とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

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2-2 冬②

【ウィズ魔道具店の日常風景】

 ウィズの視点からだと。

 私とバニルの関係は甚だ奇妙で、混沌として見えるそうな。

 

 さっきまで談笑していたかと思いきや、突然罵り合いが始まる。

 それにギョッとしたのも束の間。急に和解して打ち解ける。

 しかしそこから然程間を空けず、今度は別の言い争いが脈絡もなく突発する。

 大げさに表現されている面はある。だが、ウィズにとっての私たちの関係性は、そうしたイメージとなっている。

 現実には、そのように突拍子が無いわけではない。私たちの間では意思疎通が成立しており、理路整然とした筋道もある。それにウィズがついて来れていないだけだ。

 

 度々衝突するのは、根本の原因としては双方の価値観の相違がある。

 利己的で、打算を基に行動する。これはどちらも共通している。

 しかし、バニルはその中にも面白さ、主に愉悦を組み込む享楽的な傾向がある。

 到底理解に苦しむ在り方だ。私としてはそういった情は非合理で、無駄な贅肉と捉える。だから徹底的に削ぎ落とす。

 悪感情を糧とする悪魔の生態は承知している。だが、それとて効率は内在する。無用な脱線は慎むべき、というのが私の見解だ。

 

 意見がぶつかり合うと、そうした感性の違いが不満として噴出する。そこから、罵倒合戦へと移行することがままあるのだ。

 もっとも、特段無関係な場面でも引き合いに出して、揶揄してくることは珍しくないが。

 不仲なわけではない。両者とも相手の優秀さを認めており、だからこそ差異を許容し難いとの側面がある。

 争いは、同レベル帯でしか発生しないのだ。

 

 この日の出来事を例にしよう。

 ウィズを馬車馬の如く働かせるため、飲食と睡眠をどれだけ削れば良いか。私たち二人は、そんなテーマで語り合った。

 ウィズは余裕があると、余計な積極性を発揮する。それが借金生産に直結する。

 ならば徹底してスケジュールを詰め込んで、その余力を削いでしまえばいい。そうした思想が根底にある。

 方向性としては、飲食睡眠をゼロとし、四六時中フル稼働で労働させるか。もしくは少量ずつでも飲食睡眠を与え、生かさず殺さずで行くか。この二つに大別できる。

 

 アンデッドの彼女には本来、そのような行為は不要だ。

 しかし弱ったことに、一切休息させずにこき使うと、二週間ほどで精神に支障を来すのが既に判明している。

 一方僅かずつでも食事や休憩を挟むと、その分長持ちするのも実証されている。

 とはいえ、効力の詳細については検証が要る。相応に手間を割くだろう。他にもやるべきことが山積する中、果たしてそれだけの労力を費やす意義があるのかどうか。

 店の将来のためにも、極めて重要な議題だ。

 なお、場に居合わせた店長が何か寝言をほざいていたが、私たちは揃って聞こえなかったことにした。

 

 話し合いは平行線を辿った。

 語調が強くなり、次第に中身は罵声を浴びせるだけの無益なものへとスライドしてゆく。

 

 バニルは、衰弱が完治した私がそれでも身体能力で致命的に劣る点を取り上げ、まるで要介護老人かのように扱ってくる。

 おまけに、設定に沿って動くだけの感情を持ち合わせない非生物なゴーレムと、私の言動との類似性にまで言及してくる。

 

 他方私は、神と悪魔が近しい生き物であることを滔々と説いた。

 現に、どっちも人間に寄生する虫みたいなものだろう。求めるのが信仰か悪感情かで、アプローチに差が出るだけで。

 いわゆる収斂進化だ。いがみ合うのも、同族嫌悪にしか見えない。

 世間で言われる神々と悪魔の対立も、実態は人間というシノギを巡ったヤクザの縄張り争い。なるほど、バニルはならず者の親分だったか。

 もしも公で言い放てば、悪魔と聖職者が思わず殺し合いをストップし、不埒者を誅するため息を合わせてクロスボンバーを叩き込んでくる次元の暴言だった。

 

 お次は、神と悪魔によるマッチポンプ論でも提唱しようかと私が勘考していると、そこで来客があった。

 しかも、客はミツルギキョウヤ。ついでに、取り巻きの少女も二人。

 私たちはピタリと口論を止め、何事も無かったかのように元の業務へ戻った。先程までの剣呑な空気は、微塵も残っていない。

 この異様な変節に、ウィズだけが唖然とした。

 単に優先順位の問題なのだけど、彼女には解せなかったらしい。

 専心すべきは、魔剣の金蔓から大金を搾り取ること。他は些事。

 この意向は二人で合致していた。だから、示し合わせたように結託した。そのほうが利益を拡大できるのだから、当然の成り行きだ。

 

 ちなみに、ミツルギじゃないほうの小娘二人は『ソードマスターにしか効かない睡眠薬』を購入していった。

 そんなものを、パーティーリーダーに内緒で買い込んで、何に使うつもりですかね?

 

 

【あとは若い二人にお任せで】

 またしてもストーカーだ。

 私のお出かけ最中の一部始終を、ゆんゆんとウィズが尾行していた。

 

 店で人と会っていると、すぐ隣の部屋から馴染みのある声が二人分、迂闊にもキャッキャと賑やかにはしゃぐのが聞こえた。

 店内には多少の防音も施されているのに、それすら貫通する声量だった。壁に耳を当て、会話を盗聴しようとしていたとか。

 アークウィザードに就ける知力であろうと、地頭の良さを活かせるかは本人次第。それがよく分かる実例だった。

 この脳みそピンクな二人は、私が人目を忍んで異性と逢い引きしてると勘違いしていた。

 

 発端はゆんゆんだった。

 思いがけず私を目撃した彼女は、その際、嫌に仕立ての良い服に身を包んでいるのにも気がついた。

 デートだ。ゆんゆんは直感した。

 衣装については、向かう店の高級感ある洒脱な佇まいに合わせただけで、他意は無かったのだけど。

 妄想ばかり一人前なぼっちは、大方恋愛小説でも間近に読んで、それに影響されたのだろう。

 

 ついつい後を追い始めたゆんゆんを、通りすがりのウィズが発見する。

 合流して事情を説明されると、ウィズは少女の好奇心を叱る――ことはなかった。どころか、自らもストーキングに加わった。

 この色ボケリッチーも恋バナを好物としているのだ。残念ながら。

 このときは興味の比重が圧倒的で、彼女の心の天秤は、私の恋愛模様を探求する側へとあっさり揺れた。

 長年の付き合いがあるウィズは、私が習性として追跡に用心するのを熟知している。

 そこで彼女は、光を屈折させる魔法ライト・オブ・リフレクションで、自分たちの姿形を透明化するという禁じ手まで採ってきた。

 

 断言するが、デートではない。

 ただ、密会相手が年若い男なのは真実だ。

 というか、そういうのも含めておかしな誤解をされないよう、店を集合地点に衆目を避け、コソコソと集っていたのだけど。

 想像力逞しい出歯亀女二人のせいで、見事に裏目に出ている。

 こんなことなら、完全予約制の店を選んでおくべきだったか。おかげで不測の事態を早期に察知できた、との見方もできなくはないが。

 

 結局、この集まりの趣旨については相方の男が率先して釈明した。

 まず、彼は同性愛者。ゲイだ。男にしか恋愛感情を向けない。

 そんな背景がある故に、私も異性と個室で二人きりという大胆な手を打てた。この男、本気で私のことを何とも思ってないし。

 

 彼には想い人がいる。私は先方の恋愛話を時折傾聴する。ざっくり言うとそんな関係で、此度もその会合だった。

 男は貴族の出で、仲良くしておくと高価な品を貸与してくれたりと得がある。彼にとっても、世評的にアブノーマルと言える恋を堂々と吐露できる相手は貴重だ。

 そうでなくば、私としてはアクシズ教会の懺悔室に行けと勧めてお終いだ。

 もっとも、向こうも私の思惑には薄々気づいていて、その上で乗っかってるようだけど。

 なお、彼が熱視線を注ぐ件のお相手とは、アクセルの支配者を放言しているとあるチンピラ冒険者である。

 

 水面下での冷徹な計算は置いておくとして。

 そうした内情を打ち明けられた二人は、これにすんなり納得した。

 というよりも、ちょっと藪を突いたら蛇どころではない爆弾が飛び出したのに面食らい、思考がキャパオーバーを起こしていた。

 男が、あのアクシズ教の信者だと告白したのも一役買っているだろう。

 特にゆんゆんは、アクシズ教に何か苦い思い出がある様子。素性が明らかになるや、冷水でも浴びせられたように大人しくなった。

 そしてどちらからともなく、逃げるようにして場を退散した。

 

 ちなみに余談だが、この男もストーカーだったりする。

 意中の相手を毎日のようにつけ回し、金欠で酒代に窮したチンピラが私物を売り払えば、それを真っ先に買い上げて収集する。

 どう控えめに評しても変質者だ。

 まあ、アクシズ教徒にしては、だいぶ理性的な対応ではある。

 そんな男の変態的行いが私の探知の網にかかって、知り合うきっかけとなった。

 

 この日も、以下のような顛末があった。

 どうすれば好きな人を振り向かせられるか。そんな話題が出た折のこと。

 いや、無理でしょう。あのチンピラ、普通に異性愛者だし。女湯の覗きやセクハラで、時たまお縄になっている。

 そうは思ったものの。バッサリと切り捨てるだけ、というのも建設的ではない。

 

 しかし、正攻法では為す術がないのも瞭然としている。

 そこで提言した。

 あのチンピラは、よくそこら辺の道端で酔い潰れている。この寝込みに乗じて、テレポートの魔法を打ち込む。

 転送先は、雌オークの集落が良い。

 その後はじっくり半日くらい経過してから、素知らぬ顔で救助に赴く。

 多分その頃には貞操的に手遅れだろうが、その分強烈なトラウマを植え付けられて、女性への恐怖症を発している。女など、もはや本能で信用できまい。

 そこに颯爽と駆けつける恩人。これならあのチンピラと言えど、胸がときめくのでは。

 まあ、実行してどんな賽の目が出るのかは、私も予測しきれないけど。

 

 これだけだと穴だらけではあるが、素案としては次第点だろう。

 というより、現状はスタートラインに立つ資格すら得ていないのだ。ここまでやらないと、どうにもならない。

 これが男女なら、密室に閉じ込めておけば余程相性が悪くない限り、いずれ発情して野生動物さながらに盛り始めるだろう。と適当に助言するのだけど。

 なお上記の発案が、元々はアルダープの腹上死を企図して構想した暗殺案を、まるっと流用したもの。というのはここだけの話。

 

 私としては聞かれたから回答した程度だったものの、これが殊の外好感触だった。

 実践はしない、はずだ。きっと。

 厄介者として悪名高いアクシズ教徒も、一応根は善良だ。そのような凶行に走る輩はいない、のではないか。滅多に。

 ただ、恋は盲目とも言う。

 私の知る限りでも、恋に落ちた前後で行動パターンがガラッと変化し、結果として動向が予想とズレて首を傾げたケースが少数ある。

 

 まあ私も、他人の恋路を邪魔して馬に蹴られたくはない。

 というか、話を聞くくらいならまだしも。本格的に巻き込まれるのは御免だ。

 後は勝手にやればいい。なるべく、私にとばっちりが来ない形で。

 

 

【難関クエスト、店と屋敷の往復】

 前にもほんの少し触れたが。

 店を繁盛させるキーマンとして、仮面バイトはサトウカズマに注目している。

 彼には商才がある。発明する品に、売れ筋となるポテンシャルがあるそうな。

 それを独占契約して売り出す。はたまた知的財産権ごと買い取る。というのが、見通す悪魔の思い描く青写真だ。

 とはいえ今はまだ、彼の商品開発を待っている段階だが。

 

 そんなわけで。

 カズマの進捗を伺いに、住まいの屋敷を訪ねることとなった。私とウィズで。

 言い出したのはウィズだ。

 案件を取り仕切るバニルが無関係な以上、これは建前。彼女の本意は別にある。

 どうも、私とあの一党の友好を深めさせようとの魂胆らしい。

 

 心を許せる相手が私に少ないのを、ウィズは大いに憂慮している。

 コミュ力があるし知人も多いのに、それらは如何に相手を利用するか、との観点でしか活用されない。

 睦まじい友人が増えれば、私の人でなしな部分も自然と鳴りを潜めるかもしれない。と目論んでいるようだ。

 

 あのパーティーとは何かと縁がある。とりわけこの頃は接点が多い。

 いい加減彼らには、私が猫を被っていると勘付かれ始めている。なので私も方針を転じた。サイコな毒舌家の一端をチラつかせることで、あえて疑念を肯定した。

 そこで得心してもらって、連中により深く追求させない。

 それをウィズは、素を出して心を開き始めていると見て取ったらしい。千載一遇のチャンスと張り切っている。

 あれはそういうキャラ付けで、本性を顕にしたわけではないのだけど。ウィズの目に、私がどう映っているのかが窺い知れる。

 

 ぶっちゃけ。彼らとの関係だけなら、私が演じるのを止めても軋轢は生じないと思う。

 また、アクの強いあの変人共に、演技の枷を嵌められるハンデを背負って相手取るというのも、大概にキツい。

 ただし、ダクネスの背後で憂いがある。当面はこのまま続行する。

 表向きの私は知らないことになってるが、彼女は生粋の貴種。ダスティネス家、当主イグニスの一粒種だ。

 イグニスとは、昨今ではドネリーやアルダープの関連で間接的に関わりがある。

 下手を打つと、ダクネスを介して私が黒幕だと辿り着かれかねない。

 

 先日、ドネリー家を動かして、金子をかの家へと貸し与えた。

 そこから彼は、ドネリー家を陰から操るフィクサーがいると看破した。近頃は、その正体を突き止めんとして密かに立ち回っている。油断も隙もない。

 ただどうやら、貴族に見当をつけたらしい。そこに絞って容疑者の身元を探っている。差し当たり、大丈夫そうではある。

 変な寄り道をしてないで、さっさとアクセル領主に引導を渡してほしい。

 アルダープ以上の脅威と見做して、警戒されてるっぽいことに私は目を逸らした。

 

 そろそろ話を本筋に戻そう。

 カズマの住居へ出向くも。その手前まで到達しながら、引き返す羽目になった。

 屋敷を囲うように、アホみたいに強力な神聖結界が張り巡らされていた。下手人は、問いただすまでもない。

 私はいいとして、ウィズの通過が厳しい。

 自分は付き添いだからと、ウィズが一人で帰ろうとする。却下した。野放しにした途端、借金を拵えるのが目に見えた。

 私が先に家に上がって解除を頼めばいいが、知性ゴブリンの青髪女が何かやらかしそうな予感がする。止むなく断念した。

 

 そうして踵を返すことにする。

 もし、負債店主を単独で送り返していればどうなっていたか。帰路は、その答え合わせの時間となった。

 路上の募金詐欺に引っかかりかけた。重病な妹の治療費を集めている、とのお題目だった。

 私が引き止めなければ、ウィズは資産の大半を注ぎ込んでいただろう。

 

 店への帰還後は、そのまま仕事に戻る。

 カズマの件については明日に延期。

 私のスタミナでは、支援魔法の後押しがあっても二度の往復は困難を窮める。恐らく、道中で力尽きて遭難する。

 実現させるには、途中での一泊を念頭に置いたしっかりとした遠征計画が必要だ。大冒険となるのだから。

 以前バニルが語っていた、衰弱による不調はとうに脱している。それでもなお、私の基礎体力は地を這っている。

 

 そういった諸々を私が解説すると、耳を傾けていたウィズがハッとした面持ちを浮かべた。次いで、駆けるように倉庫へ飛び込む。

 しばらく経って舞い戻った彼女はしたり顔。手には、一本の鉢巻が握られている。

 彼女オススメの一品。魔力をスタミナに全変換する鉢巻だ。

 なるほど。魔力が人並み外れて多い私には適している。素晴らしいセレクト――と戯言をほざくはずがない。

 このガラクタを装備すると、保有魔力が空になる。加えて、回復する魔力も端からスタミナに転換される。

 つまり、常時魔力欠乏の状態に陥る。爆裂直後のめぐみんのように身動きが取れない。スタミナが増加しようと、これでは意味がない。

 

 無論、店員の私はそれを知悉している。

 全部処分したはずが、まだどこかに隠し持っていたようだ。

 疲労で重い身体に鞭打って、私は産廃を引ったくる。そしてバニルに破壊光線の要請を出した。

 

 

【大冒険、リトライ】

 カズマの屋敷訪問、再挑戦。

 当たり前ながら、これは恙無く完遂した。

 

 ウィズは、最初から店に残してきた。

 当の彼女は、私一人でちゃんと住家まで着けるのかと頻りに心配していたものの。子供のお使いかな?

 カズマの商品作製の様相については、アイテムの実物を見聞したくらい。実りある話はこれといって無い。そもそもバニルの管轄なので、私が口出しする領分でもない。

 具体的な商談にしても、私ではなく後日バニルが担当するだろう。

 

 用件が片付くと。

 屋内で放し飼いにされるペットが遊んでほしそうにうざ絡みしてしつこかったため、仕方なく少し構ってきた。

 ペットの名前は、アクアと言うのだけど。

 

 アクア曰く。外は寒いから出たくない。

 ダクネス、めぐみんは外出中。

 カズマは、私が来訪する寸前まで自室に引き籠って寝ていた。

 ……私はこう見えて、日がな一日ダラダラして日中も昼まで起床しない、カズマのライフスタイルを考慮して参上したのだけど。

 身体が資本の冒険者だ。少しは健康を気遣ったほうがいいのでは。

 漏れ聞くところでは、日暮れ頃になると酒場へ繰り出して、夜遅くまで他の冒険者と宴会でどんちゃん騒ぎしてるらしいし。

 

 生活習慣に気を配る私からすればゾッとする、自堕落極まるカズマの生態はさておき。

 アクアとはボードゲームで遊んだ。が、とんでもなく弱い。

 私とアクアでは、知力に天と地の開きがある。にもかかわらず頭脳ゲームの土俵で競ったのだから、当然の帰結だ。

 ひょっとすると、コボルト辺りに付け焼き刃でルールを仕込めば、彼女と名勝負を繰り広げてくれるかもしれない。

 というか、その暗澹たる有り様で、よくも自信満々で私に知恵比べを挑んできたものだ。

 

 とはいえ。運要素の強いゲームに舞台を移そうとも、惨状は依然として続いた。

 私の幸運ステータスは、平均よりやや下。しかし、アクアの不運さはそれを凌駕している。私の及ぶところではない。

 頭を使う遊戯よりは相対的にマシだけど、伯仲はしてない。

 むしろアクアは、どんなゲーム内容なら拮抗できるのか。

 

 最後に彼女は、隠し球として謎のボードゲームを持ち出してきた。が、これまた危なげなく私が勝利する。

 ショウギ、という名称だった。

 カズマの故郷で著名なゲームで、仲間内で一時期流行ったらしい。

 培った経験者としてのアドバンテージで、私に一泡吹かせる心算だった模様。ポンコツ過ぎて、向こうが泡を食ったが。

 大人気ない真似までして、無様に自滅する体たらく。仮にも女神を名乗る身で恥ずかしくないので? メンタル最強ですね。

 この後カズマとも対戦し、私が敗した。駒の動かし方とルールを教わったばかりだし、それが普通なのだけど。

 

 なお、未練がましいアクアは、敗因を屋敷の地縛霊アンナへと押し付けた。

 物質を素通りできる霊体をいいことに、対局中のテーブルでブレイクダンスをしていた。それで気が散って集中できなかった。と言い訳を口にしている。

 寡聞にしてそのダンスは知らないが、カズマの口振りだと相当激しい踊りのようだ。

 幽霊の話はウィズより聞いている。ただ、幼くして孤独にこの世を去った貴族の隠し子で、病弱少女だったような。

 えらくアグレッシブで、愉快な性格をしているようだけど。

 アクアの言では、死んで肉体を失ったから、生前の分まではっちゃけているのではとのこと。

 

 私は困惑した。

 つぶさに見定めるも、アクアは欠片も嘘を吐いていない。

 アンナ少女が死を契機として、ドラスティックに舵を切って死後の暮らしを謳歌してるのは、マジのガチらしい。

 

 

【クリスは、女神エリスの好きな花の種名として名高い】

 あの女、まさか本当に幸運の女神だったとは。

 

 早速本題に入ろう。

 盗賊少女の冒険者、クリスとケーキ屋へと立ち寄ってきた。

 季節限定メニューが出るので、一緒に行かないか。あらかじめ、私からそのように誘っておいたのだ。

 元より見知った間柄だ。互いに社交的なのもあり、交流の少なさの割にはよく話す。

 また、クリスは存外、乙女趣味な一面がある。この提案に、一も二もなく食いついた。

 どちらかというと、彼女と会遇するまでが難だった。神出鬼没すぎて、私でも居所が掴めないのだ。天界までは、さしもの私も探索の手を延ばしていないし。

 

 クリスからは、この機にダクネスと二人パーティーを組んでいた頃の話――奇行についてを様々聞き出した。

 実は、今日のこれはクリスをおびき出すための釣り餌だ。

 真の狙いは、ダクネスの行状を詳らかにすること――ではない。

 それはそれで本心ではあるが、あくまで勘繰られないようにするための見せ札。表看板としての真意だったりする。

 

 カズマから聞いたが、彼は前にお見合い絡みでダクネスの実家を訪ったそうな。

 そのことで私と語らううちに、ダクネスのトラブルメーカー具合を資料にするという企みが持ち上がった。

 それを父イグニスへと提出するのは、意外とダクネスを掣肘するのに有効では。そのような仮説が立ったのだ。

 娘の無軌道っぷりを解した父親は、確実に危機感を抱く。縁談をまとめるのに本腰を入れるやもしれない。

 冒険者を継続したい娘は結婚を先延ばしにしたがっているが、それどころではなくなる。

 

 ダクネスに関する苦情の資料が、冒険者ギルドに一式置いてある。

 そう告げたのは私ではあるが、よくもまあそんな着想がポンポンと湧いて出る。

 ゲスマやクズマと呼ばれ、幼い娘を持つ親御さんから要注意人物としてマークされているのは伊達でない。

 カズマとクリスの話、あとはギルドに鎮座するリストを突き合わせれば、冒険者ダクネスの所業は網羅できるだろう。

 

 そう明かすと、クリスの目が泳ぐ。頬を掻いて言い淀んだ。困っているときの癖だ。

 これは、ダクネスを諫めるのが主目的。

 命懸けの冒険に、性癖を持ち込むのはどうかと思う。しかも聞くに、彼女の夢はモンスターに組み伏せられることとか。

 また私としても、彼女と出会う都度、舌なめずりする野獣の眼光で見つめられて迷惑だ。多大なストレスに晒されている。

 そのように口八丁で言い包め、遂には親友をドM道から引きずり戻すためとして、クリスの協力を取り付けた。チョロい。

 

 さて。今回のメインに移る。

 冒頭にもあるように、クリスの正体が女神エリスだとほぼ裏付けが取れた。

 今日の本命は、これを確かめることだった。

 

 クリスとアクアが同族なのは、前々から判然としていた。

 アクアは水の女神。ならばクリスは一体どこの神格か、との話になる。

 とはいえ、当人は敬虔なエリス教徒を称している。目星をつけるのは容易だった。

 エリスは悪魔やアンデッドを敵視している。それも、すこぶる過激というのは有名な話だ。先輩女神アクアの談だと、まったく嘘偽りの無い事実らしい。

 もっとも、あの日のアクアは酒で正常な判断力を失くしていたが。

 バニルも当てにならない。敵愾心から私怨を上乗せして、話をギガ盛りにしてくる。まともな情報源が欲しい。

 ともあれ、ウィズ魔道具店に属する身としては見過ごせない。接し方を思案する上でも、クリスが何者かは確定させておきたかった。

 いざ調査に臨むと、エリスを示唆する証拠がボロボロと見つかった。

 

 そして本日、いよいよエリスと判じた。そこに至った手順は単純だ。

 クリスの名を、わざとエリスと呼び間違えた。

 すなわち、カマをかけた。

 私としては軽い様子見だった。ところが、このジャブにてクリスを一撃ノックアウト。これには私がビックリした。

 呼び名がスイッチだったようで、反射的に口調と醸し出す雰囲気がガラリと切り替わった。あれが、エリスとしての彼女なのだろう。

 

 クリスは遅れて痛恨のミスを悟り、石化の如く硬直する。

 春目前とはいえ、まだ肌寒いのに。滝のような汗が流れ落ちていた。

 ケーキを切り分ける手元のフォークも、狼狽振りを表してカタカタと震える。今にも取り落としそうなほどに。

 クリスは、露骨に動揺していた。

 正体を暴くよりも、私が何も察していないとあちらに信じ込ませ、上手く誤魔化せたと納得する向きへと誘導するほうがよっぽど苦労した。

 

 それにしても、エリスか。

 アクアと異なり、彼女はウィズに何かを感じ取った気配が無い。この前の来店時も、バニルと朗らかに談笑していた。

 だから半信半疑だった。

 私は当時、アクセルが更地になるのではとハラハラしていたのに。

 

 触らぬ神に祟りなし。

 もうすぐ、彼女は忙しくなるとか。このままそっとしておこう。

 そういえば。エリスには確か、寿命以外の不幸に見舞われた魂の案内を務めている、との話があった。

 彼女の繁忙は、雪解けに合わせて冒険者が稼業を再開し、戦いで命を落とす件数が急増するのと連動している。とも読み取れる。

 というより実際、その通りなのだろう。

 

 まあいい。

 目下の懸案だったクリスには区切りがついた。以後は、セレスディナを優先する。




・将棋
原作二巻書き下ろし短編『紅魔族は知能が高い』を参照。
タイトルとは裏腹に、めぐみんが手玉に取られる話。不慣れな将棋のルールに戸惑う彼女を、カズマがボコボコにしている。
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