とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

25 / 44
3-3 感謝祭③

【小さな女の子の話になると物凄く早口になる】

 開店早々、サトウカズマが来店した。

 こんな朝早くから起床しているとは、この男にしては珍しい。

 と束の間目を丸くしたものの、よくよく思い返すとそうでもない。この頃は、祭りに向けて精力的に動き回っていると耳にする。

 そんな彼は私を見つけるや挨拶もおざなりに、王都に行きたいのでウィズを呼んで欲しいと催促してきた。

 だがウィズは、先頃のバニルとアクアの小競り合いで流れ弾を食らったダメージにて、本日はお休みしている。

 

 どうやら、ウィズのテレポートが目当てと見受ける。

 しかし、それ以前の問題として、彼女は登録先から王都を削除してしまっている。なので、どちらにせよ転送はできない。

 そう告げると、カズマは地団駄を踏んで悔しがった。

 悔しがりようが尋常でない。訝しんだ私がワケを問いただすと、王都在住の妹を感謝祭に誘いたいのだと打ち明けられた。

 転送屋は頼れない。シンフォニア家が、名指しでカズマの王都への移動を禁じる命令を出したっきり、今なお解除されてない。

 そこであれこれ考えを巡らせているうちにウィズのテレポートに思い当たり、こうして来訪したわけだ。

 

 なるほど、カズマの妹が王都に。

 そういう事情なら手助けするのも――と、ここまで思考した段で違和感に気がついて、一旦思い留まる。何かがおかしい。

 この男は国外出身のはず。それに、妹がいるとの話も初耳だ。

 そういえば。彼は、幼い少女なら誰彼構わず妹扱いする危険人物として、小さな娘を持つ親御さんの間では有名だった。

 また、改めて回顧すると。かつてこの男、まだ見ぬ第一王女が妹キャラかどうかでウキウキしていた覚えがある。

 

 点在する数々の要素が、脳裏で一本の線となって繋がる。

 よもや、カズマの言う『妹』とは、アイリス王女を指しているのでは。

 恐る恐る当人へ確認を取ると、残念ながら推理は大当たり。ロリコンは隠し立てする素振りもなく、自慢げに堂々と肯定した。

 

 これで彼のスイッチが入ってしまったらしい。

 聞いてもないのに妹――王女が如何に可愛らしいかについて、直に見聞きしたエピソードを交えて語り出した。

 どういうわけか、まじまじと観察しても嘘感知センサーが反応しない。この男、王女を本気で妹として認知している。

 赤の他人、それも王族を妹として認識できるとは。人として普通にヤバい。

 

 まったく、危ないところだった。

 知らなかったとはいえ、あわや変質者を王城へと差し向ける手引きに加担してしまうところだった。

 大体、王都から締め出されたのは、そういう部分が要因なのでは。確か、王女の護衛にシンフォニア家の長女がいた気がするし。

 そう再び確かめると、こちらもビンゴ。カズマは一転して顰め面になる。

 クレアなる女がどれほど融通が利かないか、仕える王女に対しても明らかに主君として以上の情を抱いている。との愚痴を漏らしたのだった。

 

 一頻り話してクールダウンすると。

 最後に彼は、近々祭りの会議で議論するという仮装パレードの企画について、熱の籠もった語り口で説く。

 それで言いたいことを言い切って、満足したらしい。スッキリした顔つきで去って行った。

 

 仮装パレードとは、エリス祭のコスプレごっこに乗っかった催しだという。

 本来なら女神エリスに扮するだけだが、祭りを一段と賑わすために、もっと色んなコスプレを推進するとか。

 例えばサキュバス、王女の格好で街中を彷徨っても平気なように。

 

 コスプレごっこ……。いや、間違ってはないのだけど、言い方。

 祭りの熱気に当てられたのか知らないが、あの男、テンションがいやに高い。

 とりあえず、藪から棒に王女の元を訪問しようと思い立ったのが、その仮装パレードが発端らしいのは理解した。

 これもカズマの発案だろうことは想像に難くない。とことん、祭りを私物化する心算らしい。

 

 ちなみに。この間のエリス祭の予行に当たる夏祭りで、件の王女御一行がお忍びでアクセルを訪ったのだけど。

 この様子だと、彼には今後も明かさないほうが良さそうだ。

 前にバニルが、一日ハチベエなる得体の知れないバイトで荒稼ぎしてきた。どうも、その雇用主がアイリス王女だったらしい。

 私も、調べてこの事実へと行き着いたときは、大層ビックリした。

 

 

【ぼっちの相談(第二回)】

 私が多忙で目を離していた隙に、ゆんゆんがいかがわしい男とつるみ始めている。

 それが噂として広まっている。

 なお。男とは、ダストとバニルのことだ。最近になって、ゆんゆんを入れた三人組でちょくちょく集まっているらしい。

 

 前々から交流のあるバニルはまだしも、ダストが困り物だ。悪名高いチンピラと親好が深いと周囲に思われては、彼女の風評もつられて悪化してしまう。

 現時点では、ダストに絡まれて迷惑する被害者と見做されているからまだいいが。

 そんなだから、私もあの男とはなるべく接点を作っていない。カズマのように、金儲けで目を見張る才能もないし。

 

 怪しい輩から順調に誑かされつつあるぼっちの様態が気がかりで、仕事の合間を縫ってギルドまで会いに出向いた。

 そのゆんゆんによると、ダストは友達でも何でもないそうな。

 バッサリだった。照れ隠しでなく、心底嫌がっている。さしもの彼女も、あの不良と仲睦まじいと誤解されるのは不服らしい。

 ちなみに、当のダストは、ここ何日かは警察署にて勾留中だ。

 度々あるので、周りの冒険者も気に留めていない。どころか、次回はいつギルドに顔を出すかで賭けの対象となっている始末だ。

 

 話を変えよう。

 談笑するにつれ、私がゆんゆんのコミュ力向上の相談に乗る運びとなった。

 まあ、前にもやったけども。

 前回は、ゆんゆんに文通を勧めた。だが、そのゆんゆんが冒険者パーティー募集の張り紙でやったミスと同様のことを繰り返したために、これは潰えた。

 彼女がアクセルを拠点にして一年弱。まるで成長が見られない。

 

 能動的に動くのが、既にゆんゆんには天空のハードルだったのだろう。

 これでダメなら、いっそお酒の力でも借りて大胆になれば、多少は引っ込み思案も改善しないものか。

 だが。やけに人の縁に恵まれないぼっちでは、そう都合良く進展するとも思えない。

 とんでもない下戸で即座に酔い潰れるとか、酒乱が発覚するとか。

 何にせよ、新たな地雷源を掘り当てる予感しかしない。

 

 どの道、子供のゆんゆんにお酒を与えるのはウィズが許可しない。保留で。

 私としては、上級魔法を乱射し始める酒乱を危惧している。ウィズかバニルの協力を仰がねば、手出しできない。

 

 人に慣れる練習として、ホストにでも通わせようかともほんの一瞬慮ったが。そのまま嵌って、抜け出せなくなる未来が想定される。即刻取り下げた。

 ただでさえゆんゆんは、紅魔族との身の上で他者から敬遠されている。

 そこに悪い男との付き合いがあり、酒を呷り、ホストにまで通うようになっては世間体はボロボロだ。齢十四にして、早くも取り返しがつかなくなってしまう。

 

 ただ、人に慣れる機会を増やすこと自体は妙案に思える。

 そこで、誰か適当な知人をゆんゆんに紹介する方向で検討を重ねた。

 が、それも一筋縄では行かない。紅魔族の悪評を抜きにしても、まずゆんゆん本人が重い。激重だ。常人では押し潰される。

 相手取れるのは、めぐみんあるいはウィズのようなタイプだろう。

 すなわち、ゆんゆんに動じず逆に強烈な我と個性で振り回してくる変人か、変わり者を許容できるほどに心が広い苦労人。

 私の交友関係では、後者でクリスが思い浮かんだ。

 

 したがって、ダクネスを言葉巧みに誘導することで、クリスの紹介を彼女自身に思いついてもらおうと思う。

 多分、領主代行業を完遂して、一段落してからとなるだろうが。

 私が直接紹介しないのは、それを境に、クリスとウィズ魔道具店がますます接近する可能性を憂慮しているから。

 店員の私と女神エリスの距離感は、慎重に見極めねばならない。

 

 さて。相談が終わるや、急にゆんゆんがそわそわし出した。

 やたらと祭りの話題を挙げてくる。もうすぐ始まるお祭りを一緒に回ろうと、私から声をかけてほしいようだ。

 自分から切り出せばいいものを。そういう煮え切らない態度だから、いつまで経っても友人ができないのだろうに。

 

 そんな彼女から寄せられる言外の期待を、私はあえてスルーした。

 その代わり、めぐみんの行動予測を伝える。

 祭りの当日は、ライバルを気にかけためぐみんがわざと目の前をウロウロする。そうやって、遊びに誘えずヤキモキするゆんゆんをおちょくって来るはずだ。

 そんなめぐみんとの心理戦にて、優位に立つための方策も授ける。まあ、こちらは使いこなせないだろうが。

 所詮ゆんゆんだ。一時は優勢を握っても、ライバルの揺さぶりで頭が真っ白になり、あっさり返り討ちに遭う様が容易に目に浮かぶ。

 

 

【女神エリス&アクア感謝祭スタート】

 遂に感謝祭が始まった。

 祭りは五日に渡って続く。今日はその初日となる。

 

 なお、ウィズ魔道具店は通常営業だ。

 バニルが仮面屋の露店を出すのは前にも言及したが、そちらは店が終わってからとか。

 個人的に出店するだけなので、アシスタントは不要らしい。

 あまりにも慌ただしくなるなら、明日以降に助力を乞うことはあるかもだそうだが。

 

 あと、水着も要らないそうな。夕方開店なのでさもありなん。

 真夏とはいえ、その時間帯で水着は厳しい。売り子の水着推奨も、熱中症対策で打ち水をするため、との方便らしいし。

 万が一のため、私自身はダクネスの助っ人でスケジュールを埋めてあったが、この分なら無用な用心だったか。

 なお。後で聞いたところ、仮面屋はサキュバスを主要な客層として活況を呈したらしい。

 あの連中、普段も店に足繁く通って、バニル人形や仮面を買い求めている。もしや、売り物をバニルのアイドルグッズか何かと勘違いしてないだろうか。

 

 ダクネスの政務サポートへと赴く前に、暫し屋台をぶらついた。

 エリス教のブースに関しては、例年通り無難すぎて特筆することは無い。強いて言えば、アクシズ教への対抗心からか、殊更気合が入っているくらいか。

 一方のアクシズ教ブース。こちらはまあ、ロクでもない。

 とりわけ衝撃的だったのは、クリスが店番をしていたことだろう。

 エリス教のご神体が、なにゆえアクシズ教の出店で従事しているのか。

 

 正直、自分を称える祭りの準備を自分で行うアクアも、ちょっとどうなのだろうと思わないでもない。

 しかしそれにしたって、エリスの所業はいくら何でも無法では。

 信者を放ったらかして、先輩女神とはいえ、競争相手の異教徒へ与力してるのだし。

 クリスとしての彼女は、正体を伏せている。とはいえ、表向きは熱心なエリス教徒を自称しているはずなのだが。

 

 しかも。任されている店が、よりにもよってくじ引きだ。

 幸運の女神を敵に回して、向こうの土俵である運試しで真っ向勝負を仕掛け、勝てば当たりを引ける。そんなシステムだ。

 無謀極まりない。カズマでも無茶だろう。

 私やめぐみんを相手に、アクアが知恵比べを挑むほうがまだ勝算が見込める。

 

 現に、エリス教徒の客が神頼みしつつ挑戦するも、見事ハズレを引かされていた。

 必死に祈られた本神は、死んだ魚のような目でそれを眺めていた。

 この盗賊娘、果たして運が良いのか悪いのか。

 

 クリスから話を聞くと、アクアからお願いされて断り損ねたという。

 さらに、そこに件のアクアが現れ、私まで人手として引っ張り込もうとした。

 用事があると突っぱねても、この前クーロンズヒュドラが棲んでいた湖で拾った変な形の石とやらを報酬に粘られる。

 たかが石ころが、なぜ報酬として成り立つと思うのか。

 アクシズ教に力添えする罰ゲームを強制された上、ゴミまで押し付けられては堪らない。

 

 以後は、ダクネスの手伝いをしてきた。

 案の定、ひっきりなしに苦情が上がってくる。職場は忙しない。

 祭りにトラブルは付き物だが、限度を弁えてほしい。あらかたの原因がアクシズ教徒だと、そうも言いたくなる。

 お化け屋敷のお化け役にセクハラする。イカ焼きをクラーケン焼きと偽って販売。金魚釣りの金魚が、ジャイアントトードの子供。

 エリス教徒の屋台に嫌がらせする。ヒュドラの元住処の湖に、ジャイアントトードのオタマジャクシを放流する。

 これら上記の例は、氷山の一角に過ぎない。アクシズ教徒の暴挙は枚挙に暇がない。

 

 ちなみに、金魚釣りは教団支部長の屋台だ。

 警官に怒られて、仕方なく遠くの湖へ捨てたものの。それがヒュドラの湖だったために、別件のクレームへと発展したらしい。

 あの湖周辺は、ヒュドラが魔力を吸い上げたために汚染され、荒廃していた。

 だが、それも昔の話。ギルドから依頼を受けたアクアの浄化によって緑化が急速に進み、肥沃な大地へと変貌しつつある。

 開拓もとうに本格化している。そんな土地に、モンスターを遺棄しないでほしい。

 

 ダクネスは、身を粉にして働いた反動から人生に疲れ切った中年男性のような溜め息を零していた。

 領主のお役目が、ここまで過酷とは思わなかったとか。

 恐らく今年が特別なだけで、去年までは穏やかだったはずだ。先代は責務を放棄していたので、比較できる過去の資料は存在しないけど。

 しかも、務めは果たさないのに、祭りの収益から税はキッチリ掠めていたという。

 

 

【恋する少女は面倒臭い】

 エリス教団とアクシズ教団を競わせて売り上げを伸ばし、その上前を撥ねて実行委員で仲良く分け合う。

 それが、サトウカズマの魂胆のようだ。

 元々巷でそんな風説はあった。裏取りするほどではないから、捨て置いていただけで。

 

 今日になって、それが真実だと確信した。

 アクシズ教ブースが、見違える超パワーアップを遂げていたのが論拠だ。

 昨日の体たらくを目の当たりにして、対立を煽るには力不足と判断したカズマが肩入れしたらしい。

 情報統制に全然気を遣ってないから、内心半信半疑だったのだけど。

 今思うと、冒険者をしているだけの十代の少年に、そこまで要求するのが酷なのかもしれない。同じ年だった頃の私じゃあるまいし。

 

 話を変えよう。

 めぐみんが店に怒鳴り込んで、私は外へと連れ出された。

 場所を移す手間を挟んだのは、苦手なバニルが店内にいたからとか。尋ねたら、逆ギレ風にそう返された。

 先日、私はゆんゆんに入れ知恵した。その文句だという。

 めぐみん曰く、あれのせいで昨日は微妙に手こずらされたそうな。その程度の些事に労力を費やして足を運んだ辺り、微妙どころか実際はかなり苦戦したのではなかろうか。

 

 なお、ゆんゆんのことはからかったのみで、終ぞ祭りは一緒に回ってないとか。

 もう少し気を配って、優しくしてあげたらいいのに。特に近頃のゆんゆんは、胡乱な者との関わりまであるようだし。

 そう注意を促すも、私もその胡乱な者の一人だろうと辛辣に言い返された。

 まったくもって仰る通り。この言には、私も頷く他ない。

 いやまあ、私自身はゆんゆんのチョロさに付け込んだりはしていない。

 精々、友というワードを餌にバニルが労働力としてタダでこき使っているのを、知らんぷりするくらいで。

 

 せっかくなので、この機に気になっていた点を質問した。

 まあ、結論から言うと藪蛇だったが。

 取り上げたのは、カズマの誕生日プレゼントについて。彼の誕生日は感謝祭の最終日、もうほとんど猶予がない。

 

 そこに着目したのは、彼の誕生日が迫るにつれて、何時ぞやのダクネスの誕生日会が自然と頭を過ったから。

 あの日、ダクネスは仲間を会場からシャットアウトした。誕生日をそもそも教えていないのは自明だった。

 この点を掘り下げると、一抹の疑念が湧く。

 さてはあの一行、お互いの誕生日を把握していないのでは?

 めぐみんにとって、カズマは意中の相手。ならば、当然誕生日の贈り物は用意している。と決め込んでしまう。

 だが、誕生日を知らないとすれば。そんな中で私だけがプレゼントを用意すると、恋する少女の目には、私が抜け駆けしたかのように映りかねない。映った。

 

 予想は的中。めぐみんは、誕生日が間近なのを知らなかった。

 そのため、どうして私がそれを知っているのかと、紅い瞳を爛々とさせた爆裂娘より根掘り葉掘り詰問される羽目になった。

 何のことはない。私は人付き合いに心を砕いており、その一環として親交のある相手の誕生日は押さえるよう努めている。

 しかし。思えば、めぐみんからは聞き出したことが無い。

 彼女の場合、その必要が無かった。通りすがりのめぐみんから露骨な誕生日アピールをされ、私が買って帰ろうとしたケーキを遠回しに献上させられるイベントが先に起きたので。

 

 かねて私がミツルギを接客した折、彼の仲間の槍使いと盗賊の小娘共から、下らない警戒の眼差しを向けられたことがある。

 このときのめぐみんは、あの日の二人を彷彿とさせる。こちらのほうが遥かに凶暴で手が付けられないけど。

 蛇足として、先述の小娘二人については、むしろあちらが可哀想なことになった。

 盛りのついた小娘如きは軽くあしらえる私、人の嫌がる真似が大好きな畜生悪魔、ド天然店主の三名に散々引っ掻き回されたのが悪い。

 

 別段、私はカズマのことは狙ってない。

 そう明言したものの、めぐみんは完全には納得してくれなかった。

 女の勘だかで、私が何かを企んでいる気がするという。

 ひょっとして、ウィズとカズマをくっつけて店を再建できないかと案じているのに、薄々勘付かれてる?

 

 

【これはパターン入ってますね】

 アクシズ教のブースがすこぶる好調だ。

 そのせいで、アクシズ教徒共があからさまに増長している。

 昨日も兆候はあった。エリス教団より儲けている分、出店の区画を寄越せとゴネたのだ。

 今日に至っては、エリス教団を追放して来年からは女神アクア感謝祭の単独開催にしろ、と叫んでいる。

 

 盛況具合はエリス教のそれを圧倒している。評判も上々なので、無体な主張だと一蹴するのも難しい。

 彼ら特有の奇行でさえ、お祭り気分も相まって好意的に受け止められているくらいだ。

 まあ概ね、アイデア出しと指導をしたカズマの功績ではあるけど。

 現在アクシズ教団が、単独開催を目指して署名活動中とか。相変わらずのアグレッシブさだが、今の情勢なら本当にもしかするかもしれない。それだけの勢いがある。

 近年のエリス祭は盛り上がりに欠けると、徐々に打ち切りムードが漂い始めていたのも拍車をかけている。

 

 ダクネスはどうにかアクアを説得しようと試みたが、敢えなく失敗した。

 分かりやすく天狗になっており、聞く耳を持たなかったとか。祝勝会がどうこうとの話までしていたそうな。

 祭りは三日目、まだ折り返し地点だ。勝利宣言には早すぎると思うけど。

 

 今日も領主代行の応援へと行ってきたが、忙しすぎてダクネスの憔悴が酷い。一気に老け込んだ感すらある。

 なおも厄介事が積み重なるようなら、彼女でもそろそろ発狂しそうだ。

 アクシズ教徒について、何か手立てはないかと意見を求められた。けれど、率直に言って興味がない。

 領主代行としてならともかく。ダクネスの問いは、一人のエリス教徒として現状を憂いて発せられたものだった。

 私の業務は、あくまで領主代行の補佐。よって範囲外だ。

 どちらの宗派の信徒でもない私からすると、この騒動は対岸の火事に近い。

 

 というか、好きにやらせておけばいいのではないか。

 アクシズ教徒が幅を利かせるのは少々癪だが、それでも上手く祭りを盛り上げられるのなら、目を瞑っても良い。

 アクア祭を支持する市民の大多数も、程度の差はあれ私と似たり寄ったりの見解なのだろう。

 エリス教団の劣勢とて、単純にエリス教徒が不甲斐ないだけの自業自得と言える。

 

 もっとも。エリス教団を追い出した途端、有頂天になったアクシズ教徒が派手にやらかして大コケするのが目に見えている。

 あのアクアがとっくに調子に乗っているのだから、もう確定だ。いつものお約束展開を驀進している。

 欲をかいたがために、かえって破滅の道を自ら歩んでしまうに違いない。

 案外、放置しても祭りの閉幕までには勝手に自滅するのでは。

 まあ、だからといってエリス祭が存続できるとも限らないが、そちらは私も門外漢。祭りを活気づける方法など、皆目見当がつかない。

 

 そういえば、話は変わるが。爆裂娘がお縄になった。

 今日の花火大会に乱入し、街中という立地を歯牙にもかけず爆裂魔法を放とうとした。その現場を現行犯で取り押さえられた。

 花火大会とは、炸裂や爆発系の魔法が夜空を咲き乱れるものではある。だが、爆裂魔法はさすがにやり過ぎだ。

 

 絶対やると思った。だからダクネスへと進言して、めぐみんへの対応のためだけに警備を増強させたのに。

 懸念に共感したダクネスも、口を酸っぱくしてめぐみんに忠告したと聞く。

 にもかかわらず、ちっとも抑止力として機能していない。

 

 とはいえ、今夜遅くには解放されるとか。

 最悪祭りの間は留置場から出られないことも有り得たが、未遂だったのが幸いした。

 そういう意味では、辛くも取り越し苦労で済んだようだ。

 

 

【エリス教徒たちの焦りを感じる】

 取り越し苦労だと思ったのに。

 昨夜、釈放された直後のことだ。結局めぐみんは爆裂魔法を撃った。

 寝静まった夜更けに突如爆音が轟いたので、当時の私は即察した。

 そのような蛮行を犯したのだ。残りの祭り期間は、身柄を警察署で預かってもらうことが決定してしまった。

 もうこれ、明日までにめぐみんがカズマの誕生日プレゼントを用意するのは無理では。

 

 そんな事件のあった翌朝。

 掃き掃除をするために外出すると、店前の地べたに座り込むゆんゆんが視界に飛び込んだ。割とホラー染みている。

 

 何事かと思えば、バニルを待っていたとか。

 彼女は昨日、バニルの営む屋台を助けてきたという。その際、また明日も頼むと言われた。それで待ち切れず、こうして早めに訪ねて待機していたのだ。

 お呼びがかかるまでは地面の蟻でも観察して時間を潰すつもりだと、ケロッとした顔でゆんゆんは宣った。

 ちなみに、このときは早朝。魔道具店は開いてすらいない。バニルの出店は、店仕舞いした夕刻からなのだが……。

 

 他にも、ゆんゆんは水着を持ち歩いていた。

 水着が売り子の正装という話を、どこかで聞きつけたらしい。誰に言われたわけでもなく、自主的に調達してきた。やる気十分だ。

 先走って着用していないだけ、まだマシと思うべきなのか?

 私は、仮面屋が公序良俗に反するお店として営業停止処分を受ける災厄の芽を摘むと、ゆんゆんを店へと招く。ウィズが余計なことをしないように、遊び相手を務めてもらった。

 

 ところで、最終日となる明日に、ミス女神エリスコンテストが開催されると電撃告知された。要はミスコンだ。

 お題目から読み取れるように、主催はエリス教団。お固いエリス教らしくない。

 どこの成金男が裏で糸を引いているかは、探りを入れるまでもないが。

 敢行するエリス教徒も大概だ。エリス祭の存亡がかかった瀬戸際なのもあり、相当なりふり構わなくなっている。

 

 実は、そのコンテストの司会進行を私にやってもらえないかと、教団から打診があった。辞退したけど。

 他薦込みで候補者を募ったところ、トークが得意で機転も利く人物として、複数人が私の名を挙げたという。

 一体誰が推薦したのだろう。心当たりが多すぎて、特定できそうにない。

 炎天の下、長時間喋り続けることを強要する体力仕事でさえなければ、引き受けても良かったのだが。私を殺す気かと。

 

 また、コンテストにはウィズも出場することが決まった。

 何とか賞金を獲得して、家賃を払うためというのが理由だ。頑張ってもらいたい。

 だが。怖気付いてか、店の同朋として私も参加すべきだとウィズが言い立てて、巻き添えにしようとしてきた。

 いや、こういうときこそ、日頃は役に立っていないウィズの出番だろう。というかウィズで無理なら、私でも無理だと思う。

 茹だる暑さと直射日光が照りつける中、徒労しか得るものの無い奇っ怪なイベントには関わりたくない。

 

 だが、此度はしつこい。終いには、遊んでほしそうなゆんゆんもついでに巻き込んで、ゲームで去就を決することと相成った。

 内容は神経衰弱。激闘を演じた末に、私が勝ち抜いた。

 私が素知らぬ顔で提供したトランプが、イカサマトランプだったのが勝因だ。

 

 ところがネタが割れ、あろうことか敗者二人が難癖をつけてきた。

 そのため、トランプを交換した上で仕切り直す次第となる。なお、替えのトランプはゆんゆんがごく当たり前のように携帯していたので、それを使用した。

 そしてこの二戦目も、今度は別のイカサマに手を染めた私が制する。

 私としては、勝ち負けへのこだわりはない。だが、どうしても勝たねばならないとあらば、そのために手段を選ぶ気はない。

 知力の高いこの三人で神経衰弱をしても、ド忘れによる凡ミスは無い。つまり、記憶力ではなく実質ただの運勝負となってしまう。真面目にやってられない。

 

 なお、あとで知ったが、ミスコンにはバニルもエントリー予定とのこと。

 ええ……?




・ゆんゆんの文通相手
実は四択想定していた。シルフィーナ、イリス(アイリス)、ゼスタ、無し。
サイコロを転がすと『無し』が出たので、本話の展開に決した。さすがゆんゆん……。

・クーロンズヒュドラの棲家だった湖でアクアが拾った石
『続・爆焔』一巻あとがきで判明する例のアレ(神器)
もし先に実物を見ていれば、クリスが不憫すぎて放っておけないとの同情心(口実)で、快くアクアの頼みを引き受けていた。

・カズマの誕生日
六月七日。原作では感謝祭の最終日。
現地の気候だと、祭りの開催期間は一年の内で最も暑い時季に相当する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。