日本国召喚 AIに二次創作を書かせてみた 作: まっこーける
ヒノマワリ王国。ハルナガ京郊外。グラ・バルカス帝国陸軍ハスキム駐屯地より数キロ西の上空。
ヘリコプター特有のローター音が鳴り響く。
その音の発生源は1機の機首が大きく膨らんだ特徴的なヘリコプターだった。それはグラ・バルカス帝国のゲールズエアクラフト社製ヘリ、H111であった。
グラ・バルカス帝国外交官ダラス・クレイモンドはそのH111の機上の人となっていた。所用でヒノマワリ王国のレイフォル征統府ヒノマワリ出張所へ赴くため軍のヘリに便乗させてもらったのだ。
ダラスは少し居心地が悪い思いをしていた。というのも、機内に乗り合わせたもう1人の人間が原因であった。その男はラフな服装に身を包んでいる。
年齢は30代後半といったところだろうか?その顔立ちは非常に整っており、まるで俳優のようだ。
しかし、その額には傷跡があり、それが彼のハンサムな顔を台無しにしていた。鷲のように鋭い目つきは油断なくヘリの窓から外を眺めている。
体格は中肉中背だがその身体は鍛えられ引き締まっており、彼が只者ではないことが容易に想像できる。
ダラスはその男をチラチラと窺っていたが、男に睨みつけられ慌てて視線をそらす。
無言の重い雰囲気が機内に漂うなかヘリはヒノマワリ王国のハスキム駐屯地へ到着する。
ヘリコプター特有のブレードスラップ音が空気を叩き、機首がふくらんだ特徴的な機影が地均しされただけの簡易ヘリポートに降り立った。
強烈なダウンウォッシュにより砂塵が巻き上げられ、土煙から顔を庇いながらダラスは地面に降り立つ。
額に傷がある男は足早に駐屯地のどこかへと消える。
「なんだアイツ?……」
ダラスは思わず呟く。先程の男の事は少し気になるが、今は自分の仕事に集中するべきだと考え、彼の事を頭から追い出す。
「それにしてもこの国は暑いな」
彼は蓬髪を風になびかせ、真上から照り付けられる陽光に目を細める。
「はぁ、何故俺がこんなド田舎国家まで来ないといかんのだ……」
ダラスはぶつくさ文句を言いながら、汗をぬぐうと、背広の上着を肩にかけ、ネクタイを緩めた。そのまま駐屯地入り口まで歩みを進める。
「迎えの車もなしとはどういうことだ? まったく」
このまま待っていても埒が明かないと思い、ダラスは手近な兵をつかまえてレイフォル征統府ヒノマワリ出張所までの道のりを訊ねる。兵は快く教えてくれた。
徒歩でそう遠くない距離だ。ダラスは仕方なく歩くことにする。
◆◆◆
ダラスは舗装もされていない道を歩きながら周囲を見渡す。
この国は本当に暑い国だ。まるで赤道直下の国にいるような気分になる。
ダラスはため息をつく。彼はこの国に来たのは初めてだが、この国の異常さはすぐにわかった。
この国には文明的な匂いが全くしない。
アスファルト舗装などされていない、帝都生まれ帝都育ちである彼にとって、この国の風景は異様としか言いようがなかった。
そして、この匂いである。畑の堆肥の臭いが鼻につく。
(一体どんな作物を育てているのか……)
ダラスはそんなことを考えながら道端の畑を見る。十数人の農民が鍬で土を耕しているようだった。
そして、あることに気付く。
農作業している農民のなかに、1人見慣れた服装を着ている人物がいるのだ。
泥にまみれているがそれは紛れもなくグラ・バルカス帝国外務省の制服であった。
その人物は、こちらに気付き、近づいてくる。
「これはこれは、本庁の外交官殿ではありませんか。もしやあなたがダラス殿で?」
鍬を手に持ち、土と堆肥の香りを振りまきながら歩いてきたのは、紛れもないグラ・バルカス人だった。
「あ、ああ……私がダラスだ。あなたは?」
困惑しているダラスが尋ねると、そのグラ・バルカス人は名乗った。
「申し遅れました。私はレイフォル征統府ヒノマワリ出張所、ジャギーナ副総督です」
ダラスは驚く。どうして副総督ともあろう人物がこのような場所で農作業をしているのだろうか……。彼はその疑問を素直にぶつけてみる。
「失礼だが。なぜあなたのような立場の人間がここで農作業を?」
ジャギーナは苦笑しながら答えた。
この国は文明化が遅れており、技術水準は列強諸国と比べてかなり低い。そのため、農業生産力も低く、食料自給率が低いのだ。
それを補うため、この国では帝国の指導のもと農地改革が行われている途中なのだ。帝国の近代農法を取り入れ、効率化を図っているのだという。
「それに最近の戦況の悪化でこの国は慢性的な食糧不足に陥っているんですよ。食料は配給制度へ切り替えられました。なので少しでも自分にできる事をやっておこうと思いましてね」
彼は少し悲しげな表情を浮かべる。
ダラスは、彼が農作業をしていた理由を理解したが、それでもこの国の食料事情が悪化していることに驚きを隠せなかった。
「しかし、立場ある人物が自ら農作業をする意味はあるのですか? もっと他にやる事があるでしょうに……」
すると、彼は苦笑いして言った。
「私は帝都の農業大学を出ていますから。私の知識が役に立つならと思いましてね。大学で学んだ事や、自分の農業論を活かすにはやはり現場で農民と一緒に体を動かすのが一番ですから」
「なるほど。素晴らしい心がけですね」
「いえ、これもすべては祖国のためですよ」
ジャギーナは爽やかな笑顔を見せる。
「ところで、立ち話も何ですから。ヒノマワリ出張所へ向かいましょう。歩きながらでも話はできますよ」
その提案にダラスは同意し、歩き始めようとした時だった。彼の足元に1人の男が縋り付いてきた。
「な、なんだお前は!?」
ダラスは突然の出来事に戸惑う。
「お願げぇします! 帝国のお役人さまぁ、どうか、助けてください!」
男はみすぼらしい恰好をしており、どう見ても物乞いという風体だ。
「もう何日もメシを喰ってねぇんです。お願いします、何か食い物を恵んでくだせぇ」
物乞いは涙と鼻水で汚れた顔をダラスのズボンに擦り付けてくる。ダラスは思わず嫌悪感から後ずさりする。
「な、何を言っているんだお前は。早く離れろ。ズボンが汚れるだろうが!!」
ダラスは怒鳴るが、男は全く動じない。
「何でもいいから食べ物をくださいぃ~」
ダラスは困り果てジャギーナの方を見た。ジャギーナは苦笑しながらポケットからパラフィン紙で包まれた軍用チョコレートを取り出す。
耐熱性があり容易に溶けない代物で、過剰なほど大量生産されているため帝国内でも手に入りやすい品だ。
「ほら、これを食べるといい」
ジャギーナはそう言って男に渡す。男はチョコを受け取ると何度も礼を言い、立ち去って行った。その様子を見てダラスはため息をつく。
「全く、こんな所で乞食をするくらいなら働けば良いものを……」
その言葉にジャギーナが反応した。
「確かにその通りかもしれません。しかし、この国の人間は働きたくても働く場所がないのです。特に農村で働く者などは都市部の人間より更にひどい扱いを受けていると聞きます。この国では都市戸籍を持つ者と持たない者で差別されているのですよ」
「な、なんと……そんな馬鹿な事が許されるのか?」
「残念ながら現実です。この国はかつての宗主国レイフォルの統治の所為で貧富の差が激しく、都市の富裕層と農村部の貧困層で格差が広がっています。農村部の人間が都市部へ行った場合、仕事にありつける可能性は低いでしょうね。そのため公共事業による雇用の創出が急務なのですが、なかなか上手くいっていないのが現状です」
ダラスは頭を抱える。帝国にも貧困問題はあるが、ここまで酷いものではない。この国はあまりにも酷い状態になっているようだ。
「……そんな状態でよく暴動が起きないものだな」
「憲兵が睨みをきかせていますからね。今のところ大きな暴動は起きていません。しかし、それもいつまで持つかわかりません。近いうちに大きな事件が起きる可能性もあります。この国の経済破綻は時間の問題でしょう。今のうちに対策を取らなければ大変なことになりますよ」
「そのとおりだ……そのために私がここに派遣されたのだ」
ダラスは改めて決意を固めると、ジャギーナと共にヒノマワリ出張所へと向かった。
◆◆◆
ヒノマワリ出張所は、木造二階建ての質素な建物であった。レイフォリアの鉄筋コンクリート製の征統府庁舎と比べるとどうしても見劣りしてしまう。働く職員の数も規模相応で、閑散としていた。内装は意外に小奇麗であった。
「ダラスさん。オル・ブーツ総督にお会いになられる前に、お茶でもいかがですか?」
「そうしたいのは山々だが、先にオル・ブーツ総督への挨拶を済ませておきたい。あの総督を待たせるは賢明とは言えないのではないかな」
オル・ブーツは帝国内で悪い意味で有名な人物だ。ダラスでさえ、積極的に関わり合いになりたくないと思う人物である。オル・ブーツはまさに横柄が服を着たような人物だった。
自分の気に入らない事があればすぐに部下に当たり散らすのは当たり前、金品や女を強奪するのも日常茶飯事で、逆らう者は容赦なく切り捨てる。
そんな人物が真面目に仕事するはずはなく、ヒノマワリの統治行政を実質取り仕切っているのは副総督であるジャギーナという有り様であった。
そんな男に会わなければならないと思うと気が重い。しかし、ダラスは任務を果たさなければならない。彼は覚悟を決めると、ジャギーナの後についてオル・ブーツの執務室へと向かうのだった。
◆◆◆
ダラスはジャギーナに案内され、総督府の二階にあるオル・ブーツの執務室の前へとやって来た。
ジャギーナが扉を叩き来訪を告げると、しばしの間をおいて中から入室を許可する声が聞こえてきた。
ジャギーナは失礼しますと言ってドアを開ける。
部屋の中は濃厚な酒の香りで満たされていた。部屋の奥には大きな机が置かれており、その上には書類が乱雑に積まれている。その脇には高級そうなワインボトルが置かれていた。
そして、椅子には一人の男が座っていた。背丈は低く、かなりの肥満体で、年齢は四十代半ばといったところだろうか。直前まで酒を飲んでいたためか顔は真っ赤に染まっており、目つきもかなり怪しい。身に着けているのは上等な仕立ての服であるが、だらしない体型のせいで着崩れしている。
男はグラスに入ったワインを飲み干すと、ダラスを見てニヤリと笑った。
ダラスは一瞬、不快感を覚える。
(これが噂に聞くオル・ブーツか。まるで醜い豚だ)
ダラスは心の中で毒づく。
ジャギーナがダラスを紹介すると、オル・ブーツは鷹揚な態度で応じる。
「ご苦労だった。下がってよいぞ」
ジャギーナが一礼して退出すると、オル・ブーツはダラスの方を見る。
オル・ブーツの視線にダラスは思わず身構える。すると彼はダラスに向かって右手を差し出すと握手を求めてきた。
ダラスは戸惑うが、意を決して手を握る。
「外務省第7課所属、ダラス・クレイモンドです。よろしくお願いいたします。総督閣下」
「よくぞ参られた。私がこの国の総督を務めるオル・ブーツだ」
ダラスが名乗ると、オル・ブーツは手を離した。
そして、左手に持っていた葉巻を口にくわえると、懐からライターを取り出し火をつけた。煙がダラスの顔に直撃するが、ダラスは表情を変えずに我慢した。
オル・ブーツは満足げに笑うと、再び口を開く。
「さて、本題に入ろう。監査のために本庁から派遣されたと聞いたが間違いないか?」
「はい、その通りです。送られてくる報告書とこの国に実情に乖離があると聞き、現地調査を命じられました」
「ほう、それで私に会いに来たと……」
「左様です」
「なるほど……確かに報告書に多少の誤りがあったようだ。貴官の指摘は正しい。しかし、それを知ったところでどうするつもりだ? この国の状況が変わるわけでもあるまい」
「あなたが故意に虚偽の報告をしているのであれば、それは許されざる行為です。皇帝陛下に対する裏切りとなります」
ダラスの言葉にオル・ブーツは鼻を鳴らす。
彼の態度からすると、この国の現状は把握しているが、あえて放置していたようである。
しかし、この国の現状を知っていて、なぜ何もしなかったのか……ダラスは疑問を抱く。
そんなダラスの疑念を見透かすようにオル・ブーツは言う。
「この国の状況を改善したところで、我が帝国の利益になるわけではない。むしろ不利益となる可能性が高い。私は帝国の利益にならない事は極力避けたいと思っている。つまり、この国はこのままでいいのだ。わざわざ面倒な事をする必要などない。そう思わないかね?」
「この国の現状を放置することは帝国の不利益になる。そう判断されたからこそ私が派遣されたのです。もし、帝国にとって利益になるとお考えなら、この国の現状を改善するべきでしょう。それができないというのならば、本国へ帰還後、報告させていただきます」
「……」
オル・ブーツは黙っている。
「特に食料事情は酷いものがあります。このままでは餓死者が出る恐れがあります。それと、あなたは随分と私腹を肥やしているようですね。あなたの贅沢がこの国庫を圧迫していることは明白です。このような状態が続くのであれば、あなたを更迭しなければなりません。よろしいですか?」
オル・ブーツはダラスを睨みつける。
「食料事情については私の責任ではない。軍が徴発を行っているせいだ。それに、私は不当に私腹を肥やしてはいない。これは必要な経費だ」
オル・ブーツは酒瓶をとるとグラスに注ぐ。そして、一気に飲み干した。
「ああ、そうだ。ときに貴官は金は欲しくないかね? ここでの事を黙っていればそれなりの金を出すつもりだが、どうするね?」
オル・ブーツの提案にダラスは呆れる。
「帝国の法で贈賄は5年以下の懲役と定められております。賄賂を受け取ることはできません」
「おお、そうか。金だけでは足りぬと申すか。仕方がないな。では女でも用意しよう。好みの女はいないか? 私の方で手配してもいいぞ」
オル・ブーツはニヤリと笑う。
「そういう事ではありません。賄賂を受け取らないと言っているだけです。女も必要ありません」
ダラスがきっぱりと断りをいれた時だった。執務室のドアが激しくノックされる。
オル・ブーツの返事も待たずにドアが開かれると、1人の女性が入って来た。長い黒髪に黒い瞳を持つ女性で、年齢は二十代前半といったところだろうか。
彼女は部屋に入るなり、オル・ブーツに詰め寄る。
「一体どういう事なのですか! 食料を徴発するだなんて、話が違います!このままでは餓死者が出てしまいます!」
女性は今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。
「落ち着きたまえ。食料の徴発は軍が始めたことだ、私は関与していない。文句はガオグゲルに言え」
オル・ブーツの言葉に女性は顔色を変える。
「あなたが命令したのではないのですか!?」
「私に軍の指揮権はない。いい加減にしたまえ。それに客人の目の前だぞ」
女性は今しがたダラスに気が付き、慌てて頭を下げる。
「申し訳ございません。大変失礼いたしました」
「いや、構わんよ。ところで君は誰だね? 」
「はい、私はこの国第3王女フレイヤと申します」
「私はダラス・クレイモンド。グラ・バルカス帝国の外交官だ。よろしく頼む」
ダラスが手を差し出すと、フレイヤはその手を握った。その際にダラスはフレイヤの顔をじっと見つめる。
整った美しい容姿に艶やかな唇、そして吸い込まれそうになる漆黒の瞳に思わず見惚れてしまう。
(なかなかの美人だな……)
ダラスは心の中でつぶやく。一方、フレイヤは鼻の下を伸ばしているダラスに構う事無く再びオル・ブーツへ向き直る。
「それで、総督閣下。先程の話ですが……」
「だから何度も言っているだろう。私は関与していない。ガオグゲルに直接抗議したまえ」
「あーそのことだが。私がガオグゲルに掛け合ってみようか?」
ダラスは2人の間に割って入ると、オル・ブーツに告げた。すると、彼は意外そうな表情を見せる。一方のフレイヤはダラスの顔を見て驚いている。
「あなたは確か外務省の方とお聞きしましたが……」
「その通りだ。実はこの国の監査のために派遣されたのだが、どうやら君の言う通り食料が不足しているようだ。食料の調達に手を貸そう」
「本当ですか? ありがとうございます」
フレイヤは笑顔でダラスの手を握る。ダラスは彼女の手の柔らかさに驚く。
「これも帝国とヒノマワリの友好のためです。協力させていただきましょう」
「感謝します」
2人は握手を交わす。そんな様子をオル・ブーツは無言のまま眺めていた。
◆◆◆
ヒノマワリ王国。ハルナガ京郊外。グラ・バルカス帝国陸軍ハスキム駐屯地。この駐屯地は本来東のバルクルス基地との中継点として設置されたものである。
しかし、グラ・バルカス帝国の戦略転換により、ムー進攻は中止。第8軍団長ガオグゲルはバルクルスより安全な後方にあるハスキムに司令部を移した。
このことにより、ここがヒノマワリにおけるグラ・バルカス陸軍の重要拠点となる。
この日、ハスキムの司令官室には2人の男が居た。1人はガオグゲル。もう1人はあの額に傷がある男である。
彼らはソファーに座りながら紅茶を飲む。ガオグゲルはカップを置くと言った。
「君がここに呼ばれた理由は今更語るまでもないだろう。分かっておろうな」
額に傷のある男は口角を吊り上げる。
「ええ、日本とかいう国のことでしょう? 」
「そうだ。我々にとって最大の脅威である国だ。その日本の潜入工作員がこの国に居る可能性が高い。その為にユグドでもスパイ狩りで名高い君を呼んだのだ。シーン少佐」
シーン少佐と呼ばれた額に傷がある男はニヤリと笑う。
「ええ、お任せください。必ずや不埒な日本人を血祭りにあげて見せますよ」
「期待しているぞ。だが、くれぐれも慎重にな。日本人とヒノマワリ人の外見は非常に似通っているからな」
「承知していますとも。では早速行動に移ります。失礼いたしました」
シーンは敬礼をすると、司令官室を後にする。するとそれと入れ替わるようにダラスが入って来た。
「失礼します、ガオグゲル司令。私は外務省のダラスです」
ガオグゲルは怪訝そうな表情を浮かべる。実地調査のために外務省から人が派遣されることは聞いていたが、外交官が軍に何の用だというのか。
彼は眉間にしわを寄せると、ダラスへ尋ねる。
「外交官殿が何の御用かな? 見ての通り忙しいのだがね」
するとダラスは単刀直入に切り出した。
「最近現地から食料を徴発しているようですね。これにより現地の不満が高まっています。このままでは暴動が発生しかねません。どうか今すぐ食料の供出を実施してください」
ガオグゲルはふんと鼻を鳴らす。
この外交官は何を言っているんだ? 確かに食料は徴発したが、それは軍の作戦行動に必要な分だけだ。
「ダラス殿。私は軍が物資の補給ができなくなった状況に備て、やむなく食糧を接収したまでだ。これは必要な措置なのだ。輸送船団が襲撃された事は貴殿も聞き及んでおるだろう? 私は慎重な性格でね。あらゆる不測の事態に備えるのは当然のことではないかな?」
ガオグゲルは一息つくと話を続ける。
「それに君は我々がまるで強盗のように現地民から奪ったように言うが、あれは正当な対価を払って手に入れたものだ。配給制度も機能しているし何も問題はないはずだろう」
「配給制度は十分に機能しているとはいえません。あなた方のやりかたにヒノマワリの住民は不満を募らせております」
「ほう……例えばどのようなところが?」
ガオグゲルは興味深そうに尋ねた。するとダラスは次のように述べた。
「まず配給される量があまりにも少ない。そして配給時に行われる抽選制です。これでは住民が平等に与えられるとは思えません。しかもその抽選にはヒノマワリ人の裕福層が優先して選ばれているとの噂もあるのです」
「ふむ……」
ガオグゲルはダラスの話を聞いて考え込む。
「つまりダラス殿はこう言いたいのですか? ヒノマワリの住民は我々に虐げられていると? 」
「そうです!我々はこのような横暴を許してはならないと考え、この駐屯地を監査するために参りました。すぐにでも住民への不当な扱いを止め、公正な配給を行ってください!」
「ふう……」
ガオグゲルは大きくため息をつくと、困ったような表情を見せた。
「うむ……しかしヒノマワリの行政は軍の管轄外なのだ。配給制度は征統府のヒノマワリ出張所が管理しており、オル・ブーツがその責任者となっている。私に言われてもどうにもならないのだよ」
「しかし、治安の悪化は軍としても見過ごせない問題なのでは? 万が一暴動が起きるとそれの鎮圧に人手を割く必要があります。ヒノマワリ、ムー国境に敵軍が迫っている中、そのような状況に陥るのは避けるべきではありませんか?」
ダラスは熱意を込めて話す。フレイヤとの約束を守らねばならないという義務感だけでは説明できないほどに。
「……うむ分かった、君の言うことにも一理ある。軍としても治安の悪化は望まないところだからな。4日後に補給が来ることになっているから、それが到着したら食料の一部を開放しよう。それで良いか? 」
「あ、ありがとうございます」
ダラスは頭を下げ、ガオグゲルの手を握りしめた。2人の握手は固く結ばれていた。