日本国召喚 AIに二次創作を書かせてみた 作: まっこーける
ゲンゲンダ平原南部の丘陵地帯。ミリシアルの担当戦域。この丘陵地帯はグラ・バルカス陸軍第36旅団が配置され、連合軍を迎え撃つべく布陣している。
第36旅団は150ミリ重砲を擁する部隊であり、その火力を以て北の平原を進撃する自衛隊とムーを撃滅せんとしていた。
脅威なのは重砲だけではない。第36旅団を放置しておくと後背を衝かれる恐れがあった。
当然連合軍側もこの状況を座視していない。ミリシアル軍は丘に陣取るグラ・バルカス部隊を排除せんと、1個師団(実態は増強連隊)を送り込む。
グラ・バルカスが陣取る丘はミリシアル側でヒル937と呼称された。そのヒル937を後に双方の兵士達はこう呼んだ。
『ミートチョップヒル』(挽き肉の丘)と……。
◆◆◆
なだらかな丘陵地帯に魔導砲の激しい砲撃音が鳴り響く。ミリシアル帝国陸軍の砲兵部隊が放つ114mm魔導砲によるものだ。
砲弾は空中高く舞い上がり、重力に従って落下し、着弾点である丘の斜面をえぐる。
着弾地点から大量の土砂が爆煙とともに巻き上げられ、それが幾重にも重なる。
ミリシアルの砲兵陣地にはバラバラになったゴーレムや魔導砲の残骸が転がっており、砲兵同士の激しい撃ち合いがあったことを物語る。現在は敵の砲撃は鳴りを潜んでいる。
これはミリシアル砲兵の奮戦もあるが、実際はグラ・バルカス側の150ミリ砲弾の備蓄が尽きたためだった。砲撃戦を制したのはミリシアル砲兵であった。彼らは多大な出血を伴いながらもグラ・バルカスの砲火力を引き付け友軍への被害を食い止めたのであった。
「おーやってる、やってる」
丘の表面で炸裂する榴弾を眺めながら、レイフ2等兵が言う。
彼と彼の所属する中隊は先ほど魔導トラックに乗ってやってきたところだ。
「この調子なら楽勝ですね」
レイフの表情は明るい。
「油断するな。グラ・バルカス帝国軍は手強い。砲撃だけで片が付くわけがない」
ティム軍曹がそう注意した。その視線は鋭く、警戒感が感じられる。
「ベイカー中隊集合!」
中隊長であるエベンス大尉の声が響き渡る。ミリシアルの白い軍服と黒い軍帽を身につけた兵士達が立錐する。
彼は部下達が所定の位置についたことを確認すると、訓示を始めた。
「我々はこれよりヒル937にいるグラ・バルカス軍を攻撃する。これは進撃する味方を支援する非常に重要な任務だ。敵に損害を与えることを優先しろ! 以上だ。各員奮励努力せよ!」
彼が言い終わると兵士たち一斉には右拳を胸に当てるミリシアル式の敬礼した。それを見たエベンスも答礼を行う。
「行くぞ!」
中隊は丘の頂上を目指して進軍を開始した。
◆◆◆
以前は灌木が生えていたなだらかで緑豊かな丘は今ではすっかり様変わりしている。
木々は砲撃によってなぎ倒され、茶色い土が剥き出しになっていた。
ティム軍曹が所属するベイカー中隊第2小隊はヒル937の手前にある茂みに身を潜めている。
彼らは丘に陣取るグラ・バルカス陣地への偵察を命じられていた。
幸いにしてまだ発見されてはいない。小隊長であるロビン少尉は緊張の面持ちで双眼鏡で丘の様子を伺っている。
しかしグラ・バルカス兵の姿は見えない。
「敵は見えないな。砲撃でやれたのだろうか?」
ロビンの疑問に答えられる者はいない。
「もっと近づいて敵情を集める。ティム軍曹、第1分隊とゴーレムを連れて偵察しろ。 危険と判断した場合はすぐ戻ってこい。いいね」
ロビンはティム軍曹の肩に手を置く。
「了解しました」
ティムは短く答えると、自分の分隊員10名とゴーレム1体と共に丘の斜面へ近づいていく。ゴーレムを先頭に横隊で前進する分隊。しばらくすると、唐突に銃声が響き、1人のミリシアル兵の胸に血の華が咲き、地面へ崩れ落ちる。
「伏せろ!」
それは紛れもなく丘からのものであった。ティムたちは慌てて身を伏せると周囲を見渡す。丘の中腹では暗灰色の野戦服を着て、黒いヘルメットを被っ複数の人影が動いている。グラ・バルカス兵だ。
グラ・バルカス兵たちは丘に構築された掩蔽壕からこちらに向かって銃撃を加えてきた。小銃弾が飛び交う中、ティム達も応戦する。
ゴーレムや草むらを遮蔽物とし、敵の射線から逃れつつ、ティム達は手に持った魔導ライフルで反撃を加える。
だが、いくら撃っても命中弾が得られない。。
何せ向こうは高地に陣取り掩蔽壕に守られている、その防御は堅固だ。圧倒的に不利なのは否めない。
このままではジリ貧だとティム軍曹は判断した。
彼はすぐに小隊長へ魔信を入れる。そして現状を報告した。
「こちらティム、敵と交戦中。敵の攻撃が激しく、死傷が数名。これ以上の接近は無理です!」
その報告を聞いたロビンはグラ・バルカス軍が想定以上に健在であることに驚く。彼はティムの分隊を撤退させるべきだと決断する。しかし敵の攻撃は激しさを増しつつある。そのまま後退するのは危険だと思われた。
「了解、砲撃支援を要請する。それまでなんとか耐えてくれ!」
ロビンは魔導通信機で砲兵陣地に連絡を取る。
一方のティムは砲撃の支援を待ちつつ、ゴーレムが装備する14.5ミリ魔導機関銃を軸とした射撃で敵を牽制していた。
青白い光弾が塹壕から攻撃してくるグラ・バルカス兵を制圧していく。
しかし、ゴーレムの射撃は長くは続かなかった。
「クッ、弾がっ!」
ゴーレムの操縦者は舌打ちした。魔導機関銃へエネルギーを供給する魔導カートリッジが空になったのだ。
彼は予備のカートリッジを装填しようと弾嚢に手を回す。だが、その時突如として鋭い銃声が響き、操縦者の頭が爆ぜた。
血と脳梁がゴーレムの操縦席を濡らし、頭部を失った胴体はそのまま地面へ落ちる。
リロード中の隙を衝いたグラ・バルカス側からの狙撃だった。
ティムの分隊は丘の上から降り注ぐ銃弾により、徐々に負傷者を増やしていく。
(クソッタレ!)
ティムは心の中で毒づいていた時だった。唐突に砲弾の飛来音が響き渡る。
丘の中腹で連続して爆発が生じた。ミリシアルの援護砲撃であった。
「今だ!後退しろ」
ティムの分隊は砲撃の支援と援護に駆け付けた別の分隊とゴーレムによって、負傷者を回収すると後退していく。
◆◆◆
ミリシアル帝国陸軍イルネティア上陸部隊司令部には、将校が集まり、地図上の駒を動かしながら戦況を確認していた。
彼らは中央に置かれたテーブルを囲むように座っている。
イルネティア島の地図を睨む彼らの表情は一様に険しい。
そんな重苦しい雰囲気の中、1人のエルフ男性が口を開いた。
彼は黒縁の眼鏡を指先で押し上げると、青い頭髪を掻きながら発言する。
彼が今回のミリシアル陸軍イルネティア上陸部隊の指揮官で名前はトレースという男だ。階級は中将。
年齢は50歳前後といったところだろうか、年齢よりも若く見える。細身の長身で、整った顔立ちをしているが、目元に刻まれた深い隈が彼の疲労の度合いを示していた。
「戦況報告を 」
彼は苛立った口調で言うと、机の上に広げられている報告書を手に取った。
そして眼鏡の位置を調整すると、改めて状況を確認する。
現在、島の東側で戦闘が繰り広げられていた。
イルネティア島上陸したミリシアル軍の戦力は歩兵師団である第4師団と第11師団だ。
しかしその2つの部隊の実態は師団とは名ばかりの、増強を受けた連隊程度の規模しかなかった。(当然本来の編制は違う。本来なら両師団は歩兵連隊3個を擁する部隊だ。こうなったのはミリシアルの海上輸送力の限界のためだった)
そのうち第4師団がヒル937での戦闘に投入されており、第11師団は西進し、イフォス市へ迫りつつあった。
「第11師団は順調に進撃中です、しかし第4師団が苦戦しております。敵の火力が強力で、損害が増加しています。」
参謀の報告にトレースは顔をしかめる。彼は自分の予想より敵軍が強いことに驚いていた。
「ヒル937をどのくらいで落とせる?」
彼は尋ねる。
それに対し、参謀は少し考えてから答えた。
「敵はヒル937に強固な陣地を構築しております。海軍の航空支援も望めませんし、攻略はかなり時間がかかると思われます。」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をしながら言った。
緒戦の海戦で空母を失ったミリシアル軍は現在、自衛隊のイージス艦や中SAMが提供する防空の傘に守られている状態だ。
「トレース閣下。ヒル937は無理に攻めずに、包囲するだけに留めるべきではないでしょうか? 第4師団には悪いですけどこのまま敵の火力を引き付けてもらい、第11師団を自衛隊、ムーと共同させ、イフィス攻略を進めるべきです」
参謀が進言する。しかし、トレースは首を横に振る。
彼は渋い表情を浮かべたまま、ぼそりと言う。
「オタハイトのヴァンフリークが急かしてきている。早くちっぽけな丘ぐらいを落とせ、とな……。
奴のことだ、どんな小さな戦果でもいいから欲しいのだろう。我々は開戦から此の方負け続きだからな」
「大々的な戦果が欲しいなら、なぜゲンゲンダ平原における主攻を自衛隊に任せたのでしょうか。我々が平原のグラ・バルカス軍を打ち破り、その勢いを以てイフォス延いてはキルクルスを解放する。その筋書きでもよかったのでは?」
参謀が疑問を呈する。しかし、トレースはそれを鼻で笑った。
「ふん、グラ・バルカス軍と自衛隊を平原で戦わせ、双方が疲弊した後、我々が漁夫の利を得る。ヴァンフリークの頭の中ではそんなシナリオだったのかもな。だが想定外だったのは自衛隊は我々の想定以上の強さを持っていたことだ。グラ・バルカス軍を殆ど損害なしで打ち破ってしまった、だから焦っているのさ」
トレースの言葉に、室内の空気が更に重くなる。
「とにかく、ヒル937を攻めるのは決定事項だ。いつまでも第4師団を丘に貼り付けておくわけにもいかないし、後顧の憂いを断つためにも早めにケリをつけよう」
「閣下、ただ攻めるだけだと損害が増すばかりです。何か策が必要かと……」
別の参謀が言う。すると、トレースは顎に手を当てて考える仕草をする。
そして数秒の沈黙の後、彼は口を開いた。
「ならばガス攻撃を行う。敵陣に毒ガス弾を撃ち込み、無力化せよ。その後、火炎放射器による焼却だ。これなら被害も少なく、速やかに敵を排除できるはずだ」
トレースの言葉に、他の参謀たちは同意を示す。
彼らの表情には、作戦への迷いはなかった。
◆◆◆
ヒル937、グラ・バルカス軍陣地。
丘のあちこちには掩蔽壕が構築されそれらは連絡壕によって連携されていた。そこに多くの兵が守備についている。
数多くあるタコツボ陣地の一つで2人のグラ・バルカス兵が警戒に当たっている。1人は狙撃銃のスコープを覗きながら、周囲を見渡している。そしてもう1人、は機関銃を構え陣地周辺を警戒していた。
「なあ、お前はこの戦いが終わったらどうするつもりなんだ?」
不意に狙撃銃の兵士が話しかけてくる。
「俺の故郷はロデナ村だ。そこで家業の農家を継ぐつもりだよ。」
「いいなぁ、俺たちみたいな末端の兵士は、家族を養うためだけに戦い続けるしかないんだぜ」
兵士の声にはどこか諦めの色が含まれていた。
「そもそもこの戦争勝てると思うか?」
「さぁな。ただ、日本の軍は強いらしいぞ」
「まあ、日本は技術先進国らしいな。それにあのミリシアルとかいう国もある。流石にこの戦力差はひっくり返せないんじゃないか?」
「かもな。でも、俺は祖国の勝利を信じているよ」
「そうだな。そう信じたいものだぜ」
2人が会話を切り上げようとした時だった。
突如、甲高い砲弾の滑空音が鳴り響く。彼らは反射的に身を屈め、塹壕の中へと身を隠す。
ミリシアルとの砲撃戦で身に着いた慣習だ。
爆発と土煙が上がり、破片が飛び散り、地面が激しく揺れ動く――と思われたが想像したような事態は起こらなかった。
「なんだ不発か? 脅かしやがって」
彼らは安堵して顔を上げる。しかし、少しすると周囲に黄緑色の靄が漂い始める。それはすぐに濃度を増していき、ついには視界が完全に奪われてしまった。
直後、猛烈な吐き気に襲われる。
兵士たちは口を手で押さえ、必死に耐えようとするが、耐えきれず嘔吐する。
やがて強烈な頭痛と腹痛が襲い掛かってくる。
身体が震え、手足の感覚がなくなっていく。
(まさか 毒ガス!?)
思考能力が低下していく中、彼らは自分たちに死が迫っていることだけは理解できた。
「状況ガス!状況ガス!」
「装面!」
誰かが叫ぶ声が聞こえる。
突如として始まったミリシアルのガス攻撃に丘のグラ・バルカス軍はパニックに陥った。
◆◆◆
黄緑色のガスに包まれていくヒル937をティム軍曹たちは遠巻きに眺めていた。
「うへぇ、こっちにまで流れてきませんよね。ガスマスク付けるの嫌いなんですよ」
レイフがぼやく。
「心配するな。風神の涙で風向きはコントロールしてる。こちらには来ない」
ティムが答える。今回の攻撃でミリシアルは揚陸させた毒ガス弾の全てを使い切った。
「ガスでみんな死んでくれてると楽なんですがね」
レイフが言う。おそらくグラ・バルカス軍の生存者は殆どいないだろう。ミリシアル将兵の間で楽観的ムードが広がっていく。
「総員傾注!これより突撃を開始する。目標は丘上の敵陣地。敵はガスで瀕死だ。各位、思う存分暴れろ!!」
中隊長の命令に、隊員たちは雄叫びをもって応える。第4師団全力を挙げての攻撃が始まったのだ。
◆◆◆
所々に毒ガスの残滓が漂う丘に銃声と怒号が響き渡る。ミリシアルはこの攻撃に3個大隊を投入、白い軍服を着たミリシアル兵たちが打ち寄せる波の如く丘に群がる。
しかし、毒ガスによって混乱状態に陥っていたグラ・バルカス軍は、既に落ち着きを取り戻しつつあった。
陣地から放たれた機銃弾がミリシアル兵をミンチにし、炸裂した手榴弾が四肢をもぎ取る。
曳光弾と魔光が錯綜し戦場を彩った。
「クソ、ガスが効いてないじゃないか!」
誰かが悪態をつく。
ミリシアルは毒ガスの効果に期待していたのだが、敵兵は殆ど倒れていなかった。
グラ・バルカス軍もガスマスクを持っていたのだ。
双方の兵士たちは皆ガスマスクを装着し、薄れ始めたガスの中でレンズが昆虫の目の如くギラリと輝く。
「ゴーレムを前へ!」
中隊長の指示によりゴーレムが斜面を駆け上り、14.5ミリ魔導機関銃を撃ち放ちつつ前進する。
ある程度の装甲を持つゴーレムに対し、小銃程度の弾丸では効果は薄い。
しかし、動きは鈍重だ。
グラ・バルカス兵が13ミリ対戦車ライフル銃から徹甲弾を放ち、ゴーレムの胸板を貫く。
しかしゴーレムの操縦者を殺傷するには至らず、そのまま前進を続ける。
第2射、第3射と続けて対戦車ライフル銃が火を吹き、魔導機関銃を持った腕ごと吹き飛ばすが、それでもゴーレムは止まらない。そしてついに、グラ・バルカス兵が籠る陣地へ突入する。
「うおおおおお!」
血まみれのゴーレムの操縦者が雄たけびを上げ、最期の力を以てゴーレムの魔導エンジンを暴走させる。
爆発とともに青い炎が噴き上がり、陣地内のグラ・バルカス兵を吹き飛ばした。
「今だ! 突撃!突撃ぃーっ!!!」
中隊長が絶叫し、ミリシアル兵たちがなだらかな坂を駆け上る。
グラ・バルカス軍も何とか態勢を立て直した兵が応戦するがゴーレムの自爆によって生じた混乱は大きく、ミリシアル兵の接近を許してしまう。
「ウチさぁ。これ(火炎放射器)あるんだけど、焼いていかない?」
タンクを背負ったミリシアル兵の1人が陣地に辿りき、そう言って火炎放射器を構える。
タンクから供給された液化魔石が火炎放射器の炎魔法によって着火し、灼熱の業火が吐き出される。
「アツゥゥイ!」
陣地内は阿鼻叫喚の灼熱地獄となった。火だるまになったグラ・バルカス兵が兵士が転げまわる。
「ヒャッハー! お前らはゴミだ汚物だ! ゴミは焼却処分だぁぁぁぁ!!」
火炎放射によって焼死体が転がる陣地にミリシアル兵はミスリルサーベルを抜き放ち突入していく。サーベルが煌めいてグラ・バルカス兵の首が刎ねられ、銃剣で突かれたミリシアル兵が血反吐を吐く。
あちこちで白兵戦が繰り広げられ、丘が死体と血で装飾されていく。
そんな中、ティムとレイフもミスリルサーベルを手に敵陣へと斬り込んでいく。
「イヤーッ!」
鋭い掛け声と共にティムがグラ・バルカス兵を袈裟懸けに斬ると、相手は悲鳴を上げる間もなく絶命する。
ティムはそのまま返す刀で隣にいたグラ・バルカス兵の首を切断する。
「レイフ、油断するなよ」
「了解です」
ティムとレイフの周囲はまさに乱戦模様を呈していた。
「敵は怯んでいるぞ!このまま押し込めぇ!!」
「うおぉぉ!!」
隊長の檄にミリシアル兵は勢いづき、陣地内を蹂躙していく。
ティムは突き出された銃剣をサーベルで受け流すと、相手の手首に刃を突き立て切り裂いた。
レイフもティムに負けじと敵兵に体当たりを食らわせ、敵の体勢が崩れたところに膝蹴りを叩き込む。
これ以上ここで戦うのは不利、と判断したグラ・バルカス兵らはさらに上にある予備陣地へ後退を開始する。
やがて陣地を制圧したミリシアルは、その勢いのまま後退するグラ・バルカス兵を追撃しようと試みる。
しかし、その時─── ズドォン!! 轟音とともに、ミリシアル軍の真ん中に土煙が上がった。
そして数秒後、再び同じ音が響き渡る。
突然の砲撃にミリシアル軍は思わずよろめく。
グラ・バルカス軍からの75ミリ軽量山砲からの砲撃である。
塹壕から身を乗り出したミリシアル兵は、突如飛来した砲弾に吹き飛ばされ、斜面を転がり落ちていく。
続いて、更に二発、三発と砲弾が降り注ぎ、ミリシアル兵の至近に炸裂して肉片を飛び散らす。
グラ・バルカス軍の攻撃により、ミリシアルの陣形は大きく乱れた。
その隙に、グラ・バルカス軍が反撃に移る。
丘上の陣地から撃ち出された機関銃がミリシアル兵の頭上に降り注ぐ。
機銃掃射により、ミリシアルの兵士たちがバタバタと倒れていった。
ミリシアル軍の前線指揮官が怒声をあげる。
「後退!後退しろ!急げ!」
ミリシアル軍は先程制圧したグラ・バルカス軍の陣地内へ逃げ込む。陣地内の兵士らは、味方の惨状に驚きつつも、すぐに塹壕に身を隠した。
しかし……ズドォン!ズドン! 驟雨の如き砲撃。ミリシアル軍は塹壕の中で縮こまることしか出来ない。
「砲兵に支援を要請!」
指示された座標に、ミリシアル砲兵が砲撃を行う。しかし敵山砲の正確な位置が分からないまま実施した、当てずっぽうな砲撃は効果が薄い。
少しすると砲弾の無駄だと判断し砲撃を止めさせた。
「酷い有り様だ」
ティムは顔を歪めた。
ヒル937は凄まじい有様であった。
グラ・バルカス兵とミリシアル兵の死体がそこかしこに転がり、緑豊かだった丘は荒廃し今や見る影もない。
「まるで屠殺場ですね」
レイフが呟く。
「ああ、挽き肉の丘、にここを改名したほうがいいな」
屍の転がる中、ティムとレイフは丘の上を見上げる。
近くて遠い目標、丘の上には未だグラ・バルカス軍の陣地が残っている。
そこに居るであろう敵を二人は睨みつけた。こうしてミリシアルのヒル937への攻撃は頓挫した。
◆◆◆
「ヒル937をまだ落とせないか?」
トレース中将はイラついた様子で部下に尋ねた。彼は作戦本部に設置された戦況図を眺めながら、腕を組んでいる。
ヒル937への攻撃を開始してから2日、未だにグラ・バルカス帝国陸軍陣地は健在であり、対するミリシアル軍は被害を出し続けている。
ヒル937の戦いは大きな戦況の変化もなく膠着状態が続き、ダラダラと双方共に死傷者を積み上げる泥沼の戦闘となっていた。
「はっ、残念ながら……ガス攻撃もあまり有効ではありませんでした」
グラ・バルカス軍は強固な陣地に守られつつ、丘上から攻撃を続けている。
それに対し、ミリシアル軍は有効な手立てを打てていない。
「既にゲンゲンダ平原の戦いは終わり、イフォスを包囲する段階に入った、というのに……」
現在、連合軍はイルネティア島中央部へ進出しつつある。しかしミリシアル軍はヒル937攻略に第4師団を張り付けたままであり、自由に動かせる戦力は第11師団しかない。
「第11師団の実質的戦力は増強1個連隊ほどだ。これでは、イルネティア解放作戦のイニシアチブは取れまい。ヴァンフリークの目論見は外れたな」
「トレース閣下。先日申し上げた通り、これ以上のヒル937における攻撃は無用と判断致します。無理な攻勢は損害を増やすだけでしょう。」
幕僚の一人が進言する。
「やはり、お前が最初に言った通り、丘を包囲するだけに留めるべきだったな。はぁ、ヴァンフリークが怒り狂う様子が目に浮かぶよ」
トレースは1つため息をつくと言葉を続ける。
「大規模な増援が今すぐ見込めない以上、現有戦力でイフォス攻略を進める他あるまい。グラ・バルカス帝国を甘く見たツケだな」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、地図に視線を落とす。
(おそらく俺はこの作戦が終わったら閑職行きだろう。そして後世に無能の将として名を残すことになる)
トレースは自嘲気味に笑うが、すぐ表情を引き締めた。
(今は自分の後の処遇よりも前線で戦っている兵たちを一人でも多く母国へ帰すことが重要だ。そのためにも一刻も早くこの戦いを終わらせる必要がある)
彼はそう考え、気持ちを新たにする。
ヒル937の戦い。通称ミートチョップヒルの戦いの決着がついたのはイルネティア島のグラ・バルカス軍が全面降伏した後であった。