とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

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5-3 白き竜

【爆裂魔法はネタ魔法】

 ダンジョンを予告無しに爆破解体して、内部で攻略中の冒険者を生き埋めにしかけためぐみんが来店した。

 生き埋めにされかけた当事者の一人、ゆんゆんを伴って。

 

 街の外でカエル狩りをしようと思い立って、仲間集めに訪れたそうな。

 カズマは駄々を捏ねて嫌がった。なので、まずは代わりにゆんゆんを確保した。

 次いで冒険者ギルドにて前衛を募集しようとするも、ここでは暴力沙汰を起こして即刻摘み出される。

 ダンジョンの破壊行為とも相まって、当分の間出禁になったとか。

 ギルドから撃つなと名指しで警告されていたにもかかわらず、平然と破った昨日の今日でトラブルを起こしたのだ。そうもなる。ルナなど、相当お冠だっただろう。

 

 うちには、ゼーレシルトを勧誘しに来たとか。けれど、このときは私しかいなかったため、一旦店で待つことに。

 その間ダンジョン爆撃での苦情やら、先述のギルドの件やらでの愚痴を聞かされた。

 めぐみんの面の皮が厚すぎる。ちっとも反省していない。

 

 さて。爆裂魔法というと、世間では使い勝手の悪いネタ魔法扱いだ。

 長生きする人外が、余ったスキルポイントで酔狂として習得する魔法らしい。換言すると、人間が手を出すような魔法ではない。

 役に立たないどころか、どうして開発されたのか理解に苦しむ。そのように、存在意義すら全否定される始末だ。

 とはいえ、私個人はこの魔法を軽んじたことはない。

 運用に多大な難があるのは事実。されど、この魔法にしか成し得ない役割もある。めぐみんの戦果からも、それは明々白々だろう。

 大体、私の身近には爆裂魔法の使い手たるウィズがいるのだ。

 彼女より実情を聞き及んでいる私が、替えの利かない魔法を蔑むはずもない。

 

 私から爆裂魔法を馬鹿にする発言を耳にしたことがないと、ゆんゆんがふと疑問を発したので、私は上述の考えを論じた。

 どうせ、爆裂魔法の活用法なんて誰も真面目に研究してないのだろう。まず、使用者がいなかったのだし。

 本気で取り組めば、案外定説を引っくり返す成果が上がるやもしれない。

 いずれにせよ、ハードルが高すぎて爆裂魔法を会得する者は増えないだろうが。

 

 あと。爆裂魔法は見下してないが。

 爆裂魔法一筋で身を立てようとするめぐみんのことは、ネタ魔法使いだと思ってる。

 そう告げると、それまで鼻高々と耳を傾けていた爆裂娘がバーサーク化した。予期していた私は身代わりのゆんゆんバリアを展開し、咄嗟に身を隠した。

 

 そうまで爆裂魔法を極めてどうするのか。今後の展望を私は問いただした。

 話題逸らしなのは露骨ながらも、ゆんゆんで憂さを晴らしためぐみんは即答する。

 ゆくゆくは魔王をもふっ飛ばし、自らが新たな魔王として君臨する。

 レスポンスの早さからして、どうも単なる思いつきではない。前々から抱く野望のようだ。

 それはまた。あの有名な、おとぎ話の勇者じゃあるまいし。

 ゆんゆんも初耳だったらしい。そんな馬鹿な真似をしたらふん縛ってでも連れ帰ると、白けた眼差しで返していた。

 

 ちなみに。そんなゆんゆんの将来の夢は、会話可能な知能の高いモンスターを捕らえて、族長の権限にて牧場を開くことだそうな。

 それだけ聞くと、私なら経験値の苗床にする外道な連想が脳裏を過る。

 だが、彼女の場合、モンスターとの共存の道を模索する――との名目で友達が欲しいらしい。

 そうまでして友達が欲しいか。越えてはいけない一線を越えそうなライバルにめぐみんが説教するも、ゆんゆんは怯むどころか開き直って、力強く首肯した。

 これが当代随一の天才に、一族の次期リーダーとは。

 紅魔族は、次世代の育成に失敗したのでは?

 

 この後、ゼーレシルトが帰宅した。

 ゼーレシルト当人は、モンスター退治の誘いに意欲を示す。

 可愛いマスコットとして近所で持て囃されているが、その分舐められている気がする。そんなイメージを払拭したいそうだ。

 だが。やや遅れて店に戻ったウィズとバニルが話を聞きつけるや、機先を制するように参戦への名乗りを上げてしまう。

 戦力としては折り紙付きなので、めぐみんもこれを歓迎する。

 

 そのウィズとバニルより、ゼーレシルトは店番を言いつけられた。

 後から断片的に聞いたため、元はこのペンギンをスカウトに来たと二人は知らない。よって、無自覚に除け者にしてしまった。

 私が口出ししようとするも、当のゼーレシルトより手羽先で制止される。

 ウキウキと楽しげに冒険の準備を進める二人の有り様を目にすると、ここで決定を蒸し返すのは野暮と感じてしまったらしい。

 しょぼくれたオーラを醸し出しつつ、二人を大人しく送り出していた。

 残虐公なる物々しい異名を携えておきながら、その佇まいは哀愁に満ちていた。

 

 

【霊験あらたかなスーパーてるてる坊主】

 店の同僚らより、毎度お騒がせの青髪女が、またしても如何わしい所業に手を染めているとのタレコミがあった。

 聞き過ごせない内容が含まれていたため、後から知った私は慌ててアクアの行方を追った。

 

 果たして、彼女は路上販売を実施していた。

 売り物はてるてる坊主――という名の、魔改造された得体の知れない何か。

 傍目には、芸術品と見紛う恐ろしく精巧な美少女フィギュアだ。上からポンチョ風の衣装を被せて、辛うじててるてる坊主としての体裁を保っている。

 やたら細部の作り込みにこだわっており、とりわけ下着回りが大変なことになっている。

 有り体に言って、とてもエッチだった。

 

 また。この人形、ことごとく実在の人物をモデルとしている。

 ダクネスや私、ウィズのものまで取り揃えてある。だから、急いで探したのだ。

 なお、めぐみんやゆんゆんの分もあったそうだが、既にロリコンのセシリーが乏しい貯蓄をフル投入して買い占めた後だった。

 この女、手先だけは本当に器用だ。芸能の神様に鞍替えすればいいのに。

 少し前にも『スケスケ令嬢エロティーナ』とかいう卑猥なネグリジェ姿の粘土フィギュアを、うちへと卸してきたし。ダクネスが言い値で買ってくれた。

 

 よく眺めると、私の人形は紅魔族の特徴である刺青バーコードまでバッチリ再現してある。

 アクアに見せたこと無いのに。

 問うと、ウィズが情報源だと判明した。趣味の温泉巡りに何度も付き合っているから、彼女なら不思議はない。

 そのウィズがちょこっと口を滑らせたらしい。こういう余計なときに限り、アクアもそれをキッチリ思い出した。

 あとはボンヤリした印象をフィーリングとセンスで補い、それっぽく表現してみたという。

 特段、私と紅魔族の因果関係に勘付いているわけではない様子。

 それでこれとは。ここまで来ると、凄まじいを通り越して普通に怖い。

 

 聞くに、ここしばらくの雨を晴らすのに手慰みで作成していたら、つい興が乗って本格的に熱中したとか。

 それを、小遣い稼ぎへと転用した。

 なお、夜中になると独りでに目が発光するオマケ付きだ。凄く迷惑。

 それでティッシュ製とは何の冗談なのか。

 しかしながら。当店の売れ筋商品こと自爆しないバニル人形も、笑う上に上記と同一の機能が搭載されている。

 よもや、目が光るのは、人型玩具において必然の正統進化だとでもいうのか。

 

 不幸中の幸いだったのは、雨除けのご加護は無い癖して、魔除けの効能をガッツリと付与していたこと。

 この女は当初、うちの店頭で並べてもらおうと目論んでいた。しかし、おかげさまで店側に買い取りを拒否されている。

 ウィズ魔道具店は私以外、邪悪な物の怪が屯する巣窟なので仕方ない。

 

 それに加え。魔性のものを近づけないということは、サキュバスも接近できなくなる。

 美少女フィギュアを喜んで購入する層とは、食い合せがよろしくない。

 そんな次第で、物理法則に中指を突き立てた神域の完成度を誇るてるてる坊主だけれど、意外と売れ行きはパッとしなかった。

 多分、要素をバラバラにすれば、そこそこ繁盛したと思う。

 

 確か前もアクアは、使っているうちに段々服が溶ける美少女造形の石鹸を広場で無断販売し、警察にしょっ引かれた。だいぶ昔の話な上に、私も又聞きだが。

 そこで今日はどうなのかを詰問すると、案の定販売許可を取っていなかった。

 正確には、学習して申請手続きを行おうとはしたものの。彼女のおつむでは難解すぎて、途中で投げ出したという。

 ちなみに、一回見回りの警官より許可証の提示を求められた。けれど、美人で評判な警察署ツートップのてるてる坊主を進呈したら、快く見逃してくれたそうな。

 賄賂ですよね、それ。

 

 これは、処置無しだろう。

 私が魔法使いなら、ファイアーボールで即座にてるてる坊主の群れを焼き払う。だが、プリーストの身の上では叶わない。

 それでも、ガツンと痛い目に遭わせなくてはならないと決意した。

 言い聞かせて押さえつけた程度では、私の目を盗んでコソコソと再犯するに違いないのだから。

 

 そこで、最寄りの女警官を捕まえて、犯罪者の元へ差し向けた。

 アクアは泣き喚いて縋り付き、必死に温情を乞うたけど。初犯でないどころか実は割と常習犯だと発覚し、問答無用で連行された。

 というかよく見ると、その女警官のてるてる坊主も混じっている。それを見咎められては、許される余地などない。

 こうして、悪は滅びたのだった。

 

 

【ウィズ魔道具店の裏メニュー】

 ウィズとバニルの間で諍いが生じた。

 理由は単純明快。店長のブロマイドを、当人には断りを入れず、悪魔がコッソリと取引していたのが露見した。

 客の一人が不注意にその話を漏らして、ウィズに聞き咎められてしまったのだ。

 

 あくまで魔道具の付録というアピールか。はたまた、帳面上でウィズを誤魔化すための小細工なのか。

 強欲悪魔の真意は定かでないものの、ガラクタを買ったお客へのプレゼントという態で配布していた。

 表看板は何であれ。実態は、グッズを餌に不良在庫を押し付ける抱き合わせ商法だ。

 ただし近頃は、そうやって取り繕うことすら億劫になったのだろう。そこら辺で拾った石を、高値で売りつけていた。

 客の側も、投石は冒険者の嗜みとかほざいて、素直に金を払ったらしい。

 そうまでして、ウィズのセクシー写真が欲しいのか。

 しかも昨日に至っては、ポスターやウィズの声を封入した目覚し時計を、オークション形式で直球に売り出したとか。もはや、本音を包み隠そうとの努力すら見て取れない。

 

 なお、ウィズだけでなく、私を題材にした写真も売り捌いたという。

 よくもまあ。

 その点をウィズは槍玉に挙げ、糾弾のため私を味方につけようとしてきた。

 

 だが、私はこれに応じない。

 この件については、私は結構前から察知していた。その上で、怪しげな商売を別段掣肘していない。

 いや。もう諦めた、というのが正しいか。

 

 私とて、写真を撮られるのは本意でない。

 いやだって、メチャクチャ後ろ暗い人生を歩んでいるし。そんな物証を残しておいたら、いざというときに困る。

 だから、そういった映像記録は作らないよう立ち回っていたのだけど。私がバニルの裏ビジネスを気取った頃には、もう手遅れだった。

 写真は、とうにばら撒かれた後だった。回収するには時間が経ちすぎている。今さらすべてを押さえるのは、土台不可能だった。

 

 ということで。発想を転じて、金儲けの利を不承不承黙認した。

 目の前で売買されたら、いくらなんでも止めるけど。見えない場所でやり取りする分には、見て見ぬ振りしてもいい。

 私とバニルの間では、そういう暗黙の了解が成立している。

 写真を原因に何か不都合が発生したら、悪魔に責任を取って対処してもらう所存だ。

 

 そう述べると、隠し撮りされて売り買いされるのに思うところは無いのかと、ウィズから追加で追及される。

 まあ、確かに不快ではあるけども。私に直接害が及ばないなら、別にそこまで目くじらを立てなくてもいいかなと。

 それを言うなら、先日のアクア謹製の造りが細か過ぎる人形や、喫茶店に巣食うサキュバス連中のやっていることのほうが、遥かにタチが悪いと思うし。

 

 

【惨劇の誕生日パーティー】

 本日は私の誕生日。

 ということで、私のお誕生会がひっそりと開催された。

 

 当の私はどうでもいい。ただ、ウィズが毎年この時期になると発奮するのだ。

 そのため、アクセルに移住した最初期からの慣習となっている。

 当然の帰結として、年齢は年々増加する。今となっては終わったことだが、まだ成長期だった頃は背も伸びていた。

 ウィズにしてみれば。誕生日を祝うのは、過ぎ去った日々を偲び、否応なしに我が身の境遇を直視させられる苦行に等しい。

 他の人ならそこまで行かないが、私とはほぼずっと共に居る。思い出も多い分だけ、色々と想起してしまう。

 彼女には、行き遅れのコンプレックスがある。年齢詐称までして逃避するくらいだ。故に、これは非常に辛い。

 

 具体的に述べると、誕生日会の都度、私との年の差が縮むにつれてウィズの目から徐々に光が失われてゆく。

 何でわざわざ、現実からサンドバッグにされるセルフ拷問に身を晒してるのだろう?

 もういいのではと、せめて誕生日会は終了しないかと前々から進言しているけど、ウィズは頷いてくれない。ここまで続けたのだからと、変に意固地になっている。

 

 そういえば。昨年だけは、誕生日会をやった記憶が無い。

 はて、なぜだったろうか。首を傾げて回顧しているうちに、ピンとくる。

 去年は、それどころでなかったのだ。

 ヴァンパイア討伐へと赴いたウィズが、アクアに諸共成仏させられかける事件があった。以後、一週間ほど彼女は寝込んだ。

 私の誕生日は、ちょうどその最中に重なっていたのだ。

 さらに、ウィズが復帰する前には、新人バイトのバニルが加入するイベントも起きた。その関連でごたついていたため、誕生日にまで目が向かなかったのだろう。

 

 過去に綴った手記の記述を参照するに、前回の誕生日当日はアクアが襲来したらしい。

 遊ぶ金欲しさに機動要塞の人の手記を買わされたり、謎の石ころコレクションを押し売りされそうになっている。

 なお。誕生日については、一言も書いていなかった。

 思い入れがないから、取り立てて意識に上らなかったようだ。

 街の知人から誕生日を寿がれた覚えがうっすらとあるから、丸っきり忘れていたわけではないはずだけど。

 

 今日の誕生日会へと話を移そう。

 参加者は、魔道具店の一同はもちろんとして、ゆんゆんもいた。

 初春には、ゆんゆんを店に呼んで誕生日を祝している。そのお返しということで、彼女は異様に気合が入っていた。

 当時の関係者だと、仮面悪魔は誕生日があるのかすら判然としない。地雷のウィズは言わずもがな。

 まともに誕生日を祝える相手が、消去法で私くらいしかいない。

 ぼっちのことだし、友人の誕生日を祝福した経験など無いのだろう。どんな闇深エピソードが飛び出すやら知れたものではないから、追求はしないけど。

 自宅で育てているサボテンの誕生日会を独りで催した、とか言い出しかねないし。

 

 ともあれ。ウィズからのプレゼントは、例年のことではあるものの、今回も手記だった。

 これに関しては、私がそうするようにと指定している。

 店の財政模様は、常に予断を許さない。ゆとりがあったはずが、そこから一刻もしないうちに巨額の赤字を拵えて借金に喘ぐ羽目になる。なんて事態はザラにある。

 これを鑑みて、懐具合に振り回されないよう適当な品物で手を打たせている。

 誕生日の贈り物自体いらないけど、それは言っても聞き入れてくれないし。

 

 私の習慣について初めて知ったゆんゆんが、ウィズと二人でひそひそと話し出した。

 手記にどんなことを記しているのか、好奇心が刺激されたらしい。

 私はゆんゆんに忍び寄ると、ボソリと釘を刺す。

 覗き見を企んだら、ゆんゆんがつけている日記を、冒険者ギルドに設置してある拡声魔道具のアナウンスで街中に朗読する。

 さすがにハッタリだ。まだ行動しないうちは、そこまではやらない。

 だが、嫌がっているのはヒシヒシと伝わったのだろう。彼女は顔を真っ青にして、首をブンブンと縦に振った。

 ウィズはこの苛烈なリアクションに半眼となって、一体何が書いてあるのかとむしろ怪訝な視線を注いできたが。

 

 載っているのは危険なネタばかり。万一にも読まれては堪ったものではない。

 最近は奔放なアクア対策で、隠し場所にも気を遣っている。一度、お金に換えられる物はないかと店中を漁るウィズとアクアのコンビに、探知魔法で見つかりかけたけど。

 私にしては、ゆんゆんへの対応はかなり優しい部類だ。

 ダンジョンアドバイザーに勤しんでいた時分、ゆんゆんが死んでもやむ無しかなと、内心で妥協していた点はひとまず棚に上げる。

 

 なおこの誕生日会、ウィズのとある言を境に、一気に暗雲が垂れ込める。

 

「これで二十一歳ですか。……とうとう私も追い越されてしまいましたね」

 

 ケロッとした顔で抜かした。

 この女、街の人々を巻き込んでウィズの誕生日をサプライズで祝ったあの夏の一幕を、サラッと無かったことにしている。

 あれ以来、ウィズは巷で二十一歳として周知された。今の私と同い年だ。

 いや、それもおかしいけど。とにかく、そういうことになっている。

 同様のことに思い至ったゆんゆんが、サッと顔を青褪めさせた。彼女は、件のウィズのお誕生日会に顔を出している。

 不用意な一声で、場が一瞬にして凍りついた。

 

 そこに空気を読まないバニルが、ズケズケと指摘する。

 いつまで二十歳気分なのか。大勢の人に祝われて、今では立派な二十一歳だろうと。

 仕組んだ元凶の分際で、ふてぶてしいことこの上なかった。

 直後、閉め切っているはずの室内に、冷気の風が吹き荒れる。

 飾ってある花が、瞬く間にドライフラワーへと早変わりした。

 心のデリケートな部分を踏みにじる無神経な言葉に、ウィズの堪忍袋の緒がプッツンして、凍てつく魔力を撒き散らしたのだ。

 

 それから多少の応酬を挟むと。両名は決闘のため、主役の私を放ったらかしにして街の外へと繰り出した。

 また、この流れなのか。前にもやったのに。

 こうなっては、祝賀ムードではない。集いは打ち切りと相成った。

 私はどっちでもいいが、ゆんゆんとゼーレシルトは、二人の成り行きを案じるので頭が一杯だったのだ。

 

 なお。勝敗はさておき。

 ウィズは対抗のために、バニルの仕入れたマナタイトを切り札として持ち出して、決闘で全部消費してしまった。

 店に多額の負債が生まれたのは、言うまでもない。

 

 

【ゲロマズで名高い高級食材の王様】

 藪から棒に、カズマからドラゴン肉をお裾分けされた。

 誕生日プレゼントではない。商店街の福引き券で引き当てた特等賞が、よりにもよってドラゴン肉だったらしい。

 

 庶民向けの座興で、そのような高額アイテムが排出されるとは。

 誰が得するのだろう、こんなゲテモノ。

 ひょっとすると、発注に手違いがあったか、どこぞの富豪に取り寄せ予約をキャンセルでもされたのやもしれない。

 それで買い手がつかず処分に窮し、急遽福引き品に据えてお茶を濁したとか。

 ナマモノだから足が早いし、価格的にも景品に向いているとは言い難い。商店街による陰謀の気配がする。

 

 まあ、真相については私の関知するところではない。

 貰ってしまった肉の処理が悩ましい。

 高級食材とは、基本的には美味しくて経験値が豊富だ。

 だが、ドラゴン肉はその例外。味は良くない。というか、ハッキリ言って不味い。

 肉食獣特有の臭みがある。脂肪がほとんど無い筋肉の塊なので硬い。

 高価なのは、経験値はおろか、ステータスを向上させる効果まで備えているからだ。それでも、打倒魔王軍に燃えるような貴族ですら、口にするのは躊躇する。

 

 もっとも。一口にドラゴンと言っても、種類は千差万別ある。

 これが例えば、食肉として牧場で丹精込めて飼育されたレッサードラゴンならば、王侯貴族の肥えた舌すら唸らせるだろう。

 此度に関しては、食べられたものではない王道タイプのドラゴンだから、まったく何の慰めにもならないけども。

 だからこそ、カズマもこうして強引に手渡してきたのだし。

 

 どういう了見で持ってきたかというと、私なら何だかんだで食すると判じたとか。

 

「だって、最強のモンスター、ドラゴンだぞ? 虚弱体質だって改善するかもしれないんだ。だったら、試してみるんじゃないかと思ってさ。……俺なら絶対ごめんだけどな」

 

 腹立たしいほど的確な分析だった。

 メデューサを手伝った折に、あれやこれやと語りすぎたかもしれない。

 

 私の判断基準は、利害と要否の二語で概ね説明がつく。

 本件で言うと、私のフィジカル面でのステータスはとっくにカンストしてしまっている。レベルアップによる伸び代はもう無い。

 しかし。ドラゴン肉ならば、その限界を僅かでも突破できる望みがある。

 それによって日常生活での不便を軽減できるのならば、挑戦する価値はある。

 

 そして私自身の好みや心情は、そこに斟酌されない。完全に埒外となる。

 非合理的で、不純物だと捉えてしまうためだ。これはもう、どうにもならない私の悲しい習性と評するしかない。

 どれだけ味が微妙で、食べたくないなと心中では嫌っても。有益と評価すれば、ブツブツと文句を言いつつしっかり平らげるだろう。

 だから今日のように、感情と言動が乖離する場面が出てくる。

 

 というわけで。私は嫌そうな表情を浮かべながらもドラゴン肉をすんなり受け取るという、相反する動作を顕にした。

 実行した張本人なのに、カズマはこの私の反応に引いた。

 私情を当たり前に切り離し、フラットな視点で最適解を選べるというのは、彼の感性からすると大層おっかないとか。

 知ってる。至極ごもっとも。

 ただ。女に色目を使われると誰にでもホイホイ惑わされる男から言われても、イマイチ釈然としない。カズマは逆に、理性をもっと強く保持してほしい。

 

 今晩は思い切ってステーキにした。

 肉の正体を承知してないウィズが物欲しそうにしたので、一切れ分け与えた。すると、一口噛み締めるやそっと渋面を作り、もういらないと拒絶の意思を表明する。

 空腹に万年苛まれるあの欠食リッチーが敬遠するのだから、よっぽどだ。

 素材の良し悪しがダイレクトに反映される料理なので、致し方ない。

 

 ドラゴン肉はまだまだ余っている。一人で食べ切るのか、これを。

 当面は、私の献立がドラゴンづくしとなるのが確定してしまった。

 

 

【仮面の大男が、年端の行かない少女を餌付けする事案】

 ウィズ魔道具店にて。

 私が出先から帰還するや、真っ先に衝撃的な光景が飛び込んできた。

 

 バニルが、自らの膝の上へと見知らぬ白髪の幼女を座らせて、頭を撫でていた。幼女は意に介さず、黙々とお菓子を頬張っている。

 いたいけな女の子を食べ物で釣って、イタズラする変質者の図だ。

 しかも、よくよく見ると、バニルは頭を撫でているのではない。髪の毛を採取している。

 変態度合いがますます上昇した。

 

 ただし。つぶさに観察するに、この幼女は人間ではないように見受ける。

 瞬時にそうと看破できたから良かったものを。状況の見極めに時間を要して、入り口で立ち尽くしかけた。

 何かしら訳アリなのだろう。

 危うく、バニルがそっちの性嗜好に目覚めたのかと勘違いするところだった。

 

 私が登場するや、幼女ははたと匂いを探るように鼻をスンスンさせる。

 そしてこちらを一瞥すると、振り返ってバニルにお菓子のお礼を伝えて。逃げるようにそそくさと店を立ち去った。

 退出する彼女からは、仄かな怯えの色が窺えた。

 

 はて? 私は訝しんだ。

 あの幼女、姿形こそ幼子だが、内面は人間とは程遠い。私の見立てによると、見慣れない大人に物怖じする、見目相応の精神は有していないはずなのだけど。

 直前の振る舞いにも違和感が残る。彼女、何を感じ取ったのだろう?

 

 それは置いておき。

 幼女について、直ちにバニルを質す。特に、幼い身なりの子供を軒下へ連れ込んで、白昼堂々何をしていたかを。

 これが妄想逞しいゆんゆんなら、早とちりしたに違いない。ロリコンを難詰する、さぞ緊迫したシーンとなっただろう。

 生憎私とバニルしかいないので、普段の雑談のノリだけども。

 

 悪魔によると、彼女はあのホワイトドラゴンだとか。

 それも、人化の術を覚えた上位種だ。

 ホワイトドラゴンというと、一時期取り沙汰された噂が思い浮かぶ。

 牙や爪を所有すると幸運値が上がる。血肉を食らうと不老不死になれる。

 よくある与太話だが、これを真に受ける輩が相次いで乱獲が横行した。どころか、現在でも需要はある。そんな惨状で、すっかり絶滅の危機に瀕している。

 そのレアモンスターと、こんな片田舎の街中で通常エンカウントするとは。アクセルの魔窟っぷりも、いよいよここまで来たか。

 

 バニルはお菓子を対価にして、爪や髪を分けてもらっていたという。

 ドラゴンだけあって、その全身は宝の山。少量でも、素材は高く売れること請け合いだ。

 それをお菓子とトレードしてくれる。大金に化けるのは確実なのだから、バニルとて諸手を挙げて歓待するに決まっている。

 あの幼女は本来、バニルと一戦交える意図で足を運んだそうな。だが、差し出したご飯に誘惑され、たちまち飼い慣らされあんな構図になったという。

 誑かしているとの第一印象は、存外間違っていなかったのでは?

 

 ここまで傾聴した私は、彼女が逃亡した事情を遅ればせながら察する。

 私の今日のお昼は、ドラゴン肉で生姜焼きを作った。

 匂いは落としたつもりだが、ホワイトドラゴンの鋭敏な嗅覚をもってすれば、まだ十分に残り香があったのだろう。

 あちらにしてみれば、私はドラゴンの死臭を垂れ流す猟奇的殺人鬼に映ったと。

 なるほど。食事のリラックスタイム中に突然そんなのが湧いて出たら、強い弱いとか無関係にビビる。食欲が一発で失せる。

 今夜はドラゴンシチューをじっくり煮込む予定でいたけど、やっぱり再考しよう。

 

 話を戻そう。

 彼女、何とダストの縁者だそうな。彼を訪ねるため、遥々アクセルを訪ったという。

 今日は単独だが。昨日は、あのチンピラが保護者として連れ立って来訪したとか。私が留守にしていた合間に。

 言われてみれば、ダストが子連れで街を徘徊しているとの風評が広まっていた。日頃の素行が最悪なせいで、身代金目当てで誘拐に着手したのではと不安視されていたが。

 

 推定ながら、あの男の出身は隣国のブライドルだったはず。

 そしてかの国において、槍の腕前では王国一と謳われた優秀なドラゴンナイト。その相棒が、ホワイトドラゴンだったと喧伝されている。

 ダストが、元貴族で騎士なところまでは確信していたが。もしかして、例のライン・シェイカー本人なのか。




・アクセル警察署のツートップ
ややこしいが、署長は脱いだら凄いと評判のアロエリーナ。副署長は、脱いだらエロいと評判のロリエリーナ。
原作十五巻並びに、よりみち一巻『アクセルの爆裂探偵』をそれぞれ参照。

・レッサードラゴン
原作六巻では、ベーコンとして朝の食卓を彩っている。
ドラゴン牧場の存在は八巻にて言及があるが、そこが生産元という部分は『鶏で言う若鶏枠なのでは?』との仮説に基づいた独自設定。

フェイトフォー(ホワイトドラゴン)の来訪
本作では魔王軍が不活発で、戦争スケジュールが大きく後ろにずれ込んでいる。
その余波で、本来ならば魔王軍の大規模侵攻計画への対策協議がトリガーとなるフェイトフォー(というよりリオノール姫)の来訪が、原作よりも遅い。
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