とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

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1-5 首無し騎士

【秋キャベツの収穫】

 今年もキャベツの季節がやって来た。

 

 食われてなるものかと、自由のために決死の逃避行を図る空飛ぶキャベツの群れがアクセルに押し寄せた。

 捕らえようとすれば、それはもう全力で抗ってくる。

 冒険者総出で担当する収穫作業は相応のリスクを伴うものの、それを差し引いても実入りは大きい。何より今年のキャベツは出来が良く、その分報酬も割増しされている。

 冬越しの資金を蓄えたい彼らにとって、この収入は慈雨となるだろう。

 

 半ば冒険者業を引退していて、普段はクエストにノータッチなウィズも、今日は珍しくエントリーした。

 いよいよ貧困に耐えかねて、目先のお金に目が眩んだのだ。

 緊急クエストだから仕方ないだの、朽ちていくキャベツが見過ごせないだの。理論武装を固めてどうにか自身に言い聞かせているところを、この目で見ている。

 まだ、アクアの件を見定めている最中なので、私としては見送ってくれても良かった。まあ、止めはしなかったが。

 

 他方、私は大人しく店内に避難した。戦っても勝ち目が無いので。

 緊急クエストは、冒険者の全員参加が義務付けられている。

 その点では資格を持つ私は該当するも、さしものギルドも冒険者として活動してない者に出頭しろと、無体は言ってこない。そもそも、私は端から頭数にカウントされてない。

 冒険者ギルドは、道端の雑草相手に互角の死闘を繰り広げる人間に前線に立てと、鬼畜の所業を強いてくる組織ではないのだ。

 

 穫り入れが一段落すると。ウィズが持ち帰り用にとキャベツを確保してきたので、それを用いて料理を作った。

 新鮮で活きのいい一玉なら御免被る。だが、包丁で刻んで弱体化した個体なら、私でも十分に相手取れる。

 

 なお。リッチーのウィズには飲食が要らない。

 だが、飲まず食わずで平気かというと、そうでもない。空腹になって、段々とパフォーマンスが落ちてくる。前に試した。

 ぶっちゃけ、一万エリスもする取れたて野菜はウィズには不釣合いだろう。というより、単純にコスパが悪い。

 いつか余裕ができたら、そこら辺を詳しく検証してキッチリまとめたい。そして、低コストのご飯で効率よく店長をこき使うのだ。

 言うなれば、輝かしい将来の夢だろうか。

 それなりに手間を労する。私一人での実現は困難だろう。いずれバニルとも相談して、共同で当たるとしよう。

 

 

【アクセル屈指の問題児パーティー】

 助っ人を頼まれたので、朝方だけ冒険者ギルドのバイトに入った。

 キャベツの後始末でリソースを割かれる中、職員に病欠が出た。泣き面に蜂の惨状に、業務を回すための人手が足りてない。猫の手も借りたい有り様なのだとか。

 

 この突発バイトに明け暮れている只中で、衝撃的な光景が飛び込んだ。

 サトウカズマのパーティーに、あの変態クルセイダーが加入している。

 当初は、つるんでいる場面が偶々視界に入っただけかと捉えていたが、様子を眺めるにそうではない。

 クリスと別れて、移籍したらしい。

 闇鍋にさらなるイロモノを投入しても、闇の深度が増すだけに思うが。

 

 現在のあのパーティーの構成メンバーは、四人中三人が上級職。

 クラスの役割分担はハッキリしていて、回復役も兼備。チームバランスは理想的だ。カタログスペック上は。

 だが、見事に問題児しかいない。

 パッと見、華やかで有望そうなのが余計にタチが悪い。もはや、新手の詐欺だろう。

 仮にも大型ルーキーの集まりなのに、目を離したが最後、あっという間に空中分解しそうな不安に駆られる。

 

 あの個性的な面子、一体誰が手綱を握るのだろう。

 アクアは論外。ダクネスも無茶か。

 めぐみんは、爆裂魔法から一旦離れて冷静に振る舞えるのが必須。よって無理。

 選択肢がサトウカズマしかない。されど、案外有りか? 私の見立てでは、能力もリーダー適性も満たしているように思う。

 まあ、もしダメならパーティーが吹き飛ぶだけだけれど。

 もっとも。何とかなったとして、ストレスに苛まれる日常は避けられまい。あれをどうにかしろとか、私なら罰ゲームだ。

 

 あのパーティー、いつか何かやらかす。

 もしかしたら私自身も、連中の巻き起こす嵐にそのうち引きずり込まれるかもしれない。そんな予感がある。

 

 

【ポンコツ店主、成仏しかける】

 だからって、こんなすぐ渦中のど真ん中へ放り込まれてもいいとは言ってない。

 

 端的に言うと、ウィズがアクアに浄化されかけた。

 サトウカズマのパーティーがゾンビメーカー討伐のクエストを請けた。そこに、霊を供養するため共同墓地へ出向いたウィズと、綺麗にバッティングしたのだ。

 一瞥しただけで、アクアはウィズをリッチーと看破。どころか、たかがターンアンデッドで消滅の窮地へと追い込んだ。

 仲間が慌てて割り込まなければ、そのまま天に召されて、お陀仏リッチーへとジョブチェンジしていただろう。

 特に、面識のあるめぐみん、ダクネスが間に入って説得してくれたそうな。

 なお、留守番していた私は、帰宅したウィズに事後報告で伝えられて初めてそれを知った。

 

 頭が痛くなってきた。

 もう女神確定でいいだろう、あれ。

 よしんば違ったとして、ひと目でノーライフキングだと見破って、一方的に滅ぼせるのは確かなのだ。

 戦意が無かったとはいえ、バニルと五分に渡り合える強者がこのザマか。相性の悪さは承知していたが、見積りが甘すぎた。

 これは私の判断ミスだ。

 神々への私の知見は浅い。駆け出し定番のカエルに捕食されたと伝え聞くから、そこで戦力査定があやふやになったのもある。

 ちゃんと理解していればより慎重に立ち回っていた。というのは言い訳か。

 

 また。共同墓地の供養は、今度からアクアが引き継ぐことになった。

 本来それを務めるべき街の聖職者は、あけすけに言って拝金主義者。タダ働きにしかならない共同墓地には見向きもしない。

 だからこれまでは、魂の声を聞けるウィズが自発的に代行していたに過ぎない。

 

 今日の邂逅は不運な事故。だが同時に、幸運でもある。

 結末だけ見れば、成果は上々だ。

 目下最大の懸案事項であったアクアと話をつけて、見逃してもらえた。これなら街中に潜むリッチーの存在が白日の下に晒される、なんてことにはなるまい。

 ウィズを昇天させられては堪らない。私としては、彼らとは仲を深める方向で舵を切りたい。

 

 そこで早速、気になった点に触れる。

 先にも言及した通り、彼らはゾンビメーカー討伐のクエストで共同墓地に赴いた。

 調査でなく、討伐だ。

 すわなち、ゾンビメーカーの存在はギルドで裏付けが取れていることになる。だが、ウィズに確認を取ると、そんなものは見かけなかったとか。

 リッチーの魔力に当てられた死体は、アンデッドとして目覚めてしまう。

 それを調査で来た冒険者に目撃され、闇夜も相まって、ゾンビの取り巻きを操るゾンビメーカーの特徴と見間違えられたのでは。とウィズは推論を述べていた。

 

 事実はどうあれ、討伐対象のゾンビメーカーは実在しない。

 和解したウィズのことを彼らは報告できない。このままでは、クエストは失敗として処理されるだろう。

 身内の不始末であるし、彼らにはそのウィズに関して黙ってもらっている。

 この機に、恩返ししておくか。

 

 

【自己紹介】

 ゾンビメーカー討伐クエストに不備が発覚。クエストが差し戻しになった。

 肝心のゾンビメーカーが見当たらないと、ギルドが正式に認定したためだ。

 直前にクエストを受注したパーティーには、クエスト失敗として徴収されていたペナルティ料が返金。加えて、ギルド側の不手際ということで幾ばくかの迷惑料も支払われた。

 

 発端は、クエストの再調査を私がギルドに直談判したことにある。

 あの日の夜のあらましを、ウィズの正体に関わる要素は除きつつ語った。

 ウィズが主体で行っている共同墓地の供養は、ギルドにも届け出を出している。

 ギルドに追認してもらい、何かあった際の後ろ盾というか、保険としていたのだが。おかげで、今回は手間が省けた。

 

 これが実績の無い新人なら。それも問題児集団として、悪い意味で目をつけられているパーティーなら。

 ゾンビメーカーなんていなかった、と言い出しても。苦しまぎれの言い訳と見做され、真摯に受け止めてもらえなかったかもしれない。

 だが。ウィズは、誰もが知る凄腕のベテラン。信頼もすこぶる厚い。

 アクアとばったり鉢合わせると話が拗れるから、彼女本人は置いてきたが。代理の私を介してそんな人物から疑義が上がったとなると、ギルドも無下にはできない。

 こういうとき、日頃の行いの差というか、世間での評価はモロに響いてくる。

 

 こうした経過から再調査が実施されるも、ゾンビメーカーはついぞ発見できず。

 最初に調査した冒険者の判定に誤りがあったのか。はたまた、誰かが勝手に仕留めて報告が上がってないだけか。

 今となっては真相を明らかにするのは難しい。究明する意味も無い。

 唯一言えるのは、これはもうクエストとして適切ではない。

 

 きっと、調査を請け負った冒険者はきちんと仕事に取り組んだのだろう。

 よもや、伝説のアンデッドが駆け出しの街を徘徊しているとは予想だにしまい。再調査が空振りに終わったのは、元凶のウィズが墓地に立ち寄っていないのが要因と推し量れる。

 供養は、次からアクアが代わりに引き受けることになった。

 ウィズが共同墓地に向かう理由はもう無い。真実が明るみになる日は来ないだろう。

 

 というクエストが取り消されるまでの経緯を、ギルドが呼び出したパーティーの代表であるサトウカズマに、私が説明した。

 なぜ私かというと、調査クエストから始まる諸々を、統率して取りまとめていた責任者が私だから。

 どう言い繕っても、一介のバイトの職分と権限を逸脱してると思う。

 ギルドに直訴した張本人を、じゃあバイト代を出すからついでに調査もお願いと一任してくるのは大胆不敵過ぎるだろう。そんな調子だからあの女、休みも取れず、いい年して恋人の一人もできないのだ。

 まあ私も二つ返事で了承したけども。

 それは置いておくとして。

 

 ところで、先日はウィズ店長の危ないところを救っていただいたそうで。

 話が一通り終わって、そうカズマに対して切り出した。

 すると必然、彼はウィズの名に反応を示す。

 しかも、呼び方や言い回しから、どうやらただの知り合いの範疇に収まる間柄でない。相手の注目が、ただの一職員としか認識していなかった私個人へと移る。

 ちょっと驚いた風の彼の目が、まじまじと見つめるように私の目と合――わなかった。

 この男、女慣れしてない。異性と目を合わせられず挙動不審になるタイプらしい。姉妹とか多分いなかったのだろう。

 仲間三人がアレだし、今だけだと思うが。

 当然ウィズとの関係性を問われ、店の従業員と回答した。ここにはバイトで入っているだけだとも。

 

 見た目通り、私はただの人間です。

 不幸なすれ違いがあったと伺っておりますが、よろしければそのうちウィズ魔道具店にもお越しください。

 それと、さっきから野獣の眼光で謎の熱視線を遠目に注いでくるクルセイダーですが。あとで、そちらで回収しておいてもらえると助かります。本当に。

 

 

【身売りリッチー】

 私が夕飯の仕度の買い出しから戻って。

 店番だったウィズが買い物カゴの中身を検めた折に、戦慄を顕にした。

 とうとう身売りさせられるのか、と。

 距離を取るように後ずさり、絶望顔の震えた声で私に問いかける。真偽を見通そうと、こちらを窺い見た。

 

 安くなっていたサンマを筆頭に、奮発して旬の味覚を買い揃えただけなのに。

 伝聞するところによると、処刑執行が決まった死刑囚には最期に豪勢な晩餐が振る舞われるそうだが。この女、まさか……。

 彼女が私をどう見ているか、実によく分かる一幕だ。甚だ遺憾である。

 

 これからもっと頑張って借金も返していくからどうか身売りだけは、と平身低頭して素っ頓狂な懇願をしてくるウィズ。

 それを遮り、誤解を解いた。そのセリフは非常にマズい。万一お隣さんの耳にでも入れば、洒落にならない。

 なお。彼女の言う身売りとは、リッチーとして豊富な魔力を含む髪や爪を素材として売り払う行為を指すと補足しておく。

 

 今はそうでもないが、先頃の共同墓地での一件で、一時の彼女は具合がやや悪そうだった。

 キャベツの報酬も入ったし、今なら食費にも少し回せる。

 そこでたまにはと私が気遣い、いつもの主食のパンの耳ではなく、しっかりと腹に溜まる食べ物を率先して用意してみればこれだ。

 

 まあ、それはそれとして。リッチーの素材は高く売れる模様。

 それは良いことを聞いた。

 稀少過ぎて、出処を怪しまれないよう細心の注意を払わねばならないものの。それでも、とても有益な情報だ。

 今後のためにも、覚えておくとしよう。

 

 

【新しい息抜き兼玩具について】

 ご禁制のモンスター召喚アイテムが、密かに使用されている恐れがある。

 

 以前、アクセル近くの森で上位悪魔が出没する事件があった。強大な悪魔に怯えた森深部のモンスターが入口付近にまで移動して、大変な騒ぎになった。

 異変は既に解決している。ここで詳細を取り上げるつもりはない。

 不可解なのは、湧き出たモンスターの退治で冒険者が盛り上がっていた時期。森はおろか、アクセル周辺に生息していないモンスターの目撃例が小数ながらあった。

 これを冒険者ギルドは、件の悪魔が魔法で召喚したものと推測している。

 本当に?

 ギルドでのバイト中、そのことを知った私は興味を惹かれた。

 都合良くもここは冒険者ギルド。資料には事欠かない。そこで、モンスターの発生源について探ってみた。

 

 地図で出現ポイントを確かめると。一塊とまでは言わずとも、位置にはどうも偏りがありそうなのに気づく。

 これが意味するものを考察していると、その近場に貴族の館があったのを思い出す。

 街とアクセスの悪い森の中に新たに建築し、不便だろうに、わざわざそこに移り住んで過ごしている。奇妙だし、割と最近の出来事なのでそこそこ印象に残っている。

 物件はドネリー家の所有。金貸しを中心に、商いに力を入れている一族だ。

 当主カレンは未婚の若い女性だから、今から隠居後を見据えてるわけでもないだろう。

 引っ越しと家業との関連は見出せない、ようにも映るが。

 魔道具店勤めの私だからこそ、これらを結びつける要石が脳裏を過った。

 当たっていれば楽しいことになる。そんな軽い気持ちで、ドネリー家の金とモノの動きを徹底的に洗う決断をしたのがこの間のこと。

 

 で、確証こそないが、恐らく大当たりだ。

 この家が定期的に仕入れ、辺鄙な地の屋敷へと運び込んでいる品物に魔道具の材料がある。

 これらを掛け合わせると、モンスターを召喚する魔道具が作れる。

 使役は不可。召喚相手もランダム。ただ適当にモンスターを呼び出せるだけ。それだけの効果の魔道具だ。

 何が飛び出すかはやってみるまで分からない。そんな危険物故、ご法度の品だ。

 

 また、モンスターを売り捌いているとの記録もあった。随分と繁盛しているようだ。

 カモネギやゴールドアントはまだしも、ドラゴンの子供などどうやって手に入れたのやら。

 私兵や冒険者を雇って、捜させた形跡もない。入手経路は不明だ。

 他にも、売買するモンスターの品目がコロコロ変わって安定しないなど、細かな不審点は散見するが――御託はもういいだろう。

 

 私の考えはこうだ。

 ドネリー家は秘密裏に魔道具を製造している。

 魔道具で召喚したモンスターが金になるなら売り払い、そうでないなら森へと放逐する。

 あえて人のいない森に邸宅を構えたのは、邪魔なモンスターを処分して誤魔化すため。これなら露見し辛いし、何か言われたとしても、知らぬ存ぜぬを貫ける。

 それに、建物自体が召喚と放流を前提とした造りとなっている可能性が高い。

 何とも計画的だ。無論、犯罪だ。貴族と言えど、お咎めなしとはいくまい。

 

 まったくとんでもない話だ。

 このまま野放しにすると、森に捨てたモンスターで街にも被害が出かねない。いや、もう兆候はある。ウィズとてお冠だろう。

 つまりは、大義名分ができた。

 善良な貴族や商人に手を上げればウィズは怒るが、相手は金儲けのためなら無辜の人々が傷つこうと頓着しない悪党。

 早い話が、悪事を止めれば良い。そこさえ押さえておけば、手順に少しばかり問題があっても、彼女はそこまで強くは糾弾しない。

 ドネリー家は、私が手を出しても良い相手だ。

 

 ギルドや警察に報せる気は無い。

 まだ明確な実害は無いし、今ならギリギリ取り返しがつく――かもしれない。まあ他にも何かやってそうな気配はあるが。

 ともかく。通報して公にしてしまえば、どうしても厳しい処罰を下さざるを得ない。

 だからドネリー家には魔道具の製造を自ら取り止めてもらう。というより、そういう形に持ち込ませる。

 ドネリー家は厳罰を回避できる。街の皆もモンスターが消失して悩みの種が無くなる。国の偉い人も悪徳貴族が減って幸せ。

 三方良いこと尽くめ。ラブアンドピース。

 ただ、現時点で物的証拠は無い。いざ蓋を開けると勘違いで終わるかもしれないが――まあ、そのときはそのときだ。

 あそこの金貸しはかなりえげつないと、評判がよろしくない。そこに梃入れして手を引けば、ウィズにも最低限の言い訳は立つ。

 

 有り体に言って、ドネリー家は成金の成り上がり者。家格は低い。だが、言い換えると、金だけはある。

 それにあの家が営む金融業も、押さえておけば何かと利用価値がありそうだ。

 よし。ドネリー家、乗っ取ろう。

 

 

【首無し騎士、苦情を申し立てる】

 アクセルの街から北の外れ、丘の上に建っている古城。

 そこに近頃越して来た魔王の幹部ベルディアが突如、街の門前へと姿を現した。

 一大事だ。

 ただし、街を襲いに来たわけではない。

 すわ、何事かと思えば。毎日毎日、欠かさず城に爆裂魔法を撃ち込むのを止めろ。とキレ散らかした。

 つまるところ、このデュラハン。ご近所さんの迷惑行為が腹に据えかねて、文句を言うため遥々足を運んだだけだった。

 

 何というか、これだけでも一発で犯人が特定できる。ウィズではない。

 何がしたいのか、めぐみん。

 城に幹部が乗り込んだと、ギルド経由で通達があったはずだが。クエストにも多大な差し響きがあるから実感し易いのに。

 第一、城に爆裂魔法を放つ意味が、さっぱり分からない。

 

 話を進めよう。

 城への爆裂を止めろ、との要求を真っ向からめぐみんは拒否した。

 その彼女にベルディアが呪いを繰り出し、それをダクネスが庇って受け。それはそれで良しと溜飲を下げた彼は、引き返していった。

 まあその呪い、直後にはアクアにサクッと解呪されたそうだけど。

 

 デュラハンの呪いと言えば、死の宣告。

 とりわけベルディアものは、最高峰の腕前を誇るアークプリーストをもってしても解呪不能。数多の英雄を屠ってきた、最悪の呪いとして恐れられる。

 冒険者だった頃のウィズも、かつてこれに苦しめられた。

 まあ、それは人間規格の話で、アクアにはお茶の子さいさいのようだが。

 リッチーとデュラハンでは、不死の王リッチーのほうがアンデッドとしては格上。ウィズを容易く完封するのだから、格下の呪い如きが楽勝なのは当たり前だ。

 

 それにしても、城を縄張りにし始めた謎の幹部はベルディアだったか。

 街が眼中に無いとは、こんな辺境に何をしに来たのやら。

 あれから結構経ったし、大丈夫と思うけど。身バレしたら面倒なので、できればベルディアとはあまり顔を合わせたくない。

 昔、極めて個人的な事情からバニルへの生贄にあの中年を差し出したことがある。さらなる悪感情搾取のため、畜生仮面がネタバラシを実行していても不思議はない。

 刃傷沙汰云々にはならないだろうけど、恨まれてそうだ。

 幸いにも私は一般人。出会すことはまず有り得ない。叶うなら、私の関知しないところでひっそりと失せてくれると嬉しい。

 

 ところで。彼は騎士道精神を体現しており、中々律儀な一面がある。

 死の宣告が発動するまで一週間。

 呪いを解いて欲しくば城まで来いと宣言した彼は、現に同朋を助けるため城を攻略する冒険者らを、最奥で待ち構えることだろう。

 手下や罠を配置し、部屋の飾り付けを整えたりと若干ソワソワしながら。

 とっくに呪いが解かれているとも知らずに。

 あんなおかしな連中に絡まれたばかりに。あの男も不憫な。

 

 

【魔王を取り巻く巨星の一つが堕ちた】

 ベルディアが討伐された。

 冗談でも誤報でもなく、完璧に討伐された。

 王都からの来援はまだ到着しておらず。ウィズが助太刀したわけでもない。

 正真正銘、街の冒険者たちだけでこれを成し遂げたのだ。

 

 この悲報に、ウィズの手前悲しそうな顔を作っておくか迷ったものの、当の彼女はケロッとしていた。なので私もいつも通り過ごした。

 彼には少しばかりの恩はあるが、生死にさして関心はない。

 一応、福引き券の五等当たりクジ程度には気にかけていたけど。

 それによくよく考えると、彼女にとってあの中年はスカートを覗いたり、胸元に頭部を落としたり、女風呂に頭をわざと置き忘れたりするセクハラ野郎。なら順当ではあるのか。

 

 一連の流れとしては、まず、またしてもベルディアがクレームを訴えに来た。

 ひとつは、一週間が過ぎて遂に誰も呪いを解きに城へ現れなかったこと。とうに解呪済みと知らなかった中年は、この街の冒険者は血も涙もないと憤慨したのだ。

 もうひとつは爆裂魔法。

 めぐみんは、あれ以降もしれっと城への爆撃を継続していた。ビックリだ。

 彼女との交流は然程無いが、いっぺん本格的に話の場を設けて人となりを精査したほうがいいかもしれない。いくらか把握できるだけでも、言動がならず者過ぎる。

 

 その後の戦闘は、まずはめぐみんの爆裂魔法で配下を一掃。

 ベルディアの猛攻は、ダクネスが自慢の耐久で受け切った。

 アクアが洪水クラスの水魔法を繰り出して弱らせて、抵抗力の下がったところをスティールで首を強奪。

 その首で暫しボール遊びに興じた後に、浄化魔法でトドメを刺してお終い。

 全体指揮は、サトウカズマが執った。

 ツッコミどころは多々あるが、推移をざっくり記すとこうなる。私も、実物を少し見物してみたかったかもしれない。

 とにかく、ベルディアは討ち取られた。

 現役時代のウィズですらなし得なかった、歴史的偉業だ。

 

 幹部の件はここまでにして。少し別の話をしよう。

 あれは、ベルディア討伐の報が街に流れて少し経った頃だった。ミツルギキョウヤがふっと店を訪れた。

 そして開口一番、グラムがうちにあるかと問いただされた。

 グラムは彼の愛剣だ。その所在を持ち主が尋ねてくるとは、また面妖な。

 要領を得ないので、どういうことかを聞き出してみた。

 

 それによると、彼はとある冒険者――最弱職の冒険者に決闘を吹っかけたとか。

 負けたら何でもひとつ言うことを聞く、との条件で。

 ミツルギが勝った暁には、冒険仲間の一人を譲ってもらう心算でいたらしい。

 片や駆け出し、片や高レベルの上級職前衛。一見、勝負は目に見えている。

 ところが結果は、何とミツルギが敗北した。舐めてかかったところに不意を打たれての瞬殺だった。そうして、グラムを戦利品として持ち去られたのである。

 卑劣なやり口ではあったが、勝敗そのものは彼も受け入れている。

 ただその上で、恥を忍んでグラムを返してほしいと頭を下げに行ったものの。もうその頃には、売却して手放した後だった。

 そんなわけで、彼と仲間は消えたグラムの行方を手分けして追っている。

 

 なるほど。思ったよりも下らない。

 ワケは知らないが、要は格下に喧嘩を売って返り討ちに遭ったと。自業自得だ。

 温厚なウィズですら私と似たり寄ったり。冒険者の流儀に則っただけなので、ミツルギへの同情は無い。彼女も根っこが冒険者だから、こういう点はドライだ。

 どちらかというと、仲間を賭けに使ったのがお気に召さないらしく、そこで頭痛を堪えている様子だった。

 私は、そこすらもどうでもいいが。

 

 うちにグラムは無い。冷やかし客以外は彼が今週初だから、疑うべくもない。

 魔法武器の類はジャンル違いだからまず扱わないというか、武器屋の領分だ。いや、そう言えば雑貨屋でも取り扱うか。

 グラムを買い取ってそうな店の候補リストを私はメモに起こして、ウィズのお説教に耳を傾けていたミツルギへと手渡した。

 このタイミングでグラム捜索に奔走していたとなると。丸腰の彼は、緊急クエストには加われなかったのだろう。

 この後ベルディア戦の武勇伝をチェックしてみたけど、案の定名前は無かった。

 何というか、恐ろしく間が悪い。

 

 しかし、惜しい。

 この機に多少の貸しは作れたけども、グラム本体をうちで買い取れていたらより、大きな貸しを作るチャンスだったのに。

 彼はグラムを相棒か、自身の半身と言わんばかりに執心している。……それを奪われるのもどうかとは思うけど。

 あの剣の値打ちは私では鑑定できないが、どれだけの高値を吹っかけようと彼は買う。断言できる。

 

 むしろ、金銭で片をつけては勿体無い。

 彼の性格上、タダで譲渡して恩に着せても深く感謝して、それ以上の利子を上乗せして確実に返済してくれるだろう。

 やり方次第では、かの高名な魔剣使いに恩義の首輪を嵌めて、徹底的にこき使えていた。

 どうしよう。やっぱり、今からでも私も探そうか悩ましい。

 

 

【来年の納税について】

 ふと気がつけば納税期間が過ぎ去っている。

 赤字経営の当店では馴染みが無いイベントなので、どうにも印象が薄い。

 毎年、徴税が迫ると私は金稼ぎに傾注しなくなる。だから尚更に縁が無い。

 必死に稼いだところで、結局税として徴収される。そう思うと意義を感じないのだ。

 税金を課され、しかしその分を浪費癖のある店長に使い込まれて払えない。なんて羽目に陥るのが容易に目に浮かぶ。税金には自己破産も通じないから厄介だ。

 

 店のことはさておき。

 前回の納税最終日は、ベルディア討伐の前日だった。

 幹部として長年猛威を振るい、人類に辛酸を嘗めさせてきたベルディアには、高額の懸賞金が懸けられている。賞金は、討伐戦に参戦したすべての冒険者に分配される。

 理屈の上では、この収入は来期の税金として計上されるはずだ。

 

 ただ。アクセルの冒険者は、これまで目こぼしの形で実質納税を免除されてきた。

 駆け出しの彼らに蓄えは無い。家計は常に火の車で、ここに税まで課されては生活が成り立たなくなる。それは周りも分かってる。

 駆け出しを養成する街としての役目を維持する上で、これは必要な措置だった。

 だが、次回は違う。討伐報酬で懐が潤う。

 納税は今から約一年後。これからクエストをこなしていけば、トータルの収入もまだまだ増えていくだろう。

 

 これは、どうなのだろう。

 アクセルの冒険者は、税金の仕組みなど知らない。今まで何も言われなかったし、それで上手く回ってきたのだから。

 放置すれば、来年には全部使い切っていることは想像に難くない。

 無いとは思うが、妙なイベントが再発して臨時収入のおかわり、などという事態にでもなれば目も当てられない。

 例えば、宝島とか。周期としてはそろそろ出てくる頃合いだし。

 

 これをあぶく銭と慢心せず、以後も真面目にコツコツと働いて冒険者としての責務を果たし続けていれば、見逃してもらえる。あるいは、減税が望めると思われる。

 だが、この街の冒険者にそれが期待できるかというと……。

 もしかすると一年後の今頃は、アクセルが阿鼻叫喚の巷と化しているかもしれない。




・ゾンビメーカー討伐クエスト
原作ではクエスト失敗で終了。
調査クエストやペナルティ料の仕組みは、『仮面』の三章に言及があったのを流用。
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