とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

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1-8 見通す悪魔①

【デストロイヤーの報酬と国家転覆罪】

 この日は二つの出来事があった。

 

 まず、大物賞金首デストロイヤーの討伐報酬が支払われた。

 討伐作戦に参戦していたウィズもこれは受け取った。

 おかげさまで負債を返済し、店の経営には一息つけた。ついでに目標金額を期間内に揃えたことで、先日私がウィズに取り付けた爆発物のチョーカーも取り外せた。

 ただし思わぬ弊害もあった。

 この成功体験で魔道具の効力を実感したウィズが、逆にチョーカーをオススメ商品として推すようになったのだ。どうしてそうなった。

 

 二つ目、サトウカズマが逮捕された。

 容疑は国家転覆罪だ。

 デストロイヤー戦にて、カズマの指示で転送させたコロナタイトが街の領主アルダープの屋敷に直撃。人的被害こそ無かったものの、屋敷は爆発で吹き飛んだ。

 彼にはテロリストか、魔王軍の手の者ではないかとの嫌疑が掛かっている。

 指示に従ってランダムテレポートを敢行したのはウィズだ。故に私にとっても他人事とは言い難い。彼女からも、何か力になれないかと問われてはいるが……。

 私自身が逮捕された時用のもしもの備えなら仕込んである。ウィズの正体が露見した際の手札もある。だがこれらは、カズマへと転用できる手ではない。

 というか屋敷に転送って。あの男の類稀な幸運はどこへ行った。それとも現場に居合わせたアクアの類稀な不運が上回ったとか、そういうオチなのか。

 

 加えてよりにもよって、告発人が悪徳領主アルダープだ。

 私はこの男について詳しく調べたことがない。深入りは何となく危険な予感がしている。

 王国の懐刀たるダクネスの身元を探ろうとしたときですらこのような直感は働かなかった。そこは違和感ではある。

 せめて、詳細を把握する他の貴族なら有効な手立てに当たりをつけられたが。

 またアルダープはとかく陰湿で執念深いとの評判だ。悪徳貴族の中でも頭一つ抜けて性根が腐ってる。カズマのことも、腹いせで死刑にしようと追い込んでくると思われる。

 

 この際正攻法、つまり裁判での勝利にはそこまでこだわってない。敵方が権力の行使に躊躇しないアルダープだからだ。

 あけすけに言うと、司法そっちのけで最後は権力での殴り合いになる。

 実家の権力を振りかざして強引に物事を進めるのを嫌い、仲間にも本名を隠しているらしいダクネス――ダスティネス・フォード・ララティーナも、今度ばかりは動くだろう。

 

 そうなると、私が手伝えることは然程無い。搦手を仕込むにも時間が不足している。

 裁判用の資料でも一応作成しておくか?

 

 

【冤罪、ダメ絶対】

 久し振りに顔を合わせた仮面悪魔より、店に来て早々心当たりのないクレームを受けた。

 バニル曰く。

 運だけが取り柄の小僧はこれからの店の発展のために必要な人間であるので、何のつもりか知らないが合法的に抹殺しようとするのは止めよ。

 

 は? 私はポカンとした。何を言っているのか本気で意味不明だった。

 暫し熟考して、小僧とやらがサトウカズマを指すのは目星がついた。

 だが、どんな超解釈をしたのか。この節穴悪魔は私が裁判を利用してカズマを死刑に追いやり、謀殺しようと目論んでいる――そう決めつけている。

 さも当然のようにカズマのことを把握している点は問題ではない。大方店への行きがけに逮捕劇の噂話でも耳にして、好奇心からあれこれ見通したのだ。そこまでは読める。

 ただそこから、どうして私の関与との話に繋がるのかが見えなかった。

 

 私が露骨に困惑を顕にしても、バニルは不機嫌顔にさらに苛立ちを乗せて返すのみ。

 すっとぼけていると勘違いされたな、と悟る。白を切るときの私の常套手段である。

 探り合いにより、両者閉口。

 新たに口火を切るのに先んじて、僅かな沈黙の間を縫いウィズが口を開く。先程の言葉の意を悪魔に問うた。

 そこからの返答もイカれていた。

 

「分からんか、察しの悪い店主め。ならば教えてやろう。店のためと称しては金庫の有り金を持ち出してガラクタへと変える盗っ人店主の如く、正義を建前に好き勝手しているそこの娘がだ、悪名高いこの街の領主という格好の獲物をいつまでも野放しにしておくと思うか?

 無論そんなはずがなかろうて。領主はとっくに謀略娘の首輪付きである。そのくらい、我が力で見通すまでもないわ!」

「な、なるほど。言われてみれば確かに。……あっ! まさかアクア様ですか!? 私がいつもアクア様に困らされていたから、それで報復しようとこんな……あれ? バニルさんさっき私のこと、この人と同列視しませんでしたか?」

 

 現実と乖離した、あまりに理不尽な言いがかりだった。特に私を産廃店主と同列に語るのは甚だ不愉快なので訂正を強く願う。

 ともあれ。

 バニルがアルダープを私の制御下にある前提で話を進めているのと、ウィズもアクアへの報復として仲間であるカズマを私が狙ったと誤解したのは解した。

 この二人は私をなんだと思ってるのか。ご近所の奥様方からも可愛がられている魔道具店員に対して、扱いがぞんざいにも程がある。

 とにかく、急にバニルが濡れ衣を着せてきた背景はハッキリした。

 アルダープという手駒が動いている以上、裁判は私が主導する悪巧みか、そうでなくとも行動を止める意思が無いに違いない。そういう論法だ。

 

 私がまったくの無実だと二人が納得するには、結局バニルの能力で真偽を見通してもらうのを待たねばならなかった。

 その際の、領主を見通したバニルの反応が引っかかっている。妙に嬉し気な、思わぬものを発見したとの高笑いを上げていたのだ。

 私が本能的にアルダープへの深入りを忌避するのはそういうことかと、一人で勝手に得心していた。肝心の理由とやらは一切教えてくれなかったけど。

 

 誤解を解いて以後も情報交換は続けた。

 それにより、今度の裁判に私は干渉しないと決めた。それが一番良い結果に結びつくから。

 見通す悪魔が言うには、影響力のある私が介入するとかえって拗れる恐れがあるという。

 バニルにとって、今ここでサトウカズマに躓かれては困る。店の発展に必要だと悪魔自身が断言しており、現に私に理不尽なクレームまで付けている。

 

 だが同時に、あの悪魔が何かしら企んでいるらしいのも私からすると自明の理。

 裁判自体は、私やウィズが納得する結末に終わる。そこは疑っていない。

 ただ、『一番良い結果』も『拗れる』のも、バニルにとってであろう。

 放置が最善手と見通しているのだから、私に盤面を引っ掻き回されるのを嫌って遠ざけた。そう思えてならない。

 

 一通りの話が済むと、バニルは変身して人混みに溶け込むように店を去った。街への途上で面白いものを見かけたから、そちらへ寄るという。

 詳細は不明ながら、思いっきり私事を優先している感があった。

 それでいいのか、魔王軍幹部殿。魔王から請け負った任務はどうした。

 

 

【裁判の結末】

 先に結論から述べよう。

 裁判はおおよそ予想していた通りの結末に落ち着いた。

 一旦は死刑が決まりかけるも、実家の権力でダクネスが裁判そのものを預かり判決は保留に。その間に被告人の身の潔白を証明する。

 行く末はこれから次第というわけだ。

 

 しかしながら気になった点もある。

 まず、弁護人が想像以上にアレだった。特にアクア。どうして連れてきた。

 水色髪のドヤ顔を弁護側に認めた途端、これでカズマの死刑が保証されたのではと私は一瞬悲観した。

 それと検察官、裁判官の様子も一時どこか不審なものがあった。誰かが悪しき力を使って事実を捻じ曲げようとした、とアクアが突然叫んだのに因果関係があるのだろうか。

 ……これを深掘りするのは何だか猛烈に悪い予感がする。やはり止めておく。

 

 それと裁判途中でも明かされたけど、普段のカズマの素行には問題が多すぎる。

 女性のパンツをスティールしたり。それを脅迫材料にしたり。実は魔剣グラムを売り払った犯人だったり。

 こうして並べてみると一層酷い。

 

 とはいえ、それ自体は構わないのだ。

 あの少年の発想は私とは着眼点が違っていて毎度感心させられる。

 ただもう少し、他者の目を意識することも覚えたほうが良いのでは。

 商人などと違って、冒険者は悪名で相手に恐れられるのもそれはそれで武器になる。だからわざとそう振る舞っているのかなと思いきや、別段そうでもなさそうだし。

 

 まあもっとも、彼の逆境はどうやらウィズにも責任の一端があるらしい。

 魔王軍の者との交流がない、との彼の発言に魔道具が嘘を感知してしまったとか。

 他にも、アンデッドにしか使えないドレインタッチのスキルを習得している点。

 魔王軍の点は自力で切り抜けたからまあいいとして、ドレインタッチを誤魔化すのには私も助太刀してみよう。

 何なら、カバーストーリーをこちらで用意して街に流布してもいい。彼のおかげでウィズの正体がバレなかったのだし。

 

 キールのダンジョンを探索中にリッチーに遭遇した、との話をこの前アクアに聞いた。あれが使えるだろう。時期も、ドレインタッチを教わった日付に近い。

 カズマがスキルをリッチー(ウィズ)から教わった話。

 ダンジョンでキールという名の友好的なリッチーと会った話。

 これらをそれぞれ別個に流して、ドレインタッチをキールから教わったと誤認させる。

 伝説級のレアモンスターと複数個体出会うほうが冗談にしか聞こえないため、これだけでも点と点を結んで人々は自ずと納得する。ウィズの名前を伏せただけで嘘は吐いていない。

 

 いや実際、こんな駆け出しの街周辺になぜリッチーが二体も生息していたのだろう……。

 

 

【店長がダウン】

 お次はヴァンパイアか。

 リッチーのキールにデストロイヤーにと、近頃のアクセルは駆け出しの街のくせして大物が出現し過ぎだろう。今もバニルが近隣を徘徊しているはずだし。

 

 事態は、ギルドよりウィズへと依頼が回されたことで発覚した。

 アクセルからそれほど遠くない洞窟近辺にて、自然発生とは思えないアンデッドの目撃証言が多数入った。その原因を調査してほしいとの依頼だった。

 アンデッドが中位クラスな点を取り上げて、これらを生み出す高位モンスターが潜んでいるのではとの指摘は端からあったけども。

 出向いた現地で邂逅したのはリッチーに匹敵する大物アンデッド、ヴァンパイアだった。

 これを討ち取るのと引き換えに、ウィズが深刻なダメージを負ってしまった。ただし、加害者はアクアである。

 依頼を受けた場面にアクア含むパーティー一同も偶々いて、流れから合同参加していたのだ。

 なお私は店で留守番、顛末は事後報告として受け取ったものと補足しておく。

 

 ヴァンパイアと言えど、真祖でもない下級。それでも超大物と出会したにしては間抜けなコントを繰り広げたようだが。

 初っ端から、不死の王の立場を争って種族的に犬猿の仲なリッチーとヴァンパイアがいがみ合いになったのがケチのつき始め。

 この対立にアクアが面白がって口出しを始めてしまった。クエストが珍道中で終わるのが、このとき確定した。

 決着をつけるためと称し、双方がドレインタッチでアクアの神聖な魔力を無理やり取り込まされ続けた。この機にまとめて滅ぼそうとアクアは目論んだらしい。

 ヴァンパイアが先に消滅したので、勝負はウィズの勝ち。

 ただし彼女も消滅寸前まで追い込まれて気絶した上、身体もかつてないほど透明に。ゴーストでもここまで透けていない。

 

 日頃は心は人間のままと主張するウィズ。

 そんな彼女が、ヴァンパイアと張り合うほどノーライフキングとしてのプライドを持ち合わせているとは初耳だった。感性がリッチーに引っ張られていたりするのだろうか。

 私の観察力による人外判定センサーでは、ウィズを人間と誤判定してしまう。精神が人間の頃から変質してないからではと推測している。

 ただこれ、鏡に向かって私自身を観察しても人外疑惑の判定が出るから微妙に当てにならない。同じように解釈するなら、私の精神性が元々人外に寄っているということになる。

 

 強い浄化の力を体内に取り込んだウィズは不調を当分引きずりそうだ。しばらくベッドに押し込んでおく。

 仮に私がいなければ、明日から店は臨時休業になっていただろう。

 とはいっても、ウィズがこの容態なら店のお金を使い込まれる心配はない。

 私も今は個人的な事情で少々忙しく動き回っているけれど、その観点からも店を抜けるのが簡単になり――特段デメリットが見当たらない。何なら向こう数日はこのままのほうが助かる。

 実は私はアクアに感謝したほうがいいのか?

 

 

【アルダープ包囲網構築中】

 はっきり言おう。この街の領主アルダープは私にとって邪魔だ。

 

 昔は、裁判の日まではそう捉えてなかった。

 領主の悪政、悪事こそ様々耳にしていた。しかしそんなものは私にとって、何らかの行動を起こす動機になり得ない。

 商売を締め付ける政策でも行っていれば別だったろうが、そうではない。だからアルダープは、何の利害関係も無いどうでもいい赤の他人でしかなかった。

 

 しかし裁判のあったあの日、傍聴の折に実物のアルダープを初めて目にして私は思ったのだ。

 あれはダメだ。

 人間性に重大な欠点を抱えているのはいい。私も人のことは言えないし。

 さすがはチンピラのダスト、鬼畜のカズマを抑えて、クズさにかけてはアクセルのスリートップでも筆頭の座についているだけある。

 だがあの男は身の程をまるで理解していない。その上強欲に過ぎる。未だ破滅していないのが不思議なくらいには。

 一般人ならまだ許せた。しかし、あんなのが私の住まう街の領主として強権を振るっているとなると看過できない。

 例えば、世の中舐めているあの領主がとち狂って国の簒奪に欲を出すと、愚行のとばっちりがアクセルの住人――要は私にまで飛びかねない。これを本当にやりそうなくらいにはどうしようもない生き物なのだ。

 

 無能なのはよろしい、悪徳を積むのも好きにすればいいだろう。ただし、私に迷惑をかけない範囲で。

 たとえ実害をまだ受けておらずとも、その未来が無視できない時点で許容しかねる。そんな愚者が領主の座に座っている、それ自体が私からすれば大罪に等しい。

 だから裁判が終了後すぐさま、領主を引きずり下ろすために私は暗躍を始めた。

 

 最初に目をつけたのはダスティネス家だ。

 王国の懐刀と誉れ高い、国内最上位の大貴族にして、ダクネスの実家。とりわけ当主イグニスは私の評価としても相当な切れ者だ。

 確証は無いが、どうやらダスティネス家はアルダープの悪事の証拠を突き止めようとしている模様。

 それが王家の密命かは置いておき、そうした動きがあるのは前々から把握していた。

 少なくとも対アルダープに関して、私とダスティネス家の思惑は一致している。

 率直に言って、今なお私はこの案件に首を突っ込みたくない。勘がそれを危ぶんでいる。妥協可能なギリギリのラインが、ダスティネス家を陰ながらサポートしての間接的な打倒なのだ。

 

 彼の家は、ちょうど苦境に陥っている最中にある。

 少し前、ベルディア戦で生じた被害の大部分をダスティネス家が自らの資産を切り崩してまで補填したばかり。

 にもかかわらず、デストロイヤー戦でも深刻な被害が出た。街は無事でも、通り道にある穀物地帯が蹂躙された。

 この二件の被害の時間間隔が今少し開いていれば、切れ者の当主が資金調達の目処を立てていたに違いない。

 しかし実態は、救済のための資産も猶予も無い。

 こればかりはどれほど優れた手腕を有していようとどうにもならない。間が悪い。

 責務を放棄している領主には、領民を助ける意志が皆無。それでもダスティネス家は、代わりに手を差し伸べんと苦慮している。

 そこで私が、ドネリーをせっついてダスティネスにお金を貸し与えてみた。

 

 ドネリーを動かすのはそう難しくなかった。

 当主カレンにダスティネス家の窮状を伝えて、高い恩を売りつける絶好のチャンスとささやいただけ。そのくらいはお家をこっそり掌握途上な今の私でも容易い。

 カレンとダクネスは、会う度に衝突する程度には不仲だとか。

 ここで恩を売っておくと、これから当面頭が上がらなくなるダクネスへ優位に立てる。

 

 ダクネス個人のストレスは凄いことになりそうだが、そういう方向にカレンの思考を誘導した。ダスティネスへの大きな貸しも、金銭以上にドネリー家の利となる。

 大貴族ダスティネスへの付け入る隙など、イグニスが本来なら与えない。私も、彼の明確な失敗は娘の教育くらいしか思いつかない。

 今回のようなマグレが無い限り、彼が健在なうちはもう二度とこんな機会は舞い込むまい。イグニスとカレンとでは役者が違い過ぎる。

 そうした点でも千載一遇の好機だった。

 

 補填に関していち早く着手したのは、ダクネスの動向も要因として大きい。

 デストロイヤーの被害者がダスティネス家へと陳情に押し寄せてすぐ、彼女がアルダープの元を訪っている。

 交渉して領主に金を吐き出させようとの魂胆なのだろうが――どうにも危うい。

 好色家アルダープは、嫁としてダクネスを偏執的なまでに求めている。娘を溺愛するイグニスがそんな男への交渉役に指名するか?

 自己犠牲傾向のある彼女の独断、と私は判断する。

 アルダープへの貸しは悪手。資金を与えておけば、少なくとも領主への貸しを軽減する程度の効果は見込める。

 

 ちなみに、カレンが貸した額は五億。ドネリーにとっても安くはないものの、出そうと思えば出せる額だ。

 どちらかと言うとこの提案にイグニスがどんな反応を示すかに気を揉んだが、あっさり乗った。

 発案者がドネリーとはまた別にいるのを、どうも見透かされている。

 露見しないようにと、動かす手駒は一際財力に秀でるドネリー家一本に絞った。それでもやはりダメらしい。

 まあ、黒幕が私だと辿り着かれさえしなければそれで結構。

 

 

【王都の納税について】

 映像の記録装置を手に入れた。

 昨年度末、王都の各所で繰り広げられた税金取り立て騒動の一部始終が記録されている。

 私も目にするのは初めてだが、王都では季節の風物詩のようなものだ。

 アクセルの視点だと、ベルディア討伐の前日までにあった出来事といえば分かりやすいか。

 

 記録には、お金を巡った醜い争いの数々が、それはもう面白おかしく編集された上で映っていた。

 この国では、収入が一千万エリスを超える高額納税者は収入の半分を税金として収めると決まっている。王都に集う上級冒険者ともなるとこの程度のボーダーは軽々と超える。

 もちろん真面目に払う冒険者も多い。一方で、納税最終日まで逃げ切って滞納しようと足掻く者も少なくない。

 だから毎年納税日が迫ると、滞納したい冒険者と税務署の間で激しい攻防が繰り広げられる。

 こういうとき、納税者側は旅行に出て行方を晦まそうとする。ただし例年のことなので、取り立てる側もギルドなどと徒党を組んであの手この手で妨害してくる。

 どちらも生活がかかっているので必死だ。

 

 納税日前、前哨戦の段階でこれだ。いざ納税期間に突入するとますます苛烈になる。

 依頼を受注した一部の冒険者、時には騎士団さえもが取り立ての戦力として投入される。

 地獄だ。平時なら、最前線で魔王軍と対峙する実力者同士による市街戦が勃発するのだ。

 さすがに殺傷力の高い攻撃、街の建造物に被害をもたらすスキルの使用を控える程度の理性はお互い残しているようだが……。

 

 この手の映像が貴族界隈では娯楽としてそれなりに人気を博しており、毎年新作が登場する売れ筋シリーズとなっている。

 他人の不幸は蜜の味。

 戦闘シーンとしても見応えがある。その上、目先のお金を巡って感情を剥き出しにし、最後には重税を課せられて絶望にくずおれる冒険者らの醜態を眺めるのが愉快で仕方ないとか。

 映像の作製にはドネリー家も出資していると知れば、まあ腑には落ちる。

 庶民だと手が出ない程度にはお高い品ながら、それでも欲しがるカレンのような性格のねじ曲がった人物が世間には大勢いる。

 私が入手した映像も、ドネリー家を動かしていた過程で転がり込んできたものだ。

 でも入手経路を探られるとやや面倒なので、後日改めて返品しておこう。

 

 この情景、来秋はアクセルでも発生するかもしれない。

 デストロイヤーの討伐もあって、アクセルには高額納税者が山ほど誕生している。どうなるかは先のこと過ぎて判然としないし、王都ほど過激なものには多分ならないだろうが。

 そしてウィズも報酬を受け取った一人。

 もはや私も当事者。店はともかく、冒険者分だけ別枠で徴収してくる懸念が拭えない。

 さて、どうしてくれようか。

 

 

【謎の仮面人形現る】

 キールのダンジョンで奇妙なモンスターが出没中とのこと。つい最近になり広まり出した風聞なのだが、どうやら事実らしい。

 見た目は仮面を被った小さな人形。動く相手に取り付いて自爆するそうな。

 外見的特徴が某悪魔と酷似している。タイミングといい、アレが関与しているとの私の疑念は単なる思い過ごしか?

 

 前に店を訪ねて以降どこかへ赴いたのは知っていたが、さてはキールのダンジョンが目当てだったか。

 よくよく検討してみれば、十分に有り得ると思い至った。

 現在あのダンジョンには主がいない。立地も街から程近く、新しくダンジョンを作る候補としては案外好条件だ。

 

 とうとう当初のプランは断念したか?

 ウィズの元で働いて資金を貯め、巨大ダンジョンを彼女に作ってもらうのがバニルの思い描いていた道筋だった。私は主にその資金集めにおける協力者だ。

 ただ彼女の商才を鑑みると、これは無茶を通り越して無謀ですらある。

 これまで幾度か店が潰れてないかとチェックしに現れた悪魔へと、店の悲惨な有り様を我がこととして理解できるよう私は丁寧に解説してきた。

 そのため、店での資金稼ぎがどれほど苦難に塗れた道かはバニルもよく知っている。絶望的な将来が克明に記された資料に目を通す悪魔からは、表情がすっぽりと抜け落ちていた。

 よって、金儲けをスッパリ諦めてその辺の手頃なダンジョンで手を打つ路線に切り替えるのは妥当なのだ。

 サトウカズマへ寄せていた期待を振り返ると、どこか印象がチグハグながらも。

 

 私としては、お好きにどうぞ。

 ただし現状通りあくせくと労働に勤しんでも、私の寿命が尽きるより早く目標を達成できる気はしない。

 話を耳に入れたウィズが拗ねないといいけど。

 今はまだ寝込んでいるし、ひとまず黙っておくとする。

 

 

【読めない】

 骨董品店に向かおうとしていたという、自称水の女神が店に迷い込んできた。

 

 入ってすぐ、ウィズが茶を持って来ないと不満を言い立ててきた。

 お茶汲みリッチーならアクアのやらかしでまだ寝込んでいる。そう告げると、先日の件を思い出して静かになった。大変無体な要求をしていると自覚してくれたらしい。

 そもそも、当店では客に茶をお出しするサービスは行ってないが。

 

 また彼女は、骨董品店のあった場所にうちの店が移転してるとは思わなかったと不可解な驚き方をしていた。

 移転などしていない。骨董品店とやらの住所も此処とは全然異なる。

 もしやこの女神、自分が迷子になっていると理解していない?

 

 正直、私はアクアが苦手だ。イマイチ行動が読み切れないのだ。

 こちらの想定の斜め下を掻い潜ってくる図抜けたアホさ。これに持ち前の強烈な不運が相乗効果をもたらして、予期しない現象を毎度引き起こしてくる。

 私の行動予測は、アクアに限れば割りかし頻繁に外す。

 ぶっちゃけ、存在そのものが計算を狂わす不確定因子だ。もし私が何か策動する際には近場にいてほしくない。

 如何なる万全の策も、彼女一人が入り込むだけで一気に不安定化するから。

 

 さておき。

 アクアよりせっかくだし何か買い取ってほしいと頼まれた。

 街ではデストロイヤーの賞金を当てにした商人が方々より集結して露店を開き、ちょっとしたお祭り的賑やかさが一帯を包んでいる。そこで遊ぶお金が欲しいらしい。

 持ってきた品々を見せてもらった。

 屋敷の庭にあった変わった形の石。湖付近で拾ったツヤのある石。公園の子供からプレゼントされたいい感じの色合いの石。

 どれもいらない。

 

 アクアには石をコレクションする趣味があるようだ。だがどれもごく普通の石ころで、金銭的価値はゼロ。

 まさか、これを骨董品として買い取ってもらう心算だったのか。どんな知性をしていればそんな発想に行き着く。

 石はもういいから、他には何かないのかと催促して次に現れたもの。

 デストロイヤー開発責任者の手記。いる。

 お金を支払い、何か興味深いネタが記されているかもしれない手記を手に入れた。

 

 軍資金を手に大喜びで喧騒に駆け込んでゆくアクアを尻目に、本を開いた。

 そしてこの段で、それ以前の問題であったのだと私は思い知る。

 字が読めない。

 私の知る言語にはかすりもしていないし、見覚えすらない。何語だこれ。




・ドレインタッチの習得
原作とは異なり、雪精クエストの前にカズマはドレインタッチを教わっている。
ただし、スキルポイントと優先順位の兼ね合いによる都合から、実際の習得タイミングがキールのダンジョン挑戦でのレベルアップ以後となるのは結局同じ。

・イグニス
ダクネスの父親。
念の為書いておくと、名前は公式設定。
原作三巻のキャラクタープロフィール欄、または六巻本編でも一シーンだけ名前が登場する。

・王都の税金取り立て
独自設定。原作では詳細不明。
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