とある魔道具店店員の手記 作:シュワシュワ
【ドネリー家の内紛】
ドネリーという貴族家で珍事が起きた。
家臣の一人を旗頭に据えた一派が一斉蜂起。当主カレンを屋敷から追い出し、一時的とはいえ屋敷を占拠するに至ったという。
いわゆるお家騒動である。
これだけ聞けば、臣下が主君に叛いた凶事。
だが面白いのはこの反乱、何と主君を諌めるための、彼らなりの忠誠心の発露だったという。
まあ確かにカレンは性格が悪い。部下の扱いも雑。
家業の商いも利益至上主義というか、自分さえ儲かればそれでよし、反動で誰がどれだけ不幸になろうが知ったことではないというスタンス。お世辞にも評判はよろしくない。
被害者であるはずの彼女が、貴族界隈では悪者扱いされているのがその証左だ。
恨みを買うあくどいビジネスをしていたのだし、身から出た錆と言われても仕方あるまい。
――まあ、それにしたって。まるで誰かが情報操作でもしたかのように、悪評があっという間に浸透したけれど。
結末としては、カレンが大幅に譲歩する形での和解に落ち着いた。
これ以上評判が悪化して家業に支障が出るのを恐れた彼女は、強硬策を取れなかったらしい。
屋敷を乗っ取った不埒者たちに加え、裏で展開される情報戦。
どちらか一方なら何とかなっただろうが、二正面作戦、それもタイムリミット付きでは分が悪い。
悪条件が重なる中、彼女は常に場当たり的な対処を強いられた。
事が動き出した時点で、もはや詰んでいたのである。彼女は、負けるべくして負けたのだ。
なお、屋敷の不当占拠については警察に訴え出るという手も残ってはいた。
実際、警察の介入を許したとしても、まさか屋敷のどこかに見つかってはまずい物でも隠しているわけでもあるまいし、選択肢としては妥当だったはずだ。
……が、カレンはそれを選ばなかった。不思議な話である。
和解の場には、ダスティネス家が仲介役として名乗りを上げたという。
騒ぎの首謀者は責任を取って職を辞し、一応は元の鞘に収まったように見える。――が、本当にそうだろうか?
ドネリー家は大きく揺らいだ。わけてカレンの権力基盤は、甚だしく脆くなった。
これから先、あるいは彼女の代ではもう、気ままな振る舞いは難しいかもしれない。
それにしても、いくつか不可解な点が残る。
一介の家臣が、どうしてここまで大掛かりな策を立案し、実行に移せたのか。
なぜカレンは、その兆候を事前に察知できなかったのか。
そして、かの王国の懐刀がわざわざ仲介役を買って出たのは恐らく、この辺りの事情を探る目的もあったのだろう、と私は見ている。
私見だが、この騒動の裏には、糸を引いていた何者かの存在がある。
策謀によってドネリー家を蚕食し、やがては丸ごと呑み込んで意のままに操る腹積もりなのだ。
だとすれば、これはまだ序章に過ぎない。
しかしながら、当のカレンにはそこまでの想像力は働いていないように見える。
仮に勘付いたとして、既に劣勢。後手どころか、周回遅れに近い今の彼女に挽回の余地があるかといえば……。
恐らく黒幕は、家臣たちに『自分の意志で主君のために立ち上がった』と思い込ませたまま、思考と行動を誘導し、騒動を引き起こさせたのだろう。
そして哀れにも、彼らは自覚なき黒幕の操り人形に成り下がってしまった。
こうした手口は、私の十八番なので詳しいのだ。
私から言えることがあるとすれば、この騒動以後、ドネリー家との関わりで妙に得をし始めた連中が怪しい。
貴族の世界とは、実に物騒極まりない。
少しは私たち庶民のように、純朴で慎ましやかな生き方を見習ってほしいものだ。
【スポンサーのお話】
久々にウィズから、正座とお説教のコンボを食らった。
本日、ウィズ魔道具店とはこれまで縁も所縁もなかった、ドネリーという家の家人が突如訪ねてきた。
しかもその用件というのが、当店に資金援助を行いたいとの申し出だった。大事件である。
その場は、こちらを不審げに窺っていた店長が応対し、保留にして帰ってもらった。
が、その直後。私はウィズに身柄を確保され、直々の詰問を受けることとなる。
今度は何をやらかした、と。
どうやら、この一件に私が関与していると強く疑っているらしい。それも、ほぼ確信レベルで。
確かにうちは、大した業績もない小さな個人経営店だ。そこに貴族家からの援助話など、常識的に考えておかしい。
だがそこはこう、将来有望そうな人材に唾を付けておこう的な、青田買いの一環かもしれないし。疑り深すぎでは?
多分、ウィズの冒険者時代の経歴をどこかで知って、勝手な期待でも抱いたのだろう。知らないけど。
私は思ってもいないことを口にした。いつものお約束パターンに突入している自覚はあったから、せめてもの抵抗である。
まあこの店の実態なんて、余程の節穴でなければすぐ見抜ける。事前の調査を怠っていたとしても、店に一歩足を踏み入れれば一目瞭然。
にもかかわらず、あのドネリー家の使者にはまったく動じた様子がなかった。極めて不自然だ。
だからといって、真っ先に私を疑うとは。
確かにこれと酷似した案件を過去に十……いや二十……まあ、二桁単位でやらかしてきた私の前科を思えば、疑念を抱く気持ちは分からなくもない。
実際、今回も私の仕業で合っているし。
でも、だからといって、何かあるたびに私を犯人扱いするのはいかがなものか。店の主として、もっとドンと構えて、従業員を信用してもバチは当たるまいに。
私は開き直った。
まったく、今回は本当に私が犯人だから良かったものを。もし違っていたらどうするつもりだったのか。
文句をつらつらと並べ立てながら、私はこの一件――つまるところ、世の中をちょっとだけ良くした試みについて白状した。
その結果、床に正座させられたのである。
ウィズは、それはそれは深々と、盛大なため息を漏らした。
悪事を止めたのは良い。でも、やろうと思えばもっと穏やかな方法があったはず。
それに、成敗を名目に店へ利益誘導しようとする姿勢が納得いかないし、真意が露骨すぎる。
――などと、色々ご高説を賜った。
その上で、『今からでもドネリー家から手を引けないのか』と聞かれた。無茶を言う。
賽は投げられたのだ。ここで私が放り出せば、そのほうがよっぽど悲惨な結末になる。
あそこはもう、屋台骨がガタガタだ。いやまあ、私が骨抜きにしたのだけども。
今は私のサポートがあるからどうにか立ってるだけで、ここで見捨てれば、家ごと空中分解しかねない。
この冬は、ドネリー家を完全掌握する時間潰しに専念するつもり――という本音はもちろん口には出さず。
私はしれっとした顔で、いけしゃあしゃあと言葉を紡いだ。
そもそも。ここまでハイペースで事が進む予定ではなかったのだ。
年度末に、カレンが税金逃れのための旅行に出かけるという僥倖があった。おかげでその期間は、謀略仕掛け放題のフィーバータイムだったとはいえ。
いけるとは思っていたけれど、冬前にお家騒動にまで発展する即落ちっぷりには私もビックリだ。
どれだけ人望がないのだろう、彼女。今からでも、配下を少しくらい労ったほうがいいと思う。
背景を知ったウィズは、今日の話は引き受けないと宣言した。
別に構わない。あれは将来のバニルのために用意していた手札だ。ウィズが関わらないのは最初から織り込み済み。
そもそも援助を受けたとして、彼女には一エリスたりとも使わせる気はなかった。
金貸しから破格の低金利で資金を借りるオプションも用意していたが、それも同様。
ウィズに新たな財源を与えて、店をさらなる煉獄へ突き落とすなど、私とてまっぴら御免である。
【そういうオチは要らなかったのですが】
めぐみんは短気にもほどがある。
バイト中に客に殴りかかって、しっかりと喧嘩騒ぎを起こしてくれた。
正直、いつかやると思った。
これまでにも同様の場面は何度かあった。その都度私は兆候を察知し、間に入ってヒートアップする前に沈静化させてきたのだ。
けれど今回は、運悪く私が店を空けていた最中の出来事だった。私ほどのコミュ力お化けでないウィズでは、止めきれなかったらしい。
売られた喧嘩は買うのが紅魔族の流儀――というのが彼女の言い分。
知ってる。だが、多少からかわれた程度で殴りかかるほど、キレっぽい一族だった覚えはない。
単純に、めぐみん個人の沸点が低すぎるだけだろう。
もう確信しているが、以前やっていたという接客バイトも、きっとこれと同じ経緯でクビになったに違いない。
見透かすように私が視線を向けると、めぐみんはサッと顔を背けた。
どうしたものかと、保護者であるサトウカズマと協議を持った。
あれこれ案を出し合ったものの、結局、この問答はすべて無に帰すことになる。
というのも、私たちがあれこれ検討している間に、フリーハンドを得た散財店主が店の資金を全額使い込んだからだ。
……金がない。バイト代どころか、家賃すら危うい。というか、私の給料が出るかも怪しい。
この短時間で店の経営を傾けるとか。いや、まあ、いつものことだけど。
それにしても、その異能はリッチー固有の特殊能力か何かなのか?
しかも、生活費までガッツリ全投入しているし。
仕方ないので、仕入れたばかりのガラクタをウィズの首に取り付けてみた。
お金持ちになれるチョーカーらしい。ウィズが得意げにオススメしていた新作である。
この経営危機も、これでどうにかしてもらおう。
ちなみにアイテムの効果はこうだ。
装着から二週間以内に、設定した目標金額を稼がないと爆発する。それまで取り外しは不可。
……以上である。金運アップの効果は一切ない。
ではなぜ『お金持ちになれるチョーカー』なのかというと、死の恐怖に晒された使用者が死にもの狂いで働くようになるから。
要するに、金稼ぎそのものは自助努力で成し遂げるしかない。
しばらくして。ようやくウィズが自分の置かれた状況に気づき、慌て出した。
遅い。遅すぎる。私は思わず哀しみに包まれた。
何をボケッと私に首元を差し出して、されるがままチョーカーを取り付けさせていたのだろう、この女。
しかも装着時、『これを付ければ商売繁盛』と私が告げた際、ウィズは目から鱗が落ちたという顔で天才だと褒めちぎってきた。
ちっとも嬉しくない。
どうせリッチーの魔法防御力なら、爆発してもかすり傷ひとつ負わない。
それに、あと二週間で店を立て直すだけの資金を稼げばいい話だ。
……まあ、いよいよ無理そうなら、爆発に巻き込まれないよう、私はそっと雲隠れさせてもらうけど。
【お客様が神様】
店にアクアが上がり込んできて、唐突に転職を勧められた。
どうやらウィズを退治しない代わりに、店に嫌がらせする方針にシフトしたらしい。
曰く、リッチーの店で働くなんてとんでもない。こんなところで
……意味は違うのだろうけど、一概に否定できないのが困る。
事実、経営者としてのウィズは恐ろしいまでのポンコツで、私は日々その尻拭いに奔走させられている。非生産的過ぎる。
しかもこの女神、嫌がらせ目的もあるのだろうが、少なくとも人間の私に向けては、割と本気で親切心から言っている。
あと、何でリッチーなんかの店で働いているのかと問いただされた。
それは前にカズマと一緒に来た日に説明したはずだ。身寄りのない私に、ウィズが手を差し伸べてくれたのだと――。
だが再びその話を語ろうとした矢先、当のアクアに制止された。
曰く。それはもう聞いた。でも嘘ではないけど、本当のことも言っていないような気がする。
……鋭い。私はそっと眉をひそめた。正解だ。
頭を振れば、ビー玉サイズの脳みそが転がる音がしそうなのに。本能で動いている分、こういう直感は冴えているのだろうか。
実際のところ、私がこの店に留まっているのは、バニルとの約束があるからだ。
さらに突き詰めれば、ウィズとバニルを後ろ盾にできる莫大なメリットのためだ。
とはいえ現実は予想以上に過酷で、これがウィズ単体の後ろ盾なら、とっくに逃げ出して転職していたかもしれない。
アクアの追及を適当にあしらっていると、飽きた彼女は程なく興味が別の事柄へと移り、フラフラとどこかへ立ち去って行った。
さすがはその場のノリだけで生きているアクシズ教団の元締め。野生の獣みたいな生態をしている。
そしてその後、ポーション棚をチェックすると、またしても中身が水に変わっていた。
犯人はもはや自明。即座に損害賠償を請求しておいた。
まあ、悪意はなかったのだろう。
もしも故意なら、私が先に見抜いていた。つまり素でやらかした可能性が高い。
……学習能力が無いのか、あの女神。
【悪霊騒ぎ、終息】
長引いていた悪霊騒ぎが、ようやく幕を閉じた。
原因は、共同墓地に張られた巨大な結界。住処を奪われた霊たちが、近くの空き家に雪崩れ込んでいたのだ。
で、その結界を張った犯人はアクアだった。
ウィズから墓地の供養を引き継いだものの、毎回足を運ぶのが面倒で、もっとラクチンに済ませようと知恵を絞った末の産物らしい。
──墓地を封印すれば、行き場をなくした霊がそのままこう……いい感じに空気に溶けて消えるんじゃない?
特に根拠のないアイデアと自信に背中を押され、そして案の定大失敗したわけだ。
手抜き目論見の軽率な一手が招いたのは、未曾有の悪霊大発生。街中に霊が散乱し、各方面へとんでもない迷惑を掛けまくった。
さすがのアクアも猛省したようで、カズマと揃ってうちまで謝罪に来たわけだが。
……この女、本当に女神か?
女神とは、死後の迷える魂を導く専門家だと認識していたのだけど。
人外なのは疑っていない。だが、女神級の力を持つだけの謎のヘンテコ生物説を、私はまだ捨てきれない。
ついでなので、アクア絡みのクレームもカズマに提出する。
するとウィズもこれに続いた。
曰く、アクアは客に向かって『この店の商品は、店主がとても人に言えないような製法で作ってるから買わない方がいい』と吹き込んでいたらしい。
初耳だ。最近、聖水だけ不自然に売れ行きが好調だったのはそのせいか。
話は変わるが、カズマ一行が念願のマイホームを手に入れたという。
場所は、すっかり幽霊屋敷としての評判が定着した元貴族の別荘。
聞き覚えがある。ウィズによれば、冒険譚が大好きな少女の地縛霊が棲みついているらしい。
実力の問題なのか、プリーストなのに私には感知できないけれど。
物件探しで不動産屋を
幽霊屋敷の悪評で売り手がつかないため、一旦彼らに預けておこうとの魂胆らしい。
とはいえ元を辿ればアクアが原因だから、これってマッチポンプ――先方も納得づくだというから、まあいいか。
それにしても、彼らが未だに馬小屋暮らしだったと聞いたときは唖然とした。
平原にはもう雪が積もり、冬将軍の目撃情報もある。よく凍死しなかったものだ。
宿暮らしではなく家を構えたとなれば、あのパーティー、アクセルに腰を据える気満々らしい。
いずれ王都に出立するかと思っていたが、存外長い付き合いになりそうだ。
近いうちに、引っ越し祝いでも贈っておくとしよう。
【仮面悪魔からのお手紙】
バニルから便りが届いていた、らしい。
私は終ぞ、内容に目を通していない。ウィズからの伝聞のみである。
先に読んだウィズは、瞳のハイライトがスッと消え、底冷えする気配をまとい始めたかと思うと、いきなりライト・オブ・セイバーを発動し、手紙を切り刻んでしまった。
屋内で上級魔法をブッ放すとか、余程気に障ることが書いてあったのだろう。
恐らく年齢を揶揄する記述があったと思われるが、その真偽については特段興味もない。
さて、それはそれとして。
近いうちにバニルがアクセルへ立ち寄るという。店にも顔を出すらしい。
手紙にはそれしか書かれていなかった。別段聞いてもいないのに、なぜかウィズはそこを強調した。
私に嘘は通じないのだけど。このリッチー、怒りに呑まれてすっかり忘れているらしい。
それにしても、このタイミングでバニルが来訪するというのは、やはり討ち取られたベルディアの件だろうか。
『城の部下をおちょくってばかりいないで、たまには働いてくれ』と、魔王に懇願されるバニルの姿が目に浮かぶ。
あの手紙、恐らくは『到着までに店の資料をまとめておけ』との意図だったのだろう。
早めに専用の書類を整えておくとしよう。
【機動要塞デストロイヤー襲来】
もうすぐデストロイヤーがやって来る。
天災の通行ルートとなったアクセルは、滅亡の岐路に立たされた。
穏やかな昼下がり、突然飛び込んできた凶報に、街は騒然となった。
デストロイヤーとは、簡潔に言えば蜘蛛型の超巨大ゴーレムだ。かつての魔導技術大国ノイズで製造された兵器である。
このノイズという国、現在でいう紅魔の里周辺を含む地域を治めていたのだが、皮肉にもデストロイヤーの暴走で真っ先に滅びた。
……そういえば紅魔族が歴史の表舞台に現れるようになったのも、ちょうどその直前の頃だったはず。時期が重なっているのか。
話が逸れた。
デストロイヤーには強力な対魔法結界が張られており、爆裂魔法すら通じない。
魔法使いでは歯が立たず、かといって物理での迎撃も難しい。
軽くて頑丈な魔法金属製の外装は弓矢程度なら容易く弾く。機動力まで備えているせいで、鈍重な攻城兵器では間に合わない。
接近戦に至っては論外だ。小さな城サイズの巨体に近づいたところで、撥ね飛ばされるか踏まれるかでミンチ一直線。
おまけに胴体には対空用の兵装と、戦闘用ゴーレムまで格納されている。
総じて、まともに戦う手段が存在しない。
では、そんな怪物が街へ迫ってきたときにどうするか。
答えはただひとつ、逃げる。何もかも放り出し、街を捨てて遁走する。それがこの災厄への正しい対処法である。
他方、魔王軍は魔王城に張り巡らされた結界でデストロイヤーをやり過ごしている。
本来は対魔王軍用に作られたはずの兵器が、今や人類を蹂躙しているのだから、何とも皮肉な話だ。
アクセル全域に、警報が鳴り響く。
私は一瞬沈思黙考に沈んだものの、隣のウィズに肩を揺すられ、思考の海から引き戻された。
どうやら衝撃で呆然としていると誤解されたらしい。
いや、まあ確かに驚いたは驚いたが。
私はただ、更地になった後のアクセルの復興利権に食い込んで、ひと儲けできないかと検討していただけだ。どうせ今の店は瓦礫になるのだし。
どちらにせよ、このタイミングで考えるべき話ではなかったか。
ウィズが冒険者ギルドへ向かうというので、私も同行した。
若干の猶予がある以上、まずは状況を正確に把握しておきたかった。
本来、一般市民は即刻避難すべきなのだが、私はバイトとはいえギルドで有能と評されている身。対策の手伝い名目で少し居座るくらいは許されるだろう。
切迫した局面であえて残り、裏方として奔走する姿をアピールすれば、イメージアップにも繋がる。
印象操作とは、こういう地道な積み重ねが大切なのだ。
とは言いつつ、私の関心は早くも通過後の未来へとシフトしかけていた。
ところが、ギルドに到着して目を疑う。
何と、ギルド内ではデストロイヤー討伐作戦が進行中だったのだ。
既に作戦の骨子はまとまっており、周囲は勝利の希望と戦意に満ちていた。
想定外もいいところだ。復興利権に思いを馳せている場合じゃなかった。
作戦の流れとしては。
まずアクアが結界を解除し、魔法が通るようにする。
その隙にめぐみんとウィズが爆裂魔法で脚を吹き飛ばし、足を止める。
動きさえ封じてしまえば、後はどうとでもなるという筋書きである。
やや力業だが、シンプル故に成功すれば勝算が高い。
この作戦の大枠を、サトウカズマが組み上げていた。
本当に何なのだろう、あのパーティー。
ベルディアのときといい、今回も彼らが反撃の起点になっている。生まれつき、そういう星の下にあるのだろうか。
それとは別に仰天したのが、逃げずに街に残っている冒険者の多さだ。
殊に男性陣は、偶々街の外にいた一部を除けばほぼ勢揃いしている。
しかも異常に士気が高い。魔王との決戦前かと思うほどの気迫だ。
正直、私が扇動して意思統一を図ることも視野に入れていたものの、まるで必要なかった。
そして理由も、暫し様子を観察するうちに察しがついた。サキュバスサービスである。
このままでは、あの店のエッチな夢が見られなくなってしまう。
つまりこの街は、男たちの飽くなきスケベ心によって守られようとしているわけだ。
会議が一段落したところで、私は街から退避することにした。非戦闘員にできることなどもはや無く、これ以上はお荷物でしかない。
もっとも私は、スタミナ不足の上に壊滅的な運動音痴。走れば確定で転ぶ。
かといって歩いてのんびり避難する余裕もない。よって、他の人に一輪車で運搬してもらった。
さて、ウィズは討伐に残るようだが……どうなることやら。
私としては、楽観視はしていない。
デストロイヤーを追い詰めた先例はない。どんな隠し玉があるか分からず、作戦自体もそうしたイレギュラーを想定していない。最後まで油断はできない。
その懸念を、作戦指揮のカズマにコソっと打ち明けてみた。
すると彼は渋い顔で、『そういうフラグが立ちそうな話は聞きたくなかった』と零す。
意気込みに水を差された、というふうでもない。何だか変な反応だった。
あと、『フラグ』なる言葉を私は知らない。彼の故郷の概念だろうか。
ウィズには、もし無事討伐できたなら、先を越されぬよう設計図やお金になりそうな物品は直ちに確保するようにと助言を送っておいた。
ところが彼女には、なぜか苦笑された。
私なりの冗談というか、遠回しな激励として受け取った様子だった。
……私は徹頭徹尾、本気で言っているのだけど。
【破壊者を破壊した者たち】
まさかの成功。
作戦は見事に的中し、デストロイヤーは遂に停止――と思いきや、そこからさらに危機が訪れた。
だがそれすらも退けて、最後には撃破してしまった。
私は現場に居合わせなかったため、以下はすべて人伝の情報である。
爆裂魔法によって脚部を吹き飛ばされ、完全に無力化したかに思われたデストロイヤー。
だが程なくして、自爆によって街ごと吹き飛ばす気配を見せ始めたという。
作戦達成の安堵で気が緩んだ、その直後の絶望。にもかかわらず、男連中は心を折らなかった。
ならばと、今度はデストロイヤーに直接乗り込み、中で操縦している存在を引っ捕らえ、力ずくで止めさせようとした。
この時ばかりは、彼らはまさしく命知らずで勇猛果敢な、本物の勇者の軍勢だった。
……まあ、その原動力がエロだと思うと、何とも言い難い気分になるけど。
とはいえ、街の冒険者の半数が依存しているとなると、やっぱりあの店、いずれ私の手中に収めておきたい。首輪をつけておくと便利そうだ。
ちなみに、操縦している張本人は――いなかった。
正しくは、とうの昔に白骨化しており、成仏していたそうだ。
遺された手記によれば、デストロイヤーは誰かに操られていたわけではなく、単に制御不能に陥っていただけだったらしい。
製造者が暴走させたというのが定説だったのだけど……何とも虚しい歴史の真相だ。
もっとも、遺跡等でごく稀に発見されるノイズ産のゴーレムには自律稼働型も多いと聞くし、私としてはそこまで意外ではなかった。
そして問題の自爆だが、動力源として積まれていた永遠に燃え続ける伝説の鉱石コロナタイトを、ウィズのランダムテレポートで転送することで回避した。
とはいえランダムなだけに、どこに飛ばしたのかは不明。
他に登録されていた座標は人里ばかりだったため、選択肢が実質なかったという。
ひとまず、私やウィズに迷惑がかからない土地であってくれることを祈りたい。
ちなみにこの賭けは、カズマが『自分が責任を持つ』と言ってウィズの背中を押して決行させた。
自らの幸運スキルに全幅の信頼を置いた、とんでもない博打である。
私なら絶対にそんな運頼みはしない。経験上、肝心な局面で運任せにすると大体躓くと知っているからだ。
……が、コロナタイトが消失してもまだ終わらなかった。
内部に溜め込まれた膨大な熱で、またもや大爆発を起こしかねない状態になったのだ。
これに対しては、カズマのドレインタッチでアクアの魔力を分けてもらっためぐみんが、二発目の爆裂魔法を発動。
デストロイヤーを跡形もなく吹き飛ばすことで、ようやくすべてが終わった。
とはいえ、残念。
木っ端微塵にされたせいで、ひょっとしたらあったかもしれない金目のものも、全部まとめて消し飛んだ。
これではどう足掻いても回収不能である。
仕方ないので、ウィズに分配される予定の討伐賞金だけで満足することにした。
・ドネリー家のお家騒動
アンチ・ヘイトタグをつけた理由。原作には影も形もないエピソード。
モデルは稲葉山城乗っ取り事件。
カレンは『続・爆焔』一巻におけるラスボスポジションの人。
・物件探しで不動産屋を訪ねる
実はここだけWeb版ルートを踏襲している。
カズマがウィズ魔道具店を訪ねるタイミングが原作とズレた結果、不動産業の人と鉢合わせるイベントが不発に終わったため。
・プリーストの霊感
プリースト職には、通常は知覚できない幽霊を感知する能力がある。
原作十五巻三章より。