とある魔道具店店員の手記 作:シュワシュワ
【紅魔の里について】
甚だ遺憾ではあるが、結局、紅魔の里へは赴く運びになってしまった。
これ以上の引き止めは困難と判断し、私が折れるしかなかった。
私が断固反対したので、当初は不承不承ながらもウィズは引き下がっていた。
ところが最近、そのウィズの挙動が怪しい。
窺うようにしきりにこちらへ目線を向けてくるし、何に気を取られているのか、しょっちゅう上の空になる。
良くない兆候だ。段々と我慢できなくなり始めている。
想定し得る最悪のケースは、彼女が私の制止を振り切って店から逃亡し、独力で職人との契約を締結してしまうこと。このままでは、その未来の到来は確実に思えた。
故に、私は主張を翻した。
里に着いたら真っ先にテレポートでアクセルへと引き返し、再度のテレポートで私も紅魔の里へ連れて行く。これを条件に、ウィズが旅立つのを許可した。
かくなる上は、ウィズが暴走しないよう私が傍らで手綱を締めるしかない。
これから数日に渡ってこのポンコツを野に放つのは憂鬱だ。言いつけを破って、私を待たずに件の職人と会ってしまう可能性とてある。
ただ、それはもう私にはどうにもならない。
移動手段について言及しよう。
紅魔の里行きの転送屋は無い。乗合馬車は、最寄りの街ですら出ていない。
すなわち、里には徒歩で向かうしかない。
私がウィズの旅について行こうにも、根本的な問題としてスタミナが圧倒的に欠如している。支援魔法をフル活用しても焼け石に水。
比喩抜きで、ただの自殺行為でしかない。
こんなときのために、ウィズにテレポートの魔法を鍛えてもらって四つ目の登録枠を用意してある。私が余所の街へ出向く際は、この空き枠のテレポートを頼る。
その真意が、私の関知しないところでウィズがやらかさないよう、動向を監視するためなのは言わずもがな。
先日登録した街はもう無用だから、これを紅魔の里に上書きすれば良い。
考えてみれば、用件が片付いてアクセルに戻ったあとには、紅魔の里を転送先から削除させる必要もあるのか。
一応腹案はあるが、留意しておこう。
次に紅魔の里と、そこに住まう紅魔族という一族について。
噂は様々ある。けれども確かな情報となると、これが存外少ない。
明確なのは、種族全員がアークウィザードかつ上級魔法を習得しており、揃いも揃って相当な変わり者であること。
連中、故郷に引き籠っていて街には中々居着かないのだ。だから知名度と裏腹に紅魔族と面識のある者が少なく、正確な話が入って来ない。
というのも、紅魔族はテレポートで街々を自由に行き来できる。なので基盤の無い里の外に拠点を構える理由が無い。
街へ出るときはテレポートを使い、用事を片せばまたテレポートで帰ってくる。商人も、基本はこうした手口で売り物を卸す里の職人から製品を買い入れているとか。
自ら里を往来して交易しようと目論む気合いの入った者は、金にがめつい商人と言えどそうそういまい。
里への道のりは、強力なモンスターがひしめく屈指の危険地帯。冒険者でも踏破できる者は高レベルの一握りに限られる。
ウィズはそれを決行しようとしているけど、彼女はその一握りの腕利きをゴミのように蹴散らしてしまえる猛者なので例外だ。
明日にはウィズはアクセルを発つ。
紅魔の里に到着したウィズがテレポートでとんぼ返りするまで、私は店番だ。
まあ客なんて来ないだろうが、店は私一人でも切り盛りできる。
どちらかと言うと、家事を当面一人で捌かなくてはならないのが大変だ。体力配分にはいつも以上に気を配ろう。
【紅魔の里観光一日目(変なのしかいない)】
昼下がりと呼ぶには遅く、しかし日暮れには若干早い。
そんな時分にウィズがひょっこり現れた。
紅魔の里への旅路を無事完遂し、テレポートで舞い戻ったのだ。
念のため問いただしたが、ターゲットの職人とは会ってないとか。
当座の懸念は乗り越えた。彼女は約束を守ったのだ。
だからその後にウィズの付け足した、いきなり訪ねるには微妙な時間帯だったから、とのセリフは聞かなかったことにしよう。
微妙な時間帯でなければ、一体どうするつもりだったのか。
私は、些細な巡り合わせの幸運で命拾いしただけだったようだ。
店じまいをすると、テレポートで紅魔の里へと直行した。
瞬く間に塗り変わった景色は、一見してよくある田舎の集落。
本日のアクセルは晴天だが、こちらでは少し前まで大降りの雨があったらしい。地面は湿気ていて、空を覆う分厚い雲にて一帯はやけに薄暗かった。
周りをキョロキョロと見渡していると、通りすがりの一般黒ずくめがこちらに近寄ってきた。
「我が名はぶっころりー。アークウィザードにして、上級魔法を操る者……。紅魔族随一の靴屋のせがれ。やがては靴屋を継ぎし者……!」
魔法で吹かせた風にマントをなびかせての、第一声だ。
ただの靴屋のせがれにしては、えらく大仰な名乗りだった。
そんな感想は胸の内へ仕舞い込み、同様に自己紹介を返す。
アクセル随一の魔道具店店員にして、やがては店の経営権を奪うやもしれぬ者。
この返しに、靴屋のせがれは目を物理的に輝かせ、キャッキャと歓喜した。紅魔族は興奮すると瞳が発光するのだ。
彼曰く、紅魔族でもないのに自分たちの名乗りに付き合ってくれたのが嬉しかったとか。
あ、これ、私はやらなくてもいいやつだったのか。
なお。真隣では、私の下克上宣言にウィズが狼狽していた。肩を掴んで揺さぶり、何やら必死に詰め寄ってくるが、私はそれら一切合切に聞こえない振りを貫く。
責任を負う立場になりたくはない。店の運営に然程の熱意を抱いていないから、シンプルに煩わしい。
だが、ここでの成果では、そうも言っていられなくなる。私は本気である。
自警団の哨戒任務中と語った彼より教わった、宿屋への進路を進む。
この頃には夕日が落ちて夜の帳が下りつつあったので、観光は無し。
ふと、宿泊せずアクセルに帰ればいいのではとの発案が頭をもたげる。
もっとも、実行すれば顰蹙を買うだろう。この村社会ではあっという間に露見し、悪評として伝搬するに違いない。
紅魔の職人との商談を邪魔しに来たわけではある。だが、それで里中の不興を買うのはお粗末が過ぎる。
宿代とトレードするほどの魅力は感じない。ならばこれは、必要経費だろう。
以前ウィズが、宿に泊まるのは旅先の醍醐味と熱弁していたのを思い出した。が、そっちは損得に関与しないのでどうでもよろしい。
着いた宿の一階フロアは酒場となっていた。
というより普段はそっちがメインで、旅人向けに寝泊まりもできる、というのが実態に近いのだとか。
店名はサキュバスランジェリー。名前がいかがわし過ぎる。
話を聞くに、どうも男性客を釣るための命名である様子。でもこれ、女性客はかえって敬遠するだろう。ウィズも入口で右往左往する羽目になっていたし。
遠路遥々越してくる者は男ばかり、ということなのだろうか。冒険者界隈も、比率的には男のほうが多いし。
現在他の来訪者はいない。
泥酔した紅魔族を介抱する以外だと、宿泊客は久々とか。店主から聞いた。
店内を見回すと、確かに、黒髪紅目で黒を基調とする印象的な衣装に身を包んだ紅魔族の客ばかり。
しかし連中、異様にこちらを意識してチラチラと目つめてくるのが鬱陶しい。それでいて、話しかけては来ない。
暫し彼らの観察を継続すると、服装を私たちに見せびらかしてアピールがしたいだけ、との解析結果が出る。
私はますます首を傾げた。意味不明だ。
部屋を押さえ、酒場で夕食にする。
ここしばらくの近況などを話し合ううちに、窓越しの外界ではいよいよ太陽が沈む。併せて、酔っ払い客が増えて喧騒が響く。
ウィズを酔い潰して行動不能にする企てに私が勤しんでいると、一人の少女がトコトコとやって来て手近なイスに腰掛けた。
ここの年若い看板娘で、名をねりまきと言う。
……ずっと気になっていたけど、ネーミングセンスは紅魔族標準らしい。
個性的と言えば勇者候補の名前もそうだが、彼らとも趣が異なるようだ。
里の外の話を聞きたい、との彼女を歓迎して語らう。
私としても、紅魔族の実際を知りたかったので渡りに船。家業として、里の外の人間とよく接するからだろう。あちらもその手の話題には慣れっこだった。
おかげで紅魔族への理解が一気に進んだ。
ある程度予想はしていたが、ここでは世間の常識は一旦捨て去るべきだ。勝手が違いすぎる。
また、里には学校があるという。
見習い魔法使いの養成所であり、上級魔法を習得して卒業となるとか。
制度上は別に上級魔法でなくてもいい。ただ、学校からの優遇が無くなって成長効率が落ちるのを鑑みると、他の魔法を覚えて卒業する選択は無いに等しい。
軽く概要を聞いた感じでは、随分と合理的なシステムだ。
ただ、紅魔の里だからこそ成り立っている要素が散見される。里の外でこれを模倣するのは厳しいだろう。
ねりまきは、その学校に通う学生だとか。
なるほど。学校か。
ひとつ、閃いた。
せっかく来たのだ。ウィズの野望だけ阻止して即おさらば、という勿体ない真似をする気は更々無かった。
明日はそこも視野に入れて活動しよう。
【紅魔の里観光二日目(サプライズもご用意)】
ウィズが二日酔いでダウンした。
珍しい。きっと、旅で気を張り詰めていた反動だ。そうに違いない。
私は白々しくも、そううそぶいた。
朝方は一人で里を回った。
ツッコミどころには事欠かないものの、勉強になる点も少なくない。
奇人揃いとはいえ、アークウィザードだけあって紅魔族は高い知能で評判。その日常には、常識に囚われない先進性がある。
例えば、洗濯如きに上級魔法を投入するのには目を丸くした。あれは、魔法使いの里だからこその風景だろう。
そもそも、街中だと上級魔法の使用は禁じられているし。
戦いの道を歩む気は無いと、私自身はアークウィザードの路線を捨ててプリーストに就いた。だが、あれを目撃していれば、もう少し慎重に吟味したと思う。
上級はともかく。中級魔法でなら、私も似通ったことはできそうだし。
一区切りついて踵を返すと、宿ではウィズが復活していた。自分も外出すると、本人は意気軒昂なご様子。
それを目にした私はまぶたを閉じ、そっと落胆のため息を溢した。
復帰が早い。あれだけ酒を勧めてノックアウトさせたのに。リッチーの体質なのか原因は定かではないが、もっとゆっくりしていけば良かったものを。
そのような心中はおくびにも出さず。私は彼女の回復を喜ぶと、お昼を食べに連れ立って喫茶店へと入店した。
店のマスターに名乗りの洗礼を受けるも、いい加減私も慣れたもの。同じようにサクサクと口上を返して席に着く。
私はメニュー表から、暗黒神の加護を受けしシチューを注文した。
なお、何の変哲もないビーフシチューだ。料理名にまで格好良さを追求する凝り性には、もはや呆れを通り越して感服する。
すると、対面のウィズが苦笑した。紅魔族の風習に早くも馴染んだ様子の私に、彼女は呑気に感心しているのだ。
まったく。これだから穀潰し女は。
わざとらしく嘆息すると、流行に乗れない化石アンデッドへと私は説く。
見知らぬ土地で人々と上手く関係を築くために肝要なのは、彼らの文化に歩み寄る姿勢を態度で表すことだろう。
それだけで万全なわけではないが、そこは主題でないので省略する。
そこで挨拶だ。彼らは、私たちが紅魔族流の自己紹介を返すと大層ご機嫌になる。
アクセルでは世間体のダメージが大きすぎるからやらないが、ここは紅魔の里。名乗るだけでコミュニケーションが円滑に進むのだ。なら、やるだろう。
むしろウィズはなぜやらない。上司として率先して模範を示してもいいだろうに。
は? 恥ずかしい? なぜそんな建設的ではないことを。
昼食を摂って喫茶店を後にすると、観光地をぶらぶらする。
案の定、ウィズが真っ先に魔道具職人の元へと訪おうとしたので、それはラストに回そうと提言して説き伏せた。
それだと先を越されるかも、と彼女は不平を垂れていたけども。誰に、何の先を越されるというのだろう。
そんな奇特な変人が他にも居て堪るか、との思いは胸中に留めておいた。
今日の午前中、彼女ご執心の魔道具職人ひょいざぶろーについて、里の者から話を仕入れた私は知っている。
彼は、紅魔族の感性をもってしても欠陥品ばかり好んで作製するガラクタ職人だと評価されている。
平たく言うと、ウィズの同類だ。
人となりを知らなかった昨日までは、僅かな願望を持っていられたものの。儚い夢だった。ウィズとは、絶対に結託させてはならない人物だと確信した。
私の構想としては、帰る間際に一度だけ職人の自宅を訪れる。アクセルに戻ったら、二度と里には行かせない。
ウィズの性格上、一回躓いても粘り強くリトライする。職人に直に会ったわけではないから、推測による未来予知染みた私の思考の先読みは機能しない。
こんな態勢で何度も挑戦されては、必ずどこかで事故が起こる。
ウィズだけなら抑える算段は立っている。まずは、彼女を里から引き離そう。
観光も落ち着くと、行きたいところがあると告げてウィズを付き合わせた。
辿り着いたのは族長宅。事前にアポを取っていたので、族長夫妻の出迎えを受けてスムーズに招かれる。
商人との関連を見出せない場所に何の用向きなのかと、私の行動の意図を図りかねてウィズの脳裏に疑問符が浮かぶ。
知れば拒絶されるのが目に見えてるので、何をしに来たかは話してない。
ちなみに。家には娘も一人いるそうだが、このときは留守だった。
世間話で場を暖めると、本題を切り出す。
隣の彼女は今でこそ商人だが、かつては凄腕のアークウィザードとして王都でも勇名を轟かせた冒険者だった。
そこで提案なのだけど、里の学校でウィズを講師として講演会は開けないか。
こんな環境だから、里の子供は外の世界を伝聞でしか知らないと聞く。ちょっとした体験談でも彼ら彼女らにとっては新鮮だろう。
それに彼女も同じ魔法使い。そういう観点からも良い刺激になるはずだ。
そのように弁舌を振るっていると、突然スポットライトを当てられた隣の誰かがお茶を吹き出す音が聞こえた。聞こえなかったことにして、私は話を続行した。
これの趣意は、店の宣伝のための一種のパフォーマンス。
例の職人のことはさておき、紅魔族とはまた縁が繋がるかもしれない。それを見据えての布石打ちだ。
端的に言えば、コネクション作りである。
仮に、学校の卒業生がアクセルで冒険者を始めてくれたら新たな顧客獲得に直結するけど、今はそこまでは考慮しない。
というのが表向き、本命を悟らせないための名目だ。
裏向きは至って単純。ウィズの妨害だ。
謀において私が重視する点として、相手の余力を削いで何もさせないことが挙げられる。万一企図するところがバレたとしても、対策する余裕を与えない。
此度で言うと、講師という目先の役割に、果たして何をすればいいのかと慌てふためいて、てんてこ舞いになってもらう。
その間私は、優れた魔道具や魔法薬の産地として定評のあるこの里で、アクセルで売れそうな代物でも見繕っておこう。
ウィズは、その頃には職人どころの心理状態ではないから放置でいい。
講師の話で一杯一杯になって、そのまま職人についてはすっかり忘れてくれても、私としては一向に構わない。
これに族長は食いついた。
何だか感触が良すぎる気もするけれど、娯楽に飢えてそうな陸の孤島に近い環境だ。そんなこともあるのだろう。
まして紅魔族には、よそ者におおらかでお祭好きな気質があるのだし。
族長によると、この後早速学校側と協議して詳細を詰めるという。
前例が無いのでどう転ぶかは彼にも断言できないが、明日は学校がお休み。なので、明後日の登校日に挿入するのではとか。
話がトントン拍子で進行するのに狼狽える約一名を無視し、私は了解を伝えた。
ということは、里を離れるのはその翌日の明々後日でいいか。
いつも店では、彼女の独断専行に私が散々振り回されているのだ。
これくらいの意趣返しなら、微笑ましいものだろう。
【紅魔の里観光三日目(誰がここまでやれと言った)】
里の観光地に、邪神の墓なるものがある。
墓地というか、邪神が封じられているのだが、実は今、その封印が解けかけているとか。里の人から聞いた。
後日に再封印を施すものの、それまでは邪神の下僕が飛び出す恐れがあるという。
国を揺るがす一大事だ。
その割には、里はゆったりとしていて長閑そのものだけど。
そんなわけで、昨日の朝のように私が単独で動き回るのはマズかったようだ。
紅魔の里のモンスターは、アクセルとは比べものにならないほど手強い。
こちらの事情を知らない紅魔族は、私がそんなモンスターをちぎっては投げしてここまで旅してきた強者だと勘違いしていた。
私は、魔法を覚えてない里の子供にも完封負けするだろう力量しか無い。多分、平和ボケした家猫にも敗北を喫する。
そんな有り様だから、邪神の下僕とやらに太刀打ちできるはずがない。今後は一人で出歩かないよう気をつけよう。
邪神の墓について、もう少し記す。
これはその昔、紅魔族のご先祖が邪神と激闘を繰り広げた末に封印し、里へと運び込んだものを代々厳重に管理している――ということは全然無い。
上記は、紅魔族が考えたそれっぽい設定だ。
真実は、邪神の封印されている地が格好良いなと思いついた誰かが、余所の土地に封印されていた邪神をわざわざ拉致して再封印しただけだったりする。
これとは別に、名を忘れられた女神とやらも里には封じられているとか。どうせ、顛末は大差ないのだろう。
この話を教えてくれた紅魔族は、邪神の名は知らなかった。
いやまあ、調べれば恐らく特定はできる。
ただ要は、彼らは邪神の封印されし地というネームバリューが大事なのだ。邪神本体は、割りかしどうでもいい。
再封印の時期には私たちはアクセルに帰ってるので、とやかく言う気はない。
邪神に失踪されて名所が消えるのは彼らの意にそぐわない。だからきちんと封印してくれる、はずだ。彼らが妙なことを考えなければ。
話を変えよう。
この日はポーション屋や、ガラクタ職人ではないまともな魔道具職人の店へと足を運んだ。雑貨屋や鍛冶屋もこの機に寄ってみる。
が、同道するウィズは気もそぞろ。
それもそのはず。講演が正式決定したと連絡があったのだ。日時は明日。
彼女としては未知の領域の大役を突如振られた重圧と、当事者の意思を置き去りに話が進展することへの放心が半々といったところか。
こんな様相でも、マジックアイテム鑑定装置としてのウィズは優秀ではあるのだけど。
紅魔の里の商品は、どれも効能に反して非常に割安だ。
私とて魔道具店に勤める従業員。それくらいの判別はつく。
里の外で高価なのは性能の高さは当然として、紅魔の里の品々がブランドとして確立されているのが要因として大きい。付加価値の無い現地価格ならこんなものなのだろう。
知らない人からすれば、カルチャーギャップで唖然とするだろうが。
ただウィズより万倍マシとはいえ、私も商才には特別秀でてない。その点は凡庸だ。正直、何を購入して店頭に並べれば収益に結びつくかも見通せていない。
商いにおける私の強みは情報の収集と分析力。あとは交渉技能。
商人にもかかわらず、何と売れ筋の品を見極めるスペシャリストが当店にはいない。
その体たらくでなぜ商店を営むかと言うと、当の経営者が自身の不良債権っぷりをちっとも自覚しないから。との悲しい現実に行き着く。
商業区を抜けて里の中央へと進む道中、謎の構造物が遠目に見えた。
おかしい。昨日、族長の住まいを辞した段階ではあんなものは無かった。
つまるところ、あれはそれ以後に生えてきたことになる。
構造物の方角からは、工事のものらしい騒音が断続的に鳴り響く。脳内で里の地図を描くと、位置は学校近く。というか、通学路を辿った先に建っていると判定できてしまった。
何となく、嫌な予感がする。
ウィズと二人で、構造物のほうへと向かってみた。
間近まで到達した構造物とその周辺は姦しく、何より慌ただしかった。
魔法で製造されたゴーレムが歩いて行って身体を建材へと変え、同じく魔法で召喚された悪魔の集団が工具を手に忙しなく駆けずり回る。
構造物は何かの建物のようで、桁外れの作業ペースに支えられて早くも完成目前だった。
多数の上級魔法の使い手を一挙に投じると、こうなるのか。
建設工事が一日足らずで完了しつつある異次元すぎる光景に私は瞠目した。
魔法の才だけではない。相互理解と連携が、個々の集まりではなく組織としての運用を成立させている。
その土台を固めているもののひとつが、学校なのだろう。
結論から言う。
構造物の正体は、明日の講演会のための専用会場だった。
ここの陣頭指揮を執っていた族長を見つけたので、話を聞いた。
それによると、初期はまだ学校内の行事の範疇に収まっていたという。
ところがノリに任せて話がどんどんと膨らみ、遂には里全体を巻き込む全紅魔族が聴講する一大イベントへと発展。
こうなると、聴衆を収容するのに学校では心許ない。なら、新しく施設を造ろうとの話になり、思い切って建築を敢行したとか。
年甲斐もなくはしゃいでしまったと、そう語る族長の顔にはキラキラとした少年のような笑みがあった。お世辞でなく、本心から楽しんでいる。こういうものは、準備期間が一番ワクワクすると耳にしたことがある。
大まかな構造としては、中心部にはだだっ広い広場が。
周囲はその広場を上から見下ろし、囲うように客席と思しきものが規則的に配置されている。明らかに里の人口よりも座席数が多い。講演後に、人を呼び込んで何かしら行う目算でも立てているのだろうか。
見栄え優先で、そこまで勘考してないのかも。
天井は吹き抜け。見上げると、青空に昇るお日様が視野いっぱいに飛び込んでくる。
私も本で読んだ程度だが、モチーフは闘技場だろう。類似する部分が多々見受けられる。
横に目を遣ると、一緒に話を聞いたウィズが顔を真っ青にして、ぷるぷると震えていた。
工事現場にゴーレムが見えるからか、出来の悪い粗雑なゴーレムみたいだなと、私はボンヤリと思った。
少数の生徒を相手にするはずが、話が想像を遥かに超えて巨大化しているのを目の当たりにして恐ろしくなったらしい。
これも仕込みの一環なのかと、詰問する鋭い視線がこちらを射抜くも、こんなのは私だって想定してない。
紅魔族がこれほどのことをできるとも、施行するとも思っていなかった。見積もりが甘かったのは認める。
なお。建物が広大すぎて、このまま講演をしてもウィズの顔が遠くからは見えない。
そこは、使い魔と魔道具の合わせ技によって解決するという。
里では見張りに用いる使い魔。これをカメラ代わりに視界を共有し、映像を映し出す魔道具でウィズの姿を大画面にてリアルタイム中継する。
声は拡声の魔道具ないし魔法を使えば隅々まで届くので、障害にならない。
思いつきの癖に、やたらと周到だ。ここまで来ると脱帽するしかない。
そこまで解説された段で、ウィズの口から空気の抜けるような音が漏れた。声になり損ねた悲鳴であった。
族長より、何か心配な点や要望は無いかと尋ねられた。
私は束の間を黙考に費やすと、概ね考えがまとまったので挙手する。縋るようなウィズの視線を一身に浴びる中、口を開いた。
その映像と音声、記憶媒体に残して複製できないか、と。
度肝を抜かれはしたが、よくよく考えてみれば私に不利益のある案件ではない。エンジョイする族長らに水を差す所以も無い。好きにやらせておけばいい。
映像記録は、仮面悪魔への土産物として今度魔王城に送付しておこう。
なおその後、ウィズからの猛烈な反発を受けたために、講演は規模の大幅縮小が決定されることになった。
【紅魔の里観光四日目(講演前)】
講演当日。
あれから吹っ切れたウィズがガンガン意見を述べたことで、講演は教室にて一クラス大体十人を対象とするよう変更されている。
極端に走って貧相と化してる。が、取り立てて不満の声は上がらなかった。どころか、講演を口実にド派手な建造を堪能した紅魔族は満足そうですらあった。
連中、初めから悪ふざけが過ぎるとの自覚はあったのだ。誰も止めないから止まらなかっただけで。
ともあれ。心のゆとりを取り戻したウィズはホッと安堵の息を吐いた。
あるいは、気分転換で入ってきたという混浴温泉も、彼女の精神の安定に一役買っているのかもしれない。
あそこ、蓋を開けてみれば混浴でも温泉でもない、普通の大衆浴場だったけど。
ただ、不安は残っているようで、代打を務めてくれないかと時折私に打診してくる。
この手のトークが私の得意分野だからだろう。
だが、今回は無理。この講演は、ウィズがアークウィザードにして超一流の冒険者だったとの経歴に立脚して発生している。
そこに、冒険者カードを作ってるだけのなんちゃってプリーストが登場すれば。英雄級の冒険者を心待ちにする少女らの瞳が、一瞬でドブ川色に染まること請け合いだ。
第一、何を話すかは私と話し合って決めてあるだろう。質疑応答もバッチリ。あとは、テンプレートに沿って工程を消化するだけの作業だ。
それに、クラスの担任もサポートに入る。何かあっても援護してくれるだろう。
彼が如何に頼りになるか。それを語ろうとしたところで私ははたと口を噤む。
打ち合わせの折に紹介されたその教師の名を、ぷっちんと言う。
良くも悪くも紅魔族らしい男だった。何と言うか、格好良さの探究に貪欲なのと引き換えに、それ以外の足元がお留守と言うか。
彼個人の善性には信用が置けるが、頼みの綱としてはイマイチ信頼できない。
二人三脚で本番も乗り切ろう。そう言ってウィズは同意を求めてくる。
これに私は返事しない。いや、正しくは、沈黙こそが答えだった。
辺りに不穏な静寂が漂う。
一拍遅れて、その反応の含意するものを察知したウィズの表情が引きつった。
彼女にはあえて話してなかった。
私は、講演に参加する気は端から無い。講演自体、大コケさえしなければどう転がろうと知ったことではない。
手隙の間、私は校内でも見学していよう。こんなチャンスも滅多に無いし。
では、そういうことで。
状況を演出した諸悪の根源な点は棚に上げ、いけしゃあしゃあと宣うと、私は足早に場を離脱しようとした。
だが、それは許されなかった。
ガッとウィズに取り押さえられた。筋力の差で振り解けない。
加えて魔法による拘束での強制連行を仄めかした上で、お願いという名の脅しで同行を強要してきた。
こうなっては、か弱い雇われ風情に拒否権は無い。私は渋々と観念し、講演へついて行くことに相成った。
【紅魔の里観光四日目(講演後)】
講演は終了した。
無難過ぎて、特筆することはそんなに無い。
アクシデントと言えば。
戦闘での魔法の実践について質問がありウィズが回答したのだけど、室内の空気が凍りついた。ムード的な意味で。
ウィズは今でこそこんなだが、現役時代はイケイケで武闘派の魔王軍絶対ぶっ殺すウーマンだった。
そんな彼女の理論は殺意が極まりすぎていて、実戦を経験していない純真な子供からするとドン引きだったのだ。
子供ながらも紅魔族としての抜きん出た頭脳によって、凶悪さの一端を読み取れてしまったから余計に。
素人の私では、そこまで気が回らなかった。
質問者の、ゆんゆんとかいう友達のいなさそうな少女には悪いことをした。血なまぐささを感じ取って、泣きそうになっていた。
ところで、族長から聞き及んだ一人娘と名前が一致する。当人も開始時の自己紹介で、紅魔族の長を目指していると言ってたし。
さてはあの男、娘可愛さでウィズを配するクラスを決めたのか?
生徒の話が出たのでそちらも少し取り上げる。
今日のクラスにはねりまきもいた。私たちが宿泊する宿の娘だ。
奇遇なような、里の子供の数を勘案すると順当ではあるような。
それともう一人。まさかの冒険者志望っぽい生徒がいた。
「我が名はめぐみん。紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を愛する者!」
名乗りの通り、名をめぐみんと言う。
爆裂魔法使い。
不意にそんなワードが思い浮かぶ。
いや、爆裂魔法が好きと言っただけで、爆裂魔法はおろか、魔法使いの卵な彼女はまだ魔法は習得していないけども。
講演の直前、ウィズが爆裂魔法を習得した経緯を、緊張を解そうとの狙いで私は語らせた。タイムリー過ぎたし、それで思わず混線してしまったのだろう。
それでもいつか爆裂魔法をも会得する大器なのでは、と思わせたのであれば。それはそれで凄い話ではある。
ただでさえ生まれついてのエリート魔法使いの枠内で、天才を称しているのだ。ひょっとするとゆくゆくは、ウィズを追い越し得る不世出の鬼才なのかもしれない。
まあ常識的に考えて、爆裂魔法の習得は主要な魔法を一通り修めた後になる。何年かかるかは見当もつかない。
そんな彼女はウィズの冒険譚に誰よりも熱心に耳を傾けており、冒険者稼業に強い関心があるのが一目瞭然だった。
瓢箪から駒が出るとはこのことか。
いずれ店の常連になるかもしれない。彼女のことはしっかりと覚えておこう。
講演後のことも書こう。
教職員の一同と雑談する機会があって、そこで『養殖』が話に上がった。
養殖というのは、紅魔族特有のレベル上げ手法だ。
手順としては、まず高レベルの者がモンスターを瀕死に弱らせる。そうして動けないモンスターをレベルの人が仕留める。
経験値はトドメを刺した者のみに入る。それを逆手に取ったやり方だ。
学校では、この養殖を野外実習として組み込んでいる。
魔法習得のスキルポイントを稼ぐには、レベルを上げるか、希少なスキルアップポーションを入手するかの二択しかない。
養殖の授業は、卒業への近道というわけだ。
ただしこれ、私はとうに実践している。
私がアクセルの共同墓地でレベル上げをするときには、ゾンビをウィズの魔法で無力化してもらう。あれと同じだ。
合理と効率を突き詰めていけば同一の解に収斂するのは自然だから、道理ではある。
まあ私の場合、ノーコン過ぎて動く敵に魔法を的中させられない切実な背景もあるが。
そんな実体験を語ると感心されて、思考実験的に、より効率的な養殖を考案してみようとの話へ移行した。
そこで安楽少女の名が上がった。
経験値量は多いが攻撃力は皆無という、一風変わったモンスターだ。反撃してこないから私でも無傷で倒せる。
アクセルでも極稀に出現するが、紅魔の里においては主な生息地となっている。
安楽少女は、愛くるしい少女の外見をした植物型モンスターだ。危害は加えてこないしフレンドリー。しかも対話可能。
そんな生態だから、心情的にメチャクチャ討伐し辛い。
しかしながら、容姿と庇護欲をそそる振る舞いで他者を魅了してその場に釘付けとし、餓死させる厄介な一面も併せ持っている。
私はこの安楽少女を使えると判じた。
田畑の一角に、安楽少女畑を作ってはどうか。私は勢い良く提唱した。結構自信のあるアイデアだった。
安楽少女に殺傷能力は無い。家畜として安定供給できる体制を整えれば、里の子供はより安全に養殖に臨めるようになる。
栽培ノウハウは無いから手探りのスタートとなるが――まあ、何事も最初はそんなものだ。モンスターは押し並べて逞しい。案外、水と日光だけでも元気に育ってくれるかもしれない。それならコストもかからない。
死骸のリサイクルも検討しないと。そういえば安楽少女って、可食部や魔法薬の素材適性はあっただろうか?
そう理路整然と語ると、ドン引かれてお通夜みたいな空気になった。
ダメですかね? 妨げになりそうな因子って、人道とか言う犬の餌にもならない非合理しかないのだけど。
ダメみたいなので、この発言はありもしない私の内に眠る闇の人格のせいにしておいた。
苦し紛れの言い訳がすんなり通ったのに、口にした私自身がビックリした。
【紅魔の里観光最終日(この後アクセルに帰還した)】
今思えば私は、時たま倫理すら度外視してくる紅魔族の合理性に、共鳴、親近感を覚えていたのだろう。
だが、近似してるだけ。根底は別物だ。
世の規範とはズレているだけで、彼らなりに道義的な線引きはある。一方で私は、それらを足を引っ張る枷と軽んじて、ひたすら利害計算にしか目を向けない。
昨日はそこを見誤って失敗した。
早朝に宿へとやって来た、隈のある顔にニコニコとした笑顔を絶やさない族長から手渡された数枚の用紙に目を通すや、その思いは一層強固になった。
『静かなる闇を抱く者』
『背理せし冬枯れの巫女』
『忘れられた禁忌の紅魔』
私の異名候補だそうだ。ワケが分からない。
昨晩、里の有力者を召集して徹夜で協議したとか。講演のお礼も兼ねているという。
興が乗って、テンションに皆で身を委ねるといつの間にやらそうなっていたそうな。
何をやっている。それに講演の主役はウィズで、私はただ後ろでぼうっと突っ立っていただけですけど?
発端は、昨日の私の安楽少女動議。
渦中の私そっちのけで、考察という名の妄想を重ねて以下のようになった。
前世にて私は、命と引き換えにその身に邪神を封じた。だがツケは大きく、今世の主人格を侵食せんとする萌芽がある。昨日のあれは、邪神の本性が漏れ出たものだ。
これが紅魔族の妄想する真相とやらである。
私の平常運転は、邪神の本性ということになったらしい。異名はそれを反映させた。
何だか私、ナチュラルに紅魔族から同族扱いされているような。
どれか選んでほしいと言われた私は、一番目を無言で指し示した。
夜を徹しての会議だったらしいので、その労苦も労る。このとき異名には一切言及しないのがポイントである。
なお、ウィズには『氷の魔女』の二つ名が既にあるため、議題に上がってない。紅魔族の琴線に触れる異名らしい。ウィズ自身は、黒歴史として忘れたがってるけど。
異名は里中に流布しておくとか。セットでウィズの異名も広めるよう私は要求し、もう後は連中の好きにさせることにした。
そのうちバニルへの話の種にでもしよう。
最後に。里に来た本来の趣旨である魔道具職人について。
ここが正念場と身構えるも、意外な結末に肩透かしを食らった。
住居を訪問すると、目当ての職人が留守だった。
いたのは、将来大物になりそうな雰囲気のある、私をして驚嘆の念を禁じ得ないほど肝の据わった幼女が一人だけ。
いないものは仕方ない。ウィズからの手紙を幼女に託して、引き上げるしかなかった。
半端な幕切れになってしまった。
ウィズが納得しないから、これは逆に難しい。
とはいえ。アクセルに帰るのを撤回し、やっぱりまだ残ると言い出されるのも困る。
現に、そんな感じのことを言いそうな様子があったので、機先を制した私は紅魔族ムーブで誤魔化すことにした。
我らの運命は、今はまだ交わる時ではなかったのだ、と。
するとウィズが胡乱な目つきになり、よもや本当に私が紅魔族なのではと疑い出した。どうしてそうなるんですかね?
まあ、ここ何日かは友好のため彼らのノリに合わせていた。異名の案には、私を紅魔族扱いしてそうな節も垣間見えた。
だが。私が彼らと共通する点など、紅魔族並に高い魔力と、紅魔族すら凌駕する異常な知力。あとは髪が黒いくらいで――いざ羅列してみると、そこそこあった。
いやでも瞳の色は違うし、目が光ったことも無い。
とにかく。切り札を切らずに済んだのは僥倖だった。
あれは必殺な反面、切り時を誤るとウィズがマジギレする諸刃の剣だから。
切り札とは魔法の言葉。これを唱えると、嫁き遅れ女の行動を抑止できる。
それを強引に振り払うと、アクセルの街にてウィズの実年齢が周知されるという摩訶不思議な現象が生じる。
またの名を、脅迫とも言う。
二十歳でまだまだ若いとウィズは常々言い張っているのに、何を気に病んでいるのか。
まあ、人間を辞めて冒険者を引退したのは二十歳だし、魔王城で私と出会ったのも同じく二十歳だったけど。
あとついでに、私との年齢差がなぜか年々縮まるという怪奇現象も起きている。私が誕生日を迎える度に、残酷な時間の流れを直視したウィズの目が死んでいってる。
年齢詐称――いや、何でもない。
この調子だと、再来年の終わりに私は彼女の年齢を追い抜く。そのときには一体どうなってしまうのだろうか。
【慰安旅行ドリス編、始動】
突飛なことをしたから、少し疲れが出たのだろう。
ウィズは主に、メンタル面での疲労が抜け切っていないようだ。
一時はどうなるかと思ったが、帰宅して以降は紅魔の職人に再度会いに行こうとのアグレッシブさを発揮していない。今のところは。
ちょうど良かった。
ウィズが店を空けていた合間に、できる部下の私は留守番がてら、ドリスへの旅行計画を手配しておいたのだ。
ほら。里の一件を除いても、近頃はあちこち出張して忙しくしていたし。
ドリスは、温泉で名高い観光街。
そして、彼女が大の温泉好きなのは私もよく知るところ。
確か、紅魔の里の温泉が、そういう名称のただの銭湯と判明してガッカリしていただろう。本物の温泉で心身共にリフレッシュして、心機一転また頑張ろう。
ああ、もちろん。
ドリスを満喫したウィズはいつでも温泉に入れるよう、転送先にドリスを登録したくなる。既存の登録先からは、消去法的に紅魔の里が削られることになるだろう。
無論、私は賛成しよう。仕事一辺倒では肩が凝る。そういう息抜きとて大切だ。
そして何よりも。
ガラクタ職人と手を取り合った際の損失を思えば、たかだか旅費程度で里の諸々をコロッと忘却してくれるなら安い出費だ。
ウィズを温泉漬けにし、何もかもを有耶無耶にする。これは決定事項だ。何としてでもやり遂げねばならない。
私の所感として、里やそこの住民のことは嫌いではなかった。ただ、それとこれとは話が別である。
・四つ目のテレポート枠
Web版では、テレポートのスキルレベル上昇によって登録枠を増やせると示唆する描写がある。本作ではこれを採用する。
書籍版では、スキルレベルの概念がそもそも登場しない。
・紅魔の里の天候
魔法で操作しているので基本快晴。原作十四巻より。
到着初日が雨後の曇り空なのは、『爆焔』一巻で発生するぷっちんが雷雨を呼び込んで制御不能に陥るトラブルを、紅魔族がやっとの思いで収めた直後だから。との暗示だったりする。
・冒険者は男社会
『愚か者』七巻二章より。
アクセルでは女性冒険者が比較的多い傾向にあるが、それでも割合としては男性の方が多い。
・テレビの生中継
さすがにそこまではやってないと思うが、アニメでは機動要塞の偵察映像をギルドで流したり、メモリアルファンブックの書き下ろし小説『ダンジョンマスターは世知辛い』でもダンジョン内の様子を水晶玉に映したりと、それっぽいことが出来そうな土台は見受けられる。
静止画の記録に関しては、魔道カメラがとっくに実用化されている。
・ドリス
Web版でのみ登場する平和な温泉街。
この街で起きるイベントの多くは、書籍版での四巻、十巻に吸収されている。