とある魔道具店店員の手記 作:シュワシュワ
【素人の農作業は法律で禁じられています】
今日は雨空。
だと言うのに降りしきる雨の中、アクアが傘も差さずに店へ遊びにきた。
こんな日に外を出たがる人は稀だが、アクシズ教において雨天は感謝の日。駄女神はむしろ上機嫌なくらいだった。
なお、びしょ濡れな駄犬はタオルで拭うこともせず我が物顔で室内を徘徊したため、床があっという間に酷い惨状と化した。テンションが上がって忘れていたそうな。
この数日は、アクアが来ないからこそ比較的平穏な日々を過ごせていた。
今になって珍しいものだと振り返る。が、聞くにどうも店の住所を忘れてたどり着けなくなっていただけのようだ。
もっともアクアに言わせると、うちの店が突然移転したから分からなくなっただけ。別にド忘れなんてしてないという。
言い訳でなく大真面目にこれを主張してくる。店を引っ越したことなど無いと伝えても、つまらない冗談と一笑に付された。
頑として自分の非を認めない。根拠は特にないのに、自信だけは満ち溢れてる。
このやり取り、一年程前にも確かあった。
彼女もアクセルに住んでそれなりに経つ。にもかかわらず今でも道順が曖昧な様子。
そういえば、街中で迷子になったアクアが警察や街の人に保護された、との話は今でも時折耳にする。実は思ったよりも悲しい生き物なのかもしれない。
あと些末事だが、ゼーレシルトの残機が消滅した。
前触れは特になかった。出合い頭にて、挨拶程度のノリで極悪な破魔魔法を撃ち込んだアクアに消し飛ばされたのだ。
幸い、居合わせたバニルが残機を分け与えたので、ゼーレシルトの蘇生には辛うじて成功している。
その後は怯えるペンギンの着ぐるみと、盾に取られた私を挟んでガンを飛ばすアクアという構図に。ガラの悪いチンピラが因縁をつける光景にしか見えない。ゼーレシルトとて、弱い悪魔ではないのに。
ついでに、間接的ながらも地獄の公爵の残機を削る快挙を何気に達成しているという。
来て早々ほしいまま災厄を振り撒き、その疫病神っぷりを遺憾なく発揮するアクア。これには仮面悪魔も、なぜ毎度余計なことばかりすると苛立ち混じりに毒づいていた。
暇を持て余しているからだろう。躾もなってない。他に強いて理由を見出すなら、動物のマーキング? いやこの発想はアクア以外の動物に対して失礼が過ぎるか。
時に、アクアのところでは先週屋敷の庭で畑を耕して家庭菜園を始めたそうだ。
うちでも、ガーデニングの趣味を持つウィズが裏庭で花を育てている。その共通項から、二人は庭いじりで和気藹々と歓談していた。
バニルの肉体を構成していた魔力満点な土を利用したり、同じく脱皮したバニルの抜け殻を粉末状に砕いて肥料にしているとの内情を明かすと、アクアは渋面に変わったけど。
邪悪な禍々しい風の植物は生えてないから問題は多分無いはず。
アクアの許で野菜が獲れた暁にはうちにも新鮮なやつを分けてくれるという。
それはいいけど。果たしてあの屋敷の連中に農家の真似事が務まるのか? との疑問が。
農業は、害獣や野菜との格闘の毎日だと聞く。毎年多数の重傷者を出す危険な仕事だ。現役を退いた冒険者にとっての、メジャーな再就職先でもある。
大変かつ、重要な仕事であるのは言うまでもない。だからこそ、野菜を育てるのには資格が必要となる。
ただし、高レベル冒険者は特例として許可されている。そのためアクアの行いも法的にはセーフなのだが……。
どうにも私には、収穫期に畑を脱走した野菜が他所様に迷惑をかける未来しか見えない。
植えた種の品名を耳にすると、その不安は一層と増した。
めぐみんが選定に関わっているからか、ラインナップは概ね無難だった。けれど、一種類だけアクアが関与したものがあった。
というより、仲間には内緒のまま独断でこっそり蒔いたというのが正しい。
その名もマンドラゴラ。紛うことなき植物モンスターである。種を安く売っていた行商人のおじさんから思わず買ったとか。
引っこ抜く際に悲鳴を上げる、それを聞いた者は死ぬ。そんな物騒な謂れを持つモンスターでもある。
しかも名前も考案済み。アクア命名、デッドスクリーム・ブラッディマリー。
その名付け、どう考えても来歴を承知の上で、わざとやっていますよね?
【屋敷の住人が出払っていたので詳細は聞き出せず】
昨日とは打って変わってすこぶる晴天。
アクアの話にあった畑を見に行った。
屋敷の玄関口からほど近いところにて発見。とうに発芽しているものも見て取れた。
とりわけ、地中から覗くサンマの目がちょっぴりグロテスクで印象的。
そこまではまあ、いい。
アクアがやらかしたというマンドラゴラの芽が出てくるのは当分先のはず。だから、今日のところはこんなものだろう。
そう高を括った私の見立ての甘さを嘲笑うかのように、視界の端に人形サイズのこぢんまりとした女の子が映った。
畑から生え、ニコニコと元気良さげに微笑む様から、これが何らかの植物系モンスターの幼体なのは明白で。どうせこれもアクアの仕出かした案件に違いないと当たりをつける。
てっきりマンドラゴラが最大の失態と思いきや、他にも伏兵が控えていた。本当に油断ならない女だ。
マンドラゴラも人っぽい造形をしていて不気味に思われがちなモンスターではあるけど、こちらはその比ではない。
手のひら程度の大きさしかない今はまだしも、このまま等身大にまで成長してしまえば、パッと見で人間と見分けをつけるのは困難になるのではないか。
それくらい人と似通った外観をしていた。
それと傍目にこそ愛嬌を振り撒いてフレンドリーさをアピールしているが、腹の内ではこちらを単なる養分と見下しているのは私にはお見通しである。
で、そんな外見と性悪っぷりに既視感があったので生物の正体にはすぐ目星がつく。
どう見ても安楽少女ですよね。これ。
討伐が推奨されるモンスターを飼育しているのか、この屋敷。
【人から煽てられるのは、そんなに嬉しいものなのだろうか】
冒険者ギルドにて。
そこで知人二人が口論で揉めている場面に出会した。バニルとサトウカズマである。
何事かと声をかけた私の姿を認めた悪魔は、状況の説明も無いままにいきなりこちらへ話の水を向けてくる。
カズマはカズマでバニルに乗っかって、私に自身のファンなのかと問いかけてきた。
いくら私でも、それだけですべてを即座に解しろというのはキツい。
バニルがカズマにうざ絡みされ、鬱陶しがっていたところに間が悪くも私が現れて、これは都合がいいと厄介事を丸々押し付けようとしている、辺りまでが精一杯だ。
あと私はカズマのファンではない。
改めて聞き出すと。
これまでの活躍が新聞の特集にて取り上げられたカズマ。そのことで彼は有頂天となり、同時に自分に憧れている人物――主に女性ファンがどれだけ居るのかが気になった。
そこでギルドの片隅で相談屋の副業を営んでいるバニルの元へと出向き、実際に見通してもらおうと悩みを打ち明けた。
が、そんなアホなことに力を使いたくなかった悪魔はこれを拒否。そのような女、いるはずないとまともに取り合わない。
そうして言い争いとなった場に私がノコノコと顔を出したわけだ。
バニルとしては、私の調査能力でカズマのファンを探し当ててもらえとの意図から話を振っていた。
その意図が微妙に伝わっておらず、私がファンなのではと自惚れた思い違いをしたのが彼の冒頭の発言となる。
邪魔だからといって、面倒な客の相手をこちらに押し付けないでほしい。私だって、こんなバカバカしい事柄に貴重なリソースを割り振りたくない。
カズマのファンをする奇特な女なんてどうせ実在しないのだから、労力の無駄だ。
だがこの男、私がそう言い切ってもそんなはずはないと非常にしつこい。存在しないと証明できない限りは引き下がりそうにない。
仕方なく対案を提示した。
要するにこの男、綺麗どころに囲まれ黄色い声援を浴びてチヤホヤされたいのだ。
ならば一言、酒場で奢ると切り出せば良い。
するとあら不思議。カズマのファンを自称する女性がどこからともなく湧いて出て、大いに褒めそやして甘やかして気分良く過ごさせてくれるだろう。
店から一歩外へ出た途端、ファンは泡沫の夢のように跡形もなく消え失せるが。
あるいは、彼の莫大な資産に舌舐めずりする玉の輿狙いの女はそこそこ多い。それも含めていいのなら結構モテる。
しかしカズマは納得しなかった。
本心から慕ってくれる美少女の一人や二人いるに違いない、今はまだ現れていないだけでいずれ英雄カズマのサインをねだってくるはずだ、との妄言を撒き散らす。
承認欲求を拗らせ過ぎている。見るに堪えない。僅かとはいえ、私もこの男と同じ血を引いているのが尚のこと辛い。
そんなに異性に好かれたいならせめて自分磨きの努力くらいすべきだろう。特に性根、日頃の生活態度を中心に。
そう口にすると、ありのままの自分を受け入れてほしい。働かずダラダラして色んな女にちょっかいかけても文句を言わない美人で巨乳のお姉さんがきっとどこかにいるはず、との舐め腐った返答が返ってきた。
それで文句を言わないってどんな女だ。このご先祖はもうダメだ、私の手に余る。
ところで話は変わって、先日私が屋敷で目にした安楽少女に関して。
カズマに話を聞くと、アクアがマンドラゴラのつもりで育てていた種が苗木になったものと判明した。
販売元がマンドラゴラと偽ったのにまんまと騙されたらしい。発覚後、安楽少女の処遇を巡って身内で軽く騒ぎになったとか。
ひよことドラゴンの卵を間違えて一億近い大金をドブに捨てた前科のある女は一味違う。その展開は読めなかった。
しかも、アクアは育てる気でいる。
今までの安楽少女は環境が悪かっただけで、自分のような清い心の持ち主が愛情を込めて接すれば優しい子に育つはずだとか。
いやもう手遅れだろう。あの邪な性格は生まれついてのものかもしれない。
ペットにするくらいなら、報酬を出しても良いからうちの店に譲ってほしい。当店で製造しているダイエット食の材料には安楽少女の実が不可欠なのだ。
待遇面なら心配いらない。きちんと世話しよう。家畜として。
【どこかで覚えがあるような……】
本日のウィズ魔道具店は、ふらっと来店したミツルギキョウヤが消耗品をまとまった額買ってくれたおかげで、久々に大きな黒字を計上した。
まったく金蔓様々である。
彼は現在、失せモノ捜しを兼ねた武者修業の旅の途上にあるのだとか。アクセルへと寄ったのもその一環。
というのも、夢枕に現れた女神エリスより大切な鎧の神器を預かっていたそうな。ところがつい先日に、その神器が部屋に書き置きだけ残して行方を晦ましてしまった。
……その言い方だと、まるで鎧がひとりでに家出したみたいに聞こえる。私とウィズは揃って困惑した。
唯一の手がかりとなる書き置きには、大まかにこのような内容が記されていた。
魔剣に頼る今のお前では俺を使いこなすには力不足。神器としてやるべきことを為すために俺は旅に出る。その間に、お前は俺を捜すための旅に出ろ。その過程で強くなれ。
窺うようにウィズが目配せしてきた。私は小さく頷く。
嘘は言っていない。気も確かではある。
だが、判断するには早計。
ミツルギの話を真に受けるなら、意思疎通可能な防具が勝手にどこかへ失踪したそうだが。この男には自己陶酔というか、思い込みの激しいナルシストな面がある。
自分のことを、世界を救う宿命を帯びた勇者なのだとナチュラルに考えるような男だ。
そもそも、自我を持つ神器など私は噂ですら聞いたことがない。
今回の鎧の話にしても、彼が思いついて真実だと勘違いする妄想としては無くはなさそうなラインに思える。正直、評価に迷う。
なお、ウィズは微塵も信じていない。
この人は相当疲れているのだなと、気の毒なものを見る憐れみの眼差しを注いでいた。
さらにこのあと彼がアルカンレティアへ向かう予定なのを知ると、名物の温泉を堪能してリフレッシュしてはどうかと、あくまで善意からのアドバイスを送っていた。
助言を受けたミツルギは、これに乾いた笑いを漏らした。欠片も信じられていないことへの諦観だった。
ところで彼がうちへ立ち寄ったのは、仮面バイトの差し金でもある。
見通す悪魔の相談屋に、ミツルギが客として足を運んだのだ。神器の居場所に関してを占ってもらったとか。
店での買い物はその対価だ。
占いは紅魔の里を示した。探している鎧の神器はそこにある。
彼は元々、有名な占い師に会うために紅魔の里を目指すことを当面の目標に定めていた。故にこのお告げは渡りに船だった。
これを知り、里を転送先に登録しているウィズはテレポートで送ろうかと申し出た。これにミツルギは迷いを見せるも、結局は固辞。
神器捜しだけでなく、旅を通して腕を磨くのも彼にとっては大事な使命。だから、そのような安易な手段に頼れないと。
今後の彼はアクセル、アルカンレティアの経路で紅魔の里を辿る。各地の困っている人々へとクエストを介して手を差し伸べて、その身を鍛えながら。
旅程を鑑みると、ひょっとしたらゆんゆんが族長試練に挑んでいる最中に現地で遭遇する、かもしれない。
またこれは余談だが。物のついでにアルカンレティアのセレスディナへ宛てた私信も彼に預けて届けてもらうことにした。
そういえば。彼の神器の話を振り返ってみて、どうも記憶に引っかかるものがある気がしてならない。
さて、何だったろうか。書き置きを残して自力で旅立つ鎧。そんなツッコミどころの塊のような存在との面識はない、はずだけれど。
【洞察力が高すぎるのも善し悪し】
いよいよゆんゆんの族長試練チャレンジが始まる。
割と悠長に構えているがそれもそのはず。先んじて試練に立候補した人がいない。
まず、気ままにやりたい紅魔族にとって、束縛と責任の多い長の務めはウケが悪い。試練も受けること自体が億劫で尚更やりたがらない。
第一率先して族長になりたがる変わり者がいることは里中に知れ渡っている。それで静観している側面もあるだろう。
というか、彼女の力量が合格できる水準に達したのを見計らって、身贔屓で試練を開催したのではと私は怪しんでいる。何せ現族長はゆんゆんの父親である。
ゆんゆん、アイリス王女のコンビは明日の本番に備えて今日から現地入りした。
また身分を隠すために、滞在している間王女はイリスの偽名を名乗る。
どこかの高位貴族の娘くらいには疑われるだろうがその程度は致し方ない。族長には王女と即バレしたが、顔が割れていたのだからそっちはどうしようもない。
それと、王女の側近二人も護衛名目で里まで同行している。
近頃魔王軍の侵攻があったかららしいが、これは口実に過ぎず、特に片割れのクレアとしては何としてでも理由をこじつけて付いてくる気だったようだ。
この女、長期に渡って城を離れるのが難しい要人のはずなのに。聞くに、物凄く頑張ってどうにか時間を捻出したそうな。
忠義に篤いというか。むしろ、忠誠心が邪魔をしてまだギリギリ主君に手を出していないだけというか。
藪蛇なのでこれ以上は捨て置く。私の中ではもう確信があるが。
ひとまずクレアに関しては、王女の婚約を阻止できるのなら国も魔王もどうでもいいと言い放ってしまう女とだけ書いておく。
ちなみにゆんゆんが試練に励んでいる間、私も紅魔の里で過ごすことになった。
国の偉い人が三人も来るのにぼっちがビビったのだ。これには、よく知らない人が多くて人見知りを発動したとの意も含む。
心細くなり、そういえばこの大事を招いた元凶が私だったと思い至り、責任を取れと必死に詰め寄ってきたのだ。
まあ、王女がパートナーになるとんでもないイレギュラーが起きてしまった以上、行く末を見守るためにもどの道応援に行く気ではあったけれど。
なお相方が王族であることへのプレッシャーは特に無い。というより、いつの間にか王女との友情イベントがあって乗り越えた模様。
イリスはゆんゆんの案内付きで里を観光した。
別行動だった私は詳しい様子は知らない。ただイリスが好奇心の赴くまま凄い勢いで紅魔族の風習を学習、吸収しているのは目撃した。
紅魔族特有の自己紹介に対し、剣を掲げポーズを決め同じ口上でバッチリ返していた。
すっかり地元民である。本物の地元民ゆんゆんよりも里に順応している。
馴染みすぎて城に帰ってからもしばらく引きずりそう。大丈夫だろうか、あれ。
私自身の話もすると、不意に現れたこめっこに喫茶店で食事を奢り、その後はやたらと難解なパズルに取り組んだ。
パズルは、これで遊んでもいいとこめっこがどこからともなく持ち込んできた。ご飯のお礼なのだそう。
所詮子供用のオモチャと舐めていた。いざ挑戦すると、異様に難しく予想外に手間取らされることに。
一応解いたが、私が片手間だと手こずる時点で難易度の設定がおかしい。紅魔族でも大半は投げ出すレベルだ。
めぐみんなら解けるだろうけど。こめっこも過去に解いたらしいけど。
例えるなら、賢者たちが知恵を出し合って、ヤバい代物を封じるために作り上げた特製の封印アイテムのような。それくらいの意気込みをパズルから感じた。
いや、妙な表現をした。役目を終えた何らかのパズル型魔道具のようだったので、つい。
魔道具職人のひょいざぶろーが可愛い娘たちのために手ずから作った特別な品だったのかもしれない。というか今になって悪い予感がするからそうであってほしい。
話を変える。
酒場にて変な全身鎧と出会った。
鎧を身に着けた人間、ではない。自称歌って踊れるハイブリッドな神器、聖鎧アイギス。自我を持った喋る鎧だ。
品性は割りかし下劣。女好きで、息を吐くようにセクハラ発言してくる。
初対面の私に対して、初っ端から堂々と容姿とスタイルに関する品評を口にしていた。普通に最低である。
しかも私と同じ宿屋に宿泊している。族長宅に泊まるゆんゆん、王女一行に遠慮したのだが、ちょっと早まったかもしれない。
それとなく身の上を聞き出したけど、この鎧、ミツルギが捜索している個体だ。よもやこんな形で関わることになろうとは思わなかった。
普通に物取りに遭ったのをミツルギが斜め上に超解釈してるとばかり思っていたが。違ったらしい。彼には悪いことをした。
アイギスによると、ご主人がいけ好かないイケメンで頭が固くて、しかも取り巻きの女の子二人にセクハラすると怒られるしと、折り合いが悪くて逃げてきたそうな。
そうして美女が多いと評判の紅魔族を拝みに里へ来たという。
酒場の看板娘のねりまきへ流れるようにセクハラしながらそんな話を語っていた。向こうも酔っ払い客で慣れっこなのか、手慣れた様子であしらってたが。
それと思い出した。
この鎧、エリス祭の折に目覚えがある。カズマと、降臨した女神エリスの三人でわちゃわちゃと騒いでいるのを遠目に見た。
また、その出来事の少し前には、銀髪盗賊団の二人組がアクセルの貴族邸に出没している。その際宝物庫から盗み出された物も、確か鎧系の神器だったはず。
さらに二人組のうち、一方の正体がエリスであることを私は既に知っている。
エリス、カズマ、謎の全身鎧。
当時はこの三者を結びつける接点が見出せなかった。首を捻りつつも、厄ネタに違いないからとあえて気に留めずにいた。
ところが銀髪盗賊団というピースが新たに浮上する。これを当て嵌めると、ある仮説が浮かんでしまう。
まさか銀髪の義賊の相棒、仮面の盗賊の正体とは……。
もしかすると、私はとても余計なことに気がついてしまったかもしれない。
【第一の関門と、その裏にて】
族長試練は三つの試練から成る。
結論から述べると、本日実施された最初の試練をゆんゆんたちは無事突破した。
課題は謎解き。
内容は魔法使いの領分だったために優等生のゆんゆんなら楽勝かに思われた。が、蓋を開けてみればまさかの大苦戦。
門外漢なイリスもこの方面では戦力にならず、波乱の幕開けとなった。
しかしながら、暗礁に乗り上げた盤面を立て直す一手を打ったのは意外にもイリスだ。
手伝えることがなく手持ち無沙汰となった彼女は、ふと試練監督の紅魔族へと目をつけた。
うるうるおめめの上目づかいで、イリスは解答のヒントを教えて欲しいと迫る。通った。容貌の良さも相まって効果抜群だった。
あざとい。こすい。
もちろん狙ってやっている。この王女、ヒキニートのような小細工を使う。何だか、試練とは関係ない部分で彼女の先行きが不安になった。影響され易すぎる。
試練に関しては、メインにして固定の最終試練以外は案外適当に決めているらしいから、まだ雑な展開でも許される段階だっただけだろう。きっと。
でないと、試練監督がただのロリコンということになってしまうし。
ところで、ゆんゆんが試練をクリアする間際くらいにウィズがこっちへ来た。
店に私宛の手紙が届いたのだ。わざわざテレポートして渡しに来てくれた。
通常はそこまでしないのだけど、今日のは即日お届けの速達便。もしや火急の用事ではと憂慮したとか。
手紙を検めると、送り主はセレスディナ。
要件は救援要請。穏やかでない。
が、内容が要領を得ない。アルカンレティアのアクシズ教徒たちが好き放題して周りが大層迷惑している。さっぱり手に負えないから助けてほしいという。
そんなのいつものことだと思うのだが、暴走っぷりが尋常じゃないとか。
異変は唐突だった。兆候の心当たりはなく、原因も掴めていない。
ただ、住民の大多数を占める信者らが揃って、まるで自分たちの崇める女神が街へ遊びに来たかのような凄まじいはしゃぎっぷりになっているという。
なおこの騒動には中心的人物がいる。余所の街から来たという彼女が騒ぎの発端に噛んでいそうだと、セレスディナは睨んでいる。
その者の名はアクア。奇しくもアクシズ教のご神体と同じ名に、水色の髪を持つアークプリーストだ。
そこまで目を通した私は手紙から顔を上げた。事態の背景が何となく見えた気がしたのだ。目が合ったウィズに問う。
昨日か今日か、アクアにテレポートを依頼されなかったかと。
予想は的中。今朝店にやってきた水の女神を、ウィズは快くアルカンレティアへと送り込んでいた。
これに付け足すなら、カズマら他のパーティーメンバーがいない代わりに、セシリーなるプリーストを伴っていたという。
自分の膝下でのさばる聞いたこともないマイナー神の信者共に焼きを入れてやる、とアクアは息巻いていたそうな。
そこまで聞いて私は悟った。これ、諸悪の根源私だ。
アクシズ教の総本山に拠点を置くレジーナ教団が堂々と勢力を拡大しているのを、アクアは縄張りを荒らされたと受け取り憤っている。
情弱女神は、今になってようやくレジーナ教団の存在を認識したらしい。
教団の誕生には私が絡んでいる。それが無ければ今もレジーナ教は無名なままで、アクアが動く流れにもならなかったはずだ。
それにしても、レジーナ教徒がアクシズ教徒の目の敵にされたり、執拗な嫌がらせに晒されているとの記述がこれといって見当たらない。
まあアクアのことだ。宴会にのめり込むなりで速攻で脇道に逸れ、アルカンレティアを訪れた本来の目的がストンと頭から抜け落ちているであろうことは容易に想像がつく。
何せ今の彼女には、軌道修正してくれるストッパー役がいない。
アクアの傍にいたというセシリーは典型的なアクシズ教徒。人の機微に聡いなど長所も無くはないけど、フォローするどころか助長、同調して一緒に面白おかしく過ごす側へ傾いていると思われる。文面の様子的に。
手紙を読んで思ったけど、まだ十分余裕あるだろうこれ。
ひと昔前の烏合の衆だったレジーナ教団なら危うかったものの、あの頃とは情勢が異なる。
今の教団はセレスディナという先導者を得た。
彼女、経歴はともかく聖職者としての信望は存外厚いのだ。魔王の手先だった時期はあっても、何だかんだで信仰する神に背いたことだけは一度も無いから。
最悪アクシズ教団と対立する羽目になっても、セレスディナを酷使すればレジーナ教団存続の目処は立つ。なお、当人にかかるであろう負担の大きさは度外視する。
だから私に手助けを求めたのだろうけど。あの女、私が教団の崩壊を望んでいないのを見透してるようだし。
ただ、時機が悪い。私は里で試練の結末を見届けなくてはならない。
というかそんなものがなくても、災難に巻き込まれるのが確定しているアルカンレティアには近寄りたくない。
私が手を貸さないと為す術がない、というわけでもなさそうだし。
まあ、私も鬼ではない。対処案――カズマを呼んでアクアをどうにかしてもらえと認めた手紙をアルカンレティアに送付しておいた。……普通郵便で。
それはそうと、ウィズが手紙と併せて見慣れない道具を携えていた。
聞くと、私と会う直前に、ひょいざぶろーの元で仕入れてきた魔道具だと言う。
昨日まで夫妻揃って行商で街に出て留守にしていたが、帰ったばかりのところに運良く鉢合わせたとか。どんな偶然だ。
ウィズにはそういうところがある。相変わらず少し目を離しただけで、磁石みたいにガラクタを吸い寄せてくる。
この節穴店主は本当に。余計なことを。
アンデッドだけあって、やはりその目玉はもう腐っているのか? それとも眼球らしき物体は実は精巧なビー玉で、だからロクな目利きができないのか。
そう私が罵るとムッとした顔になって、ガラス玉のような目をした人にだけは言われたくないと言い返された。
言葉の切れ味がウィズにしてはエグい。これには私もビックリした。
・デッドスクリーム・ブラッディマリー
アクアが発芽させた安楽少女。
生後二週間未満でも、性格は成体と大差ない。原作十四巻の描き下ろし短編『少女の苗は無邪気に嗤う』より。
・こめっこのオモチャ
かつて、邪神ウォルバクを封じていた封印のパズル。
賢者級の大人でも中々解けない難易度。ただし、幼少期のめぐみん、『爆焔』一巻のこめっこが遊び道具にしてそれぞれ一回ずつ解いている。