するよりも速く次の一撃を繰り出していたのだ。
結果は9-1で敗北した。
それも最後の最後、相打ちとなる形で互いの一刀が振り下ろされ刹那の差で忍田本部長がベイルアウトしたに過ぎない。実質引き分けだった。
「本当に成長したなカズマ。モールモッドに負けてたお前が私から一本取るようになるとは……」
感慨深く過去に浸る忍田本部長。
しかし、カズマがこのまま1人で戦い続けてもA級3位以内には入れないだろうと確信していた。ブラックトリガー使いでもない限り一人で戦況を動かすことはできない。しかし、彼の悪評は轟過ぎている。あの守銭奴オペレーターは別として他の者は入ろうとはしないだろう。
既存の隊員は。
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C級隊員編で面白かった話教えてください。
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1話この厳しい試験に合格を!
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2話この新入隊員に洗礼を!
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3話このC級隊員に勝利の栄光を!
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4話このC級隊員に弾バカを!
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5話このC級隊員にも狙撃手を!
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6話この狙撃手たちにハーミットを!
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7話このロクでもないランク戦に終止符を!
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8話このランク戦に菩薩様を!
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9話この愚か者に制裁を!
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閑話