とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

12 / 44
第二章
2-1 冬①


【王都へ出稼ぎ(なお留守番)】

 案の定、と言うべきか。

 王都へ送り出したバニルは、主に冒険者連中へと嵐のように迷惑を振り撒いて帰ってきた。

 

 さて。

 この日は、不定期的に実施するウィズ魔道具店の王都出張販売があった。

 これまでなら私とウィズで赴くが、此度は新たに加わったバニルを私と交代。余った私は、アクセルにて店番となった。

 ウィズにフリーハンドを与えるのは論外。今さら論ずるまでもない。

 私は体力面にて懸案があるものの、これまでは人手不足もあって、無理を押してでも彼女に同行せざるを得なかった。

 だが、次からはバニルにも任せられる。

 二手に分かれるケースがまたあれば、今日のようにどちらか片方がウィズに付く組み合わせが鉄板となるだろう。

 

 ともあれ。新人の仮面バイトはそつなく役割を果たしてくれた。

 一々相手をおちょくったり、隙あらば足元を見て高値を吹っかけ、容赦なく金品を巻き上げたとも聞くけれど。

 売った商品の売り値総額よりも、収益のほうがずっと多いのはどういうことか。どれだけ王都民からぼったくったのやら。

 私なら不要な恨みを買う無駄は避ける。この辺のやり方の差は、種族や能力、立場の違いから来るものだろうか。

 

 今回の件は、バニルの現状を王都の、とりわけ冒険者へと周知する趣旨も兼ねていた。

 何せつい最近まで魔王軍幹部として手配されていたので、顔が割れている。解除された現在もギルドの要観察対象だ。

 王都で平穏に商いをするためにも、過去の因縁に起因する無用なトラブルの芽はさっさと摘んでおきたい。

 とにかく、これでバニルの話が都市内にて広まる。刃傷沙汰の危険もぐっと減る、か?

 何というか、代わりに別の揉め事の種を蒔いてきただけな気も。

 

 実のところ、上記の思惑は店の方針ではない。私個人の考えだ。

 大抵の災難を力ずくで払い除けられる超強い大悪魔自身は、そんな些事など気に留めまい。

 

 私としては、王都の冒険者ギルドへ乗り込んで関係者を片っ端から煽りまくり、乱闘騒ぎを引き起こすくらいは覚悟していた。

 それと比較すれば、この程度で済んだのにはホッとしている。

 そう私が述懐すると、バニルは不満を垂れた。

 一介の善良な市民であるのに、なぜそのような無法な振る舞いをせねばならないのか。とは仮面悪魔の談だ。

 その言い回しは、私が時々ウィズへ口にするものとネタ被りしている。チェンジで。

 

 

【不器用クルセイダーに最適な武器とは】

 爆裂日課の帰途だという、ダクネスとめぐみんの両名に遭遇した。

 

 逃走経路のチェック。通行人の有無を見渡して助けは呼べそうかの確認。頭に叩き込んである警察の巡回ルートの記憶呼び起こし。

 これらを、ダクネスと会遇するや真っ先に私は実行した。

 道端で不意に変質者と出会したときの反応としては、極めて妥当と思われる。

 私のポジションからだと、彼女のおぶるめぐみんが初めは背に隠れて見えていなかったのが要因として大きい。

 変態と二人きりとか、誰だって御免だろう。私とて嫌だ。

 

 奇しくも途中まで進行方向が重なっていたために、そのまま帯同する。

 途上で武器屋に通りがかったのを端緒に、装備が話題に上った。ダクネスの鎧は、先頃のバニル戦に前後して新しい物に変わったという。

 この機会に、前々から素朴に気になっていたことを私は質問してみた。

 ダクネスは、どうして得物に大剣を使っているのだろう?

 

 これだけでは二人に主旨が伝わらなかった。さらに言葉を継ぎ足す。

 私が思うに、彼女は大剣よりも、ゴブリンなどがよく携える棍棒がメイン武器としてお似合いではないか。

 そう私がズケズケ言い放つと、ダクネスが発情した。背負われるめぐみんも引いた。

 獣同然の卑しい雌豚風情が、何を人間様と同じものを身につけている。と私が白昼堂々罵ったと勘違いされていた。

 誰もそんな異常性癖の話はしていない。

 

 戦士職には、各々のクラスに応じて相応しい武器がある。これは、スキルツリーに内包される武器スキルの系統とも言い換えられる。

 一例としてランサーならば、専用の武器スキルが生えてくる槍が適性と言える。

 一方クルセイダーには、棍棒に関連するそうしたスキルは無い。

 ただ彼女は、モンスターに力及ばず敗れて屈服させられたいとのアホな願望で、武器スキルそのものを会得する気が無い。ならば、この理屈に拘泥する道理もない。

 すなわち、ダクネスは聖騎士の武器種に縛られずに好きな武器を選べる。

 

 大剣を得手とするならまだしも。実態は、静止する敵にすら攻撃を外す下手っぴだ。

 なぜ武器の見直しを図らないのか。不思議でならない。

 そこで私は棍棒をオススメしよう。

 私も武器事情に精通しているとは言い難いが、棍棒は取り回しが簡単だ。素人が力任せに振るうだけでも有効打が見込める。

 技術のないゴブリンが棍棒を愛用するのは、伊達ではないのだ。

 翻って刀剣類は、特に若い男冒険者からやけに人気があるけど。性能の真価を発揮するには繊細な技能が必須となる。初心者には非常にハードルが高い。

 ダクネスは筋力のステータスが高い。よって蛮族スタイルが適しているのではと、以前から思っていたのだ。

 

 そういった話を滔々と説くと、私がかなり真剣に推しているのを、ダクネスも段々と理解してきたらしい。

 興奮が徐々に抜け落ち、もしやマズい形勢ではと感じ取り、怯みの色が見え始めた。

 なおめぐみんは、性質が変化しただけで相も変わらずドン引いていた。

 

 この提言は、結局ダクネスには拒否された。

 当人が控えめに述べた見解によると、

 

「騎士の端くれとして、棍棒はちょっと……」

 

 とのことらしい。

 彼女の追い求める騎士としての理想像に照らし合わせると、棍棒をブンブン振り回して、馬鹿の一つ覚えみたいに突貫する在り方はお気に召さないようだ。

 武器スキルを覚えない理由のほうが、私は騎士としてよっぽど恥晒しだと思うけど。

 それに比べれば、棍棒への転向くらい万倍マシだろうに。

 彼女のパーティーリーダーなら、私に同調してくれるはずだ。また今度提案してみよう。

 

 

【セレスディナについて①】

 ウィズは魔王軍幹部ながらも、結界維持を受け持つだけの中立だ。

 心情に至っては、人類側に立っている。

 

 ただし。心境はともかく、人間からしてみれば裏切り者なのは確か。

 しかも、神の理に逆らうリッチーに成り下がっている。アンデッドを敵視するエリス教を国教に定めるベルゼルグ王国において、これは決して小さくない。

 甚だ微妙な立ち位置。故に私も、彼女の扱いには細心の注意を払ってきた。

 何かの手違いで魔王軍側に背信の疑念を持たせないよう、私もウィズから魔王軍の内情を聞き出そうとはしなかった。

 バニルのように腹芸ができるなら別の選択肢もあるが、彼女はその対極の人種なのだから。

 それなのに。あの平和ボケしたポンコツ女ときたら。

 

 営業中のことだ。突然、ウィズが吃驚の声を上げた。

 まずは来客という眼前の激レアイベントを片してから、何事かと私は問い詰めた。

 このときの私は、またぞろ借金を拵えたのかと勘繰っていた。前日にも、商品を一桁安い値段で売り払うミスを犯したばかりだったし。

 だが、そうではなかった。

 

 この前、王都へ遠征した日。

 ウィズはそこで、セレスディナなる人物と奇遇にも再会した。

 彼女が言うには魔王軍の同僚で、人間という強みを活かして街への潜入を行うダークプリーストの幹部だそうな。

 ところが話しかけると、その者はセレナを名乗って人違いだと否定した。

 しかしウィズには、彼女がセレスディナだとの確信があった。なので、冷たくあしらわれようとめげなかった。

 口調がいつもと異なる点、魔王城での思い出等を次々と口にして、執拗に追求していたら――アンデッドには効果が反転してダメージとなるヒールを連打された。

 当たり前だ。私でもそうする。

 

 知り合いにこっ酷く追い払われて、ウィズはお冠だった。

 そこで話は先程へと繋がる。

 私が、普段と余所行きでキャラクターを使い分けているのはウィズも知っている。

 そんな私の接客風景を眺めていると、ふと天啓が降りてきた。

 ひょっとして、あの日のセレスディナもそうだったのではないか。

 彼女は謀略家で、魔王軍の諜報も担っている。得意分野的に私との共通項が多い。そこから、あのときはセレナという別人を演じていたのではとの閃きが浮かんだ。

 なるほど。彼女が素っ気なかったのはそういうことだったのか。謎が氷解してウィズは満足したのだった。

 ウィズの話はこれにてお終い。

 

 いや、他にも着目するべきポイントは残っているだろう。

 口伝でしか当時を知らない私ですら、頭痛がしてくる。当事者のセレスディナ何某は殊更、気が気でなかっただろう。

 彼女は正しく、作戦行動の真っ只中だったと思われる。そこにウィズというまったく予期しないイレギュラーが舞い込んだ。

 往来で唐突に魔王軍の話を持ち出されて、敵地なのに身バレの窮地へと陥ったのだ。堪ったものではない。

 緊急措置として、回復魔法をウィズにぶつけて叩き返すくらいは当然だ。

 

 ついでに、私も甚く迷惑している。

 セレスディナなる幹部のことなど、今の今まで私は把握していなかった。

 確実に、存在自体が魔王軍の機密事項だ。

 

 私の知る幹部で、ウィズを除く残余は四名。

 次期魔王にして、既に今代を上回る力を持つ魔王の娘。

 物理魔法の双方に高い耐性を持ち、即死級の猛毒をも備えるハンス。

 強化モンスター開発局の局長であり、私もかつてモンスターの改造談義で盛り上がった経験のあるシルビア。

 何か各地で延々と温泉巡りをしている邪神ウォルバク。

 

 セレスディナが王都を闊歩しているとなると、秘密の五人目は国の上層部も同様に掴んでいないと思われる。

 中立を宣言しているウィズは、魔王軍に属していない私にそれをうっかり漏らすという特大ポカをやらかした。

 事の重大さを承知で敢行したのならまだ救いはあるが、あれはそこまで考慮していない。単なる茶飲み話のノリだった。

 ウィズは、顔見知りにあったとの他愛ない雑談をしたとしか認識していない。

 真意を問いただしたかったけど、推測通りならテンパったウィズが余計にボロを出す。あの場は聞き流すしかなかった。

 私でなければ、盛大に表情が引きつっていたことだろう。

 

 というかさてはこれ、あの日私も王都に足を運んでいれば、ウィズの紹介で彼女と顔を合わせる展開も有り得たのでは。

 ゾッとする話だ。危うく策謀担当の幹部に目をつけられるところだった。

 

 

【前回分の追記】

 あとでバニルにも聴取してみた。

 悪魔の話によると、セレスディナはウィズの店がアクセルにあるとは知らない。どころかあの出会いで、王都に出店していると誤解した様相だったとか。

 

 また彼女は、魔道具とは名ばかりのガラクタを法外な価格にもかかわらず買った。

 商品を購入したお客様の個人情報は守るとバニルがアピールすると、特別サービスで『値上げ』した品を涙目で買い取った。具体的には、彼女の所持金全額で。

 要するに、買わないと正体を周りにバラすぞという迂遠な脅しだ。

 そうなると彼女は、王都中の冒険者に囲まれ退路を阻まれた中で、袋叩きの憂き目に遭うのは必定。これに屈した。

 そうして有り金を全部むしり取られた。

 

 会ったこともないセレスディナに、私はほんの僅かに同情した。

 

 

【セレスディナについて②】

 実は、セレナのことは元々認知していた。

 人間の魔王軍幹部、というのが初耳だっただけで。

 

 ウィズには秘してるが。私は、国内に潜む魔王軍諜者の動向を独自に探っている。

 ウィズが幹部のリッチーと、人間社会で明るみになった場合を見据えての対策だ。

 私が保有する魔王軍の情報を対価に、彼女を見逃すようお上と交渉するつもりでいる。交渉というか、他に打った布石と併せると実質脅迫なのだけど。

 本人の意志に委ねると、無抵抗で処刑コース一直線なのでちっとも当てにならない。

 

 とはいえ。これも今となっては重要度が大幅に低下した。

 何かあっても、棚ぼた的に転がり込んだ大貴族のツテ、ダクネスが口添えをするだけで多分どうにかなる。

 先述の話は、まだ店が開業した時期の、独力ですべてを対処する想定での下準備だった。もはや今では過剰だろう。

 ウィズは、お昼寝中に日光を浴びて消滅しかけるし、頭から煙が上がるのにも気づかず商店街を彷徨くのだ。あれを目の当たりにすれば、危機感だって湧く。

 

 私の行う情報収集については、ウィズには商売の種を探すことを目的にしたものとだけ報告している。

 これはこれで本当だ。というか私は基本、人を騙すのに嘘は吐かない。

 近年は悪徳商人、貴族を物色する用途にも活用するが。あれはあれで本命を誤魔化すカモフラージュとして機能している。後付けだけど。

 

 本題に戻ろう。

 私がセレナを知ったのは、そうした調査の過程でのことだ。

 彼女は王都を中心に、多数の街に現れては魔王軍の手先として暗躍している。

 それにしても、彼女が有力な冒険者へと語る魔王にまつわる作り話は中々滑稽だった。

 曰く。魔王の正体は、邪悪な力に呑まれて醜悪な姿形へと変じた心優しい憐れな美少女。その呪いも解けかかっていて、もうすぐ世界は平和になるだろう。

 魔王と差し向かいで対話した私でなくても、与太話なのは瞭然だ。

 いやまあ、意図は分かる。

 命懸けで戦わなくていい言い訳を吹き込み、楽なほうへと流されて戦線からフェードアウトしてくれるのを期待しているのだ。あくまでも、駄目元で。

 よもや、こんな荒唐無稽な話を鵜呑みにする夢見がちな冒険者もいないだろう。

 

 私はてっきり、セレナは人間との判別が困難な外見をした魔族かと思っていた。

 だがウィズの言うように人間だとすると、不可解なことがある。

 彼女は、面妖な能力を持っている。

 他者を操れるのだけど、これがどうもチャームのように、ありきたりな洗脳系スキルとは趣を異にしている。

 生者どころか、そこらの死体をアンデッドのように操作できる節がある。

 私とて、あらゆる魔族に通暁しているわけではない。なので、珍しい種の固有スキルだろうくらいに捉えていた。

 だが、彼女は人間だ。前提条件が覆った。

 

 可能性はいくつかある。

 まずは、セレナが最弱職の冒険者というパターン。

 サトウカズマがドレインタッチを取得したように、冒険者は人外のスキル習得を可能とする。魔王軍陣営ともなれば、魔族のスキルは選り取り見取りだ。

 もしくは本人の異能ではなく、魔道具を用いているのも考え得る。

 ただしこれらは、実力主義で抜擢される幹部との肩書きに齟齬を来す。

 セレナが結界の魔力供給を請け負わない例外との線は、ここでは一旦度外視する。それを言い出すと何でも有りで切りがなくなる。

 私としては、『ダークプリースト』のワードが鍵だと睨んでいる。

 

 私が直接出向いて調べれば、真相はすぐ明らかになるだろう。ただ、リスクが高すぎるし、そこまで急務でもない。

 今後は、セレナの優先度を引き上げよう。未知の幹部の情報なら、ウィズに何かあったときの司法取引の材料としても有用だ。

 ただし今は、もっと本腰を入れて調査してる最中の案件がある。

 アクア以上の悪魔とアンデッド嫌いで、あのカズマをも凌ぐ幸運値を誇る、とある盗賊娘のことなのだけど。

 

 なお、ここで見通す悪魔を頼る手は無い。

 身内なら優遇はしてくれるが、今頼りにしたところで、益体もない情報を買わされて高い授業料を払う羽目になるだけだ。

 

 

【恐るべきぼっちマスター】

 本日は店の定休日。

 そんな日中に街を散策していると、紅魔族のゆんゆんとエンカウントした。

 

 何となく、尾行されている感はあった。その犯人がゆんゆんだった。

 まず、アクセルに来訪しているのを感知していなかったので、そこでビックリした。

 普通に過ごしただけなのに、ホームグラウンドで私の探知の網を潜り抜けていたようだ。

 ふざけたステルス性だ。私にしか見えない妖精か何かなのか。

 

 彼女にはよく立ち寄る本屋がある。そこで見覚えのある私を見かけたそうな。

 だが、自分から呼びかける勇気はなく。それで私の後ろをコソコソとつけた。そしてあっさりバレた。

 紛うことなきストーカーだ。

 まだ十代前半の少女だから、絵面的に辛うじて許されているものの。

 そのうち、付きまといで書類送検されそう。何なら私も、ゆんゆんでなければ警察署に駆け込んでいただろうし。

 

 彼女の供述によると、声かけするチャンスをひたすら窺っていたとか。

 行動力はあるのに、肝心の使い道が迷子になっている。

 あと昔、冒険者ギルドで私と目が合いお辞儀された出来事を大切な思い出として日記に綴り、時折読み返しているという。

 それを聞かされて私にどうしろと。新手の嫌がらせかホラーかな?

 というか、たかが会釈でこうまで大仰だと、今日直に会話したのは彼女の中でどんな扱いになってしまうのだろう。

 

 彼女が相当なコミュ障なのは察知していた。めぐみんからも聞き及んでいた。

 だが、百聞は一見に如かず。こうして対面した実物ゆんゆんのぼっち具合は、私の想像を優に超えている。

 端的に言って、これは酷い。

 

 ひとまず私は、ゆんゆんを店へと連れ帰ることにした。

 ウィズへ負担を押しつけるために。

 食べ歩きへと出かけた鬼畜悪魔が不在だったのは、ゆんゆんにとって幸いだっただろう。

 当の彼女は、せっかくのお休みの日に自分なんかがお邪魔するなんて恐れ多いと、遠慮していたけど。休日でダメなら、いつ遊びに訪れたらいいのだろう。

 

 このように、ゆんゆんは煮え切らない態度。あちらの調子に合わせても、もじもじするだけで自己主張してこない。

 彼女との接し方はいくらか思いつくが、ここではめぐみん方式を採用した。

 つまり、自分のペースに相手を巻き込む。ゆんゆんのテンポに付き合っていたら、いつまで経っても話が進まない。

 なるほど。あの二人が仲良くできるわけだ。

 

 店に帰還して以降は、ウィズを交えてお喋りや遊戯に興じた。特筆に値することは無かった――と言いたいけど。

 時たまゆんゆんが、素で激重発言のブリザードを吹かせて氷の魔女を凍てつかせた。

 例えば彼女は、各種遊び道具を携帯している。なぜ嵩張る物を持ち歩くのかとウィズがツッコむと、暇なときに酒場にて一人で時間潰しをするためとの返答が来た。

 遊具には多人数用の代物もあるが、これも一人で二役以上を務めるらしい。彼女は一人遊びの達人だった。

 そうした実情を、極まったぼっちは平然と明かしてくる。それが一層痛ましく、これを日常とする彼女の深い闇が垣間見える。

 私はそうした地雷は予測して回避したが、ウィズは迂闊にも頻繁に踏み抜いて、その都度泣きそうになっていた。

 

 ちなみに。ボードゲームでゆんゆんと一戦したときのこと。

 勝ち負けにさしてこだわりのない私としては、適度に手を抜いて気分良くゆんゆんを勝たせようと目論んだのだけど。

 終わってみれば、なぜか私が勝利していた。

 この計算違いは、ゆんゆんの対人戦経験の乏しさを見落としていたのが原因だ。

 彼女自身の腕前は大したものだが、生憎と隙が多い。安定感の面ではパッとしなかった。

 それでも、格下相手なら危なげなく勝ちを収めただろう。だが、私が接戦を演出しようとしたのがよろしくなかった。

 凡ミスの積み重ねの末に、ゆんゆんが勝手に大崩れ。私としてはその自爆につけ込む形となってしまった。

 敗者のゆんゆんは遊んでくれたことへの感動に浸っていて、勝敗には欠片も頓着していなかったものの。

 

 なお、手加減抜きの真っ向勝負ならば私が圧勝していた。

 ゆんゆんの頭脳も抜きん出てはいる。しかし、対する私は、冒険者ギルドにおける知力値のレコードを未だに保持している。

 バニルからは人間をほぼ卒業している的な評価を下されているので、恐らく人間に塗り替えられるスコアではない。

 

 

【いい加減しつこい】

 ゆんゆんと違って、こちらのストーカーには微笑ましさも可愛らしさも全然無い。

 大体、ここ一年ほどは音沙汰が無かったのに。まだ健在だったのか。

 号外の新聞で名前を目にしたときは驚いた。王都に集う精鋭の猛追を振り切って、無事逃げおおせたという。

 相変わらず、ストーカーの分際で気合が入っている。

 

 久々なので、まずは情報整理も兼ねてこれまでのあらましを記そう。

 本名かは定かでないが、ストーカーはデュークというらしい。

 最初に彼を小耳に挟んだのは、魔王軍の諜報員を特定しようと、国中に情報網を張り巡らす企てを私がまだ進めていた頃のこと。

 構築中のその網に、『氷の魔女』ウィズの行方を熱心に追う、フードで全身を包み隠す不審者が偶々引っかかった。

 背景は伏せてウィズにそれとなく確かめたが、デュークなる知人に心当たりは無いらしい。

 

 大変怪しい。

 男の素性を訝しんだ私は、何者かを探る手始めとして、適当に以下のような疑惑を吹聴してみることとした。

 デュークの正体は、魔王軍に所属する悪魔族の密偵。ローブを身にまとうのは、悪魔としての特徴を秘匿するため。

 

 内容は出鱈目だ。これの肝は、騎士や警察を動かして彼の身柄を押さえることにある。

 見た目を衆目より覆い隠すのだから、それなりに訳アリと推察できる。だが多少疚しい部分があろうと、これなら出頭する。

 逃亡するのは、魔王軍の下僕と認めるようなものだ。極刑は免れなくなる。それよりは大人しく捕まったほうが無難だ。

 犯罪者ならお縄になるだけ。そうならずとも、身元は詳らかになる。

 無論、出頭要請を受け入れずに逃げ出すというのは問題外。そんな輩はウィズと引き合わせられるはずもない。

 そしてデュークは、まさかの遁走を選んだ。どれだけ後ろ暗い裏があるのだろう。

 

 しかも、一向に逮捕される兆しがない。

 おかげさまで、私が思いつきで流布した、彼が魔王軍の手の者という根拠の無い風評に真実味が生まれてしまった。

 デュークは、本格的に指名手配された。

 

 ただしこの時点では、彼にはほとぼりが冷めるのを待つ余裕があっただろう。素顔は露見していなかったから。

 現実には、期間を空けて聞き込みを再開しようと直ちに追っ手がかかった。

 ウィズを捜索する者が出没する度、私が手を回してお尋ね者が出たと垂れ込んだからだ。

 そうやって、デュークの包囲網が幾度も敷かれた。毎度追跡を撒くものだから、懸賞金の額もじわじわと上がる。

 使用スキル的に、彼は炎魔法を主体とするアークウィザードのようだ。

 しかし場数を踏んで、次第に逃げる手際がこなれてきている。盗賊職の、潜伏や逃走スキルも持ってないだろうに。

 

 また、私のほうでも、バニルにストーカーを見通してもらった。まだ幹部を辞めていなかった頃だ。事が事なので、このときばかりは素直に協力してくれた。

 が、ほとんど何も見通せなかった。

 見通す悪魔の力は、力量が拮抗する相手ほど通用しなくなる。

 早い話がデュークは、仮に地獄の公爵と激突しようとも、少なくとも食い下がれる程度の手腕は有しているらしい。

 

 ここまでのデュークの話をまとめると。

 なぜかウィズを捜しており、人目を憚るただならぬ隠し事があり、警察と敵対して何度妨害されようとも挫けない高いモチベーションを保っている。そして、戦闘能力に秀でる。

 世の中には、とんでもなくタチの悪いストーカーがいたものだ。

 

 しかしながら、彼を捕縛せんと迫る関係各所の弛まぬ努力は、遂にはフードの下にひた隠す人相を白日の下に晒す功績として結実する。

 よくよく振り返ると、バニルと争えるステージの相手に凄い成果だ。

 これにはさすがの彼も不利を悟ったのだろう。それから以後、一年に渡ってデュークの消息がプツリと途絶えた。

 だが近頃、またしてもデュークが活動を始めたらしい。そう新聞に載っていた。しかも、場所は王都。

 魔王軍と対抗するため、王都は選りすぐりの腕利きで構成されている。そんな彼らすら躱し切って、まんまと姿を晦ました。

 

 大通りで上級魔法が炸裂する派手な騒動となったために、推定魔王軍の間者を取り逃がした失態は瞬く間に市井で浸透した。

 首都に忍び込まれていた点もセットで、結構なニュースになっている。

 めぐみんに慣れると感覚が麻痺するが、街中で上級魔法が飛び交うというのは、通常はそれだけで大事件だ。

 また、私の網にはかかってなかったので、王都には着いたばかりだったと思われる。この度のデューク発見に私は寄与してない。

 

 後で私も軌跡を辿ってみたが、彼はウィズの店の住所を尋ねて回っていた模様。

 ……なぜ彼は、王都で店を構えていると判断したのだろう。

 いや、推論を立てるのは容易い。王都はウィズの冒険者時代での拠点だったし、今でも出稼ぎで度々訪ねる。全容を知らなければ、心得違いをするだけの下地はある。

 だから、おかしくはない。しかし何というか、タイミングが奇妙な気が。

 

 さておき。

 デュークのしぶとさは脱帽ものだ。

 これはいよいよ、アクセルに辿り着かれることも視野に入れるべきか。

 一年前とは情勢が違う。最悪、バニルをけしかければどうにかなるとは思う。

 ああいう、搦め手を正面からのごり押しで粉砕してくるタイプは苦手だ。どうにも私とは相性が悪い。




・謎のストーカー男デューク
懸賞金六百万エリス。安い。
王都の一件を重く見て、二千万へと増額の予定。まだ安い。
本編には書けないのでここに記すと、セレスディナが「王都にウィズの店がある(彼女の勘違い)」と誤った情報を親切心で提供している。それが王都での騒ぎに繋がった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。