とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

37 / 44
4-4 族長試練①

【コロリン病の終息】

 孤児院で繰り広げられた光景は、看病というより完全に託児所のソレ。

 一見して長閑な様子ながら、これでも波乱の連続ではあったのだ。

 

 大悪魔と女神の小競り合いにまたも巻き込まれたウィズは、浄化魔法の流れ弾を浴びて戦線離脱。

 遊び盛りの少年少女らに振り回されためぐみんも、疲弊の末にとうとうダウンした。

 バニルはおんぶ紐で幼児を寝かしつけながら、片手のオモチャで別の子供もあやすという大奮闘を見せていた。

 

 そして、何より特筆すべきはアクア。この女がいなければ、子供の大半は今頃息を引き取っていただろう。

 キャリアを除く患者の病を根絶し、命の恩人として親御さんたちから様々な差し入れを受けていた。現に、それだけの働きはしている。

 

 私はといえば、比較的大人しい子を相手に絵本の読み聞かせやおままごとに付き合った程度。疲労はそこまでない。

 活動範囲の都合上、この数日はシルフィーナと接する機会が多かった。

 それもあって、本人と、彼女と親交のあるめぐみんから、その境遇を聞き出すことができた。

 

 シルフィーナは、生まれつき身体が弱い。

 魔王軍の戦火を避けて幾度か疎開したものの、その移動すら彼女には負担だった。

 それで親戚の誘いを受け、平和なアクセルへ越してきたとか。

 移り住むや早々、此度の騒動が発生してしまったわけだが。

 

 ……魔王軍がアクセルへ侵攻するやもしれないと発覚したタイミングで越してくるとは。何とも間が悪い。

 とはいえ、他の街のほうが安全かと問われれば、それも微妙なところという。

 

 シルフィーナは、ダクネスをそのまま小柄にして儚げな雰囲気をまとわせたような、病弱系少女である。

 つまり、身体の弱い私とはキャラがまあまあ被っている。似たもの同士と言い切っても過言ではない。

 まあ、私はたまに体調を崩す程度で、病気がちというわけではないが。

 

 そんな話題で和やかに連帯感を育んでいると、ウィズが胡乱げな視線を向けてきた。めぐみんに至っては、鼻で笑う始末。

 私とシルフィーナを同一カテゴリーに振り分けることに、異議があるらしい。

 難癖をつけてきためぐみん曰く、私たち二人には『普通のウサギと一撃ウサギくらいの差がある』とのこと。

 

 一撃ウサギ。読みは、ラブリーラビット。

 愛嬌を振り撒いて無害さをアピールし、油断した獲物を額のツノで串刺しにするえげつない習性を持つ。

 なお、肉食。

 

 どうして冒険者ギルドが注意喚起するような、凶悪なモンスターを引き合いに出したのか。

 私は殊更に悲しげな表情と声音を作り、心無い無法者の暴言をシルフィーナへ訴えた。

 一撃ウサギの恐るべき生態を解説すると、心優しい箱入り娘は『それはあんまりだ』と同情してくれる。

 私の言い分にも『そうだそうだ』と、全面的に肩を持ってくれた。

 

 まあ、本心では毛ほども気にしていなかったのだけれど。

 見透かしためぐみんからは、『まさにそういうところだ』と鋭いツッコミが飛んできた。

 無視した。

 

 ともあれ。

 隣町へ出向いていたカズマとダクネスが特効薬の素材を持ち帰り、コロリン病の治療は恙無く完了した。

 調合の段になってウィズ、バニル、めぐみんが再び口論を始め、そこへアクアまで余計な善意を発揮して場を掻き乱したものだから、一時はどうなることかと思ったが。

 

 


 

 

【今日から従業員が増えます】

 アクセルに宝島が出現した。

 

 宝島とは、玄武の俗称である。

 イメージとしては、小さな山サイズの巨躯を誇る亀。そう思っておけば、概ね間違いない。

 

 普段は地中深くに生息しているが、十年に一度だけ、甲羅を天日干しするために地上へ姿を現す。

 主食は鉱石。そのため甲羅には、地下深くに眠る希少鉱石や宝石がびっしりと付着している。

 おまけに気性は極めて温厚。余程のことがない限り、人を襲うことはまずない。

 

 だからこそ、玄武が日光浴に没頭している隙に、人々はツルハシ片手に甲羅へ群がり、せっせと採掘に励む。

 言うなれば、大金が道端に転がっているようなもの。玄武の出現した地域がお祭り騒ぎと化すのも当然だろう。

 とはいえ、甲羅にはモンスターの鉱石モドキも潜んでいる。自衛手段を持たない一般人では、到底手が出せない。

 

 そんな大事な日に限って、私は偶然ギルドのバイトへ入っていた。

 果たして、運が良いのか悪いのか。

 

 ギルドではリュックやヘルメットなど、採掘用アイテム一式を貸し出している。

 血走った目をした冒険者たちが我先にと殺到し、職場は瞬く間に修羅場と化した。

 金は人を狂わす魔の力。連中は見事なまでに、物欲に支配されていた。

 

 先日の税金徴収で、冒険者たちの懐は冷え切っている。

 そこへ降って湧いた一攫千金の好機。彼らにとって、まさしくボーナスタイムの到来だった。

 どうせロープを伝い、ロッククライミングさながら玄武の背に取り付き、砂糖菓子にたかる蟻のごとく一斉に駆け上がったに違いない。

 

 私自身は目撃していないが、ウィズ魔道具店の二人も採掘へ向かったらしいと、後で職員から聞かされた。

 玄武は神獣。悪魔族にとっては天敵のはずだ。

 その鉱石欲しさに汗水垂らして採掘へ励むというのは、果たしてバニルの美学に照らして許容範囲なのだろうか。

 ……大方、ポンコツ店主が今朝買い込んだ新しいガラクタのせいで、今月の家賃が危機に瀕しているから、形振り構っていられないのだろうが。

 

 新商品、店長イチオシぬいぐるみをお求めの方は、当店までお越しを。

 子供の傍を自動で付いて回り、迷子を防止する便利機能付きだ。

 ただし四六時中付いて来るので、夜中にトイレへ向かった子供が泣き出してしまうというデメリット有り。

 

 宝島の採掘は、半日ほど続いた。

 冒険者が出払った後のギルドは、一転して静寂に包まれた。

 とはいえ、暇になったわけではない。彼らが持ち帰る大量の採掘品の鑑定と買い取り、その算段を急ぎ整えねばならないのだから。

 それでも平時の忙しさに比べれば、ずっとマシな部類ではある。

 

 私は途中で退勤したため、一番慌ただしい採掘後の後始末には関与していない。

 小耳に挟んだ話によれば、鉱物目当てで、めぐみんが爆裂魔法を放ったという。

 現場を見ていないので、事由の詳細は定かでない。ただまあ、大した度胸だとは思う。

 

 そして、私が不在にしていた間に、店ではちょっとした増員があった。

 帰宅すると、採掘へ出払った二人のピンチヒッターとして、見慣れない珍妙な生物が店番をしていた。

 しかも双方、互いの存在を事前に知らされていなかった。顔を合わせた直後のムードは、何とも気まずいものだった。

 

 新人の名はゼーレシルト。

 アクセル近隣の街を治める領地持ちの貴族にして、悪魔である。

 先頃、特効薬の材料を融通してもらうべく、カズマたちが訪ねた相手――と述べたほうが分かりやすいか。

 

 どうしてそんなのを、うちで雇い入れる流れになったのか。

 その顛末は、また次回に記すとしよう。

 

 


 

 

【宝島の臨時収入ならもう使い切った】

 前回、ゼーレシルトについて記すと宣言していたし、まずはそこから始めよう。

 

 ゼーレシルトは、ペンギンとかいう変な鳥の着ぐるみをしている。

 おかげで素肌は一切見えない。王城へ出入りしようと、悪魔だと露見することは終ぞなかった。

 他国ではどうだか知らないが、ベルゼルグでは有能でさえあれば多少の奇行は許容される。この程度の変人貴族など、王国には掃いて捨てるほどいる。

 

 とはいえ、悪魔が堂々と紛れ込めるほどとは思わなかった。

 さすがにもうちょっと、危機感と警戒心を持ってほしい。

 そんなザル防諜だから、私やスパイがやりたい放題できてしまうのだ。

 

 ちなみに、ファンシーな着ぐるみの中身は触手の塊である。昨日、直接目にする機会に恵まれた。

 生理的嫌悪を誘う、悍ましい外見。

 ……にもかかわらず、それを目の当たりにした私からちっとも悪感情が流れ込んでこないと、ゼーレシルト当人は困惑していた。

 なぜと問われても、思うところがないからとしか言いようがない。外見で差別する趣味はないし、それは合理的でない。

 

 着ぐるみ伯爵は何もかもを放り捨て、着の身着のままアクセルへ夜逃げしてきた。

 被害者の弁によれば、近頃どういうわけか、毎日のように女神エリスが住み家を襲撃してくるという。

 ゼーレシルトは高位の悪魔ではあれど、正面切って女神と渡り合えるほどの格ではない。残機を削られ、堪りかねて逃亡した。

 

 エリスは悪魔アンチのガチ勢。さすがと言わざるを得ない。

 急に彼女が出没するようになった原因も、カズマやダクネスとの接点を考えれば、おおよその察しはつく。

 まあ、私が気にかける話でもあるまいが。

 

 それはさておいて。

 命からがらアクセルへ辿り着いたと思いきや、今度はバッタリ出くわしたアクアに追い打ちをかけられた。

 そしていよいよ、残機が尽きた。

 斯くして紆余曲折の末、知己(ちき)であるバニルを頼り、うちへの就職が決定したというわけだ。

 

 この店は、アクアが我が物顔で縄張りを主張している。

 加えて、アクア以上に悪魔へ苛烈なクリスも、ごく稀に顔を出す。

 私としては、ほとぼりが冷めるまで地獄に引きこもったほうが身のためだと思う。

 

 一応、ダクネスが後ろ盾になるらしい。

 『良い悪魔は、滅んだ悪魔だけ』と公言して憚らないクリスといえど、親友が庇えば考え直すかもしれない。

 恐らく。きっと。

 ……やっぱりダメかもしれない。

 

 マスコットキャラとして、早くも街で人気を博している新たな後輩の話はこれでお仕舞い。

 別の話をしよう。

 

 宝島の恩恵もあって、ウィズ魔道具店は資金難の窮地を辛くも脱した。

 ――脱した、はずだった。

 

 冒険者ではないバニルの分まで、報酬の受け取りはウィズに一任していた。

 だがその帰路で、全額使い込んできたのである。

 家賃の支払いは目前に迫っているというのに、余剰すら残していない。

 金を受け取るだけの簡単なお使いだったのだが、浪費癖のある女には荷が勝ちすぎたらしい。

 

 この失態に、バニルは激怒した。

 補填として、身売り――莫大な魔力を宿したリッチーの爪や髪を売却し、元手を捻出しようとする。

 が、そこに私が待ったをかける。

 救い主でも見つけたかのように、能天気店主が熱い視線を向けてくる。別に、庇うつもりはない。

 

 その手は、既に使用済みだ。

 デューク討伐後、失恋で大泣きしていたウィズから爪と髪をこっそり拝借し、討伐報告のついでに売り捌いておいた。

 リッチー化したデュークが格好の隠れ蓑になってくれたため、出処を誤魔化すのがとても楽だった。

 伝説級アンデッドの素材が頻繁に市場へ流れれば、さすがに怪しまれる。次の身売りまでは、もう少し間隔を置きたい。

 

 そんな次第で、代案としてウィズにはメイド服を着せ、カズマの屋敷へ送り出した。

 借金は身体で返してもらう。メイドさんごっこで。

 事前連絡はしていないが、あの男なら大喜びで雇うだろう。メイドのご奉仕に、並々ならぬ執着があるようだし。

 

 いっそそのまま定住し、戻って来なくても一向に構わない。ハニートラップよろしく、カズマとくっついてくれたら最上だ。

 不良債権の引き取りついでに、店のスポンサーかオーナーにでもなってもらえたら万々歳である。

 人員にはゼーレシルトが加わった。仮面悪魔に良妻アピールをしたいロリサキュバスも、時折手伝いにくる。

 人手不足が解消された今、ウィズをリストラしても経営上の支障はない。

 

 それにしても、同僚の過半数が人外で、人間は私しかいない。

 いつの間にやら、うちの店が魑魅魍魎の溜まり場と化している。

 

 なお、『稼ぎを得るまで帰って来なくて良い』と言い放ち、ウィズを叩き出すまでの一部始終を目にしたゼーレシルトは、終始ドン引いていた。

 ウィズは店内ヒエラルキーの最下位。それを、まだ理解しきれていないのだろう。リッチーだと聞かされている分、尚更に。

 ただの人間が、本人の了承もなく躊躇なく身売りを画策し、あまつさえ顎で使う。

 不死者の王をまるで恐れぬその所業が、酷く奇っ怪に映るらしい。

 

 何者なのかと訝しまれるが、私は一介の従業員だ。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 

「……なるほど。さすがはバニル様のご友人だ。私の事を知ってもなお変わらぬ態度と言い、普通の人間ではないとは思ったが。……いや、この女は本当に人間なのか? もしや人に化けた同胞では……」

「何を言うか、ゼーレシルト。我ら悪魔族はここまで悪辣な種族ではない。汝もよく知っているようにな」

 

 旧知の悪魔同士による、そんなやり取りが聞こえてきた。

 とりあえず、褒められてはいまい。

 どうして悪魔共から、ここまでコケにされねばならないのか。

 

 


 

 

【族長試練のパートナーは?(前編)】

 冒険者ギルドで、ゆんゆんが項垂れていた。

 どうしたのかと話しかけると、返事の代わりに一通の手紙を差し出される。受け取って目を通した。

 

 ――次の族長を決める試練を開催するので、志望者は紅魔の里へ来るように。

 

 大体そんな内容が、紅魔族らしい大仰な言い回しで綴られていた。

 紅魔の一族において、族長の地位は世襲制ではない。

 次期族長を目指すゆんゆんにとって、この試練は何としても突破せねばならない正念場だ。

 

 で、その肝心の試練だが、相方が要る。

 二人一組でのエントリーが前提なのだ。パートナーを確保できなければ、合否以前に挑戦権すら得られない。

 人に声をかけることすら至難なぼっちにとっては、最初にして最大の関門と言えた。

 

 次代の長を選ぶ試練だけあって、生半可なコンビでは太刀打ちできない。

 試練は有名な英雄譚に準(なぞら)えられ、前衛と後衛が支え合って困難を打ち破ることをテーマとする。

 そのため、優秀な剣士を里の外で探し出し、紅魔族の魔法使いが後衛を担う。それが従(・)来(・)の定番だった。

 

 ……近年では、その風潮も薄れつつあるようだけど。

 紅魔族が二人で組めば、火力のゴリ押しだけで試練をクリアできる。そのことに気づいてしまったのだ。

 情緒もへったくれもない。

 

 ともあれ、ゆんゆんはそのパートナー探しで躓いていた。

 

 彼女は元来、知人が少ない。

 最初は嫌々ながら、ダストに相棒を打診したらしい。

 ところが、宝島で儲けたからしばらく働きたくないと、にべもなく断られた。

 

 ……いや、ダストって。

 この街の戦士としては腕が立つ部類ではあるが、それ以外の点で難がありすぎるだろう。

 

 それに、別の角度から見ても非常に不味い。

 あのチンピラを里まで連れて行った日には、『娘が悪い男に誑かされた』と父親が早とちりしかねない。

 ダストが、族長に殺されてしまう。

 私の見立てでは、展開速度に優れたカースド・ライトニングか、上級魔法トップクラスの威力を誇るライトニング・ストライクが、出合い頭に炸裂する。

 いくら何でも、ライト・オブ・セイバーまでは使わないと思いたい。

 

 ゆんゆんは暫し考え込んだ末、カズマに声をかけてみようと切り出した。

 ……いや、これは悪手だ。行く末を瞬時に弾き出した私は、この暴挙を制止する。

 周囲を見回し、爆裂娘の姿がないことを確認してから、懸念を説明した。

 

 それだと失敗する。

 カズマ自身の資質の問題ではない。想い人を連れて行かれそうになれば、めぐみんが嫉妬する。

 埋め合わせと称して、自分が相棒を務めると強引に割り込んでくるだろう。

 

 以降の展開は容易に予測がつく。

 些細な停滞に苛立っためぐみんが、雑に爆裂魔法をぶっ放し、試練は失格となる。

 試練には三度までチャレンジできる。だがともすると、二回目まで出しゃばっためぐみんにメチャクチャにされかねない。

 カズマへの助力要請は、崖っぷちへの片道切符だ。

 

 ゆんゆんも、ライバルの気質は心得ている。

 理路整然と説くと、『確かに有り得る』と、血の気の引いた顔で頷いた。

 

 では、どうするか。

 手始めに私がバニルを推薦するも、断固として撥ねつけられた。

 好戦的な紅魔族と、人を煽ることが大好きな畜生仮面。その組み合わせは大惨事を招くから嫌だ――と。

 というか、既に前科がある。

 

 言われてみれば、一理ある。

 アレを里に放り込めば、試練どころではなくなるか。

 

 次にゆんゆんがウィズの名を挙げるが、こちらは私が難色を示した。

 試練は数日がかりの泊まり込みとなる。あの恐るべきガラクタ職人が暮らす里へ、うちの放蕩店主を長期間野放しにしたくない。店が潰れる。

 

 エリスにボコられたとはいえ、一端の強者ではあるらしいゼーレシルトも候補に浮かんだが、これは保留とした。

 何かの拍子に着ぐるみの中身が露見すれば、話が面倒になる。数日単位で里に滞在する以上、その危険は決して低くない。

 それにあの悪魔、悪感情以外に目立った欲がない。交渉をまとめるだけでも骨が折れそうだ。

 脅迫――もとい、いくらか手荒な手段が必要になるかもしれない。

 

 そうしてあれこれ検討しているうち、ひとつの妙案が閃いた。

 少々時間が欲しいと告げ、パートナー探しを一旦こちらで預からせてもらう。

 目星をつけた人物は、アクセルの住人ではない。物理的な距離があり、すぐには接触できない。

 これはこれで面倒だが、思えばゆんゆんにはバニル攻略本の件で、魔法陣について教わった借りがある。この機に返しておこう。

 

 最後に、与太話をひとつ。

 族長試練への参加条件は、上級魔法とテレポートを会得済みの紅魔族であることだ。

 すなわち、めぐみんには資格がない。……それはひとまず置いておくとして。

 

 これ、仮に私が転職して両方のスキルを覚えたら、参戦できるのでは?

 

 紅魔族との縁を証明するため、色々と明かす手間は生じるだろう。

 だが、その辺りさえ乗り切れば、ノリの良い紅魔族なら案外あっさり受け入れそうな気もする。

 

 実のところ、余らせていたスキルポイントに養殖で稼いだ分を合算すると、上級魔法の習得には王手がかかっている。

 テレポートまで視野に入れるなら、あと一息必要だが。

 この場合、試練の相棒はウィズかバニルに依頼する。

 私自身はひたすらお荷物に徹し、大人しく守られていれば、多分何とかなる。

 

 ……いや、やらないけども。

 本気で狙えば、私にも族長の目があるかもしれない――そういう仮説で、ほんの冗談だ。

 族長の座とか、特に興味もないし。

 

 


 

 

【やがて勇者となり、歴史にその名を刻む者?】

 カズマたちが新聞に載っているのですが。それも、デカデカと。

 

 ――数多の大物賞金首や魔王軍幹部を葬った、最強の最弱職サトウカズマ氏の謎に迫る。

 

 そんな見出しを皮切りに、彼のパーティーの優秀さを、紙面を大きく割いて論じていた。

 虚偽にならないギリギリのラインを突き、上手くヨイショしている。出版側の努力が透けて見えた。

 

 そういえば。

 少し前に仕入れた情報で、カズマとめぐみんが王都の新聞社へ乗り込み、自分たちの特集記事を書かせた――そんな話があった気がする。

 馬鹿馬鹿しくて裏取りすらしなかったが、どうやら事実だったらしい。

 

 そして噂が正しいなら、要求を呑ませるため、二人はダスティネス家の権威までチラつかせている。

 ……まあ、いつものことだ。

 あの問題児三人は、割とくだらない場面で彼女の実家の威光を振りかざす。

 

 高級料亭で入店を渋られれば、家名を盾に押し通り。

 おかずを買う際にも、『ララティーナお嬢様の口に入るものだ』と圧力をかけて、良い部位を分けてもらう。

 この新聞にしても、恐らくダクネス本人は関知していない。

 

 これはまた、随分な悪目立ちだ。

 魔王軍は今さらとしても、血気盛んな余所の冒険者にまで目をつけられかねない。

 冒険者ギルドは、冒険者同士の決闘を公認している。

 めぐみんはともかく、カズマは絶対そこまで考えが及んでいない。

 

 サトウ繋がりの余談を、ひとつ記しておこう。

 

 かつて魔王軍に甚大な損害を与えた、サトウという伝説的な剣豪がいる。

 家名がカズマと同じだ。

 そのため以前、『カズマはその剣士の子孫なのか』と、事情聴取の最中にセレスディナから尋ねられたことがある。

 魔王が、やけに気にかけていたらしい。

 

 無論、正解など私が知る由もない。それは彼女も承知していた。

 というより、質問した本人からして信じていなかった。実態はただの世間話だ。

 

 どこからともなく湧いて出る、変わった名前をした常識外れの実力者たち――勇者候補の存在を、魔王は確(しか)と認識している。

 カズマ以後、ピタリと出現が途絶えたことも。

 当のカズマは、次々と幹部を下し、なおも破竹の快進撃を続けている。

 

 魔王は、この二つを結び付けて捉えた。

 すなわち、魔王軍との長きに渡る因縁に決着をつけるには、もはやカズマ一人で十分。勇者候補の増援が止まったのは、そういう天意だと解釈した。

 

 魔王にしてみれば、たった一年で戦況を激変させた彼は、脅威どころの話ではない。

 おとぎ話に登場する本物の勇者。いずれ自らに引導を渡しにくる死神。そんな認識である。

 ……幽霊の正体見たり枯れ尾花とは言うものの、華々しい戦果の伝聞のみで相手を評価してしまうとは、なんとも恐ろしい。

 実物のぐうたらニートを一度でも目にすれば、そんな幻想は霧散するだろうに。

 

 もっとも。

 そこまで真剣に憂いているのは、魔王くらいのもの。セレスディナを含め、魔王軍内部で真に受ける者はいなかったらしい。

 それがカズマにとって、せめてもの救いか。

 ……いや。彼が本当に魔王を倒した暁には、私は『勇者の末裔』という仰々しい肩書きを、自動的に獲得してしまうわけだが。

 

 ちなみに。伝説の剣士サトウとカズマの関係について、私の見解はこうだ。

 偶々家名が一致しているだけの、赤の他人。

 勇者候補については私も興味があって、一時期あれこれ調べたことがある。その過程で気づいたのだが、勇者候補には『サトウ』が存外多い。

 今も昔も、折に触れて目にする名だ。

 何なら、王都で行商していた頃の顧客リストにも、サトウという冒険者はいた。

 

 案外、彼らの故郷ではありふれた家名なだけ、というオチだったりして。

 

 


 

 

【族長試練のパートナーは?(後編)】

 紅魔族の次期族長として認められるには、三つの試練を乗り越えねばならない。

 そのうち前二つの課題は不明。ただ傾向としては、遊び要素が強いらしい。

 

 反面、最終試練だけはハッキリしている。

 強大な魔物が跋扈する紅魔の森で、一晩を過ごすこと。

 いかなる環境でも生き延びられる、生存能力が試される。

 

 上記を踏まえ、ゆんゆんのパートナー選定に際し、私が考慮した点はいくつかある。

 

 まずは当然、実力。殊に、詳細が判明している最終試練を踏破できるだけの力量は必須だ。

 できることなら、安定して結果を出せる腕利きが望ましい。

 

 贅沢な注文だとは思う。だが、なまじウィズという保険が控えている分、ハードルは自然と上がる。

 中途半端な戦力を引き合わせるくらいなら、気乗りはしないがウィズを選ぶ。

 その場合、迷惑店主が妙な真似をしないよう、私が目付役として目を光らせるしかない。

 もちろん、魔王軍幹部級などという高望みまではしていない。

 

 なお、アクセルの冒険者はこの時点でほぼ全員が選考から漏れる。

 槍を持たせたダストならあるいは、というくらいか。

 もっとも、当人は何やらワケありらしく、実際に槍を握らせるのは難儀しそうだが。

 

 それと、森での試練となれば、爆殺魔人の動向も無視できない。

 爆殺魔人もぐにんにん。紅魔の森を徘徊する賞金首モンスターだ。

 なぜか紅魔族を襲わないため、過去には『紅魔族の守護者』とも称されていた。

 なお、紅魔族以外の男は容赦なく襲う模様。

 とりわけ、黒髪黒目の男を目の敵にしている。

 

 この魔人、元は里の謎施設――ノイズ開発局で眠らされていたらしい。

 

 ここから先は、多分に憶測が絡む。

 爆殺魔人の誕生には恐らく、改造人間やデストロイヤーの開発に携わった人物が噛んでいる。

 そして、その者は勇者候補だ。

 

 黒髪黒目の男を執拗に狙うという特徴。理由は判然としないが、他の勇者候補を示唆している可能性がある。

 そうなると、パートナー候補として男、わけても勇者候補は優先順位が下がる。

 試練の難易度を無駄に引き上げるリスクは不要だ。生息域は森の深部なので遭遇戦は起きないはずだが、念のため。

 この懸念さえなければ、相棒枠にはミツルギキョウヤを推していただろう。

 

 その他の要素となると、重視すべき点は然程残らない。

 というより、試練の内容が本番まで非公開なので、吟味のしようがない。

 強いて挙げるなら、ゆんゆんとの相性が良好で、得意分野が競合せずカバーし合える間柄であること。その程度か。

 

 で、先程の項目すべてを満たす人物に、ちょうど心当たりがある。

 というより、ゆんゆんとはとうに友達同士だ。

 ならば話は早い。これからゆんゆんには相手の自宅を訪ね、『試練のパートナーになってほしい』と直接頼んでもらう。

 難しく考える必要はない。遊びに誘う程度の気軽さで構わない。

 

 とはいえ、友達の家を訪ねた経験に乏しいコミュ障に丸投げすると、話が一生進展しないのは目に見えている。

 だから私も、サポート役として同行しよう。

 

 対象は、異国の地にて黄金の竜を一撃で屠った、最新のドラゴンスレイヤー。

 魔王軍幹部とすら渡り合えると噂の、規格外の剣士だ。

 めぐみん盗賊団のしたっぱイリス、と紹介したほうがゆんゆんには馴染みがあるか。

 

 そういえば、彼女の本名と身分について、ゆんゆんは何も知らなかった気がする。

 まあ、どうでもいいか。ゆんゆんのメンタル以外に差し障りはないし。

 

 ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス。

 この国の第一王女に、試練パートナーとしてお出まし願おう。




・爆殺魔人もぐにんにん
ノイズ王国産の忍者ロボット。
改造人間紅魔族の経過観察と共に、ハーレム野郎、特に日本人のリア充を爆殺する使命を帯びている。
原作とは異なり、本作のもぐにんにんは暴走していない。
傀儡ポイントを削られまくった元凶のセレスディナに余力が無く、この世界線ではもぐにんにんに手出ししていないためである。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。