とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

25 / 44
3-3 感謝祭③

【小さな女の子の話になると物凄く早口になる】

 開店して間もなく、サトウカズマが姿を見せた。

 こんな朝早くから起きているとは、この男にしては珍しい。

 思わず目を丸くしたが、すぐに合点がいく。近頃は祭りの準備で精力的に動き回っているという話を、風の噂で耳にしていた。

 

 私の顔を認めるなり、挨拶もそこそこに『ウィズを呼べ』と催促してきた。王都へ行きたいらしい。

 だが生憎、肝心の店主は療養中の身だ。

 先日のバニルとアクアの小競り合い。その流れ弾を食らい、目下ダウン中である。

 

 目当てはウィズのテレポートらしい。

 だがそれ以前の問題がある。彼女はとうの昔に、転移先リストから王都を削除済みだ。どの道、転送は敵わない。

 

 そう告げると、カズマは地団駄を踏んで悔しがった。

 その取り乱し様が尋常ではない。訝しんでワケを問いただすと、『王都に住む妹を感謝祭に誘いたい』のだと打ち明けられた。

 転送屋は頼れない。シンフォニア家が名指しでカズマの王都入りを禁じており、そのお達しは今なお有効だ。

 手詰まりの末に思い至ったのが、ウィズのテレポートだったというわけである。

 

 なるほど、カズマの妹が王都に。

 そういう事情なら、手を貸すのも吝かではない――

 そう思いかけた矢先、脳裏をよぎる奇妙な違和感に思考が止まった。

 

 ……いや、何かがおかしい。

 この男は遠い異国の出身のはず。妹がいるなどという話も初耳だ。

 そういえばカズマは、幼い少女なら誰彼構わず妹扱いする危険人物として、小さな娘を持つ親御さんの間ではそれなりに知られている。

 確か以前も、まだ見ぬ第一王女を『妹キャラかもしれない』と評し、ワクワクしていた覚えがある。

 

 点在していた不審なピースが、カチリと音を立てて一本の線に繋がった。

 ……まさかカズマの言う妹とは、アイリス王女のことなのでは。

 

 恐る恐る確認を取ると、残念ながら推理は大当たり。

 この救いようのないロリコンは隠す素振りもなく、実に堂々と、そして自慢げに肯定してみせた。

 

 それでスイッチが入ったらしい。

 聞いてもいないのに、妹――すなわち王女がいかに可愛いかについて、実体験を交えて滔々(とうとう)と語り始めた。

 

 じっと観察しても、私の嘘感知センサーはピクリとも反応しない。

 ……つまり、この男。本気で王女を妹だと思い込んでいる。

 赤の他人、それも王族を妹として認識しているとは。人として、普通にヤバい。

 

 ……まったく、危ないところだった。

 知らなかったとはいえ、あわや変質者を王城へ送り込む手引きをするところだった。

 そもそも彼が王都を締め出された要因も、その辺りにあるのでは? 確か王女の護衛には、シンフォニア家の長女が就いていたはずだし。

 

 念のためその点を突いてみると、案の定ビンゴ。

 カズマは一転して顔をしかめ、クレアという女がいかに融通の利かない人間であるかを語り始めた。

 挙げ句、仕える王女に対して明らかに主君以上の情を抱いている――などという余計な分析まで添えて。

 

 一頻(ひとしき)り愚痴を吐き出してクールダウンしたのか、話題はこれからのことへと移る。

 近々、祭りの会議で議題に挙がるという仮装パレードの企画について、熱く語り出した。

 言いたいことを出し切って満足したのだろう。最後は憑き物が落ちたような顔で、店を後にしていった。

 

 仮装パレードとは、エリス祭のコスプレごっこを拡張した催しらしい。

 本来は女神エリスに扮するだけのところを、祭りをより賑やかにするためにあらゆるコスプレを推進するとのこと。

 例えば、サキュバスや王女の格好で街中を練り歩けるように。

 

 ……コスプレごっこ。

 いや、間違ってはいないのだけど、言い方。

 

 祭りの熱気に当てられたのか、あの男のテンションはやけに高い。

 とりあえず、唐突に王女の元を訪ねようと思い立った動機が、この仮装パレードにあることは理解した。

 どうせこれもカズマの発案だろう。とことん祭りを私物化するつもりらしい。

 

 ちなみに。

 エリス祭の予行に当たる先日の夏祭りで、件(くだん)の王女御一行がお忍びでアクセルを訪れていたのだけど。この様子だと、彼には今後も黙っておいたほうが良さそうだ。

 以前、バニルが『一日ハチベエ』なる謎のバイトで荒稼ぎしてきたことがあったが、どうもその雇用主がアイリス王女だったらしい。

 その事実を調べ当てたときは、私も面食らったものだ。

 

 


 

 

【ぼっちの相談(第二回)】

 私が多忙で目を離していた隙に、ゆんゆんがいかがわしい男たちとつるみ始めた。

 そんな風聞が耳に届いた。

 男とは、ダストとバニル。最近、この三人でちょくちょく集まっているらしい。

 

 以前から顔見知りのバニルはともかく、問題はダストだ。

 あの悪名高いチンピラと親しいと見做されれば、彼女の評判は地に落ちる。

 幸い現状は『絡まれて迷惑している被害者』という構図で認知されているから、まだ救いはあるが……。

 無論、私自身もあの男との接触は極力避けている。カズマのように、有益な金儲けの才を秘めているわけでもないし。

 

 ともあれ、胡散臭い連中に誑かされつつあるぼっちの動向が気になり、仕事の合間を縫ってギルドまで足を運んだ。

 

 渦中のゆんゆんに事実確認を行ったところ、『ダストは友達でも何でもない』とのこと。

 バッサリだった。照れ隠しなどという生易しいものではない。本気で嫌がっている。

 さしもの彼女も、あの不良との仲を邪推されるのは心外らしい。

 

 ちなみに当のダストはここ数日、警察署で勾留中だ。

 いつものことなので、他の冒険者たちも意に介していない。それどころか『次はいつギルドに顔を出すか』で賭けが行われている始末である。

 

 閑話休題。

 談笑の流れで、ゆんゆんから再びコミュ力の向上について相談を持ちかけられた。

 

 以前にも同じやり取りをした覚えがある。

 当時は文通を勧めたものの、パーティー募集の張り紙でやらかしたかつてのミスを繰り返し、あえなく頓挫した。

 アクセルを拠点にして一年近くが経過するというのに、まるで成長が見られない。

 

 そもそも彼女にとって、能動的なアクションを起こすこと自体が天空のハードルなのだろう。

 いっそ酒の力でも借りて大胆になれば、生来の引っ込み思案も多少は改善するのでは。一瞬、そんな思考がよぎった。

 

 だが、こうまで対人運に見放されたぼっちが、そう都合よく変われるものだろうか。

 むしろ、筋金入りの下戸と判明して即座に酔い潰れるか、あるいは酒乱に転じて大暴れするか。

 いずれにせよ、新たな地雷を掘り当てる予感しかしない。

 

 それに、子供に酒を飲ませるなど、ウィズが許すはずもない。

 私としては、上級魔法を乱射しかねない酒乱を危惧している。

 試すにしても、ウィズかバニルの監督は不可欠だろう。

 

 人に慣れる練習として、いっそホストにでも通わせようか──そんな考えが頭をよぎった。

 が、ド嵌りして抜け出せなくなる未来が容易に想像できたため、即刻撤回した。

 

 ただでさえゆんゆんは、紅魔族というだけで周囲から遠巻きにされている。

 そこへ素行の悪い交友関係、飲酒の習慣、あまつさえホスト通いまで加わろうものなら、彼女の世間体は木っ端微塵だ。

 齢十四にして、早くも人生が詰みかねない。

 

 とはいえ、人と接する機会を増やすこと自体は悪手ではない。

 そこで、私の知人を誰か紹介する方向で思案を巡らせてみた。

 が、これも一筋縄ではいかない。

 紅魔族の悪評を差し引いても、ゆんゆん本人がそもそも重い。激重だ。常人では押し潰される。

 

 彼女の相手が務まるのは、めぐみんのように強烈な個性で相手を振り回す変人か、その変わり者を受け入れられるウィズのような心の広い苦労人だけ。

 私の交友範囲で言えば、後者としてクリスの顔が浮かんだ。

 

 そこで私はダクネスをそれとなく誘導し、彼女自身の発案という形でクリスを紹介させることにした。

 もっとも、実行は領主代行業務が一段落してからになるだろうが。

 私が直接仲介しないのは、これを機にクリスとウィズ魔道具店との距離が縮まりすぎる事態を警戒してのことだ。

 店員である私と女神エリスの距離感は、慎重に測らねばならない。

 

 さて。相談が一区切りつくと、ゆんゆんが急にそわそわし始めた。

 やたらと目前に迫った祭りの話題を振ってくる辺り、『一緒に祭りを回ろう』と私のほうから切り出してほしいらしい。

 自分から誘えばいいものを。そういう煮え切らない態度だから、いつまで経っても友人ができないのだ。

 

 その言外の期待を、私はあえてスルーした。

 代わりに、祭り当日におけるめぐみんの行動予測を教えておく。

 ──ライバルを心配した彼女はきっと、わざとゆんゆんの目の前を彷徨(うろつ)き、誘えずにヤキモキする様をおちょくってくる。

 

 ついでに、その心理戦で優位に立つための方策もいくつか吹き込んでおいた。

 まあ、宝の持ち腐れに終わるだろうが。

 所詮はゆんゆん。一時は優勢を握ったとしても、ライバルの揺さぶりで頭が真っ白になり、あっさりと返り討ちに遭う――そんな未来が、既に透けて見える。

 

 


 

 

【女神エリス&アクア感謝祭スタート】

 遂に感謝祭の幕が上がった。

 祭りは五日間。今日はその初日となる。

 

 ちなみにウィズ魔道具店は、いつも通りの通常営業。

 バニルが仮面屋の露店を出す件は以前も記したが、どうやら閉店後の夜間営業になるらしい。

 しかも個人出店なので、アシスタントは不要とのこと。

 もっとも、繁盛が過ぎれば明日以降に助力を乞う可能性はあるそうだが。

 

 水着も不要らしい。夕方開店ならば、さもありなん。

 真夏とはいえ、その時間帯で水着は厳しい。そもそも売り子の水着推奨は『打ち水のため』という方便らしいし。

 万一に備え、ダクネスの助っ人という名目でスケジュールを押さえておいたが、この様子では杞憂だったか。

 

 後から聞いた話によれば、仮面屋はサキュバスの客で大いに賑わったという。

 あの連中、普段からうちでバニル人形や仮面を買い漁っているが……ひょっとして、あれらをバニルのアイドルグッズと勘違いしてやいまいか。

 

 ダクネスの政務サポートへ向かう前に、屋台をひと回りした。

 エリス教のブースは、無難すぎて特筆することがない。

 強いて言えば、アクシズ教への対抗心からか、やけに気合が入っている程度だ。

 

 一方のアクシズ教は──予想通り、ロクでもない。

 何より目を疑ったのは、店番にクリスが立っていたことだ。

 ……エリス教のご神体が、なぜアクシズ教の出店に立っているのか。

 

 自分を称える祭りの準備に自ら精を出すアクアも大概だが、それにしてもエリスのこの所業は無法では。

 自らの信徒を差し置いて、先輩女神とはいえ競合する異教へ与力するとは。

 正体を伏せているとはいえ、表向きのクリスは熱心なエリス教徒を自称していたはずだが。

 

 しかも担当しているのが、よりにもよってくじ引き。

 幸運の女神を相手取り運試しを挑み、勝てば当たりが引ける──そんなシステムだ。

 無謀極まりない。カズマでも分が悪いだろう。

 まだ私やめぐみんを相手に、アクアが知恵比べを挑むほうが勝算がある。

 

 案の定、エリス教徒の客が必死に神に祈りを捧げながら挑むも、無情にもハズレを引かされていた。

 そしてそれを、死んだ魚のような目で見送る本神。

 ……この盗賊娘、果たして運が良いのか悪いのか。

 

 事情を聞けば、アクアに頼まれて断り損ねたという。

 話している端からその元凶が現れ、私まで人手として引っ張り込もうとしてきた。

 先約を盾に突っぱねると、『変な形の石』を報酬に食い下がってくる。曰く、クーロンズヒュドラの棲んでいた湖で拾った代物だとか。

 

 ……なぜ、ただの石ころが報酬として通用すると思うのか。

 アクシズ教への加担という罰ゲームを強いられた挙げ句、ゴミまで押し付けられては堪らない。

 

 その後は、ダクネスの手伝いに専念することとなった。

 案の定、執務室には苦情がひっきりなしに舞い込み、戦場さながらの様相を呈した。

 祭りにトラブルは付き物とはいえ、物事には限度がある。

 まして原因の大半がアクシズ教徒となれば、文句のひとつも言いたくなる。

 

 お化け屋敷のお化け役によるセクハラ。

 イカ焼きをクラーケン焼きと偽って販売。

 金魚釣りの金魚が、まさかのジャイアントトードの幼体。

 エリス教徒の屋台への嫌がらせ。

 そして極めつけは、ヒュドラの元住処である湖への、ジャイアントトードのオタマジャクシ放流。

 

 ……なお、これでも氷山の一角に過ぎない。

 アクシズ教徒の暴挙は、文字通り枚挙に暇がない。

 

 ちなみに、件の金魚釣り屋台は教団支部長の店である。

 警官にこっ酷く叱られ、仕方なく遠方の湖へ不法投棄。そこがよりにもよって、ヒュドラの棲んでいた湖だった。

 それにより、別件のクレームへ発展したという流れである。

 

 あの湖周辺は、かつてヒュドラに魔力を吸い上げられた影響で汚染が進み、荒れ果てていた。

 だが、それも今は昔。ギルドの依頼を受けたアクアの浄化によって急速に緑化が進み、肥沃な大地へと変貌しつつある。

 既に開拓も本格化している。そんな矢先に、モンスターを遺棄しないでほしい。

 

 身を粉にして働いた反動か、ダクネスは人生に疲れ果てた中年男性のような淀んだため息を吐いていた。

 『領主の務めがここまで過酷とは思わなかった』と零す声には、気力が感じられない。

 

 恐らく今年が異常なだけで、例年はもっと穏やかだったはずだ。

 ……もっとも、先代は責務を放棄していたため、比較資料は一切存在しないが。

 しかもその先代、務めは果たさないくせに、祭りの収益から税だけはきっちり掠めていたという。

 

 


 

 

【恋する少女は面倒臭い】

 エリス教団とアクシズ教団を競わせて売上を伸ばし、その上前を撥ねて実行委員で山分けする。

 どうやら、それがサトウカズマの魂胆らしい。

 元々そんな噂は巷でも囁かれていた。裏を取るほどの話でもないと判断し、これまでは聞き流していただけで。

 

 だが今日、それが事実だと確信した。

 アクシズ教ブースが、見違えるほど様変わりしていたからだ。

 昨日の体たらくを目の当たりにし、対立を煽るには力不足と踏んだカズマが、わざわざテコ入れを図ったらしい。

 

 情報統制にまるで頓着していない様子だったので、実のところ半信半疑だったのだが……。

 よくよく考えれば、一介の冒険者に過ぎない十代の少年に、そこまで求めるのが酷なのかもしれない。同じ年の頃の私じゃあるまいし。

 

 話を変えよう。

 めぐみんが店に怒鳴り込んできて、私はそのまま外へ連行された。

 わざわざ場所を移した理由を尋ねると、『バニルが中にいたから』だそうだ。やや逆ギレ気味の返答だった。

 

 用件は、先日私がゆんゆんに入れ知恵した件への苦情らしい。

 めぐみん曰く、そのせいで昨日は少(・)々(・)手こずらされたとのこと。

 ……その程度の些事でわざわざ足を運ぶ辺り、実際はかなり苦戦したのではなかろうか。

 

 なお、ゆんゆんのことはからかっただけで、結局祭りは一緒に回っていないらしい。

 もう少し気を配ってあげればいいのに。

 とりわけ最近のゆんゆんには、胡乱な輩との関わりまであるというのに。

 

 そう忠告したところ、『私もその胡乱な者の一人だろう』と、実に辛辣な返しが飛んできた。

 ……まったくもって仰る通り。これには素直に頷くしかない。

 いやまあ、私自身はゆんゆんのチョロさに付け込むような真似はしていない。

 精々、『友』というワードを餌に、バニルが彼女を労働力としてタダでこき使っているのを黙認しているくらいで。

 

 せっかくなので、この機会に前から気になっていたことを聞いてみることにした。

 結論から言えば、藪蛇だったが。

 

 話題にしたのは、カズマの誕生日プレゼントだ。

 彼の誕生日は感謝祭の最終日。もうほとんど猶予がない。

 

 この話を持ち出したきっかけは、誕生日が近づくにつれ、ふとダクネスの誕生日会を思い出したことにある。

 あの日、ダクネスは仲間を会場からシャットアウトしていた。そもそも誕生日を教えていなかったことは明白だ。

 そこで、一抹の疑念が浮かぶ。

 

 ──さてはあの一行、お互いの誕生日を把握していないのでは?

 

 めぐみんにとって、カズマは意中の相手。ならば当然、贈り物のひとつくらいは用意しているだろうと高を括っていた。

 だが、もし誕生日を知らないとしたら?

 そんな状況で私だけがプレゼントを用意すれば、恋する少女の目には抜け駆けと映りかねない。

 ……映った。

 

 予想は見事に的中。

 めぐみんは、誕生日が間近だということすら把握していなかった。

 そのため、どうして私が知っているのかと、紅い瞳を爛々とさせた爆裂娘に根掘り葉掘り詰問される羽目になった。

 

 何のことはない。

 私は人付き合いにそれなりに心を砕いており、その一環として、親交のある相手の誕生日は覚えるようにしている。ただそれだけの話だ。

 

 もっとも、めぐみんに関しては直接聞き出した記憶はない。

 彼女の場合、そもそもその必要がなかった。

 通りすがりに露骨な誕生日アピールを仕掛けてきためぐみんに、買って帰ろうとしたケーキを遠回しに献上させられるイベントが、先に発生していたので。

 

 以前、ミツルギを接客した折、彼の仲間の槍使いと盗賊の小娘共から、下らない警戒の眼差しを向けられたことがある。

 今回のめぐみんは、あの日の二人を彷彿とさせた。

 ……もっとも、こちらのほうが遥かに凶暴で、手が付けられない。

 

 ちなみにその小娘二人は、最終的にはむしろあちらが気の毒な目に遭った。

 盛りのついた小娘など軽くあしらえる私、人の嫌がることが大好きな畜生悪魔、そしてド天然店主──この三名に散々引っ掻き回されたのだから。

 

 別に私は、カズマを狙っているわけではない。

 そう明言したものの、めぐみんは完全には納得しなかった。

 女の勘とやらで、私が何か企んでいる気がすると言う。

 

 ……まさか。

 ウィズとカズマをくっつけ、店を再建できないか――などとこっそり案じているのを、薄々勘付かれている?

 

 


 

 

【これはパターン入ってますね】

 アクシズ教のブースがすこぶる好調だ。

 そのせいで、アクシズ教徒たちはすっかり増長している。

 

 昨日の時点で、既に兆候はあった。

 『エリス教団より儲けているのだから、その分の出店区画を寄越せ』とゴネ始めていたのだ。

 そして今日に至っては、『エリス教団を追い出し、来年からは女神アクア感謝祭の単独開催にしろ』と叫び出す始末。

 

 盛況ぶりはエリス教を明らかに凌駕しており、評判も上々。無体な要求だと一蹴するのも、今の状況では難しい。

 祭りの高揚感も手伝って、アクシズ教徒特有の奇行すら好意的に受け取られている。

 まあ、大半はアイデア出しと指導をしたカズマの手柄だが。

 

 現在アクシズ教団は、単独開催を目指して署名活動中とか。相変わらずのアグレッシブさである。

 元々近年のエリス祭は盛り上がりに欠け、徐々に打ち切りムードが漂い始めていた。

 それが追い風となり、今の情勢では本当に実現しかねない勢いがある。

 

 ダクネスはアクアの説得を試みたが、あえなく失敗。

 すっかり天狗になったアクアは聞く耳を持たず、『祝勝会がどうこう』と浮かれていたという。

 まだ三日目の折り返しなのに。勝利宣言には、些か早すぎるだろう。

 

 今日も領主代行の手伝いで顔を出したが、あまりの忙しさにダクネスの憔悴は著しい。

 一気に老け込んだ感すらある。このまま厄介事が積み重なれば、さすがの彼女も発狂しかねない。

 

 アクシズ教徒への対処法を相談されたが、正直まったく興味がない。

 ダクネスの問いは領主代行としてではなく、一人のエリス教徒としての憂いから発したものだ。

 しかし私はあくまで領主代行の補佐。宗教絡みの揉め事は管轄外。

 どちらの宗派でもない私にとって、この騒動は対岸の火事に等しい。

 

 むしろ、好きにやらせておけばいい。

 アクシズ教徒が幅を利かせるのは多少癪だが、祭りを盛り上げる役に立つなら目を瞑る価値はある。

 アクア祭を支持する市民の大多数も、恐らく私と似たり寄ったりの意見だろう。

 エリス教団の劣勢にしても、端的に言えば、エリス教徒が不甲斐ないだけの自業自得だ。

 

 もっとも。エリス教団を追放した途端、有頂天になったアクシズ教徒が派手にやらかし、大コケする未来は目に見えている。

 何しろ、あのアクアが全力で調子に乗っているのだ。もはや確定事項と言っていい。

 欲をかいたが故に、自ら破滅街道をまっしぐら。このまま放っておけば、案外祭りの閉幕を待たずして勝手に自滅してくれるかもしれない。

 

 とはいえ、それでエリス祭の存続が保証されるわけでもない。

 その方面は私も門外漢だ。祭りを活気づける手立てなど、皆目見当がつかない。

 

 話は変わるが、爆裂娘がお縄になった。

 今日の花火大会に乱入し、街中にもかかわらず爆裂魔法をぶっ放そうとしたところを、現行犯で取り押さえられたらしい。

 花火大会は確かに炸裂、爆発系の魔法が夜空を彩る催しだが、爆裂魔法はさすがに度を越えている。

 

 ……絶対やると思った。

 だからこそダクネスに進言し、めぐみん対策のためだけに警備を増強させたのに。

 領主代行も懸念に深く同調し、口を酸っぱくして忠告したと聞く。

 にもかかわらず、この有様である。抑止力として、ちっとも機能していない。

 

 とはいえ、今夜遅くには釈放されるとのこと。

 未遂に終わったのが幸いし、祭りの間ずっと留置場暮らし、という最悪の事態は免れた。

 その意味では、辛うじて取り越し苦労で済んだといえる。

 

 


 

 

【エリス教徒たちの焦りを感じる】

 取り越し苦労だと思っていたのに。

 

 昨夜、釈放されたその足で、めぐみんは結局、爆裂魔法を解き放った。

 寝静まった夜更けに突如轟く爆音。彼女がやらかした、とすぐに悟った。

 

 当然、残りの祭り期間は警察署での身柄お預かりコースが確定である。

 ……これ、明日までにカズマへの誕生日プレゼントを用意するのは、もう無理では?

 

 そんな騒動の翌朝。

 掃き掃除のために外へ出ると、店先の地べたにゆんゆんが座り込んでいた。割とホラーじみた光景だ。

 

 一体何事かと尋ねれば、バニル待ちだという。

 昨日、バニルの屋台を手伝った際に『また明日も頼む』と言われたらしく、待ちきれずに早朝から張り込んでいたとのこと。

 『呼ばれるまでは蟻でも観察して過ごすつもり』と、ゆんゆんはケロッとした顔で宣(のたま)う。

 

 補足しておくと、この時点で魔道具店はまだ開店すらしていない。

 バニルの出店が始まるのは、店仕舞いを終えた夕刻からなのだが……。

 

 しかも、彼女は水着まで持参していた。

 売り子の正装が水着だという話を聞きつけ、自主的に調達してきたらしい。やる気満々である。

 ……先走って着用していないだけ、まだマシと評価すべきか?

 

 とりあえず私は、公序良俗に反する店として仮面屋が営業停止を食らう未来を未然に阻止した上で、ゆんゆんを店内へ招き入れた。

 ついでに、ウィズが余計なことをやらかさないよう、遊び相手を務めてもらうことにする。

 

 ところで。

 最終日となる明日、『ミス女神エリスコンテスト』なるイベントが電撃告知された。

 要するにミスコンである。

 

 名称から察せられる通り、主催はエリス教団。……あのお固い宗派らしくない。

 どこの成金男が裏で糸を引いているかは、探るまでもない。

 とはいえ、それに乗っかるエリス教徒も相当だ。

 エリス祭の存亡が懸かった瀬戸際とあって、もはや形振り構っていられないらしい。

 

 実は、そのコンテストの司会進行を私に頼みたいと、教団から打診があった。辞退したけど。

 候補者を他薦込みで募ったところ、『トークが得意で機転も利く人物』として、複数人が私の名を挙げたらしい。

 ……誰が推薦したのか、心当たりが多すぎて逆に特定できない。

 せめて炎天下で延々と喋り続ける体力仕事でなければ、引き受けてもよかったのだが。私を殺す気かと。

 

 ちなみに、ウィズも出場することが決まった。

 理由は、何とか賞金を獲得して家賃を払うため。ぜひ頑張ってもらいたい。

 

 ところが。

 怖気づいたのか、『店の仲間として私も参加すべき』と、ウィズが巻き添えを画策してきた。

 いや、こういうときこそ、日頃役に立っていないウィズの出番だろう。

 というかウィズで無理なら、私でも無理だ。

 何より、茹だる暑さと直射日光の照りつける中、徒労しか得るもののない奇っ怪なイベントになど、関わりたくない。

 

 ……が、今日は妙にしつこかった。

 終いには、遊んでほしそうにしていたゆんゆんまで巻き込んで、ゲームで決着をつけることに。

 

 お題は神経衰弱。

 激戦の末、見事私が勝利した。

 もっとも、素知らぬ顔で持ち出したトランプが、イカサマ仕様だったことが最大の勝因なのだが。

 

 ところがネタが割れ、敗者二人が揃って難癖をつけてきた。

 やむなくトランプを交換し、仕切り直すことに。

 なお替えのトランプは、さも当然のようにゆんゆんが携帯していた。

 

 そして二戦目も、別の細工を仕込んだ私が制する。

 勝ち負けへのこだわりは特段ない。だが、勝たねばならない場面で手段を選ぶつもりもない。

 知力の高いこの三人で神経衰弱をしたところで、ド忘れによる凡ミスなど起こり得ない。

 つまり実質、純粋な運勝負になってしまう。こんなもの、真面目にやっていられない。

 

 ――なお、あとで知ったが、ミスコンにはバニルもエントリー予定とのこと。

 

 ……ええ?




・ゆんゆんの文通相手
実は四択で想定していた。
シルフィーナ、イリス(アイリス)、ゼスタ、無し。
サイコロを振った結果『無し』が出たため、本話の展開に決定した。……さすがはゆんゆん。

・クーロンズヒュドラが棲んでいた湖でアクアが拾った石
『続・爆焔』一巻あとがきで判明する例のアレ(神器)。
もし先に実物を見ていれば、『クリスが不憫すぎて放っておけない』という同情心(口実)から、快くアクアの頼みを引き受けていた。

・カズマの誕生日
六月七日。原作では感謝祭の最終日。
現地の気候では、祭りの開催期間は一年の内で最も暑い時季に当たる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。