とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

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3-6 めぐみん盗賊団

【エルロードの四方山話】

 以下のような話をバニルと語らった。

 お隣の商業大国にして、金満王国たるエルロード。かの国では、国営カジノが財源として重きをなしている。

 このカジノを当店で押さえんと画策するなら、果たしてどういった手法が楽か。

 煎じ詰めると、国ごと乗っ取るか、または民営化させて国の影響下から切り離すのか。いずれにせよ、先方が全身全霊をもって抵抗してくるのは必至だ。

 

 断っておくと、ただの雑談だ。

 旅行雑誌に触発され、和気藹々と旅行計画を立てて何となく満足するような。そういうノリだ。私たちの間ではよくある。

 そも、ウィズには拠点を移す意志がない。すると、バニルも残らざるを得ない。

 このアホな構想を決行するなら、エルロードへ赴任する者は必然的に私一人となる。

 その上、私の情報網はベルゼルグ国内に限られる。国外はノータッチだし、今後も手を伸ばす予定は無い。

 算段を立てようにも、まずあちらの内情をよく知らない。これでは問題外だ。

 

 で、その談笑では、手っ取り早いのは国ごと乗っ取るほう。ただし、国の運営までやらざるを得ないのが煩わしい、との見解で落着した。

 目当てはカジノだけなので、これは大層効率が悪い。

 国家をそこらにポイ捨てもできない。やってもいいけど、治安が激烈に悪化してカジノの収益にまで響いてしまう。

 ならば、カジノだけ押さえるのが正解かというと、そうとも言い難い。こちらも別ベクトルに面倒なだけだ。

 

 バニルが助力してくれるなら、どちらも成し遂げるのは容易い。

 だが。悪魔が表立って動くのはリスキーでもある。『悪魔が人間の国を支配しつつある』と判じられては、外聞が悪いどころではない。それはもはや、ただの神敵だ。

 人類全体の危機として、あちらが錦の御旗を掲げてしまう。

 反対に、エルロードの首脳部が悪魔か魔王軍に牛耳られていれば、こちらに大義名分が転がり込むのだけど。

 まあ、そんな絶好のシチュエーション、そうそう無いか。

 

 そう私が語ると、何か面白みを感じる点でもあったのだろうか。バニルが、やけに含みのある笑みを浮かべた。

 そして、エルロード王国中枢について、現時点で魔王軍の手先に乗っ取られている可能性はあるかと、意見を問うてくる。

 そういう態度を取られると、まるで現実で起きているように受け取れるのだけど……。いや、ブラフの線も否めないが。

 怪訝には思えど、暫し黙考。そして、その危惧は杞憂に近いと結論した。

 

 私もかの国への見識は浅い。ただ、今は国王が国を空けており、国政は宰相ラグクラフトが主導していると聞く。

 エルロードを手中に収めるなら、宰相への対処は必須となる。

 そしてこの男、内政手腕が抜きん出ている。

 長きに渡る散財が祟り、エルロードの財政は破綻寸前だった。それを一代で立て直した救世主がラグクラフトだ。

 彼の奮闘がなければ、ベルゼルグへの支援金はとっくに途切れている。延いては魔王軍との戦況もより劣勢に、どころか既に降伏へ追いやられていたやもしれない。

 人類が今もこうして魔王軍と鎬を削っていられるのは、裏方で支えるラグクラフトのおかげと評しても過言ではない。

 彼は有能さを示し過ぎている。また、エルロードの屋台骨でもある。

 味方に引き込むよりかは、暗殺するメリットのほうが際立つ。内通者が欲しいにしても、もう少し扱いやすい駒を擁立すべきだ。

 

 前提を変えてみる。

 宰相が端から同朋、例えばドッペルゲンガー辺りが扮しているなら話は変わる。

 国の舵取りをする先導者が魔王軍なら、エルロードは魔王軍に取り込まれていると言えよう。

 

 だが、これも奇妙な話だ。

 この仮説に則ると、ラグクラフトはだいぶ以前からスパイとして入り込んでいたのでは、との疑義が生じる。

 いきなり宰相という大物と入れ替わっても、演じきれまい。

 外見はさておき、役柄まで卒なくこなすのは至難だ。短時間ならともかく、長期となると本物との差異からボロを出し、偽者との疑念を持たれるのは避けられない。

 これを回避するには、脚光を浴びるよりも前、内政官に応募する時期くらいから潜入しているとベストなのだが……。

 

 ただ。その場合ラグクラフトは、放っておけば潰れていたはずの敵国を、わざわざ再建したことになる。

 なおかつ、敵の兵站を万全にして前線が全力を振るえる盤面を整え、戦略レベルで今なお魔王軍の足を引っ張り続けている。

 ぐうの音も出ない戦犯だ。

 ハンス討伐に貢献し、デュークを爆殺したウィズも大概だが、これはそれ以上だろう。

 地歩を固める土台作りにしても、明確にやり過ぎだ。

 

 やはり、無理筋では。これが真実なら、彼を抜擢した魔王の耄碌を疑う。

 万一合っていれば、長年に渡り魔王軍の侵攻を食い止めた守護者として、ラグクラフトの功績を盛大に称えなくては。

 無論、魔王軍への皮肉を込めて。

 

 

【思ったよりヤバい組織だった】

 ダクネスからの呼び出しを受け、ダスティネス邸へと赴いた。その帰路にて。

 怒りの形相で彷徨くウィズを発見した。向こうは、私に気づいてない。

 しかも。漏れ聞こえた話によると、私の行方を追っているとか。思案するに、またぞろ何か私の所業が露見したパターンか。

 

 奇しくも雑踏に紛れていたのが奏功した。ウィズに見つかることなく、その場を離脱する。

 私の運が良いというか、あちらの不運に助けられたようだ。

 店への帰還を取り止めて、ほとぼりが冷めるまで避難しようと私は決断した。

 

 ちなみに。身に覚えが有りすぎて、怒られそうになっている事由には目星をつけられなかったのだけど。

 しばらくの後に帰宅して確かめると。優秀な魔法使いは老いが遅いとの理論を持ち出して、ウィズの年齢不詳疑惑を商店街の面々へ浸透させたのが原因と判明した。

 言われてみれば、そんなこともやりましたね。

 

 時計を少し巻き戻そう。

 街中を徘徊する凶暴なボスモンスターの魔手から逃れるため、アクセル中心部付近の一等地、そこのお屋敷へ私は逃げ込んだ。

 訪ねたのは初ながら、興味深い情報がある。それもあって、新規のセーフハウスに使えないかとの下見も兼ねていた。

 あとからやって来た、屋敷の持ち主のめぐみんやゆんゆん。殊にめぐみんは、どうして私が居るのかと物凄く訝しがったけど。

 誰も話してない隠れ家の存在をなぜか掴んでおり、譲渡した覚えのない合鍵を用いて当たり前のように立ち入って、少しの間寛いでいただけだろう。

 何か、首を傾げるような事柄でもありましたかね?

 

 それと、王都のチリメンドンヤの孫娘イリスと初めて対面した。ぶっちゃけてしまうと、アイリス王女だ。

 新聞等で目にした顔写真そのまんまだし、名乗りもかつて仮面バイトをハチベエとして雇ったときと同じ。すぐにピンときた。

 

 彼女は勘が鋭いのだろう。それとも、人を見る目があると言うべきか。出会った直後は、私への緊張が滲んでいた。

 私とめぐみんのやり取りを眺めている合間に、いつの間にか解けてたけど。

 めぐみんを挟めば害は無いと、本能的に気取ったのか。

 彼女のように、直感的に相手の本質を見抜ける人物から、無意識な警戒を向けられるケースはごく稀にある。野良猫にも、それを所以に毎度距離を取られるし。

 

 なお。先述したセーフハウスの案は無しだ。撤回する。

 というのも、今日からセシリーが屋敷に住み着くと決してしまった。

 彼女については、手記でも過去に何度か言及している。アクシズ教団アクセル支部長だ。

 典型的なアクシズ教徒で、傍迷惑にも好奇心で私の荷物を無断で漁ろうとした。そんな女が潜む館には近寄りたくない。

 

 それともう一点。

 ここは、めぐみん盗賊団アジトとなっている。そんなところを出入りしてたら、私まで道連れにされる。

 

 めぐみんが、盗賊団結成のため冒険者ギルドでメンバー募集をしようと試み、追い出されたのは承知していた。

 ゆんゆんとイリスの三人で、一足飛びに街一番の豪邸を入手したのもチェックしている。

 とはいえ。盗賊団なるアウトローっぽいポジションは、紅魔族の琴線に触れ得る。屋敷も、秘密基地を欲しがるのは紅魔族の習性に適うから疑問はない。

 総評として、これは一時の発作だ。

 きっと、めぐみんは冒険に出られず暇なのだろう。そう胸中を推し量り、私は気に留めていなかった。甘かった。

 よもや、本気で盗賊団を発足させる心算でいたとは。

 銀髪盗賊団の理念に感銘を受けたとかで、ファンクラブの発展として活動をこっそり援護する気でいる。しかも、ゆんゆんとイリスもこれに乗り気だ。意外すぎる。

 

 団のお頭ことめぐみんが、参謀として私を勧誘してきた。

 アルダープの一件で数多の貴族を手玉に取った才幹と、めぐみん盗賊団の本拠を暴いた情報収集力を買っての推挙とか。

 ちょっと、いやかなり勘弁願いたい。

 私は法的にアウトっぽい行いに着手するにも、二重三重に安全策を拵える。法に真っ向から中指を突き立てる、めぐみん盗賊団と一緒にしないでほしい。

 それに、銀髪盗賊団はエリスの率いる一党だ。ディープな接点は持ちたくない。

 

 また、めぐみん盗賊団は悪徳貴族の邸宅への襲撃が主な活動だという。

 だが、今の私は悪徳貴族への手出しを禁じられている。ダスティネス家と、そういう契約を交わしているのだ。

 事情を洗いざらい打ち明けて、あちらの許可が下りれば手を貸しても構わないが――と、イリスをチラッと見遣りつつ伝える。

 これには、めぐみんも折れた。イリスを王女と看破しており、そこまでぶちまける気だと汲み取ったのだ。

 あと、イリス本人も察したっぽい。

 

 盗賊団に加入したいです。王女が構成員です。貴族を標的にしています。

 こう切り出してイグニスを説き伏せる術があるなら、是非教授してほしい。

 なお。私が軽く述べたダスティネス家との謎の契約については、アルダープの事件を契機にダクネスと何か話し合ったものと、めぐみんは推測したようだ。

 ノーヒントならば、そう思い込んでしまうだろう。真相はもっと前で、協議したのもダクネスの父親とだけど。

 実のところ、結婚騒動では商売という名目で契約違反をギリギリ躱した。後日、イグニスからメチャクチャ苦言を呈された。

 また。ダクネスも、契約の話は父親経由で把握済みだ。……そうと私が知らされたのは、この場面から数えて二時間前だが。

 

 めぐみんは、まだ私の引き入れを諦めてない。そう簡単に足抜けできると思わないように、との捨て台詞をもらった。

 足抜けって、言葉は正しく使ってほしい。

 盗賊団に入団した事実があるかのような言い方をして、さり気なく言質を取ろうとしないでもらいたい。

 迂闊にもヤバいところと関わってしまった。バラす気もないし、どうにかそれで見逃してもらえないものか。

 

 

【信仰の在り方】

 どうやら、私にプリーストとしての伸び代はない模様。

 退屈しているアクアを適当にヨイショし、神聖魔法の指導を受けた。その最中、彼女がふと感心の声を漏らしたのだ。

 見たところ、プリーストとしての成長はもうほぼ頭打ちっぽいのに。よくそれだけへこたれないものだ、と。

 それ、初耳なのですけど? 付け加えると、この集いは今日が初回なわけでもない。

 気がついていたなら、もっと早くに指摘してほしかった。

 

 アクア曰く、理由は二点ある。

 ひとつは、私の素質がプリーストに就ける最低ラインしか無いこと。

 もうひとつは、信心を欠片も持ち合わせていない点。

 とりわけ後者が致命的で、そんな不信心者がよくプリーストに成れたものだと呆れられた。いい加減な宗教観をしたカズマより酷いとか。

 逆説的に言うと、私がキチンと信仰を捧げるのなら、まだスキルアップできる余地があるということでもある。

 まあ、無理だろうが。信仰自体が、まず私の価値観とそぐわないし。

 

 世の常識からすると異端も異端なのだけど、私は誰かに祈ったことがない。その行為に意義を感じない。

 人は、世知辛い世の中を生きる上での心の拠り所とするため、誰かに祈る。

 悪魔、邪神、自然や精霊など。神の信徒に限らず、崇拝の対象や形態は千差万別だ。

 特定の神に入信しない者はいても、真の無宗派など普通はいない。大半の人は、それを想像したことすらないだろう。

 翻って私は、誰かに縋る余裕があるのなら、その労力をもっと建設的な事象に割けといった思考法をする。

 この感性は、大抵の人には呑み込めない。それくらい世間ずれしているし、信仰が社会に根ざしている証左でもある。

 成長に繋がるならいくらでも祈るが、それは対価を求めての打算であって、信仰とは根本から異にしている。

 

 案外、親や親族に秀でたアクシズ教プリーストがいて、私がプリーストになれたのはその才を一部引き継いだからでは。

 アクアは、そのように締め括った。

 人のプロフィールに、変な設定を生やそうとしないで欲しい。今でも属性過多なのに。

 あと、取ってつけたようなアクシズ教要素は、どこから湧いて出た。

 

 

【その昔隣国で名を馳せていた、若くて金髪でイケメンで真面目で誠実で紳士で忍耐強い元貴族で凄腕槍使いなドラゴンナイトの冒険者】

 タイトルの特徴に合致する人物を、めぐみん盗賊団が捜していた。勧誘するとか。

 いや。恋愛小説に登場する、女性の願望を詰め込んだキャラか何かで? 実在しないだろう。そんな珍生物。

 もっとも。私が言えた義理ではない。

 私なんて、辺境の街で毎日砂糖水を啜って店を営む友好的な極貧リッチーを上司に持つ、記憶喪失持ちの未来人なのだし。

 

 めぐみん、ゆんゆん、イリスの三人娘は、冒険者ギルドを訪問。そこでばったり私と出会した。

 此度は『アクセルで冒険者をしている』との風聞がある、とある有名なドラゴンナイトを捜し当てたいとか。

 そこで私にも、心当たりの有無について尋ねてきた。

 私はギルドで時々バイトするし、それを差し引いても、異常な情報通だ。先日の一事で、そこは彼女らも身に染みて実感している。

 

 現に、その噂は私も耳にしている。

 出処と思しき、ブライドル王国にて最年少でドラゴンナイトに就いた天才槍使いの評判も、僅かながら聞き及んでいる。

 思い当たる節は、一人あるにはある。

 そう前置きした私は、瞳を期待の色で輝かせるめぐみんへと――ダストの名を告げた。

 瞳が、瞬く間にドブ色の失望に濁った。だからといって、バニルが化けてるのではと難癖をつけるのは言い過ぎではなかろうか。

 

 ご存知の通りダストは金、酒、女、賭博をこよなく愛する不良冒険者だ。

 人品は真逆、尋ね人との類似点は金髪くらい。しかも、その金髪とてくすんでいて、貴族っぽくはない。

 今のダストだけなら、そんな評価になる。

 だが。私は冒険者成り立てだった頃の彼を知っている。当時も粗野ではあれど、むしろそうなり切ろうとする生真面目さが見て取れた。

 所作も洗練されており、育ちの良さが全然隠せてなかった。

 彼のパーティーメンバーも、ツッコまないだけで勘付いてはいるだろう。

 

 この段で、ダストを貴族関係者と私は断定。一度身元を探っている。ダクネスが冒険者登録したときと同様の事例だ。

 その結果。彼がブライドル王国から入国しているのと、所持品に同国由来の品がある点までは突き止めた。

 外国の調査となると負担が大きい。不要と判断して、そこで打ち切っている。

 得物にしても、彼の武器は剣だが、本来は相当な槍の名手だと睨んでいる人もいる。優れた戦士は、そういった目利きができるとか。私にはちっとも分からないが。

 

 それと、長らくダストの動向を追っている輩がいる。

 うち片方はゲイのストーカーなのだけど、もう一方は彼の故郷発のようだ。

 悪意は感じないし、国の外まで手を延ばせるとか、明らかに尋常な手合いではない。藪蛇なので捨て置いている。

 情報源を明かせないから、上記の大部分はめぐみんには伏せたけども。

 

 なお。当のダストは、人目も憚らずに土下座して、年下のゆんゆんから酒代を奢ってもらう恥もプライドもかなぐり捨てた暴挙に出ていた。

 あれが気高いドラゴンナイトの姿かと、めぐみんは白けた目を向けた。

 尾鰭がついてそうな風評なんて、鵜呑みにすべきでないと思うけど。

 どこぞの変態クルセイダーとて、やたら攻撃を受けたがる姿勢を誤解し、騎士の鑑だと褒めそやす層が一昔前は結構いた。

 同じ街に住んでもこれなのだ。他国のドラゴンナイトなんて、実態は知れたものではない。

 

 そういえば、クリスがめぐみん盗賊団へと勧誘されていた。

 彼女は、銀髪の義賊その人だ。

 クリスが擁する銀髪盗賊団を、陰ながらサポートするための下部組織に、クリス当人が下っ端で入団させられそうになるとは。

 突如降り掛かった珍事に、クリスは困惑と疑心が入り混じった味のある面持ちになっていた。笑える。

 

 

【限界リッチー、ゲテモノに手を出す】

 いよいよ空腹に耐えかねたウィズが、何とザリガニを調理し食していた。

 昨日も台所に籠もって何かやっているとは思ったが、どうもザリガニを水に浸けて一晩泥を吐かせていたらしい。

 てっきり、ご近所から食材を恵んでもらい、それで何か作っているものとばかり。

 ザリガニは、街の子供が川辺で捕り過ぎたのを分けてもらったとか。

 

 念のため書いておくが、ベルゼルグ王国にザリガニを食べる風習は無い。

 預けた子供も、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかっただろう。

 レシピは、前にめぐみんから教わったとか。

 彼女も実家は貧しいが、ウィズの食生活はその比ではない。砂糖水を主食とする、カブトムシと同等の粗食は、めぐみんからしても常軌を逸している。

 そんな気の毒な境遇への憐憫から、自らの経験をウィズへと授けたようだ。

 

 そのウィズだが、これはロブスターだと頑張って自分に言い聞かせていた。最寄りの川に、そんな上等な海の幸は生息していない。

 ただ。料理そのものは、割りかし美味しかった様子。私にお裾分けしてくれようとした分は、謹んで謝絶したけど。

 ザリガニへの嫌悪感は特段無い。されど、得体が知れないのは確かだし、私としては寄生虫や病原菌への懸念が拭えなかった。

 ウィズはまあ、アンデッドだし。そこは平気なのだろう。多分。

 

 それにしても、ここまでウィズが追い詰められていたとは。

 はて。そういえば、最後にウィズに固形物を与えたのはいつだったか。

 回想するもすぐには思い出せず、ウィズやバニルも交えて確認した。すると、半月少々前だと定かになる。

 その頃というと、警備の押し売りをする八咫烏がまだ元気だったシーズンか。

 というか、その八咫烏が憐れみから差し入れてくれたご飯が最後だ。

 リッチーは餓死しない。それに、栄養補給用の砂糖水ならこまめに摂取させていた。だから大丈夫だろうと、知らず知らずのうちに注意を怠ってしまったようだ。

 

 なるほど、蔑ろが過ぎたと認めざるを得ない。

 このうっかりに、さしもの私とバニルも猛省した。次はもっと上手くやろう、と。

 

 

【超新星の盗賊団】

 めぐみん盗賊団の頭目に、朝っぱらからアジトへ拉致された。

 

 その道中、めぐみんより謝罪を受けた。

 先頃のドラゴンナイト捜索にて、後から振り返ると、私の言説は大変参考になるものだった。にもかかわらず、あのときは有り得ないと一蹴してしまった、と。

 何ゆえ変節したのかは置いておくとして、一応本心ではあるらしい。

 だが。同時におべっかなのも、私の眼には筒抜けだ。

 この爆裂娘、私を煽てて何を企んでるのか。この先に、ロクでもない案件が待ち受けている。そんな確信を密かに抱いた。

 

 そうして目の当たりにしたのは、めぐみん盗賊団入りを希望する名簿の山だった。

 アクシズ教徒、紅魔族、王都の熟練騎士に、一流の冒険者。

 これから、魔王軍への切り札となる精鋭部隊でも編成するので? 思わずそうツッコミたくなる規模と面子だ。

 騎士団か傭兵団でも、新設できるほどの人数が押し寄せている。成立すれば、アクセル最大の武装グループの爆誕だ。義賊活動が目的なのに、目立ちすぎにも程がある。

 なお、リスト内に肝心の盗賊職は一人もいなかった。

 団の中核メンバーが紅魔族、王族、アクシズ教徒なので、どういった経緯で集ったのか、大まかな予想はつく。

 ちなみに。あと一名、下っ端の幸運の女神が既存メンバーにいる。

 

 めぐみんの用件とは、腹心待遇で迎え入れるから、いざというときは彼女の名代として紙束の人員を統率してほしい。というものだった。

 バニル配下の悪魔を指揮した実績から、私ならワンチャンやれるのでは、と思われてしまったようだ。

 は? 嫌ですけど。

 前世でどれだけの悪行を積めば、こんな強烈な個性の群れを統御する苦行を科されるのか。特にアクシズ教徒。

 いや、タイムスリップ前に国の一つや二つ滅ぼした罪科があったとしても、私は驚かないが。

 

 前回拒否する口実にした、ダスティネス家との契約はどうしたと質問すると。交渉を得手とする私が直に説得すれば万事解決すると、無法すぎる答えが返ってきた。

 方策が何も思いつかなかったらしい。

 どういう論法だ。そもそも、私でも達成不能なのですけど。

 

 大体、めぐみんの望む体制でまかり間違って検挙されると、私がピンチになる。

 主要な団員が少女ばかりだから、子供を唆して旗頭に担ぎ上げ傀儡とし、私が実質的なリーダーを務めていたように映る。傍目には、私こそが黒幕枠だ。

 実際、似たような形で、悪徳貴族の一門を不当に間接支配した前科はあるし。

 

 終いには、雑な泣き落としでこちらを口説き落とそうとし出しためぐみんを制止し、一旦翻意させるまでには漕ぎ着けた。

 盗賊団の現状は、彼女にとっても想定外だったようだ。思惑を飛び越えて団体が巨大化しそうな情勢への、激しい動揺が見取れた。

 このお頭は、メンタル面が割と脆い。進退窮まると、かえって覚悟が決まる某ライバルとは対照的なものがある。

 逆にゆんゆんは、平時が打たれ弱すぎるけど。

 

 焦りでややテンパり、半ば勢いで悩みの種を押し付けようとした――というのが、めぐみん側の事の次第のようだった。

 クリスが参加したし、彼女に任せておけば暴走はすまいと踏んでいたのだけど。どうだろう。私も自信がなくなってきた。

 入団希望は、結局全員保留にするという。

 万が一に備えて、めぐみんらがやらかした際のフォローは用意しておこう。

 

 なお。これは余談だが、アジトの鍵が新しいものに取り替えられていた。

 私がいとも呆気なく不法侵入したため、その対策らしい。私個人は、もうここに足を運ぶつもりはないのだけど。

 

 

【躍進するレジーナ教団】

 こちらも、めぐみんにアジトまで連れ込まれた折の出来事だ。

 趣旨が異なるため、話を区切っている。

 

 めぐみん盗賊団が、どこをターゲットとするかの話を拝聴した。

 といっても。セシリーが勝手に力説しているだけで、誰も相手にしなかったが。

 何せ、彼女のイチオシはダスティネス家だ。

 大貴族だから、相応に財貨を溜め込んでいるに相違ない。しかも、一族揃って代々邪悪なエリス教の宗徒。

 ならば、口に出すのも躊躇われる悪事を、裏でたくさんやっているのは歴然。というのがセシリーの言い分らしい。

 

 さすがは、ロリっ子と戯れるためだけに、こんな怪しげな一団に加わったアクシズ教のプリースト様。言うことが違う。

 とはいえ。私にとって重要なのは、そこではない。

 話の過程で、奇遇にも彼女の言を通し、アルカンレティアの様相を知ることができたのだ。

 

 近頃のあの街では、レジーナなる耳慣れない零細女神を崇める住民が、爆発的に増加しているという。

 それも、エリス教団と連携している。

 教団は、保有しているものの今はもう使用していない古い施設を、彼らへ貸与した。それをレジーナ教徒は仮の教会とし、レジーナ教団を立ち上げる。

 本教団に所属する者は、今までどこの宗派にも属していなかった、アルカンレティアの一般人が多い。

 それに次いで、アクシズ教から鞍替えした元アクシズ教徒の顔触れが並ぶ。

 

 誰も知らないぽっと出の女神風情が、アクシズ教の総本山で、こうまで急速に勢力を拡大できるのは絶対におかしい。

 これは、紛うことなき悪辣なエリス教徒による謀計だ。

 聞けば、両教団の蜜月はダスティネス家が仲立ちしたのが始まりだという。

 すなわちこれは、正義の徒たるアクシズ教団の牙城に楔を打ち込まんとする、奸佞邪知なるエリス教団の尖兵、ダスティネス家が仕掛けてきた謀略に疑いない。

 というのが、セシリーの話だった。

 これでも論理的に綴ったほうで、実物はもっと結論ありきで、被害者感丸出しだったけど。

 

 アクシズ教徒お決まりの陰謀論だ。耳を傾けるに値しない。

 が、その当てずっぽうが、今回は当たらずとも遠からずで反応に困る。

 というのも。レジーナ教の勃興は、当主イグニスからの承諾を得て、ダスティネス家の権力をフル活用した私の仕業なのだ。

 

 ただ。レジーナ教団の飛躍は、アクシズ教側にも責任がある。

 アルカンレティアは、アクシズ教の街だ。住人のほとんどをアクシズ教徒が占めている。

 とはいえ、アクシズ教徒以外の人がいないわけではない。

 アクシズ教のユートピアを体現するこの街は、その反面、圧倒的多数派を形成する彼らに少数派が日夜振り回され、加速度的にストレスを増大させる地獄でもある。

 そんな環境なのだ。レジーナ教の『復讐』の教えに救いを見出す人が現れたとして、誰が責められよう。

 言い方は悪いが、アクシズ教という共通の敵が彼らを結束させたのだ。

 レジーナ教に改宗した元アクシズ教徒というのも、連中の悪質な勧誘に折り悪く引っかかっただけで、アクシズ教の教義には染まっていなかった人々だし。

 

 レジーナは、復讐に傀儡を司る不気味な神格だが、これは心理的ハードルになってない。

 というか、アクシズ教徒よりも理知的で話が通じるなら、アルカンレティア市民は歓迎する。本当に、アクシズ教徒様々過ぎる。

 かの街では、暴虐の象徴たるアクシズ教徒よりもまともならそれでいいのだ。

 エリス教団が後援なのも、安心材料の一助となっている。

 

 私はダスティネス家と組んで、レジーナ教の宣伝は目一杯した。

 ルーシーも巻き込んで、最初期の布教にも多少協力した。

 さらには、エリス教団との橋渡しも行っている。だが、それだけだ。

 今日までの成果は、あくまでレジーナ教徒たちの努力の賜物と言える。

 この著しい進歩には正直、流れを促した私も吃驚している。ヘイト役のアクシズ教徒によるアシストがなければ、この急成長は無かった。どれだけ迷惑をかけているのか。

 

 だが。今のレジーナ教団は、宗教組織とは名ばかり。アクシズ教徒への不満でまとまっているだけの寄合所帯に過ぎない。

 設立間も無いのだから、仕方ない側面もある。

 他方で、彼らはこれまでアクシズ教徒に歯向かわなかった程度の小市民だ。物騒な教義とは裏腹に、危険性は低い。

 反発はすれど、本格的にアクシズ教団と激突する恐れは小さい。

 もし実現したら地力の差から一瞬で叩き潰されるだろうけど、そうなる前にエリス教徒が押し止める。

 

 ちなみに。現地の教会に派遣されていたエリス教プリーストも、一名ほどレジーナ教に宗旨替えしたそうだ。

 アクシズ教徒は、エリス教徒に対して教会の窓ガラスは割るし、下着は盗む。逆恨みで喧嘩を吹っかけることすら日常茶飯事だ。

 やっぱり、フラストレーションが溜まっていたのだろうか。

 

 レジーナ教団は前途多難。目まぐるしい伸張に反して、実体が追いついていない。

 それでも信者は増えた。四桁とは言わないまでも、三桁の大台はとうに超えた。

 レジーナの加護は、信者数に応じて等分割――つまりは弱体化する。

 さて。魔王軍幹部にして、レジーナ教信徒であるセレスディナ。加護の力を除けば一介の人間に過ぎない彼女は、今現在どれだけのことができるだろう?

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