日本国召喚 AIに二次創作を書かせてみた 作: まっこーける
8月3日4:20AM。
幾重ものディーゼルエンジンの重低音が払暁前の空に響き渡る。
グラ・バルカス陸軍ニホンジンシネシネ戦闘団が動き出したのだ。それはまさに死兵の行進であった。向かうは東、自衛隊陣地。戦場を切り裂く矢のような鋭さがあった。
ワイルダー重戦車特有の椀型砲塔から長大な122mm砲が突き出た低いシルエットが、大地を揺るがしながら前進する。その後ろをラーチャー中戦車や装軌式装甲車が固める。そして後方では自走榴弾砲が群れをなして進む。
総勢2500人にも及ぶ兵力は、まさに圧巻であった。その圧倒的な戦力は、あらゆる敵を粉砕する意思に満ち満ちていた。
指揮官であるボーグ少将自らワイルダー戦車に搭乗し、指揮下の部隊へ指令を出す。
命令は単純明快なものだ。敵の殲滅、ただその一事である。
「そろそろ接敵してもおかしくないな」
ボーグは車内でひとりごちる。彼らは日本からの空襲を避けるため夜間に移動してきたのだが、もうすぐ夜が明ける。
ワイルダーやラーチャー戦車にはアクティブ式赤外線暗視装置が搭載されているため夜間の移動を可能にしていた。装軌式装甲車にも同様の装置が搭載されているため、移動はスムーズだ。
「敵戦車発見!」
先頭のワイルダーが遠くの薄闇のなかに敵の姿を見つけた。ボーグが攻撃命令を下すまでもなくすぐさま砲撃を行う。
主砲に装備された長砲身122mm砲が火を噴き、初速950m/sで砲弾を撃ち出す。その砲弾は薄闇を切り裂くように飛翔し、戦車など一瞬で鉄くずに変える高速徹甲弾が確実に自衛隊の戦車を破壊する。さらに他の車両も敵戦車部隊に向けて砲撃を行い、数両の自衛隊戦車を粉砕する。その圧倒的な火力に自衛隊は為す術もなく蹂躙されていった。
「叩きのめせ!」
ボーグの命令と共に装軌式装甲車から歩兵たちも展開し一斉に射撃を開始する。圧倒的ともいえるニホンジンシネシネ戦闘団の攻撃により反撃する隙を与えることなく敵を屠っていく。
「このまま一気に攻めきるぞ!」
ボーグはさらに攻勢を強めようとするが、それはすぐに頓挫する。
順調と思われた攻勢を潰すかのように、突如として先頭のワイルダー戦車をapfsdsが襲った。
全く意図してない方向から砲撃を受けたワイルダー戦車数両が火達磨となる。
「な……なんだ!?」
しばし呆然としていたボーグだったが、すぐに我を取り戻して状況を確認する。部隊の側面を衝くように現れたのは鋼色の悪魔――日本の10式戦車であった。
10式戦車が120mm砲でワイルダー戦車を砲撃したのだ。その威力は絶大で最厚部250mmにも達するワイルダーの装甲をやすやすと貫通する。
「くそっ!反撃しろ!」
ボーグはすぐさま反撃を命じる。1小隊4両のワイルダーが1両の10式に向かって集中的に砲撃する。砲弾のいくつかは命中するが、10式はびくともしない。
「なんて硬いんだ!」
装軌式装甲車からAT10対戦車ミサイルが発射される。多数の対戦車ミサイルが10式の砲塔正面に命中するが、効果がなかった。むしろ120mm砲で反撃してくる始末だ。
10式の圧倒的な攻撃力はグラ・バルカス軍戦車を次々と鉄屑へと変えていく。10式の圧倒的戦闘力の前に為す術もなくやられていく部下に、ボーグは業を煮やす。
「もっと距離を詰めろ!至近から攻撃しろ!!」
ボーグは大声で叫ぶ。距離を詰め10式に果敢に接近して砲撃を加える。しかし結果は同じであった。一方的にやられるだけの状況にボーグは次第に焦り始める。
(あの鋼色の悪魔をどうにかしなければ……!)
10式を正面から撃破するのは無理だとボーグは悟る。つまり側面や後方から攻撃を加えなければならない。しかし、10式はその圧倒的な機動力と攻撃力でそれを許さない。
(何とかして側面へ回り込むしかない!)
ボーグはすぐに指示を出して部隊を回頭させる。その間にも友軍からの通信が入ってくる。
「第2戦車中隊より連絡!敵部隊が我々の後方に出現!!挟撃されています!!」
「なっ……馬鹿な!?いつの間に!?」
まさかの事態にボーグは激しく動揺する。
「閣下、もはや挟撃を止めることは不可能です!ここは撤退すべきです!」
副官がボーグに撤退を進言する。だがそれは軍上層部の命令に反する行為である。ここで逃げては降格どころか死罪にもなりかねない。しかも作戦目的を達成しないまま退却するのは部隊の存在意義に関わる。
(どうする?どうすれば最善の策なんだ……)
ボーグは必死に思案する。戦況を好転させる何かを探さねばならない。
「煙幕だ。煙幕を使って乱戦に持ち込む!」
ボーグは苦し紛れにそう指示を出す。このままでは負けると直感したのだ。少しでも長く時間を稼ごうとした。
各車が発煙弾発射機を用いて煙幕弾を発射する。
たちまち周辺に白々とした煙が立ち込める。それは一時的に双方の部隊の視界を完全に塞いだ。
「今だ!!」
ボーグは一斉に10式へと攻撃命令を下す。こうなれば近距離からの攻撃で撃破するしかないと考えたのだ。
煙幕の向こう側で発砲炎が煌めくのが微かに見え、砲声がこだまする。自衛隊とグラ・バルカス軍の戦闘は混沌とした状況へと突入していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
戦闘のすこし前。自衛隊第7師団第71戦車連隊。
「まもなく敵部隊の側面へ回り込めるはずだ!各車、対戦車戦闘準備!!」
陸上自衛隊第71戦車連隊第1中隊長の谷岡1尉が、10式戦車の車内で部下たちに命令する。
「さてグラ・バルカス帝国の戦車の実力を見せてもらおうか」
谷岡1尉は余裕に満ちた表情で呟く。だがその心中は決して穏やかなものではなかった。
(気を引き締めろ!敵を甘く見るな!!)
第7師団はこれまでの戦闘で一度もグラ・バルカス帝国軍と正面切っての交戦は行っていない。しかも敵には新型戦車が含まれているという。
「敵戦車。デコイに向けて発砲!」
部下から入った通信に谷岡1尉は注意を戦車の外に向ける。グラ・バルカス軍の重戦車は自衛隊が設置したデコイへ砲身が焼け付きそうなほどの苛烈な砲撃を加える。
(マヌケめ。引っかかったな)
谷岡1尉は内心でほくそ笑む。グラ・バルカス軍が初撃で撃破したと思った敵影は実はデコイだったのだ。
敵の攻撃がデコイへ引き付けられている間に谷岡たち第1戦車中隊は敵の側面へ回り込むことに成功する。
「今だ!全車、攻撃開始!!」
谷岡の号令と共に彼の配下の10式戦車が攻撃を開始する。120mm砲から吐き出された複数発の砲弾は敵のワイルダー重戦車に命中しその装甲を紙細工のように貫く。彼らは敵集団に向けて休むことなく砲撃を繰り返す。すさまじいまでの練度であった。たちまちワイルダー戦車が鉄屑へと変貌していく。
ワイルダー戦車がアクティブ式赤外線暗視装置を付けているのも発見に一役買った。パッシブ式暗視装置を装備する10式戦車の前では闇夜に提灯もいいところであった。
谷岡たちの攻撃により敵部隊は分断され、撃破されていく。グラ・バルカス軍はすぐさま混乱から立ち直り果敢に10式へ反撃を行うが、10式の強固な装甲の前には無力であった。
谷岡の乗る10式にも砲弾が命中し、鈍い金属音を発する。谷岡は肝が冷えるが、10式は問題なく戦闘を続行する。
「この状況下で命中させてくるとは! 敵も精鋭だぞ!!」
谷岡は指揮下の10式戦車が敵部隊と交戦する様子を確認しながらそう叫ぶ。グラ・バルカスの練度の高さを痛感していた。だが、その驚きもすぐに余裕に変わる。谷岡には勝利への道筋が見えていたのだ。日本とグラ・バルカスのテクノロジーの差は練度をもってしても埋めることはできない。
(これならば敵を殲滅できる!)
10式戦車の優位性を確認した谷岡はさらに戦果を拡大するべく前進する。だがその時煙幕が辺りに充満し始めた。
「煙幕だと! ちぃっ! 小癪な真似を!」
視界が閉ざされたことにより谷岡は混乱に陥る。だが、そこは歴戦の戦車兵だ。すぐに冷静さを取り戻し、索敵を行う。10式同士は車両間データリンクにより互いの位置を把握しているため、同士討ちの心配はなかった。だが敵の位置は正確には把握できない。敵味方入り乱れる乱戦に突入していく。
「敵が突っ込んでくるぞ!」
煙幕が張られている間にも戦闘は続いていた。。戦車砲の轟音が響き渡り、そのたびにグラ・バルカス側の車両が撃破されていく。まさに戦車の墓場みたいな光景であった。
(このままでは弾薬が……。いや、後退するか?)
10式の射撃は百発百中だがグラ・バルカス軍の物量に押され始めてもいた。もしこの混乱に乗じて敵の増援が現れたら谷岡たちには為す術もない。
(まずい……このままでは敵中で孤立する)
刻一刻と迫る危機に谷岡の額に脂汗が浮かぶ。だが苦しいのはグラ・バルカス軍も同じであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
戦闘は混迷の度を増していく。双方の戦車が装甲をへこませながらも奮戦していた。だが、この戦闘は完全に日本側の有利に推移している。10式戦車の120mm滑腔砲による砲撃を受け続けた結果、グラ・バルカス軍の戦車はほぼ壊滅状態であったのだ。
「もはやこれまでか」
ワイルダー戦車のなかでボーグはぽつりと呟いた。グラ・バルカス軍の損害は計り知れない。もはや勝負あった状況であった。
彼は無線機のマイクを手に取ると、喉頭式マイクを口元へ持っていく。
指揮官として最後の責任を果たすべく、部下に通信を送る。
「戦闘団全車へ告ぐ。もう勝ち目はない。第2線まで後退せよ」
一方的な命令だった。だがボーグにはこうするより他にない。ワイルダー戦車は次々とエンジンを吹かし後退していく。その様子を確認していたボーグは
悲しみと怒りがないまぜになった複雑な表情であった。自分の指揮で大勢の仲間を死なせた無念さと、それでも祖国を守ろうとする使命感。二つの感情がボーグの心のなかで激しくせめぎあっていた。
(だが俺は敗軍の将として名を残すつもりは毛頭ない)
ボーグは残された力を振り絞り、最後の抵抗を企図する。
「俺は誇りあるグラ・バルカスの軍人だ! 祖国を守る盾として死ぬのだ」
静かな口調ではあったが、強い意思を感じさせる声だった。ボーグは闘志を失っていなかった。彼は最後まで戦おうと決意していた。
「現時点をもって副官へ指揮権を委譲する。これまでよく戦ってくれた……後は頼んだぞ」
通信を切ると同時にボーグは車内の戦車兵たちを見回す。
「君たちも脱出しろ。後は俺一人で十分だ」
彼の言葉に車内の戦車兵たちは困惑する。先ほどの通信を聞いていたが、彼らとて軍人である。ここで逃げることは彼らのプライドが許さなかった。
「我々は最後まで閣下と共に戦います!」
砲手がそう言うと他の戦車兵も追従する。だがボーグはその進言を振り払い毅然とした態度で命じる。
「これは俺の個人的な任務だ。未来ある若人は付き合う義務はない!さあ、早く脱出しろ。これは命令だ」
ボーグの口調は厳しくも、その声は穏やかだった。その言葉に兵士は感極まったような表情を浮かべる。そして敬礼すると自らの戦車を後にした。
「行くぞ!祖国のために!!」
1人になったボーグはワイルダー戦車の操縦席へ移ると、残る力を振り絞り戦車を走らせる。そして1両の10式のもとへ猛然と突き進むのであった。
「エンジン全開!!」
ボーグは1人、谷岡の乗る10式戦車へ向けて突撃する。
「敵の戦車が1両だけ向かってきます!」
谷岡の10式の砲手を務める二等陸曹が興奮を隠し切れない様子でそう報告する。谷岡の視線は迫りくるワイルダー戦車へと注がれていた。
「他の戦車は退却しつつあるのに、まさか特攻のつもりなのか……?」
谷岡は困惑する。だがすぐに頭を切り替えた。理由はどうあれ、敵戦車が向かってくるのは事実なのだ。ならば、対処せねばならない。
「撃てっ!!」
号令と同時に主砲が発射される。120mm滑腔砲から撃ち出された徹甲弾はまっすぐワイルダー戦車へ向かって飛翔していく。だが砲弾が到達するまでの僅かな時間差にワイルダー戦車が地面の窪地によって車体を揺さぶられたことで狙いが逸れ、砲弾はワイルダー戦車の砲塔上面を掠るだけに留まる。
「くそっ!次弾装填!」
しかし、次弾を放つより早くボーグが駆るワイルダーが急接近し、10式へ正面から激突する。
金属同士が激しくぶつかり合う音が響いた。
車体同士が衝突したことで発生した凄まじい衝撃が車内にいる谷岡たちを襲う。10式戦車の優れたサスペンションでも吸収しきれないほどの大振動だった。
「ぐわぁぁ!!」
谷岡がうめき声を上げる。一瞬、意識を失いかけたのだ。しかし何とか持ちこたえ、状況を把握するため車長用ハッチから身を乗り出す。そこにボーグがワイルダーの車体ハッチから身を乗り出し、10式の砲塔上へよじ上ってきた。ボーグは谷岡を認めると素手で飛びかかってきた。
「死ねぇぇぇ!!」
ボーグは雄叫びを上げながら谷岡を殴打しようとする。谷岡はSFP9拳銃を抜くとボーグに向けて発砲。しかし銃弾は外れ、谷岡は殴打によって拳銃を手から落としてしまう。
「くっ!」
ボーグは谷岡の胸倉を掴み上げ、彼をハッチから引き上げると砲塔から投げ飛ばす。谷岡は地面に叩きつけられた。
「かはっ!!」
背中から落下した衝撃で谷岡は呼吸困難に陥り、しばらく動くことができない。ボーグはさらに追い討ちをかけるべく砲塔から飛び降りると彼のそばへ駆け寄り、拳を振り上げ、谷岡へ叩きつけようとする。すんでの所で谷岡は地面を転がりボーグの拳をかわす。
「や、やめろ!」
谷岡は叫ぶがボーグの耳には届かない。彼はただ目の前の敵を殺すことしか頭になかった。激情に駆られたボーグはまるで狂戦士と化していた。
「殺す!貴様だけは!!」
まるで呪詛のように呟きながら拳を振り上げるボーグにもはや理性は見られない。まるで正気を失ったかのようにただただ目の前の敵を殺すことしか考えられなくなっていた。ボーグの拳が谷岡の顔面に叩きつけられようとしたその時――。
バンッ! と銃声が響き、ボーグの肩口から血が飛び散る。
「中隊長! 大丈夫ですか?」
ボーグを撃ったのは谷岡の戦車の砲手を務める二等陸曹であった。彼はSFP9を構えていた。ボーグは肩を押さえ、うめき声を上げながら悶絶する。
谷岡は痛みに耐えながら起き上がると、砲手から拳銃を受け取り、ボーグの顔面へ銃口を押し付けた。
「降伏するか?それとも撃たれるか?」
谷岡がボーグに問う。彼は敵の指揮官を生け捕りにするつもりなのだ。しかし今のボーグは冷静な判断力を失っており、問答無用とばかりに襲い掛かる。
「うがあぁぁぁ!!」
血走った目をしたボーグは叫び声を上げながら拳を突き出すがそれは虚しく空を切るだけだった。次の瞬間、再び発砲音が響き渡る。ボーグの右膝から血が飛び散り、彼は地面に倒れ伏した。
「ぐぅぅぅう!!きさ……まらぁ!!」
ボーグは歯を食いしばりながら憎悪の目で谷岡たちを睨みつける。彼の全身に脂汗が浮き出ており、痛みが凄まじいことを物語っていた。その痛ましい姿に同情する者はいなかった。
「降伏しろ。もう戦いは終わった」
谷岡の言葉にボーグはギリリと歯ぎしりをする。
「俺は! お前らに! 降伏などせん!!」
そう叫ぶと彼は立ち上がり、再び拳を振り上げる。谷岡は冷静に引き金を引いた。銃弾が左脚を貫きボーグは地に伏せる。それでもなお這いつくばってでも谷岡へ近づこうとする姿は哀れを誘った。すでに勝敗は決している。このまま放っておいても失血死を待つだけだろう。だが……
「こいつを治療して捕虜にする。勇敢な愛国者だ。丁重に扱えよ」
谷岡はボーグを応急処置した後、捕虜として連行することとした。祖国のために命を賭して戦った男への敬意を込めてのことだった。
「離せ! 俺は捕虜にはならん! 俺を殺せ!」
暴れるボーグを屈強な自衛官数人がかりで押さえつけ、強引に拘束し、応急処置を行う。ボーグは最後まで抵抗したが結局後方へと連行された。
こうしてグラ・バルカス軍ニホンジンシネシネ戦闘団の攻勢は失敗したのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方そのころ、レイフォルの野山を猛スピードで駆ける1つの人影があった。
グラ・バルカスの外交官ダラス・クレイモンドだ。彼はヒノマワリ王国の陥落後、全速力で王国から脱出し、帝国の勢力圏内へ落ち延びることを選択したのだった。
(なんとしても生き延びなければ)
彼は着の身着のままで、まるで暴走した列車のように全力疾走していた。時速にして80キロ近く出ているだろうか。常人ならとっくに体力の限界を超えているだろう。だが彼はヒノマワリでの経験の後、覚醒し、超グラ・バルカス人となったのだ。
「うおおおおおお!! 俺は人間機関車だぁぁ!!」
彼の口元には狂気じみた笑みが浮かび、目は爛々と輝いていた。木々を触れただけでなぎ倒し、岩を素手で砕いていく。凄まじい速度でレイフォルの原野を駆け抜けていく。
すると前方に立ちはだかる影が3つあった。ヒノマワリ王国の甲冑に身を包んだ女性たちだ。皆剣を佩いた凛とした雰囲気の女性である。その顔は冷静で一切の油断も隙もないように見えた。
(あの格好、ヒノマワリ人か?)
興味 を引かれたダラスは彼女らの前で足を止める。3人のうち1人が女性は腰に下げていた剣を抜き放つと、構えを取る。
「グラ・バルカス帝国のダラス・クレイモンドだな?。私はコウ。ヒノマワリ王国日輪級剣士であり、フレイヤ様の護衛を務めていた者だ」
コウと名乗った彼女の物言いは静かだったが、その奥底に確固たる殺気を感じた。他の2人も並々ならぬ殺意を露わにしている。
「確かに俺はダラスだ。それで何の用だ?」
「我々3人はフレイヤ様の仇を討ちたい。そのために貴様を殺す!」
ダラスは自分が狙われていることを瞬時に察した。そして同時に彼女らの表情から揺るぎない覚悟も読み取ることができた。恐らく、何を言っても彼女たちの決意を変えることはできないだろう。しかし同時にダラスは困惑していた。
「フレイヤの殺害に俺は無関係だ。復讐される筋合いはない。」
ダラスは両手を大きく広げてみせる。だがコウたちはそんな彼の言葉に耳を貸すつもりなど毛頭ないようだった。ゆっくりと剣を構えると突進してきた。
「ぬぅん!!」
「でやぁぁぁぁぁ!」
3方向から迫る斬撃を、しかし彼は驚異的な身体能力で全てかわしきった。
「まて、フレイヤが死んだのは気の毒に思う。もう一度言うが俺は無関係だ」
「うるさい!! ヒノマワリが滅茶苦茶になったのはお前たちグラ・バルカス帝国のせいだろうが!!お前たちが来なければこんなことにはならなかったんだ!」
激昂したコウは怒りにまかせてダラスに向かって斬りかかる。その動きは洗練されており、普通の人間ならば1太刀で斬殺されていただろう。だが今のダラスは覚醒した超グラ・バルカス人だ。3人のヒノマワリ人による斬撃をひらひらと舞い落ちる木の葉のように優雅にかわしてみせる。
たった1人でヒノマワリ人の剣士3人と互角に渡り合う彼の姿はまるで演舞でも踊っているようだった。1人を相手にしているときと変わらない、いやそれ以上の余裕さえ感じられるほどにダラスは軽々と3人の攻撃をかわし続けていた。
「いい加減にしろ! 俺の忍耐にも限界があるぞ」
「黙れ!! 死んで償え!!」
コウが神速の斬撃を放つ。ダラスは身を捻り、紙一重で攻撃を避ける。しかし頭髪の一部が切れ、宙を舞うのが視界の端にちらりと映る。
「もう許さねぇからな」
ダラスは一言呟くと、右手の手刀をコウの首筋目掛けて叩き込む。そのあまりの速さに誰も反応できないまま攻撃がコウの首に命中した。コウは一瞬意識を失いかけたのかぐらりとよろめくが踏みとどまって倒れまいと足に力を込める。
「ほう、多少はやるようだな。ではこれはどうだ?」
ダラスは全身に気を張り巡らせると、意識を集中し、力を発動させた。彼の周囲に揺らめくように緑色のオーラが発生していく。それと同時にダラスの周囲に風が渦巻く。
ダラスの様子が一瞬にして変貌したことにコウたちは驚きを隠せない様子だった。だがすぐに気を取り直すと再びダラスに対して警戒しつつ剣を構える。
「今度はこちらから行くぞ! 竜巻旋風脚!!」
ダラスの身体が宙に舞い上がり、独楽のように回転しながら回し蹴りを繰り出した。
蹴りの衝撃波が周囲の木々を激しく揺らす。その威力は凄まじく、直撃すれば即死は免れないであろうと思われた。まさに竜巻の如きであった。
コウは何とか避けたが、他の剣士1人が巻き込まれてその肉体を粉砕されてしまう。血煙が派手に舞い上がり、肉片や骨片がバラバラと周囲に飛び散った。
ダラスは地上に着地するとニヤリと笑みを浮かべた。
着地の際、彼に隙ができたその一瞬の隙をコウは見逃さなかった。鋭い踏み込みから必殺の一太刀を浴びせる。だがそれも虚しく空を切っただけだった。ダラスは余裕綽々と言った表情でバックステップを踏みつつ回避したのだのだのだった。
今度は逆にダラスの方が攻撃に転ずる番であった。彼は掌に風の力を込めるとそれをもう1人に向かって解き放つ。
「エアスラッシュ!」
それは鋭い真空の刃となって相手の首を斬り飛ばした。血飛沫が上がり、頭を失った身体が地面に崩れ落ちる。
ダラスは改めてコウに向き直るとニヤリと笑いながら問いかけた。
「まだやるか?」
コウは怒りと悔しさで唇を嚙み締めながら睨みつける。だがここで退いてしまっては何にもならないのだ。フレイヤの仇を討つまでは退くことができない。そして彼女の想いを成就させるためにも目の前のダラスを倒さねばならなかった。
覚悟を決めたコウは再度ダラスに対して突進した。2人は激しく戦うが、実力の差は大きく開いているらしく、徐々に追い詰められていくコウ。このままではジリ貧であることは明らかであった。
(これ以上長引けば不利だ……一瞬で終わらせるつもりで行かないと)
コウは魔力を自身の剣へ流し込み始めた。それに呼応するかのように刀身が紅く輝きを放ち始める。
「はあああああ! 紅蓮剣!」
コウは剣を振り上げると渾身の力を込めて振り落とす。灼熱の刃がダラスに襲いかかる。しかし……。
ダラスは難なくその斬撃を横へ飛びかわす。だがコウはそれも織り込み済みだった。剣が地面にめり込むとそこから紅蓮の焔が噴出し、爆炎となって辺りを包み込む。地面が溶け、周囲の木々が燃え盛り始めた頃、コウはダラスの姿が見当たらないことに気づいた。
まさか……逃げられたか?と周囲を見渡すも人影はない。その時である! 突如背後から気配が感じられたかと思うと、胸に激痛が走った。胸を見下ろすとそこから血まみれの人間の手が突き出しているではないか。
ダラスの右手がコウの胸を貫いているのである。そして彼はそのまま彼女を真っ二つ引き裂いた。血飛沫が飛び散り、辺り一面に血の海が広がる。
ダラスは勝利の余韻に浸ることなく次の行動に移っていた。彼は生き残るべく原野の彼方へ駆けて行くのだった。