日本国召喚 AIに二次創作を書かせてみた 作: まっこーける
イルネティア陥落。それは、グラ・バルカス帝国軍部にとって大きな衝撃をもたらした。
「イルネティアが落ちたか……」
グラ・バルカス帝国軍本部長サンド・パスタルはその報告を受け、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ここは帝都ラグナの軍務省庁舎、会議室。ここでは今まさに緊急会議が行われていた。
参加人数は少ないが、海軍作戦本部長カルマンド大将、陸軍参謀総長マレイ大将など軍の重鎮たちが顔を揃えている。
皆一様に深刻な面持ちをしている。それも当然だろう。イルネティア島はムー大陸と帝国本土との中間地点にある要衝であり、ここを抑えられたということは帝国本土とムー大陸との兵站線を遮断されてしまう危険性があるからだ。
「奪還の為、艦隊を向かわせるべきだ!このままでは補給計画が大きく狂ってしまう」
マレイが吠える。対するカルマンドは渋い顔のまま首を振る。
本来であれば、マレイの言うとおり艦隊を派遣すべきなのであろう。しかし――
「既に奪還の為、第6任務部隊を向かわせて、そして敗北したのは貴官も知っているだろう」
「海軍の艦隊はそれだけではないであろう! 1000隻もの大艦隊を擁しているではないか! なぜ動かさんのだ!」
マレイはなおも食い下がる。だが、カルマンドの返答は非情なものでしかなかった。
「一度に1000隻も動かす燃料は海軍にはない。国家転移現象から此の方、我が国は常に石油不足だ。貴官も知らぬ訳ではあるまい?」
現在、帝国内は慢性的な石油不足問題に直面していた。国内から産出する石油だけでは帝国の需要を満たすことが出来ないのだ。
石油がなければ航空機、艦艇はおろか自動車すら動かすことすらできない。石炭液化技術はあるものの、それでも大量のエネルギー需要を賄うには至らない。民間から徴発するという手もあるが、これは当然、国民の反発を招く恐れがあるし、何より経済への悪影響が大きすぎる。
「レイフォルへの兵站線は完全に断たれたわけではない。幸いにもまだパガンダ島は健在だ。そこを拠点として、ムー大陸西方の海上優勢を維持していくしかない」
「このままではムー攻略計画そのものが頓挫する。不安定な兵站線ではこれ以上のムー国への進攻は不可能に近い」
カルマンドとマレイの言葉を聞き、サンド・パスタルは小さくため息をつく。
そしておもむろに口を開いた。
「現状では護衛の艦艇を増やして対処するしかないか。本土、レイフォル間の対潜警戒も厳にしなければならないな」
そう言って彼は席を立った。
◆◆◆
イルネティア陥落後、レイフォル西部、パガンダ島北部海域。そこには、グラ・バルカスの輸送船団が航行していた。
タンカーを含む輸送船の数は12隻。輸送船は生産性を重視された規格品であるため、外見上の個性はほとんどない。それらの船団を護衛するのは駆逐艦6隻と護衛空母1隻からなる船団だった。グラ・バルカスの港町トクトアを出港しレイフォルのレイフォリアを目的地とするこの船団は、ト103船団と呼ばれていた。
「艦長、レイフォリアまで後6時間の距離です」
航海長の報告を受け、グラ・バルカス海軍の駆逐艦ラクスファルクの艦長は「そうか」とだけ答える。
その視線の先には水平線が広がっており、空と海の境界すら曖昧になっている。
「しかし、信じられませんね。イルネティア島が落とされるとは……」
「ああ、既にイルネティアは敵の根拠地と化しているだろうな。この海域もいつ敵が現れるかわかったものではない。警戒だけは怠るな」
噂をすれば影で、早速ラクスファルクのレーダーが接近する物体を捉えた。
レーダー室から通信が入る。
「対空レーダーに感! 距離80キロ!」
ラクスファルクの戦闘指揮所に緊張が走る。
「IFF応答なし! 味方機ではありません! 数40以上! こちらに向かって来ます!」
「噂をすればなんとやらだ! 対空戦闘用意!ガナドールに通報しろ! 戦闘機を発艦させろと!」
ガナドールとは船団に随伴する護衛空母だ。正規空母ほどの攻撃力はないが、搭載機数は30機である。ガナドールは直ちにアンタレス艦上戦闘機のスクランブルを行う
空母から飛び立てたアンタレス12機はガナドールの管制の許、敵編隊へ向かう。
やがて敵の戦爆連合の姿が確認できた。しかしそれらの機体はムーの国籍マークをが貼付されているものの、彼らが知る機体とは大きく異なっていた。
「戦闘機も爆撃機も古臭い複葉機じゃないぞ!?」
「まさか……ムーの新型か!?」
アンタレスのパイロット達も動揺を隠しきれない。
彼らが目にした機体、それはムーの新鋭機『マリンMK2』だ。全金属製単葉機で最高速度は時速500kmに達する。
一方の爆撃機も新鋭機だ。名称は『マケスト』。この機体は双発単葉の爆撃機で、爆弾搭載量は500キロを誇る。
そのマリンMK2 26機、マケスト28機による戦爆連合がト103船団に襲いかかろうとしていた。
迎撃のアンタレス隊は果敢にマケストに攻撃をかける。しかし、それをムーのマリンMK2が阻んだ。
マリンMK2は前世代機のマリンに比べて格段に性能が向上している。しかしそれでもアンタレスの性能はマリンMK2を上回っていた。
だがアンタレス12機、対するマリンMK2は26機と数の上ではムー側が優位だ。マリンMK2は数の優位を活かし、各機が連携し、相互にカバーし合いながらアンタレス隊をマケスト爆撃機に近づけさせない。
「くそっ、数が多い!」
アンタレスのパイロットは毒づく。マリンMK2は戦術も改良されていた。彼らは互いにカバーしあい、常に複数機を以てアンタレスに対峙している。
そして隙を見て、一機を集中的に狙うのだ。それを可能にしているのは日本製の無線機だ。
この無線によって、互いの位置を把握しながら、連携して戦うことができるのだ。アンタレス隊はなんとかマリンMK2の間隙を縫いマケスト2機を撃墜することが出来たが。彼らが撃墜できたのはそれだけであった。
そうこうしているうちに、2つの編隊に分かれたマケストは一方は高空から、もう一方は高度を下げつつト103船団上空に到達しつつあった。船団護衛の駆逐艦が必死になって弾幕を張る。対空砲弾が空に黒い花を咲かす。
しかしマケストは砲撃に揺さぶられながらも怯まない。駆逐艦からの対空砲火をものともせず、突っ込んでくる。
そしてついにト103船団上空に到達した。V字編隊を組んだマケストは船団へ水平爆撃を敢行する。
編隊の先頭を行く編隊長機の爆弾投下に合わせて他の機が爆弾を投下する。その様はまるで投網を投げ込む漁師のようだ。輸送船もタンカーも回避行動をとるが、鈍足のためその回頭は遅々としたものになる。
そして着水と同時に爆発が起こり、海面に大きな波紋が広がる。爆弾の大多数は外れたが、命中弾もあった。そのうちの一発がタンカーに直撃する。
火柱が上がり、船体が真っ黒な黒煙に包まれる。他にも1隻の輸送船が直撃を受けて沈んでしまう。
「なんてことだ…… タンカーが!」
駆逐艦ラクスファルの艦長が悲痛な声を上げる。
「敵爆撃機編隊。低空より接近!」
見張り員の声が響く。
水平爆撃を行った別のマケストの編隊が低空から船団に接近していた。
低空を飛行するマケストに対し、ラクスファルクは主砲の127ミリ砲を撃ち続ける。
「まさか雷撃を行うつもりか!?」
ラクスファルクの艦長は叫ぶ。
激しい対空砲火により徐々にマケストの数が減じていく中、やがて1機のマケストがラクスファルクの左200メートルに到達する。
そして爆弾槽の扉が開くと、そこから250キロ爆弾が投下される。爆弾は水面を跳ねながらラクスファルクに向う。それはまるで水切り石のようだった。
「スキップボミングだと!?」
水面を跳ねる爆弾は一直線にラクスファルへ向かう。しかし爆弾はラクスファルク直前で大きく跳ね、艦橋を飛び越して後方の海に落ちる。
運よく危機を免れたラクスファルだが、回避運動により陣形に乱れが生じてしまう。そこを後続のマケスト6機が突く形で突入し、輸送船団へ向けてスキップボミングを行う。
投下された爆弾は大半が外れるが、運悪く2発が輸送船に命中した。喫水線近くに被弾した輸送船は浸水を起こし、たちまちのうちに沈没してしまう。
「輸送船がやれらたぞ!!」
ト103船団は混乱に陥る。
全てのマケストは爆弾を投下し終え離脱していく。溺者を救助した後、船団司令は被害状況を確認する。
撃沈された艦艇は輸送船が3隻、タンカーが1隻。護衛の艦艇の被害は駆逐艦1隻が小破、後の被害は軽微であった。だがそれでも輸送船団にとっては大きな損害だ。特に輸送船とタンカーの被撃沈は大きな損失である。これらには燃料は当然の事ながら、武器弾薬を含む軍需物資も多く積載されていたからだ。
しかしここで足を止めても仕方がない。船団は予定通りレイフォルへの針路を取ることにした。もはやこの海域は安全ではないのだ。
◆◆◆
ト103船団が襲撃されたという事実はグラ・バルカス軍部に少なからぬ衝撃を与えた。
まさに恐れていたことが現実となったのだ。直ちに皇帝グラ・ルークスを交えた対策会議が開かれた。
「陸軍としましては、兵站線が不安定なままでの進撃は非常に困難と考えます。もはやムー国攻略は諦め、戦略を転換しレイフォル防衛に注力すべきです。」
陸軍参謀総長マレイが発言する。グラ・バルカス陸軍は機械化が進んだ軍隊だ。進撃には当然莫大な燃料が要る。そのため先の海戦でタンカーが撃沈された事が非常な痛手だった。
「海軍としましては、稼働可能な全艦をもってイルネティア島奪還作戦を続行する所存であります。次こそは日本の艦隊を海の藻屑にしてやります!」
海軍作戦本部長カルマンドが勇ましく発言する。彼の顔は自信に満ち溢れているように見える。
彼はタンカーを沈められた失点をなんとしても取り返そうと躍起になっていた。
しかし……皇帝グラ・ルークスは静かに言った。
「いや、これ以上主力艦隊は動かさん」
「陛下!お言葉ですが、イルネティア島を取り戻さないとレイフォルの陸軍が干上がってしまいます」
カルマンドが食い下がる。
「日本相手に艦隊を繰り出しても第6任務部隊の二の舞になるだけであろう。将兵を無駄死にさせるのは余の本意ではない。艦隊主力は保全に努め、帝国本土とレイフォル間の海上交通路の確保に集中するのだ。」
「……御意にございます」
カルマンドは渋々といった感じで引き下がった。
「現状ではこれ以上の進攻は困難か……やむを得ぬ、レイフォル防衛に専念するべきだろう。今は耐えるのだ、いずれ好機は来る。レイフォルの石油資源は我が国の生命線だ。失うわけにはいかぬ」
レイフォルで発見された石油は採掘が始まったばかりであった。精製施設や備蓄倉庫の建設は急ピッチで進められているが、現時点では帝国の消費を賄えるほどには至っていない。
そのため、もしここで石油供給源を失うことは帝国にとって致命的な事態となる。グラ・ルークスの言葉に一同は同意する。
帝国は方針を転換し、ムー大陸攻略を断念。ムー大陸西部、レイフォル防衛に限定する形での戦争を継続することとなった。
会議が終わろうとしたその時だった。
会議室のドアが勢いよく開き、一人の男が入ってきた。
その男は、グラ・ルークスの息子グラ・カバルであった。
「父上!今の話を聞きました。今こそ私が慰労のためにレイフォルの前線基地へ赴き、将兵たちを激励したいと思います」
カバルは自信に満ちあふれた表情で言う。しかしグラ・ルークスは息子の突然の発言にポカンとした顔をしていた。
息子は何を言っているんだ?という顔だ。その後すぐさま眉をひそめる。
「カバルよ。今の話を聞いていなかったようだな。帝国本土とレイフォル間の航路はもはや安全ではない。それに最前線はお前が思っている以上に危険だ。何が起こるか分からぬのだぞ! それにお前は皇太子だ。次期皇帝なのだぞ。そんな危険な場所へ行く必要はない!」
しかしカバルは退かない。グラ・ルークスの目を見据えて言う。その瞳は真剣そのものであった。
「私は銃後でのうのうとしているような人間ではありません。私は高貴なる
義務を果たすため、前線に赴きたいのです。この国難にこそ皇族として責務があると愚考します。どうか私に行かせてください」
グラ・ルークスは頭が痛くなってきた。
息子は昔から一度言い出したら聞かない性分なのだ。
(この頑固さは誰に似てしまったのか)
グラ・ルークスは大きな溜息をつくと言った。
「よかろうカバル。お前の前線慰労を許可する。ただし、条件がある」
カバルは喜色を浮かべる。
グラ・ルークスが自分を戦場に出してくれるとは思ってもみなかったのだ。
「父上。その条件というのは?」
グラ・ルークスは答えた。
「余とパンツレスリングで勝負せよ。それで勝利すれば許可しよう」
グラ・ルークスはニヤリと笑った。
◆◆◆
帝都ラグナ。ニヴルス城内に存在する室内闘技場。
そこでは、二人の男が対峙していた。
一人はグラ・ルークス。もう一人はグラ・カバル。二人とも服を脱ぎ払い、白いブリーフ一枚の姿となっていた。
周囲には大勢のギャラリーが集まっている。二人は互いに見つめ合う。
グラ・ルークスの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。対するグラ・カバルは緊張した面持ちをしている。
2人の肉体は鍛え抜かれておりまるで、巌のような筋肉に覆われていた。
両者とも身の丈は190cmを超える偉丈夫である。
その2人が睨み合い、互いに闘気を漲らせていた。
静寂の中、グラ・ルークスが口を開く。
「カバルよ。頭が足りぬお前の事だ。パンツレスリングのルール、そして帝国哲学の三信を忘れたのではないか?」
「父上、馬鹿にしないでください。パンツレスリングは我が国の国技。ルールは完璧に覚えています。ルールは至極簡単、パンツ取られたら負け」
「よろしい、では帝国哲学の三信はどうだ?」
「『だらしねぇという戒めの心』『歪みねぇという賛美の心』『仕方ないという許容の心』の三つです」
「ふむ、それでよい。さすがのお前でも忘れてはいないようだな」
そう言ってグラ・ルークスは微笑む。しかし次の瞬間、鋭い目つきになり構える。カバルもまた、父の視線を受けて真剣な表情となり構えた。
再び沈黙が流れる。両者は構えながら一歩ずつ歩み寄る。互いの距離が3mほどになった時、カバルが動いた。
彼は一気に間合いを詰め、拳を繰り出す。しかし、グラ・ルークスはそれを軽々とかわす。さらにグラ・ルークスの反撃。強烈なパンチがカバルを襲う。だが、カバルはその攻撃を腕で受け止める。
両者が組み合ったまま、激しい攻防が繰り広げられていく。
周囲の観客たちは固唾を飲み込み、この戦いを見守る。
「少しやるようになったな、我が息子よ。父として嬉しいぞ。お前がここまで成長しているとは思わなかった。余は感動している」
グラ・ルークスは息子の成長ぶりを見て喜びの声を上げる。
「私も父上の強さに驚いていますよ。以前より強いとは……」
カバルは素直に畏怖していた。この父の強さは異常だ、と。
カバルが今まで戦ってきた相手は皆、自分より遥かに弱い者たちだった。しかし目の前にいる父は違う。明らかに自分よりも格上の存在だ。
だからこそカバルは、自分が今できる最高の一撃を放つべく集中する。グラ・ルークスは息子の様子が変わったことに気が付き警戒を高める。
カバルは己の気を練り上げ、それを両の拳に集め始める。
(こいつ……まさか!)
グラ・ルークスはそれに気付き、危険を感じて間合いを取ろうとする。しかしカバルは逃さない。
「ハァアアッ!!」
カバルは裂帛の気合と共に連続して拳打を打ち込む。その攻撃速度は凄まじく1秒間に10発以上放たれている。
「ぬおおおおおっ!!」
対するグラ・ルークスは手の平でカバルの拳を受け止める。
しかしカバルの攻撃は止まらない。次々と打ち込まれる拳を受け止めるも、衝撃を完全に殺すことは出来ずダメージは蓄積されていく。
カバルは渾身の一撃を放つため、さらに気を高め右腕に集中させる。
「イヤーッ!!!」
シャウトと共にカバルは正拳突きを放った。その突きは音速を超えソニックブームを発生させる。
「グワーッ!」
カバルの音を置き去りにした攻撃はグラ・ルークスの腹部を捉え吹き飛ばす。
グラ・ルークスは大きく後退し片膝をつく。
カバルはさらなる追撃をかけようと、グラ・ルークスに向けて走り出し、再び音速の突きを放つ。
「イヤーーッッ!!!」
カバルの右ストレートはグラ・ルークスの顔面を捕らえるかに見えた。
しかしそれは、グラ・ルークスの前面に発生した風の壁によって阻まれてしまう。
続けて発生した突風によってカバルは吹き飛ばされた。カバルは空中で体勢を整え、地面に着地する。
「歪みないなカバル。余を本気にさせるとはな。久しぶりに血湧き肉躍ったぞ」
グラ・ルークスの周りの空気が渦巻くように動き出す。
それを見てカバルは今更ながら父の異名を思い出す。
空気帝王。それが皇帝グラ・ルークスの二つ名であった。
「さあ、行くぞカバル。覚悟はいいか?」
「はい、父上。いつでも来てください。全力でお応えします」
「その意気や良し!!ゆくぞ!!」
グラ・ルークスの周りに渦を巻いていた大気が凝縮し球体となって現れる。
「これが余の必殺奥義だ」
「なんと!?」
「食らうが良い、エア・ボール!!」
圧縮された風の球がカバルに向かって放たれる。カバルは床面を転がり、紙一重で避けることに成功した。
「ほう、よく避けたな」
「危なかったです。しかし今の技は見切りました」
「そうか、ならば次はこれだ!」
グラ・ルークスは両腕を交差させ頭上に掲げる。腕の周りに風が集まり、そして一気に振り下ろす。
「はああぁぁ!! 風の刃!」
グラ・ルークスの両腕から放たれたのは、真空の斬撃だった。
カバルは横に跳んで回避しようとするが、完全にかわすことは出来なかった。
皮膚が切れ、鮮血が飛び散る。
「グワーッ!」
「だらしないなカバル? 先ほどまでの威勢の良さはどこへ行ったのだ?」
カバルは傷口を押さえながら片膝をつく。彼はこの時強く願った。
(強くなりたい。もっと力が欲しい)
「カバルよ。どうやらここまでの様だな。次の一撃で決めてやろう」
グラ・ルークスは腕を上げ掌を開く。するとそこに風が集まっていく。
「我が最強にして究極の奥義を見せてやる」
グラ・ルークスは手刀の形を作り、カバルを見据える。
「イヤャーーッッ!!」
気合と共に放たれたその一撃は、まるでレーザービームのようにカバルへ一直線に伸びていく。
(強くなりたい。いや強くならねばならぬ!)
カバルも拳を握り締め、気を集中させる。
「イヤーーッッ!!」
カバルは立ち上がり、両腕に風を纏った廻し受けで父の放った一撃を受け流す。
「何だと!!」
グラ・ルークスは自分の必殺技が防がれ驚愕する。
カバルの全身には父と同じく風が渦巻いていた。
「ほほう。流石は余の息子。同じ能力を持っているのは道理だな」
「父上……!」
「さぁ来いカバル!お前の力を見せてみよ!!」
両者は構え、そして同時に動いた。風を纏った2人の動きはまさに電光石火。
一瞬の間にお互いの間合いに入り拳を放つ。
「イヤーーッ!!」
「イヤーーッ!!」
カバルとグラ・ルークスの拳が交差し共に相手の頬を打ち抜く。
二人はそのまま後方に吹き飛ばされるが、すぐに起き上がり間髪入れずに殴り合う。
両者の拳は相手を捉えることは無く、ただひたすらに己の気を込めた一撃を放ち続けるのみ。その光景はまさに壮絶の一言であった。
拳がぶつかり合った瞬間に発生する衝撃波により、闘技場全体が揺れ動く。
風の力を纏った二人の闘いは周囲の人間にとっては目にも止まらぬ速さであり、とても付いていけるようなものではなかった。
ただ1つ言えることは、この二人の戦いが互角であるということだけだ。
カバルとグラ・ルークスの闘いは、もはや常人の理解を超えていた。
「イヤーーッ!!」
グラ・ルークスが両の掌からエア・ボールを連続して放つ。同じくカバルも連続して迎撃のエア・ボールを放つ。
2人が放った球体は空中で衝突し爆発を起こす。爆風によって発生した煙が視界を遮り、どちらとも身動きが取れなくなる。
やがてその煙の中から2人は跳躍して飛び出す。しかしそれは跳躍とは名ばかりの、まるでロケットのような勢いであった。
2人は空中で激しく打ち合いながら地上へと落下していく。
先に着地したのはカバルの方だった。カバルは地面に手を付き、反動を利用して再び跳躍すると天井まで飛び上がる。そしてそのまま天井を蹴り、グラ・ルークスに向かって急降下する。一方グラ・ルークスはというと、両足を地面についている状態でカバルを迎え撃つ体勢を取っている。
「イヤーーッ!!」
「イヤーーッ!!」
両者が激突した時、凄まじい衝撃波と爆風が発生し地面が陥没する。闘技場の観客席にいた観客たちは皆、その衝撃に耐えきれず倒れてしまうほどであった。
煙がはれるとクレーターの中央に立っているグラ・ルークスとカバルの姿があった。
2人とも肩で息をしている状態だ。しかしそれでもなお、闘志は衰えず互いに相手に攻撃しようと構えている。
「カバル! 次で決着をつけてやる!」
「望むところです父上!」
「行くぞ! ハアァァーーッ!!」
グラ・ルークスは気を極限にまで高め、腰を落とし三戦の構えをとる。
すると彼の体の周りにエネルギーが集まり渦を巻き始める。エネルギーが彼を完全に包み込むと、グラ・ルークスを中心に球状に広がっていく。
その中心にいるグラ・ルークスの髪は逆立っている。まるで嵐の中心にいるかの如く、暴風が吹き荒れる。
カバルも父と同じ様に構えをとり、同じように気を高めていく。
グラ・ルークスの技に対抗するかのように、カバルの周りでもエネルギーの奔流が彼の全身を包みこみ球状に広がろうとしていた。
両者が作り出すエネルギー球は、闘技場全体を揺らすほどのものとなっていた。
観客たちは身の危険を感じて、我先に逃げ出そうとしている。
だがそんな混乱の中でも2人の親子は動じることなく、ただ相手だけを見据える。
そしてついにその時が来た! 2つのエネルギー球がぶつかり合い、激しい閃光を放ち闘技場全体を飲み込んでいく。
「ウオオオオオオォォォーー!!」
「ウオオオオオオォォォーー!!」
2人が雄叫びを上げ、互いにエネルギーをぶつけ合う。
両者とも力を振り絞り、押し返そうとする。闘技場は今や地震が起きてるのではないかと思えるほど揺れ動く。
カバルが腕に力を入れると、その力が増幅されていき、徐々に相手のエネルギー球を押し返し始めた。
一方グラ・ルークスも負けじと足を踏み込み、更に力強く拳を握る。
そして2人の作り出したエネルギーの球体が一層強く輝きを増し、周囲へ紫電を走らせた。
次の瞬間、轟音と共に、両者の生み出した球体は爆発した。太陽のように明るい閃光が辺り一面を埋め尽くし、次いで赤熱するキノコ雲が立ち昇った。
その威力は凄まじく、ラグナ市街地にまで衝撃波による突風が到達し窓ガラスを粉砕した。
爆心地には大きなクレーターが形成され、そこから土煙が立ち上っているのが見える。闘技場は完全に消滅し、ニヴルス城内の一角は崩れ去ってしまっていた。
やがてその土煙が晴れると、そこにはクレーターの中で倒れ伏しているカバルが居た。
グラ・ルークスもまた傷だらけだったが、すぐに起き上がり息子のもとへ駆け寄る。
「うぅ……父上」
「カバルよ。これで止めだ」
グラ・ルークスはカバルの股間をワシ掴みにした。
「アッーーー!」
カバルの絶叫が響き渡る。グラ・ルークスはカバルの白いブリーフに手をかけ、一息に脱がせて放り投げる。
カバルの下半身が露わになり、立派なゾウさんがこんにちはしてしまう。
「此度のパンツレスリング。余の勝ちであるな」
グラ・ルークスは勝利宣言をする。
「参りました父上。歪みなきパンツレスリングでした」
「カバルよ! お前も腕を上げたな。父として誇らしいぞ。負けたのは仕方なきこと」
そう言うとグラ・ルークスはカバルを抱き寄せた。
カバルは涙を流しながら父の胸で泣いた。
こうしてカバルの前線視察は取りやめとなった。
その後2人が破壊した闘技場や城、さらに街の修繕費で彼らはこっぴどく叱られたというが、それはまた別のお話。