とある魔道具店店員の手記   作:シュワシュワ

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1-7 機動要塞②

【ドネリー家の内紛】

 ドネリーという貴族家で珍事が起きた。

 家臣の一人を旗頭とした集団が一斉蜂起。当主カレンが屋敷を追い出され、一時屋敷を乗っ取られたとか。

 いわゆるお家騒動である。

 

 それだけなら臣下が仕えるべき主君に反旗を翻した凶事。だが面白いのはこの事件、何と主君を諌めるため、彼らなりの忠誠心の発露での行いであったという。

 まあ確かにカレンは性格悪いし、部下の扱いも雑。家業の商いも儲け至上主義というか、自分さえ良ければ反動で周りがどれだけ不幸を被ろうがどうでもいいとのスタンス。評判はお世辞にもよろしくない。

 被害者はカレンにもかかわらず、貴族界隈では彼女が悪者扱いされている。これも日頃の行いだろう。

 恨みを買うあくどいビジネスをしていたのだし、身から出た錆だ。

 まあそれにしたって、まるでどこかの誰かが情報工作でもしてたのかというくらいあっという間に浸透したけれど。

 

 最終的には、カレンが大幅に譲歩する形にて双方は和解と相成った。

 これ以上評判が悪化して家業に影響が波及するのを恐れ、彼女は強硬策で主張ごと押さえつける選択が採れなかった。

 屋敷を奪った不埒者、情報戦。どちらかだけなら対応できただろう。

 だが両者を同時に相手取る二正面作戦。それもタイムリミット付き。

 この悪条件で場当り的対処を常に強いられた。それ以外させてもらえなかった。

 事が起きた段階でとうに詰んでいる。彼女は、負けるべくして負けたのだ。

 唯一、屋敷の不当占拠として警察に訴え出る手は残されていたが、ついに選ばなかった。警察の介入を許すことになるとはいえ、よもや見つかってはマズい代物が屋敷内に隠されているわけでもあるまいに。不思議な話である。

 

 和解にはダスティネス家が立会人を買って出たという。

 その後は首謀者が騒ぎの責任を取るとして職を辞し、元の鞘に収まったように思えるが――本当にそうか?

 ドネリー家は大きく揺らいだ。とりわけカレンの権力基盤は危うい。これから当分、あるいは彼女の代ではもう、気ままには振る舞えないかもしれない。

 だが、その他にも不可解な点はいくつもある。

 一介の家臣がどうしてここまで大胆な策を閃いて、実行まで漕ぎ着けられたか。なぜカレンは前兆を掴めなかったのか。

 かの王国の懐刀が仲介役に名乗り出たのも、恐らくは同様の疑問からドネリー家の内情を探る意図があったと私は睨んでいる。

 

 私見だが、この騒動には裏で糸を引いていた何者かがいる。

 この策謀にてドネリー家を蚕食し、いずれは呑み込んで意のままに操ろうとしているのだ。

 だとすればこれは始まりでしかない。しかしながら、当のカレンにはそこまで思索が及んでいる節が無い。

 それに勘付いたとして、既に劣勢な上、後手どころか周回遅れ気味の彼女に挽回する余地があるかというと……。

 きっと当人にそうと自覚させず、あくまで自分の意思と思い込ませて思考と行動を誘導し、この騒動を誘発させたのだろう。主君のために起ったつもりの彼らは、実際には黒幕の哀れな操り人形でしかなかった。

 私もそうした手口は十八番なので詳しい。

 

 私から言えるのは、騒動以後にドネリー家繋がりで利益を得始めたところが怪しい。というくらいか。

 貴族の世界は物騒極まりない。少しは私たち、純朴な庶民を見習ってほしいものだ。

 

 

【スポンサーのお話】

 久し振りにウィズから正座とお説教のコンボを食らってしまった。

 

 本日、ウィズ魔道具店とはこれまで縁も所縁もなかった、ドネリーという家の家人が突如訪ねてきた。

 しかも話を伺うと、当店に資金等の援助を行いたいとの申し出だ。大事件である。

 その場では、不審げな面持ちでこちらをしきりに窺ってくる店長が保留にして帰ってもらった。しかしその後すぐさま、身柄をウィズに拘束された私は詰問を受けた。

 今度は何をやらかした、と。

 この一件に私が関与していると強く疑っているらしい。それも確信レベルで。

 

 うちは大した業績も上げていない小さな個人経営店だから、おかしな提案ではあった。だがそこはこう、有望そうな人材にツバを付けるとか。単なる青田買いに、随分とまあ疑り深い。

 多分、ウィズの冒険者時代の経歴を偶然知って身勝手な期待でも寄せているのだろう。知らないけど。

 私は思ってもないことを口にした。

 いつものお決まりのパターンに突入してる自覚はあったので、せめてもの抵抗である。

 

 まあ、実態がただの底辺貧乏店なのは、余程の節穴でなければすぐ分かる。仮にその辺の調査を怠っていたとしても、直に店内に足を踏み入れたのなら一目瞭然。

 それなのにあのドネリー家の人は無反応。動揺が一切無かった。

 そうした訝しい点はある。だからといって、真っ先に私を疑うか。

 確かにこれと酷似したことを過去に十、いや二十――まあともかく。二桁単位の件数やらかしてきた前科が私にはある。

 その前歴からまたぞろ何か裏でコソコソやっていたのではと、疑念を抱く心情を理解はしよう。現にこれも私の仕業で合っているし。

 だからといって何かある都度疑惑の目を向けるのは如何なものか。店の主としてドンと構えて、もっと従業者を信用してくれても罰は当たらないだろうに。

 私は開き直った。

 今回は本当に私が犯人だから良かったものを。まったく、その思い込みが間違っていたらどうするつもりだったのか。

 

 つらつらと文句を並べ立てるのと並行し、先頃行った世の中を少しばかり良くした試みについて私は白状した。

 結果、床に正座させられたのである。

 これを強要したウィズは、それはそれは盛大なため息を漏らした。

 悪事を食い止めたのは良い。でもやろうと思えばもっと穏やかに治められただろうと。何よりも成敗を名目に店へ利益誘導しようとする姿勢が納得いかないし、真意が露骨すぎる。

 

 今からでもドネリー家から手を引けないのかと尋ねられた。無茶を言う。

 賽は投げられた。ここで私が放り出せば、そのほうがよっぽど悲惨な結末になる。

 あそこは屋台骨がもうガタガタ。まあ、私が骨抜きにしたのだけど。私のサポートで保っている状態でそんな真似をすれば、家ごと空中分解することまで有り得る。

 この冬はドネリー家を完全掌握する時間潰しに専心する心積りでいる、との本音はおくびにも出さず。私はしれっとした顔でいけしゃあしゃあと言葉を紡いだ。

 

 そもそも。こんなハイペースで物事を進める予定ではなかったのだ。当初は。

 年度末にカレンが税金逃れのための旅行に出かける僥倖があり、その間は謀略仕掛け放題のフィーバータイムだったとはいえ。

 いけるとは思ったが、冬間際にはお家騒動へ発展する即落ちっぷりには私もビックリだ。どれだけ人望無いのだろう、彼女。

 今からでも配下に目を向けて、少しは労ってあげたほうがいいと思う。

 

 背景を知ったウィズは、今日の話は引き受けないと宣言した。

 別に構わない。

 あれは将来のバニルのために用意した手札。ウィズが関わらないのは織り込み済みだ。というか援助を受けたとして、どの道彼女には一エリスたりとも使わせない。

 金貸しから破格の低金利でお金を借りるオプションも付いていたが、そっちも使わせる気は毛頭無い。

 ウィズに新たな財源を与え、店をさらなる煉獄へと突き落とすのは私とて御免だ。

 

 

【そういうオチは要らなかったのですが】

 めぐみんは短気にもほどがある。

 バイト中に客に殴りかかって喧嘩騒ぎを起こしてくれた。

 

 正直いつかやるとは思った。数度同じことが起きかけたのだけど、そのときは兆候を察知した私が間に入り、ヒートアップする前に沈静化させていた。

 この度は、私が店を空けていた最中の沙汰だった。私のようなコミュ力お化けでないウィズには止められなかったのだ。

 売られた喧嘩は買うのが紅魔族の流儀、というのが彼女の言い分。

 知ってる。ただ、多少からかわれた程度で暴力を振るうほどキレっぽい一族でもなかったと記憶している。単純にめぐみんの沸点が低すぎるだけだろう。

 もう確信してるが、これ、前にやった接客バイトも同じ経緯でクビになっているだろう。見透かすように私が見つめると、めぐみんはサッと顔を背けた。

 

 どうしたものかと、保護者のサトウカズマと話し合いを持った。

 爆裂魔法を使わせてからバイトさせるかとか。いっそダクネスと取り替えようかとか。でもアクアだけは絶対いらないとか。あれこれと意見を交わした。

 しかし、このときの問答は結局無に帰することとなる。

 私たちがそうこうしているうちに、フリーハンドを得た散財店主が店の資金を全額使い込んだために。

 金が無い。バイト代どころか家賃がピンチ。何なら私の給金も支払われそうにない。

 この短時間で店の経営を傾けるか。まあ良くあるけど。何なのだろう、その異能はリッチー固有の特殊能力か何かなのか。しかも生活費までガッツリ全投入しているし。

 

 仕入れたばかりのガラクタを早速ウィズの首に取り付けてみた。

 お金持ちになれるチョーカーだそうだ。彼女オススメの新作で、この経営危機もどうにかしてもらおう。

 アイテムの解説をすると、取り付けてから二週間以内に、あらかじめ定めた目標金額を稼げないと爆発する。それまでは取り外せない。

 以上である。金運が上がる効果は特段無い。

 それがどうしてこんな謳い文句になるかというと、死の恐怖に晒された使用者が死にもの狂いで働くようになるからだ。

 金稼ぎそのものは、自助努力で成し遂げるしかない。

 

 しばらく経つと。今さらになってウィズが置かれた状況を察して焦り出した。

 遅い。遅すぎる。私は悲しい気持ちになった。

 何をボケッと私に首元を晒して、されるがまま呑気にチョーカーを取り付けさせていたのだろうこの女。

 しかもこれを付ければ商売繁盛と話した際、当時のウィズは目から鱗が落ちたという態度で、私を天才だと褒めちぎっていた。ちっとも嬉しくない。

 どうせリッチーの魔法防御なら爆発してもかすり傷にもならない。それに、これから二週間で店を立て直せるだけの資金を集めればいい。

 まあいよいよ無理そうなら、爆発に巻き込まれないよう私は雲隠れさせてもらうけど。

 

 

【お客様が神様】

 店に上がり込んできたアクアから転職を勧められた。

 ウィズを退治しない代わりに、店に嫌がらせする方針へと転換したらしい。

 

 リッチーの営む店で働くなんてとんでもない。こんなところで燻ぶっていたらダメになる。もっとちゃんとした職場に移ったほうがいい。そう私に言い聞かせた。

 意味は違うのだろうけど、一概にアクアの言を否定できないのが困る。

 経営者としてのウィズは恐ろしいまでのポンコツで、私はその尻拭いにひたすら奔走させられている。非生産的過ぎる。

 それにこの女神、嫌がらせも無論あるのだろうが、少なくとも人間の私に対しては純粋に親切心で言っている。

 

 あと、何でリッチーなんかの店で働いているのかと問いただされた。

 それはついこの前、カズマと一緒に来店してきた日に直接説明したと思うのだが。

 身寄りのない私にウィズが手を差し伸べたとの話を再び語ろうとするも、他ならぬアクアからストップをかけられる。

 曰く。それはもう聞いた。そうではなくて、それは嘘ではないけど、本当のことも言っていないような気がする。

 鋭い。私はそっと眉をひそめた。正解だ。

 頭を振ったらビー玉サイズの脳みそが転がる音がしそうなのに。本能で動いているからこういう直感は一端なのか。

 事実私がここで働き続けるのは、バニルとの約束があるから。もっと言うと、それでウィズとバニル両名を後ろ盾とする莫大なメリットがあるためだ。

 とはいえ想像以上に過酷なので、これで後ろ盾がウィズだけなら、途中で投げ出して本当に転職したかもしれない。

 

 アクアからの追求を適当にあしらっていると。飽きてまた別のことへと関心が移ったようで、フラフラとどこかに立ち去って行った。

 さすがはその場のノリだけで生きているアクシズ教団の元締め。野生の獣みたいな生態をしている。

 

 その後、ポーション棚をチェックすると。またしても売り物の中身が水になっていた。

 元凶はもはや自明の理。再度、損害賠償を請求しておいた。

 もしかしたら、故意ではないかもしれない。悪意有りきなら私が見抜いてた。要するに、素でやらかしたと思われる。

 学習能力が無いのか、あの女神。

 

 

【悪霊騒ぎ、終息】

 長引いていた悪霊騒ぎが幕を閉じた。原因がようやく明らかになったのだ。

 共同墓地に巨大な結界が貼られていた。それで住み場所を失った霊たちが付近の無人の家へと流れ込んでいた。というカラクリである。

 

 で、これを貼った犯人はアクアだ。

 これまでウィズが行ってきた共同墓地の供養を彼女は引き受けた。しかしこまめに墓地へ足を運ぶのは煩わしくて、もっとラクチンに済ませようと知恵を絞ったとか。

 それで結界を使う着想に達する。墓地に入れなければ、家なき子になった霊は、こう何かいい感じに空気に溶けて消えてくれるのでは。

 この発案は上手く行く。湧き上がる特に根拠のない自信がアクアの決断を後押しした。

 そして案の定大失敗した。

 

 手抜きしようとの目論みによる軽はずみな行いで悪霊が未曾有の大発生。それらが街中に散らばり、多方面に多大な迷惑をかけた。

 さしものアクアもこれには猛省している。

 ウィズから務めを引き継いでおきながらこの体たらく。ということで、うちまでアクアとカズマが謝罪しに来た。

 この女、本当に女神か?

 女神というのは死後の迷える魂を案内する役目を担っていると伝わるし、てっきりその手の専門家だと認識していたのだけど。

 彼女が人外であることは疑ってない。だが私はまだ、この女が女神級の力を持っているだけの謎のヘンテコ生物である線を捨てていない。

 

 もののついでに、アクア絡みのクレームもカズマに入れておく。

 するとウィズもこれに続いた。

 この店の品は店主がとても人に言えないような製法で作った物ばかりだから、買わないほうがいい。そうアクアが客に吹き込んでいたとの話が暴露された。

 私も初耳である。というか、このところ聖水だけ不自然に売れ行きが好調なのはそのせいか。

 

 少し話は変わるが。カズマたち一行は念願の住まいを手に入れたとか。

 住所は、幽霊屋敷として近頃すっかり有名になってしまった元貴族の別荘。

 聞き覚えがある。プリーストとしての実力の問題か私には感知できないけど、冒険話の好きな少女の地縛霊が住んでいるとか。ウィズが以前話していた。

 物件探しで不動産屋を頼った折、最近頻繁に出現する大量の悪霊を除霊できたらそのまま住んでいいと言われ、見事達成した。

 幽霊屋敷の悪評で売り手が付かないから、一旦彼らに預けておこうとの魂胆のようだ。

 でもこれってマッチポンプ――いや、いい。先方はもう知ってるそうだし。

 

 私からすると、彼らが未だに馬小屋で寝泊まりしていたとの話に唖然とした。

 とうとう先日には冬将軍の目撃報告が入ったように、街から離れた平原ではもう雪が積もっている。よく凍死しなかったものだ。

 それにしてもあのパーティー。宿暮らしでなく家を調達した辺り、腰を据えてアクセルに居座る気満々だ。

 そのうち王都に出立するかと思っていたのだけど、存外長い付き合いになるかもしれない。

 手始めに、引越し祝いでも今度送っておくとしよう。

 

 

【仮面悪魔からのお手紙】

 バニルから便りが届いていた、らしい。

 私は終ぞ目を通してない。ウィズの伝聞だ。

 

 先に読んだ彼女が、ふっと瞳のハイライトが消えると共に底冷えする気配を発し始め、直後には真顔でライト・オブ・セイバーを繰り出すと手紙を切り刻んでしまった。

 危険な上級魔法を屋内でぶっ放すとか、相当気に障ることが記されていたようだ。

 ウィズの年齢を揶揄する文があったと推測できるが、そこの真偽に取り立てて興味はない。

 

 さておき。近々バニルがアクセルに立ち寄るそうな。店にも顔を出すとか。

 手紙にはそれしか書いてなかった。別段聞いてもないのに、なぜか彼女はそこを強調した。

 私に嘘は通じないのだけど。このリッチー、怒りでそこのところを忘れてるらしい。

 このタイミングでバニルの来訪とは、やはり討ち取られたベルディアの案件だろうか。

 城内の魔族をおちょくってばかりいないで、たまには働いてくれと懇願する魔王の図が浮かぶ。

 手紙は、到着までに店の資料をまとめておけとの意向を示唆しているのだと思う。今のうちに専用の書類を作成しておこう。

 

 

【機動要塞デストロイヤー襲来】

 もうすぐデストロイヤーがやって来る。

 天災の通行ルートとなったアクセルは滅亡の岐路に立たされた。

 

 平和な日中、駆け抜けた突然のこの凶報に街は騒然としている。

 デストロイヤーとは簡潔に言うと、蜘蛛型の超巨大ゴーレムだ。かつての魔導技術大国ノイズで製造された。

 この国は現代で言うところの、紅魔の里周辺を含めた地域を領有していた。そして、デストロイヤーの暴走で真っ先に滅ぼされた。

 思い起こしてふと思ったが、紅魔族が歴史の表舞台に現れるようになったのも確か、ノイズが滅ぶ少し前くらいだったような。時期が重なっている。

 

 話が逸れた。

 デストロイヤーには対魔法用の結界が備わっている。これは大層強力で、爆裂魔法すら防いでしまう。魔法使いでは打つ手が無い。

 とは言うものの、物理攻めも難しい。

 構成するフレームが軽く丈夫な魔法金属製で、弓矢程度は弾く。速度も兼備しているから鈍重な攻城兵器での迎撃も困難。

 接近戦はもっと無謀だ。向こうは小さな城くらいの巨体。近寄っても撥ねられるか、踏まれるかで挽き肉と化すだけだろう。

 オマケに胴体には、対空戦や戦闘用ゴーレムまで格納してある。

 

 これらの要素から、デストロイヤーに対抗する手立てが無い。

 ならばいざ街にデストロイヤーが迫ったときにどうするかというと、逃げる。脇目も振らず、取るものもとりあえず、街を放棄して遁走する。

 本当にそれしかない。大真面目に、これがセオリーなのだ。

 一方魔王軍は、魔王城を覆う結界でこの天災をやり過ごしている。

 伝承によると元は対魔王軍用にと開発されたはずだが、現実は人類だけに牙を剥くとんでもなく皮肉な構図が現出している。

 

 デストロイヤー警報が一帯に鳴り響いた。

 この急報に私は沈思黙考に耽るも、傍らのウィズに肩を揺さぶられたことで思考の海から引きずり戻される。

 衝撃で呆然としてると勘違いされたらしい。

 いやまあ確かに驚いたは驚いたが。私はただ、デストロイヤーに更地にされたアクセルの復興利権に食い込んで、どうにかひと儲けできないものかと検討していただけなのだけど。どうせ今の店は瓦礫の山になるし。

 どちらにせよ、今ここで考えるような内容ではなかったが。

 

 ウィズが冒険者ギルドへと向かうので、私も同行した。

 若干の猶予があるため、事態の詳細を把握しておきたかった。

 本来一般人は直ちに避難せねばならないが、それはそれ。対策を練るためギルド職員はまだ残っているし、私はここではバイトの身ながら有能との評価を頂戴している。

 これらを勘案すれば、暫し居座るくらいは容易いと判断した。

 それに切迫しているからこそ、裏方でも肩を並べるアピールをするのには意義がある。自身のイメージ戦略的な意味で。

 印象操作は一日にして成らず。コツコツとしたこういう日々の積み重ねが大切なのだ。

 

 ただ私としては顔出しだけが目当てで、心中はデストロイヤーが通り過ぎて以降のことへとシフトしかけていた、のだけど。

 それが、デストロイヤー討伐のムードになっていたので目を丸くする。

 着いた時点で作戦の骨子が出来上がっていた。ギルド内は、勝利への希望と戦意の熱気に満ちている。

 想定は色々としていたけど、この展開は予想に無い。本当に、アクセル復興計画に思いを馳せてる場合じゃない。

 

 流れとしては、まずはデストロイヤーの結界をアクアが解除。

 これで魔法が通るようになれば、めぐみんとウィズ、二者の爆裂魔法で相手の脚を丸ごと吹き飛ばす。

 足を止めてしまえばこっちのもの。後は時間をかけてどうとでもなる。

 割と力技ではあるものの、シンプル故に通用さえするなら公算が大きい。

 これら大枠のほとんどを、サトウカズマが一人で組み上げていた。

 本当に何なのだろう、あのパーティー。ベルディアのときと言い、此度も反撃への起点となっているのは彼らだ。そういう星の下にでも生まれているのか?

 

 それとは別に仰天したのが、逃げずに街に残っている冒険者が意外と多い。

 特に男性陣に至っては、偶々街の外に出ていた等の一部例外を除けば勢揃いしてるのではないだろうか。

 しかも彼らは、士気も尋常でなく高い。さながら魔王との決戦直前のような、異様なやる気と気迫が漂っている。正しく鬼気迫る雰囲気だ。

 揉めるようなら、私が扇動して強引に意思統一を図ることも視野に入れていたのだけど、これは全然必要が無かった。

 ただ、男衆の張り切り具合の理由については、観察を続けているうちに見当がついた。

 サキュバスサービスだ。このままだと、あの店のエッチな夢が見られなくなる。

 この街は、どうやら男共の飽くなきスケベ心によって守られようとしているらしい。

 

 会議が一段落すると。作戦に参加しない非戦闘要員の私は、この機になるとお荷物でしかないため街から退避した。

 もっとも私は、スタミナ不足の上に走れない。正確には、壊滅的運動音痴なので走ると確定で転ぶ。

 だからといって悠長に歩いて移動するわけにもいかない。なので他の人に一輪車で私を運搬してもらった。

 

 それにしても、ウィズは迎撃に残るのか。

 どうなることか。私自身は勝算をそこまで楽観視していない。

 デストロイヤーを追い詰めた先例は無く、まだどんな隠し札があるか判然としない。作戦は未知によるイレギュラーを前提としていない。最後まで気が抜けない。

 その懸念を作戦指揮のカズマにコソっと打ち明けたところ、複雑そうな渋い顔が返ってきた。フラグが立ちそうだから、できればそういう話は聞きたくなかった、と。

 意気込みに水を差された、という風でもない。何だか変な反応だった。

 あと、『フラグ』なる単語を私は知らない。彼の故郷特有の概念だろうか。

 

 ウィズには、もしもデストロイヤーを無事に倒せた暁には、先を越されないよう設計図など金になりそうな物品は手早く確保するようにと助言を送った。

 しかしあちらの応答は、苦笑。何だか私の望むところとは、微妙にピントの外れた覚悟を固め始めているような。

 冗談というか、どうも激励の一種として受け止められたようだ。

 私は徹頭徹尾、本気で言っているのだけど。

 

 

【破壊者を破壊した者たち】

 まさかの成功。

 果たして、作戦が図に当たってデストロイヤーが停止してからも危ない局面が訪れた。だがそれすら退けて、遂には撃破してしまった。

 

 私は現場を目にしていないため、以下の一部始終は人伝となる。

 爆裂魔法で脚を削ぎ、無力化したかに映ったデストロイヤー。だが程無く、自爆によって街諸共消し飛ばす兆しが見られる。

 作戦が完了して、ほっと気が緩んだところにもたらされた絶望。だがそれでも男連中は折れなかった。ならばとデストロイヤーに乗り込んで、内部で操縦している者を引っ捕らえて力尽くで止めさせようとした。

 このときばかりは、彼らは勇猛果敢で命知らずな、本物の勇者の軍勢であった。

 その勇気を支える原動力がエロだと思うと、何とも言い難い気分になるけど。

 冒険者の半数がこれほど依存している。やっぱりあの店、手中に収めておくと何かと便利そうだ。首輪をつけたい。

 

 なお、デストロイヤーを操縦する責任者はいなかった。

 正しくは、白骨化してとっくに成仏していた。

 残されていたその人の手記によると、デストロイヤーはただ制御不能になっていただけで、誰かの指示による暴走ではなかったらしい。

 造り出した研究者が乗っ取って暴れているとの見方が定説だったのだけど、そうではなかったとか。虚しい歴史の真相である。

 まあ、遺跡等でごく稀に発見されるノイズ産と思しきゴーレムは自立稼働タイプが多々見受けられると耳にするから、私的にはそれほど意外性は無い。

 

 自爆については、動力源として使われていた永遠に燃え続ける伝説的鉱石、コロナタイトをウィズのランダムテレポートで転送することでどうにかした。

 ランダムなので、どこに飛んで行ったかは不明である。他の登録先は人里ばかり。選択肢が実質無かったのだ。

 ひとまず、私やウィズに迷惑がかからない土地であることを願う。

 これについてはカズマが、自分が全責任を持つと彼女の背中を押して決行した。

 自らが類稀な幸運持ちだからか、これはまたとんでもない博打を打つ。

 私なら経験上、肝心な部分を運任せるにすると大体躓くから、別の方法を模索していただろう。

 

 コロナタイトが消失してもなお終わらない。溜め込んだ膨大な熱を放出しようとするデストロイヤーが、またもや爆発しそうになった。

 これはカズマのドレインタッチによってアクアから魔力を譲渡されためぐみんが、二度目の爆裂魔法を放ってデストロイヤーを跡形もなく消滅させることで解決する。

 ここまでやって、ようやっと一連の決着がついたのだ。

 

 しかし、残念。

 デストロイヤーが木っ端微塵になったので、ひょっとしたらあったかもしれない金目のものも当然失われてしまった。これではどう足掻いても回収できない。

 素直に、ウィズに分配されるデストロイヤーの賞金だけで満足するとしよう。




・ドネリー家のお家騒動
アンチ・ヘイトタグをつけた理由。原作では影も形もない。
モデルは稲葉山城乗っ取り事件。
カレンは『続・爆焔』一巻におけるラスボスポジションの人。

・プリーストの霊感
プリースト職の能力として、通常は知覚できない幽霊を感知する力がある。
原作十五巻三章より。
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