とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

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第四章
4-1 養殖


【天にも昇る美味しさ(ダブルミーニング)】

 ウィズ魔道具店に帰還した。

 私がしばらく留守にした件に関しては、さして追及されることはなかった。

 帰りが遅れる旨はダスティネス家経由であらかじめ伝えてあったし、ついでにバニルもウィズのフォローへと回ってくれたらしい。それらが奏功したと思われる。

 

 アルカンレティアで行ったことについては、後ほどウィズには説明してある。

 セレスディナより、魔王軍から亡命したいとの打診があった。そのため、ダスティネス家の依頼を受ける形にて私も関与し、聴取等でつい昨日まで滞在していたのだと。

 嘘はひとつも言っていない。要点のいくつかを故意的に省いたから、真実とはだいぶかけ離れたストーリーに聞こえるだけで。

 

 ときに話は変わるが、本日ふぐを食した。

 帰りしな、せっかくだから持って帰りなさいとイグニスにお土産として持たされたのだ。

 それも『ふぐ界の王様』とまで称される絶品、極楽ふぐを。

 

 私もウィズも、ふぐの取り扱いは未経験だ。毒の除去など望むべくもない。

 とはいえ。身内には反則的な異能の持ち主がいる。どんな猛毒だろうと、仮面悪魔に一任すればパパッと取り除いてくれよう。

 そう高を括っていたので、この点は特段憂いてなかった。

 いざ蓋を開けると、ものの見事にしくじってくれたけど。

 

 必ずしも、見立てが見当外れだったわけではない。バニルの釈明によると、見通す力で処理方法自体は理解していたという。

 理解できても、それを実践する技量が当のバニルに備わっているかは、また別問題だったというだけで。

 よくよく考えれば、相手はふぐ毒をものともしない地獄の公爵。効きもしないのに、わざわざ人間の都合に沿った無毒化を試みた経験などあろうはずがない。

 そして、毒が通じないのはリッチーも同様。すなわち、この不手際で煽りを食ったのは、人間の私だけとなる。

 というより。失敗すると予期しておきながら、私をイラッとさせるためにあえて調理担当を引き受けていたようだ。

 

 次善の策として、プリーストの解毒魔法ならふぐ毒も打ち消せる。

 というより。どちらかといえば、そっちがふぐ料理の一般的な食べ方だ。

 キュアーポイズンなら私も会得している。なので食事は、この魔法をこまめにかけ直すことで乗り切った。

 それはもう、一口毎に魔法を唱えて、時折ヒールも差し込むくらい念入りに。

 私の生命力ステータスは、他者から重病を心配される程度には悲惨だ。うっかりエリスの身許へと召されたくなくば、それくらい慎重で釣り合いが取れるというものだろう。

 最近レベルが初期化されるも、生命力の値が然程低下していないのは幸いだった。

 いや、本気で喜んでいいかは微妙だけども。レベル一の時点で早くもカンストが間近で、端から成長の余地がほとんど残っていないことの裏返しなのだから。

 

 それはさておき。

 普通のプリーストがこんな乱暴な魔法の使い方をすれば、あっと言う間に魔力枯渇を起こす。

 私に限れば平均的な紅魔族並み、つまり人類でも上位クラスの豊富な魔力量だから、大した負担にならなかったけど。

 なお。頻繁に漂う神聖魔法の魔力気配に悪魔のバニルは鬱陶しそうにし、アンデッドのウィズもご馳走に集中し切れず、チラチラと視線を寄越してきた。

 言うなれば、蚊の羽音がずっと聞こえてくるような不快感があったそうな。

 

 とはいえ、なるほど。味は確かに天下一品。

 世の美食家に『これを食べて死ねるなら構わない』と絶賛させたとの有名な評もあるけど。これならそれも納得だと、舌鼓を打つウィズも満足気だった。

 美食家のその評には、毒魚を平らげた後のことを暗示する、ブラックジョーク的な紛らわしさがある。

 しかし。動く死体たるウィズがその逸話を持ち出すのは、また別種の趣がある。そんな取り留めのない所感を私は抱いた。

 

 

【養殖開始】

 アクセルに戻ったばかりで慌ただしいが。またもやお出掛けだ。

 セレスディナを無力化するときのアレコレの影響で、私のレベルまで下がってしまった。それを元に戻すのが此度の目的となる。

 なお。約定に則って、掛かる費用は全額ダスティネス家持ちだ。

 

 そうして赴いたのは紅魔の里だった。

 元来ダスティネス家は、里との独自のコネクションを築いている。例えばダクネスが愛用する鎧も、ここで製造された品だとか。

 今回のレベル上げに際しても、かねてからの下地により、族長からの協力をスムーズに取り付けられたと聞き及んでいる。

 それに付け加え、紅魔族特有の効率的なレベル上げ手法『養殖』が里では確立されている。この地が選ばれた背景には、それもある。

 

 他にも理由を挙げるなら。

 屈強なモンスターの棲む森が、里からアクセスし易い位置にあるとか。

 高性能な各種アイテムが生産されており、入り用となる消耗品の補充で有利だとか。

 私自身それなりに里の人々と交流がある点も、決定を後押ししているだろう。

 

 実は当初の予定だと、こうまですぐレベル上げに着手するはずではなかった。

 けれど、取り調べをしたセレスディナから得られた情報により、事情が変わった。

 魔王軍は現在、大規模な軍勢を揃えての紅魔の里への侵攻を企てている。それも率いる大将は、魔王の娘とのこと。

 彼女は幹部として強大な戦闘力を有すだけでなく、指揮官としても秀でる。そして何よりも、配下を強化する特殊能力がある。

 ただ。肝心の攻め入るきっかけについては何とも言い難い。

 里の観光名所として評判な、魔王城を覗ける遠見の魔道具を設置してある展望台が標的とか。

 別段、戦争での情報戦の優位がどうとか、そういう真面目な話ではない。

 魔王の娘の部屋を常に監視し、普段は暇を持て余している里のニートたちの心の癒しに、観光客からはお金を取って見せ物にしていると、本人にバレたのが発端らしい。

 

 それはさておくとして。

 とにかくそんな大勢力が、あとひと月もしないうちに里へ押し寄せる。

 ただし、作戦が筒抜けとなったリスクは魔王軍側とて認識していよう。だから恐らく、もうその通りにはならない。

 万一攻め込んでくるにしても、スケジュールは後ろ倒しとなるのではと、イグニスら王国の首脳陣は睨んでいる。

 いずれにせよ。紅魔の里へ向かう時期を遅らせると、その分だけ魔王軍との戦いに巻き込まれる危険が高まる。

 しかし。今ならまだ、その懸念は無視できる。よって今のうちにさっさとレベル上げを片付けてしまおう、となったのだ。

 

 ウィズのテレポートで里に到着するや、すぐさま養殖へと取り掛かった。

 ところで、先程から述べている養殖とは、実力者が瀕死に追い詰めたモンスターを他の人物がトドメだけ刺して、格上の相手からお手軽に経験値を獲得するやり方だ。

 基本は、まだ魔法が使えない里の子供にスキルポイントを稼がせる用途で用いられる。

 モンスターといえども、無抵抗な相手を一方的に殺める行為は酷く心を痛める。だから余所では定着しなかったと思われる。私は全然気にしないけど。

 

 対魔王軍遊撃部隊にエスコートされ、紅魔の森へと私は分け行った。

 なお。名前こそご立派だが、実態は自警団でも何でもない、暇なニートが哨戒と号して里をウロウロするだけの集まりだ。

 ニートとて、上級魔法はしっかり習得済み。なおかつ暇潰しと小遣い稼ぎ、紅魔族では珍しくもない修行の趣味を兼ねて、散歩感覚でモンスターを駆逐する。

 それもあって、やたらとレベルが高い。だから戦力的には差し支えはない。

 

 先行したニート連中が片っ端からモンスターを弱らせる。その後ろを、余ったニート集団に守られた私が追行して倒す。

 本来の手順では、人手不足もあって強いモンスターは先に間引いてしまうとか。

 だが。この度は私一人に複数の護衛を割いており、安全マージンは万全だった。

 したがって、高レベルモンスターも平然と回された。一撃熊やらファイアードレイクやら、力量にまるで見合わない大物が、私の冒険者カード討伐履歴に多数刻まれることになる。

 中には一撃ウサギのような、アクセル近隣に生息する雑魚もいたが、これすら私では逆立ちしても勝てない相手だ。

 なお。私の体力では森を歩き回れないという難点は、疲労回復ポーションのがぶ飲みによって強引に対処した。

 これに限らず、立ち塞がる障害はすべてカネの力でなぎ払っている。

 まったく、ダスティネス家様々だ。

 

 それと、森を移動する最中に安楽少女と行き合った。

 他のモンスターと異なり元気なのは、安楽少女は移動力と戦闘力が皆無故に、無害判定を下した紅魔族に捨て置かれたのだろう。

 事実、付き添う紅魔族も一瞥して呑気に談笑のネタにするほどで、警戒する素振りは些かも見受けられない。

 無論私にとっても、レベル上げの途中に現れた経験値の一匹に過ぎない。スッと近寄って、サクッと退治した。

 ざっと観察した感じ、愛らしい純真無垢な少女を装っているだけの邪悪な生物だった。冒険者ギルドにもそんな報告は上がっていたが、あれは正しかったらしい。

 まあ、通りすがりの経験値の本性など眼中になかった私には、どちらにせよ知ったことではなかったけど。

 

 で、そこで急にニート共が足を止めた。信じられないものを見る目で静まり返る。

 異様な様相に、やらかしたのを察する。

 この頃にはルーチンにも順応して、テンポ良く息の根を止めることばかりに傾注していた。もう少し、逡巡する仕草でもみせておけば良かったかと内省する。

 が、彼らの話を聞くにつれ、どうもそれ以前の問題だったらしいと思い知る。

 ニートを代表してのぶっころりー曰く。

 

「いやさ、今回俺たち、安楽少女は養殖のターゲットに入れてなかったんだよね。いたいけな女の子を攻撃するのはキツイだろうって。

 ここを通ったのも、次の移動地点への最短経路が、たまたま安楽少女のすぐ側を通るルートだったってだけなんだ。いやまさか、こちらが制止する間もなく、流れ作業みたいなノリで仕留めてくるとは思わなくって……」

 

 なお、この後『安楽少女スレイヤー』なる不名誉極まる異名をどこかの馬鹿が閃いて里に広まりそうになり、慌てて止めた。

 危うく後日呼び名を耳にしためぐみん、ゆんゆんより、問い詰められるフラグが立つところだった。

 

 

【晩ご飯は仲良く鴨鍋を食べた】

 安楽少女退治に私が欠片も躊躇しないのが露呈したので、今日からはこちらも討伐対象として組み込まれることになった。

 そうした割り切りは合理的で好感が持てる。自分たちの代わりにと、この機に駆除を押し付けられただけな気もするが……。

 しかも倒したら倒したで、あからさまに引いた態度を社会のゴミ共は隠そうともしないし。

 

 また。養殖にも慣れて、ニートたちも余裕が出来たと思われる。

 彼らは光の屈折魔法で姿を消してわざと私を置き去りにすると、モンスターに襲われて窮地に陥った段階で颯爽と乱入し救出するという、珍妙な遊びを始めた。

 なお、私への事前告知は特になかった。

 まあ、これも円満な関係を維持する上での必要コストかと、多少面倒ながら私も露骨に怖がる演出をして、場を盛り上げてみた。現に、これで正解だったらしい。

 助けに入るタイミングはどうだったかなどの感想をあとから求められたので、正直に答えておいた。

 モンスターの前に放置した側とされた側が、直後何事もなかったように反省会を始める様は、異常の一言に尽きる。だが生憎、そこにツッコむ常識人はいない。

 一応指摘すると、私以外の人に同じことを仕掛けたら、間違いなくぶん殴られる。

 

 あと、養殖していたエリア内でドラゴンゾンビが出没したという。

 日が差す日中なのに、随分と活きの良いアンデッドがいたものだ。もっとも詳細を聞くに、木々が密集して薄暗くなっている箇所で休んでいただけのようだが。

 こればかりは私でも安全に倒せるよう弱らせるのが難しいから倒してしまったと、ニートに謝られた。

 見方によっては、紅魔族垂涎の称号ドラゴンスレイヤーを手にするチャンスだったと言えなくもない。断りも入れずに、勝手にそれを不意にしたことへの配慮だ。

 ……いや、いらない。私は心底興味ない。

 それより、その気配りをもっと別の場面で活用できなかったのか。具体的には、私をモンスターの前に置き去りにしたときとか。

 ちなみに。紅魔族的には、ドラゴンゾンビはあくまでただのアンデッドらしい。本当にいらぬ気遣いでしかなかったようだ。

 

 その日の養殖を完遂したあとの夕方。

 里の中にある泉の付近を横切る際に、一人の幼女が視界に映った。

 爆裂娘の妹こと、こめっこだ。

 彼女は泉の辺りをじっと見据えるのに掛かりきりで、微動だにしない。

 はて? あそこに何があるのだろう。彼女に倣って私も何とはなしに目線を向けると、ちょうどそこで小さな水しぶきが立った。

 泳いでいたのだろう。愛くるしいカモが水辺から上がってきた。ネギを抱える外見から、正体はカモネギと推察できる。

 カモネギは倒すと大量の経験値が得られ、肉は高級食材として名高く、ネギは薬として有用という一粒で三度美味しいレアモンスター。それでいて戦闘力はゼロだ。

 カモネギを指して、カモがネギを背負って来るとのことわざもある。

 

 こめっこの狙いはカモネギだろう。

 ヨダレが口から溢れ出すのも意に介さず凝視する有り様は、食欲にまみれていた。食料としか見做していない。

 エルロードだと、カモネギの養殖所が観光スポットとなっているくらいには、マスコット的人気のある生き物なのに……。

 その上よく見ると、カモネギは二羽いた。夫婦か何かだろう。

 どうやら一羽を捕まえても、その隙にもう片方には逃げられてしまうと危惧し、まとめて捕らえる好機を探っているらしい。

 彼女の実家の極貧振りについては伝え聞いているが、凄まじい食への執着だ。脱帽する。

 

 私はひっそりとこめっこに近付くと、背後から肩をつついて、自らの存在をアピールした。

 振り向いた彼女へと、人差し指を唇の前に当てて静かにするよう合図し、次いで簡単な身振り手振りでの意思疎通を図る。

 こめっこはこの間、毛ほども動じなかった。大人顔負けの肝の太さだ。

 さらにこちらの意図を解すと、ジェスチャーでの意思表示を即興で返してきた。この六歳児、いくら知能の高い紅魔族にしても頭が良すぎやしないだろうか。

 

 そうして暫し無言の両者によるハンドサインの応酬が続き、区切りがつくとどちらからともなく頷く。

 私とこめっこは、二手に分かれた。

 カモネギに気取られないよう注意しつつ、手筈通り両側から挟み撃つように接近する。言葉を介さない即席のコンビネーションは、完璧に機能していた。

 そうして私たちはそれぞれ、カモネギの元へと忍び寄ると……。

 

 結果だけ言うと。

 この後、養殖が終わった後にもかかわらず、なぜか私はレベルがひとつ上昇した。

 

 

【ようやく通常業務に戻れる】

 気がつけば夏もすっかり遠ざかり、秋の半ばへと差し掛かっている。

 アクセルに引き返すと、今年分の秋キャベツの収穫が終了していた。私が紅魔の里で過ごしている合間に来襲があったとか。

 

 さて、レベル上げは無事に完了した。

 目標レベルはそう高くなかったものの、体質もあってどうにもレベルが上がり辛かった。

 予想できた事態とはいえ、おかげであれだけの手間をかけても数日がかりとなってしまった。

 

 レベルの上がり易さとは、個人の生れつきの資質に左右される。

 アークウィザードに就けるほど魔法使いとして高いポテンシャルを持つ私は、その分だけ多量の経験値を要求されていたわけだ。

 仮にこれがカズマなら、初日の段で呆気なくノルマを達成できただろう。

 あの男、街近辺のカエルをほんの数匹討ち取るだけで、レベルがグングン上がるらしいし。どれだけ才能に恵まれてないのやら。

 

 カズマといえば。未だあの一行はアクセルに戻っていない。

 私が前回帰宅したときには、あちらもとうに帰国済みで、王都に逗留中だと小耳に挟んでいるのに。

 いつまで居座っているのだろう。彼らの代役としてペットのちょむすけ、ゼル帝を世話する当店からすると、いい加減顔を出してほしい。

 

 

【野菜嫌い】

 ここのところ食べ物ネタばかり書いている気がするが、またしてもそうした案件だ。

 

 お昼をどこかで摂ろうとぶらつく道すがら、相も変わらずぼっちしているゆんゆんとばったり会った。

 彼女を誘って、私が時たま利用する行き付けの飲食店へと、連れ立って入る。

 そこからオーダーした品が届く、までは平穏だったのだが。

 このとき、注文した料理とは別枠で、頼んだ覚えのない生野菜のサラダがセットで付いてくる珍事があった。いつもはそんなもの、付属していないのに。

 これは一体全体、どういうことなのか。

 

 店員に尋ねると、こういう次第だった。

 新鮮なキャベツがかなり安く仕入れられるからと、ついつい買い込み過ぎてしまった。なので少しでも消費しようと、今だけサービスとして付けているという。

 営業努力、大いに結構。だが、少々有り難迷惑だった。私は生野菜が苦手なのだ。

 私はサラダの器を、そっとゆんゆんの手前へとスライドさせた。呆れ顔を浮かべた少女より、直ちに返送される。

 いい歳して好き嫌いしないでほしい、とゆんゆんに叱られた。出来の悪い子の我儘を諭す声音だった。

 昔、類似したやり取りをウィズともした。当時の私は、今のゆんゆんと同じ年頃だった。『ちゃんと食べないと大きくなれない』とか、そんなセリフを言われたのだ。

 けれど、選り好みして野菜を避けているわけではない私は、これに強く反論した。

 

 生ではない、仕留めてある野菜なら私とて気にしない。

 だが、生野菜はダメだ。サラダとかいう活け造りなんて以ての外。食われてなるものかと、飛んだり跳ねたり、奇襲したりしてくる。

 一際不得手なのはアスパラガスだ。一発の火力が高くて痛い。

 私と野菜の間に横たわる力の差は、そんなに大きくない。ちょっとした事故を端緒に、野菜スティックを相手に激闘と呼べる攻防が生じたこともある。

 なお。私が誰かの監督なしに生の野菜で料理を作ることは、ウィズより禁じられている。戦績が芳しくない――若干野菜に負け越しているとの現実は、それと無関係ではあるまい。

 また余談ながら、多分私はこめっこにも勝てない。この前の一件で確信した。

 もしも喧嘩になれば、支援魔法込みでも手も足も出ず、ボコボコにされると思う。

 

 そういった諸々を語ると、ゆんゆんが黙ってサラダを回収して、引き換えに野菜炒めを分けてくれた。丁寧に熱を通してあるから、反撃の恐れはない。

 明らかに同情されている。相手は、店のことをお金を払えば店の人が会話してくれるコミュ障に優しいツールだと解釈して、有難がっているような寂しんぼ娘なのに。

 まあ、それはそれとして、貰った品は普通に食べた。取れ立てキャベツの野菜炒め、美味しい。

 

 

【この展開、前にも見た】

 うちで預かるペットたちを引き取りに、めぐみんとアクアが訪ねてきた。およそ一ヶ月振りの再会だ。

 めぐみんはともかく、アクアは受け取って早々手のひらをひよこに激しく突き回されていた。

 アクアは、寂しい思いをさせた反動に由来するちょっぴり過激な愛情表現だと宣い、謎の度量の広さを見せつけて許容していたけども。

 単に、知らない人に触られてビックリしただけじゃないですかね。鳥頭だし。

 

 ところで。一党の中でカズマだけ、アイリス王女からの懇願もあってまだ王都の城に居残っているとか。めぐみんの話によると、明日には帰ってくるそうだが……。

 この状況、既視感がある。

 詳しく言うと、会食でカズマが王女に拉致されて王城にお持ち帰りされた過去の一事。

 過程はともあれ、王女の願いで城に一人留まっているとのシチュエーションは似ている。

 ちなみに、参考までに。

 以前の彼は快適なお城生活を全力でエンジョイして、贅沢三昧な日々を送っていた。仲間が迎えに訪れようが帰るのを真っ向から拒み、あの手この手で抗ったという。

 

 そういえば、少し話は変わるが。

 ペットの引き渡しに立ち会ったウィズが、何やらソワソワとしていた。

 初めはいつも通りだった。それがふと、ハッと何かを思い出した顔つきになると、落ち着かない様子へ変じておかしくなった。

 原因は判然としない。程なくして二人が店を立ち去ると、店長の挙動不審も収まっている。

 

 私はてっきり、共同墓地の件で含むところがあるのかと思っていた。

 アクアが街を不在にしていた折に、ピンチヒッターとしてウィズが久々に除霊へ出向いた。そこで野良ゴーストと山ほど遭遇したのだ。

 任せていたアクアがそれなりの期間役目をサボったか、忘れていたのは明白だった。

 

 ただ。あとになって振り返ってみると。

 それにしては、ウィズはあまりアクアを注視していなかったような。

 

 

【レベル四十オーバーのエース誕生】

 ゆんゆんのレベルが、四十の大台を超えていることが発覚した。

 四十。レベル四十ときたか。

 店に遊びに来たゆんゆんが、ウィズとの歓談中にサラッと明かしたのだ。

 当人は、それに何か思うところがある風ではない。そしてそのことが、余計にウィズの言葉を詰まらせた。

 二人を尻目に商品棚の整理に勤しんでいた私へと、ウィズが目配せしてくる。これに対し私は、首を力なく横に振ることで返答とする。

 

 もはやこれ、ゆんゆんが誰かと固定パーティーを組むのは、本格的に無理では。

 レベルの話を知って、私たちが共通して思ったのがそれだった。

 

 アクセルは駆け出しの街。在籍する冒険者はレベル二十未満が中心だ。このラインを超えると、他地域へホームを移すのが慣例となっている。

 レベル四十台の上級職ともなると、王都の第一線で活躍するエリートに相当する。

 しかも、ゆんゆんは紅魔族の中でも優秀。実質的にはレベル五十台アークウィザードに匹敵、ないし上回りかねない。

 そんな腕利きに、パーティーに入ってくれとビギナーが勧誘できるかというと、無茶だろう。畏れ多すぎる。

 レベル一桁の新人なんて、彼女のレベルを知るや脱兎の勢いで逃げ出す。

 そもそもゆんゆん、街の冒険者らから慕われてはいても、人付き合いが嫌いな孤高の紅魔族だと噂されているから、気を遣って誰も声をかけないのだけど。

 常日頃独りでいるせいで、周りから変な誤解をされている。

 

 ちなみにレベルだけなら、今のゆんゆんとも張り合える冒険者はそこそこいる。

 主に、サキュバスの店があるため、ベテランになってもアクセルを卒業しようとしない輩が。

 ただし。彼らには長年苦楽を共にする仲間が既におり、チームとして完成してしまっている。今さら割って入るのは至難だろう。

 彼女の引っ込み思案を鑑みれば、やはり今後のソロは確定か。

 アクセルから活動拠点を移転するならその限りではないものの、ゆんゆんにその意志は無さそうだし。

 

 ウィズは神妙な面持ちになると、提案を持ちかけた。

 ゆんゆんを鍛えてみたくなったから、今度から稽古を受けてみないかと。

 とりあえず地力を高めて、ソロ専門の冒険者としてやっていけるようにしようという、ウィズなりの心遣いだった。

 つまるところ。将来ゆんゆんがパーティーを結成できる可能性に、とうとうウィズが見切りをつけたのだ。

 

 かつて『氷の魔女』と謳われた腕前をよく知る才媛からの申し出に、ゆんゆんは飛びついた。

 彼女の顔には、どうして今そんな話をとの疑問の色こそ僅かにあれど、それを覆い尽くすほどの魔法使いとして一層上達できるとの、希望と向上心に満ち満ちていた。

 ウィズの秘めていた真心を知れば、きっとショックのあまり、彼女は膝から崩れ落ちていたことだろう。




・ドラゴンゾンビ
Web版の紅魔の里周辺では出現する。
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