とある魔道具店店員の手記 作:シュワシュワ
【森での変事】
森の悪魔に賞金が懸けられた。
このところ、冒険者ギルドで注意喚起されている悪魔型モンスターだ。現時点では街付近の森にていくつかの目撃談があるのみで、詳細は判然としない。
元来、あの近辺を縄張りとするモンスターはとっくの昔に撲滅させている。森の表層にもモンスターは残ってない。
おかげさまで、戦いの心得のない一般市民も安全に採集に赴ける地となっている。
そのはず、だったのだけど。
本来は森の奥深くにて生息していて、そうそう目にすることのないモンスター。それらが森の入口、街に程近いところまで出張ってくるようになっている。
街の防衛上、見過ごせない情勢だ。
だが反面、冒険者にとっては歓迎できる向きもある。
このモンスターを間引くため、討伐クエストが数多く発注されている。つまりは、飯の種が急速に増えた。
彼らからすると、新しい稼ぎ場スポットが降って湧いたようなものと言える。
現に、空前の森でのクエストブームが到来している。乗り遅れるなとばかりに、我先にと森へ乗り込んで駆除に熱を上げている。
そんな最中で目撃者が相次ぐようになった、謎の悪魔。近頃の異変は、悪魔に怯えたモンスターが逃げ出して生じているのでは。ギルドはそう推論を立てた。
もしや、この悪魔はバニルなのではと私は訝しんだものの。別段そうでもないらしい。伝え聞く特徴が欠片も一致しない。
まず、仮面悪魔は魔王軍幹部で大物賞金首。指名手配されている。この見立てが正しいなら、今頃もっと大事になっている。
それに、街の傍らまで来ていれば、一度くらい店に寄るだろう。
それにしても、平和が取り柄なアクセルの街でこのように剣呑な騒動とは珍しい。
【ダンジョンでは純粋に有能な武闘派店主】
ウィズが帰還した。
世界最大のダンジョンにて、数日がかりの探索を行って、魔道具の材料となる素材集めに勤しんでいた。これは、さしたるイレギュラーもなく完遂したという。
そして収集した品々を用いて、彼女は早速変な商品開発に着手しようとした。
もうこっちで外注するから、リッチーらしくジメジメとした地下迷宮に引き籠って、モンスターとだけ戯れていればいいのに。
さしものウィズも、ダンジョンで散財してきたことは無いし。
なお。非戦闘員の私はその間大人しく店番だったものの、案の定の閑古鳥。特筆することは、何ひとつ無かった。
改めて思ったけど、店に拘束されると能動的な行動が取り難い。とりわけ情報収集とか、そういう方面で。
アクセルは、私のホームグラウンド。
手隙の合間を縫っての片手間ながら、私が数年の歳月を費やしてじっくりと構築してきた情報網の体制は、一種の完成形へと到達している。
もはや、私が直にあちこち歩き回る労力を割くまでもなく、街中の多様な事象を情報として集積することは容易い。
それでもタイムラグはある。よりリアルタイムに近い新鮮な情報を得ようと思えば、自分の足で稼ぐ以外にない。
何やらここのところ、街全体が喧騒を増している感がある。
私としては、今後の動静を慎重に見極めていきたいところだ。
【紅魔族コンビに関する所感】
顔を出した冒険者ギルドにて、荒くれ者が集う空間には似つかわしくない風景が視界に飛び込んだ。
隅のテーブルにて、カード遊びに一人興じている少女。
というか、ゆんゆんであった。
姿を目にしたのは随分と久し振り。
周囲からあれこれ積極的に話を仕入れていたので、彼女がアクセルに来訪して滞在中だというのは聞き及んでいた。
ぶっちゃけ、初めてゆんゆんの名前を耳にした際は、一体どこの誰だったかパッと思い出せなかったけども。
正直今も、コミュ障っぽいくらいしか印象に残ってない。
というか記憶違いまたは分析ミスでないなら、あのときと比べて僅かながらコミュ障が悪化しているような……。
元をよく知らないから、ほとんど直感の感想だが。
様子を見るに、本当に冒険者としてやっていく心算のようだ。
知る限り、ゆんゆんが冒険者を志している感触を以前の私は感じなかったが。
まあもう、結構前の話ではある。ローティーンの少女だし、きっかけひとつでコロッと心変わりすることもあるだろう。
ところで。ゆんゆんの風聞を、私はまったく聞かない。
空気の如く、いない子扱いをされてるのではと勘繰ったほどだ。てっきり、もう街を発ったのかと思った。
だが、奇妙な話だ。
アクセルは駆け出しの街故に、下級職が大部分を占める。成り手の少ない魔法使い、それも上級職のアークウィザードが登場したとなると注目度は抜群。引っ張りだこだろう。
実際、もう片方の紅魔族めぐみんは――初期はその通りだったし。
ところがこの一週間、めぐみんと反して、ゆんゆんの噂は聞こえない。冒険者界隈を特別注視する私の耳に何も入らないのだから、これは尋常でない。
そんなの、他冒険者との交流が皆無という、極端な奇行に走らないと起こり得ないのに。
クエストをガン無視して、ひたすらアルバイトに精を出しているパターンなら、二名ほど思い当たる節はあるものの。
仮に、彼女がぼっち体質で自分から声をかけられないとしても、パーティー募集を出せば申し込みは殺到する。
それすら躓いて、お試しパーティーすら今日まで満足に組めていないなら――それはもう、余程のことだ。
噂といえば、めぐみんも。
当人はまだお目にかかれてない代わりに、悪評だけは様々聞こえてくる。
モンスターを見るや、ところ構わず爆裂魔法をぶっ放すとか。頭のおかしい地雷女とか。
新人デビューの、逆スタートダッシュに見事成功している。早くも独走態勢だ。
ここ何日か、街の近郊で派手な爆発音がするようになったと思ったら。これもめぐみんの仕業らしい。
爆裂魔法をもう習得して、しかも発動できるとは。にわかには信じ難い。
ウィズに聞いたから知ってるが、この魔法は桁外れの性能に比例して、恐ろしく燃費が悪い。優れた魔法使いが円熟の域に達して、やっと撃てるかどうか。それくらい魔力をドカ食いする。
駆け出しの身で使えるなら、よっぽど馬鹿げた魔力ステータスをしてるに違いない。
確かに彼女ならいつか爆裂魔法も使えるかも、と夢想したことはあった。だがそれは、大成した未来の話のつもりでいたのだけど。
とはいえ。爆裂魔法は、ウィズですら連発はできない究極魔法。どれだけ才能に恵まれようと、この点はめぐみんも同じだろう。
数人パーティーが基本の冒険者で、魔法の一発でお荷物になるとか。仲間の負担が大きすぎて、迷惑極まりない。
めぐみんが何をしたいのか、全然見えない。
噂を真実と仮定して考察するなら、爆裂魔法一本で身を立てようと大真面目に企てている辺りが妥当な結論に――いや、妥当か? これ。
私も、ちょっと困惑している。
紅魔族の習性は概ね解した気でいたけど、あの二人でそれも分からなくなってきた。
ちなみに。トランプタワーの建築に熱中していたゆんゆんには、声はかけずにスルーして踵を返した。
タワーの積み上がり具合から、長らくそうやって過ごしていたのが窺えた。酒場に居座る割に、特定の待ち人はいなさそうに映る。
しかも、嫌に慣れた手つきなのが怪しい。
諸々を勘案すると、何だか重そう、仲良くするとかえって面倒臭そうな予感がした。
アクセルに住んでいるなら、そのうち会うこともある。
私は問題を先送りし、将来の自分へ託すことにした。彼女から覗く不穏さに恐れをなしての、戦略的撤退だ。
【二体の上位悪魔について】
例の森の悪魔に関して、討伐隊が組まれる決定が冒険者ギルドで下された。
何でも、上位悪魔と判明したとか。
遭遇した冒険者の証言によると『真っ黒で巨大な魔獣』を捜していると語ったそうな。
その獣がペットか儀式の生贄か、そこら辺は何とも言い難いが。ギルドはこれを、初心者殺しと推測している。
私としては、悪魔の背後関係が気がかりというか。怪訝に思うところがある。
一旦話は逸れる。少し前にアクセル近隣の街道で、女性型の上位悪魔が乗り合い馬車を襲撃する事件があった。
これは激闘の末に、紅魔族の少女が討ち取ったという。
多分あの二人のどちらかだが、護衛クエストではなく乗客として乗り込んでいたようで、ギルドにも詳しい報告は上がってない。
謀のような悪意に対して鋭敏な私の勘は、この女悪魔と此度の森の悪魔に、何らかの繋がりがあるのではと違和感を訴えている。
短期間に上位悪魔複数が辺境に現れるのは、無いとは言わない。ただ、偶発的には滅多に起きない。
それに、馬車を狙った女悪魔の行動にも疑問が残る。
悪感情を生み出す人間を無闇に傷つけて数を減らすのは、悪魔にとってデメリットでしかない。グレムリンのような知性に欠ける下級ならばまだしも、高位の悪魔が人を襲うのには相応の理由が付随する。
例えば、誰かと契約を交わしていて、その遂行のために馬車にカチコミしなくてはならなかったとか。
悪魔は約束事を遵守するから、それなら腑に落ちる。
考えられるケースで最も厄介なのは、この上位悪魔二体が同じ契約者を主に持つ同僚同士なときだろう。
悪魔にとって、契約相手とは誰でも良いわけではない。少なくとも、自らが認めた人物でないと契約を結ばない。
冒険者時代のウィズも、文字通りすべてを振り絞った死闘を経てバニルに認めさせて、ようやっと契約へ漕ぎ着けた。
上位悪魔を複数体従えるというのは、それ自体が既に只事ではないのだ。
もしもそんな者が実在するなら、話は野生の悪魔が近場を徘徊している程度のスケールでは収まらなくなる。
それこそ元凶次第では、ウィズが出陣する事態になるやもしれない。
ところで、隣街のアルカンレティアでも女悪魔が出没したとか。
うじゃうじゃと湧いて出る水の女神を崇める選りすぐりの狂信者に血走った目で追い回され、最後は這々の体で街から逃亡したそうな。
日付的にも、直後に馬車を急襲して返り討ちに遭った悪魔と同一個体と思われる。まず、馬車がアルカンレティア発だし。
魔王軍も関わり合いを避けるアクシズ教の総本山に、悪魔の身で単身乗り込むとは。大した度胸というか、狂気の沙汰というか。
あの街、並の上位悪魔なら単騎で滅ぼせる聖職者もいるのに。
どうやら悪魔は、頭がおかしいと評判のアクシズ教徒に絡まれた挙げ句に、別ベクトルで頭がおかしいと評判の紅魔族に魔法で消し飛ばされたようだ。
哀れな。こうまで散々に振り回されて女悪魔が目的すら達成できていなければ、道化だ。きっと死んでも悔やみきれまい。
もっとも。残機があるなら、もうどこかで復活はしてるのだろうが。
【いつもの】
まったく笑わせてくれる。
ウィズが、結成される森の悪魔の討伐隊に対して、治療用ポーションの差し入れをすると世迷言を言い出した。
絶対言うと思った。だから伏せておいたのに。
こういうときばかり耳聡くて困る。
これが相談なら、まだ反対意見を唱える余地があった。が、この女は確固たる決意と共に、とうに決断している。
私が伝達されたのは、ただの決定事項だ。
百歩譲って、差し入れはいい。
店の宣伝だの、世間での評判を得るためだの、必要経費と割り切ればメリットとて無いわけではないから。
だが。彼女は、在庫のポーションを全放出する腹積りでいる。
許容できない。暴挙でしかない。店が傾くだろう、それは。
当店が並べる治療用ポーションは、パッとしない駆け出し風情では逆立ちしても買えない超高級品。高給取りなエリート冒険者垂涎、一流の品揃えとなっている。
どうして駆け出しの街で、そのふざけたラインナップを買い入れたのか。
ともあれ。そんなのをタダでばら撒かれては堪らない。またしても、負債が目を覆わんばかりの惨状と化してしまう。
この大変な時分に、街の住人として冒険者を支えるのは当たり前だと。ご大層な言説をウィズは振りかざす。
おこがましい。
心意気は立派だが、実態が伴ってない。パンの耳と砂糖水が主食で、むしろ支えてもらわないといけない貧乏人の分際で何を抜かすか。身の程を弁えてほしい。
喧々囂々のやり取りの末に、ストックの全放出だけは辛うじて食い止めた。
人の話に耳を貸す気のない相手を説き伏せるのは、私でも骨が折れる。
そんなに人助けがしたいのなら、いっそ討伐隊に参加してしまえばいいものを。だが、それは良くないとウィズは言う。現役冒険者の仕事を横取りしてしまう、と。
若者の食い扶持を掻っ攫うロートルなんて傍迷惑な老害だから、一理あるのは認める。
その討伐隊だけど、支度は現状滞りなく進行している。冒険者らの士気も高い。
街のエースとして勇名を馳せるレックスの一党に、国内でも有力株の一人として躍り出た魔剣使いミツルギも、陣容に名を連ねている。
今のアクセルが投入できる戦力としては、全力に等しい。
全ポーションを吐き出してないだけで、うちの店は陰ながら彼らをサポートして、借金まで拵えてしまった。
叶うなら、それに見合うだけの成果を上げてもらいたいものだ。
ところで。ポーションの差し入れでギルドへ出向いた折に、ゆんゆんを見かけた。
どうもこちらを覚えていたらしい。一瞬目が合うと、酷く驚かれた。
ウィズはともかく、一年弱前の、当時添え物に過ぎなかった私のことまで一々記憶されているのは意外だった。会話したことすらないのに。
しかしながら。討伐隊の準備で、戦場さながらの慌ただしさを呈するギルドで、用事を終えた部外者が屯しても邪魔なだけ。ゆんゆんには、笑顔で会釈だけして場を離れた。
それだけ、だったのだけど。
これに彼女は慄いて、瞬く間に瞳が真紅に輝き始めた。興奮した紅魔族は、物理的に目が光るのだ。
これにギョッとしながらも観察すると。私の頭脳は、構ってもらえたゆんゆんが喜びで感極まっているだけ。との解析結果を告げてくる。
いや、まさかそんな。自分で弾き出したはずの答えに私は仰天した。
だとしたら、いくらなんでもチョロ過ぎでは?
【討伐隊敗走】
ダメだったらしい。
森へ立ち入った討伐隊が進軍していると、件の悪魔より奇襲を受けてミツルギが重傷を負う。そして脱落した。
早々に主力が落ちたのが致命的だった。
ただ。それだけでなく、ターゲットも想定を遥かに超えて強大だった。残ったメンバーでは太刀打ち不可能だと戦意喪失して、すぐさま退却を選ぶくらいには。
上位悪魔と一口に言っても、内実は複雑。押し並べて強力なのは疑いないものの、実力はピンキリある。
そして森の悪魔は、上位悪魔でも上澄みに位置する怪物だったようだ。嘘か真か、魔王軍幹部級とも叫ばれている。
こうなってしまうと、アクセルの冒険者では打つ手が無い。
怪我人が多数出た。その上で挽回の策も無いとなると、当面は何もできない。
けれど、そうも言ってられない。
実に間が悪いことに、魔王城で動きがあった。方々がその対応に追われていて、余所からの援軍は望めない。無理でも何でも、自分たちだけでどうにかするしかない。
幸いにして、悪魔が街へと攻め込んでくる素振りは無い。放置しても、即座に街の危機へは直結しないと思われる。
どころか、悪魔の脅威度からすると、討伐隊が被った損害は控えめだ。降りかかる火の粉を払っただけで、先方には人間を害する意志は無いのやもしれない。
優先度の都合だろうから、結局は悪魔がどんな思惑で森を彷徨っているかに依るが。
……ウィズのこと、完全に忘れ去られている気が。
ギルドは現在、悪魔に対抗する手段を模索している。にもかかわらず、かつて凄腕冒険者として鳴らしたウィズへと助力を請うて来る気配は、一向に無い。
これまた奇怪な。首を捻るしかない。
しばらく平穏で助太刀を求められる機会が無かったし、さてはド忘れされている?
昨日もポーションを配りにギルドへ顔を出しているのに。もしかして、一介の商人としか認識されてないとか。
話は変わるが。
この晩、共同墓地へ供養に出かけたウィズが、しょぼくれた顔つきで帰ってきた。悲しい出来事があったとか。
稀なことに、夜の墓地で若い女性らしき二人組が彷徨く光景を見かけたそうな。
思わず近寄って話しかけようとすると、途端に全速力で逃走された。ショックを受けたウィズは呆然と立ち尽くした。
いや、順当では?
話を傾聴した私は冷めていた。大方、アンデッドの類と思われたのだろう。事実、その通りではあるし。
暗がりで、相手の輪郭はぼんやりとしか捉えられない。まじまじと見ると、目につくのは不健康そうな青白い顔に、全身を包み隠すローブ服。なるほど。不気味だし、怖い。
消沈したウィズは、次回は私にもついて来て欲しいという。
もう私はあそこに用は無い。シンプルに煩わしい。
私が墓地へと立ち寄るのは、リッチーの魔力に当てられて活性化するアンデッドを退治してのレベル上げ。延いては、身体能力のステータス向上を図っていたから。
支援魔法抜きだと、日常生活にも支障をきたす虚弱体質は洒落にならない。
だがそれも、前回のレベルアップ時の上昇がゼロだったために終息した。
いわゆるカンスト現象、成長限界だ。まだ駆け出しレベルなのに。
魔力等他の数値はなおも順調に伸びている。だが、最重要項目が目も当てられない有り様で打ち止めとなってしまった。
そしてそうなると、私が共同墓地にこだわる所以は特段無い。
ふと、先程のウィズの話に関連して思いつく。率直にそれを口にしてみた。
よくよく考えると、薄暗い時間帯で目撃するウィズは、特徴のいくつかがゾンビと符合している気がする。
【お客様への誠実な対応を心掛けております】
私が外出している間に、ゆんゆんが来店していたようだ。
応対したウィズから、そう伝えられた。
久々の再会。積もる話もあるかと思いきや、そうはならなかった。
予定でも立て込んでいたのか。彼女は急くように入り用のアイテムを購入すると、足早に引き返していったとか。
そんなわけだから、ロクに語らったりはできていない。
果たして、そうまで急いで何を買ったのか。
何とはなしに尋ねると、パラライズの魔法を強化するポーションとの返答をもらった。
私の知る限り、うちで条件に当て嵌まる品は一種類しかない。
威力と範囲を拡大するが、拡大しすぎて魔法の使用者も麻痺で動けなくなる。そんな欠陥を秘めたガラクタだ。
あれならお手頃価格だし、高性能。だが、高性能だからこそ余計に危ない。
よりにもよって、あの危険物を買ったのか。
「『パラライズの威力と効果範囲を問答無用で強化するポーションです!』って紹介したら、即決で買って行ってくれましたよ。ほらやっぱり、うちの商品の良さをわかってくれる人は世の中ちゃんといるんですよ!」
などと、唖然とする私に対してウィズはどこか自慢気に、それ見たことかと言いたげに胸を張った。
この女、とうとうやらかしてくれた。
私は頭を抱えた。その商品説明では、語弊がありすぎる。
異次元の交渉技能持ちの私抜きで、オススメの品を買ってもらえたのが甚く嬉しいのか。ウィズは、すこぶるご機嫌だ。
それに留まらず、マウントまで取ってくる。
過去に私がこのポーションに辛辣な評価を与えて扱き下ろした発言を掘り起こし、あげつらい、上から目線で反省を促してきた。
たかが一品売れたくらいで、調子に乗りすぎだろう。
そもそもゆんゆん、商品の欠点に気づかず買ってると思う。
ウィズのあの売り文句と、裏を感じさせない自信に満ちた態度から、使い手諸共巻き込むポンコツと察せるはずがない。
少なくとも、ウィズ魔道具店ビギナーの少女にそれを期待するのは酷だ。
そういうのを虚偽説明という。最悪、詐欺で捕まる事案だ。
まだ、店で働き始めた頃。
私が騙して店の産廃を一掃しようとしたときには、そんなやり方は間違っていると痛烈に批判し、店長命令で禁じすらしたのに。
張本人がこのザマとは嘆かわしい。無自覚なのがタチが悪い。
そういうことをするなら、私とて手筈を整えたりと段取りがあるのに。事前に話を通しておいてもらわないと。
これで事故が起きれば、店の看板に傷がつきかねない。どうか、ゆんゆんには無事であってほしいものだ。
念のため、彼女の身に何かあったときに備えて保身の根回しはしっかりやっておこう。
【あなたに笑顔を届けるウィズ魔道具店、本日も営業中】
懸案となっていた森の悪魔が倒された。
昼下がり。まるで、今になってようやく存在を思い出したかのように冒険者ギルドの職員が店に駆け込んできて、森の悪魔の件での力添えを頼まれた。
しかし。蓋を開けてみると、ウィズに一歩先んじて決着したために、盛大な肩透かしを食らう羽目になった。
打倒したのは、レックスのパーティー。紅魔族二人も参戦していたという。
若干引っかかる点はあるものの、それはひとまず置いておく。
また。レックスたちはアクセルを巣立って、王都へ拠点を移すとか。
前々から移籍云々は言われていたが、この節目でいよいよ決心したのだろう。
何というか、世代交代とでも言うか。アクセルでの風向きが少し変化しつつある感がある。そんな気がする。
他方。この日、森の悪魔討伐の報が入る前のウィズ魔道具店では、間抜けなコントが延々と繰り広げられた。
ウィズが天然でボケをかましてくるから、私がツッコむしかなかったというか。
相手は魔王軍幹部クラスの強敵。ウィズと言えど、撃破は容易でない。
ならば、道具類が肝要なのは当然だ。そのために店の商品を持ち出そうとするのも、この場合は致し方ないだろう。
だが、その選定基準がおかしい。
どう考えても足を引っ張るだけのガラクタばかり率先して携えようとする。アンデッドだけあって、脳か目玉が腐ってるのか。
例えば、魔力を引き上げる効能のある魔法使い専用ローブ。ただし、魔法が使えなくなる。
そんなものを身に着けて、この女はどうする気なのか。
悪魔を爆笑の渦に叩き込んで、気分良くお帰り願うというのなら、あえて何も言うまい。バニルが相手であれば、案外一日くらいは引き下がってくれそうではあるし。
冒険者としての彼女の方針に口出しする気は無かったのだけど、こうなってはさすがに制止するしかない。
そうやって都度言い合っているうちに、森の悪魔は討伐されていた。
この女、もしかしなくても冒険者として活躍していた時期から、こんなノリだったのでは。
だとしたら可哀想に。ウィズの仲間が。
【ヤバいパーティーが始動した】
街の往来で、妙な寸劇を目撃してしまった。
主演はサトウカズマとアクア、それからめぐみん。
全員が全員、ここひと月ほど私の頭を悩ませている連中だ。
特に前者二人。
私が最重視し、冒険者登録して以来その動向を可能な限り追っていたにもかかわらず。徒労にしかならなかった。
クエストの受注どころか、あの日以降、一度もギルド受付に足を運んでいない。
街周辺で、ずっとバイトに明け暮れていたようだ。最初は勤め先が安定しなかったが、肌に合ったのか、ここ二週間ほどは土木作業に精を出していたと記憶している。
他の勇者候補とは勝手が違いすぎる。ちっとも街を旅立つ兆候が無い。
本物の勇者候補と女神だったとして、私は彼らの新天地での日雇い労働の日々を見守るため、こんなストーカー紛いの真似をしてるわけではないのだ。
そのせいでタイムスケジュール、酒場で注文するメニュー、寝泊まりする馬小屋と、別に知りたくもない二人のライフスタイルが事細かに把握できてしまっている。下手しなくても、本人以上に知悉しているだろう。
私としては脱力感に見舞われ、もういい加減調べるだけ無駄ではと思い始めていた。
それが、ほんの少し見なかったうちに冒険者のクエストを受けている。その帰路に就くところを偶然目の当たりにしたらしい。
なお。戦果は、粘液塗れのアクアとめぐみんで一目瞭然。駆け出し定番、ジャイアントトードに挑んで丸飲みにされた模様。
……カエルに捕食される女神とは?
神々は悪魔の宿敵。バニルと真っ向から争える超常の生命体と解釈していたのだけど。
アクシズ教の資料を精査して、あのハチャメチャな性格や言動は、ご神体の特徴とも合致すると明らかになってしまった。だから、判断は保留していた。
だが。やはり、自分を女神と思い込んでいる残念な女なのだろうか。
あの青髪女はアホ過ぎて、私では逆に動きが読み辛いのが弱る。
そしてめぐみん。
どんなヌルヌルプレイにも耐えるから見捨てないでと大声で喚き散らし、通りすがる人々の目を惹きつけていた。私も含めて。
この体を張った脅しは功を奏し、追放されかけていたようだけど、遂にはパーティー残留と相成っていた。
あの三人でパーティーを組むらしい。
爆裂魔法しか使えなくて、どこのパーティーからも拾ってもらえない。彼女について、そんな風評が広まっているのは伝聞していた。
どこまでが誇張かと思いきや、あれを見るに、全部合ってたらしい。
引き止め方が必死過ぎる。今まで、どれだけのパーティーをたらい回しにされてきたのか。
一連の流れを眺めて、ここに来て私はようやく理解した。
めぐみんは、普通に頭がおかしい。