とある魔道具店店員の手記 作:シュワシュワ
【ララティーナお嬢様のお誕生日会】
ダクネスの誕生日パーティーにお呼ばれしたので、顔を出してきた。
ウィズも招待されたのに、バニルは除け者にされている。まったくもって賢明な人選だった。
なお、開催地は本拠のアクセルではなく、なぜか王都が選ばれている。
他の参列者は、ほぼほぼ貴族。知り合いはクリスくらいしかいない。
貴族にしても、ダクネスが招くのだから人格者ばかりだ。
平民を、雑草の如くいくらでも湧いてくる家畜と蔑むような、庶民がイメージするコテコテの性悪貴族は見当たらなかった。
もしかしなくても、貴族を人の形をした貯金箱か玩具としか捉えていない私が、あの場では一番凶悪だっただろう。
冒険者の姿が無いのは、ダクネスが素性を明かしていないからだろうか。
私自身は、ダクネスから直に打ち明けられたわけではない。だが、雇用主のウィズは、温泉旅行の時分に偶々ダクネスの実家について知り得たそうな。
私に声がかかったのは、そうした背景を勘案してのものだろう。
ダクネスの親友、クリスは言わずもがな。
此度の集まりは、彼女の身元を心得ているか否かが、参加を許されるか左右するハードルとなっていたと思われる。
そういうわけだから、ゆんゆんがハブられたのに、存在を忘れられていたという悲しい事由はなかったはず。
ダクネスの身分を知得してないがために、ふるい落とされたのだろう。きっと。
まあ、あの二人、めぐみんを介しての知人という間柄であって、取り立てて親交があるわけでもない。
よって、どちらにせよスルーされていた気がしないでもないけど、今さらそのようなイフを論じても仕方あるまい。
一応書き足すと、不仲ではない。
ただ、双方とも受け身で会話をリードするタイプでもない。だから、きっかけが舞い込まないと遅々として仲が前進しないのだ。
クリスとも少し語らった。
彼女は、カズマらパーティーメンバーが見つからないのを訝しんでいた。
私は特に何とも。大体想像はつくし。
クリスが気になるというので、その後連れ立ってダクネスへと問い詰めに行った。
すると、あの女ときたら。『訳あって急に出席できなくなった』と、しどろもどろに出任せをほざき出した。
生憎、私に嘘は通用しない。クリスは額面通りに受け取っていたけども。
あんなならず者同然の連中を呼び込めば、他の貴族にすこぶる迷惑をかけてしまうと決めつけて、危惧したのだろう。
だから締め出した。というより、催し自体を秘密にした。
わざわざ遠方の王都で開いたのも、嗅ぎつけた彼らに乱入されないようにとの、涙ぐましい努力だったか。
漏れ聞くところによると、最近になってカズマだけ名指しで王都への転送を禁じられたらしいけど。あれは別件だろう。
禁止のお触れを出したのはダスティネス家ではなく、シンフォニア家なのだし。
ウィズがテレポート先に王都を登録している関係で、私たちの移動に不都合はない。
クリスにしても、少し前から王都に滞在していたとか。
知ってる。不敵にも王城へと押し入って、随分な大立ち回りを演じたようで。新聞の一面を飾っているのを読んだ。
果たして、それは虫の知らせだったのか。
私はふと、ダクネスの父イグニスの安否が猛烈に気にかかった。
面識が無いので顔は知らない。ただ、雰囲気を窺うに、会場には来ていないようだ。
家族でのお祝いは後から内輪で行う予定だの、予想は色々とできる。
ダクネスに尋ねてみると。彼はこのところ、体調を崩しているそうだ。
何か、違和感がある。
謀略家としての私の直感が、何某かを感じ取っている。
ダクネスは、さして深刻に受け止めてないようだけど。イグニスが健康を損ねているのは、何かしら人為的な側面があるやもしれない。
あの男が、そう易々と政敵から毒を盛られるとも思えない。当人も、その程度は織り込んで手を打っているだろう。
だが、アルダープとかいう得体の知れない者もいる。油断は禁物だ。
一体全体、どんな手品を使っているのか。
ダスティネス家という、地位も権力も、当主個人の才覚でさえ上を行く相手を敵に回しているのに。あのアクセル領主は、今もなお不正の証拠を隠し切っている。
冬の裁判で見かけたときは、容易く足がついて打ち首にされると思った。そのような小物としか評価していなかった。
この評を撤回するつもりは無い。だが、今ものうのうとのさばっている以上、暴けてない何かがまだあるのだろう。
自分で言うことでもないが、私が調査すら本能的に躊躇するというのは尋常でない。
ところで。
共にパーティーへ来場したウィズは、日頃は絶対に口にできない高級料理を前に、舌鼓を打っていた。それはもう、夢中だった。
正気を取り戻すや、食べ過ぎで動けなくなった程だ。帰路のテレポート発動にも、僅かに支障が出た。
彼女でこれなら、並の魔法使いならまともに行使できていまい。
粗食ばかり与えていた反動か。
パンの耳以外の固形物も、バリエーションに組み込むべきだろうか。
店の収益は、依然好調を維持している。ぶっちゃけ、経済的にはそのくらいの出費は誤差として許容できる。
難点は、元気が有り余っているとまたぞろ莫大な借金を勝手に拵えて、今の好循環に急ブレーキをかけかねないこと。
店の幸先を案ずるのなら。ウィズは、薄幸そうな顔つきでお腹を空かせている容態が、最も安定するのだ。
【二つの頂上決戦】
見通す悪魔を敬遠して常はアクアを護身に伴うめぐみんにしては珍しく、今日は単身で乗り込んできた。
そして、どちらが優れた爆裂魔法使いかを競う勝負をウィズへと仕掛ける。
この機に、私からもボードゲームの再戦を持ちかけた。
前回は何というか、不条理で益体もないバニル無双展開でしかなかったし。
先方はこれを快く了承。ただし、ウィズを下す前の前座扱いしてくる。
私が仕事の間隙を縫ってサクサク片付けようとしたのが、天才を自負するプライドの高いめぐみんの癪に障ったらしい。見くびっていると見取ったのだ。
さすがに、自意識過剰だ。……挑発の意図があったのは確かだけど。
わざと神経を逆撫でする言動をした。
それを私が認めると、紅魔の里が育んだ瞬間湯沸し器は、あっという間にいきり立つ。
好戦的な紅魔族とはいえ、ここまでキレっぽいのは稀だ。アクセルの喧嘩娘と渾名されているのは伊達でない。
彼女は、名前や身長のことで度々街の子供から馬鹿にされていたが、この頃はめっきり減っている。失言したちびっ子を、片っ端からゲンコツで制裁したおかげで。
冷静沈着を謳われる魔法使いの癖に、素行が知性と品性の欠片も無いチンピラすぎる。
この日のめぐみんは、前と比して大幅なパワーアップを遂げていた。
ゆんゆんに土をつけられたのが相当堪えたらしい。こっそり研鑽を積んでいた模様。
せっかく、全力を出しためぐみんのデータ取りができていたのに。こうなってはそのアドバンテージも台無しだ。
それでも前のバニルショックで、私が何をやらかすか分からないとの警戒を植え付け、盤面だけに傾注させないよう手回ししていた。
もちろん、前の対戦時からここまで見越していた。
何だかんだ、ぼっちをライバルとして物凄く意識しているのか。ゆんゆんに知れたらどんな反応が返ってくるやら。
私はそんなささやき戦術で揺さぶりをかけようとするも、頓挫する。
狙いを見透かされるのはまだしも、腕力で黙らせる選択肢を堂々とチラつかせてくるカウンターは考慮してなかった。
心理戦の土俵では分が悪いと学んで、荒事に持ち込んでなぎ払うことにしたようだ。ハッタリではあるまい。
辛うじてとはいえ、文明人なのに。暴力が支配する世の住人みたいな、その野蛮な価値観はどうかと思う。
私への注意を逆手に取り、不審なムーブを繰り返してめぐみんの集中力を削ぐ案もあったが。ダイレクトアタックが対面から飛んでくる予感がしたので、取り止めた。
結局、妙な真似はせず正攻法で決着をつけることになる。
まあ、私が勝ったのだが。
まさかの圧勝にて幕を閉じた。
言い訳の余地もない、純粋な実力でボロ負けしたのにめぐみんは愕然として固まるが、私も困惑した。
これ、またしても変なインチキで下駄を履かされたやもしれない。
既視感とでも言うか。
対決中にめぐみんが一手打つごとに、まるで予習復習済みの既知かのように、応手がスムーズに浮かんだのだ。
以降の予測の数々と、それぞれにどう返せば良いのかが、怒涛のように脳裏を駆け巡った。手持ちの情報だけで算出できる分析の範疇を、明らかに超えている。
で、それに沿ったら楽々勝ってしまった。
予測上のイマジナリー対戦相手より、めぐみんのほうが弱かった程だ。
万一彼女が同等の力量なら、私は手も足も出ずコテンパンにされていただろう。架空の相手の分際で、私よりも強敵なのだ。
どうもあれの正体は、まだ私の中に眠っていた未来知識らしい。
それも恐らく、めぐみん本人との対戦経験を呼び起こしていた。
かなりの劣勢というか、対策を練った上でも思いっきり私が負け越していたっぽいが。
このような顛末を経ての発覚は慮外のことだったが。どうやら私は、元いた時代でめぐみんと交流があった可能性が高い。
紅魔族という自らの血筋を鑑みれば、十分考え得る話だ。
以前の試合で思い出さなかったのは、バニルの予知に頼った弊害か。
あくまで憶説に過ぎないが。かつての私は、今より遥かに成長した未来めぐみんに幾度となくボコられた。
その豊富な体験を血肉として、下位互換の過去めぐみんを封殺してしまったようだ。
すなわち今の私は、図らずもめぐみんキラーと化している。今回はボードゲームだったが、他の遊戯なら大丈夫とも限らない。
少なくとも現状においては、めぐみんより格下なはずのゆんゆんのほうが、相性的に私と善戦できてしまう。
もっとも、その辺の事情は黙秘した。
どうせ放置しても、何度か対戦すればめぐみんの知能なら原理を解き明かして、対処法を編み出してくるだろうし。
次の一戦で見抜いたとしても、私は驚かない。
また、これは余談だが。
対局の途中に、私は常時実行しているキャラ作りを一旦中断した。
めぐみんからすると脈絡もなく態度が豹変したので、何事かと怯んでいた。
演技には、結構な思考リソースを割いている。平時なら無視できる負担も、めぐみんを相手取りながら継続するのは私でもキツかった。だから、素に戻った。
生来の私は、天然のポーカーフェイス。心の機微が外面から見て取れない。
故に傍からは、にわかに表情や声音から感情が欠落したように見受ける。ついでに口調も微妙に変じたし、その落差も相まって、大層不気味だったそうな。
他方ウィズにとっては、いつもの私だ。強いて言えば、私が人前でその状態になったのを目の当たりにして、目をパチクリさせていた。
私が何も弁明しないので、これをめぐみんは極まった集中モードと解釈していた。当たらずといえども遠からず、というか。
なお。
直後に実施された爆裂魔法の撃ち合いでは、先の鬱憤を晴らすようにウィズを打倒し、見事めぐみんが勝利した。
これにて、アクセル最強の爆裂魔法使いの座はめぐみんが奪取する。
まあ、街の外での出来事だから、店番に残った私は見物してないけど。
そういえば。ウィズの爆裂魔法はデュークのアレで一回だけ目にしたが、めぐみんのは終ぞ生で見ていない。
この爆裂娘、市街でも平然とぶっ放すから、タイミング次第では拝見できるのだが。
いずれ、都合が合えば見学させてもらうとしよう。
【節穴と言わざるを得ない】
今日はミツルギが来店した。
風の噂によると、この前王女の頭を撫でて処刑されかけたらしいが。
また、彼の仲間については、只今隣国で修業中だと伝聞している。
まあ、よしんば国内に留まっていたとして、客の悪感情を搾取してくる鬼畜なアルバイターのいる店を訪ったかは疑わしいけど。
なお、本日の用向きは買い物ではない。真剣な面持ちで、稽古をつけてほしいと切り出した。バニルに。
もしや、気が狂っておられる?
この間、ミツルギは王都のとある事件で苦杯を嘗めた。それで、心身を鍛え直す必要性を痛感したという。
そんなとき、アクセルの魔道具店で出会った魔王軍の元幹部な仮面店員が頭を過る。
手の届かない格上と手合わせすることで、何か掴めるやもしれない。そのため王都より遥々、藁にもすがる思いで来訪したのだ。
いや、だからってバニルは無いだろう。
命の危険を冒すことなく、強者に胸を貸してもらえる。その観点ではなるほど、一理ある。有意義かもしれない。
だが、思いついても実践しようとする輩はそうそういまい。単純に、この仮面の性格が悪すぎるために。
せめて、ウィズを指名すればよかったものを。彼、ウィズが現役の幹部とは知らないけど。
打診を受けた当初、バニルはあからさまに面倒臭がって、乗り気でなかった。
しかし。報酬として大金を提示されるや、秒で手のひらを返す。何とも現金だった。
なお、ミツルギには手解きだけでなく、報酬額分のガラクタを別途プレゼントした。このチャンスに、在庫の廃品を一挙に押し付けてしまおうとの魂胆だ。
これは、私が横から口を挟んで提案した。
この男はそれを快諾したのだ。ダクネスのように、マゾでもあるまいに。
そうして両名が外出するのを見送り、暫し経つと。バニルだけが引き返してきた。
ミツルギはどうしたと質すと。立ち上がるのも困難なほど疲弊しているから、その場に置き去りにしたとか。
バトルの首尾は、誰でも予期できるであろう通りに落着した。
バニルが見通す力でひたすら攻撃を躱し、合間合間でおちょくり、やられたフリをして悪感情を貪る。
それだけだ。要するに、幹部だった頃と同一の戦法だ。
ミツルギがスタミナ切れでダウンするまで、そんな様相だったという。この悪魔は人間を傷付けないとのモットーを掲げているから、まあそうもなるだろう。
曲がりなりにも、高レベル上級職の前衛が息切れでノックアウトとは。よっぽどだ。
私には、罰ゲームに志願する奇特な行いにしか見えなかった。これで彼の側に、何らかの成果は出たのだろうか。
もしも次回があるようなら、今度こそウィズを代わりとして紹介しよう。それくらいのサービスはやっても構うまい。
あの男は金蔓。お得意様だ。
これからも骨までしゃぶり尽くす所存でいる。彼には、稼ぎをジャブジャブと店で溶かしてもらわねばならない。
【晩春の夏バテ】
日中だけ、寝込んだ。
見通す悪魔の診察によると、単なる夏バテとのこと。
バニルの異能があれば、医者にかかる手間が省けて大いに助かる。
今の時節には稀有なことに夏日となったが、それが悪く作用したようだ。
前日の大雨以後から急激に気温が上がり、しかも蒸し暑くなった。とりわけ後者が良くなかったとか。
何だか私は、激しい寒暖差を苦手としている感がある。
ところで。
そろそろ夏が迫っているものの、現在の季節は暦の上ではまだギリギリ春に当たる。
こういうケースも、呼称は夏バテが妥当なのだろうか?
【は?】
ゆんゆんを店に呼び出して、試作品のテストに協力してもらった。
ただし、これは咄嗟に考えついたお題目。本来なら、先頃私が勧めた文通の進展について、聴取したいだけだったのだが。
招じた覚えのないめぐみんまで付き添って現れたので、急遽取り消すことになった。
いじめっ子気質なめぐみんは、ゆんゆんで遊ぶのが大好き。
そんな彼女の眼前で、ゆんゆんの友達作りの相談について話題にするのは、どう考えても公開処刑にしかならない。
なお、どうしてめぐみんが一緒かというと。思いがけず出会して、好奇心から何となく同道しただけらしい。
冒頭の試作品について言及すると、バニルの作製した仮面だ。それも特別製。
二つで一組となっている。同時に被ると、一時的に装着者二人の肉体と精神が入れ替わる効果がある。
人間が用いることを想定しているので、適当に被験者を見繕って試験しておいてほしい。そう言われて私が預かっていた。
私が上述の解説を行うと、めぐみんは目を丸くした。
というのも。彼女はつい先日、王城でソックリな機能を持つネックレスを目撃したばかり。タイムリーなネタだった。
こんな神器クラスの出鱈目な魔道具が他にも実在してるほうが、私としては余程ビックリなのだけど。
ちなみに。ネックレスには、入れ替わっている最中に片方が死亡すると、元に戻れなくなる致命的な欠点があったとか。
それはまた、えらく悪用が捗りそうな仕様だ。
よもや、真正面から敵手と戦うくらいしか能のない脳筋貧乏国家――もとい。清貧を美徳とし、尚武の気風溢れるベルゼルグの城に、そのような高度で風変わりな魔道具があろうとは。
意外というか、蛮族みたいな王族の居城には似つかわしくない。
この国の特権階級は、誠に純朴だ。総じて搦め手を不得手としている。
詐術で貴族をカモにしまくっている私が、そこは保証しよう。
本題に戻ろう。
仮面は、私とゆんゆんで試した。
そして間もなく、ゆんゆんに泣きが入ることになる。
私とめぐみんが結託して、撮影会を始めてしまったために。
めぐみん監修の元、紅魔族的センスに則った格好良いポーズ、セリフを連発する私の勇姿を魔道カメラで撮りまくった。
傍目には、仮面を着用したゆんゆんだ。インストールされている人物が私なだけで。
それがキメ顔のノリノリで大見得を切って、映像として逐一収められている。本物のゆんゆんにしてみれば、黒歴史が凄まじい勢いで量産されているに等しい。
ちなみに。仮面のデザインは紅魔族の感性にバッチリ刺さるそうで、ファッションとしては全然問題なかった。
カメラマン担当のめぐみんは、出来映えにニッコリする。
この写真を故郷へと送達すれば、娘が立派に育ったことに族長も感涙間違いなしと太鼓判を捺した。話は瞬く間に里一帯に伝搬するだろう、とも付け加える。
狼狽するゆんゆんをたくさん弄って、他称ライバルは二重にご満悦だった。
実を言うと、片一方が仮面を取り外すだけで入れ替わりは解除される。
つまるところ、ゆんゆんは自分の顔にある仮面を外すだけで良かった。それだけで呆気なく窮地を脱せた。
これは事前に説明してある。一体、いつになったらピンとくるのかと、私とめぐみんは顔を見合わせたものの。彼女が自力で思い至ることは、遂になかった。
焦って視野が狭まると、簡単な事柄も見落としてしまう。その典型例だった。
それはさておくとして。
私には、年下の少女をからかって楽しむ趣味は無い。
にもかかわらず、めぐみん発案の撮影会に乗ったのは、私の身体が有している疑惑のある紅魔族の特性を見極める目的があった。
結果としては、瞳が発光する体質を保有しているとの確認が取れてしまった。
紅魔族は、感情の昂ぶりで目が光る。
ゆんゆんは、思わず絶叫してのたうち回りたくなる羞恥心に苛まれた。
だからこそ、私が長らく死蔵していた特性をきっちり引き出して、仮面越しに目がピカピカと輝いたのだ。
さしものめぐみんも、一足飛びに私が同族の末裔ではとの着想には至らない。目のことは、仮面の能力の延長線上のものなのだろうと思い違いをして、呑気に感心していた。
私は情が薄めだ。だから冬の一件を除き、露呈する機会がこれまでは微塵も無かった。それだけだったらしい。
割りかし急拵えで場当たり的だったけど、好機を上手く活かせた。
私単独だと、どうしても確かめられる気がしなかったのだ。
なお。撮影後に、ゆんゆんがおかしなこと言い出す。
私の応対が、めぐみんに対してだけ普段より甘いし、優しい気がする。
めぐみんと握手を交わして、感想戦に突入した段階での発言だ。直前の状況が状況なので、悪態をついているだけだと、うっかり聞き流すところだった。
だが。これまで傍観に徹していたウィズが、彼女のこの不平に同調した。
「あっ、やっぱりゆんゆんさんもそう思いますよね? そうなんです。他の人は同じように扱うのに、何故かめぐみんさんにだけはちょっぴり優しいんですよ。その優しさを、もう少し私達に分けてくれたって――」
私は、周囲から持たれる心証をコントロールしている。
それは延いては、自分がどう見られているかを知悉しているとの証左でもある。
だが、二人の言はそこから外れている。心当たりが無い。
私の認識上では、めぐみんを贔屓してない。そう思われるよう誘導もしていない。
とどのつまり。どこかで印象操作に失敗しており、それを今の今まで見過ごしている。割と洒落にならない一大事だった。
いつから、なぜそう思うのかとウィズへと問うた。
すると昨年の冬に入る前後、バイト候補として私がめぐみんを連れてきた時期だと、すっと回答が返ってくる。
借金に喘ぐめぐみんを、理由を捻り出してまで雇おうとしてるように映ったらしい。
メチャクチャ昔だった。というか、ほとんど最初からだ。頭が痛い。
心情が表に出ない質だから良かったものを。そうでなくば、顔が盛大に引きつっていただろう。
閉店後。バニルと二人きりになった折に、この事案について相談してみた。
ところが。聞き終えた悪魔は、何だそんなことかとつまらなさげに鼻を鳴らす。
次いで、断じられた。ウィズとゆんゆんの主張は正鵠を射ており、今まで私が自覚していなかっただけなのだと。
未だに気づいてなかったのかと、鈍感さに呆れてすらいた。
換言すると。
私と二人の間に隔たる認識のズレとは、私がめぐみんだけを依怙贔屓しており、それが無意識だったのが原因だと。
これ、もうちょっと真面目に掘り下げるべき案件かもしれない。
【アルダープは破滅するようだ】
バニルから、配下の悪魔を人手として多数貸し出してもらえることになった。
地獄に広大な領地を有する公爵の肩書きは飾りでない、ということか。権勢に見合う規模の領民を擁しているらしい。
悪魔の世界は、人間以上の縦割り社会。上位者の命令には絶対服従だ。
バニルのお墨付きを得たので、さしあたり私の指示には従ってもらえるだろう。
突然の決定だったために、仕込みをする時間が不足している。手足となって活動してくれる人員が即確保できたのは僥倖だった。これで、人海戦術でカバーできる。
下準備のタイムリミットは、領主の結婚式当日だろう。
これは確定と見做していい。バニルの嗜好を勘考するに、他は無い。
貴族の執り行う結婚式ともなると、政治の色を帯びる。通常ならば、式を挙げるまでには一定の猶予が見込める。
だが、あの領主なら話が別だ。
むしろ、極限まで工程を省略しようと躍起になると思われる。さしずめ、今すぐ悪巧みを開始しないと間に合わない。
発端は、占いだった。
訪ねてきたカズマたちに、儲け話を持ってきてくれたお礼をバニルが申し出た。ダクネスに破滅の相が出ているそうで、その詳細についてを占ったのだ。
自己利益の拡大に熱心な悪魔の提言だ。もう、この時点でだいぶ胡散臭かった。
タダだからと、軽い気持ちでダクネスが受けた占いの予言は以下に記す。
彼女の家と父親が、これから大変な目に遭う。
これに彼女は、自分を犠牲にする短絡的な解決策を採る。だがそれは、父親に強い後悔と無念を抱かせる結末で終わってしまう。
この未来を回避する手立ては、無い。……ダクネスの独力では。
内容に引っかかるものを感じて、私は沈思黙考した。
病床に臥すイグニス。デストロイヤーによる被害と、多額の負債。領主のダクネスへの執着並びに、彼女との裏取引。ダクネスの思考パターン。カズマの知的財産。等々。
これらのピースを繋ぎ合わせて、これから何が起きるのかを私は悟る。同時に、腹黒悪魔が何を企んでいるのか、その謀の全貌もおおよそ看破した。
不可解な点は幾ばくかあれど、大筋は見通せたのだ。
脳内で結論を出して、意識を現実へ移すと。早速、推理を補強する材料が転がり込む。
売れ筋商品をもっと開発するように。悪魔が、そんな助言をカズマへ送った。
ダクネスにはどうにもならずとも、彼の頑張り如何では、もうすぐ訪れる不幸をどうにかできるかもしれない。らしい。
つまりは、金だ。やはりこれは、そういう話に違いない。
突如火蓋が切られた悪魔と女神の小競り合いから逃れるため、慌てて店を飛び出しつつも、私は導き出した答えの正しさを確信した。
バニルの奸計そのものは、所詮他人事なのでどうでもよろしい。
ただ。これに便乗して荒稼ぎする、私独自のプランを閃いてしまった。
それを遂行するために、バニルより部下を融通してもらったのだ。
それと併せて、暗黙の了解が成立する。
お互い、もう一方の策謀には干渉しない。何を企てているのかも詮索しない。
極上の悪感情を味わうなり、女神を手玉に取るなり。お好きにどうぞ。
見通してはいるのだろうけど、私が大勢の悪魔を欲した所以について、バニルは一切問いただしてこなかった。
私もまた、仮面悪魔の思惑について、あえて答え合わせを避けている。
バニルの計画と連動したのは結果論に過ぎず、偶然の産物。共謀なんてしていない。私は何も聞かされていなかった。
仮にあちらがヘマをしたら、そう言い逃れをして白を切ろう。向こうにしても、同様の腹積りなのだろう。
現に、バニルの企図については私の憶測に過ぎない。裏付けは取れていない。
これから当面は、忙しくなりそうだ。
・ダクネスの誕生日
ダクネスの誕生日ネタは、原作八巻でクリスから明かされる誕生日パーティーの話、よりみち二巻のミニ・ストーリー集に掲載されている話の二種類ある。
本作では、よりみちを来年の話と解釈して、原作八巻の方を採用した。
・ボードゲームの力関係
ゆんゆん≪めぐみん<主人公(大人)≦未来主人公(子供)≪未来めぐみん
タイムスリップ前の方が、経験値の差で今の主人公よりもより若干強い。
・魔剣の勇者vs見通す悪魔
前提条件がやや異なるが、この二人の対戦カードはWeb版にある。本話ではそれを流用した。
・精神を入れ替える仮面
『愚か者』三巻に登場するアイテム……のプロトタイプという独自設定。
後の完成形と比較すると、性能はやや控え目。